──猟兵にとって主義や主張は大した問題じゃねぇ。雇い主の意向で誰とでも戦うのが猟兵って生き方だ。
だからこそ誰とでも戦うし誰とでも殺し合う。昨日まで一緒に飲んでた奴に殺し殺され迷惑をかけかけられってのも日常茶飯事。一山幾らかの金を得るために幾つもの戦場を味わい尽くす。それが俺たち猟兵って生き物だ。
そんでだからこそ、戦い殺し合ったからといって、その相手を嫌い憎むとは限らねぇ。特に俺の場合は命を狙われたからって別にそれは悪感情に繋がることでもねぇ。大したことじゃねぇからな。猟兵なんて生き方をしてる以上は命を狙われるなんざ当たり前だし、逆にこっちが狙うことだってある。それを楽しみこそすれ恨むことはねぇ。まあやられたらやり返したくなるってのもあるがそれも雇い主やノリ次第だ。バルデル率いる《赤い星座》の相手ともなると俺も結構熱くなっちまうしな。
だからそいつに関しても俺は面白い嬢ちゃんがいるもんだとしか思わなかったぜ。
俺たち《西風の旅団》がエレボニア帝国辺境の山間部に向かったのは当然、雇い主の意向を受けてそこにいる猟兵共を殲滅してやるためだった。雇い主はエレボニア帝国の貴族で依頼はたった数時間前に受けたばかりのもの。
辺境とはいえあんまり暴れられると都合が悪いってんでな。だったら俺たちが始末してきてやるよと依頼を引き受けてやったわけだ。
そうしてその戦場──複数の猟兵団が争い合うその場所で俺たちはいつも通り仕事をこなそうとした。
だがそこで偶然見つけてな。他の猟兵共を戦場で次々と殺しまくる中東人の嬢ちゃん──バカでかい鋏みたいな得物を使って躊躇いなく人を殺すその嬢ちゃんは猟兵というよりは暗殺者だ。
他の連中は何者だって驚いてたが俺の頭には1つ思い浮かんだ奴がいる。何年か前にノーザンブリアで暴れまわった《北の猟兵襲撃事件》の首謀者は、確か中東人の女のガキでしかも最近噂の結社の執行者だったって話だ。
目の前の嬢ちゃんはガキって歳でもねぇが、数年経って成長したってんなら説明がつくし、何よりあんな得物を使う奴はそういねぇ。
だからこそ俺には見当がついた。そんで暴れる連中を始末しろって依頼だったからな。一応ここで暴れてる嬢ちゃんに関しても標的に当たる訳だし、ちょっくら相手にしてやるかと他の猟兵の相手をしながらそいつのことも嵌めてやろうとした。
「いや────!! こっち来んな──!!」
「ハハ! やりやがる! 大した悪運だな嬢ちゃん! 俺らの包囲を突破しやがるとはよ!」
だが久し振りに苦労したぜ。
包囲するところまでは上手くいったんだがな。その後どういう訳か巨大な魔獣がその嬢ちゃんの方に突っ込んできてよ。その隙を突いてそいつは上手く包囲から抜け出しやがった。
俺も悪運には恵まれてる方だと自負してるがこの嬢ちゃんはどうやら俺以上に妙な運に恵まれてるみてぇだな。いや、あるいは不運っつうのか? どういう訳か俺の手の尽くを辛うじて、ギリギリのところで回避して戦闘を継続させやがる。腕の方はその歳にしちゃ大したもんでもさすがに俺たちが総出でかかればすぐに捕らえられると踏んでたんだが当てが外れちまった。マキナとか呼んでた人形兵器もそこそこ厄介で面倒だったぜ。すぐに壊したけどな。妙に人間っぽくてちょっとだけ気にはなったが。
後はとにかく硬くてな。アイーダの狙撃を食らってもレオの一撃を食らっても軽傷で済んでんだから大したもんだぜ。さすがにあそこまでのタフさは俺も真似出来ねぇな。なんならフィーの攻撃なんて完全に無視してやがった。アドレナリンが出てるにしても普通弾を食らったら多少は怯むもんなんだがな。俺との追いかけっこに夢中で気づきもしねぇ。スタミナも大したもんだ。こりゃガキの頃から相当鍛えられてんな。
