──あの子の話は聞いてたけど、思ったよりは普通の子ね。
私が《魔女の眷属》から出奔し、あの方……《
既に私は使徒として結社の運営に携わり、多くの執行者とも顔を合わせていた。
そんな中でも脱走中の第四柱《千の破戒者》と執行者No.ⅩⅢ《
だけど人となりは聞いていた。《破戒》は稀代の犯罪者だけどノリは良い。《血染の裁縫師》はその凄惨極まる過去に反してとても明るい子。そしてその身に特殊な力を秘めた子だと。
そんな風に聞いていたから、その彼女──アーヤ・サイードが戻ってきて初めて顔を合わせた時、実際はどういう子なのかちょっと身構えたのだけど、話してみればなんてことはない。そこらにいる普通の少女と変わらない。闇で生きているにしては普通の感性を持つ子だと感じた。
まあ確かに少しは変わってるところもあるけれど、教団の被害者として何年も過ごし、暗殺者として育てられた経験があれば人より少し個性的になるのも仕方のないこと。だからこの程度なら御愛嬌ねと私は普通に接しやすくて可愛い1人の執行者として良い関係を築くことにした。
──それよりも私が気になるのは別の人。執行者No.Ⅱ《剣帝》レオンハルト。
初めて会って少し話してすぐに彼に惹かれてしまった。その冷たい感情を秘めた眼差し。アッシュブロンドの髪。顔立ちも良い。
そして何より、その陰のある彼の雰囲気とも言うべきものにやられてしまった。彼の過去もまた悲しいもの。そんな彼に直接口にするのは憚られるけれど、その過去もまた私にとっては哀しくも愛おしく感じる。
だから私は暇を見つけては彼に話しかけ、アプローチを行った。盟主に下って《蛇の使徒》となった私だけど私もまだ17歳。恋愛の1つも経験してみたい年頃だ。
「──ねぇ、レオン? ちょっとたまには私と表に出かけてみない?」
「……俺にそんな暇はない。悪いが他を当たってくれ」
……だけどレオンは冷たかった。話しかけてアプローチしても素っ気ない反応をされてしまう。まあそういうつれないところもまた素敵だけど、袖にされ続けるのは私のプライドにも関わる。
かといって無理強いするのもよくはない。そんなことをすれば本気で嫌われてしまうでしょう。悪名高い女の敵……第三柱と同じにはなりたくないものね。
ならどうやって彼を落とすかだけど……結局じっくりと攻めるしかなさそうなのよね。
それにレオンは誰にだって素っ気ないから誰かに取られる心配もないでしょう。女性からの誘いに乗っているところなんて見たこともない──
「レーヴェ! 訓練終わったらご飯連れてってー!」
「……1人で行けばいいだろう。何故俺を誘う?」
「1人だと危ないからね。それに他の人も今日はいないみたいだし連れてって!」
「……仕方ないな」
「わーい! ありがとうレーヴェ!」
「ああ」
──と思っていたらあの子があっさりとレーヴェを誘ってご飯に行っていた。
一体何故? どうして? 私があれだけ誘っても1回も首を縦に振らなかったのに。
私はそれを物陰から見て僅かな悔しさを感じながらも何故アーヤが良くて私がダメなのかを考えることにした。
……やっぱり子供には優しいのかしら? でも他の子供にはそれほど構っている様子もないし……だとしたら信じられないけれどあの子の方が私より好み……とか? ──いえ、さすがにそれはありえないか。確かにあの子は可愛いけれど私の方がスタイルも良いし美人よね。まさかそういう趣味である筈もない。
でもあの子はよくレオンに稽古に付き合って貰っているし、あの子の誘いにも暇であればよく乗っているようにも見える。
そして私は考えた。互いに恋愛感情はないにしても、あの子はレオンとよく接していて私よりも付き合いが長い。
もしかしたらあの子ならレオン攻略のヒントが貰えるかもしれないわね。
今の私は圧倒的に情報が足りない。だからあの子からそれを聞き出す。
それにあの子と仲良くしていたらレオンとも距離が縮まるかもしれない。3人でどこかに行くという形ならレオンも誘いに乗ってくれるかもしれないわ。
私はそんな打算の下、アーヤに声を掛けることにした。
「え? レーヴェの好きなことですか?」
「ええ。何か知らないかしら」
「えーと、それはまあ少しなら……」
「じゃあ教えて貰える? 教えてくれるなら何かお礼もするわ」
