──その人の名前はアーヤって言うらしい。
私を助けた私よりも強い子。悪い人達をレーヴェやヨシュアと一緒に皆殺しにした悪い人。
《身喰らう蛇》という悪い人達の集まりの中で《執行者》という強くて自由な人達の1人。
私もまたその結社に拾われて、ヨシュアと同じ執行者候補になることになった。
傷を治し、訓練に参加するまで、私はアーヤにお世話をされて過ごした。
「はい、レンちゃん。あーん」
「あ、あーん……」
アーヤは優しかった。
食事の世話に傷の手当て。身の回りのことを何でもしてくれた。
服も着せてくれた。最初に感じた温かいものの正体はアーヤが作った服だった。
とてもお裁縫が上手で私に作った服を着せてくれた。それも優しかった。
だけど何より──
まるで私のことなど何もなかったかのように。普通の子供のように接していた。
そしてアーヤも昔のことを気にしているようには見えなかった。
「ねえ、アーヤ。アーヤはなんで普通でいられるの?」
「うーん……なんだろうね? まあ、くよくよしても仕方がないからかな。気にしてもしょうがないし。そんなことより今を楽しんだ方が楽しいし」
「……そう、なんだ……」
そうやって苦笑するアーヤはやっぱり強かった。
きっとこうだから、あの場所でも普通でいられたんだと思った。
そして私は更に思った──私もこうなりたい。
私も強くなりたい。そして、アーヤみたいになりたい。
そう思って、私は執行者候補の訓練に参加するようになった。
訓練は厳しかったけど何とか上手く出来た。一緒にいたヨシュアも色々なことを教えてくれた。ヨシュアはもう長いこと執行者候補でいるらしい。だから他の候補よりもすごく優秀だった。
でも執行者には多分なれないってヨシュア自身は言ってた。何でも、その席は既に取られてしまったらしい。
そんなヨシュアにもアーヤのことを聞いてみた。
「ねえ、ヨシュア。アーヤはなんであんなに強いの?」
「それは……」
ヨシュアはそこで言い淀んだ。
どうやらヨシュアはアーヤのことが少しだけ苦手みたい。
あんなに優しいのにと不思議に思っていると、少し考えた上でヨシュアはこう答えた。
「……そうだね。それはおそらく……彼女が特別だからじゃないかな」
「特別?」
「ああ。少なくとも……僕には真似出来そうにない」
ヨシュアの答えはよく分からなかった。
でもヨシュアが少なくともアーヤを特別扱いしているのは分かった。きっと苦手に思っている理由もそこにある。
でもそれを聞くのは何となく良くないことな気がした。
だから代わりに、武術を教えてくれたレーヴェにも聞いてみた。
「ねえ、レーヴェ。アーヤはなんであんなに優秀なの?」
「優秀、か。レンにはアーヤがそう見えるか?」
「うん。だってレンよりもずっと強いし優しいし、何より我慢強いのよ?」
「……そうだな。あの心の強さは常人には真似出来るものではないだろう」
「レーヴェでも真似出来ないの?」
「ああ。あれだけの経験をして光を宿したままでいるなど、俺には到底出来そうにはない」
「そうなんだ……」
「……だが、あるいは
「えっ?」
「…………いや、余計なことを言った。今のは聞かなかったことにしてくれ」
「う、うん……分かった。忘れればいいのよね?」
「ああ。それでいい」
レーヴェは私の頭に手を乗せて優しく撫でる。
私は嬉しくなる。普段なら。
だけどその時はアーヤのことを考えていた。
──ヨシュアやレーヴェでも真似出来ない強さをアーヤは持っている。
だからアーヤは優しい。だからアーヤは優秀なんだ。
私は嬉しくなった。
私にこんなにも優しくしてくれる人が、皆からも認められていると知ったから。
私はまた別の日にアーヤに聞いてみた。
「レンもアーヤみたいに強くなれる?」
「えっ? い、いやぁ私みたいにってのはよくわからないけど……まあレンちゃんなら余裕で私より強くなれると思うよ?」
「本当?」
「ほんとほんと。私よりもレンちゃんの方がずっと天才だしねー……あはは……自分で言ってて悲しくなるなぁ」
アーヤは、私も強くなれるって言ってくれた。
