──まさかたった1人の少女にこれほどまでに翻弄されるとは。
祖国ノーザンブリアの大地。雪が降り積もる冬空の下。針葉樹林帯を大隊で包囲し、私自身もまた兵を率いてそのたった1人の敵──《結社》の執行者の追撃を行った。
……その事の始まりは4日前まで遡る。
我ら《北の猟兵》の幾つかある駐屯地の1つ。その司令室に予告状が届けられた。
その内容は、その駐屯地を指揮する《北の猟兵》の幹部──いわゆる穏健派に属するその人物を殺害すると。
その差出人は結社《身喰らう蛇》の執行者No.ⅩⅢ──《血染の裁縫師》と書いてあった。
その殺害予告を受けた人物はすぐ様駐屯地にいる全兵に警戒するように告げた。それは当然の判断だ。ただの殺害予告ではない。かの悪名高き結社。それも凄まじい実力を持つと噂される執行者からの予告状だ。
しかもその相手は情報にない新たな執行者だった。我ら《北の猟兵》が正規軍でなくなって、祖国が大公国ではない自治州となって久しい。1つの国家として満足な諜報を行えているとは到底言えず、裏社会の情報については他国程の情報を有していないことは明らかだ。
だが皮肉にも猟兵業を続けてきたことで、多少は裏の事情というものにも精通するようになっていた。ゆえに大陸各地で暗躍すると言われる結社《身喰らう蛇》の情報も《北の猟兵》は幾つか手に入れている。
そしてその中には執行者の情報も存在したが、現在確認されているナンバーはⅫまでであり、No.ⅩⅢは確認されていない。つまりは新たに加わったと思われる執行者がどういう訳か《北の猟兵》の幹部を殺そうとしている。
……理由については幾つか考えられるが、どれも確証はない。
殺害予告を出されたその人物は《北の猟兵》の中でも穏健派に属する。私やヴラド。そして首領であるマスターグラーク──《北の雷帝》と呼ばれる彼も所属する公国軍の上層部からなる派閥であり、非道な契約を結ばず、他国との協調も考慮して猟兵としての活動を行うことを方針として掲げている。
だが急進派は違う。祖国を救うためならばより多くの金が得られるよう動くべき──若い将校や新たに《北の猟兵》に入った新兵達から支持を集めている一派である。
穏健派の幹部の殺害というのは、あるいは急進派が結社と契約し画策したという推測も立てられるが証拠はない。幹部の殺害を企てなければならないほど両派閥の関係は険悪ではないのだ。
ゆえに理由については分からず、幹部の護衛を行うことになったのだが──それはすぐに無駄となった。
殺害予告が出されてから僅か半日後。穏健派の幹部であったその男は駐屯地に設けられた自室で首を切られて殺されていた。見張りの兵士が物音に気づいて部屋に足を踏み入れた時にはもう遅かった。窓から侵入してきたその中東人の少女はその手に大きな鋏のような武器を手にし、既に仕事を終えた後だった。
幸いだったのはそれを目撃したことですぐに追撃に移れたことだが、その少女は《結社》の執行者というだけあって恐ろしい力を持っていた。銃で撃たれたというのに無傷で走り出し、幼子とは思えないほどの身体能力で兵士を跳ね除け、立ち塞がる者をその手に持った不思議な武器で切り捨てていった。
それほどの戦闘力を持ちながら、暗殺を行う少し前には近くの町で子供達相手に服をプレゼントし、一緒に遊んでいたと聞く。それが演技であるのか、ただの親切であり深い意味のない行動であるかは分からないが……たとえどのような人物であったとしても《北の猟兵》の一員として幹部を殺されて黙っている訳にはいかないと部隊を率いて追撃に出る。
そうしてその執行者の少女を追い詰めるべく各部隊に指示を送り、戦い続けたが……その執行者は我らを翻弄し続けた。