別にこのまま追いかけっこを楽しんでも良かったが、雇い主からはあんまり長引かせるなって要望が来てるからな。俺は仕方なくゼノに罠を張ってもらって上手くそこに誘い込んで嬢ちゃんを爆破。それに怯んでる隙にレオが抑え込んで捕えた。腕力もそこそこあるみてぇだがさすがに俺やレオには敵わねぇ。そんで捕まえることには成功したが、それでも嬢ちゃんは元気に「命だけは助けてー!」だの「乱暴するつもりでしょ! エロ同人みたいに!」だの「くっ殺──いや、殺さないで!」だの賑やかに命乞いをしてやがった。別に殺すつもりはないってのによ。過剰にビビりやがる。随分と人を殺してきてんだろうにおかしな奴だった。
俺はそれが面白くてとりあえず戦いの後の飲みに誘ってな。まあまだ未成年で飲めねぇのは残念だったが誘ってやるとえらく乗り気でよ。こいつ、表面上はビビってるように見えて内心じゃ全く俺たちに物怖じしちゃいねぇ。なんならさっきの戦闘で負った怪我も殆ど完治してやがる。あれからまだ3時間かそこらしか経ってねぇってのによ。
だがそれはそれで楽しめるってもんだ。色々と話も聞いてみてぇしなってことで俺たちは酒を飲みながら嬢ちゃんに根掘り葉掘り聞いてやったぜ。捕虜に対する尋問は猟兵の基本中の基本だ。抜かりはねぇ。
まあとはいえ聞けたのはほんの一部だ。結社については答えるとマズイってんでさすがに口を閉ざしてた。聞けたのはその嬢ちゃん──執行者No.ⅩⅢ《血染の裁縫師》アーヤ・サイードって名乗った嬢ちゃん本人のことと、その嬢ちゃんにセクハラをしてくる面白い使徒がいるって話だけだ。
後は服作りが得意だとか飯は辛いものが好きだから辛いものを注文してほしいだのくだらないことばかりだったが、まあそれも悪くはねぇ。俺たちにも興味を示してるようで、特にフィーのことは気になってたみたいだったな。まあこんなむさ苦しい連中の中に1人ガキがいるんだから無理もないが。フィーも警戒はしてたが血染の嬢ちゃんが思ったより明るくてバカなもんだから結局は少し話して嬢ちゃんの方からプレゼントでちょっとしたハンカチを渡してたぜ。器用なもんで俺たち西風のシンボルをその場で刺繍してやがった。そのことを口にすれば「もっと材料とかが揃ってたら服とかアクセサリーもプレゼントしたんだけどね」って言ってよ。感心したしフィーも地味に喜んでたぜ。やっぱ女の子ってのはアクセサリーや服なんかをプレゼントされた方が嬉しいもんなのかもしれねぇな。俺たちが上げられるのは武器や戦い方や生き残り方くらいしかねぇから無理そうだが気が向いたら何か買い与えてやるのも悪くねぇ。
そんでその後は酒が飲めないならこいつはどうだって賭け事に誘ってやった。シンプルなトランプのポーカー勝負。それに勝ったらここから出ていっても構わねぇぜって条件でな。
そして勝負を始めたんだが──俺は驚いたぜ。嬢ちゃんは最初の一発目でいきなりロイヤルストレートフラッシュを出しやがった。それもイカサマなんざ使ってねぇ。完全な運で引き当てやがった。
一発目はぼちぼちってんでチップを賭けてた俺たちは当然負けちまって嬢ちゃんは飛び上がるほど喜んでた。これで逃げられちまうが……ま、どの道適当なところで帰してやるつもりだったし、そもそもこんな勝ち方をされちゃ文句も言えねぇ。
だから快く帰してやることにしたんだが……嬢ちゃんはそこで言いやがった「いや、倍プッシュだ……!」ってよ。
どうやら金はそこそこ持ってるらしいからここからは金を賭けて勝負をしようと持ちかけてきた。面白いことにな。まさか更に巻き上げようとしやがるとはさすがの俺も読めなかったぜ。
だが面白ぇ。そういうことなら乗ってやると俺も金を賭けて再びのポーカー勝負。駆け引きも全開で嬢ちゃんとのヒリつく勝負を存分に味わい尽くしてやろうとして──俺はしばらくしてまた驚き、そして爆笑した。
「ハハ……! おいおい、まさか
「な、なんでぇ……ぐすっ……お、お金が……ううっ……私の金ぇ……」
「どうやら最初の勝負で全運を使いきっちまったみてぇだな。面白いもんを見せてもらったが……クク、悪いがこれも勝負だ。大人しく帰してやるから金は諦めな」