だけどアーヤはちょっと自己評価が低かったり高かったりしてよく分からない。私とかヨシュアとかレーヴェのことを自分よりも上だって言う割には、変なところで自信を覗かせたりもする。
「よく分からないけど元気出して? レン、アーヤの作ってくれるお洋服好きよ? それにアーヤはレンの知らないこといっぱい知ってるし、とっても強いんだってレンは知ってるんだから」
「レンちゃん……! よ、よーし! 私、レンちゃんのお洋服もっと作っちゃうぞー! それに色々教えてあげるし頭撫で撫でもしてあげる!」
「うんっ! ありがとう、アーヤ!」
でも私はそういう普通なところが好きだった。
一緒に過ごしてくれるし優しくしてくれる。ご飯だって連れて行ってくれるし、作ってもくれる。お風呂にだって入ってくれるし、一緒に寝て本だって読んでくれる。そんな優しいところが好き。
特にアーヤの作るお洋服は大好き。可愛いし、着るととっても温かい。
アーヤが私のためにって洋服を作っている姿を見ると、私にはもう絶対に届かない普通を感じてしまう。
──もしお姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな。
私にお姉ちゃんはいないけどそう思う。
それどころか家族もいない。いたはずのパパとママもいない。
でも私にはヨシュアにレーヴェ。そしてアーヤがいる。
だから寂しくない。哀しくもない。
アーヤが
──はぁぁ……レンちゃん可愛いよぉ……萌え死ぬぅ……あっ、どうも。アーヤ・サイードです。
そんなこんなで色々あって今は七耀暦1198年。14歳になって私はお姉ちゃんになりました。なんでそうなったのかは分からない。本当ならレーヴェやヨシュアの方にもっと懐くと思っていたのに、どういう訳か私に1番懐いてます。
まあでもやっぱり直接助けたし、お世話もしてあげたからなぁ……そりゃ子供は懐くか。うん、しょうがない。どうしようもない。あの時点のレンをお世話せずに突っぱねて距離を取るなんて心ないことが私に出来るわけない。
そう。私はちょっと前に《楽園》を襲撃してレンを助けた。あのレンをだ。
説明は必要ないと思うけど一応整理すると、レンと言えばシリーズを代表するキャラと言っても過言じゃないくらいの人気キャラだ。主人公とかを除けばかなり上位だろう。
というのも空からずっと出てきて成長を見守れる上に、最新作ですらメインとなるエピソードがあるくらいだからね。最初からやってるファンにとっては感慨深いものがあるのだ。かくいう私も感動したし、この世界に生まれて当事者となっている今でもレンを見てちょっとファンとしての思いが再燃しそうになるくらいには感動した。
……まああまりにもお労しいエピソードの後ということもあってそんな暇はなかったけどもね……さすがに可哀想だったんでお世話はちゃんとした。トラウマ刺激するかなーと思って必要以上にベタベタはせずにあくまで親身にご飯作って食べさせたり傷の手当てをしてあげたりお洋服作ってプレゼントしてあげたりした。
そしたらまあ、懐くこと懐くこと。自分でもびっくりなくらい懐いた。具体的にはずっと付いてくる。執行者候補としての訓練とか何か用事がない限りはずっと私のところにいる。ご飯だって一緒に食べるし、お風呂にも一緒に入る。そして眠る時ももぞもぞと私の布団に入ってくるのだ。あんまりベタベタしないようにこっちから気をつけてたのになんか向こうから引っ付いてくる。だからしょうがない。本当に。レンのぷにぷにの肌を毎日洗ってあげてレンに抱きつかれ擦りつかれながらその香りに包まれながら眠るのも不可抗力でしかない。
……いや、さすがに性的に興奮とかはしてないよ? 悪の組織で働いてる私にだって人の心はある。さすがにレンをそういう目で見るのはね……ちょっと難しい。さすがに幼すぎるし私も同じことをされた身として気持ちは分かるのでこれでも一応使いすぎない程度に気は使ってる。
