恋愛回です。それではどうぞ。
──私には感情がありません。
少し前に起こった私の故郷の出来事により、私は感情を薄れさせることになりました。ゆえに故郷の大人を殺したことも、大陸東部で襲ってきた大人の人達を皆殺しにしても何も感じませんでしたし、そんな私に声を掛けてきた彼──《
ゆえに私と《イシュタンティ》は《
私は《
そして、だからこそ《庭園》の長である《
彼女は私とは違い──いえ、他の管理人や所属する暗殺者の誰とも違う“光”を持っていました。
感情に溢れ、本能で生きる。まさに人間そのもの。それも、表で生きる人間です。
暗殺組織の長であり、更には《身喰らう蛇》という結社の執行者でもあり、大陸中で噂される伝説の暗殺者でもある彼女がなぜそれほどまでに明るく普通に過ごせているかは感情のあるなしに関わらず理解不能に思えます。
しかし大きな力と強い感情を持つがゆえのことかもしれないと私は結論付け、それ以上の思考を止め、管理人の1人として彼女に従うことにしました。
私は彼女の前で傅きました。ご命令があるなら何なりと申し付けくださいとそう言いました。
それを聞いた彼女は言いました──「あ、じゃあお願いしていい?」と。それに対する私の答えは当然首肯──断ることなどありえません。
だからこそ、一体何のためかは分からずとも身体の各部位のサイズを測られて、その後に渡された衣服を着用しました。……正直、何故こんなことをしたのか分かりません。
「やっぱり思った通り可愛いね! ならああいう衣装も似合うかも?」
彼女は私の姿を見てそう言いました。私は対応に苦慮し、困惑しましたが……それもまたどうでもいいこと。
彼女が私に服を着せようが可愛いと言われようが何も感じません。事務的にありがとうございますと答え、組織のボスである彼女の命令に従います。そう、どんな命令であろうとも。だからこそ次に渡された煌都風ドレスも勿論着用しました。下着も彼女に渡された紐パンというものを着ました。なんでもその方がえっちなのだそうです。
「うんうん、可愛いね! それじゃあ次はこっち着てみよっか!」
彼女は私の姿を見てそう言いました。正直意味が分かりませんし、理解も出来ませんでしたが……それもまた私にとってはどうでもいいこと。
彼女が私にどんなえっちな服を着せようとも私は何も感じません。事務的にこれでよろしいですかと答え、組織のボスである彼女の命令に従います。そう、どんな無理難題であろうとも組織のボスである彼女が言うのであれば私にはそれを遂行する必要があります。
だからこそ次に渡された“童貞を殺す服”とやらも着ましたし、その次に渡された“逆バニー”という服も着ました。私の姿に健全に大はしゃぎした後に僅かに興奮する彼女の姿に若干の共感性羞恥を感じました。
……そこで私は違和感に気づきます。私の感情を吸収してくれる筈の天使様──《イシュタンティ》が
いえ、正確に言うのであれば完全に拒否している訳ではなく許容範囲を超えた部分だけが私の中に残滓として僅かに残るといった感覚……と言ったところでしょうか。一度《イシュタンティ》に彼女が触れたせいかもなのか、詳しい原因は分かりませんが《イシュタンティ》に何らかのバグのようなものが発生したのやもしれません。エンペラーからは《イシュタンティ》がいる限り感じられるものは何もないと言われましたが、どうにもその予想は外れてしまったようです。
……ですがそれすらもどうでもいいこと。多少は困ると思いましたが変わらず私は無感情で、彼女の起こす事柄についても僅かに困惑さや疑問といった気持ちが生じるのみで他には感情も何も感じませんし困りませんでした。
それからも彼女は私のことをまるで歳の離れた友人や、あるいは妹のように連れ回したり食事を共に頂いたり。更には彼女の趣味の服作りそのものに付き合わされたりもしましたが、何かを感じることはありません。
しかしそれで構わないのです。彼女の求めには応じますが、私に何かを生じさせることを期待してのことなら無駄と言わざるを得ないでしょう。