打算的ではあるけれど一応筋というものは通すべきよね。私はしっかり礼もすることも伝えてレオンについての話を聞こうとした。
するとアーヤは少し考えた上で私に恐る恐るといった様子でこう言った。
「えっと……それじゃあ欲しいものがあるんですけど……」
「何かしら?」
「あ、えっと……ちょっと“声”が頂きたくて」
「……声?」
まるでお伽噺の魔女のようなことを言うアーヤに私は素直に聞き返す。
誤解されたと思ったのかアーヤはすぐに慌てて訂正してきた。
「声と言うか言葉というかセリフが欲しくて……えっと、ちょっと待って貰ってもいいですか? 言ってほしい台詞を用意してくるので……1日……いえ、3日程ください! レーヴェの情報は教えますしヴィータお姉さんのこともそれとなく良い印象になるよう伝えておきますので!」
「本当? それは願ってもないことだけど……でも台詞って何の台詞? もしかして魔女の秘術でも教えてほしいのかしら?」
もしかしたら魔女の扱う魔法──呪文の内容でも教えてほしいのかと思ったけれど、どうやらそうじゃないみたい。
「それはそれで興味はありますけどそうじゃなくて……と、とりあえずまた3日後! 3日後にお願いします!」
「え、ええ……分かったわ。3日後ね?」
「はい! それではまた! 私は急用が出来たのでこれで!」
と、そう言ってアーヤは満面の笑みを私に向け、レーヴェの情報を書いたメモをその場で書いて私に手渡した上で用事が出来たとその場から走って立ち去っていった。
……一体何なのかしら。でもまあ台詞、ね。そのくらいなら……。
私は3日を待つことにした。お礼の内容もこの分なら大したことはないだろう。ちゃんと情報もくれたことだし。
──そして3日後。
「お待たせしましたヴィータお姉さん! どうぞ! ここに座ってください!」
「ええ。それは良いのだけど……これは一体何かしら? それにこの紙の束も……」
後日、アーヤの指定した待ち合わせ場所に向かうと、そこには透明なガラスに仕切られた個室があり、私はその個室に置かれた椅子に腰掛けるように言われる。
だけどそれ以上に気になるのは目の前の机に置かれた
「はい! これは博士に頼んで私が作ってもらった
「録音用の特別な機材……ということは記憶結晶かしら。それに台本ということは……もしかしてラジオや……いえ、劇のような何かでも録るつもり?」
私は困惑する。確かに声や歌には自信はあるけれど、急にこんなことを……しかも何の目的で録るのか分からないこともあって躊躇いが生まれた。
だけどアーヤは私の言ったことを笑顔で否定する。
「いえいえ、これは単に私が個人で楽──聴くためのものです」
「個人で聴く?」
「はい。その、ちょっと眠る時に聴きたくて……私、人におやすみって言ってもらいたいんです。そうした方がよく眠れるので……ヴィータお姉さんすごく良い声してますし、おやすみって言って貰えたら嬉しいなって……でも毎回それを頼むのは大変なので、録音していつでも聞けたらなーと……」
「……成程。そういうことね」
私はそれを聞いて得心する。この子はこう見えてとても凄惨な過去を持った子。
きっとこの子には今まで親と呼べるような──いえ、家族と呼べるような相手すらいなかったのでしょう。そして、おやすみと言ってくれる人だって1人もいなかった。
だから一見明るいように見えても寂しさを抱えているのかもしれない。こんなことを私に頼む程度には、彼女にも闇があったということだ。
私としても彼女の過去は痛ましいと思う。それにレオンのことも教えて貰えたことだし……このくらいならお礼としてやってあげるのも吝かじゃないわね。
「分かったわ。その頼み受けてあげる」
「! は、はい! ありがとうございます! 」
「フフ、気にしなくていいわよ。これもお礼なんだから」
「はい。それでもありがとうございます。本当に嬉しいです……!」
お礼はいいと言っているのに再度頭を深く下げて礼を言ってくるアーヤに笑みを浮かべる──こんなことでここまで喜んでもらえるなんてね。おかしな子。
私は久し振りに穏やかな気持ちになりながら、その台本とやらを開く。何枚かあるのが気になるけど、一体どんな感じなのかしら?