だから普通に妹みたいな感じでみてるけど……これが困ったことに、妹として見てもそれはそれで可愛くて困るんだよね……いや、なんで毎日付いて来てるの? なんで膝の上に乗ってくるの? その上で抱きついて頭を擦り付けてきたりするし、寝てる時も私の胸に顔を埋めてきたりするし、いい加減可愛すぎるんだけど? おかげでこっちもなんかシスコンになりそうになる。楽園で働いてる時は同じ同僚のロリを見てもなんとも思わなかったのに……これが成長? それともレンが可愛すぎるだけなのか、判断に迷うところだ。
まあでも害はないのだからいい。そんなことよりもレンちゃんに着せる衣装の方が大事だ。やっぱりレンと言えばロリータファッションだよねってことで私も色々試してる。装飾が多くて大変だけどやりがいはあるし、何より私の服を着たレンが可愛すぎるのでやる気が満ちている。なので忙しいのにも関わらず服の生産速度は今までの倍くらいのペースになっている。楽しくてしょうがない。
……ただ、それは良いとしても最近はまた環境が変わってきたというか、私の周りでも色んなことがあったんだよねぇ……ほんと。レンのことを抜きにしても。
というのも人の出入りが激しくなってきたのだ。まず第一に、クルーガーちゃんが姿を見せなくなった。私がオジサンと一緒に結社から一時的に距離を取っている時のことだった。おそらく帝国の怨霊と戦って瀕死になったところをラインフォルト社に拾われたのだろう。それで……えーと、名前なんだっけ? とりあえずアリサのお母さんに拾われて名前を付けられてメイドになっている筈だ。そして新しい名前はシャロン。シャロンという名前とメイドという役職を与えられたクルーガーちゃんはこれから人間らしい感情を取り戻していく──筈。
だから最近はクルーガーちゃんに会えてなくてちょっと寂しい。まあ結社を抜けた訳じゃないから会おうと思えば会えるけど、こっちもこっちで忙しいし向こうもまた仕事に慣れる時間が必要だろうから今は自重する。うう……1番の友人だったのに……。
……しかし友達の門出なのだから応援するしかない。なので切り替えて次のことを思う。第二に、ヨシュア君がリベールへの長期任務のために姿を見せなくなった。
これはどういうことかと言うと、あの面白教授による計画が始まったということだ。何年後かに始まる結社の《福音計画》の前準備のため、リベール王国にいるS級遊撃士。元王国軍准将の《剣聖》カシウス・ブライトの情報を送ってもらうべくスパイとして潜り込ませる。そのために態々暗示をかけ、暗殺任務を失敗すると分かっていながらも命じて何年も《剣聖》の下で過ごさせる。ブライト家の養子となって、カシウスの娘である主人公、エステル・ブライトと一緒に平和で楽しい少年期を送ることになるのだ。
まあ原作とちょっと違うところもあるんだけどね。まずヨシュア君が執行者ですらないってのがちょっとよく分からない。やっぱり私が執行者になったからなのかな……まあ執行者の地位なんてヨシュア君には必要ないだろうし、スパイで潜り込ませるのに必要な技術も暗示もあるのだから問題はないんだろう。
そしてヨシュア君がいなくなったので若干また寂しくはなったが、ヨシュア君の場合はむしろ安心した。まかり間違って私に潜入しろと命じられたらどうしようかと……。
ただこれでヨシュア君は救われるので良かった良かった。後は放置しても勝手にエステルちゃんがどうにかしてくれるだろう。個人的には同期の弟分くらいに思ってたからちょっと寂しいがこれはこれで良し。
そして後は──ああ、そうだ。この子を忘れちゃいけない。
ヨシュア君とほぼ入れ替わりくらいで結社に入ってきた私の友達がいるんだよね──ってことで今日はまた訓練でその子と顔を合わせる。私がいつも使う結社の訓練場の1つ。そこにいたのは──
「──遅いっ! 遅すぎますわよ、アーヤ!」
「あーごめんごめん。待ったー? デュバリィちゃん」
「待ったと言っています! 全く貴方という人は……どこで何をしていたんですの? 約束の時間からもうかれこれ30分も経っているのが分かりませんの!?」
「いやーちょっとレンちゃんを送り届けててね」
「むっ……レン、ですか。ならまあ……仕方ありませんわね」
──と、言う事で訓練場で私を待っていたお嬢様口調の美少女。その正体はデュバリィちゃん! ちょうど最近になって結社に入ってきた面白い女の子!