「鬼! 悪魔! 亡者! こんな可愛い子からお金を巻き上げるなんて人でなしー! 煉獄に落ちろー!! うわあああああん!!」
「ああ、中々楽しい勝負だったぜ。またどこかでな」
──血染の嬢ちゃんは100万近く負けて泣きながら店の外へと飛び出していった。俺はそれを軽く見送る。中々面白い奴だったぜ。アーヤ・サイードか。逃がしちまったが、またどこかで会う機会もあんだろ。その時はもっと対等な条件でやり合ってみたいもんだな。
──おそようございます。執行者No.ⅩⅢ《血染の裁縫師》アーヤ・サイードです。好きなトランプゲームはスピード。好きなカードゲームは遊◯王です。賭け事も好きだったけど最近ちょっと嫌いになりました。
さてさて、今日も私はなんやかんやあってエレボニア帝国に来てるけどその前に近況報告。私は執行者である前に学生でデザイナーなんでそっちの進展から。
夏休みに《黒の工房》からの依頼で猟兵団と戦っている最中に偶然現れた《西風の旅団》とやり合って依頼でもないのに戦い、捕まって賭け事で金をふんだくられて逃げ帰った後、私は壊れた《エクス=マキナ》をアルベリヒに直してもらってから共和国にとんぼ返り。学校と仕事に精を出し始めたんだけど……まあ学校の方は相変わらずかな。
強いて言うならエレインちゃんがようやく元気が出てきたこととルネっち先輩が卒業を控えて進路を色々と考え始めたことであんまり遊んでくれなくなったことだ。
まあ私の方もデザイナーとしての仕事があるのであんまり時間が取れないのもある。2人ともちょっと疎遠になってしまった感じがして若干寂しい気もするけどたまに会うとちゃんと私に付き合って笑顔を見せてくれたり怒ってくれたりするためそんなに心配はしてない。私は友達付き合いもちゃんとする女だからね。誕生日とか何かあった時は服とか何か使えるものをプレゼントしていたりする。
例えば私がよく行く《モンマルト》のビクトルさんと、最近実家に帰ってきたことで知り合ったビクトルさんの娘さんであるめちゃくちゃ美人のポーレットさんには赤ん坊のユメちゃんをビクトルさんの助けがあるとはいえ女手一つで育てて大変そうなので赤ちゃん用のよだれかけとか洋服とかをプレゼントしてあげた。いつもビクトルさんには美味しい料理をご馳走してもらってるからね。赤ちゃんとか子供の服はすぐに成長して着れなくなるけどまあその都度プレゼントしてあげればいいだけだしね。手抜きもしてないしちゃんと肌触りの良い生地を使った。こんなに良いものじゃなくてもいいのにとは言ってたけどプレゼントだから。私に出来ることはこれくらいしかないのでいい。他にあるとすればこんな良い女のポーレットさんを捨てたどこかのZ1レーサーのアレをちょん切ってくることくらいだけどさすがの私も表の人間に仕事でもないのにそんなことはしない。冗談ね冗談。
とまあ私は人付き合いは大事にしてるので忙しい時でもまめにそういうことはやったりする。特に最近はデザイナーとしてスタッフを集めてる関係上、人の縁の大事さを実感してるところだ。
というのもようやくスタッフもちょこちょこ集まってきた。二学期の最後の方、年末近くに開催されるイーディス・ファッションウィークでも私のデザインした服を出したので知名度も更に上がったんだよね。その前からブティックに置いた私の服がすぐ売れるようになって若干話題にはなってたんだけどこの秋に公開された私が衣装提供を行った導力映画がヒットしたこともあってファッションショーの参加を向こうのスタッフから打診されたので受けた。
そして肝心のスタッフや店舗、そして既製服を作る工場に関してだけど……それに関しては意外な形で幾つかは解決した。