とはいえボスである彼女がそれを求め、楽しみを見出しているのであればそれで構いません。私は組織の管理人。彼女は私の上司で私は彼女の部下。私はただ仕事として求められたことに応じるまでです。
だからこそ、私は組織のボスである彼女の次の命令もこれまでと同じ様に聞き入れ──
「オランピアちゃん。次はこの
──思わず拒否しました。僅かな羞恥を感じたがゆえに。
──降りしきる蝉の声に夏の盛りを感じる頃になりました。どうも、アーヤ・サイードです。蝉なんて鳴いてないけどなんとなく使ってみました。
楽しい時間ってあっという間に過ぎるよね。それと忙しい時間もあっという間に過ぎる。だからか仕事に趣味の服作りに友達との遊びにと色々やっている内に夏休みも半分以上が過ぎ去ってしまってる。とても由々しき事態だけどまだ夏休みは残っている。その残りを存分に遊び尽くそうと私は思っていた。
だが何をするか──と言うとこれまた悩ましい。やるべきことも多いので旅行は厳しいし、かといって近場で何をするかだ。ちょっとした観光や美味しいご飯を食べに行くくらいのことは毎日首都でやってるからいいとして、服作りに関しても最近挨拶に来た《庭園》の管理人の1人。《金》のオランピアちゃんが快く私を手伝ってくれるので今のところ創作意欲は萎んでいない。初めて会ったオランピアちゃんはやっぱり感情がないみたいだったけどそれでもすごく真面目で可愛かった。試しに服作りをさせてみたら正確性が求められる型紙を起こす作業や裁縫がとても上手で良かったし、モデルとしてもかなり良かった。可愛いし今の内から育てて将来は私専属のパタンナーとかモデルになってもらうのも良いかもしれない。
まあその際にちょっぴり魔が差して大量にちょっぴりえっちな服を作ってしまったし、ついでにオランピアちゃんに着てもらったりもしてしまったけど……それには理由があるんだよね。
というのも最近、私は大分ムラムラしてしまっているのだ。夏休みの最初の頃にサルバッドでポールダンスを習ったり、偉い人に接待したりして男の人にえっちな目で見られ続け、おまけにカシムのカムチンを見てしまったり、そのカシムも含めてレーヴェやらイケメンばっかりと接することが多かったのもあって、かなり思春期というかなんと言うか……。
──まあ端的に言うと、正しい意味で性欲を昂らせてしまってます! 女の子としての気持ちが溢れすぎてなんか恋愛とかえっちなことがしたい気分! しかも女の子なので男の人と!
……うん。我ながら欲望に忠実だけど本心だからしょうがない。だってお◯んこ弄るの気持ちいんだもん。しょうがない。正直最初に試すのは女の子──つまり彼女を作ろうかと思ってたけど、ムラムラしすぎて先に彼氏が作りたくなってしまった。
ただ一応、自分の欲望以外の利点もある。というのも私の友達の1人であるエレインちゃんとヴァンのことだ。
言うまでもなくあの2人は幼馴染であり、互いを異性として気にし合っている仲だ。そのため、一学期から既にそういう傾向は見えていたし、エレインちゃんは時折内緒で女子に囃し立てられ、ヴァンは男子からエレインちゃんと仲が良いことをからかわれてる。そしてそれを互いに恥ずかしがって否定しながらも悪い気はしていない。つまり、この2人は両思いなのだ。付き合うのは時間の問題である。
ただ同時に別れるのも時間の問題。理由はなんかヴァンがこじらせてたせいだし、それ自体はしょうがないことではあるんだけど……私としてはもうちょっとエレインちゃんと色々あって欲しいんだよね。
本来の未来とか原作云々とかも考えなくはないけど、私としては今友達のエレインちゃんの肩を持ちたいんでそういうのは無視してエレインちゃんを応援したい。後のことは後から考えればいい。
ってことで私はエレインちゃんとヴァンの恋のキューピッドになって、更にはもうちょっとエレインちゃんとヴァンに思い出を作ってもらうために色々エレインちゃんにアドバイスをしたいんだけど……この間、エレインちゃんと話してる時にふと思ったのだ。
──あれ? でも私も恋愛したことなくない? アドバイスとか出来なくない?
