──私には尊敬する先輩がいます。
それは既に卒業したルーシー先輩でもローレンツ先輩でも、いなくなってしまったレクター先輩でもなくて……もちろんその先輩方のことも尊敬していますが、私が今思っているのはアーヤ先輩のこと。
今年になってカルバード共和国のアラミス高等学校からの交換留学生としてやってきたアーヤ先輩はリベールではあまり見ない褐色の肌を持つ中東人で学生の身でありながらファッションデザイナーとして自身のブランドを持ち、オートクチュールの衣装を手掛けるすごい人です。ですから先輩はいつもお忙しそうにしています。学園にいながらも衣装を仕立ててはお客さんに送っているみたいで学業だけでなく仕事にも精力的に取り組んでいます。それでいて友達付き合いや息抜きにも全力で、学校ではいつも楽しそうにはしゃいでいます。
それだけでもすごいことですが、私が尊敬しているのはそれだけじゃなく、先輩の明るさや優しさ。そしてその──
そもそも最初の出会いからアーヤ先輩は印象的でした。
進級してすぐに留学してきた先輩の噂は聞いていましたが、最初に出会ったのは私が所用で学園を離れ、戻ってきた時。ルーアン市内を離れマーシア孤児院にいつものように遊びに行った時のことです。
先輩はスーツケースを手に孤児院を訪ね、そこにいる子供たちに服をプレゼントしていました。その時に初めてアーヤ先輩に出会い、テレサ院長から紹介されて挨拶をしました。その時に孤児院の子供たちを偶然見かけて衣服が少し古くなっていたから新しいのを送ったことを聞いて私は驚きました。
アーヤ先輩が学生の身でありながらファッションデザイナーとして成功を収めていることは噂で耳にしていましたし、王族や貴族、政財界でも評判のオートクチュールの職人であることも知っていました。
だからこそ多忙であることは理解していましたし、先輩の作る服は一着100万ミラ以上もする高級品です。布や糸の品質をある程度下げてシンプルな衣装を作ったとしても彼女自身がデザインをして服を縫うのであっても数万ミラ……あるいは10万ミラ以上はくだらないでしょう。
先輩のブランドの既製服も一着1万ミラ近くはします。そして、それだけの衣類を購入出来るほどマーシア孤児院に余裕はありません。
なのにそれをアーヤ先輩は子供たちに何のこともない、ただの贈り物だからとプレゼントしていました。マリィやポーリィが自慢するように見せてくれたので私も確認しましたが、それは明らかに手縫いで作られたものでした。
値段を無視したとしても手縫いは当然手間もかかります。なのに、なぜアーヤ先輩は縁もゆかりも無い子供たちに手縫いの服を贈ったのでしょうか。
私はそれを直接アーヤ先輩に尋ねました。するとアーヤ先輩は「私の服を着て笑顔になる子供たちを見たかったからかな?」と明るい笑みを浮かべながらそう言いました。
その答えを聞いて私はアーヤ先輩がとても優しくて明るい太陽のような人だと思いました。その後付け加えるように「なーんてね。さすがにちょっとキザすぎたかな? 本当の理由は広報活動だよ! 子供服を縫う練習にもなるし、試作品を試せるからね。失敗作を押し付けてるだけだから気にしないで!」なんておどけていましたけど、それもテレサ院長に気を使わせないための方便であることはすぐに分かりました。「それにテレサ先生の作るお菓子や料理美味しいからね! それを食べるためのミラの代わりでもあるかな?」と言いながらテレサ院長の作ったお菓子に子供のように手を伸ばすアーヤ先輩に私は自然と笑みを零しました。
私とアーヤ先輩に縁が出来たのはそれからです。