「それで……この台本に書かれた台詞を読んでいけばいいのよね?」
「はい。あ、この導力機の耳の部分にお願いします。ここが録音装置になってるので」
「分かったわ」
「あ、それと台詞はちょっと情感を込めてお願いしますね。まあヴィータさんなら大丈夫だと思いますけど……」
「感情を込めればいいのよね? ふふ、任せて。それも得意よ」
「ありがとうございます! あ、それと台本に指定してあるんですが時折息を吹きかけてくださいね。それも優しくお願いします」
「……えっと、なんで息を吹きかける必要があるのか分からないけれど分かったわ。他に何かある?」
「ええっと……あの、これは嫌なら良いんですけど……この耳の部分をたまに舌で舐めて頂けたら……」
「……? いえ、さすがにその必要はないと思うのだけど……? 耳を舐めるのにどんな意味があるのかしら?」
「その方がよく眠れそうというか……ああ、いえ、嫌ならいいんです嫌なら! い、嫌なら……ぐ、ぐすっ……うううっ……嫌なら……」
「い、嫌とは言ってないわよ? ……わ、分かったわ。ちょっと恥ずかしいけれど、でも1回だけよ? 何回もするのはさすがに抵抗があるから」
「ううっ、ありがとうございます……お優しいヴィータお姉さん……それでは私はブースの外にいますので合図を出したら台詞をお願いします……」
「ええ……任せて」
そうして軽く泣きべそをかきながらアーヤは部屋の外へ出て、ガラス越しに私に声を送ってくる。
「──それじゃあ1ページ目、冒頭の台詞からお願いします。『ふふっ……どうしたのアーヤちゃん? もしかして眠れないの? ……ふふ、もう仕方のない子ね♡ それならお姉ちゃんがよく眠れるようおまじないをかけてあげるわ♡』──のところですね」
──私は一体何を
その時の私は初心でよく分からなかった。何故おやすみと言うだけの筈なのにこんな長尺なのかも、何故途中で息を吹きかけるのかも、何故耳を舐めるのかも、何故『3、2、1……ゼロ、ゼロ、ゼロ♡』と0を執拗に口にするカウントダウンを行うのかも。
ただ何となく恥ずかしいことをしているような気がしたが、よく分からない。だけど……あるいはこれがアーヤの闇──いえ、《深淵》なのかもしれない。私はそう思い、考えることをやめてレオンやアーヤのためにも演技に没頭することにした。
──だけどその数年後。私はその意味とアーヤの深淵に気づいてアーヤを問い詰めることになるも……色々あって彼女に感謝し、互いに協力し合う仲間となることを、この時の私はまだ知らなかった。
──おはようございます! アーヤ・サイードです! 気持ちの良い目覚め! 元気いっぱいです!
