TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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下校中に鏖殺される不幸

 ──皆さんおはようございます! アラミス高等学校1年生! アーヤ・サイードです! 

 

 相変わらず楽しい学校生活を送っている私だけど本当に色々と楽しみがあって楽しい。楽しいばっか言ってるけど毎日が楽しいんだからしょうがないよね! 

 いやほんと悪いことは殆ど起きてない。先生達は皆良い人ばかりだし、友達も出来てる。エレインちゃんは可愛いしルネっち先輩は眼鏡だけどそこまで腹黒じゃないしヴァンはなんだかんだで優しいしノリが良い。学食もメニューがめちゃくちゃ豊富で何を食べても美味しいし、私が新メニュー品評会で優勝した煌都東方料理定食はコックさんの手で更に美味しくなって毎日食べても飽きない。部活もまだ入ってはないけどヴァンの手伝いで色んな部活の助っ人(主に体育系)に駆り出されて少しだけど楽しませてもらったし放課後も導力映画を見たり買い物したり美味しいご飯を食べたりと本当に楽しいことしかない。

 

 まあ多少……最初の頃は痴漢にあったのでそれを警察に突き出している最中に遅刻したりとかはあったけど問題はない。先輩に目を付けられたりもしたけどそれも大したことはない。なんか色々言ってたけどただの猥談だったし。女子だけでえっちな話がしたかっただけだろう。多分。いやそうじゃないかもしれないけどそうだとしても問題ない。

 

 ただ強いて言うなら──たった今、夜遅くの下校中に路地裏で半グレに囲まれてしまったことは唯一の悪いイベントと言えるかもしれないけど、それも何とかなる。多分あの私に目を付けてきた先輩に頼まれたんだとは思うけどそうじゃないかもしれないし決めつけはよくない。人違いとかの可能性もあるしなんかよく分からない別の組織とかの可能性もある。だから安易にやり返さないように気をつけないとね──「おい聞いてんのか!?」え、何? あ、ナイフ出してきた! えーどうしよう……《ゾルフシャマール》出すわけにはいかないし……あ! あんなところにテニスラケットとボールが落ちてる! 運が良い! よし、これで撃退しよう。この間ヴァンと一緒にテニス同好会の練習に付き合ってからテニスにも嵌ってるんだよね。よし、戦闘開始だ。3人の半グレがそれぞれナイフを取り出してきたので私は言う──そんなチビたナイフで何を切るつもりだ? “ブラックジャックナイフ”!! 私の打ったボールに激突して半グレ達が吹っ飛ぶ! そしてテニスラケットで2回殴る! よし、終わり! 弱い! 私強い! 

 

「な、なんなのよ……貴方……!?」

 

「え?」

 

 あれ、誰? ……って私に目をつけてた先輩だ! 物陰で腰を抜かしてた! やっぱり先輩だったの? それで私がちょっと怖い目に遭うところを見て悦に浸ろうとでもしてたのかな。うーん、それは良くないけど……かと言ってどうしようもないしそんなに気にしてないんだよね。ちょっと私の前で猥談したり廊下でぶつかっちゃったくらいだし。それで銅像が壊れた時はどうなるかと思ったけど先輩達もちゃんと事故だって言ってくれたし、そもそも悪役令嬢にイジメられるっていう学校のイベントが楽しめたので私的には全然オッケーだ。私って悪役令嬢にイジメられる正統派ヒロインだったのかも! って感じで!なんならもっとやってほしかったくらいだけどさすがにそれは難しいよね。

 ……よし! 許してあげよう! 美少女JKのアーヤちゃんは優しいんだ! そして悪役令嬢先輩と友達になっちゃおう! 優しい罰としてね!

 

「えーっと、名前なんだっけ……アナ……アナ先輩?」

 

「あ、アナスタシアです! やっぱり名前すら覚えていませんのね!」

 

「ごめんなさーい。ってことでアナ先輩。次からはこういうことがないようにお願いします!」

 

「っ……な、何の話かしら……わ、私は偶然ここを通りがかっただけで……」

 

「その言い訳はどうかと思うけど……でも証拠もないし別にいいよ! 私は優しいからちょっと罰を受けて貰うだけで──」

 

「──そうだぜ。半グレをけしかけるなんざ良くねぇよなあ?」

 

「え?」

 

「へ?」

 

