TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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人形工房の帰り道に起きる不幸

 ──その子は少しおかしくて不思議な運命を持つ子。

 

 私が《ハーヴェイ一座》を抜けて結社《身喰らう蛇》へと入り、執行者No.Ⅵを与えられてから1年が経った。

 それからの私は結社の執行者として《使徒》の手足となって動く日々を送っていた。

 そこに明確な動機はない。強いて言うなら私自身の闇を見極めるため。

 結社の人間として悪事を色々行ってみてその度に私の闇の深さを知る。身喰らう蛇には私以外にも沢山の人がいるけれど誰もが闇を抱えていて、誰もが数奇な運命を経てこの場所に辿り着いている。

 

 ──だけどその子はその中でも少し異色だった。

 

「ルシオラ姉さーん!」

 

「──あら」

 

 その子は私が結社の拠点に、それもその子がよくいる場所にいると近寄ってくる。どこで嗅ぎつけたのかひょっこりと現れ、私の姿を見るなり駆け寄ってくるのだ。

 

「久し振りね。アーヤ」

 

「うん、久し振りー」

 

 私に駆け寄って甘えてくるその子の名前はアーヤ。

 こんな子供だけど《身喰らう蛇》の執行者No.ⅩⅢ《血染の裁縫師》の異名を持っている。つまりは、それだけ強い子。

 だけどそのアーヤはとても明るい。彼女の闇はあまりにも深い筈なのに、どういう訳か彼女はそれを深くは気にせずに天真爛漫に日々を過ごしている。

 見方によればそれもまた人間としてどこか壊れている証拠で、彼女自身もまた闇を持ち合わせているとも言えるのだけど……それにしても陰を感じないのよね。

 だからなのか、彼女は《身喰らう蛇》の中でも色んな人から良くも悪くも可愛がられている。小さい子供。それも愛嬌があって毒気がない。その上で平和ボケしている訳でもなく、現実の闇深さを誰よりも知っている──そんな子だからこそこっちも接していて悪い気分にはならない。

 少なくとも何名かいる“外道”と言える人達に比べて何倍も接しやすいのは確かね。

 だけど私にとっては少しだけ……嫌ではないけれど、時折過去を思い起こさせる子でもある。

 

 ──()()()()()()()()、アーヤはほんのちょっとだけ似ている。

 

 中東人で、あの子と同じ褐色の肌。真っ白くて綺麗な銀白色の髮はあの子の銀髪をちょっとだけ思い起こさせる。

 もちろん瞳の色は黄金色であの子とは全然違うし、顔立ちも髪質も違う。性格だって全然違う。

 細かいところを上げれば異なる点は多いのだけど、それでも中東人の小さな女の子でこんな風に懐かれるとどうしても思い出してしまうのよね。

 

 ……後、アーヤと言えば少しだけ困っていることがある。それは──

 

「ルシオラ姉さん、今日も占ってー!」

 

 ──ほら来たわね。アーヤは私に会う度に占ってほしいとねだって来る。

 それだけなら構わないのだけど、私がアーヤの占いをしたくない理由はまた別にある。だから私は窘めようとするのだけど。

 

「また? この間も占ったばかりでしょう?」

 

「この間は仕事運だったから今日は金銭運で!」

 

「……まったく、仕方ないわね」

 

 結局は彼女の満面の笑みに負けて引き受けてしまう。こういうところも甘え上手というか子供らしい強かさを持っている。

 私はそれを受けて手持ちの水晶玉を輝かせるのだけど、この間に私は言葉を考えておく。

 何故ならアーヤの占いは──悪いものしか出ないから。

 最初の方はそのまま告げていたが、何度やっても悪い結果しか出ない。普通人の運というのは巡るものなのだけど、彼女の場合はずっと不運だ。

 そして毎回それを告げるのも気が引けるので、私はいつもアーヤには嘘の結果を教えることになる。

 しかしその本来の占いは、どういう訳かあまり当たらないことの方が多い。もちろん占いはあくまでも占い。運命は些細なことで変わってしまうものだからそれ自体はおかしくないのだけど……それにしても当たらない。死ぬほど悪い結果が出ても、彼女はなんだかんだ良い結果に結びついたと喜んで報告してくる。

