──私、アーヤ・サイード! 16歳! 普通でちょっとドジなピカピカの女子高生!
なんとか勉強を頑張ってカルバード共和国一の名門、アラミス高等学校に入学した私の学校生活も一学期が終わり、今日から夏休みに入りました! アラミスに入って初めての夏休みってこともあってすごい楽しみ! 友達と遊んだり旅行に行ったりバイトをしてみたり! それだけじゃなく気になるアノ人とあんなことやこんなことも!? う~っ想像するだけでドキドキが止まらないよ~!
……と、そんな訳で私の夏休みは始まった訳だけど、ぶっちゃけ遊んでいる余裕はそんなにない。もちろん服作りとか友達と遊ぶ予定とかの楽しいこともない訳じゃないし、現在進行形で旅行にだって来ているのだから一見して恵まれた夏休みを送っていると言えるのかもしれない。これが仕事じゃなくて、なおかつ──
「ひゅー! いいねぇ、嬢ちゃん!」
「あの娘可愛くね?」
「お持ち帰り試してみるか?」
「腰つきが……おぉ……!」
──ポールダンスなんて言う夜のバイトをしていなければ、もうちょっと楽しめたかもしれないんだけどなぁ……。
はぁ、と私は内心だけで溜息をつく。表はもちろん笑顔。ポールを中心にここ数日練習した成果をお客さんに見せつける。体幹とか筋力とかが必要だけどそこは問題ないからね。意外と大変だけど私は割と才能があったみたいですぐに習得できた。……あ、ちなみに場所はカルバード共和国の南東にある中東の玄関口であるサルバッド。中東の文化や街並みが広がる異国情緒溢れる街で、なおかつオアシスを中心にリゾート化が進んでいて豪華なホテルやカジノなんかも建てられているまさに遊興都市。
そこに私は仕事でやってきた訳だけど……なんでポールダンスなんかしてるかって言うとこれには色々あって……まあ、簡単に言うと仕事に必要なので潜入してるだけ。
今回の仕事も私お得意の暗殺任務なんだけど、その暗殺対象である企業の重役達の護衛というか警備が厳しいのでいつもみたいにぱぱっと潜入してぶっころってするにはちょっと面倒が多そうだったのだ。
なので私はもう1人の執行者──レーヴェと相談して、私はこのナイトクラブでポールダンサーとして働くことにした。なんでそうなるかって明日行われる接待パーティでここの女の子が呼ばれるらしいから。なので数日前からここで働き始めた18歳の期待の新人、アーシャちゃんは美麗でちょっとえっちな踊りを披露して男のハートを鷲掴みにしてます──あ、おひねりありがとー! 正直ちょろいぜ。なんたって私は可愛いからね。しかも昔よりも今の方が魅力的だ。ちゃんと成長して女性らしくなってるからね。ロリコンにしか受けなかった昔とは違うんだよ。ふふん。後もうちょっとで身長も160リジュに届きそうだし、この調子で成長を続けて誰もが憧れる美人さんになってやる。
「おつかれー。アーシャちゃん」
「あ、店長ー! お疲れ様でーす!」
「今日も良かったよー。もうすっかり一人前だね」
「先輩方の教え方が上手かったからですよー。あはは」
──なんて色々考えてる内に上がりの時間になったため、着替えて店長と談笑する。ちなみに今日の衣装は中東風。それも普段着てる派手なのよりちょっと抑えめだ。露出とかも少ない方がいいかなってことで抑えてる。私的にはお腹を出さないと落ち着かないんだけど我慢だ我慢。
「それじゃ明日の接待もよろしくねー」
「分かりましたー! それじゃお疲れ様でーす!」
そして店から出て夜のサルバッドを歩く。ナイトクラブがあるのは近年開発されている新市街の方なのでかなり綺羅びやかで人も多い。
そんな中で、私は待ち合わせ場所に向かう。夜の仕事をしているアーシャちゃんは仕事が終わると彼氏との待ち合わせなのだ。
「お待たせー」
「……終わったか」
「うん。お腹空いたから早く帰ろー」
「そうだな」
ってことで待ち合わせ場所のホテルの前に立っていたアッシュブロンドのイケメン──まあぶっちゃけるとレーヴェと一緒にねぐらであるホテルに戻る。今日もお持ち帰りされちゃったぜ。という体。
そうしてホテルの部屋に入って人の目や耳がなくなったところで本題に入るのだ。
「首尾はどうだ?」
「そりゃもうバッチリ。ちゃんと明日の接待に参加してくれって頼まれたからオッケーしたよ」
「なら潜入は容易だな」
