──皆さんどうもこんにちはー。《身喰らう蛇》の執行者No.ⅩⅢ《
まあでもその内名乗らなきゃならない時が来るんだろうなーとは思ってる。正直ちょっとかっこいいけど……とはいえ嫌が勝つ。
だけどしょうがない。この肩書は遺憾ながら事実私が持ってるものだし、これを持ってるおかげで私は結社にいながら自由でいれるとも言えるわけだし。執行者じゃなきゃ学校に通うなんてのも不可能だっただろうし、これから行われるであろう《盟主》様の《オルフェウス最終計画》の第一段階──蛇の使徒第三柱《白面》ゲオルグ・ワイスマン主導の《福音計画》に参加することも出来なかっただろう。だからもう諦めて認めるしかないのだ。
ってことでアラミス高等学校2年生のアーヤ・サイードちゃんは2年生に上がってから更に忙しい日々を送ることになった。あのアラミス学藝祭の日から色々あってね。表でも裏でも。なので順を追って説明しよう!
まず学藝祭が終わってすぐのことだ。私の下にやってくるお客さんが更に増えた。学藝祭で私の企画したファッションショーを見たり、演劇の衣装も担当していることも知った資産家がやって来てパトロンになりたいとか言ってきてね。活動に必要な金銭が足りないなら支援しても良いとかそういう話だ。
後は権威あるファッション誌や企業なんかからも取材がスカウトが来たし、通常のお客さんも結構増えてきた。窓口にしてたアナ先輩が連絡が次から次に来るので疲れたって言ってきたんでよっぽどだ。
それを聞いて私は思った。私の服を求めてくれるのは嬉しい。だけど手が足りない。時間も足りない。お金も欲しい。地位も名誉も欲しい。デザイナーになれるチャンスだと。
なので私は思いつきで速攻で決めた──じゃあ改めてブランド作ろう。ブランド名は“
私の突然の言葉に一応スタッフとして手伝ってくれてるセラちゃんとかシーナちゃん、後はアナ先輩とかも絶句してたけどすぐにそれを認めて手伝ってくれることになったので良かった。誰も人手がないとさすがに無理だからね。
なので私はそれを言い出した次の日にはアナ先輩やルネっち先輩に相談して必要なものをリストアップしてもらってそれをクリアしていく日々を送った。お金もそうだしアトリエも必要。最低限スタッフもいる。私は基本オートクチュール──全て私がお客さんの要望を聞いて作るオーダーメイドの高級仕立服なんだけどそれだけだと私の服を欲しがってる人に行き渡らない。なのでプレタポルテ──要は量産出来る既製品だね。オーダーメイド品以外にもそれも作って売れればいいなってことでそのためにはやっぱり多少はスタッフや機材や物件が必要。それも少しずつ揃えようって動き出すことになった。
まあ大々的にいきなり会社設立! 大量に既製服作りました! 店もドーン! さあ買ってね! ──ってのは出来ないのでこつこつとだけどね。なので最初は格調高く、アトリエを作って今まで通りお客さんの注文を受けつつ、更には名前を広めるために私の仕立てた服を高級ブティックなんかで置いてくれないかということで企業に相談。サイデン地区にある高級ブティック《エルラント》とかと交渉しつつまずは数着お店に私の服を置いてもらうことにした。
そしてそれと平行してスタッフ集めを行った。とりあえず経理とか事務手続きなんかに強い人材は必須だし、営業とか出来る人もさすがに欲しい。パタンナーとか縫製スタッフなんかもゆくゆくは数を増やさないといけないけど私は当然出来るしセラちゃんとかシーナちゃんも手伝ってくれるから後回しね。後はまたオランピアちゃんに手伝ってもらうのもいい。モデルはアナ先輩とか知り合った女優の人やちゃんとしたモデルにも頼むとしよう。