というのも黒の工房に改造してもらった私の《エクス=マキナ》が裁縫や型紙起こしなどの工程を行うことが出来た。しかも正確性も凄まじい。なので私の仕事の効率はめちゃくちゃ上がった。ちょっと私の手が空いてない時なんかに働いてもらうことが出来るし、オーダーメイドの注文もマキナに直接導力通信で繋がるようにしておけば私がアトリエにいない時でも受注可能。なので遠方に出かけることも、まあ、多少は気軽に出来るようになった。まだまだ携帯出来る導力通信機は出来てないからね。後数年もすればもうちょい楽にもなるだろうけどそれまではマキナが私の携帯電話だ。というかめっちゃ高性能だ。さすがは黒の工房。目的はカスだけど技術力は信用出来る。
そして次にスタッフに関しては夏休みに伝手を使って何人か採用した。というかほぼ全員知り合いか知り合いの伝手で紹介してもらった。営業として元会社員のトバリさん(真面目で良い人)。縫製スタッフとしてアナ先輩の社交界で付き合いのあるキララさん(服飾学校を卒業したばかりで私のデザインを好きになってくれた美人さん)などを主に採用し、パタンナー兼社長秘書に私の彼女でもあるセラちゃん。オランピアちゃんも縫製チームに参加してもらって──と言いたいところだけど毎回手伝える訳じゃないから臨時スタッフというか私の個人的なアシスタントって肩書になるかもしれない。なので普段はシーナちゃんにお願いしつつあまりにも作業が正確な人形のマキナちゃんにもお願いしつつ頑張る。
という訳である程度スタッフも増えたので二学期からは更に忙しくも作業を分担しながら過ごしつつ、コレクションを終えてからは更に本格的に動き出した。4区のタイレル地区で何とか借りれるテナントを借りて1号店となる店舗を出店。既製服を作るための工場はなんとセラちゃんが探してきてくれた。それが微妙に《庭園》の集まりに使う屋敷の近くにあるのが気になったけどそれほど遠くもないし立地も悪くない。なので今度はそこで働いてもらうスタッフがまた必要になるんだけどそっちはもう任せた。これくらいになるともう私には分かんない。とりあえず私のデザインした服がちゃんと完成して皆に行き渡るなら何でもいい。
なので相変わらずオートクチュールメゾンとしては稼働しつつも新たに私のブランドの既製服を置く店舗を準備中。店舗の方はショーの前から準備は進めてたので年明けにはなんとか開店出来そうかなって感じだ。ふふ、ショーで話題になった後に間髪入れずに店舗を出店するというこの話題にしっかりと乗っかっていくスタイル。もしかしたら私って商才があったのかもしれない──まあ考えたのほとんど周りの人達なんだけどね! 私は相変わらず服作ってただけで細かいことは全部周りに要望だけ伝えて投げた。だって分かんないんだもん! 餅は餅屋。私はデザイン書いてパターン起こして縫製して服を作るだけでいいよねって。
──そうして私のために頑張ってくれる人達がありがたいことに結構いるので平行して動いてもらいつつ……私はまたしても裏の仕事のために帝国まで一旦やってきたって感じだ。表向きは旅行と視察とパトロン探しってところかな。まだ先とはいえ軌道に乗ってきたら帝国にも店舗を出店するかもしれないしね。
ってことでやってきたのはエレボニア帝国の5大都市の1つ。西部ラマール州にある《紺碧の海都》オルディス。海がとっても綺麗な港町で帝国でも帝都ヘイムダルの次に大きな街だ! 私は割と海が好きなので海沿いの街も大好き。将来はこういうおしゃれな街に別荘でも建てて優雅に暮らしたい。
というかやっぱり帝国っていいね。なんだかんだ思い出深いというか行きたい場所は沢山あるのでこの目で見れてちょっと嬉しい。
でも今まではめちゃくちゃ警戒して出来る限り行かないようにはしてた。なんでかってこの国呪い塗れだし、そもそもこの国のトップにいる奴がマジモンのチート化け物なので本当に関わりたくなかった。そしてそのトップを除いたとしても帝国はチート武人だらけのやべー場所だから来たくなかった。でもいつまでもそうは言ってられないし、そもそも現時点ではエレボニア帝国のトップと結社は協定を結んでるので気軽に入国しても大丈夫。私の存在がバレてるかはともかくとしてバレてても大丈夫なはず。なのでこの機会にやって来た。用事があるんだよね。ここにいる《蛇の使徒》に。