孤児院で知り合ったことで学校でもよく話す仲になりました。アーヤ先輩は既にその人柄がよく知られていて授業中でも休み時間でもよく目立っているようです。お昼休みの際に食堂で出会った際には相変わらずご飯を美味しそうに食べながら紙にペンを走らせてデザインを描いていました。時折私にそれを見せて「クローゼちゃんはどっちが良いと思う?」と聞いてきたりもします。私にはどちらも素敵な衣服だと思いますと答えれば「それじゃどっちも採用!」と言って風のように次の作業に移っていきます。
そして学校の休日には時折、やることがあると言って外出する先輩を見送りながら私も孤児院に遊びに行ったり、先輩に誘われて休日を共に過ごしたこともあります。
そんな中、アーヤ先輩はある日突然私にプレゼントだと言って衣装をプレゼントしてくれました。
しかもそれは先輩が以前、食堂で私にどちらがいいかと尋ねてきたデザインの衣装です。それらをプレゼントされ、私は少しだけ戸惑いました。私のために二着も服を仕立ててくれたことに対して自然と疑問を口にしました。
すると先輩は自然とこう言いました「親しい人には贈り物をするのに理由はいらないからね! 異国の地で知り合った可愛い後輩に私からのプレゼントだよ! いや~クローゼちゃん可愛いからデザインすごい捗ったよ! ありがとね!」と、逆にお礼まで言ってきて。
私はそれを聞いて服を受け取り、素直に嬉しくなりながらも先輩に何かこちらからもお礼させてもらえないかと尋ねました。これだけ良い衣装ならある程度の金銭は支払って然るべきだと思います。だけどそれを先輩が望んでないのならせめて私に何か出来ることはないかとそう思って。
だけど先輩はそれを聞いて少しだけ考える仕草を見せると「あっ、じゃあクローゼちゃんの膝枕……とか?」と答えました。
えっ、と私が少しだけ面食らうと先輩は更に続けて「ほら、こう見えて私ってカリスマファッションデザイナーだから忙しくてさ。体力に自信はあるけどさすがにちょっと眠くてね。良かったらクローゼちゃんの膝の上で眠らせてくれない?」と言いました。
私はそれを受け止めて、少し可笑しく思いました。そして、そんなことでいいなら、と承諾して、アーヤ先輩は私の膝に頭を乗せてきて。
そうして喜ぶアーヤ先輩を見て私は、欲がない人だと感じました。とても心が綺麗な人だと。明るくて元気で優しくてとても頼りにもなる。学園祭での衣装も仕立ててくれましたし、相談にだって乗ってくれました。
だから私はアーヤ先輩を尊敬しています。未だ迷っている私と違って、アーヤ先輩は迷うことなく自分のやりたいことに一生懸命で、全力でそれらをこなしてしまいます。
きっと先輩が私の立場なら、何も迷うことはなく道を選んで突き進むんだろうとそう思いました。
──そしてそれはアーヤ先輩と知り合ってから3ヶ月近く経った今……痛ましい事件が起こった時にもより強く思いました。
マーシア孤児院が火事になったと聞いて動揺する私を先輩は支えてくれました。「とにかく孤児院に向かおう」と。孤児院について昨日知り合った遊撃士のエステルさんとヨシュアさんと合流し、マノリアの宿屋でテレサ院長や子供たちに会った時も先輩は笑顔で「服のことは気にしないでいいって! また作ってあげるからさ!」とテレサ院長を気遣い、子供たちの頭を撫でながら励ましていました。
でもその先輩のいつもは明るい笑顔ですら、少しだけ困ったように翳っていて、しかし子供たちにはそんな様子を見せずに明るく振る舞っている。そんなアーヤ先輩を見て私もまた子供たちを不安にさせないように出来るだけ笑顔で接することにしました。
その後、ダルモア市長と秘書のギルバートさんがやって来た時には真面目に話を聞いていました。あまり言葉を挟まずに何かを考えている様子で。
少しだけそのことは気になりましたが、その後にクラム君がギルバートさんの話を聞いて《レイヴン》というルーアンの港の倉庫に集まっている人達のところに向かった際も自然と一緒に付いて来てくれました。
そして倉庫で私が戦うことが決めた際も──