なので4月から5月にかけての私は学校に通ってはいるけど学校に通いながらその手のことを進めているので本当に忙しい。なんだったら休む日もちらほら。だって休日だけじゃ時間が足りないんだもん……。おかげでそれなりに進んだけどね。まずはもっと広い家兼アトリエに引っ越すことにして次の家はリバーサイド区にした。川沿いって良いよね。お店もおしゃれなのが多いし。懐も潤ってきたので2階建ての地下付きの物件を借りることにした。シェアハウスなんかで学生や若い子が借りるような家だね。部屋も結構あるのでここに今まで通りイクスやヨルダを住まわせつつ、ついでにスタッフも住まわせよう。主にセラちゃんとシーナちゃんね。そんで地下をアトリエに改装して導力ミシンやマネキンや布や糸なんかも大量に用意して仕事部屋にした。ご注文もこれからはここに来てもらおうってことで。
そうして服の売れ行きとスタッフの確保をしつつ様子を見てどんどん規模を大きくしよう。今年の冬くらいには首都で行われるファッションショーなんかにも参加する予定(私が勝手に決めた)なのでそれまでにもっとブランドを広めていく。
……ってことで長くなったけど表で起きた私の良いことがこれね。まあこれについては私もやる気十分だし、やっぱ楽しいから幾らやっても疲れないし良いんだけど。
なので夢中になりつつも5月になって学校に行くとだ。そこでエレインちゃんからヴァンが退学したって聞いてめちゃくちゃ驚いた。これが2つ目に起きたことだね。
なので若干……いや、というかエレインちゃん周りの空気が重い。周りも気を使うし、ルネっち先輩なんかも心配そうというか難しい顔をしてたし、私もさすがになんて言ったらいいか分からないからとりあえず気を使いすぎない程度に声をかけたけどさすがに以前程の元気はない。
まあそれでも6月になる頃には新たな生徒会長として頼もしくもクールな姿を見せてくれてたけど……動かないと気も紛れないしね。しょうがない。
というかさー……ヴァンはほんと……いやヴァンにも事情があるってのは分かるよ? 分かるけどさー……もうちょっとやり方なかったわけ?
私はヴァンの事情を知ってるからまだいいけどエレインちゃんとか見てらんないんだけど? 私的には2人とも友達だったから普通に溜息を吐きたい気分だよ。ほんと。まあそれでもエレインちゃんが可哀想だからヴァンには怒りが勝つけどね! 次会ったらドロップキックだ。それでエレインちゃんにも謝ってもらってそれで許そう。私も人に説教出来るような人間じゃないからね! 特に何か言いたいことがあるとかはないんで次会ったらまた甘いものでも奢ってもらおうかな。
ってことで私の学生生活には結構な変化が起きた。それでも学校は楽しいし充実してるけど……生憎と学校と表の仕事ばっかりやってるわけにもいかないんだよねー。
なのでここからは私の裏の顔──執行者としての活動について語らないといけない。
学藝祭の最終日にやって来たレーヴェから計画の下準備が行われつつあるのを聞いた私は久し振りに面白教授に連絡を取って《福音計画》に参加したいって希望を伝えた。断られたらどうしよう。というかまたエロ催眠を条件に出されたら嫌だなぁ、怖いなぁって思いつつの希望だったけど久し振りに会った教授は「《剣帝》から話は聞いているよ。私としては断る理由はない。結社随一の暗殺者の腕前……思う存分披露してもらおうか」とかなんとか言って《福音計画》の参加を認めてきた。
だけど私的にはその反応は予想してなかったので若干胡散臭い。え、本当に? 何か企んでる? いや、企んでないわけないんだけどさ。怒ってないの? マジ? って思ったけどどうやら面白教授は本当に怒ってないみたいで「フフ、君には以前、誤解と行き違いによって煮え湯を飲まされた経験はあるが私も《盟主》より計画を任された《蛇の使徒》の1人。過去のことは互いに水に流そうじゃないか」となんか更に信用出来ない発言が飛び出してきた。一応私が協力してくれるならそれはそれで役に立つっていう腕前をそれなりに信用してのことらしいけど本当かなぁ。教授って正直何言っても嘘に聞こえるんだよね。
でも計画に参加するには協力するしかないんだよねー。なので私は教授の指揮下に入って執行者としての活動も行うことに。しょうがない。教授はめちゃくちゃ嫌いだけど割り切りは大事。ってことで表向きはちゃんと仲良くしよう。私はそういうのは得意だからね! 昔っからどんな悪人だろうが変態だろうが仲良くしてきたし!