「うん! ってことでレーヴェは囮役よろしくね!」
「ああ。こちらも準備は終わった。警備の猟兵はそれなりに手練れだが何とかなるだろう。そちらは任せたぞ」
「大丈夫大丈夫! 終わったら合流して一緒に帰ろうね! ──あ、そうだ。今の内にお土産買いに行こ! 後はカジノも……」
「土産はともかく、カジノはやめておけ」
「えー。せっかく18歳ってことになってるんだからいいと思うんだけどなー。ま、いっか。怪しまれてもなんだし本当に18歳になるまでの楽しみにとっておこーっと。それじゃお土産物色&ご飯にレッツゴー!」
「……年齢の問題ではないんだがな」
ん? レーヴェが今小声で何かを言ったような……まあなんでもないかな? それよりもさっさとお土産だ。明日になって仕事が終わったらもうそのまま帰るからね。今日の内にお土産とかは買っておいてまとめておかないと。学校の友だちとかイクスとヨルダにも。後は一応お世話になってる人にもね。
──そして、レーヴェと共に夜の街を散策した後は一度睡眠を取り、目を覚ますと作戦を決行するために私はお店の人と合流して接待パーティが行われるホテルに。レーヴェはちょっとした騒ぎを起こして撹乱するために普段通りの格好で別の場所へ向かった。
それでまあ、私の方は会場に入るなり、暗殺対象の中でも特に絶対に殺さないといけない重要人物の隣に座って酌をしつつ彼らのセクハラを甘んじて受け入れる。肩に手を回されたり軽く腰の辺りを触られたりだ。中々やらしいけど正直慣れてるのでちょっと我慢すればいいだけでそこまでの嫌悪感はない。教団の関係者を殺して回ってる時も何回かこういう手は使ったからね。脳みそがピンク色の時が1番警戒心が薄くて殺しやすいってのは《月光木馬團》時代からも教えられてたし、そういう房中術的な殺し方をする人も結構いたのを思い出す。まあ昔の私は幼かったのでできなかったけど今は何の問題もないし、これがどれだけ効果的かも思い知っている。太腿の辺りに手でも置いてさわさわすれば……ほーら、もう興奮してきた。
「いかんな……少し酔ってきた。君、休憩室まで付き添ってくれないかね?」
「もちろんいいですよー! それじゃ行きましょうか♡」
私が接待していた暗殺対象が私とイイコトをしようと別の部屋へと付き添うように言ってくるのでもちろん了承。まあこの後は場合にもよる。本当は毒とかを持ってたら楽なんだけど入る時に荷物検査も身体検査もしてるので持ち込めなかった。なので検査に絶対引っかからないいつもの《ゾルフシャマール》かな。こういう時に便利なんだよね。
ってことで後はタイミングだけど……どうしようかなー。最近ちょっと思うところがあって、久し振りに
「はいおじさーん。服脱がしちゃいますねー♡」
「ああ、頼むよ。ぐふふ──むぐっ!?」
ベッドで服を脱がしてもらおうと油断というか完全に発情していたおじさんの顔に枕を押し当てる。そして声を出させないようにした上で喉をざっくり。はい終了ー。ごめんねー。お疲れ様でーす。南無南無。
さーて、後は1人ずつ部屋に連れ込んで終わりかな。1回密室になったらこっちのものだ。部屋の前にいる警備も適当な理由で部屋に入れて殺る。一応可能なら猟兵の方も殲滅するように言われちゃってるんだよね、可哀想なことに。
なんか見た感じ、ここにいる猟兵はそこまで強い人はいなさそうだったし、大丈夫でしょ。レーヴェの方が相手をしてる《クルガ戦士団》とかならちょっと怖いけど、こっちにいる猟兵団はそんなに強くな──
「──見つけたぞ。貴様がもう1人の襲撃者だな?」
──あ、《
──念の為、こちらに向かったのが幸いしたか。
俺の生まれた一族であるクルガの民は一族全員が戦士だ。だからこそ俺もまた幼い頃から戦士として己を鍛え、成長してからは《クルガ戦士団》の1人として大陸中東を中心に様々な場所で戦ってきた。
己の力が認められて最強と言われる零番隊に所属するようになってしばらく。信用出来る筈の中東の商人の依頼でサルバッド周辺の警備とVIP客とやらの護衛を頼まれた。
会場の中はまた別の、その誘致をしている企業が贔屓にしている猟兵団が護衛に付いており、会場内のセキュリティもそれなりに整っているとのことだったが……まさかその中でいかがわしい接待が行われ、更にはその接待役の踊り子が暗殺者──もう1人の襲撃者だったとはな。