 実際に話を聞いても、占ったこととは別の不運が起こり、占い自体は真反対のことが起きたりもする。

 つまるところ彼女に対して、私の占いは凡百の物になってしまう。もちろんそれが悪い訳ではないし、彼女の運命がそれだけ変わりやすい……いいえ、色んな運命を持っているということなのだけど……それはそれとして悪い結果ばかり出る上に全く当たらないこともあって彼女への占いは少し苦手。

 

「……良かったわね。金銭運は恵まれているわ。今やっていることが5年後10年後に実を結ぶ……今やっていることを継続するのが良いわね」

 

「なるほどー……じゃあ色々頑張らなきゃ! ルシオラ姉さんありがとー!」

 

「ええ、どういたしまして」

 

 そしてアーヤに対し、私はいつも通り適当な言葉を教えてお礼を受け取る。

 だけど実際の結果は──最悪。やることなすこと上手くいかないと出ている。

 こういう時、嘘も方便という言葉が身に沁みるのだけど……同時に当たるも八卦、当たらぬも八卦という言葉も思い出すわね。

 

 ──結局、占い程度じゃアーヤの数奇で気まぐれ過ぎる運命は分からないということ。だから私は、せめて今の彼女の機嫌を上げるために適当な占いの結果を今日も告げたのだ。

 

 

 

 

 

 ──どうも。金銭運最高のアーヤ・サイードです。将来は大金持ちになることが確定しています。ふふふ、なんて言ったってルシオラ姉さんの占いは当たるからね。

 

 この間も散歩に出かけると良いことがあると言われたので散歩に出たらこの辺りには滅多に出ないシャイニング・ポムという珍しい魔獣を見つけてしかも眠っていたので難なく倒して大量のセピスをゲットした。経験値は……そういう概念がないのでなんとも言えないけど、強くなったと思うことにしよう。その方がお得感味わえるしね。

 

 さて、そんなこんなで私が執行者となって結構な月日が経った。具体的には1年半くらい。

 つまり今年は七耀暦1196年。今のアーヤちゃんは12歳! 小学校があったら6年生! 身長も伸びてきて段々と女の子らしい身体つきになっていくのが分かります。なので最近はまた服とか下着を新調するのが大変かつ楽しかったり。髪も伸びたし他の髪型も試してみようかな。

 そしてその間に起きたことと言えば……まあずっと変わらず修行とお仕事だ。後は色んな《使徒》や《執行者》と良くも悪くも交流したり──あっ、そういえばこの間に面白教授は七耀教会から外法認定されて破門された。多分ロリコンとショタコンで催眠好きで少年少女襲いまくってたのがバレたんだろうな……そりゃ破門される。残念でもないし当然だ。

 まああんな変態エロ教授のことはどうでもいいとして……そう、私の修行だけど、最近また修行に精を出しているのは前にあったラングポートでの仕事が理由だ。

 まさかあの《(イン)》と遭遇するとは思わなかったし、戦う羽目になるとは思わなかった……あの時は本当に死ぬかと思った。達人とガチで実戦でやり合う機会なんて今までになかったし、攻撃の一つ一つが容赦がなくて怖かった。傷もいっぱい負ったし、体力的にもしんどかった。でもあれでも本気じゃないんだろうなぁ……そしてその《(イン)》によって護衛は失敗した。

 ま、まあなんかちょっと手違いというか、ちょっとした失敗もあったけど……そんなのは些細なことに過ぎない。わ、私が突き落とさなくても《(イン)》が襲ってきてる時点でどの道死んでたし! 

 ……それで護衛が失敗した後はさっさと裏帳簿を持って謎ワープで脱出。クルーガーちゃんとも合流して帰還し、オジサンからお給料を貰った。クルーガーちゃんからは呆れられてオジサンは笑ってたけど笑い事じゃない! こっちは必死だったんだからああするしかなかったの! まさか勢いつき過ぎて窓を突き破るほど吹っ飛ぶと思わないじゃん! まあ私が悪いってのは認めるけど! 