ということで先日はお見苦しいところをお見せしました……まさか吐いちゃうなんて……。
でもあんなにボコボコと美少女のお腹を殴るヴァルターが悪いよね? 私だって吐きたかった訳じゃない。だからあれはヴァルターが悪い。反省してほしい。2番目はオジサン。ヴァルターと私を戦わせるなんて正気じゃないよ。反省してほしい。
……まあでもおかげでお金は沢山貰えたのでとりあえずは良しとしよう。結果的にだけど懐は潤ったし状況は良くなった。私も結社に帰ってきたし、私やオジサンの暗殺、工作によって教団の勢力も僅かながら弱体化した。
なのでそろそろ動くことが出来る。既に遊撃士協会や星杯騎士団。各国の警察や軍などは準備を進めているらしい。各勢力皆で協力して行う《教団殲滅作戦》の用意を。
そしてそれに私達結社の人間も加わるのだ。結社としても息のかかった有力者に接触されたり、教団にちょっかいをかけられるのは邪魔でしょうがないと、ついこの間《蛇の使徒》達が集まって協議した上で教団潰しに協力することに決めたらしい。そしてそこにちゃっかりとオジサンも帰ってきて参加していたとか。本当に自由だな……私もそれくらい自由になりたい。
まあでもその自由に繋がる作戦が今日行われるのだ。結社による教団潰し。その作戦の中の1つとして。
──ってことで私はここに! ネメス島に! 《楽園》に帰ってきたぞー! うお──!
「いやーさすがに懐かしいなぁ」
「楽しそうだな」
「そりゃようやくストーカーを始末出来るからね! ってことでレーヴェもヨシュア君もよろしくね!」
「……ああ」
「……ああ。よろしく」
結社の保有する小型の飛空艇。それを島の沿岸部に着陸させ、私はレーヴェとヨシュア君の2人と共に島に降り立った。
結社による教団襲撃作戦の中、この《楽園》ロッジに関しては私とレーヴェの2人の執行者と執行者候補であるヨシュア君に任された。──と言ってもヨシュア君は何故かまだ執行者候補のままなので作戦から外されそうになっているところを私が進言して連れて行ってもらうことにした。連れて行かないと可哀想だしね。ちゃんと皆で救ってあげよう。
「手分けをして行うぞ。アーヤ。ヨシュアもいいな?」
「はーい! 了解です!」
「──大丈夫。いつでもいける」
そしてこの場での指揮はレーヴェが取ってくれる。うんうん、何とも頼もしい。これなら教団が多少の戦力を持っていたところで余裕で殲滅出来るし、ヨシュア君という隠密や集団戦闘に長けている子もいるので隠れても無駄。
港も抑えてあるし、絶海の孤島であるため逃げ場はどこにもない。つまり──やりたい放題ってことだ!
「──!? 貴様は……!」
「はーい! おはようございまーす! アーヤちゃんが帰ってきましたよー!」
「っ……やはりアーヤ・サイードか……! だが何故ここに……!?」
「そりゃ全員殺すために決まってるじゃないですかー。ってことで全員ちょん切るので覚悟してくださいねー!」
「!? やめ──」
はい、ちょきんちょきんと。私達は娼館の制圧を行う。そのために私は店に正面から突入して早速出会った店の従業員を《ゾルフシャマール》で両断してあげる。建物の構造は全部覚えてるし、戦力も十分。私達3人なら十分どころかオーバーキルだろう。
だけど油断も容赦もしない。私は片っ端から扉を開けては切って、挟んで、切って、挟んで。たまに裁縫針で突き刺して。教団の人間をやってやってやりまくる。
「き、貴様……何を……!」
「はい、よろこんでー!」
「ぐあああああ!?」
「や、やめろ! 私は教団の人間ではない! ただ騙されてここに来た客で──」
「はい、よろこんでお客様ー! ご注文通り
「ひっ、~~~~~~~~っ!!? っっっ! ひぎゅ、ぁっ……!!」
「警報を鳴らせ! 襲撃者は1人だけでは──」
「あーいけません! いけませんお客様! あー駄目です駄目ですお客様! 誰一人逃しませーん!」
「か、はっ……!?」