何でも大陸辺境の小貴族出身……だから多分大陸北部かな? アルテリア法国とかレマン自治州とか自由都市圏の近くの辺境地域。そこでなんか盗賊に襲われて家族惨殺されたところをリアンヌママが颯爽と救い、そこでなんやかんやあって忠誠を誓って結社に入ってきたらしい。でも闇がないので執行者候補ではなくリアンヌママの部下の戦闘部隊に入る予定なんだとか。
なので最近はよく──というか毎日だね。毎日訓練場に来てはリアンヌママに師事して剣の訓練をしたり、他の執行者や執行者候補に手合わせを申し込んだりしている。特にレーヴェに挑みかかってボコボコにされている。
そんな面白お嬢様のデュバリィちゃんなのだが、なんと私とは同い年ということもあってか、向こうから声を掛けてきた。リアンヌママからも話を聞いていたらしく、良ければ手合わせをってことだったので手合わせをし、さすがに私が勝って色々話してる内に仲良くなった。なのでこのくらいの遅刻はなんてことはない。レンのことはデュバリィちゃんも理解してくれてるし。
「で・す・が! 理由はどうあれ遅刻は遅刻です! その遅れた分はきっちりと付き合ってもらいますわよ!」
「ええー。そんなことしたら夜遅くなっちゃうじゃん。今日は外食しようと思ってたのに……」
「そんなのはまた今度にすればいいでしょう」
「えー……じゃあ訓練終わった後にデュバリィちゃんも付き合ってよ。そしたらこっちも付き合ってあげる」
「むっ……仕方ありませんわね……まあ訓練後の栄養補給は大事ですし……良いでしょう。その条件で付き合ってあげますわ」
「あっ、それと昼ご飯の時もお願いね。私、焼きそばパンと野菜ジュースで」
「わたくしをパシリにするんじゃありませんっ! というか条件に乗った後で条件を増やすのは卑怯すぎますわよ!」
「だってデュバリィちゃん足速いし。そんなに訓練したいなら昼ご飯の時も訓練出来るようにしてあげた方がいいかなーって……」
「さ、さすがにお昼くらいはわたくしだって休みますわっ……!」
「冗談だって。ほらほら、訓練するんでしょ?」
「くっ、またわたくしをからかって……! 良いでしょう! わたくしをからかったことを訓練の中で後悔させてやりますわ!」
──ということで仲良しのデュバリィちゃんと今日も訓練だ。でも私はこう見えて執行者だし、今までの経験が……って速い!? デュバリィちゃん速い! また速くなってるんだけど! 腕もまた上がってるし! 訓練始めてまだ1年も経ってないのに──! くっ、これが才能の差かぁ……! さすが後に《神速》と呼ばれるだけはある……!
