──おはようございます。アーヤ・サイードです。車に轢かれました。そのせいで入学式には出席出来なかった……人生で1回しかない入学式なのに……。
とはいえ! それでも私は遂に学生! アラミス高等学校の1年生です! 女子高生! JKです! いえーい! ピースピース!
なので何事もなく次の日からは学校に登校しました。幸運にも出会った同じクラスの主人公ヴァン・アークライド君とエレイン・オークレールちゃんは若干私を見て「マジかよ……」って顔をしてた気がするけどなんてことはない。奇跡的に助かったってことで通しておくことにして私の楽しい楽しい学校生活は幕を開けた。
という訳で私のアラミスでの目標を発表しておきます! じゃん! まず第一に、友達を沢山作ること!
学校生活と言えばまず友達作りから! 友達を沢山作って沢山遊ぶ。仲良くする。私って同年代の友達はクルーガーちゃんとかデュバリィちゃんとかこの間会ったシズナちゃんくらいで殆どいないし、いても特殊な状況で知り合った人ばかりなので表の人で友人はいない。だから友達作りだ。後の人脈にも繋がるかもだしね! 学生時代の友達は一生の友達ってことで友達は沢山作って行こう。もちろんヴァン君にエレインちゃんも候補だ。あと先輩だけど一応ルネっち先輩もね。
そして第二に、恋人を作ってみること。いや、これはねー……私としても悩みどころというか結構考えたんだけど、やっぱり青春と言えば恋愛は外せない訳じゃん? だからせっかく学生になったんだし経験はしてみたい訳よ。
まあ女の子になって16年の元男として思うところが全くない訳じゃないんだけどメンタル的には女の子なので男もいけると思う。もちろん女の子でもいい。正直イケそうならどっちでもいい。私は恋愛がしたいだけなので性別にはこだわらない。えっちなこともどっちでもいい感じ。経験は豊富だから特に忌避感はないしね。中年の脂ぎったおっさんとか変態厚化粧おばさんとかに比べれば学生なんて全然イケる。なので彼氏も彼女も募集中だ。私をキュンキュンさせる相手ゆる募!
そして更に第三の目標だが……進路を決めること。そしてその進路に沿った活動をして備えることだ。これは結構真面目な目標。なんたって今の私は学生で結社の執行者で庭園のボスな訳だけど、学校を卒業したら私の肩書は裏のものしかなくて結局逆戻り。進学した意味があまりない。
なので3年後には表の職に就く。そのための準備を今のうちにしておくのだ。何になるかによってやることは違うけど、私の場合は第一目標はファッションデザイナーなのでデザインを描いてコンクールに応募したり、衣装を作ったりとかするのが優先。会社勤めにしろ自分で会社を起ち上げるにしろセンスは磨いておかないと。融資とかを受けるにも制作物の披露とかした方がウケが良さそうだしね。
後はまあ表の仕事なら色々やれることはいっぱいあるのでそっちの勉強は頑張る予定だ。ちなみに授業については留年しない程度には頑張ります。アラミスは幾つか選択授業もあるし2年生からは専門的なコースも選べたりする。芸術家アラミスが設立した学校なだけあって美術コースもあるんだよね。なのでそれを学んでみてもいいかもしれない。画家とかになるつもりはないけど絵はまあまあ得意だし、デザインを描く練習にもなる。ファッションデザイナーも芸術家みたいなものだしね。
と、こんな感じで目標は以上。部活とかも入りたかったけど正直時間がないんだよね。バイトもあるし、やりたいことも多すぎて。ある程度融通が利くなら入ってもいいけど一旦様子見かな。ってことで学生生活楽しむぞー! おー!
──それから私はアラミスでの学生生活を送ることになった。
最初は新入生歓迎も兼ねた学藝祭を楽しみ、5月には生徒会選挙というイベントはあった。そんな賑やかなことはあったけど……とりあえず悪いことは──特にありませんでした!