「さもなくば……実力行使させていただきます!」
「なら私も手伝うよ! クローゼちゃん!」
「ええっ!? アーヤさんまで!?」
「ふふん、念の為持ってきて良かったよ。ってことで覚悟しろこの不良やろー! 放火なんて最低なことする奴は私も許さないんだからね!」
「いや、まだ彼らが犯人だと決まった訳じゃないけれど……」
「あ、そうなのヨシュア君? ──でも子供に暴力はよくない! なので助太刀するよ!」
──アーヤ先輩はそう言って懐から赤いダガーを取り出して構えました。その構えは先輩の雰囲気とは違って、こう言っては失礼かもしれませんが、意外にもしっかりしていました。
だから私も含めて自然と戦いに入りましたが、アーヤ先輩も《レイヴン》と言う彼らの1人を倒していました。少しだけダガーを振るう手に緊張が見えて危なっかしくも見えましたが……それでも何とか怪我なく制することが出来たようで良かったです。
「ひゅーっ! クローゼさんやる~っ!」
「アーヤさんも思ったよりは出来るみたいだね。まあ少し危なっかしくもあったけど……」
「ふふん。前にも言ったけどアラミスじゃ護身術の授業も受けてたからね!」
そうして自慢気になるアーヤ先輩に少しだけ気が抜けそうになりながらも私はクラム君を解放するように告げて。
その後は遊撃士のアガットさんという方やテレサ院長もやって来て。それから一緒に遊撃士協会の支部まで行って、アガットさんから民間人が安易に戦闘をしたことに対する注意を受けた際も──
「事件の調査は俺が引き継ぐ」
「あ、あんですって~っ!? 後からやって来たクセになにタワケたこと言ってんの!」
「そうだそうだー! 後からやって来てタワけるな赤毛ー!」
「納得のできる説明を聞かせてもらえますか?」
「そうだそうだ! 赤毛説明しろー!」
「遊撃士に限らず情が絡むと判断力は鈍るもんだ。ったく、ただの民間人を戦闘に巻き込みやがって……」
「すみません、私……」
「私は謝らないよ! そしてクローゼちゃんが謝る必要もない!」
「……まあ、そうだ。あんたらが謝る必要はねぇ。こいつらの心構えの問題だ。──要はプロ意識が足りねぇのさ」
「な、なんでそこまで言われなくちゃいけないわけ!?」
「そうだそうだー! うるさいぞ赤毛ー! お客さんからしたらどっちもプロなんだから別にいいでしょうがー!」
「何と言われたって、あたしたちは院長先生と約束してるんだから……」
「おい、ジャン。正遊撃士と準遊撃士が同じ任務内容を希望した場合、規約で……『そうだそうだ説明しろ赤毛ー!』──さっきからうるせぇなこの民間人!? 説明するからちょっと黙ってろよ!?」
「エステルちゃんたちに任せてあげてもいいでしょ! エステルちゃんたちをバカにするなー!」
「せ、先輩落ち着いてください」
「いや、気持ちはありがたいけどなんで説教されてるあたしたちよりヒートアップしてんのよ……」
──途中先輩がエステルさんたちを蔑ろにされたことに怒ったりもしましたが、その後は結局正遊撃士のアガットさんが調査を引き継ぐことになってアガットさんはいなくなり、その後は私から学園祭の劇の手伝いをエステルさんとヨシュアさんに依頼して私達は4人で遊撃士協会支部を後にしました。
そうして尊敬するアーヤ先輩と新しく知り合ったエステルさんとヨシュアさんと一緒に学園祭の準備を行うことになり、私の心は少しだけ晴れやかになりました。
──はぁぁ~~~……! クローゼちゃんの膝枕最高~~~……スカート越しの太腿の感触良い……それにすっごく良い匂いする……ワンチャン彼女になってくれないかな……それが無理ならキスとか──あ、どうも。頼れる先輩のアーヤ・サイードです。