 

 ──と、そういう訳で私は強くなる必要性を感じた。達人相手に生き残るには最低限やっぱり強くなる必要はある。才能ない私は強くなるために毎日せっせと汗水流しながら愚直に頑張るしかないので私はレティ姉さんやクルーガーちゃん、後はリアンヌママとかレーヴェに手が空いてる時にお願いして稽古を付けてもらった。

 そうして最近はようやくクルーガーちゃんからも一本取れるようになってきたので嬉しい。自慢気になって喜んでたらクルーガーちゃんもちょっとムキになって何度も手合わせすることになったりした。「悔しかったんだねクルーガーちゃん。悔ちいねー?」って煽ったらSクラフト打たれて怖かった。でも実力はちゃんと身について来てることは分かった。

 

 そして執行者になって約1年が経って執行者であることに慣れてきたところで、私は更に備えをするべくある場所に向かうことにした。

 というのも、私は執行者としてまだまだ未熟だし、あるものが足りていないことに気付いたからだ。

 

 それは──()()()()()()()! 

 

 え、雑魚敵の召喚が何かって? それは雑魚敵の召喚だよ雑魚敵の召喚。ほら、ボスキャラって戦闘になるとなんかお供のちょっと強めの雑魚敵を2~3体召喚してくるじゃん。あれあれ。あれがやりたいの。

 何しろああやってお供を召喚出来れば単独で強敵と戦わざるを得なくなった時にそれをちょっとだけ補える。《銀》と戦った時もお供がいればあんなに痛い思いはしなかったし護衛だってもしかしたら成功する未来もあったかもしれない。

 まあ1番はパーティを組むことなんだけどね……なんで執行者とか強めの敵側の人達って3人以上のパーティ組まないの? 組んだらいいのに。英雄側は4人は当たり前。場合によっては8人とか10人とか20人とか40人以上で挑んでくることもあるんだよ! こっちもそこまでとは言わずとも4人でパーティ組もうよ! そしてもし私がパーティ組むならリアンヌママ、マクバーン、レーヴェ、レティ姉さんの厨パで挑む──え、私? 入れる訳ないじゃん。私は精々サポート役か、お留守番役だよね。オーダーなら任せろー! 

 

 ……でもそんなパーティが組める筈もなく……やっぱり執行者とか強い人達って強いだけに個人で戦いたい人多いのよね。私が現実的に組めるパーティとなると、私、クルーガーちゃん、レティ姉さん、オジサン、の元《月光木馬團》パーティくらいだ。これはこれでいいけどオジサンだけ外したい。能力が高いけどサブクエの選択肢が、①皆殺しにする ②暗躍して利用する ③もう全部無視して面白くなるよう引っ掻き回す──とか全部カオス寄りの選択肢しかなくなりそう。私のアライメントが真っ黒になっちゃう。私が頑張ってLaw寄りにしてるのが台無しになるから却下で。

 

 ──と、色々考えている内に到着しました! ローゼンベルク工房ー! 

 

 ローゼンベルク工房がどんな所かと言うと、簡単に言えば色んな人形を作ってる人形工房だ。《十三工房》の1つに数えられるクロスベル自治州内にある工房で、工房長はあのノバルティス博士の元師匠であるヨルグ・ローゼンベルク。偏屈で人嫌いで職人気質なおじいちゃんで、結社が用いる人形兵器の原型は大体ここで生産されたり、それを元に応用、強化の天才の博士が強化、改良して用いたりしている。

 

 なのでここに来た目的は単純に、人形を強請りに来たのだ。戦闘に使える良い感じの人形を。ってな訳で──

 

「おじいちゃーん! 開けてー!」

 

 私は閉じている門をコンコン叩きながら大声で開けてくれるように頼む。

 一応博士を仲介にしてここに来ることは伝えておいた筈なんだけど……もしかして忘れてるのかなぁ。おじいちゃんだし……。

 

「おーじーいーちゃーん! あーけーてー!!」

 

 私は仕方なく更に大きな声で呼ぶ。

 だけど返事はない……仕方ないなぁ……よいしょっと。私は門を勝手に開けて屋敷の扉の前まで行く。そこでもう一度。

 

「おじいちゃーん! 私だよー! アーヤだよー! 開けてー!」

 

 ノックをしながら大声で呼ぶ。

 だけど返事はない……仕方ないなぁ……よいしょっと。《ゾルフシャマール》を取り出してと。私はそれを叩きつけるように。

 

「おーじーいーちゃーん!! 開けてー! アーヤだよー! 連絡したでしょー! 開けて開けて開けて開けてー!! 人形ちょうだーい!!」

 

 ガンガンガンガンガンガンガンガン、とゾルフシャマールでノックをしながら更に大声。

 それでも返事はない……仕方ないなぁ……今度はもっと強くノックして大きな声で──。

 