学校生活は順調です。通学も多少地下鉄が苦労するだけだし、授業にもちゃんとついていけてる。なんだったら体育とか選択科目の芸術とかは割と高得点を取れてる自信もある。
そして肝心の友達も出来た! ヴァンやエレインちゃんとも話すし、クラスの人ともそれなりには話す。そして特に仲の良い友達も出来た。ヴァンやエレインちゃんとも仲はいいけどこの2人はルネっち先輩の生徒会選挙を手伝って生徒会業務を行うようになったのでさすがに幼馴染3人の関係には敵わない。でも結構関わるし仲の良い友達の部類には入ると思う──ってことで私の特に仲の良い子達と今日も放課後に遊びに行く。
「アーヤちーん、今日どするー?」
「今日は映画行きたい! その後はショッピングしてご飯! エレインちゃんにリタっちも行くー?」
「お誘いは嬉しいけれどごめんなさい。今日は生徒会の業務があるの」
「あーそうなんだ。それなら仕方ないね。お仕事頑張れー!」
「あたしはいけるよ。今日はバスケ部の練習は休みだからね~」
「おお、いいね! それじゃミャーちゃんとリタっち行くよー!」
「へいへーい」
「オッケー!」
放課後に友達と遊びに行くという学生らしい生活! 今日のお相手は私と特に仲良くしてくれるいつものお二人!
1人は東方人ハーフのバンギャ系スレンダー美少女のミヤコちゃんことミャーちゃん。黒髪で前髪ぱっつんのおかっぱだけど後ろ髪だけ伸ばして内側を私みたいに薄緑色に染めてるおしゃれちゃん。性格は緩くてそれでいてリアリストな感じで個性的だね。趣味は音楽。北方系のロックな音楽が好きでたまにライブハウスに行くのでそれに付き合ったりする。ファッションもイカす。チョーカーとか付けたり暗めの色の服やアクセが多かったりと可愛い。アラミスみたいな名門だと珍しいっちゃ珍しいけど芸術家が創設した学校なので地味に芸術コースとかだとそういう人はいないこともない。私だって結構派手目だからね。何でも親に言われて入学したらしく、将来は親のように真面目に働くしかないから学生の今の内に遊ぶと決めてるらしい。なのでちょっぴり不良気味でたまに学校とかサボったりもするし音楽とかもする。そういうことで好きな格好もしてる。
そしてもう1人は身長高めのストリート系バスケ部美少女のリタっちことリタちゃん。共和国ではよくいる明るい髪色の茶髪のセミショートで身長は170リジュ近いので体格も良いしスタイルも良い。女子高生らしい可愛い顔立ち。おしゃれは部活に入ってるので程々。でも休日なんかはキメてくるし、地味に爪とかも塗ってたりする。趣味は当然バスケで小さい頃からストリートで大人相手に混じってやってたらしいんだけど、部活だと意外と物足りないというのが悩みらしい。なのでバスケは好きだけど練習はそんなに好きじゃない。キセ◯の世代か何かかな? まあそんな訳でちょいちょい練習をサボって私と遊んだりする。そして私とバスケをする。そしてよく私をバスケ部に誘ってくる。まあ私って体育の時間だと大活躍だからね! ちなみに父親は最近流行りのZ1レーサーで母親は導力車メーカーの会社。共和国4大ライセンシーの1つ《レノ》で広報部長をしてるらしい。なので車も詳しいけどそっちはそこまで趣味という程でもないらしい。まあ免許が取れる年齢にならともかく子供の時からってのは興味湧きづらいよね。免許取れる年齢になったら一緒に車に乗ろう。
ってことでこの2人が特に仲が良い友達なので今日も適当に遊ぶ。カフェでお茶したりショッピングしたり導力映画を見たりライブハウスに行ったりストリートバスケでもしてみたりと色々だ。学生らしく遊んでる。ここにたまにエレインちゃんや他の子が交じることもあれば、男子が交じることもある。まあでも基本は3人グループだね。
「今日の映画もちょっとエロくて面白かったね!」
「ゴッチ監督っしょ? あの監督の作品いつもそうだからねー」
「エロはともかくアクションが良いよね~」
「わかるわかる! すっごい飛び跳ねててすごいよね! リアリティがすごかった!」
「いや、リアリティはないっしょ……あんなにやられて動けるわけないし」