私はそれに気づいてちょっぴり頭を抱えた。なんてこった。恋愛のアドバイスをしようにも私自身が恋愛したことないじゃんと。
でも性交渉の経験は腐るほど──それこそ10年くらい前は毎日複数人のお客様をお相手してたので1000回を優に超えてるけど、それも最後にヤったのは8年くらい前の7歳くらいの時だし、ほぼ10年くらい前が最後とかもう殆どヴァージンのようなものだ。いわゆるセカンド・ヴァージンってやつだ。
つまりあの時の経験でそういうことをアドバイスしていいものかも微妙なところ。おまけに相手はド変態のロリコンの方々ばっかりだったし。それをヴァン相手に適応するのはね。間違ったアドバイスをしてしまったら申し訳ない。
だからこそ私は改めて情報の更新もしておきたい。あの時は強制的にやらされてたんで諦めつつ受け入れてたけど、今はまた違うと思うし。身体的にも心的にも。だから私自身の興味と性欲を満たしつつ、ヴァンとエレインちゃんのために私が先に予習しておくという一石二鳥の恋愛作戦を私は実行したい。私は頭脳派だから情報さえ更新すればアドバイスもお茶の子さいさい。恋愛頭脳戦だって余裕でこなせる。この間首都に遊びに来たデュバリィちゃんとお茶した時にデュバリィちゃんも言ってた。私が学校で起きたことの話をした時に「おめでたい頭してますわね……」って。いや、これはバカにされた時の記憶だった。でもデュバリィちゃんはちょっぴりポンコツだからね。デュバリィちゃんにバカにされてもなー。だって私の方が絶対頭良いし。そう言ったら「喧嘩売ってますの!? そこまで言うなら勝負ですわっ!」と言うので久し振りに手合わせすることになった。久し振りに手合わせしたデュバリィちゃんは強くて結構勝ち越されてしまった。なんでもレーヴェ相手に一本取ったらしい。しかも今じゃ鉄騎隊っていうリアンヌママ直属の部隊の筆頭を務めてることも聞いたので「え、ほんと!? すごーい! デュバリィちゃんおめでとー!」って言ったら照れてて可愛かったしその後でお祝いでケーキ奢ってあげた。もっとも本人はその程度で終わるつもりもなければその程度で祝われるのは心外とか言ってたけど顔も赤かったし連れて行ったケーキバイキングもワンホール以上余裕で食べてたから喜んでくれたと思う。
──と、まあそういうことなので私は彼氏を作ろうと思った。なので私は思い立ってすぐに行動して、そして今日。
「ごめーん! 待ったー!?」
「う、ううん……い、今来たところだよ」
首都イーディスの7区。イーディス中央駅通りの待ち合わせ場所で、私は男の人と会っていた。存分におしゃれをした上で。
つまりこれはデートだけど、ただのデートじゃない。ふふ、驚くことなかれ。私はもう──彼氏が出来てしまったのだ! じゃじゃーん! よっ! アーヤちゃんってば美少女! 超絶モテ美少女!
ちなみにどうやって作ったかと言うと大したことはない。単に以前告白されて保留にしていた返事をしただけだ。夏休み前にね。実はされてたんだよねー。その時はまだ考え中だったから保留にしたけど、夏を経て興味津々な私は彼を呼び出してオーケーを出すことにした。
ということで私の記念すべき彼氏第一号の情報を本邦初公開! 名前はアハト君! 名字は忘れた! クラスは隣のクラス! 部活は入っておらず、勉強の成績は中くらい! 運動はちょっとだけ出来る! 父親はエレボニア帝国人で母親は共和国人らしい! 見た目は髪色がグレイで眼鏡をかけていて顔立ちはまあ普通、かな? でもあんまりお洒落っ気がない! 社交性はそんなになくて趣味は導力機弄りと最近共和国で流行っている漫画本を集めること! ちなみに私とはあんまり話したことはない!
──うん! どっからどう見ても陰キャ君だ! 私が可愛すぎて好きになっちゃってまずは友達からとかじゃなくていきなり真正面から告白してしまった陰キャ君だ!
まあでも私はそういうのも良いと思う。一目惚れで即告白というのも恋愛的にはあり。成功率はともかくとして私は嫌いじゃない。それに距離感は間違えてるかもしれないけどなんか目の奥に……なんだろう。光るものを感じたんだよね。びびっと来たというか。だからもしかしたら根はすっごいイケメンでスパダリかもしれない。
だからまあオーケーしてみた。それに一応はお試しというか、まだ好きじゃないことは伝えてある。好きじゃないけどとりあえず付き合ってみよっかってことでね。そこは私なりの誠意だ。こっちが好きだって勘違いされても困るしね。申し訳ないけど主導権はこっちにある。まあでも主導権を取り返してくるのもそれはそれで熱いから私は歓迎。陰キャくんなりに勇気を出してぜひ私をきゅんきゅんさせてほしい。
そういう訳で私はその初めての彼氏のアハトくんとのデートを開始する訳だけど……まだかなー。せっかくめちゃくちゃおしゃれして来たんだけど。夏だから結構涼しげのコーデでね。黒の紐付きチューブトップに更にショルダー部分を開けて着る短い丈の白のアウターを付けたへそ出しルック。下は紺色を基調にしたホットパンツだ。ふふん、どうだ。肩にお腹に太腿を露出してホットパンツで下半身のラインも分かるしチューブトップだからそれなりに膨らんだ胸もよく見れる! ちなみに更に太腿にはバンドも巻いてるし、靴はそこそこしっかりした紫と黒のスニーカー。同じ色系統のキャップも被ってます。暑さはかなり耐性ある方だけどそれはそれとして夏はキャップも良いよね。更にいつも縫っている爪の色も今日は少しだけ色を赤紫からピンク寄りに変えてみたし、なんなら髪もツインテールにしてみたよ! ほらほら可愛いだろ! ここに来るまでに普通に男の人にナンパされたくらいにはウケは良いはず! ってことで……ほらほら、何か言うことは?