「おじいちゃーん!! 開けて開けて開けてー!! 人形人形人形ー! 開けてよー!! 私人形見たーい!! 開けないとおじいちゃんが嫌いな博士連れてくるよー!! いいのー!? 改造してもらうよー!? ねえお腹空いたー!! 疲れたから飲み物出してー!! 休憩したーい!! ねえ開ーけーてー!! あーけ―……」

 

『──ええいっ!! うるさいわっ!! 鍵なら開いておるから勝手に入って来い!! 調整ならもう終わっとる!! それとノックならもう少し静かにせんか!!』

 

 ──あ、いた。なんだ、本当に留守かと思った。でもいるんなら良かった。ってことでお邪魔しまーす! 工房内を移動しておじいちゃんのいるとこまで一気にすたこらさっさと。

 

「──久し振りヨルグおじいちゃん! 人形あるー?」

 

「ふん。もうとっくに出来ておるわい。さっさと受け取って出ていけ。騒がしくしたり、勝手に物に触ったりするんじゃ──」

 

「あっ、これローゼンベルク人形の新作!? うわぁ、可愛いなー! ねぇ、触っていい? あ、いい感じの衣装思いついた。今からデザイン描くからその間に紅茶とお茶菓子貰ってもいい?」

 

「人の話を聞け!!」

 

「聞いてるって。ほら、こういう衣装とかどう? ローゼンベルク人形の可愛さを引き立てつつ新しい魅力も引き出せると思うんだけど……」

 

「っ……相変わらず騒がしいくせに無駄にセンスだけはありおって……! 小癪な小娘め……!」

 

 やった、褒められた。おじいちゃんが苦虫を噛み潰したような表情をするってことは私のデザインが良いってことだ。

 

「じゃあこのデザイン上げるから人形ちょっとだけ割引して? ほら、ここに置いとくからさ」

 

「…………いいじゃろう。その代わり、衣装を作るのもお主に任せる。適当な人形の素体を貸してやるから好きに弄ってみろ」

 

「え、おじいちゃんが使わないの?」

 

「わしは他人の助言は受けんし人の生み出したデザインを使うような()()()鹿()()()のような真似はせん。そのデザインは悪くないが、それを使えばわしのローゼンベルク人形ではなくなるからな」

 

「なるほど……あれ? でもそれならおじいちゃん得してなくない? 割引する意味って……いやまあしてもらえるならありがたく受け取るんだけど……」

 

「新たな人形のアイデア……それを生み出す刺激にはなった。それに、お主が作った人形を見てみるのも悪くはない」

 

 そう言ってヨルグのおじいちゃんは鼻を鳴らして背を向ける。おお……これは結構褒められたかもしれない。おじいちゃんの作るローゼンベルク人形は1体数万ミラ以上の高値が付けられる程には精巧で芸術的かつ需要がある物なのだ。言わば職人であり芸術の大先輩みたいなものなので、そのおじいちゃんから褒められたってことはやっぱり良いもの。私のセンスの証明に他ならない。

 前々から衣装用の布とか糸の仕入先を教えてもらったりとかはしてたけど……なんだ、やっぱりおじいちゃんも私のこと大好きだったんじゃん。ふふふ、さすが私。つまりはツンデレってことだ。今日からツンデレおじいちゃんと名付けて呼ぶことにしよう。もちろん心の中だけで。

 

「じゃあありがたく受け取らせてもらおうかな! それで……戦闘用の人形兵器は──もしかしてこれ!?」

 

「ああ──少女型人形兵器《マキナ》。お前さんの注文通りの機能を搭載し調整した一品じゃ」

 

「これが……!」

 

 私は工房内に飾るように置かれていたその人形兵器を見て驚きを露わにする。

 戦闘用であるため腕や足、顔の部分に僅かに機械らしさが見えるが、その見た目は人間の少女に近い。華奢な体躯に白銀の髪色。それにフリフリで可愛い服とローゼンベルク人形のような可憐さを持ち合わせた逸品に仕上がっている。

 

「わぁ……こ、これ持って帰っていいの?」

 

「無論、お前さんが注文したものだからな。割引分は振り込んでおいてやるからさっさと持って帰るがいい」

 

「わーい! おじいちゃんありがとー!」

 

「ふん……」

 