先行して送った小隊が壊滅し、捕捉して戦闘を行った中隊もまた少なくない死傷者を出して一時撤退を行った。その際に報告を受けたが、その手並みは敵ながら恐ろしくも凄まじかった。
曰く、木の上に陣取って少しでも目を離した隊員を1人ずつ首を切って殺害。銃撃の猛攻にも怯まず一当てした後は再び隠れ潜む。そうして再び進んだ部隊を今度は雪の中から奇襲。鋏のような武器は外側もまた刃となっていてそのまま振るえば剣のようになると言う。そうして再び部隊員を何名か負傷させると今度はその装備から糧食などを奪って逃走。隊員の内何名かは捕らえられて尋問が行われた。指が綺麗に切断されている兵士を発見したことからもそれは明らかだろう。
そうして戦っては移動し、戦っては移動し、こちらの追撃を躱し続けた。かと思えば今度は相手の方から別の駐屯地を襲撃して逃走。徐々に東の国境線へと戦う場所を変えながらひたすらにこの3日間、我ら《北の猟兵》を翻弄し続けた。
「バレスタイン大佐!」
「うむ! 総員、銃撃開始! 油断するな! 幼子とはいえ相手は執行者だ!」
──そうして今、私はその幼き執行者を遂に発見し、自らの手勢で直接矛を交えることに成功していた。
ノーザンブリアの大地にはよく見られる針葉樹林の上。そこに隠れていた少女目掛けて発砲を行うように指示を出せば一糸乱れぬ掃射が少女がいた場所を撃ち抜く。元正規軍であるがゆえに練度は決して低いものではない。
だがそれでもだ。個々の戦闘力で言うならば《執行者》にはどうしても劣ってしまう。
「っ!? しまった──!?」
「──“グリムシザー”!!」
「っ……惨い……!」
今もまた1人の兵士が犠牲になった。木々の間を縫うように伸びてきた細い糸に1人の兵士が捕まり、奥へと引き寄せられる。その奥とは執行者の少女の近くであり、少女は既にその小さな手でその身に迫るほどの巨大な鋏の顎を開いて待っていた。引き寄せられた兵士が攻撃範囲に入った瞬間、その死の鋏は無慈悲にも閉ざされ、兵士は声を上げる暇もなく挟み切られてしまう。地面を覆う真っ白い一面の雪が赤に染まり、その光景を鮮やかかつ凄惨なものへと作り変えていた。
「くっ、よくも……!」
「突出するな! 隊列を乱さず、細い糸に注意しながら追撃しろ!」
「了解!」
味方を殺されて逸る部下を諌めて指示を送る。我々も今は猟兵。人死ににはある程度慣れてきているとはいえ、鋏で切られるなどの死に様を見てはさすがに動揺するか……!
「今だ! 肉薄しろ!」
「──あーもう……! 数多すぎてほんと嫌になる……!」
だが向こうもまた焦れている。それも当然だ。向こうは向こうでこの4日間、ひたすら1人で戦い続けている。
むしろここまで戦い続けられることが異常だ。驚異的とも言えるその体力と防御の硬さがその圧倒的なまでの継戦能力に繋がっているのだろう。
だがそれだけでもない。大剣を持った部下達が一斉に執行者に向けて剣を叩きつけるも、少女はそれを防いで押し返してみせる。その細腕のどこにそんな力があるのか。身の丈ほどある巨大な鋏を武器に出来ていることと言い、大人顔負けの戦闘力を有していることに疑いの余地はない。まさか娘よりも小さい子供で娘どころか大人すら凌駕する強さの持ち主がいるとは……驚愕せざるを得ない。
「!? どこへ消えた……!?」
「──油断するな! 木の後ろだ!」
「纏めてあげる……! “カットアンドソーン”!!」
「ぐあああッ!?」
そしてその攻撃に容赦はなかった。執行者を見失った隊員の1人。その彼を狙い、少女はその木の後ろから分かたれた鋏の刃を交差するように振るい木を真っ二つにし、同時に隊員たちを切り刻む。
さすがに両断は免れたが、すぐに隊員達にまたしても針の付いた糸が巻き付いてその場で締め付けられた。
……あの鋏は双剣のように2つに分けることも出来るのか……!
