TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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最悪の邪教団で働く不幸

 ──私、アーヤ・サイードが親に売られて《楽園》にやってきて1年の月日が経った。

 

「──お客様だよ、アーヤ。ついてきてお相手してあげるように」

 

「はい! よろこんでー!」

 

「──君をご指名だ、アーヤ。202号室にお通ししてある。すぐ向かうように」

 

「はい! よろこんでー!」

 

「──な、何をするんだ……!? 私はこんなことをしてくれと頼んだ覚えは……! くっ……!」

 

「ご新規様ですねー。オプションはどうなされますか? 今なら導力カメラによる撮影オプションがお得になっております。それとご一緒に導力バイブは如何ですかー?」

 

 私は今日も今日とてファーストフード店並の営業スマイルを携えて沢山のお客様のお相手をして差し上げる。教団職員に呼ばれては部屋に向かい、大人な接客をするお仕事だ。

 それだけならまあ合法なのだが、その接客を行うのが全員未成年かつどこからか拾ってきた子達に強制的に行わせているというのが問題だ。

 私の年齢は6歳だし他の子達も上はティーンで下は私と同程度。給料は当然出ないしNGは無し。ロリコンやペドフィリアのド変態のお客様が私達に好き放題欲望をぶつけることが出来るというのがこの娼館の売りであり、お客様にとっては都合がいいが私達にとってはとてつもないブラックな職場である。

 良いところと言えばお客様がお金持ち──政財界や軍のお偉方であるため身なりは整えなければならないため、清潔ではいさせてくれることだろうか。シャワーは幾ら浴びてもいいしフカフカのベッドに温かい食事もあればおもちゃも置いてくれているというオプション付きで同じ境遇のお友達も沢山。衣食住に関しては不満はないどころか孤児に対するものとしては破格の待遇だろう。

 

 ま、衣食住がどれだけ整っていようがここじゃ1年も生きられないんですけどね! 

 

 何しろ毎日のように変態のお客様相手をしているのだ。普通の子供が耐えられるわけがない。普通は半年──いや、3ヶ月と持たずに身体を壊して死んでしまうか、精神を壊して廃人になるか……あるいは娼婦としては役に立たなくなる。そうなったら実験送りだ。どっちみち死ぬ。ここでは子供に対する慈しみなど欠片も存在しないし、道徳を慮れる大人も1人も存在しない。

 なのでここでは毎日のように死人が出る。そうして子供が減ってきたらどこからかまた補充して売春と実験に使って……と家畜かの如く命が生まれては消費されていくのだ。ホント教団ってのはろくでなしの集まりだ。

 

 そう──教団だ。あの悪名高い《D∴G教団》についても多少は説明しておかないとならないだろう。

 

 簡単に言えばこの世界における邪教だ。《空の女神》という唯一神を否定する異常者の集団で、神を否定するために悪魔を崇拝したり新たな神を生み出そうとしたり……後はまあ色々だ。なんか根本には《至宝》が関係していたりとか色々あったりするのだがややこしいので今は割愛する。また思い出すべき時が来たら思い出せばいい。

 それでまあ神を否定するための邪教ではあるのだが、何がたちが悪いかってその目的を理由にあらゆる悪行を行っていることにある。

 各地から子供を誘拐、買い叩いてはありとあらゆる冒涜的かつ異常な人体実験を行う。そのために各国の有力者の弱みを握ったり違法な商売で資金を調達したりして強固なパイプを作り、各国の軍隊や治安維持組織も容易に手を出せなくしている。

 さっきもこの《楽園》を《楽園》と知らずにやってきた共和国の権力者を睡眠薬で眠らせた上でこの娼館の一室に招待し、眠っている間に淫らなことをして更にその写真を撮っておいて弱みを握る──なんて事が行われたがこれも教団がよく使う手法である。そうやって騙された人達には同情を禁じえないが……私からすれば、その後開き直って普通にこの島にやってきては娼館を利用しだすのだからつくづく人間とは環境に適応する生き物だと感心してしまう。そして私を指名するのはやめてほしい。

 

 というわけでこの教団は危険なカルト教団なのだ。しかも、社会に根づいた組織なのである。そのため潰そうにも中々潰せない。

 

 つまり、私がここから助かることは、極めて困難なのである。

 

 ──が、希望がないこともないのだ。

 

 私には原作知識がある。なので、この教団がいずれ滅ぶことも知っているのだ。少ないながらも子供がここから救われることも知っている。

 つまり、それを待てばいい。原作開始である1200年頃から数年前には壊滅していたはずだからそれまでなんとか耐えれば私はここから解放される。

 

 つまりざっと7、8年生き残れば救われる──!! 