「ジャンプ力とかもおかしかったよね~。あたしでもそんなに跳べないもん」
「あれ? そう?」
「そうだって。まあアーヤちんならそう思うのも何となく分かるけどさー」
「バスケ部で1年のレギュラーの私より力も強いし足も速いしね~。……ってことでアーヤちゃんバスケ部入らない?」
「んー……入るとしてももうちょっと様子見てからかなぁ。色々用事があって忙しいからねぇ」
「弟と妹の世話してるんだっけ。今日は大丈夫なの?」
「今日は知り合いに預ける日だからね! ってことでご飯行こう! いつもの場所で!」
「またあそこかーまあ美味いからいいけどねー」
私は3人で映画を見て軽くウィンドウショッピングをしつつ夕食を食べに行く。会話も軽いものだ。学生同士の緩い会話の感じが心地いい。物騒な話題なんて全然出ない。
その平和を感じながら私達は旧市街へ。そして私の家がある辺りからはちょっと離れたその店──《モンマルト》へ今日も入る。
「へいマスター! いつものー!」
「──何がいつものだ。毎回違うの頼んでるだろうが。ちゃんと食いたいもん言いやがれ」
「冗談冗談。今日はそうだなー……煮込みハンバーグで!」
「ああ、分かった。適当なとこ座って待っとけ。お前達はどうする?」
「ウチはシチューでお願いしまーす」
「あたしはポテトグラタンにしよっかなー。それとバゲットで」
「あ、私はライスねー!」
「おう」
私達はお店に入るなり、いつもの調子で料理を注文する。そしてそれを受けるのは店主のビクトルさん。そう、つまりはあの《モンマルト》に来ているのだ!
私がアラミスに入って旧市街に住むようになってから探したところ見つけられたんだよね。多少は時間はかかったけど。どの街にも言えることだけど、ゲームで見える部分より遥かに街が大きくて行けるとこも多いから同じ場所だからってすぐは見つからない。なのでちょっとは苦労したけど見つけられた時は嬉しかったし、ビクトルさんが昔メッセルダムで会った親切なおじさんだと分かった時も嬉しかった。向こうも私のことを覚えてたみたいだった。まあその時のことはあんまり話さないけどね。ただ私がアラミスの制服を着てるのを見て「良かったじゃねぇか」とは言ってた。ふふ、私の可愛さと賢さに恐れ入ったか。なので今日も美味しい料理を食べさせてもらう。あの時と違ってお金はちゃんと払うけどね。
「今日はどうだったんだ学校。ちゃんとしてるのか?」
「もちろん! 入学してから何の問題もないし楽しくやってるよー!」
「何の問題もない……?」
「いやーそれはないけどねー……」
……? なんかビクトルおじさんの質問にリタっちとミャーちゃんが小声でなんかひそひそ言ってる。もしかして──私の優等生っぷりを噂してる? なるほどねー。ふーん……まぁ、真正面から褒めたり認めるのは恥ずかしいからね! ヴァンと一緒に問題も解決したり授業で活躍したり皆の為になることをしたりと私って本当に大活躍だし! しょうがないなぁ、もう。
あ、ヴァンと言えばだけどヴァンはこの店には誘ってない。穴場だからね。私から紹介するのもなんか違う気もしたので是非ヴァンには自力で辿り着いてほしい。なのでエレインちゃんにも内緒だし、2人にも内緒にするように言ってる。
「ほら、ご注文の品だ」
「わぁ、ありがとう! 相変わらず美味しそー! いただきまーす!」
そして私達が注文した料理が程なくしてやって来たので私はビクトルさんの美味しい料理に舌鼓を打つ。私も料理は結構出来る方だけどさすがに敵わないね! 美味い美味い!
──あ、それと料理の美味しさで忘れるところだったけど、なんかヴァンが言ってたなぁ……一応気をつけろとか……まあでも大丈夫かな! 正直何が起きるとも思えないしね! 何を言ってたかもよく聞いてなかったけど相手はただの学生だし何の問題も──
「──お前がアーヤ・サイードだな?」
「へへ……ちょっと怖い目を見せてやるように頼まれてな。悪いけど付き合ってもらうぜ?」
──なんか1人になった帰り道で半グレに囲まれた。なんで?