「──久し振りね。アーヤ」
「ヴィータお姉さん久し振りー! 元気だった?」
「ええ。貴方は色んな意味で随分と成長したみたいね。聞いたわよ。学生としてもデザイナーとしても頑張ってるんですってね」
「めちゃくちゃ頑張ってるよ! なのでヴィータお姉さんも良ければ依頼してね! 特別価格で衣装を仕立てますから!」
「フフ、ありがとう。それはその内本当に検討させてもらうわ」
「ありがとうございまーす! 私もヴィータお姉さんに似合う衣装考えときますね!」
──はい。ということでオルディスにやって来た私を出迎えてくれたのは蛇の使徒第二柱《蒼の深淵》ヴィータ・クロチルダ。
結社きっての魔女でありこの帝国でオペラ歌手として仮初の姿を演じている美女である。また久し振りに会ったけどまた美人になってる。それにめっちゃ良い声だ。またASMR聞こう。ヴィータお姉ちゃんに会った後にあれ聞くとすごい興奮するんだよね。
「さて……せっかく来たのだからもう少し話していたいのは山々だけれど貴方も忙しいのよね?」
「あっ、はい。ちょうど忙しい時期で……」
「私も今は込み入ってるのよね。これから導き手としてやるべきこともあるし……なので教授から頼まれた案件を早速こなすとしましょうか」
「はい! お願いしまーす!」
と、そこからはヴィータお姉ちゃんとデートと洒落込みたいところだったけど残念ながら私もヴィータお姉ちゃんも忙しいんだよね。私は私で表と裏の仕事でバタバタしてるし、ヴィータお姉ちゃんもそれは同じでオペラ歌手としても使徒としても今はやることがあるらしい。特に裏。導き手とか言ってるってことはもしかして……あー、今この時期くらいなんだっけ? 覚えてないけど多分そうかも。あれだ。クロウが起動者になるのが近づいてるのかもしれない。《福音計画》は教授主導だけどその次のまたややこしい計画はヴィータお姉ちゃんが一応主導だからね。一応。詳しくは今は割愛するけどこの次の結社の計画は本当に二転三転して……ま、考えるのは後でいいや。
とりあえず今はヴィータお姉ちゃんの特殊な術──魔女としての術をかけて貰うことにする。必要なことなんだよね。教授からも言われたので態々会いに来た。
「──これでいいわ。これで貴方を知ってる人も過去の貴方と今の貴方を同一人物とは思わなくなるはずよ」
「おお……すごい。そんなこと本当に出来るんだ」
「とはいえこれはあくまで一時的な、それも教授の暗示の影響にある彼限定の術よ。それに貴方相手だと特殊に作用する可能性もあるから過信しないようにね。教授の暗示が解けたら同時にこの認識を阻害する術も解けてしまうから気をつけなさい」
「はーい」
ヴィータお姉ちゃんからの説明を受けて私は頷く。そう、この術はリベールでもしヨシュア君と遭遇した時のための保険だ。
当然だけど私とヨシュア君は知り合いなのでもし私と遭遇したら幾ら私の見た目が過去よりも成長しているとはいえ気づかれる可能性がある。なのでそれを防ぐために最も優秀な魔女の術をかけてもらった。しかも教授の対象の記憶を操作する暗示との合わせ技なので大分やばい。
──え? そんなに心配なら教授がネタバラシをした後でリベールに行けばいいじゃんって? いやまあそれはそうなんだけどね。ただそういう訳にもいかない。私は私で仕事を幾つか頼まれてるんで先にリベール入りすることになったし。
しかもその際は学校生活との兼ね合いもある上に表の肩書として都合が良いとのことで、学生として
そういう訳なので余計にヨシュア君と顔を合わせる可能性が高い。なのでヴィータさんに術をかけてもらったらすぐにまた共和国に帰るのだが──
「それじゃあまたね」
「次はゆっくり話しましょう!」
「ああ、それと言い忘れてたけど……
「はい! それは是非──あっ」
去り際に良い笑顔で私にそんなことを告げてくるヴィータお姉ちゃんに私は思う。まずい、と。遂に気づいてしまったか、あのボイスの意味に。