明らかに普通の武器ではない。噂に聞く特殊な工房で作られた武器か、アーティファクトの類だろう。装備を新調することが出来ず、型落ちの装備ばかりを使っている我らからすると羨ましいことこの上ない。オーブメントも最新型を用いているようだ。
「今だ!!」
「あぐっ……!?」
「やったか……!?」
だが部隊同士の連携。その練度はそこいらの猟兵に劣るものではない。上手く敵の横を突いて銃撃を浴びせれば少女は痛みに苦悶の声を短く漏らし、雪の上を転がる。防具を身に着けていたとしてもダメージは免れず、そうでないなら即死もありえる。ゆえに隊員の油断も仕方のないことだろう。
「油断するな! 奴はまだ生きている!」
「ッ!?」
「はぁぁ……なんなのもう……! こっちはすごい疲れてるのに……! 判断が的確な人がいるとやり辛いなぁ……!」
私の予想通り、少女はまだ生きていた。それどころか血を殆ど流すことなく立ち上がってそのまま隊員達の隙を突いて雪原を駆けていく。
「もうこっち来るなー! これ以上追いかけてきたらヤバいの使うからね! 本当にヤバいから! 私ももう戦いたくないし追って来ないことをおすすめする!」
「あれだけ殺しておいて勝手なことを……! 大佐! 追いましょう!」
「……いや、残念ながらここまでだ」
「……ですね」
「えっ?」
徐々に声が遠くなっていく。4日も戦い、やがて5日となろうと言うのに元気なものだ。しかもヤバいのと来たか。これはこれ以上追いかけなくて良かったかもしれない。そうなった理由を若い兵士に説明する。
「この先はレミフェリアの国境地帯に差し掛かる。これ以上の深追いは難しいだろう。下手をすればレミフェリアとの国際問題になりかねん」
「それは……!」
「受け入れろ。我々は負けた。その上で立て直しを図るぞ。──被害の確認を急げ!」
「……了解!」
部下にそう命じれば負傷者の確認と簡単な応急処置を行い始める。死傷者も然るべき場所へと埋葬するためにきちんと運び出す。大変だが必要な行為だ。
そうして私自身も負傷者の1人に肩を貸しながら駐屯地への帰還を開始し、部下に語ることはなく心の内だけでその脅威に率直な言葉を紡いだ。
──《血染の裁縫師》か……やはり結社は侮れん。後ほど被害状況と合わせて協議せねばならんな。
そうしてその事件は幕を閉じた。ノーザンブリア自治州を本拠地とする《北の猟兵》のその駐屯地を襲い、その幹部を暗殺したその事件。
被害は死者98名。手足の欠損なども含む重傷者81名。軽傷者208名。数人分の糧食に建物や木々の被害が幾つか。
たった1人の執行者によってもたらされたこの事件は後に《北の猟兵襲撃事件》として語られると共に、それを行った執行者No.ⅩⅢ《血染の裁縫師》の名を広めることとなった。
──はぁぁ……疲れたぁ……あ、こんばんは……どうも、アーヤ・サイードです。好きなお風呂の温度は41度。ちょっぴり熱めが好きですが美容的にはちょいぬるめが良いので40度で妥協しがちです。
そういうわけで今私は仕事を終えて結社の拠点の1つでお風呂に入ってます。もうすっっっっっっっっごく疲れたので。
結局《北の猟兵》からは無事逃げ切れました。そのために死ぬほど戦って怖かったしめちゃくちゃ疲れたけど生き残った。これも日頃頑張って訓練したおかげだ。やはり努力は裏切らないんだなぁと強くなったことを少しは実感する。
だけど本当に面倒だった。猟兵の相手は結構慣れてると思ってたんだけど《北の猟兵》は練度が高いのなんの。やっぱり元正規軍ともなると兵士1人1人の質が高くて面倒くさい。撹乱にもあんまり乗ってくれないし、釣りをしても中々釣られてくれない。しょうがないから奇襲の連続だったり糸で罠を張ってそこに捕まった人を処していったりしなきゃならなかった。