 私は自分で購入した──それも私の執行者としての1年分の給料をコツコツ貯めて購入したその人形を持ち上げてツンデレおじいちゃんにお礼を言う。やはりツンデレなのか、それには応えずに作業を始めてしまったが、まあ恥ずかしいのだろう。そう思ってあんまり構わないであげる──ってことで人形ちゃん、ええと、《マキナ》ちゃんと同期してマスター登録をしてから一緒に工房を後にする。

 

「よーし、行くよマキナちゃん!」

 

『了解デス。マスター』

 

 ──キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!? ……って、そりゃ喋るよね。簡単な言葉ぐらい。ローゼンベルク工房にいる何体かの人形も決められた言葉だけとはいえ喋るし。

 とはいえそういった人形に比べて幾らか機械らしさは残っているが、それでもいい。十分に可愛いし、そして便利で高性能! 空間収納機能も付いてるし、主にアーツなんかの戦闘補助も行ってくれる! 高すぎて一体しか買えなかったけどこれで戦闘がより有利に運べる! 

 ……でもちょっと使うのもったいなく感じるけど……でも使わなきゃ買った意味ないし、ちゃんと使ってあげよう。そうと決まればマインツ山道の適当なところで魔獣相手に戦闘しよう。あと空間に入れておくの勿体ないからしばらくはこのまま外に出しててあげよう。この子もサ◯シのピカ◯ュウみたいに閉じ込められるの嫌かもしれないし。

 

「マキナー。これから沢山可愛がってあげるからねー」

 

『アリガトウゴザイマス。マスター』

 

 可愛い。そう、これからは私がこの子のマスターなのだ。

 だからちゃんとお世話もしなきゃいけない。洋服を着せ替えさせてあげたり、ご飯は……いらないかもしれないけど一緒に食べたり、お散歩にも連れて行くのだ。

 1人での仕事だって寂しくないし、戦闘だって出来る筈だから頼もしい。まあサポート用なのでちょっと脆いし、そこは気をつけないといけないけどきっと何とかなるだろう。

 

「よし、まずはお家に帰るよ!」

 

『ハイ。マスター』

 

 そう、ここからは私とマキナの長い旅が始まるのだ……!! 

 

「──今だ!!」

 

「えっ?」

 

『エッ?』

 

 ──そしてその第一歩を踏み出した瞬間、どこからともなく聞こえてきた声に私とマキナは振り返る。瞬間、何やら大きな飛来物が眼前まで迫っており──。

 

『ウワアアアアアア!!?』

 

「ま……マキナァ────!!?」

 

 ──マキナは爆散した。私の目の前で。

 

 私の可愛い可愛いマキナが。私が執行者として働いてきた1年分の給料が。

 

「外したか……!」

 

「だが隙が出来た! 今の内に包囲しろ! 何としても捕らえるのだ!」

 

 そして私の周りにはどこからともなく出てきた猟兵らしき人達が私を捕らえろだのなんだの言って行動し始めている。その内1人が持っている対戦車砲。おそらくあれにマキナはやられてしまったのだろう……ショックだ。頭部だけになってしまったマキナを拾い抱え、最後の言葉を交わし合う。

 

「マキナ……!」

 

『ウゥ……マスター……短イ間デシタガオ世話ニナリマシタ……』

 

「私も……思い出は全然ないけど楽しかったよ……」

 

『サヨウナラ……マスター……ガクッ』

 

「ま、マキナぁぁぁ!!」

 

 そうして意識を失うマキナ。うぅ……なんてことだ……こんなに早く別れることになるなんて……私の1年分の給料が……おじいちゃんに修理してもらうにもまたお金がかかる……。

 ──まあでも逆に言えばお金さえあれば修理は出来る筈だし……仕方ない。割り切ろう。今度は戦闘用じゃなくて家事用とかにしようかな。高価だと壊れた時に悲しいし。

 それにしてもAI技術なんてまだない筈なのにまあまあ感情表現豊かなのはなんだったのか……よく分からないけどまあいいか。また修理した時に聞こう。

 

「ようやく見つけたぞアーヤ・サイード……」

 

「お前は何としても捕らえねばならんのだ。我らの悲願のためにもな……」

 

「…………」

 

 それで……周りにいるのはやっぱり教団の人達かぁ……はぁ。また見つかっちゃったのか。やっぱり共和国もそうだけどクロスベルも教団の人達はかなり多いっぽいね。どこかで見られちゃったのかな。

 そしてまたどういう訳か私を捕まえるために猟兵まで雇ったと……ひーふーみー……うーん、沢山! ああもう、いい加減うざい! うーざーいー! どこに行くにも教団教団教団ってさぁ……邪魔でしょうがないよね!