「えっと……それじゃあ、い、行く?」
…………良し。もう切ろう──って、いやいや落ち着け私。褒め言葉が何もなかったくらいで切るのは早すぎるって!
「うん──それじゃ行こっか!」
「あ、うん……い、行こうか……!」
私は一瞬で冷めた思考をすぐに取り戻して笑顔で頷く。まあ可愛すぎて緊張して言葉が出なかったんだろうね、きっと。そうポジティブに捉えよう。実際すごい緊張してるのは事実みたいだし。
だからまあ少しでも慣れて緊張を和らげるためにも最初はちょっとリードしてあげないとね。手をぎゅっと掴んで私はアハト君と共に歩き出す。手汗がすっごいけどまあ許容範囲だ。そもそも暑いし緊張もするだろうしね。
ってことでそんな陰キャのアハト君を連れて向かった先は第4区のタイレル地区。ここは私もよく来る。いわば共和国の文化の中心地である繁華街なので大人も若者もここに来る。カフェとか映画館もあるし、お店も沢山。当然レストランなんかも美味しい店が揃ってるし、軽食の出店なんかもある。まさにデートにうってつけの場所だ。
そしてまず最初に何をするかと言うと──映画だ。まあ初デートなら無難なところだよね。ちなみにコースは彼が決めた。まあ映画って2時間弱くらい全く話せないけど話題がなくなるくらいなら映画を見てその後で映画の感想を言い合えるし、それを経て徐々に会話の取っ掛かりを掴めばいいからね。私的にはそこまで悪いチョイスではない。実際アハト君はここに来るまでにも私と何を話せばいいか困ってたみたいだし。ちょくちょく私から話題を提供してあげたりもしたけどやっぱりまだちょっとぎこちない。
なので早速《シネマ・エスプリ》へ入る。何の映画を見るかは私が決めた。こういう時はやっぱ大衆受けするアクション映画だよね。恋愛映画なんて見ても余計に緊張するし困るのが見に見えている。だから純粋に楽しんで感想も言いやすいゴッチ監督の新作を見よう。ってか普通に見たかった。何でも女暗殺者が主人公の話らしい。なんか親近感湧きそう。楽しみー。
──そうしてポップコーンとドリンクを買って映画を見た。内容は……ふむふむ。女暗殺者が標的である男性と恋に落ちたため標的を殺せず、組織から裏切り者として追手を差し向けられる。それをその男性と一緒に戦って乗り越えるセクシー&スペクタクルな物語。まあどっちかっていうとセックス&バイオレンスだけどね。またR-17版出てるし……くそう。私まだ16歳だから見れない……どうにか誤魔化して今度見に来よう。気になるし。
でも全年齢版もしっかり面白かった。やっぱアクションシーンが良いよね。ゴッチ監督の作品は特に豪快でエンターテイメント性があって良い。主人公の女暗殺者もかっこいいけどなんか変なところでドジだしお色気シーンに繋がったりして面白い。こんな肝心なところでミスする暗殺者とか無理でしょ。絶対すぐ死ぬって。でも面白い。
「いやーすっごく面白かったね! 特にラストのアクションシーンなんかあんな爆発して今にも沈みそうな船の上で敵の大男とナイフで殺り合うシーンとか特に!」
「そ、そうかな……あそこまで大騒ぎになったら暗殺どころの騒ぎじゃないと思うけど……確かに見応えはあったけどね」
「細かいところはいいじゃん! 面白かったんだし!」
「まあ……そうだね」
そうして映画を見終わった後は近くのカフェでお茶しつつ会話に花を咲かせる。うん、まだちょっと硬いけど最初よりはさすがに口が回るようになってきてるね。その調子でどんどんお喋りしてほしい。今のところ悩ましいからね。
ってことでしばらく映画の感想を語り合い、お次はショッピングだ。まあここは適当に。正直こういう時間が1番相性が出ると思う。なのであんまり強引に連れ回さずに私は大人しくエスコートされよう。
「えっと、この漫画がすごく面白くて──」
「ほうほう。それは気になるね!」
「後こっちの本は──」
「ふむふむ。なるほどねー」
「あの、せっかくだし工房によってもいいかな……? そういえばアーヤさんはどういうのを使ってるの?」
「あー、まあ私のは普通かなー」
「そうなんだ……見せてもらってもよかったりする?」
「んー……それはもうちょっと仲良くなってからかなー。ってことでだめでーす」