 とはいえ許してあげると私はそう言おうとして、背後から聞こえてきた聞き覚えのない男の声と()()()()()()()()()()()()()、振り返って視線を向けた。

 するとそこには、黄金の甲冑に身を包んだ巨漢が、馬鹿デカい斧槍を半グレに突き刺しているところで。

 

「よう。初めましてだな」

 

「……え? あ、えっと……?」

 

「ん? 聞いてねぇか? ついこの間組織に入ったんだがよ。俺は《鏖殺》のアリオッチってモンだ。よろしくな」

 

「あ、はい。アーヤ・サイードです。ええっと……それはいいんですがアリオッチさん。付かぬことをお聞きしますが今は何を……?」

 

「ああ? こいつらのことか? いやよぉ、挨拶しようとこっそりと後を付けてたら下手くそな尾行をしてるこいつらがいたもんでなぁ。ちょっと覗いてたらあんたを襲っただろ? だからぶっ殺してる最中だ。返しはしっかりしねえといけねえからな」

 

「あ、なるほど……」

 

「でよ。せっかくだから俺が付くことになるあんたの実力を確かめてぇんだが……今時間あるか? ()()()()()()()()()()()ちょっと手合わせを願いてぇんだが」

 

「っ……ぁ……!?」

 

「そ、そうですか……でも今はちょっと……後この人は学校の先輩なので……ちょっと待って頂けます? 具体的に5分くらい……」

 

「ああ、構わねぇぜ。なら5分ここで待ってるから好きに準備でも何でもしてきてくれや」

 

「ありがとうございます。それじゃアナ先輩。失礼して、と……」

 

「ひっ、は……はい……」

 

 私はその男と会話して待ってもらうことを了承させると、怯えるアナ先輩を抱き上げて男に背を向ける。そして思い切り足に力を込めて全力で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやああああああああ!!」

 

「きゃああああああああ!!?」

 

 ──全力でその場から逃げ出した。そして内心で叫ぶ。な、なんでここでアリオッチ──!!? 《鏖殺》のアリオッチだ──!! 《庭園》の管理人の1人だ──!! つまり私の部下だ──!!? ぎゃー怖い──!! 好戦的な人怖い──!! 不死身な人怖い──!! 殺される──!! 先輩を逃がしてからどうにかしないと私のスクールライフが壊れる──!! と、とりあえず逃げて先輩を下ろして、と。

 

「あ、アナ先輩……とりあえず逃げましょうか……」

 

「さっきの人は、な、何なんですの……? それに貴方も……」

 

「それは忘れてください……誰かに話したりしたら大変なことになるので……さて、私もこのままこっそりとお家に──」

 

「──よう。5分経ったぜ。準備は出来たか?」

 

「うわ────!!?」

 

「いやああああ!!?」

 

「クク──それじゃやり合うとしようぜ……!! 庭園の主(ガーデンマスター)》さんよォ……!!

 

「だ、だから待ってって──うわぁ!?」

 

 ──逃げようと思ったのに追いつかれてた!? しかもいきなり斬り掛かってきた!! 怖い! なので仕方なく私も先輩を下ろし《ゾルフシャマール》を取り出して応戦する。

 

「ハハ! やるじゃねぇか!! 俺の攻撃を防ぐとはよ!!」

 

「それほどでもないんですけどー!?」

 

「それにパワーもありやがる。で、そいつは口封じしなくていいのかい? 思いっきり見られちまってるが」

 

「だ、ダメ──!! 殺すの禁止──!! 私の学校の先輩だから──!!」

 

「ああ、そうなのか? ……まあ他でもねぇあんたが言うならいいけどな。それなら気にせず遊ぶとしようぜ!!」

 

「気にするわー!! あんまり暴れると騒ぎになるでしょうがー!! ひぃ!?」

 

 気がつけば建物の屋上で屋上から屋上へ移動するように逃げながら戦う。さすがに先輩を殺させたら私の平和な学校生活が崩壊するから何としても死守しないと! でもこのことをバラされるのもまずいから何か考えないと! アリオッチの攻撃でただでさえ死にそうなのに考えること多くていやー! どうすればいいのー!? もうやだー!! 