クルガの本隊──零番隊を含む部隊が謎の猟兵に襲われ、更には恐ろしい程の強さを持った剣士が撹乱するように動いている。あれが何者なのかは分からないが、あるいはあれが裏で名を馳せる《剣帝》という男なのかもしれない。
ならば本隊もまた危険だが……こちらにいる少女も誰かが対応する必要がある。
信用していた商人がまさかこのような接待パーティを開いていたとは思わなかったが、一度依頼を受けてしまった以上は最低限の義理を通さなければならないだろう。仮に今後の依頼を受けないとしても、今会場にいる依頼人は守らなければならない。
俺は既に幾人もの死体が転がるホテルの通路内で武器を構える。目の前の少女が何者かは気になるが、それは倒してしまってから聞き出せばいいだけのこと。そう思い、俺はブレードライフルを握ってその少女に肉薄するが──成程。ただの暗殺者ではないようだな。
「ホテルの中をそんなに壊すのはよくないと思うんですがどうです!?」
「確かにその通りだが、ある程度の物的損害は必要な事だと割り切っている」
「物は大切にしないとダメですよ! なので私はこの辺でチェックアウトです!」
「逃げる気か? だが、そう簡単に逃げられるとは思わないことだ!」
「うわぁ!? 追ってきたー!?」
褐色の肌に銀白色の髪色。そして黄金の瞳をしたその踊り子の少女の刃は想定以上に鋭く、それでいて殺気も敵意も感じない。その見た目にしても警戒心を抱くには難しい相手だ。
だがそれで油断していると容赦のない攻撃が飛んでくる。人の不意を突くことにこの暗殺者は長けているように感じられた。
優秀な暗殺者だ。しかし、それでいて正面からの戦闘力も悪くない。特にその身体の硬さは不可解にも思える程だ。その息吹も不思議なもので黒い息吹であるにも関わらず、どこか安らぎや温かいものも感じられる。それから分かるのは、暗殺者としては優秀で非情だが、人間としては破綻していない。有り体に言えば人格そのものは悪くはない好感が持てる相手だということ。
──が、だからと言って油断も容赦もしない。ここは戦場で相手は敵の暗殺者で、自分はそれを祓う戦士だ。
「“キラーソーイング”!!」
「むっ……糸か!? だが遅い!」
「うえぇっ、弾かれた!?」
ゆえに任務を全うするのみ。ホテルの窓から夜の街に。屋根の上を跳んで逃げようとする少女を追いかけ、更に飛んできた目に見えない程の小さな糸と針を武器で弾いて距離を詰める。
「も、もー! なんでいつもいつも化け物ばっかり……!」
「!? 武器が分かれた……!」
すると少女は先ほどまで振るっていた巨大な閉じた鋏のようなその武器を2つに分けて双剣のようにしてこちらの攻撃に対応しようとする。この世のものではないような息吹を感じる得物だとは思っていたが、そのような構造になっていたかと僅かに驚いた。
しかしそれも対応出来ない程ではない。低い体勢で構わず踏み込み、その武器の片方を跳ね上げるようにして弾き飛ばす。
「あー!? 私の《ゾルフシャマール》のかたっぽがー!?」
「余所見している余裕はないぞ……!」
「!? や、やめてー!? そんなことしたら──」
「“バルバトスレイド”!!」
「ぎゃんっ!?」
──構わず戦技を放つ。ブレードで思い切り相手を突き刺して吹き飛ばした。あるいは致命傷にもなる筈だったが……やはりこれでも軽傷か。
気の抜けるような言葉を繰り出しながらも少女の戦闘力は侮れない。とはいえ、実力自体は自分の方が……!?
「っ……!? これは──! 先ほど跳ね上げた筈の得物……!?」
そうして一歩踏み込もうとした時、危険な気配を感じて既のところで立ち止まる。すると、俺の目と鼻の先を先ほど弾いた鋏の片方が通過した。
それはまさしく紙一重で、俺の肌を切り裂くことなく、服とベルト、ズボンの表面に切れ目を入れる。後一歩でも踏み込んでいれば俺に直撃していた。
「まさか今のは計算か?」
「痛い……な、何の話か分からないけど武器だけは返してー!」
「そんな破れかぶれの突撃が通用するとでも──っ!?」
そして更に、予想外な事が起きる。俺の目の前に突き刺さった得物を取り返そうと少女が突撃してくる。当然俺はそれを撃退しようとブレードを横に振るった、その瞬間──少女は足場の出っ張りに引っかかって転ぶように俺の振るったブレードの下側を通過する!