「あ、あー……あれはですね……何と言いますか、その……」
「フフ、まあどういうつもりなのかは大体分かっているし、それほど怒ってはないわよ。ただ、これは貸しにしておくから。いずれ返してもらうわね?」
「あ、はい……それはどうぞ、好きにお使いください……」
「そうさせてもらうわ。それじゃあ今度こそさよならね──あ、レオンのことは引き続きお願いね。そっちも変わらず頼りにさせてもらうわ」
「りょ、了解ですっ! それではまたっ!」
そして最後にまたレーヴェのことも頼まれてから私はヴィータお姉ちゃんと別れた。ふぅ、良かった。あんまり怒ってはないみたい。まあヴィータお姉ちゃんも噂によると結構えっちだからね。そういうのにも寛容みたいだ。……ワンチャンまた録れたりしないかな……もしくはえっちな関係になったり……って、いやいや、さすがにそれはないし危険な思考すぎる。やめろ私。ムラムラしてきて思考がえっちになってきてる。またセラちゃんとシーナちゃんに慰めて貰わないと……彼女がいて良かった。
──そうして私は帝国での準備を終え、更にその間に年が明けて私も誕生日を迎えて18歳に。表の仕事も順調に進展し、裏では地味に私が育ててるイクスとヨルダがようやく見習いを卒業して暗殺者として本格的に動くことになったりとかのことも地味にありつつも時は過ぎた。
そして更に諸々の準備。イクスとヨルダを預け、リベールへの留学手続きを行い、レーヴェがロランス・ベルガー少尉としてリベール王国情報部に引き抜かれることになったのを見送りつつ……なんてことをしていると遂に季節は春。
私はルネっち先輩の卒業式をしっかりと笑顔とプレゼント付きで祝って送り出した後、3年生になってほぼすぐ。レーヴェや教授から少し遅れてリベール王国入りすることとなった。
「さーて、それじゃ仕事しないとなー」
リベール王国のルーアン地方。そこにあるジェニス王立学園の寮の一室。一緒に留学してきた私の秘書のセラちゃんがいない間に私はそう呟きながら寮の窓から飛び出して木の上に。そして先ほどまで見えた闇の中に入っていく。そうして合流するのは考古学者のアルバ教授──ではなく蛇の使徒である《白面》ワイスマンだ。
「フフ、よく来たね──執行者No.ⅩⅢ《血染の裁縫師》」
「教授久し振りー。それとよろしくお願いしまーす」
「ああ、リベール王国にようこそ。この国の元首に代わって歓迎させてもらおう」
うわぁ、めっちゃ嫌な感じの台詞。こういうとこだよね。教授が性格悪いって言われるの。誰も来てほしいって思ってないし歓迎もしてないしそもそも誰が代わりに言っとんねんって感じ。おまけに私を名前じゃなくて異名の方で呼ぶしさ。
でもこれからしばらくはこの性格の悪い面白教授にある程度従って動かなきゃならないんだよねー。はぁーだるー。気乗りしないってのはこういうことだ。
……まあでも仕方ない。割り切り割り切り。望んで来たことでもあるし目的もある。
「早速だが君に頼みたい仕事がある。受けてもらえるね?」
「それはもう。はい、よろこんでーって感じでちゃちゃっとやってきますよー」
なので私は教授の頼みにも快く応じる。嫌でも嫌じゃなくなる魔法の言葉。はい、よろこんでーを使ってね。精々教授を喜ばせてあげよう。
「フフ、頼もしい。では君に頼みたい仕事の内容だが──少々、不測の事態が起きてね」
「不測の事態って……なんか幸先悪くない? いきなりですか?」
「何、大したことではないのだがね。この後私が個人的に動けば済むだけの話さ。──だが君への歓迎も兼ねて君に頼むことにした」
まーた思わせぶりなことを言う教授。不測の事態って何だろう。まさかとは思うけど帝国の遊撃士協会支部襲撃事件にやっぱり行ってきてとか言うんじゃないだろうな。絶対嫌なんですけど……だってその場合相手にする可能性が高いのは《剣聖》カシウス・ブライトことチート親父1号じゃん……しかも留学したばっかりでリベール離れるとか困るんですけど!