 

 ──そして30分後。

 

「──ハハ、楽しかったぜ」

 

「そ、そうだね……あはは……」

 

「これ以上は騒ぎになっちまうからな。今日のところはここまでだが、これからは仲間としてよろしくなァ、ボス。またたまに手合わせ頼むぜ?」

 

「よ、よろしくー……でも普段は会いに来ないでねー」

 

「安心しな。正式に組織に入った以上は言う事を聞いてやる。その命令もちゃんと守るぜ」

 

「そ、それは良かった……」

 

「ああ。それじゃあな」

 

 ……私はなんとかアリオッチとの手合わせを凌いで戦いを中断させることに成功する。はぁ……本当に死ぬかと思った……アリオッチって確か不死者で死なないんだっけ? それって……めちゃくちゃ化け物じゃん……怖っ……結構斬ったけどすぐに傷治るしもう戦いたくない……。

 

「はぁ……疲れた……あ、お待たせしましたアナ先輩」

 

「お、終わったんですか……?」

 

「あ、はい。一応は……でも今日のことは忘れてくださいね。じゃないとまた襲われないとも限らないし……」

 

「わ、分かりました……」

 

 とりあえずアナ先輩にもちゃんと口止めをお願いして、と……でも本当に言わないでくれるかな……? でもやれることないし……監視でも付けてもらう? でもメルキオルやエンペラーに頼んだら殺した方が早いとか言われそうだし……どうしよう……面白教授にエロ催眠と引き換えに暗示でもかけてもらう……? それもなぁ……。

 

「あ、あの……」

 

「? 何ですか?」

 

「あ……ありがとう……ございます……助けて頂いて……半グレの人達も、私、あんなに危ない人達だったなんて知らなくて……と、とにかく申し訳ありませんでした……っ」

 

「あ、いえいえー。全然気にしないでいいですよー」

 

 突然小さな声でお礼と謝罪を告げてきた先輩に私は笑顔で安心させてあげる。助けたって言うけど私のためだからね! だって先輩が死んじゃったらもしかしたら学校生活が崩壊しちゃうかもしれないし。

 

「……わ、私は誇り高きカルバード貴族の末裔です」

 

「?」

 

「なので、その……な、何か出来ることがあるならさせて頂きます。それと……今までのこともごめんなさい……」

 

「あ、はい。それも気にしてないので、今日のことを言わないで頂けるなら別に……」

 

「そ、それでは私の気が済まないと申しているんですっ! 受けた恩は返しますので……な、何かあるなら仰ってください……! これまでのこともちゃんと学校側に通達して詫びさせて頂きますのでそれ以外のことで……」

 

「そう言われてもなぁ……」

 

 なんだか急に潔くなったというか誇りを持ち出してきた先輩に私はどうしようかと顎に手を当てる。本当に気にしてないし言わないでくれるだけでいいんだけど……。

 私は改めて先輩をまじまじと見る。ブロンドで縦ロールというお嬢様スタイル。悪役令嬢そのものって感じでよく見なくても個性的だよね。結構……いや、かなり美人だ。身長も高めでスタイルも良い。私がもうちょっと変態で性欲魔人ならじゃあ身体でって言うんだけど……あ、でも元貴族でお金持ちなんだっけ。だったらお金とか……はさすがに現金過ぎるし……最初に考えた通り普通に友達になってもらうとか? まあ私的にはそれでもいいけどお詫びにはなら──あ、そうだ。良いこと思いついた。もしかしたらこれで……うん、うん……結構いいかも? そしたら私としても助かるし将来のためにも……よし! そうしよう! 

 

「アナ先輩の家って貴族でお金持ちなんですよね?」

 

「……ええ。祖父はバンク・オブ・イーディスの副頭取で父も執行役員をしていますけど……お金ですか? それでしたら多少は私のポケットマネーから支払うことも……」

 

「あ、お金じゃなくて。それだけ良い家柄でお金持ちなら人脈とか交友関係も広いんですよね?」

 

「……? ええ、そうですね。旧貴族や政財界、諸外国の有力者とも交友関係はあります。それが何か?」

 

「だったらお願いがあります!」

 

「……何ですか?」

 

 私は言う。先輩から頂くお礼として──

 

「──私の服を着てくださいっ!!」

 

「…………はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──後日。アラミス高等学校生徒会室にて。

 

「──ルネっちせんぱーい! 会社作りたいんですけどどうやったら作れるか教えてくださーい!」

 

「だからその妙な呼び方はやめろと──は?」

 

 ──ということで私……()()()()()()()()()!! 