──七耀暦1200年。6月。
俺がアラミス高等学校に入学して2ヶ月が経った。
それはつまり、エレインやルネと再会して2ヶ月という意味で、その時間は旧交を温めるには十分な時間だった。学藝祭やルネの生徒会選挙もあったしな。俺はそれを手伝ったしエレインは1年生にして副会長になった。それからルネとエレインは生徒会の業務。俺は裏方を買って出ることにし、更には何でも屋みたいなことをして部活の助っ人なんかで小遣い稼ぎをすることにした。
授業に部活の助っ人。友人やあいつらとの時間にと色々と充実した2ヶ月だったが、忘れてはならないのが──というより、忘れられる訳がねぇのが、あいつと出会ってからも2ヶ月ってことだ。
──アーヤ・サイード。中東人で派手に自分を着飾っているその洒落た美少女は、想像以上に明るく天真爛漫で……それでいて、化け物じみたトラブルメーカーだった。
「貰った!」
「くっ……! 行ったぞ、アーヤ!」
──それは例えばそう……今行っているテニス同好会との練習試合の最中。
俺はいつも通り助っ人として大会前の調整相手に頼まれ、もう1人のダブルスの相方として運動能力は間違いなく学校一と言えるアーヤを選んで試合に臨んだ。
だが相手は同好会とはいえテニスの熟練者。共和国ではバスケが盛んであるため部員が集まっていないだけで、相手のダブルスは明らかに格上。俺も得意なのはバスケの方でテニスはそこまで得意とは言えない。
だからこそ練習相手とはいえ真剣勝負でどこまで食い下がれるか──余裕で負けてしまえば練習にはならない。だからこそ負けるにしてもできる限り相手を苦戦させてやらないといけない。
「ふふ……女の子に俺のパワーショットが返せるかな!?」
だが、幾らアーヤとはいえ相手の言う通り。屈強な体格の男子のパワーショットを返せるかは未知数だ。
しかしアーヤなら返してくれる気はする。とはいえ、問題はそこじゃない。こいつが何かをしでかさないかが問題だ。一応ちゃんとテニスの試合をするようには試合前に告げておいた。アーヤも頷いていたし、しっかりとテニスの試合をする筈──
「“アーヤホームラン“!!」
──俺が間違っていた。あれくらいの助言でアーヤが問題を起こさない筈がなかった。
アーヤは相手のパワーショットを正面から、しかも片手で撃ち返すとその瞬間に前衛の屈強な体格の男子が吹っ飛ぶ。そして地面に倒れ、その上でアーヤは両手を合掌して一言。
「ふっ……私のアーヤホームランは108式まであるよ」
「……おい」
「ん? 何? 言われた通りちゃんと手加減……って、あれ?」
アーヤは気絶をして動かない相手の選手を見て首を傾げる。そしてようやくマズイことを悟ったのだろう。汗を流した笑みで。
「……ね、熱中症かな?」
「熱中症──な訳ねぇだろうが!! 相手にボールをぶつけるやつがあるかこの馬鹿!!」
「えっ……で、でも相手にぶつけたら得点になるし……身体へのショットは避けづらいから練習になるかと思って……」
「だとしてもあんなに吹き飛ぶ程強く──ああ、もういい! おい、大丈夫か!?」
「うっ……だ、大丈夫だ……骨が折れてる感じもない。一瞬衝撃で気を失ったような気はしたがな……」
「本当か? 一応保健室で調べた方が……」
「あ、タフだね。それじゃあ
「やめろ馬鹿!! 試合どころじゃなくなるだろうが!!」
「そ、そんなに怒んなくても……つ、強くしてあげたいだけなのに……」
「だったらもうちょっと手加減してくれ! 頼むから!」
「わ、わかった……じゃあ“ブラックジャックナイフ”くらいにしとく……」
「名前からして絶対まともな技じゃねぇな……」
「だ、だが練習にはなる……怪我をしない程度には鍛えてくれ……!」
「あ、ああ。努力させてもらう」
「頑張ろうね!」
「程々にな……」
俺はやる気を出しているアーヤに呆れながらも、テニス同好会の練習相手をしっかりと務めた。そしてなんだかんだ結果を出しているのだから複雑な気分だ。このアーヤはいつもそうだ。良くも悪くも、めちゃくちゃにした上で何かしらの結果は残すし優秀ではある。