そして何より数が多い。そりゃそうだ。何しろ《北の猟兵》にとってノーザンブリアの地はホームグラウンド。おかげで無尽蔵かと思うほどの敵とひたすら追いかけっ子をする羽目になった。おかげで戦闘経験は積めたけど、良かったことと言えばそれくらい。しかも最終日に至ってはバレスタイン大佐と思わしき人にも遭遇するしで大変だった。
……でも何が1番大変だったってサバイバルだ。何しろこっちはひたすら逃げ続けてたし、拠点もない。ご飯は敵からパクったし、寒い地域なのであんまり汗はかかないことは良かったけど寒いので暖を取るのが大変だった。火なんて起こそうものならすぐバレるし。おかげでこっちは殆ど寝ていない。1回寝落ちした時は死ぬかと思った。でもなんか生きてた。丈夫で良かったし敵に運良く見つからないで良かった。やっぱり寒いとこは苦手かもしれない。少しだけだけど。生まれ的に暑い地方の方が得意なのだ。
というかせっかくの異国なのに全然観光出来なかったし、そもそも観光するところがあんまりなかったのは残念だった。貧困だとは聞いてたけどあそこまで貧困だったとは……私の故郷もヤバかったけどあの人の数であの貧困。そしてあの寒さは確かにヤバいかもしれない。可哀想だったので近くにいた子供達に手持ちの布と毛糸を使って簡単にポンチョとか手袋、靴下を作って恵んであげた──と、ノーザンブリアの思い出はこんな感じなので観光するところじゃないなってのが正直な感想だ。食べ物もないしね。それどころじゃない。
雪国ならまだレミフェリア公国かジュライ市国。あるいはオレド自治州。レマン自治州とかがいいかな。エレボニア帝国とカルバード共和国の北部も悪くない。温泉があればなお良しなので個人的にはオレド自治州に行ってみたいかなー。経済的にも豊かで娯楽も多いらしいし楽しそう。
──と、そんなことを考えられるのもアレを手に入れたおかげだ。
ふふふ……そうだ。私は遂に仕事の報酬で手に入れてしまったのだ。
──表の世界で生きるために必要不可欠な国籍と身分証を……!
ノーザンブリアから帰還し、自室に戻ったところで机の上に置かれてたそれを見て私は跳び上がった。そこにあったのはオジサンからの報酬であるしっかりとした私の身分と国籍を証明する書類一式! しかもそれはどこの国のものかと言うと……なんと驚き! ヴァリス市国のものでした──!! わーいわーい!
まあ住みやすさで言うならカルバード共和国とかの方が良かったかもしれないけどヴァリス市国でも全然問題ない。というかかなり良い。私は知っている。これでも中東出身だからね。ゼムリア大陸中東部の覇権国家と言えばエルザイム公国だが、ヴァリス市国も、特にこの近年は全然負けず劣らず。それどころか経済成長率は勝っているのだ。
エルザイムは大陸中東の国の中で国土面積が最も広く、七耀鉱石資源に化石燃料も多く産出されているかなりの富裕国家である。まあ化石燃料の方は導力革命であまり使われなくなったとはいえ、それでも資源量はとてつもないので経済的にかなり裕福であるのは変わりません!
なのでエルザイム公国は中東の覇権を握っていると言えるのだけど、その対抗馬こそヴァリス市国! こっちはこっちでエルザイムに負けないくらいの裕福な国! 湾岸部に存在する巨大な海港国家で国土面積は小さいけど南洋貿易でかなりの利益を上げていて、更には大陸主要銀行の1つであるヴァリス投資銀行が存在していてゼムリア大陸中東部における経済の中心地に取って代わろうとしています!
まあ早い話がド○イです。そんでエルザイムがアブ○ビとかサ◯ジです。そんなに詳しくないけど多分そんな感じ!
なのでまあ国力はまだエルザイムに負けているとはいえ将来性は抜群! いずれは経済的に更に大成長を遂げてエルザイムすら飲み込んでしまうのではと私は地味に思ってます!
まあその2国間の争いに巻き込まれる形で私の故郷は被災して私は売られることになったんだけど、そんな過去のことは今は置いておきましょう。中東人の憧れであるヴァリス市国民となったんだから私もこれからは富を築いていかないと!