私はデュバリィちゃんの剣を防ぎまくって、たまにこっちからも攻撃。それを盾でデュバリィちゃん。またデュバリィちゃんが私を足と手数で翻弄して──と、そういった実戦形式の訓練が続く。また速くなってて怖いけど、さすがにまだ私の方が強いので何度も転ばしたり寸止めしてあげての稽古。途中昼休憩を挟み、一緒にサンドイッチを摘んだ後はまた稽古。途中で今度はレーヴェが来たり、レーヴェにデュバリィちゃんが勝負を挑んだり、レンが途中で遊びに来たのでちょっとその稽古を見てあげてまた才能の差に打ちのめされたり、レーヴェと入れ替わりで今度はヴァルターが来たのでヴァルターに拳法を軽く教えてもらおうとしたらレンは簡単に覚えたのに私は全然覚えられなくてまたしても才能の差に打ちのめされたところをヴァルターには呆れられ、レンには慰められ、そしてデュバリィちゃんにも溜息を吐かれ──そしてまた稽古をして終わったらお風呂に入ってから約束通りデュバリィちゃんと外にご飯を食べに行って──ちなみにレンは今日は博士に呼ばれてるのでおあずけだ──ってことでよく食べるデュバリィちゃんと一緒にお店で食事するのだが、その最中のお話、ガールズトークにこそ私とデュバリィちゃんが仲良くなった最大の理由がある。
「この間リアンヌ様が仕事に行くって言うからお願いして付いて言ったんだけどさ。その時も悪人を一撃で倒してそこにいた女の子を救ってて……あの時のリアンヌ様綺麗だったなぁ……」
「そ、そんなことが……さすがはマスター。邪悪に天誅を与え、恵まれぬ弱者に救いの手を差し伸べる……その慈悲深くも力強い姿にわたくしも敬服し、忠誠を誓ったのですわ!」
「いやーすごいよね。私も執行者じゃなかったらリアンヌ様の部下になるのになぁ……そして毎日一緒に過ごして頭とか撫でて貰ったりして……」
「そ、それはさすがに欲張りすぎですわ。ま、まあ……少し褒めてもらうくらいであればわたくしも……まあ、良いと思いますけれど……」
「欲張りじゃないって。私達まだ子供だし、甘えたっていいじゃん。それにリアンヌ様も結構許してくれるよ。私が結社に来たばかりの頃とかも、私と添い寝してくれたり──」
「そ、そそそそ添い寝!? な、な……なんてことをしてますの貴方は!? そんな──『羨ましい?』羨ましい……じゃない! 誘導するんじゃありませんわ!?」
「でもデュバリィちゃんだってそういうことしたいでしょ? 今度一緒に頼みに行ってみる? そしたら3人でベッドで眠れるよ? リアンヌ様の香りに包まれながら……」
「っ~~~~! ふ、不埒な……! わ、わたくしはそういうことは望みません! わたくしはあくまでも! マスターのあの気高さと強さに憧れたのであって! 断じて貴方のような甘えは──『でも褒められはしたいでしょ?』それはもちろん……って──だから誘導するんじゃありませんわっ!?」
──レストランの店内でガールズトークを行う。それも内容は、リアンヌママのことについて。
そうなんだよね。私とデュバリィちゃんはリアンヌママ好き好き大好き同士。つまりは同志だ。出会ってすぐにリアンヌママの良さを話したところ「貴方、よく分かっていますわね……!」と互いに友情を感じて一緒にリアンヌママの良さを食事ついでに話し合ったところ、今みたいな会話になったりならなかったりで大盛り上がり。それから自然とよく話すようになって訓練もよく一緒に行っている。
まあ若干の解釈違いというか、デュバリィちゃんはあくまで武人として憧れてるって感じだけど……実際割と遠慮なく甘えられる私を羨ましがってる節はあるし、羨ましいからか私が甘えようとするのを止めようとしてきたりとかちょっとした攻防があったりもする。