 

「…………7、8年かぁ……」

 

 私は誰もいない共同部屋──現在は皆出勤中──でため息を吐く。

 1年間何とか生き残れたことは良いことだがこの生活を7、8年も続けていればいずれ身体がぶっ壊れることは想像に難くない。幾ら私の身体が丈夫とはいえ、使い捨て前提の人体実験の材料に選ばれればすぐに死んでしまうだろう。なので、そういった実験だけは回避しなければならない。

 そのためにも私は私が考えたこの作戦……『娼婦としてとにかく使えることをアピールしつつ隙を見つけてこの島から逃げよう作戦』を続けるしかないのだ! 

 実験は嫌だが売春なら我慢は出来る。死んだり死にたくなるような拷問を受けるよりはマシだ。それに比べれば変態おじさん達の身体の色んなところで撫でて擦ってぶち込まれるくらいなんてことない。というかもう慣れた。最初の1ヶ月はキツかったけどそれも超えれば慣れる。どんな仕事も最初の1、2ヶ月がキツいのと一緒だ。それを乗り越えた今は問題ない。加虐趣味なお客様は困るが、幸いにも私の身体は丈夫だから耐えられる。そのことだけはくそったれな両親に感謝したい。おかげで私はこの離職率の高い職場でぶっちぎりのエースだ。見た目もとても可愛らしく、おまけに中々いない中東人。褐色肌で指名率はNo.1。贔屓にしてくれる常連さんも多く、おかげで必要以上の暴力は受けにくい。サービスもぶっちぎりで良い自信はあるし、なんなら教団職員の方々からの評判も良いはずだ。新入りの教育や細々とした雑用やお得意様の相手も任せられるくらいだし! 

 つまりこれを継続出来ている限りは問題ない。後はお客様から身請けしてもらうなりすれば逃げられる。この《楽園》というロッジは絶海の孤島であるため逃げることは困難だが、お客様に買われるなどすれば堂々と島の外に出れる。一度島の外に出てしまえば後はこっちのもの。民間人の味方である《遊撃士》の支部か善良な原作キャラがいそうなところに逃げ込んで助けてもらえばいい。

 

「よし! 今日も接客頑張るぞー!」

 

 そうと決まればじっとしてはいられない。私は腰掛けていたベッドから立ち上がり、部屋の外へ。使い終わった個室の掃除とか子供の世話、営業とかやれることは沢山ある。

 そうして多方面に媚を売りまくって私は絶対にここを脱出するんだ! 

 

 

 

 

 

 ──七耀暦1190年。ネメス島、《楽園》ロッジ内。

 

 ゼムリア大陸中央部に位置する大国、カルバード共和国。

 その領海。南の海に浮かぶ孤島、ネメス島は世界有数の高級リゾート地であった。

 

 だがその実態は《D∴G教団》が島の7割以上を支配下に置く、教団の拠点。支部であるロッジの1つであり、そのロッジの中でも様々な意味で異常な実験を行っている場所の1つだった。

 教団はロッジ毎に運営方針や実験方針が異なる。女神を否定するという教義そのものは一致しているものの、その否定方法はそれぞれのロッジに委ねられていた。女神の枷を外すための薬を研究するロッジや悪魔を降ろすための研究をするロッジなど様々である。

 ロッジ同士の横の繋がりは薄く、その上で非人道的なイカれた実験を行っていることは共通しているという倫理的に最悪の組織──それが《D∴G教団》である。

 

 そんな中、この《楽園》は未成年の子供たちを使った売春宿の営業により教団の後ろ盾を作り、表の世界への影響力を深めるという教団全体にとって有用な活動を行う一方で、その子供達を使った《真なる神》を降ろすに相応しい『完全な人間』を作るための実験を行っていた。

 

「成果はどうだ?」

 

「ここのところあまり芳しくないな」

 

「ふむ……もう少し《グノーシス》を投与するか……いや、あるいは別のアプローチを試すべきか……?」

 

「そうしたいところだが少し待て。実験体が不足している。補充を待たねばならない」

 

「ならば今しばらくは経過を見るか……しかしながら最近は減りが早いな。我らの目的を達成するためには必要不可欠とはいえどうにか解消出来ないものか」

 