「それはありがたいんですけど肝心の内容は?」
「簡単なことだ。例のゴスペルがある遊撃士に奪取されたと彼から報告があってね。そのゴスペルを奪い返しつつその遊撃士の口を塞ぐために彼を気絶させて私の元まで連れてきてもらいたい」
はぁ、なるほどそんなことが。ゴスペルねー。確か黒のオーブメント。計画に必要な古代の導力機だね。それが奪われたかぁ。なんか記憶に薄っすらとあるような気もするけどやっぱりあんまり覚えてないので頷きつつ先を促そう。遊撃士への襲撃はちょっと気が滅入るけどしょうがない。やれと言われたならやるしかないし。殺せと言われないだけマシかな。多分殺さないのはそんなに騒ぎにしたくないとかそんなところだろう。無力化だけならどうってことないよね。
「なるほど。それで、その遊撃士はどこの誰なんです?」
「この国のNo.2遊撃士──クルツ・ナルダンだ。B級遊撃士で近々A級への昇格予定もあると、これも彼からの報告で上がってきている」
「はぁ、クルツさんですね。了解りょうかーい。それじゃさっさと行って────」
そうして私は聞いてすぐにその場所へ向かおうと動き出し……そこで気づく。あっ、って感じで。思い出す。
クルツ……クルツってあのクルツだよね? うん、間違いない。B級遊撃士でリベールで2番目の遊撃士。近々A級にも実際になる……つまりは大陸で20人くらいしかいない遊撃士の上澄み。達人だ。実力者だ。
私はそれを思い出して、すぐに頭を悩ませた。……いや、無理じゃん……私じゃ勝てなくない? 確かに私は執行者だけどクルツって一応強かった思い出がある。かませとか呼ばれてたけどそれは相手が悪かったからであって別に弱いわけじゃない。A級遊撃士になれるのがその証拠だ。
A級を無力化させて教授に差し出すってキツすぎるし多分失敗するじゃん……どうしよう……どうやって……いや、どうやって言い訳しようかな……もう今からでもやっぱり無理ですって言って教授かレーヴェに出張ってもらう? それともこう……なんか上手いこと言い逃れる? いや、無理か……くそう。こうなったら一応はやるしかないのか。多分失敗するけど。絶対失敗するけど。でもやるしかない。こうなったら全力でやるしかない。奇襲で何とかしよう。最初の一撃で有利を取れば多少は行ける……筈。大丈夫。先制攻撃のアドバンテージはゲームでも現実でも証明されている。善良でバカな一般人の振りをしてサクッと切り裂こう。多分防がれるとは思うけどちょっとでも傷つけられれば何とかなる筈。
いやーでもやっぱり無理かなー……はぁ、翼の女神……またしても私にこんな試練を……やっぱり神って当てにならないな。仕方ないから自分の力で何とかしよう。えーっと、対象は……ああ、いたいた。それじゃあまあ適当に一当てして後は流れで──
──数時間後。
「馬鹿、な……一体、何、が……?」
その男は、血に沈んだ。
脇腹から出血し、一瞬の内に二撃目で後頭部を打撃されて彼は何が起こったの分からないまま気を失う。
そうして倒れるその男を背後から見下ろし、私は告げた。
「成功しちゃったよ……」
私は少しの間呆然し、しかしすぐに気を取り直して後始末をしながらその男──クルツ・ナルダンを教授の元に運んで暗示をかけてもらう。生憎ゴスペルはなかったけどそれでも教授からは「フフ、さすがの手際だ。これなら安心して仕事を任せられる」とお褒めの言葉を頂きながら、私は思った。
──あ、これって私がとんでもないやべー奴みたいな扱いされる流れじゃ……と。
──そうして最初から不穏な感じで私のいる『空の軌跡FC』は始まった。
今回はここまで。ということで次回から空の軌跡FCが始まります。とはいえFCはすぐ終わります。そんなに出張るとこもないので。クルツさんは弱いとは思ってないけど暗殺には弱かった。きっとそうに違いない。
次回は遂にエステルとヨシュア君です。お楽しみに。
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