「そ、そっか……うん、わかった。それじゃあ次の場所に──」
──と、そんなこんなであっという間にデートの時間は過ぎていく。
辺りが夕焼け色に染まる頃まで私はアハト君とのデートを行い、色々と彼のことを見定めてみたけど……うーん、なんというか……あんまりびびっと来ないかなぁ。後半は結構色々聞いてきたけど話はあんまり上手じゃないし、気遣いもあんまり出来てない。趣味はそこまで合わないし……まあ漫画の話が出来るのは悪くないかな? 私も結構読んでるし。でもそれ以上にオーブメントオタクなのか私のオーブメントに興味があるみたいだったし……。
「きょ、今日は楽しかったね……?」
「そうだねー」
彼とベンチに座って会話をしながら私は思う──よし、やっぱ別れよう。ちょっと違うかもしれない。あんまりきゅんと来なかったし、私ならもっと良い人と付き合えると思う。というか、今までなまじイケメンばっかりと顔を合わせてきたから理想が高いかもしれない。人間性はともかくとして顔が整ってる人ばっかりだからね、私の周り。まあ顔はそこまで気にしないと思ってたけど、かっこいいに越したことはないし、性格の部分でも良いところがないとなると付き合っていくのは難しいかもしれない。
「うん。それじゃ
「え……? そ、そんな……ど……どうして!?」
「いやごめんねー。今日1日付き合ってもらった感じ無理かも。だからこれからはお友達ってことにしてくれない?」
なのですぐに別れを切り出す私。動揺するアハト君。まあ当然の疑問だけどごめん。自分に嘘はつけない。いけると思ったけどいけなかったから諦めてほしい。きゅんと来なかったんだ。
「そ、そんなの……納得出来ないよ……!」
「そう言われてもなー。あ、それじゃあ代わりに良さそうな女の子紹介するとかどう? 後は頼み事とかあったら聞くし。お金とかでもちょっとだったら払ってもいいよ?」
「そういう問題じゃないよ……! ぼ、僕は……アーヤさんじゃないと……だ、駄目なんだ……!」
──と、言われても私が難しいんだから諦めるしかないよね。でもアハト君はよっぽど私にご執心みたいだ。困ったなぁ……あんまり酷い振り方はしたくないんだけど。何か別の物で補えたらと思ってたけどそれも難しいかな? 次の恋人見つけるにはやっぱちゃんと別れとかないといけないし……でもこんなに好かれてこんな感じだとまた面倒になりそうな予感もするし……。
私はどうやって別れたものかと頭を悩ませる。別れ話って難しいんだね。なんか互いにウィンウィンな別れ方はないかな……あ、そうだ。
「あ、それならさ。別れる代わりに私と思い出作るってのはどう?」
「思い出……? いや、それが何かは分からないけど、何であっても代わりになんて──」
「──私で童貞捨てさせてあげるよ」
「…………えっ?」
私は笑顔で条件を提示する。私のことがそんなに大好きならこれで後腐れなく……は、分かんないけど少なくともある程度納得して別れてくれるだろうとそう思って。
「……ごめんアーヤさん。今なんて……?」
「最後にえっちしてお別れでいい? ちゃんと別れてくれて内緒にしてくれるって条件を守るならしてもいいけど」
「そ、それは……」
「どうするの?」
私は素直に尋ねる。付き合うのは無理でもヤってみたかった。約10年振りに試してみたかったことには変わりないので、せっかくだしそっちに協力してもらおう。それならほら、彼も気持ちいいし私もヤれて情報も更新出来るしで互いにウィンウィンだ。その証拠に彼も悩んでるみたい。葛藤して恥ずかしがってるけどどうせやりたいのは分かってる。
「本当に……?」
「うん。条件を飲んでくれるならいいよ。別に嫌じゃないしね」
「…………そ、それなら……」
「──オッケー彼氏クン♪ それじゃあ……行こっか♡」
待つことしばらく。ゆっくりと彼は私の提示した条件を飲んでくれたので、私は自分でも気分を切り替える。せっかくするなら楽しくしないとね。まあ彼は経験無さそうだし最初より更に緊張してるみたいだけど問題ない。リードするのには慣れてるから任せてほしい。よーし、腕組んで身体密着させて、と。後はえっと、ここから1番近いホテルは確か──。