 

「はぁ……どうしたら……いや、もうこうなったら……」

 

「何をブツブツと言っている?」

 

「この数だ。さすがに諦めがついたか?」

 

 あーうん。分かったからちょっと黙っててほしい。今ちょっと考え事してるから。うーん……でもなぁ……さすがに大変だし……私が一々やらなくても……でもまだしばらく追いかけられると思うとなぁ……ろくに観光も出来ないし仕事の邪魔でもあるし……そもそも早く消えてくれないと将来設計にも影響が……。

 ……まあでも、とりあえずこの場にいる人達くらいは処理した方がいいかな。ってことで《ゾルフシャマール》取り出してと。

 

「えーっと……それじゃ殺し合いってことで──私の1年分の給料(マキナ)の恨みを思い知れー!!」

 

「ッ……!」

 

「来るぞ! 構えろ!」

 

 ──とりあえず数が多いんで巻きで行こう。

 私とりあえず敵が1番多いところに大剣状態で突っ込むことにした。数は多いけどそんなに強くない気配なので多分突っ込んだ方が安全な筈。同士討ちを嫌って攻撃が限定されるからね。

 

「“デスカッティング”!!」

 

「ガッ……!?」

 

 直線上にいた3人をとりあえず剣状態で一閃して移動。そのまま近くの岩場を足場にして上に跳躍し、木の上に更に移動する。

 とりあえず糸を伸ばしてと。私は敵が複数体、纏まっているところに向けて私は声を送った。

 

「まずは糸でちょいちょいっと!」

 

「っ!?」

 

「これは……糸!?」

 

「針が刺さって……!?」

 

 木の幹や岩。フィールドを利用して糸を張り巡らせて伸ばし、複数人の意識を痛みを与えると共に撹乱する。特殊な裁縫針だから結構痛いだろう。そうして混乱している間に、私は懐から巨大な真っ白い布を広げて纏まった敵複数人に覆い被せる。

 

「動いたらずれちゃうから動かないでねー!」

 

「白い布……!?」

 

「糸で巻き取られている……!!」

 

 そう。それで布をしっかりと被せてひっくり返し、視界を封じた上で巾着のように盛り上がった人間の塊を作る。

 

「仕上げに切り取れば完成!」

 

 最後に私は《ゾルフシャマール》を開いてその布に隠れた人の塊をちょきちょきと何度も挟み切って裁断していく。

 そう、これはいわば立体裁断だ。この真っ白い大きな布を真っ赤に染めて形を作る──

 

「“ドレーピングアナトミー”!!」

 

 ──ってことでこれは最近出来るようになった私のSクラフト。

 中にいた人の血で真っ白い布が鮮やかな赤に染まる。……まあ別にこの布で服を作るとか猟奇的なことをするつもりは全くないんだけども。これは単にグロい光景を回避しつつ、敵を撹乱して一気に殺すにはどうしたらいいかって考えただけの技なので深い意味はない。裁縫針付きの糸で撹乱して真っ白い大きな布で纏めてそこをゾルフシャマールで切り取れば効率いいなってだけだ。しかもこの白い布に後で死体とかをまとめて運べば処理も楽だ。

 

「っ……き、貴様……よくも……!」

 

「文句を言いたいのはこっちなんですけど! 金返せ! 装備置いてけ! 全部売ってお金にさせろー!」

 

 でも一気に複数人の敵を倒してもまだまだ敵はいる。正直面倒くさい。でもここで殺しておかないと面倒なことになるからやるしかない。教団の人間は特にね。念入りに、しっかりやっとかないと。マキナの恨みもあるし。

 

「くっ……こうなったら……!」

 

 ──ん? なんか教団の人が懐からなんか青い錠剤を取り出した。なんか見覚えあるけど……もしかしてアレだったりする? まあどの道早めに倒すに越したことはないけど……猟兵がやっぱり邪魔だなぁ。次は双剣モードで……。

 

「──よう、お前ら。楽しそうだなぁ?」

 

「!?」

 

「何……!?」

 

 ──え、唐突な新手……じゃない! めっちゃ聞き覚えある声が敵の背後から出てきた! しかもなんか愉しげに! 