だからこそその力を見込んで、アーヤの方から頼まれた「面白そうだし何でも屋を手伝っていい!? たまにでいいから!」という頼みを承諾して手が足りない時の臨時の助手としてたまにアーヤを呼ぶことにした訳だが……正直言ってこいつの相手は俺の手に余る。
入学式の日に導力車に轢かれて奇跡的に無傷。次の日には普通に登校して元気にしていたことに始まり、アーヤの逸話はここ2ヶ月でありえない程に出来上がった。
まず……入学してから遅刻すること連続10回。何でもアーヤは家の事情で自宅から通っているらしいが、その通学の途中に乗る地下鉄で毎回痴漢に遭ってしまい、それを取り押さえて警察に引き渡しているらしい。最初は嘘かと思ったがそれが事実だと聞いた時の担任のパウエル先生や俺達の顔はきっと爆笑ものだったことだろう。確かにあいつは外側だけ見るならとびきりの美少女だが痴漢にそれほどのペースで遭うなんて運が悪すぎる。まあさすがに最近は落ち着いてきたらしいし、もし何かあっても避けて無視してきてるらしい。
次に体育の授業で無双。あいつの身体能力ははっきり言って異常だ。同じクラスの女子どころか男子の誰も敵わない。腕相撲をしても誰も勝てず、バスケをすれば身体能力のゴリ押しで全員を抜いてしまう。そのせいで女子バスケ部はあいつを部に引き入れようと画策しているらしい。俺が部活の助っ人にたまにアーヤを呼ぶようになったのもそれが原因だ。身体能力だけならあいつは現アラミス生でトップクラス。……というか世界一なんじゃないのか? あんな身体能力を発揮出来る人間なんて見たことない。東方三大流派のような何か武術でも習っているのかと聞いたがほぼ習ってないらしい。ほぼってどういうことだ。意味が分からないが、向いてなかったらしい。つまり習ったがすぐやめたとかそんな具合だ。
ちなみにその体育の授業で一度だけ相手をした先生が怪我をした。もっとも、アーヤが手加減をミスったというよりは事故だったのでどちらが悪いということもないが。ただ怪我をした先生の方はアーヤに「世界を目指さないか?」と怪我をしたにも関わらず熱心にアーヤを部活に引き入れようと口説いていた。
次に、学食のメニューに自分専用のメニューを採用させる。これは少し語弊があるが、要はアーヤの考えたメニューが学食の新メニューに採用されたってことだ。ただその経緯が色々あり、まず生徒会への要望で学食に新メニューを取り入れたいが何にしようか迷っているため、生徒の要望を聞きつつ新しいメニューを考案してほしいと依頼が来たのでそのため俺は裏方として生徒にアンケートを取りつつもその中で人気があり、材料も仕入れやすいものを色々と考えたのだが、それを聞きつけたアーヤが学食で働いているコックや生徒会に直談判し、新メニュー考案の品評会兼試食会に参加。そして厳正な審査の結果、アーヤの作った煌都式東方料理が優勝してしまった。なので学食にアーヤの好きな辛い料理……麻婆豆腐に担々麺に回鍋肉といった品が追加された。それ自体は俺としても歓迎するし生徒からもそれなりに人気を博している。なので一見して何も問題はない。
ただそれがアーヤ専用とまで言われる所以はここからだ。それらの料理はアーヤがコックと相談し、辛さをどの程度にするか選べるようにしていた。材料自体は揃っているために辛さを多少変えるくらいは香辛料の量などを調整するだけで簡単に出来る。だからこそ辛さは10段階も用意されたのだが……その辛さを最大の10にした激辛麻婆豆腐やら担々麺やらがアーヤ以外誰も完食出来ないくらい──は言い過ぎにしても学食で採用するにはどうなんだと言いたいくらいに辛かったのだ。軽い気持ちで挑戦してみた俺や多くの生徒が後悔するくらいには。