でも互いにリアンヌママに好意を持っているのは同じなので同志であり友人なのだ。私としてもデュバリィちゃんは面白くて好きだ。気兼ねなく話せる人って好きなんだよね。友人として。逆に腹黒い人は苦手。デュバリィちゃんは良い意味でおバカちゃんだからいいよね。
「はぁ……相変わらずですわね。全く、貴方はもう少し慎みというものを……」
「店内で大声を出す方が慎みないと思うんだけど……」
「そ、それは貴方がわたくしをからかうからで……!」
「はいまた大声出そうとしたー! 大声禁止ー!」
「くっ……あ、後で覚えていなさい。全く……!」
私が指摘するとデュバリィちゃんはぷんぷん怒ってポテトをパクパクと口に運んでいく。それにしてもよく食べるなぁ、デュバリィちゃん。私もいっぱい食べるから食事のペースが合って良い──あ、そうだ。
「そう言えば話は変わるんだけどさ」
「? 何ですの?」
「今日のこのコート。すごいと思わない?」
「……? ──ああ、また新しい服を作りましたのね」
「そうそう! ね、可愛いでしょ? いやー苦労したんだよね! 戦闘中でも着れるように汚れても汚れが落ちやすい素材を態々使ってさ! まあ素材はもちろん全部良いもの使ってるんだけどやっぱりデザイン性がいいでしょ? 汚れても目立たないように黒系統ではあるんだけどベルトとかホルスター。ジッパーとかもピンクにして可愛くしてるの! そして内側も薄紫にしたからこうやって開けた状態でだぼっと着てると中の色も見えるし可愛くない? こうやって開けた状態で着るのが基本でデザイン考えたからねー。それで丈とかも計算して後ろからはこうやってスカート丈は見えないけど太腿は見えるくらいに調整したり──」
「あ、相変わらず貴方の衣服への情熱は凄まじいですわね……。ですがまあ、素直に良いと思いますわ。どこかのブランドで作られた既製品と言われても違和感ありませんし、逆に手作りと言われても貴方じゃなければ疑ってしまうくらいにはよく出来ていますし……」
「だよねだよねー! さすがはデュバリィちゃん! わかってるー! デュバリィちゃんも着てみる? もしくはまた別のデザインでコート作ってあげよっか? 大変だけどデュバリィちゃんなら特別に作ってあげるよ!」
「ふぅ……気持ちだけ受け取っておきますわ。それより、そろそろ行きましょう」
「あっ、うん。それでさー。中の服なんだけどこっちは中東の衣装と東方の、ラングポートとかで流行ってるドレスの要素を私なりに取り込んだもので──」
「ええ、ええ。分かりましたからもう行きますわよ」
そうして今日も私はデュバリィちゃんとお喋りをしつつ1日を過ごす。今日は新しく出来上がった衣装も見せれたし話も出来たしご機嫌だ。おでかけが楽しくてしょうがない。この分だと今週の
──その日は、俺達警察にとって大事な1日だった。
国際的な犯罪組織を一斉検挙するために設立された捜査本部。
遊撃士、警察、諜報機関、軍──各国から集まった優秀な人材が一同に介して先日まで捜査を行っていた。
そんな中、リベールからやってきたカシウス師兄……S級遊撃士であるその人が総指揮を行い、各地にある教団のロッジを制圧する大規模作戦が実行された。
ゆえに俺は同僚のガイ・バニングスと上司のセルゲイ班長と共にカルバード共和国西端にあるアルタイル=ロッジの制圧を担当。作戦が決行されると同時に3人でロッジに潜入を開始した。
「ガイ! そっちはどうだ!?」
「いや、こっちは全滅だ!」
「クソ……連中、どこまで罪を重ねる気だ……!」
──だがその制圧は順調とは行かなかった。