うーん、それにしても教団の人間が多いこと多いこと。やっぱりここは大盛況だなぁ。未だにお客さんも沢山いるし、従業員もいっぱい。相手にするのが大変でしょうがない。
まあでも昔に比べたら大変じゃないか。多い時は一度に5人くらいを相手にしたこともあるし、1日の客の数は二桁が常だった。なので数は多いとはいえ1人1人相手にする分にはそんなに苦労しない。
でもあれだ。あんまり同業者はいないなぁ──と、そう思ってたら。
「な、なんだお前は!?」
「…………だ……れ……?」
──おっと。幼女発見伝。そしてついでに全裸のお客様。可哀想に。あんなに汚されて床に倒れちゃってさ。私ならともかくそんな使い方したらすぐ壊れちゃうって分からないのかなぁ……まあ分かっててやってるんだろうけどね。余計にたちが悪い。
「あー懐かしい臭い。やっぱ換気もなってないよね。久し振りに来ると臭くてしょうがないよ」
「や、やめろ……こ、こっちに来るな……!」
およ? なんかお客様がすっごいビビってるね──って、そりゃそうか。こんなバカでかい血濡れになった鋏持って来たらそりゃ怖いよね。
「動かないでくださいねー。動いたら手元が狂って余計なところちょん切っちゃうかもしれませんよ? さっきも切っちゃいましたし、多分死ぬほど痛いでしょうから動かないことをおすすめしますねー」
「わ……私を誰だと思ってるっ! いいか! 由緒正しい元王国貴族の──」
って、なんか家柄自慢始めちゃったよ。やっぱりこういう手合いは現実が見えてないんだなぁ。これから死ぬって時にそんなつまらないこと言うなんて。
まあ聞いてあげる義理もないからさっさと殺そう。ということで一歩近づいてみれば──あ、逃げようとしてる。
「よいしょっと」
「あっ゛……があああああああ゛っ!!?」
はい、ちょきんちょきん。太った腹と足。喉と3本目の足もついでに切ってあげればすぐに大人しくなった。部屋が赤く染まる。うーん、汚い。慣れたけど血って普通に汚いよね……。
まあそれ以上に汚いのは床にこびりついている別の液体の方だけどさ。ってことで私は床に転がっている1人の幼女に近寄る。
「んー、まだ生きてるね。よしよし」
「っ……おね……え……さん……だれ……?」
「私はここのOGで貴方の先輩で可愛い褐色美少女のアーヤちゃんだよ。助けてあげるから大人しくしててねー」
私はその幼女に優しく微笑みかけてあげながら懐から大きめの布を取り出してそれで丁寧にささっと拭き取ってあげる。
「っ…………」
「あ、ごめんねー。身体拭いてあげるだけだから」
身体を触られたことでびくっと幼女の身体が跳ねたけどちょっとだけ我慢ね。大丈夫、私慣れてるからね。はい、さささーっと。それにしても傷だらけだなぁ。十字傷が沢山……って、よく見たらこの髪色……もしかして……。
「…………これは……」
「……………………」
「あ、レーヴェ。ヨシュア君」
──と、私がこの子の正体に気づいて若干内心で叫びたくなった時、背後からレーヴェとヨシュアがやってきた。2人はその光景を、私の腕の中にいる幼女を見て目を細め、あるいは絶句している。
「……下種め」
「……こんな風になっても人は生きていられるのか……?」
「あー……まあここだとこういう子は珍しくないからねー。私もこれくらいやられるのは日常茶飯事だったし、耐えられずに壊れる子も大勢いましたから。生きてるだけマシな方かな?」
「…………これでも、生きていると言えるのか……?」
「呼吸もしてて心臓も動いてるなら生きてるよ。精神は確認しないと分からないけどね──っと」
私は懐から更に綺麗な布を取り出し、簡単にシャツとスカートを縫って履かせてあげる。くっそ適当だし地味でダサいけど応急処置だから一旦これで我慢してねー。下着は……まあ見えないように気をつければいっか。こんな時のために今日は私もおしゃれコートを着てきたからね。それも着せてあげれば……うん。コーディネート的には微妙だけど肌は隠れてるし温かいだろうからこれでいいかな。後は──