なのでアーヤや一部の辛いもの好きの学生からは愛される煌都式東方料理定食の辛さ10──通称アーヤ定食と呼ばれるものが学食には存在する。甘党の俺としては正直3か4くらいが限界だったが、ルネは7までは美味しく頂けると言っていたし、エレインも5か6はいけるらしい。ただ煌都出身の生徒や辛いもの好きは8や9を頼んでひいひい言いながら食べている。そして、10は一部の猛者の領域だ。辛党でも涙と鼻水を流しながら食べるようなものなのだが、アーヤは何ともなく笑顔で美味しそうに食べている。あいつの味覚は絶対におかしい。
更に次に……学校の創設者であるアラミスの銅像の破壊。もうこれは何と言うか……馬鹿というか運が悪いとしか言いようがない。アーヤが言うには階段で滑って転んで銅像とぶつかったんだとか。そのくらいで銅像が壊れるのか? とは思ったが、じゃあどうして壊れたのかが分からない。ただ目撃者の証言によるとそれは事実であるらしい。アーヤが階段で走って思いっきり銅像とぶつかったので転んだと、3年生の女子生徒3人は言っていたしアーヤも否定しなかった。
それに関しては少し怪しくは思っている。アーヤは気まずそうにしていたが、証言した目撃者の3人もどこか歯切れが悪かった。ルネやエレインもそう思ったらしい。まあ今までやってきたことからしてアーヤが本当に滑って転んで破壊した可能性もなくはないのだが……とにかくそれは事故ということで済まされ、アラミスの銅像はすぐに業者を手配して修復されることになった。幸いにも壊れたのはほんの一部だったので問題はない。……とはいえ一部の教師は不満そうだったが。
──そういう訳で、俺としてもアーヤはとんでもないトラブルメーカーであり、入学して2ヶ月で様々な伝説を作りまくる《アラミスの狂人》に名に恥じない奴だとは思っているが……それでも一応は同じクラスメイトの友人である。普通に話している限りじゃただの明るくて能天気なおしゃれ女子だ。悪い奴じゃない。
だからこそ俺は少しだけアーヤを気にかけていたんだが……まさかこんな場面に出くわすとはな。
「──ねえ、あんた調子に乗りすぎじゃない?」
「移民のくせに」
「アラミスの品位が下がりますわ」
昼休みが始まって少し。俺が先生から頼まれた用事を済ませてそろそろ学食にでも向かうかと思っていると、実習棟の人気のない廊下でアーヤが3人の上級生に囲まれているところを発見した。
それは明らかなイビり……あるいは虐めの現場だ。3人の上級生は移民ではないカルバード人で中東人なのに調子に乗って目立っているアーヤが気に入らずに呼び出した……ってところか。
それにその3人は以前銅像が壊れた時に証言していた3人でもある。それを思えば、あの時の目撃証言が嘘である可能性も深まった。
「私のこと覚えてますわよね? アナスタシア・ペイズリー。由緒正しいカルバード貴族の──」
「こちらは私の御友人のフェレイラにチェリーです」
「何? 名前も覚えてないの?」
「何とか言いなさいよ!」
──そして3人の、特に中心に立つグループのリーダーである女子生徒はヒートアップしていく。胸ぐらを掴み、今にも暴力を振るいそうになったところで俺は思わず声を掛けた。
「そこで何をしてるんだ? 先輩方」
「……!? あ、貴方は確か生徒会長の……!」
「……あんたがそいつをどう思おうと自由だが、それを言動に出すのは見過ごせねぇな。今、何をしようとしてた?」
「っ……別に何も。ただ少し注意をしてあげただけですわ。──行きますわよ皆さん」
「! おい、待て……!」
「証拠は何もありません。それでも力尽くで呼び止めるようなことをすれば……その時は覚悟してもらいますわよ」
「っ……」
「理解して頂けたようですわね。それでは失礼致します」
……だが俺は何も出来なかった。暴力を振るわれる前にそれを止めたまでは良かったが、その女子生徒達をどうすることも出来ない。そいつらの言う通り証拠はない。あるのは俺の目撃証言だけだ。
それに俺が目撃したことと言えば精々、下級生であるアーヤを呼び止めて暴言や誹謗中傷を行ったというだけのこと。それくらいなら幾らでも言い逃れが出来てしまう。暴力を振るった後で止める。あるいは証拠を握るような手段か策が取れれば良かったが……咄嗟に上手い手を導き出すことは出来なかった。