……ま、ヴァリス市国民となったからといっていきなりお金持ちになるわけじゃないんですけどね。
とはいえしっかりとした国籍を手に入れたことは事実。そしてこれさえあれば別に他の国に住めないわけでもない。その気になればカルバード共和国だろうとどこだろうと滞在して住み着くことは可能! しかも合法的に! 別に気に入らなければ他の国の移民となってもいい訳だしね!
ただ夢は大きいに越したことはない。私もいずれはヴァリス市国の超巨大かつセレブなリゾートホテルで優雅に過ごしてみたい。私は小市民なので普通にそういう大金持ちの世界には憧れる。なので頑張って働いて成功して富を築いたら私も豪勢な生活をして、段々と疲れてきたら田舎に家でも買ってのんびり優雅に暮らすのだ。ふっふっふ。
よーし、そうと決まればやる気が出てきた。お風呂を出て少し休んだらまた働こう。今度は何をしようかなー。でも何をするにしてもやっぱりお金がないと始まらないし、一旦はまたオジサンに仕事を回してもらうしかないかな……?
そんなことを考えながら私は風呂から上がり、脱衣所で身体を拭く。ふー、結社の拠点ってなんだかんだちゃんとしてるんだよね。最低限の設備は整ってる。個人的にはもうちょっとメカメカしさを抑えたのが好みだけど。こういう建築もやっぱり《十三工房》とかの技術屋集団の趣味だからなのかな……? もっと普通の屋敷っぽくしてもいいと思うんだけど。機能性は抜群だけどおしゃれさが足りてないよね。まあその辺はいずれ要望に出すとして──
「……あれ?」
──と、私は
脱衣場を、そして衣服を入れておいた籠を見るも目当ての物はない。
「おかしいな……部屋に忘れてきた? いやそんな訳……」
私は訝しみ、頭に疑問符を浮かべながらも仕方なくそのまま部屋へと戻ることにする。なんかちょっと気持ち悪いけど……。
そうして私が今のところ使っている部屋へと戻ると──机の上には一枚メッセージカードが置かれていた。
『新たな執行者《血染の裁縫師》殿へ 君の大事な物を確かに頂戴した』
『取り戻さんとするならば、我が挑戦に応えよ』
『第一の問いは──黄金の蝶が瞬く下に。その者からの問いに答えよ』
『──怪盗B』
「え……これって……」
私はそれを読んで率直に驚く。それは見覚えのありすぎるものでありながら、初めて自分が体験するものだった。
怪盗。しかもB。その正体を、私は知っている。
ゆえに私のテンションはこの瞬間に爆上がりする筈だった。
だけど……
「まさか……大事な物って……!」
私は顔を青くする。
なんてことだ。私の大切なものが盗まれてしまったと。
ゆえに私は、内心で叫んだ。こんなことが起こるなんて思わなかったという思いを吐き出すように。
──うわあああああ!!? 怪盗B──!! 執行者No.Ⅹの《怪盗紳士》だ────!! ブルブランだ────!! 嬉しくない──!! 盗まれた──!! 私の、だ、大事なものが────!! う、うわああああああん!!?