なので正式に動くことになったんで色々教えてもらったけど計画の遂行はおそらく来年辺りになるらしい。なので七耀暦1202年になる。へー、原作開始ってその年だったんだー。覚えてないからなるほどってなった。言われてみればそれくらいだった気がする。
そんでその時期からリベール王国内で水面下で動き始めるみたいなんだけど、そのために必要な工程を今踏んでいるんだとか。「それって何?」って聞いたけどここで教授の勿体ぶり癖が発動して曖昧なことしか教えてもらえなかった。「なに、ちょっと背中を押してあげるだけだよ」とかなんとか。私はそれを聞いて必死に頭を捻って思い出す。えーっと……なんだっけ。FCって最初はあの……リシャール大佐? 玉ねぎ剣士がクーデターを起こす話だったよね? それは覚えてる。でも途中はめちゃくちゃ曖昧だ。印象深いシーンくらいしか覚えてないので細かい話がどうなってたのかは覚えてない。
ただまあそれは成り行きでいけるだろう。私の目的はレーヴェを救出しつつなんか良い感じで計画を終わらせることなんで。ついでに原作キャラとかがちょっと見れれば私はいいかな。
そういうことなのでとりあえず今は教授の指示に従って動くことに。なので今日は学校の一学期が終わって夏休みを利用して遥々と──エレボニア帝国までやって来ていた。そしてその辺境地帯で私は檄を飛ばす。
「あーもう違う違う! そうじゃないって!」
「っ……申し訳ありません……!」
「だからこう! こう……シュッと動いてパッと刺す! そんで来たらシャッて動く! 隠れる時はなんかこう……ぬーんって感じ? ゆら~でもいいけどどっちかって言うとぬーんが達人にも気づかれないと思う! 私の体感的には!」
「わ、分からない……」
「くそ……なんなんだこの女は……」
エレボニア帝国辺境の渓谷地帯で私はその《ジェスター猟兵団》って人達に親切に指導をしてあげてる。
なんでも彼らはカンパネルラの手持ちの猟兵団の1つで密かに結社の手先として操っている人達なのだ。彼らの団長は結社の操り人形みたいなものなのでどうにでも好きに動かすことが出来るし、なので計画遂行のためにも色々と動いてもらうらしい。
だから彼らの戦力を増強することは計画遂行の役に立つ。ってことで私ともう1人で稽古を付けてる。もう1人は当然のこの人だ。
「苦労しているようだな」
「ああ、レーヴェ……うん。なんで出来ないんだろ。私の指導が悪いのかな……凡人の私にも死ぬほど頑張れば割とすぐに出来たことなのに……」
「指導の良し悪しはともかく、お前が凡庸だとするなら相手はそれ以上に凡庸な連中だ。成果を期待せずに行えばいいだろう」
「レーヴェがそう言うならそうなのかな……そうかも……でも私にも出来たんだけどな……」
近くの偵察から帰ってきたレーヴェが稽古の進展を見て声を掛けてくれる。そうしてジェスター猟兵団の皆をけなしたけど実際のところどうなんだろう。私は自分に戦いの才能があるとは思ってないんだけどな。というか別になくていい。人間をやめるのは《理》に至ってる達人の皆様方だけで十分でしょ。私本業はデザイナーなので!
「それより退屈しているのならどうだ? 久し振りに、俺と手合わせをしてみるというのは」
「え~。レーヴェと? 相手にならないと思うけどなぁ」
「フッ、そう悲観することもないと思うがな。執行者となって6年。お前の実力は十分に高まっている。他の執行者と比べても何ら遜色ないだろう」
「そう? そうは思えないけど……まあレーヴェが言ってくれるならちょっとは自信つくかも! ありがとね!」
「ああ。お前に足りないのは強いて言うならば精神力。それとここぞと言う時における集中力になるだろう。それを養うためにも少し稽古を付けてやる──さあ、構えろ」
言ってレーヴェが魔剣《ケルンバイター》を空間から取り出して構える。うわぁ、マジかー。確かにレーヴェとの稽古は別にそんなに嫌いんじゃないけど《剣帝》と稽古ってなるとさすがに腰が引けそうになる。
でもしょうがない。私も大きな事件に関与することを考えると多少は強くなっとかないといつ死ぬか分かんないし頑張ろう。そうと決まればテンション上げるぞー。《ゾルフシャマール》を取り出して構えつつ頭の中で銀の意思流して──よーし、勝負だー!