「……大丈夫か?」
「…………え?」
だからこそ俺はせめて、アーヤに声を掛けてその心をフォローしてやることにした。幾らこいつでも上級生に囲まれてあんなことを言われれば傷つきもするし落ち込みもするだろう。その証拠に、アーヤは首を傾げていた……首を傾げている? なんだその顔は……まるで何が起こったのか何も理解していないかのような反応は……。
「あっ、行っちゃったんだ。それにヴァンも聞いてたんだねー」
「……ああ、悪いな。聞いちまって。それに何も出来なかった」
「あ、全然全然。何も問題なかったから心配しなくていいよ。ちょっと下ネタを言われまくったくらいだしね」
「そうか。それは大変だったな……………………ん?」
……ん? 俺の聞き間違い……か? 今全く訳の分からないことを言われたような……いや、気の所為だろう。あの現場は確かに虐めで、あの上級生達はアーヤに誹謗中傷を口にし、アーヤは傷ついて──
「
「穴にパ──って、なっ、何言い出してんだてめぇは!!?」
「あれ? ヴァンも聞いてなかった? 私はあんまり聞いてなかったけど途中からなんか猥談してたよね?」
「してねーよ!! いや、俺が擁護するのも何だが絶対してねーよ!!」
「えー絶対してたって。あ、もしかして恥ずかしがってんの? もーヴァンってば初心だなー。思春期の男子ならそれくらいえっちな話してるくせにー」
「してねーよ!! してたとしても女子の前で言うか!!」
「それもそうだね! それじゃお腹空いたしせっかくだから一緒に食堂行く? アーヤちゃん定食奢ってあげるよ!」
「食わねーし食えねーよ!! 1人で食ってろ!!」
──前言撤回だ。こいつは何も傷ついてないし心配する必要もない。そもそも話を聞いてなかった。そりゃあれだけ怒るわけだ……あの先輩方が悪いにしてもこいつの態度はさぞ癪に障ったことだろう。
「あはは、残念。それじゃアーヤちゃん定食じゃなくてもいいから一緒に食堂行こ! デザートくらいなら奢ってあげるし!」
「……! ……ったく……調子狂うな……分かった分かった。どうせ俺も学食行くところだったしな。付き合ってやるよ」
「お、いいねー! それじゃ学食へレッツゴー!」
俺は先導するように先へ行くアーヤに付いて行きながら頭を掻く。本当に人を振り回すのが得意な奴だな……この分だと本当に心配はいらないかもしれないが、一応注意しておくに越したことはない。何かが起こってからじゃ遅いからな。
「……一応気をつけろよ。何かあったら俺やエレインやルネでもいい。事情を言ってくれれば力になれるかもしれねぇしな」
「あはは、だから大丈夫だって。でもありがとー。その時は頼りにさせてもらうね」
俺の言葉にアーヤは能天気に笑っていた。気の抜ける表情だ。見た目は可愛いがエレインとは全く違う。
まあ愛嬌って意味じゃこいつのが圧倒的に上かもしれないが……こいつもこいつで男子から人気はあるからな。行動がアレ過ぎて言葉にする奴は少ないだけで見た目は可愛い上におしゃれで目立つから自然と目で追ってしまう。
もしかしたらあの先輩方もそういうところが気に食わなかったのかもしれない。だとしても虐めていい理由にはならねぇがな。とにかく、一応は友人として注意しておいてやろう。もしもの時はエレインやルネも巻き込んでな。
「──あ、あの……銅像の件、実はアーヤ……さんを転ばせたのは私で……しゃ、謝罪しに来ましたわ……」
「……何?」
「は、はぁ!?」
「一体どういうことなの……?」
──後日。件の先輩が生徒会室まで来て謝罪と証言の訂正を行ってきたことで俺達は困惑することになった。あいつ……今度は何をしたんだ……?
これが平和な日常ってやつ。モブは軌跡特有の賑やかし。サブキャラって程じゃないけど周りの人達って感じなので覚えても覚えなくてもいい。友だちはいるよってだけ。
次回はまた平和な日常。恋人作りのために試行錯誤しつつ夏休みもあります。お楽しみに。
感想、評価、良ければよろしくお願いします。