私は緊張する彼をホテルにまで連れていき、そこで彼相手に色々と試すことにした。やっぱり嫌悪感は感じないね。むしろムラムラしてたからちょっと興奮する。何からしよっかなー。ま、最初は
──そうして私は8年振りにそれを経験し……そして理解した。改めて気付いた。私ってやっぱり──
──めちゃくちゃえっちなのかもしれない。
──七耀暦1200年。8月。
夏も深まり、そろそろ月が変わって秋が始まろうというその日、とある薄暗い工場跡に2人の少年が向かい合っていた。
1人は廃棄された積み荷の箱の上に片足を上げた状態で腰掛けているミント髪の少年。歳は14歳頃でもう少しで日曜学校を卒業するという歳であるにも関わらず、大人でも発することの出来ない異様な雰囲気を持っている。
そしてそれに対する少年は16歳頃で眼鏡をかけたグレーの髪の少年だったが……その少年もまた普通の少年とは思えない空気を持っていたが、それでも今この場においてはその空気は萎んでいる。
なぜならその16歳の少年は──怯えていた。目の前の自分の所属する組織の上司……幹部である“管理人”に対し。
「ふーん……それはそれは。中々面白い監視方法を考えたみたいだねぇ」
「──はい。関係を継続させることは出来ませんでしたが、引き続き校内での監視の継続は可能かと……」
グレー色の髪の少年──アハトが報告するそのミント髪の少年の名はメルキオル。
アハトが所属する《
そしてアハトの名は
だがそのカップの8は管理人であるメルキオルから直々に別の任務を与えられていた。すなわち……アラミス高等学校に入学し、
少女の名はアーヤ・サイード。中東人の少女であり、詳細はアハト──エイトには知らされていない。なぜ彼女を監視する必要があるのかも何もかもが明かされない。
だが管理人であるメルキオルの命令は絶対だ。そのことを、《棘の園》に所属する構成員であれば誰もが理解している。裏切りや命令違反をした場合、どんな目に遭うのかも。
だからこそエイトは任務を全うした。アーヤ・サイードを校内から監視し続け、更には交際関係を結んで休日でも問題なく監視出来る体制を整えようとした。
とはいえ交際関係が本当に結べるとは思っていなかったし、もし断られてもそれはそれで彼女を目で追ってしまう口実を作ろうと目論んでいた。
だからこそああなってしまったのはエイトにとっては予想外ではあったし、想定外のすごい経験をしてしまったが、彼はそれを含めてメルキオルにしっかりと報告を行う。虚偽の報告など出来はしない。すればもう1人のパートナーによって報告していないことがあると露呈してしまう。だからこそエイトは羞恥を押し殺して報告を行った。そうして報告を終えれば、メルキオルは腰掛けていた積み荷の上から跳び下りた上で、笑い出す。
「アハハハ! なるほどねぇ! すごいじゃないかエイト! まさかそこまでしちゃうなんてねぇ!」
「……はい。自分でもそこまでになるとは想定外でしたが……」
「フフ、なるほどね。でも良かったじゃないか。あんなに可愛い女の子と初体験が済ませられてさぁ。──それで? 感想は? やっぱり気持ちよかったかい?」
「それは……はい」
「へぇ♥ それはそれは良いねぇ。それで、実際はどんなことをされたんだい? せっかくだし、僕にも詳しく教えてくれない? 管理人と構成員とはいえ、歳の近い男同士なんだしさぁ?」
「……分かりました」
距離を詰めて肩を組んでくるメルキオルにエイトは求められた通りに詳しく答える。メルキオルの距離が近いことはいつものことだ。彼の性格は執拗かつねちっこく、そして残虐で凶悪──《棘の園》の構成員が他の園の構成員からねちっこくて嫌だと言われるのはこのメルキオルの影響を受けていることが要因としては大きい。他にも《剣》であれば仕事に忠実。《黄金》であれば合理的かつ機械的。《錆》は戦いや殺しを楽しむ者が多いなどの傾向があるが──そのことは今のエイトには関係のないことだ。それにどこの庭だろうと管理人に逆らったり機嫌を損ねることは出来ない。だからこそエイトは自分の経験を全てメルキオルに包み隠さず話した。
「……へぇ♪ 結構色々したんだねぇ。羨ましいなぁ」
「はい……」