──そうしてレーヴェと稽古をすることしばらく。
「……やっぱり《剣帝》には勝てなかったよ……」
「ああ。俺の勝ちだが……やはり動きは悪くない」
「ほ、ほんと? 私強くなってる?」
「ああ。太刀筋に身のこなし。身体の硬さも含めて最初に会った頃に比べてあらゆる面で遥かに成長している。その腕前ならば問題ないだろう。リベール国内で今のお前と一対一で対等以上に戦える相手は片手の指で足りるかどうか──というところだろうな」
「えっ? そんなに強い? 嘘だー。絶対もっといるでしょ。《剣聖》とかいる国だよ?」
「フ……確かに《剣聖》が相手となると少々荷は重いだろうが、それでもこの《剣帝》とここまで戦えるならば足止め程度なら叶うだろう。そしてそれ以外の者達であれば腰が引ける必要もない。もし戦うようなことになったら遠慮なくやるといい」
「そうかなぁ……まあでもレーヴェが言うなら一応覚えとこうかな」
「ああ。それでいい」
あんまり自信ないけどレーヴェがめちゃくちゃ褒めてくれるんでそれに甘えることにしよう。でも実際そういう場面になったら逃げたくなりそうだなぁ……強い人との戦いってキツいからどうしても苦手なんだよね……って、あ、レーヴェが剣をしまった上で近づいてきて私の頭の上に手を──
「──強くなったな、アーヤ」
え……キュン……びっくりした……そんな急に昔みたいにイケメンにしか許されない頭撫で微笑をされたらびっくりするじゃん……子供の時は子供の時で甘えられたけど私ってもう殆ど女の子だから昔みたいにそうやって子供扱いで撫でられると照れとか子供扱いしないでほしいとか色んな感情がないまぜになってキュンキュンするんだけど? いやほんとやめてほしい。女の子な部分が疼いてくる。くそう……なんてイケメンなんだ……イケメンがこういうこと普通にやってくるのズルい……! ヴィータお姉ちゃんとの協定破りで好きになっちゃいそうになる……!
……でもまあちょっとくらい甘えても許されるよね? しかも子供の頃からの付き合いのお兄ちゃん的存在だし。ってことでしばらくこうして甘えよう。えへへ~♡
「──中々良い戦いを見させてもらったよ」
「!」
「え? ──あ」
──と、私がレーヴェの手に甘えようと顔を弛緩させていると陣地に人がやって来た。しかも思わせぶりな発言と共に。
それを私もレーヴェも気づいて視線を向けると……うわ、うわうわうわ……来たよこいつが……というか空気読んでくれない? はぁ……せっかくの癒やしタイムだったのに……。
「……《黒の工房》の人間か。何の用だ?」
「ああ、その通り。《十三工房》に参画する《黒の工房》の人間……つまりは君たち結社の協力者だ。《白面》から今日この日に君たちがここで演習すると耳にしたのでね。挨拶がてら少し顔を出させてもらった」
真っ黒いコートを着た白い髪の男はそんな風に私達に声を掛けてきた。そして名乗らなかったが私は知ってる。こいつはあれだ。帝国に巣食う最悪の怨霊の《黒のアルベリヒ》だ……はぁ……嫌だ……普通に関わり合いになりたくない……前々から存在は知ってたし関わるのは実は初めてじゃないから叫ばないけど普通にやだなぁ。レーヴェをそれとなく盾に出来るように隠れよっと。斜め後ろ辺りに移動して、と。はい。後は勝手にやってくださーい。私は話したくないでーす。
「挨拶とはまた戯言を。たったそれだけの用事で態々俺達に会いに来るとは思えん。用件があるなら勿体ぶらずに口にしたらどうだ」
「フフ、これは失敬。挨拶というのもあながち嘘ではないのだがね。確かに主目的は別にある。──そこの《血染の裁縫師》殿にね」
レーヴェの言葉に意味深に笑って答えるアルベリヒは名指しで私に視線を向けた──え、私? は? え? い、嫌なんですけど……急に何?
とはいえ無視するわけにもいかないので答えるんですけどね!