「やれることは尽くしている。誘拐や人身売買だけでなく他ロッジからの引き取りも含めてな」

 

「ままならんものだな」

 

「来週にも新たな子供たちが補充される。それまではここにいる者達への実験を続けよう」

 

「ああ、そうしよう」

 

 島の北側にある教団の研究施設。そこでは大勢の子供達を使った非道な人体実験の数々が教団員達によって行われていた。

 そして実験動物として選ばれた子供達の殆どはここで死ぬ。身体か精神か、あるいはその両方が耐えきれずに物言わぬ屍となり、次々に廃棄されていた。

 表の世界の善良な人間が──いや、裏の人間でさえ顔を顰めるほどの凄惨な有り様だが教団員はそれを見ても何も思わない。彼らの頭には女神を否定するために必要なプロセスをクリアする。そのことしか頭になく、子供達のことなど二の次以下だった。

 

 ──が、それでも一応は人間という認識はあるし子供達が自分達の目的達成に必要な糧であることもきちんと理解している。なので話題として特定の子供のことが話されることもままあった。

 

「そういえば娼館の方はどうなっている? 子供は十分に用意出来ているのか?」

 

「ああ、それならば今のところ問題はない。経営に支障は出ておりません」

 

「表へのパイプ作りにも手を抜くわけにはいかないからな。キャストの補充はここ以上に気を配っている」

 

「お得意様からの評判もすこぶる良い。特にアーヤが来てからはな」

 

 教団員の内、娼館経営を主に従事している者がそう口にすればその名に心当たりがない研究職員は頭に疑問符を浮かべた。

 

「……アーヤ? 誰だそれは」

 

「知らないのか? 1年程前に中東部から引き取った褐色の子供だ」

 

「──ああ、あの丈夫でおかしな子供か」

 

 と、見た目の特徴も交えて言えばあまり娼館に近寄らない教団員も思い浮かぶ。

 アーヤ・サイード。1年程前にゼムリア大陸の中東部の辺境から補充し、この島で教団が経営している娼館で働いている少女である。

 補充した地域や人種はどうでもいい。それくらいならそこまで珍しくはなく教団員も記憶することはないだろう。

 だが1年という在籍期間に加え、あの異常とも言える明るさ……1年も娼館で働きながら人間性を保持しているということもあってかその少女の名は教団員にもそれなりに知られていた。

 

「あの子供か……確かに、子供にしてはプロすぎる接客をしていたな……」

 

「酒場や飲食店の店員みたいな声で接客をする子供だな」

 

 娼館にも出入りをする教団員の中にはその少女、アーヤが気持ち悪いくらいのニコニコスマイルで『はい! よろこんでー!!』とお客様の要望に元気よく答える姿や声を脳内再生出来るほどに記憶している者もそれなりにいる。

 それほどにはアーヤ・サイードという少女はなんかおかしかった。ようやく7歳になろうという子供なのに幼児性愛者である中年の相手を喜んで行うし、なんなら勝手に即尺とかコスプレとか聖水とかオプションを勝手に付けて営業している。それでいて身体は丈夫で今のところ身体が壊れたことはない。精神の方も壊れるどころか不安定になっているところを見たことがない。仕事が終われば教団員に笑顔と大声でお疲れ様ですの挨拶を行い、鼻歌交じりでシャワーを浴び、空いている時間は子供の教育や世話、娼館内の雑務を自ら申し出てくる有り様である。得意だという裁縫で子供のぬいぐるみを修復したり、新しい服を縫ったりしている──というかコスプレオプション用の衣服はそれで作っていた。

 笑顔で接客をする子供なら他にも時折出てくる。が、そういった物分かりの良い子供ですらも大抵は時間と共に肉体と精神を摩耗させ壊れていくのが常であり、半年持てばいい方である。大抵の子供の使用期限はもっと短いが、アーヤの場合はもう1年。ずっと変わらず働いている。

 総じて肉体精神共に丈夫かつ健康な優良嬢であり、見た目も可愛らしく愛嬌があり、サービスも良いことから娼館を利用するお得意様を増やしているという教団にとっては非常に都合の良い──なんなら良すぎて変に感じるほどにおかしな良い子。それがアーヤ・サイードという少女だ。

 

「……その子供への実験は?」

 

「──アーヤへの実験は今のところ行われていませんよ」

 

「! ──支配人」

 