 

「あっ、オジサン!」

 

「クク、オジサンも混ぜてくれよ。──ほらよっと」

 

「ッ……ぐあああ……!?」

 

「か、はっ……一体、何が……あああぁぁぁ!?」

 

「か、身体が、身体があああッ!?」

 

 そして何の脈絡もなく出てきたその《破戒》のオジサンは指を軽く鳴らした。それと同時に、猟兵達がいる地面が禍々しい色へと変貌する。うっわ危なっ! 全員地面に倒れてしかも身体がドロドロに溶けていってる。

 

「おっとこれは失礼。やりすぎたか?」

 

「こらー! 私がいるのにそんな危ない技使うなー! 反応が遅れてたら私まで食らってたんだけど!?」

 

「お前は食らってもどうせ大したことないんだからいいじゃねぇか。もし食らっても……痒みと頭痛ってところか?」

 

「そうとは限らな……あっ、ちょっと痒い! ねえちょっとかかってるんだけど! なんか痒い! 蚊に刺された時みたい! 痒いー!」

 

「ほらな」

 

 木の上に逃れたけど若干オジサンの毒の効果範囲だったのか地味に足が痒くなる。ぐぬぬ……痒い……掻きたい……でも掻いたらもっと痒くなりそう……。

 私は仕方なくそれを我慢しながらオジサンのいる場所へと跳躍して移動する。そして周りを見れば……うわぁ……もう人の形を留めてない。この分だともう少しで完全にドロドロになって消えるかも。怖っ……。

 

「……というかなんでオジサンここにいるの? また私を付けて来た?」

 

「いや、偶然近くまで来てたから会いに行ってやろうと思ってなぁ。そしたらお前が教団の連中に襲われてるところに遭遇したって訳だ」

 

「本当? なんか嘘っぽいけど……」

 

「これは嘘じゃねぇよ。実際、教団に襲われてるとまでは思わなかったからなぁ」

 

 ってことは偶然近くに来たって部分は嘘ってことだ。ただ教団に襲われているところに偶然遭遇したってのは本当。多分だけど。オジサンの嘘も適当なのは分かるようになってきた。

 

「ふーん……じゃあ何しに来たの? また仕事? 今金欠だから内容によっては受けてもいいけど」

 

「ああ、そうだな。何か頼もうと思って来たんだが……ちょっと気が変わったところだ。お前のことを抜きにしても、いい加減邪魔になりそうだ」

 

「……何の話?」

 

「《D∴G教団》だ。ま、奴らがやってる程度の悪事なら別に放置しても構わねぇんだが……最近の連中は色んな組織にコナかけてて目障りになってきたところでなァ」

 

 オジサンは何やら考え事を──いや、なんかもう既に決めている様子で私に説明している。

 こういう時のオジサンは大体ろくでもないことを考えてる。そして、そういう時大体私は巻き込まれるのだ。

 

「だからそろそろ消す準備をしようと思ってるんだが……お前にとっても得な話だし、手伝わねぇか?」

 

「……何を手伝うの?」

 

「ああ。それはな──」

 

 そうしてオジサンは告げた。私に対して、とんでもないことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──期間限定で()()()()()()()()()()……教団潰しに繋がる悪巧みだ」

 

「…………は?」

 

 ──そうしてその日、《千の破戒者》エルロイ・ハーウッドは結社からの()()()()()()()()()、アーヤ・サイードは彼との交渉の末に彼の悪巧みを手伝うことになった。




クラフト説明はこんな感じ

デスカッティング:CP40 大剣状態での一閃。 物理攻撃 威力:B+ 範囲:移動・直線M 側面特攻 即死20%

ドレーピングアナトミー:CP100以上 物理攻撃 威力:S+ 範囲:全体 針と糸で相手を撹乱し、巨大な白い布で覆い隠した後に相手の急所を巨大鋏で切り取って真っ赤に染める技 即死・恐怖・幻惑30%

ってことで今回はここまで。次回はまた時間が経ちつつ1197年。なのでまた色々起こります。痩せ狼とか蒼の深淵とか教団潰しとか。順番に起こるんでお楽しみに。

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