「ええっと……私に用事ですか?」
「ああ。君の追加装備を納品しに来たのだよ」
「装備ですか? そんなの頼んでないですけど誰かと間違えてません?」
「いいや、君で合っているとも。聞いていないかな? ヨルグ・ローゼンベルクにF・ノバルティス……《十三工房》を代表する師弟が調整した君専用の人形兵器があっただろう」
押し売りなら帰ってくれるかなーって思った私だけどその発言には一応の心当たりがある。私専用の人形といえば……。
「あーマキナのことですか? でもあれは……」
「事情は聞いている。教団という悪しき輩に破壊されてしまったのだろう? その修理費用が払えないため、人形は《ローゼンベルク工房》に預けられたと聞いている。──しかし、統括者ノバルティスから依頼があってね」
「依頼だと?」
「ああ──アーヤに同調したその人形兵器マキナを、我ら《黒の工房》に改修を施してほしいとね」
「改修? それって……改造したってことですか?」
「その通りだ。そしてそれを君に納品するように指示を貰ったのでね。直接届けに来たという訳だ」
いや、その通りだ、じゃないんですけど……勝手に改造しないでもらえます? 壊れたとはいえ私のなんですけど……これヨルグおじいちゃん知ってるのかな? またなんかエロ博士かこの怨霊のどっちかが勝手に持ち出して改造していったんじゃ……もしくはそれを改造したんじゃなくてデータをぶっこ抜いてそれを元に作ったとかだったりして……どちらにせよそれならいらないなぁ……だってそれってマキナじゃないし──
「そういう訳でね。早速、お見せしよう。──出てきたまえ《エクス=マキナ》」
『ハイ! オヒサシブリデス! マスター!』
「うわ────ん!! マキナ―!! 会いたかったよー!!」
『マスタ────!! 私モ会イタカッタデス──!! ウワ────ン!!』
空間から出てきた白銀色の髪をした可愛らしいローゼンベルク人形のマキナを私はひしっと抱きしめる。完全にマキナじゃん! 私には分かる! 心が通じ合ってるからね! これはマキナだ!
「フフ、喜んでくれたようで何よりだよ」
「……一見普通のローゼンベルク人形のようだが、空間から現れたということは人形兵器……いや、噂の《戦術殻》のような機能を搭載しているのか」
「ほう……よくぞ気づいてくれた。確かにその《エクス=マキナ》には我ら《黒の工房》の戦術殻とほぼ同じ技術を搭載させてもらった。使用者への生体認証と同期……つまり、君の意思に従って自在に行動することが可能なようにね」
「え、そうなの?」
『ソウダッタンデスカ?』
「……何故人形の方が惚けている?」
「気にする必要はない。ただ同調しているに過ぎないからね」
「つまりアーヤ自身が動かしているということか」
「え、そうなの? 自分で動いてるんじゃないの?」
『知リマセンデシタ……知リタクナカッタ……』
私はアルベリヒから聞いた説明をマキナ自身に聞いてみるもなんだか人間らしい返答が返ってきたので困惑する。……本当に私が動かしてるの? これ。なんか勝手に動いてるように感じるんだけど。本当に同調してる? 全然同期してる感じしない……。
「フフ、まあ少々間抜けだが、性能は保証しよう。並の人形兵器に比べて火力も耐久性も利便性も勝っている──どうだね? 気に入ってくれたかな?」
「ああ、はい、まあ……確かに見た目も良いし性能もパワーアップしてそうな気はしますけど……」
『デモオ高インデショウ?』
「何、金額についてはそれほど気にしなくても構わない。これは我らが勝手に行ったことなのでね。強いて言うならその共同開発自体が報酬になっている」
「それほど……? じゃあやっぱ払うんですか?」
『クーリングオフ効キマス?』
「多少の気持ちは頂ければいいとは思うがね。ああ、もちろん払わなくても構わないよ。君が払わないのであればノバルティス博士に請求するだけだからね」
アルベリヒは胡散臭い悪徳商人のように私にそう告げてきた。えー……どうしよう……確かにマキナ修理してもらってしかも強化してくれたのはありがたいんだけど……お金は今表の仕事のために貯めてる最中だし……かといってノバルティスのエロ博士にツケておくのもなぁ……なんかまた変な実験に巻き込まれそうだし……。
……よし。しょうがない。払おう。ってことで私は尋ねる。
「幾らですか?」
「ほう、君が払ってくれるのかな?」
「一応修理してもらったのは事実なんで……あんまり高いのは困りますけど……」
「ふむ、素晴らしい心がけだ。ならばどうだろう。更に金額を譲歩する代わりに、私からの依頼を行ってもらうというのは」
「……え、依頼ですか?」