「っ……! くっ……!」
「うわ──!? いや、待っ──」
俺の武器を引き戻すのが間に合わない。俺はそれをどうにか体勢を変えて避けることで逃れようとするも、少女は更に予想外にもう片方の刃をこちらに投げつけながら転がり、そうして俺の衣服へと手を掛けた。ベルト──いや、ズボンの裾だ! 掴まれるのは少しマズイか……!
「いや、問題な──」
「て…………」
「むっ……!? 何だ……いや、これは……!?」
俺は少女の手を見切り、その掴もうとする行動を失敗させる。ズボンに僅かに指が引っかかった程度で何も問題はない。
そう思い、反撃しようとした瞬間、とてつもない違和感が生じて俺は動きを止めた。少女もまた動きを止めている。しかも、虚を突かれたかのような表情で。
「か、《
「……………………」
「あ、あー……えーっと……………………お、
──ズボンと下着がずり落ちて、露出された俺のそこを見ていた。
俺はその瞬間、一瞬自分に何が起きたのかを理解出来ずに硬直する。だがすぐに理解した。先ほど頭上から飛来した相手の斬撃でこちらのズボンとベルト、下着に切れ目が入り、少女の指先がほんの少しふれたことで、ズボンと下着がずり落ちて局部を露出してしまったのだと。
俺は自分を恥じた。何という間抜けさだと。動揺して自分を戒める、そして偶然にもそれが起きてしまったことに自らの不運を呪った。焔と《翼の女神》の加護が──少なくともこの戦いにおいては──俺にはなかった。
「ま、まあ、それはそれとして……」
「っ、すまない……! 見苦しいものを見せたが、今は戦いの──」
最中だと、謝罪をした上でそう言おうとするよりも早く、少女は立ち直って自らの得物を回収すると背後に飛び退き、こちらに背を向け──しかし俺の発言に顔だけで振り返った。
「え、やっぱり自分から見せてきたんですか!?」
「!? ──違う! これは不運な事故で……!」
「へ、変態だー!!? うわ────!!? ショック──!! いや────!!?」
「ぐ、だから違うと……くっ……!」
少女は逃げて行ってしまい、俺はそれを追いかけようとしてそれが出来ないことに気づく。しまった……! このまま追いかけて行けばより大変なことになってしまう。まずはこの切られてしまったベルトやズボンを直さねば……!
「何という無様な……俺としたことが……!」
「こ、今回は痛み分けー! 私も精神的ダメージを負ったので! ──だからこれ! なんでズボンが破れてるのか分かんないけどこれあげるんでちゃんと着てくださいっ!」
「! これは……腰巻き?」
遠ざかり様に少女がこちらにひらりと布切れを投げつけてきた。それを手にとって確認してみれば、口にした通り腰巻き──とはいえ布を結びつけただけのスカートのような様だが……。
いや、それでもありがたい。そうさせた敵自身に塩を送られるのは複雑な気分だが、確かにこのままの状態では少しまずかった。
だからこそ俺は彼女の痛み分けという言葉に、言いたいことを我慢して飲み込むことを決める。幸いにもこのまま逃げるつもりだ。ならばこちらの依頼人の護衛は達成出来る。追いかける必要はない。向こうは別の人間を殺しているし確かに痛み分けには違いない。
俺は気が抜けるような思いを感じながらも納得して頷こうとした。そして少女に、この布の礼だけは告げることにし、声に出した。
「……成程。そういうことであれば俺もこれ以上の追撃はしない。それで手を打とう」
「はい! なのでそれ着て! 解釈違いなんで!
──待て。誤解するな。俺にそんな趣味はない。
そう口にしようとしたのも虚しく、少女はその場から転移して消えてしまう。俺は眉間に皺が寄り、頭痛を自覚する。悩ましい誤解をされてしまった。次……もし次に会った時にはすぐに誤解を解かなければならない。俺はそう決意し、早速腰巻きを巻きながらその少女の顔を覚えておくことにした。
……意外にも履き心地は悪くなかった。
──後日。何とか無事に生き残って任務を終えた私は思った。
……よくよく考えたらあのカシムが誰彼構わずあんなことするとは思えないし、もしかして……私に一目惚れでもしたのでは? それはそれで好きな人に露出する変態になっちゃうけど……でもそうだとしたらどうしよう。私ってまたしても告白を受けてしまった……ってコト!?
私は久方振りに身体の疼きを感じて悶々としていた。やっぱり恋人作りも本腰入れて頑張ってみようかな。
ってことで今回はここまで。次回は更にアーヤちゃんがはっちゃけます。夏休みは恋の季節だからね。しょうがないね。後お庭もそろそろ動き出します。ポールダンス繋がりで。お楽しみに。
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