「……この無数の十字傷は自分で付けたものだな。恐らく、自分を保つために必要だったのだろう」
「…………それでも、生きたかったのか……」
「あ、もし見たくなかったら先行っててもいいよ。私が適当に介抱して運んどくから」
「……助けるつもりか?」
「え? むしろ助けないの?」
あれ? なんで助けないみたいな感じ? ここってこの2人が普通に助けて引き取る感じだと思ったし、自然に引き取るものだと思ってんだけど……うーん、細かいところ忘れてるからなぁ。ちょっとどういう流れだったかは覚えてない。
でもまあどっちにしろここでこの子を死なせるなんて可哀想だし助ける以外の選択肢はない。私この子好きなんだよね。ちゃんと生きて成長した姿をこの目で見てみたい。
「…………レーヴェ。僕も……この子が生きているところを見てみたい」
「…………そこまで言うのならばいいだろう。だが……」
あ、ヨシュア君が同調してくれた。やっぱり助けてくれるんだね。
ただレーヴェの方は私とこの子を見て何かを言い淀んだ。だけどそれを口にすることはなく。
「……いや、そうだな。なら連れて帰るといい。アーヤ。その子を飛空艇まで運んでやれ」
「はーい。制圧はどうする?」
「後は実験施設の方だが、場所は分かっている。俺達だけでも問題はない」
そりゃそうだ。だって教団の人間って別に強くないし。イカれてるだけだし。
まあ中にはそこそこ戦えるのもいるけどそれでも執行者や、ましてや《剣帝》に敵う程ではない。
なので私はもう休憩してもいいんだけど──
「んー……それじゃこの子を飛空艇まで運んでからまた戻って来るよ。どっかに隠れてるのがいるかもしれないしね。ちゃんと殲滅しなきゃ」
「……そうか。なら先に行っているぞ──ヨシュア」
「……ああ」
「それじゃまた後でねー」
と、私はまだ手伝うとレーヴェに告げるとレーヴェはそれを受けてヨシュアと共に先に北の研究所の方へ向かった。なんかまた微妙そうな表情をしてたけど……まあこの子を見て気分も沈んでるんだろうね。そりゃそうなる。私だって気分は沈むし。
まあでもとりあえず一旦はこの子を救い出せたことを喜ぼう。──という訳でもう一度飛空艇までぱぱっと移動。絶対に何もしないように付いてきた部下の猟兵たちに告げてから今度は研究所の方へ。
そして研究所に足を踏み入れてみれば中から断末魔。まだやってるみたい。でももうちょっとで終わりかなー? まあでも一応探そうと私も捜索に加わる。
それにしてもこの施設も中々に懐かしい。殆ど娼館の方にいたとはいえ、私も何度かここには立ち入ったことはある。大体は壊れた子供が実験に使われる場所だったけども──。
「……あれ?」
──と、ふと私は1つの部屋に。研究室に入ったところで視界に映ったそれに見覚えがあると立ち止まる。
実験で使われたのだろう。既に死んでしまった子供の身体がそこにはあった。実験台に乗せられて固定されているその死体の周囲には幾つもの薬品や怪しい器具が沢山ある。
私は確認するためにもう少し近づいてみた。そして記憶の中にある顔と見比べて思い出す。もしかして──
「──ああ。
私は思い出した。多分、恐らくだが……この私と同じ褐色肌に銀白髪の髪に黄金色の瞳は私の姉妹だろう。
多分年齢的に私の1個上だった子かな。そしてここで捕まってこうなってるってことは……なるほど。多分私のこともあって家族皆捕まってしまったのだろう。
そして私の次に幼かったこの子がこうなってるってことは……。
「……そっかぁ………………死んじゃったのかぁ」
──私は
本当に、本当に悲しい。たった5年の家族とはいえ、自分のせいでこうなってると思うとさすがにね。
だけど、こういうのは慣れる。いや、もう慣れちゃってるんだよね。多分。私の考え方の問題なのかもしれないけど、こういうのはどうしようもない。割り切るしかないし、しっかりと受け入れて悲しんで次に行くべきなんだ。
それが幸福になるのに必要なことだって私は思ってるからね。だから必要以上にくよくよしないし、しても無駄だ。そんなの無駄に苦しいだけだしいらない。