いや、制圧自体はそれほど苦労している訳ではない。
だが教団の人間は取り押さえても無駄に終わった。殺さずに制圧する警察の理念を嘲笑うかの如く、奴らは自決していく。
あるいは何やら精神に異常を来したかの様子でまともな受け答えすら出来なくなる。
だがそれ以上に俺達の心を苛立たせるのは教団のしでかした被害の残骸。
すなわち、各地から誘拐して実験に使われた子供達の亡骸だ。それも大量の。
「まさかこれほどとはな……!」
「ああ……こんな連中を今まで野放しにしていた俺自身にむかっ腹が立つぜ……!」
俺と同じくガイも苛立ちを募らせていく。
その苛立ちが俺達に焦りを生む。
だがその熱くなる自分を必死に抑え、あくまで冷静に教団の信者共を制圧し、生き残りを探す。
──そう出来ていると思っていた俺の認識が甘かったのだろう。
「おのれ……っ女神を盲信する愚か者共め……! 何故気づかない……!?」
「愚かなのはお前達の方だ……!」
T字となった通路の先。そこに教団の信者の1人が訳の分からないことを喚き散らかしている。
そんな信者に対し、俺は素早く踏み込んで手に持った刀に力を込めた。《八葉一刀流》の二の型《疾風》。かつて老師より授けられたその技を、決して殺さぬよう調整をしながら斬り捨てようとして──俺は不意の事態に陥った。
「──よいしょー! 教団さんいらっしゃ──」
「なっ……!!?」
「な、何ぃ……!?」
「子供か!?」
「…………えっ?」
不意にそのT字方の通路の壁の部分から、1人の少女が飛び出してくる。
中東人の少女だった。それもその手には巨大な鋏のような武器を手にした。
通路の奥が隠し扉となっていたのだろう。そこを蹴り飛ばして出てきたその少女は、俺の前にいた教団員を蹴り飛ばし、偶然にも俺が刀を振るおうとしたその目の前にやって来てしまう。
「──アリオス!!」
「っ……!」
同僚のガイが叫ぶ。分かっている。間違って少女を斬るような愚かで情けない真似などしない。
俺は既に振り切ろうとしていた手を何とか、本当に辛うじてギリギリ差し止める。
あまりにも唐突だった。奇跡的な入れ替わりのせいで本当にギリギリになってしまったが、何とか刀は止められた。刃は少女の肌を傷つけることなく、その
「あっ…………」
「おいおい、危ねぇな。もうちょっとで斬っちまうところだったじゃねぇか」
「……ああ。危うくな。止められて良かったが……君は一体……」
「っと。そうだな。それも気になるか……なあお嬢ちゃん。見たところ被害者……には見えないが、一体──」
そうして俺とガイはその目の前にやってきて放心している中東人の少女に何者かと尋ねようとした。子供ではあるが、確かにガイの言うように被害者にも見えない。
かと言って教団の関係者という風にも見えないその少女に、素性を教えてもらおうとしたところで──
「うっ……」
「う?」
「う、ぐすっ、ひぐっ、う、ううっ……う、う──ううううう~~~~゛!!」
「なっ……!?」
「うおっ!?」
「な、泣き出した……?」
そう、セルゲイ班長の言うように──突如として泣き出した。
しかも本気で。最初は我慢しようとして、我慢しきれない。途中から声を上げて、思いっきり悲しそうに泣いていた。
「お、おい……どうしたんだ……一体……!?」
「うううううううっ!! うわああああああん!! せ、せっかく作ったのに──!! 作ってまだ全然着てないのに──!! 一瞬で壊された──!! うわあああああん!!」
「つ、作った?」
「どういうことだ……?」
俺もセルゲイ班長も理解が出来ない。作った? 何をだ? 何で泣いている? その理由は何だ?