「随分と仕事熱心でいいじゃないか。僕が指示せずともそこまでやってくれるなんてねぇ。しかも次に繋げようともしてるみたいだしね。こんなに有能な構成員は見たことないくらいだ」
メルキオルから過剰な賛辞がエイトへ送られる。そしてメルキオルは更にわざとらしく告げた。
「ああ、そうだ。せっかくだしご褒美を上げようかな」
「褒美……? 何でしょうか……?」
「うーん、そうだねぇ……ああ、せっかくだし、君が
「っ……!?」
不意にメルキオルの手がエイトの下半身に伸び、その口元が耳に近づく。そうして共に弄られ、エイトは身体を硬くした。一部分を除いて。
「ほらほら、どうしたの? ちゃんとしなよ」
「っ……わ、わかりました……」
メルキオルのそういう趣味は有名だ。そして、時折構成員もその毒牙にかかることもある。エイトもまたそのことを知っていたが、まさか自分がそうなるとは思わなかった。
とはいえ逆らう訳にいかないため、エイトは努めて身体の一部分をメルキオルの指示通りにする。目を瞑って彼女のことを思い出したこと。そしてメルキオルが上手かったこともあり、それは思ったよりもすんなりと行えた。
「フフ、いいねぇ♥ こんなにしちゃって……そしてここから沢山出したんだろ? 君の生命の源をさぁ♥ た~っぷりと♥」
「め、メルキオル様……っ」
エイトはもはや身を任せることしか出来ない。耐えればいいだけだ。耐えればこの時間も終わり、自分は解放される。そうして再び監視の任務につけば──またあの気持ちよさを味わえるかもしれないとそう思った。
──そして、そうやって目を瞑って言い聞かせていたからこそ気づかない。一度引き戻したメルキオルの手に……彼の得物である大型のダガーが握られていることに。
「そう。例えば──こんな風にね♥」
「────ぁ」
そして次の瞬間に、メルキオルの手は動いていた。エイトの下半身のその出っ張った部分を──ダガーで切り落としてしまう。
エイトは一瞬で僅かに感じていた快楽もメルキオルに対する恐怖も何もかもがなくなって──激痛に全てを塗り潰される。下半身から、
「ハハハ! やっぱり大量だねぇ!」
「◎△$♪×¥○&%#ッ~~~~~?!」
「フフ、アハハ! 気持ちよさそうに悶えてるじゃないか! ──それで、どんな気分だい? この間は天にも昇るような気持ちよさを味わえたのに、今はその反対。地獄に落ちるような激痛に苛まれちゃってさ」
「ッ……っ……は……っ!!」
「なーんてね。さすがに痛みが強すぎて恐怖を感じたり何かまとまった思考をする余裕はないよね」
メルキオルはそこで肩を竦める。そうして地面に落ちたエイトの局部を手にとって弄びながら、痛みに悶え喘ぐエイトを見下ろして独り言のように言葉を発し始めた。
「もっと恐怖を与えるやり方の方が好みだけど……まあでもこれはこれで面白いかな♥
「っ……っ!」
「さすがに痛そうだねぇ。同じ男として同情するけどさ。でも君が悪いんだよ? 僕の指示もなく勝手なことをするから」
「……~~~っ……!」
「まあ恋人になって監視を継続って手段は悪くなかったし、アーヤ姉さんから求められたんなら別にエッチくらい幾らしたっていいんだけどさ。僕、別に処女厨でもなければアーヤ姉さんと付き合いたい訳でもないし。──いや、全くしたくないかって言うと嘘になっちゃうんだけどね?」
メルキオルは地面で悶え続けるエイトを取り出したダガーで床に縫い付ける。
そこでようやく痛みの中に恐怖が生まれた。今これから、自分はメルキオルによって惨殺されてしまうことをエイトは恐怖と共に理解する。
「まあ君に言っても分かんないと思うけど、僕のアーヤ姉さんに対する感情は結構複雑でさぁ? 好意はもちろんあるし姉みたいに慕ってはいるし、なんなら性欲だって感じるけど重要なのはそこじゃないんだ」
「っ、ぁ……だ、だず……げ……っ」
「僕はアーヤ姉さんに
メルキオルは、彼にしてはいつもよりも穏やかに語っていた。自らの想いを、これから死ぬ相手に語りかけるという形で改めて確認する。
「だから僕はアーヤ姉さんには好きに動いてほしいし、そういうところを僕に沢山見せて欲しいし、だからこうやって裏で動くし監視だって置いてるんだ。褒めてもらえるのはそれはそれで嬉しいしね。だけどアーヤ姉さんをつまらないイジメなんかに巻き込んだり、アーヤ姉さんの意思を無視してあわよくばエッチしたいなんて思うようなつまらない性欲だけの猿に目を向けられるとそれはそれでムカつくというか、