本当はこうなる前に気づいて阻止するべきだったけど出来なかったんだからしょうがないよね。
「…………よし」
私はその子の器具を外してあげる。そしてその子の身体を抱え上げた。軽いなぁ……人って死んだら重くなる筈なんだけどよっぽど中を弄られたんだろうね。私でも喚いちゃうくらい痛かったからそりゃキツいだろう。
「──アーヤ。それは……」
「あ、レーヴェ。ヨシュア君。これね、私のお姉ちゃん」
「えっ……?」
「…………そうか。教団に囚われていたか」
「うん。この分だと全員死んじゃってるみたいだね。私の次に幼かったこの子がこうなってるしさ」
死体を外に運んでいる最中、レーヴェとヨシュア君ともまた合流する。そしてこれが私の姉だと説明するとヨシュア君は顔を驚きに染め、レーヴェは更に目を細めた。そんな2人に私は言う。
「だからお墓でも作ろうかなーって思ってね。まあ埋めるだけなんだけどさ。そういう訳でちょっと時間かけるけど待ってて」
「……なら手伝おう」
「……僕も……その、手伝うよ」
「あ、ほんと? それじゃ花でも取ってきてくれる。私穴掘ってるからさ。後は墓石とか? まあそれは適当な石で代用するしかないかなー……まあこんなところだし我慢するしかないね」
「……すぐに持って来よう」
「……………………」
……さすがに雰囲気がなんか暗いなぁ……いやまあこの2人っていつもこんな感じだけど今は特に暗い。仕方ないけどね。そりゃこんなん見たら気分も悪くなる。私もさすがに気分悪いし。やっぱ教団は皆殺しにしないと駄目かぁ……。
なんてことを考えながら外に出て適当に歩き、海が見える高台の1つを選んで《ゾルフシャマール》で穴を掘る。そんでまあ色々と処置をしてから穴に埋めてからその上に石を立てる。そんで石に名前も掘ろう。うーんと、名前は確か……いや、一応家族全員のにしてあげよう。多分皆死んでるだろうし。私以外は。
「──持ってきたぞ」
「ありがとー。それじゃお花も置いて、と」
そうしてお墓がちょうど出来たところでレーヴェとヨシュア君も花を持って戻ってきたので、私はお墓の前にそれを置いてパンパンと二拍。そして黙祷。ごめんねー。成仏してねー。
しっかりと黙祷を終えて目を開くとレーヴェとヨシュア君も目を瞑って祈りを捧げてくれていた。やっぱり良い人なんだよなぁ。この2人はやっぱりお労しいので早く救われてほしいところ。
「……もういいのか?」
「ん? ──あ、うん。大丈夫大丈夫。ちゃんと弔いはしたしね。後は生き残りを確かめるだけだね」
「…………ああ、そうだな」
「…………」
──って、またなんか意味深に見られてる……言いたいことあるなら言ってもいいんだけどなぁ。やっぱり気を遣われてるっぽい。
……まあでもそれも何度も言うけど仕方ない。しばらくは気分も沈むだろうし、もうちょっとしたらお食事会でもして気分を盛り上げてあげよう。こんな顔してる2人もなんだかんだ食べ物には好みがあるのは分かってるからね。
……ただやっぱり色々と思うところはある。なんというかね。この2人を見てると──
──普通にかっこよく見えてくるんだよね……。私が女の子になったせいかな。それに対して色々思うところはあるけど……ま、今はいいや。とりあえず帰ったらこの間ヴィータお姉ちゃんに頼んで録ってもらった『ヴィータお姉ちゃんのドキドキおやすみASMR』また聞こーっと! ふっふっふ。田村ゆ◯りボイスもといヴィータお姉さんのあんな音声聞けるなんて世界広しと言えど私だけだろう。しばらくはすっきりした気持ちで眠れそうだ。……あ、それと
場面や視点毎による温度差で風邪引きそう。ってことで今回はここまで。この作品はシリアスとギャグを反復横とびします。でももうしばらくはシリアスはないです。
次回はレン視点か神速かもう1つのロッジも出来ればいれる。お楽しみに。
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