──私はその者の美しさを確かめるためにとうとう接触することにした。
かの者の噂は私の耳にもしっかりと届いていた。かの《月光木馬團》より結社へと加入し、幼きながらも優れた暗殺者として活動する美しき少女──アーヤ・サイードのことを。
素性を明かすことなく、私の得意とする変装でそれとなく目にしたこと、話したこともあった。
そして話してみれば──成程。確かに噂で聞くのと同じ。まるで闇を知らない少女に見える。
だがそうではない。彼女は闇を知っている。それどころか、知りすぎてると言っても過言ではないだろう。
だからこそ不思議と興味を惹かれることは認めざるを得ないだろう。
例えるならば──暗き砂漠の夜に咲く一輪の向日葵。決してありえない場所に咲く花であり、不思議と目に映る興味深さ。そして、不可思議な強さを持っている。
だがそれが美しさであるかどうかはこの私をもってしても判断はつかない。
彼女の情報を集めて少しの間観察もしてみたが、彼女は品に少し欠けるところがある。
子供であるがゆえにある程度は仕方ないとも言えるし、完全に品がないということもない。その振る舞いは時折子供にしてはしっかりとした礼儀や品のある振る舞いを取ることもある上、その趣味は女性らしくもあり品もあるもの。特に服飾に関しての才能は目を見張るものがあり、我が審美眼でさえ正確には推し量れないだけの宝石であることは理解出来た。
しかしそれでいて彼女の本質はまだまだ子供のようでいて、普遍的な感性も併せ持つという特異な存在。
見た目はまだ幼く、判断するに値しないとはいえ、将来性を約束されるだけの可憐な輝きは既に持ち合わせている。……かの《白面》殿が手を出そうとするのも、理解は決してしたくないが、そういう趣向の者が手を出そうするのも納得は出来るものだ。
強さ。実力に関してもその歳にしては悪くはない。執行者に選ばれるのも納得が行く。特にその身体の丈夫さは天性のものだろう。殺しのセンスもある。私の趣味ではないとはいえ、1つの極まった技術はそれ自体に美しさを伴うものだ。彼女にもそれに至る可能性は感じられる。私と同じように芸術を理解出来る感性を持っている子だ。であるならばそこについても信用は出来る。
総じて──やはり興味深い。
だからこそ私は彼女を試すことにした。
私のいつもの方法で知恵比べを行おう。そのために私は《怪盗B》となり彼女の大切な物を盗み出し、それを取り返すまでの謎解きを挑戦者へと求める。
解けなければ……と言っても、これは特段、物がなくとも多少取り寄せるのに困るだけでそれほど困りはしないだろうが──仲間内でしかも子供であるのだからこの程度で許そう。子供に対する最初の試しとしてはこのくらいが適当だろう。
だが謎解きの方は手加減はしない。元より才能ある少女だ。これくらいは問いて貰わなければ張り合いがない。
そして私は拠点内を監視する導力カメラをジャックして少女の道のりを眺めてここまで辿り着けるかを楽しむことにした。
私からのメッセージカードを読んで頭を抱え、しばらくして動き出す。フフフ、いいぞ。それでいい。そうでなくてはならない。
アーヤは順調に最初の問題の答えである《黄金蝶》──協力者であるルクレツィア・イスレの部屋へと向かい、彼女から新たなメッセージを受け取るだろう。彼女に話したところ、快くそれを受け入れてくれた。
そして彼女からの問題に答えた後は、また次の問題を見ることになり、少しずつ私の元へと近づいていく。
そうして最後には君の大事な物──この国籍と身分を証明する書類の一式を取り返すことが叶うのだ……!!
私は笑みを浮かべながら映像を見る。さあ、アーヤが《黄金蝶》の元へ走り込んで大声で──
「うわああああん!! レティ姉さん!! パンツ!! ショーツ!! 下着!! 私のお気に入りの可愛い下着がブルブランに盗まれた──!! 私がお風呂に入っている間に──!! あいつ《怪盗紳士》じゃなくて《変態紳士》だった──!! うわあああああん!!」
「──あら、そうなん? 大事な物って下着やったんか。そら女の敵やなぁ……ほな、一緒に殺しに行こか?」
──私の美学に反するあらぬ誤解を受けていることをいち早く察した私は全ての秘術を尽くして直ぐ様彼女の元へと馳せ参じ、その誤解を解くために奪った物を返して我が智謀の全てを以て無くなってしまったという下着の場所を特定して我が弁舌を以て誤解を解くことにした。
──もう二度とアーヤに挑戦を仕掛けることはないだろう。それはそれとして話は合ったが、彼女は頭の痛くなる特性を持ち合わせていると知ったがゆえに。
ちなみにパンツは洗濯カゴから落ちて普通に棚の下に落ちてました。
クラフトはこんな感じ。
グリムシザー:CP70 威力A+ 範囲:単体 ハサミで敵を挟み切る技 即死・恐怖50%
カットアンドソーン:CP50 威力B 範囲:地点円M 双剣で周囲を切った後、相手を針の付いた糸で巻き付けて攻撃する 遅延 防御ダウン
今回はこんなところで。次回はまたお仕事。お楽しみに。
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