「ぞん、なァ……゛……っ!」
「だから君がこれから死ぬ理由は、僕の機嫌を損ねたからなんだ。まあそれがなくとも管理人の命令を無視した上に、
「……っ!」
そこでようやく、痛みと恐怖の中でエイトは知る。自分が監視を言い渡されていたアーヤ・サイードの正体を。
下位構成員に噂のように語られる存在。4つの園を管理する4人の管理人の上にいる《庭園》を支配する存在。組織の頂点にして伝説の暗殺者であると噂される──《
そんな組織の頂点に、自分がこれからも行為を続けるように頼み、そうなれるように画策しようとしていたこと。そしてそれが、メルキオルに露見しておりそれが原因で殺されることも。
何もかもを理解して、エイトは絶叫した。
「~~~~~~~~~っ゛!!」
「おっと。ようやく良い恐怖が出てきたね。それじゃあ最後にせめて僕をムカつかせた分、僕を楽しませて死んでもらうよ♥」
──そしてそれがカップの8の最期だった。廃工場内で彼はしばらく痛みと恐怖に喘いでいたが、すぐに声も身体も元のものとはかけ離れた状態となって死んだ。
そうして血で染まった工場内でメルキオルは腕を頭に回して苦笑いをする。
「あーあ、やっちゃった。せっかく貴重なアラミス内の監視要員だったのに」
メルキオルは僅かに残念そうに言う。事実として勿体ないことをしたと。
何しろ《庭園》は組織として機能し始めてまだ2年程しか経っていない。つまり下位構成員であり子供の暗殺者である彼らの数にも限りがある上、年齢的な意味でも14歳以下の──もっと言うなら10歳から12歳程度の子供が多いためアラミスへの潜入という任務をこなせる者はそういないのだ。
だがそんな中でも早期に養成所を出た者達の中には年齢が高めの者もいるし、そもそも養成所を早期に出た構成員は実力も高い。何しろ養成所は脱落しなければ3年から5年はかかるだろうと計算されている。そんな中1年や2年で養成所を出て暗殺者になった構成員達は《庭園》の一期生とも言うべき者達であり、同時に数字も養成所を出た順番に自然と付けられるために上に行くほど優秀な暗殺者ということになる。少なくとも今後、脱落者が出て欠員が補充されていくまでは数字がそのまま強さに直結することだろう。メルキオルの目から見ても1年で養成所を出た
とはいえ早熟なのも考えもので、年齢もやはり低めだったりするのだが──メルキオルはそこで一転して勿体ないという気持ちを切り替える。
「まあいっか。幸いにも監視要員はまだいることだしね。ってことで──そろそろ来たかな?
「──はい」
メルキオルは廃工場内に新たな人員が現れたことを察して声を掛ける。それはメルキオル自身が、少し遅れて呼び出した自分の園の構成員、
「ちょっと問題が起きてさ。8番を殺しちゃったんだよね。まあ半分は僕の命令の仕方も悪かったのかもしれないんだけど。だから君には引き続きの監視と追加のオーダーを与えるよ──アーヤ・サイードの意思に逆らわず、手となり足となるようにして付き従えってね」
メルキオルは告げる。ある意味で理不尽な命令を。下位構成員である身には訳の分からないその命令を、半分は過ちを侵さないように。半分は面白がって告げた。
「あ、それと報告によると彼女を欲しがってるみたいだからさ。君、協力してあげなよ。もちろん
「……分かりました。そのようにします」
「頼んだよ~♥ くれぐれも
そうしてメルキオルは笑顔で手を振って廃工場を後にする。アーヤ・サイードが欲しがる物を献上し、その姿を観察して楽しみ、その上で彼女を傷つける方法を考えるために。
良い恋愛回でしたね。皆もドキドキ出来たかな?
ちなみに庭園の小アルカナの呼び方とか性格診断はなーちゃんの台詞と庭園の設定からの考察というか独自設定です。まあ多分こんな感じだよねってことで。でもあんまり意味ないです。モブキャラは原作の軌跡シリーズのモブくらいにしか目立たないので(多分)
次回は二学期。恋愛マスターになったアーヤちゃんがエレインに絡みます。お楽しみに。
感想、評価、良ければよろしくお願いします。