 教団の研究員の1人が疑問を口にしたそのタイミング。部屋に支配人──娼館の責任者である男が現れて質問に答えた。

 彼は教団の幹部司祭であり《楽園》を運営する責任者の1人である。ゆえにロッジの運営状況は事細かに把握していた。

 

「彼女はお客様からの評判がすこぶる良いですからね。私の判断で肉体や精神に強い影響の出る実験には出していません。彼女が壊れれば少なからず《楽園》の運営に支障が出ますから」

 

「なるほど……だがそれほど丈夫だと言うのならある程度の実験には耐えられるのではないか?」

 

 研究部門の教団員が理解をしながらも実験に使えないかと支配人に問いかける。支配人からすれば娼館のエースである彼女を容易く使い潰していいはずがない──。

 

 ──と、考えていたのはアーヤであったが。

 

「ええ、そのことで伺いました」

 

「おお、では……」

 

「はい。アーヤ・サイードであればある程度の実験にも耐えられるでしょう」

 

 と、支配人は柔和かつ悪い笑みでそう言った。

 

 

 

 

 

 ──今日も今日とて元気に明るくお仕事お仕事。そう思っていた私に支配人は言いました。

 

「──アーヤ。君の次のお仕事はお薬を飲むことだ」

 

「はい! よろこんでー!! ………………………………はい?」

 

 支配人からの呼び出しを受けていつものようにニコニコスマイルで返事をした私だが……数秒後には笑顔のまま首を傾げて疑問符を投げかけた。

 応接間のソファーに座る支配人はいつものように柔和な笑み。こちらもこちらで中々面の皮が厚く、変わらない表情で私に錠剤を手渡してくる。

 そこに私は異を唱えられる余地はない、が……いや1年もここでやってきたんだから多少は言っても許されるだろう。私は笑顔を崩さないまま支配人に疑問をぶつけることにした。

 

「……え~っと……支配人?」

 

「何ですか、アーヤ。早くお薬を飲みなさい」

 

「はい、よろこんで。……と、飲む前に何の薬か聞いてもいいですか?」

 

「心配する必要はないよ。ただ身体の調子が良くなるだけの薬だ。飲めばいつも以上に元気になれるはずだよ」

 

「……なるほどなるほどなるほど~! これを飲めば元気になれるんですね!」

 

「ああ、元気になれるとも。だから心配はいらないよ」

 

 支配人は子供の私に優しく諭すように薬の服用を勧めてくる。こうして見ると一見、選択権がこちらにあるように思えるが、それは全くの誤りで実際は拒否権はない。断ったところで強制的に飲まされるだけだ。

 つまり私はどう足掻いてもこの怪しい薬を飲まなければならないわけで……。

 

「……一応聞きたいんですけど、私ってもうかなり元気だと思うんですが──」

 

「ふむ、飲みたくないんですか? であれば仕方ないですね……あなたにはまた別の仕事を──」

 

「──いやいやそんなわけないじゃないですかー! えへへー! はい、ごっくん! んっ……と、飲みましたよ! これでよろしかったですかー?」

 

「おや……飲みましたか。ふむ……やはり君は良い子ですね、アーヤ」

 

「それほどでもありませんよー。あはは」

 

 ──別の仕事と聞いて嫌な予感がしたから飲んだだけだけどね! 本当なら絶対に飲みたくないが、ガチの人体実験に巻き込まれるよりマシだ。薬の服用程度ならそんなに酷いことにはならない、は……ず……。

 

「っ……!」

 

「大丈夫ですよ。すぐに、元気になりますから。なので少し休んでいても構いません」

 

 ──私は身体に感じる違和感に耐えられずに膝を突く。

 そんな私に支配人は優しい言葉を掛けてくれた。休んでもいいとのことだが、それが出来るなら苦労しない。

 

「し、支配人……!」

 

「おや、まだ意識があるとは……どうかしましたか?」

 

「か、身体が……っ」

 

「身体がどうかしました? 何か気になるところがあるなら遠慮なく言って構いませんよ」

 

「そ、それなら……」

 

 そうして私は、若干だがいつもの笑みが僅かに悪いものになっている支配人に、自らの身体の異変を口にした。

 この生を受けて今まで感じたことのない身体の異常。それを言葉にし、耳にした支配人の表情が長い硬直を経て大きく変化するのを最後に、私は──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──お腹を壊してトイレに駆け込んだ。

 




今回はこんなところで。主人公のアーヤちゃんも厄ネタ……かもしれない。
次回からは外道ボスラッシュです。お楽しみに。

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