そうしてどうしていいか分からずに困っていると、ガイが何かに気付いたように短い声を出した。
「……もしかして、服のことじゃないか?」
「服だと……? いや、まさかそんなことで……」
そんなことでこんなに泣く筈はない──そう言おうとした俺の言動は間違いだった。
「ううううううっ! そ、そう……! わ、私のぉ……作ったコートぉ゛……! せっがく作ったのに……ひぐっ、うぐっ……!」
「つ、作ったのか? これを君が……?」
「つぐったぁ……! なのにぃ……ううううううっ!」
「……そ、そうだったのか……」
俺は困惑し、何も言えない。この衣装をこの少女が……いや、だがそうでないと説明がつかない。そして俺の刀はその服を僅かとはいえ斬り落としてしまった。ベルトや装飾のついた部分ごとばっさりと。確かにこれでは修復するにしても……。
「──アリオス。お前が悪い」
「なっ……!? い、いや、だが……」
「だがも何もねぇだろ。お前がこの子の大事なコートを斬っちまったんだ。まあ故意じゃないから器物損壊には当たらねぇにしても謝るのが筋だろ」
「そ、それは……」
「びええええええっ!! あ、あんなに時間がけてつぐったのにぃ~~~~!!」
「ああ、悪かった。俺のダチが申し訳ねぇ。それだけ大事なコートだったんだよな?」
「お、お気に入りだったのにぃ……うぐぅ、ううううう……!」
「本当に悪かった! だから泣き止んでくれ、な? ──おい、アリオス」
「あ、ああ」
さすがにここまで本気で泣かれては少女の素性とか気になる要素すらも一旦は頭から除外して対応せざるを得ない。ガイが少女に対し、目線を合わせて謝っているのに合わせて、俺もまた一旦刀を納めてから謝ろうと──
「っ!? う──うわああああああっ!!?」
「なっ──ま、待て! どうして逃げる!?」
「おい馬鹿アリオス! 刀なんて持つな! なんであの子が泣いたのか忘れたのか!?」
「ぐっ……あ、ああ。すまない……!」
「とにかく追いかけるぞ!」
──俺が刀を軽く動かしたのを見た瞬間、凄まじい速度で逃げていく少女を俺達は追いかける。少しだけ理不尽な気持ちにはなったが、ガイの言う通り全面的に自分が悪い。だから俺は今度こそしっかりと刀を鞘に納めてから謝るべく追いかけたのだが……。
「いやあああああっ!! 刀怖い────!!」
「待ってくれ! 大丈夫だ! こっちのおじさんは確かにちょっと無愛想で生真面目すぎるバカだが悪い奴じゃねぇ!」
「ば、バカ……くっ……! と、とにかく一旦話を……!」
「っ、あの娘、とてつもない速さだ……!」
少女はどんどんと逃げて行ってしまう。
純粋な速さであれば俺達でも追いつける筈だが、向こうの方がこのロッジの構造を把握しているようで曲がり角をどんどんと曲がってやがて声まで聞こえなくなっていってしまう。
しかもその道中では──
「なっ……!?」
「っ、死体……!? 教団の……!」
「これをまさかあの子が……!?」
──そう、鋭い刃物によって切り裂かれた死体が無数に転がっていた。
俺達がまだ通っていない道で、なおかつ少女が通っていったと思われる道に転がる死体。
それはつまり、その少女が殺した可能性が極めて高いこととなるものだ。
──あの少女は一体何者なんだ……!?
大事なコートを斬り落としてしまったことで泣かれて逃してしまったが、もしかしたらあの少女も教団に何か関係があるのかもしれない。
そう思い、追いかけ続けるも結局は見失ってしまう。その後、更に捜索を続けるも結局見つかったのはガイの見つけた1人の少女だけで、俺達はその少女の正体を掴むことが出来ず、心にしこりを作ったままロッジを後にすることになった。
──うわあああああああ!! お気に入りのコートが────!! 《八葉一刀流》で斬られた────!! 八葉怖いよ──!! アリオス怖い──!! しかもガイまでいた──!! 諦めない心で全部何とかされちゃう──!! うわあああああああん!!
そうしてその件の少女──アーヤ・サイードは全力で自分の部屋に帰ってから泣き疲れて眠るも、それからもしばらく、新しくコートを作り直すまでその事を引きずることとなった。
神速で(自分で作ったお気に入りのコートを)失う不幸。アーヤちゃんにだって本気で泣きたくなる時はある。ってことで今回が1番のシリアス回です。
次回からはアーヤちゃんの受験勉強が始まります。お楽しみに。
感想、評価、良ければよろしくお願いします。