あれ? なんか胡散臭い話の流れになってきた。依頼って言われると怖い。これが遊撃士とか特務支援課とかトールズⅦ組とか裏解決屋ならまだ安心出来るけど私執行者で相手工房長なんですよ。全然安心出来ない。
「そんなに身構える必要はない。少し戦闘データを取らせてくれればそれで構わない」
「──あ、本当ですか? 確かにそれくらいならいいかも……」
案外簡単な依頼内容だったため私はちょっと安心する。良かったぁ。すっごい良い声で「君の《巨イナル乳》を揉ませてくれたまえ」とか言われたらどうしようかと思った。この黒のアルベリヒって本当にどうかしてるよね。でも怨霊の言うことにしてはマシな依頼だ。
「……アーヤ」
「ん、何、レーヴェ?」
「依頼をこなすのは構わないが少しは警戒することを覚えた方がいい。甘い話には必ず裏があるものだ」
「フフ、心外だな《剣帝》。私の言葉に嘘はないとも。その戦術殻を開発しただけで、既に貰いすぎな程に報酬は貰っているからね」
「どうだかな。そう言うなら依頼などと言わず無償にしてやったらどうだ」
「そうしてやりたいのは山々だが、我が工房も懐事情には悩まされていてね。──どうだろう。もし受けてくれるなら今後もそのマキナに何かあった時に無償で修理を請け負っても構わないが?」
えー……そう言われるとなぁ……確かにレーヴェの言う通りアルベリヒは怖いし信用ならないけどただデータが欲しいってくらいなら別に……というかもうデータなんて腐るほど取られてるし……それくらいなら害も何もないと思うんだけど……。
「……分かった。戦闘データでいいんですね?」
「ああ。こちらの指定する魔獣に猟兵団と適当に戦って貰えればそれで構わない。そしてそれを尋ねてくるということは、受けて貰えると思っても構わないかな?」
「本当にそれだけならまあ……あ、でももし嘘ついてたら契約違反で色々ふんだくるからね!」
「フフ──なら契約成立だな」
私は仕方なくアルベリヒの依頼を受けることにする。まあ戦うだけだしね。実際マキナ……えっと《エクス=マキナ》だっけ。その性能も確かめたいし。実際レーヴェは《ドラギオン》持ってたりレンは《パテル=マテル》持ってるしで実際便利な人形は欲しかったんだよね。しかも可愛いし。アルベリヒは怨霊だけど黒の工房の製品は評判も悪くないし、壊れにくくなっただけでも収穫はある。
そんな訳で私は一旦レーヴェと別れてアルベリヒに聞いて指定の戦闘区域に向かうことにした。まあ魔獣とか猟兵団くらいどうとでもなるでしょ! レーヴェも私は結構強くなったって言ってたし! そこらの猟兵団くらいなら全然──
「──ほーう? 中々やるじゃねぇの。こりゃ気合いを入れてやる必要がありそうだな?」
「……とはいえこの戦力差。些か大人気なくもあるが」
「ホンマやで。幾ら結社の執行者言うてもこれをひっくり返すのは無理やろ」
「こらこら、アンタ達甘く見るんじゃないよ。あんななりでも戦場に出ている以上は戦士だ。手加減する方が失礼ってもんさね。──
「……ん、分かった。気をつけて援護に徹する」
──私はある戦場で囲まれていた。大陸西部最強の猟兵団……《西風の旅団》に。
「あ、あはは……そこはちょっと……手加減してくれたらなーって……ほら、私可愛いしか弱いし……というかもう逃げたいし……し、白旗上げるんで許してくれたりとか……」
「ハハ、まあ命くらいは助けてやっても全然構わねぇが……何にせよ、そういう話は戦いが終わってからだな。せっかく猟兵の戦場まで来たんだ。《猟兵王》として、もうちょっと歓迎させてもらうぜ……!!」
私の白旗宣言をかるくいなして西風の旅団長──《猟兵王》ルトガー・クラウゼルはその化け物みたいな武器を振り回して私に向かってくる。それを私は何とか受け止めながら叫んだ。はい、せーのってね。──うわああああん!!? 《西風の旅団》だー!! 《猟兵王》に《破壊獣》に《罠使い》に《火喰鳥》にオールスターだー!!? でもフィーちゃんは可愛いー!! でも殺される──!! 今度こそ死ぬ──!! 誰か助けて──!!
──そうして私は《西風の旅団》と戦い、捕虜となった後に色々あって何とか解放された。はぁ……最悪だ……でも死ななくて良かったぁ……。
そんなこんなで今回は黒のアルベリヒと西風でした。次回は西風と色々ありつつもうちょっと帝国で遊びます。そんで終わり頃には原作開始かなって。その後はちょっと休みたい。今日で1か月連続投稿してるんで1日か2日くらいね。
ちなみに今日は軌跡シリーズ20周年らしいです。空の軌跡FCの発売日とのことでおめでとうございます。ってことで次回もお楽しみに。
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