 

 

 

 

 

 ──戦いが終わった後、俺は久し振りの愉しみに笑みが浮かび上がるのを自覚した。

 

 かつては俺の仕えていたイスカ神聖皇国があった東の荒野でざっと100年くらいは野盗や猟兵をぶっ殺す生活をしていた矢先にやってきた2人の人間。エンペラーとメルキオルとか言う連中は俺を外法として討伐しに来た連中を返り討ちにするのを手伝った後で、今立ち上げ中の組織──《庭園》とか言う暗殺組織の管理人を俺にやらねぇかとスカウトしてきやがった。

 そんでいい加減何もねえ荒野で黄昏れてるのが退屈になってきた俺はその誘いに乗り、庭園の1つ《錆の園(ラストガーデン)》の管理人を引き受けることにしたわけだ。

 そうして組織の構造ややるべきことを色々と耳にした時に気になることを聞いた。なんでも4人になる予定の管理人とは別に、上に立つ組織のボス──《庭園の主(ガーデンマスター)》ってのがいるらしいってな。

 そいつのことをエンペラーとメルキオルから聞いた俺はちょいと挨拶に行こうと隠れてそいつに近づき、様子を見ていたが……最初はこんなガキが本当にボスなのかと疑っちまった。

 そいつ──アーヤ・サイードは能天気に学生をして毎日普通の生活をしてるらしい。見た目は悪くねぇが裏の住人特有の気を感じねぇ。だからこそ俺は試してやろうと思ったが──結果的にそれは当たりだった。

 

「おお、これも防ぎやがるか!」

 

「ひっ、だ、だから暴れすぎー! いい加減にしろー!」

 

「おっと……!」

 

 アーヤは俺の攻撃にしっかりと対応してきやがる。その上で、死ぬような攻撃を喰らったとしても死ぬことはねぇ。それどころか大した傷を負わないときてる。俺も俺の一族が受け継いできた古代遺物《羅睺の牙》のせいで死ぬことはねぇが傷は負うし痛みもある。死なねぇってだけで身体が鎧みたいに硬いなんてことはねぇ。

 だがアーヤは硬い。ただの人間の筈だってのに斧を喰らおうが平然としてやがる。馬鹿みたいに喚きはするがそれも面白い。要はこの程度の攻撃は真剣になるに値しねぇってことだ。

 逆に向こうの攻撃は鋭い。殺しの才能って奴を感じる。それにあの鋏みてぇな武器が地味に厄介だしな。おかげでこっちも少なからず食らっちまった。

 それにあれなら俺のこの鎧も破壊されるかもしれねぇ。そしたら俺は死だ。だから久し振りにヒリヒリする勝負が愉しめたぜ。

 

 つまり俺の予想は良い意味で裏切られた訳だ。あんな若くて女でも力はあった。しかも後から聞いてみりゃあその過去は重いなんて言葉じゃ済まねえ程のモンだった。それであの明るさと能天気ならむしろ凄みを感じるぜ。あれだけ殺しの技を磨いて裏にどっぷり染まっておきながら学生として平然と暮らしてんのも見ようによっちゃ異常者だしな。

 

 だからこそ俺はアーヤを主と認めた。“(ラスト)”の管理人として《庭園の主(ガーデンマスター)》に傅く。退屈凌ぎとしてはまあまあ悪くねぇ。見た目も可愛くて愛嬌もあるしなァ。少なくともエンペラーやメルキオルなんかよりは仕え甲斐はある。

 

 ──つってもあの硬さは気持ち悪いけどな。ハハ、ありゃなんだ? 化け物かよ。俺が言うのもなんだが人間やめてんだろ。

 

 ま、だからこそ暗殺組織のボスなんてやれてんだろうけどな。俺はそう思い、主の命令通り表向きには会わないことを決めて今はエンペラーに言われた通り自分の庭の管理を行ってやることにする。あとはメルキオルからはボスをイジメてる連中を皆殺しにしてくれって頼まれちゃいるが、ボスがそれを望んでない以上殺っちまうのは筋が通らねぇし、そっちの頼みはボスの命令ってことで無視することにした。

 




今回はちょっと短めだけどキリ的にここまで。次回は夏休みです。なので平和に何かが起こります。血さえ流れんのならわしはこれを平和と呼ぶ……ってことで次回をお楽しみに。

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