いやールーアン地方編は色々あったね。もはや何章ぐらいなのかすら覚えてないけど、とりあえず私はまたしても原作──もといエステルちゃんたちの旅にちょっぴり関わった。マーシア孤児院が火事で全焼したって聞いたんでとりあえずクローゼちゃんについて行ったら成り行き上そうなったんだよねー。
そんでやっぱり子供たちは無事だった。その時になって何となく思い出したんだけど確かレーヴェが助けたんだっけ。まあレーヴェはなんだかんだ優しいから助けるのは納得。そしてその後はルーアンの市長のダルモアとかいうなんか良い人面した薄らハゲ親父とギルバートくんがやって来てなんか白々しいことを言ってた。さすがにギルバートくんは覚えてるので多分この事件の黒幕はギルバートくんだろう。そんでダルモアはなんか昔《楽園》に通ってた大人と似たような感じがするのでこっちも悪者な気がする。ギルバートくんとダルモアどっちがより悪いのかは忘れたけどまあどっちでもいいかな。
それでなんか不良チームの《レイヴン》の話をギルバートくんがしててそれを聞いたクラムくんが《レイブン》が溜まり場にしてる港の倉庫に向かったらしい。《レイヴン》ってなんだっけ? いたような記憶もあるけど何してたかは覚えてない。不良って言うとクロスベルの《テスタメンツ》とヴァルドくんは覚えてるけど他は印象薄い。ヴァルドくんのチーム名もなんだったっけ……まあ別にいっか。ヴァルドくんとワジくん以外は覚えてなくてもいい気がするし。《レイヴン》も忘れてるってことは大した活躍はしてない敵モブだろう。放火の実行犯かもしれないし、私も一緒にいってついでにちょっとだけボコろう。孤児院と私の服を燃やした報いを受けさせてやるってね。
そんで実際にエステルちゃんとヨシュアくん、クローゼちゃんの3人と一緒に倉庫に行ったんだけどその際にちょっとだけ不良相手に戦ったんだよね。
と言ってもさすがに本気を出すわけにも《ゾルフシャマール》を出すわけにもいかないからこんな時のために持ってきた庭園製のダガーを使った。もっと言うなら《月光木馬團》時代によく使われてたタイプのダガーだね。クルーガーちゃんやメルキオルが使ってるのと似たやつ。最近は完全に《ゾルフシャマール》に慣れてそれ以外を使うのは違和感があるくらいだけどこの手の刃物にも慣れてるから普通に戦うには問題ない。
って思ったんだけどね。別の意味で問題はあった。というのも手加減が難しいしめっちゃ気を使う。
不良軍団の1人と私は軽く戦ったんだけど動きが素人すぎるのと身体能力がへなちん過ぎて危なかった。刺したら絶対死ぬし切るわけにもいかないんで峰打ちするんだけど峰打ちでもワンチャン死ぬんじゃ……とすら思った。
おかげで動きが大分ぎこちないことになったけどそれでもなんとか制することに成功。腕を取って関節技で捕えた。手加減がむずいならこうすれば良かったんだよね。別に関節技や捕縛術に長けてるわけじゃないけどこれくらいの相手なら問題なかった。ヴァルターから体術をちょっとでも習ってて良かったかもしれないね。
そして不良を倒した後は不良のボスか黒幕が来るかなって思ったらそこでアガットさんが出てきた。出た──!! 《重剣》のアガット! ロリコ────ンダ────イブ!! お前はいいから早くティータちゃんとくっつけ! いつまでも返事を保留にしてたらティータちゃんが可哀想だろ!
でも今はまだティータちゃんと出会ってもなければなんか重たき鉄塊を振り回してるだけの並遊撃士なんだっけ? 正直アガットさん辺りもうろ覚えだ。レーヴェにバチクソに煽られて負けたとこは覚えてるけど他は妹さんが死んでてそれがトラウマなんだっけ。戦争に巻き込まれて死んだみたいなのは覚えてる。逆に言うと覚えてるのそれくらいだけど。
そんでそのアガットさんが遊撃士協会の支部でエステルちゃんたちの依頼を横からかっさらおうとしたので私はエステルちゃん達と一緒に抗議しておいた。でも受付の眼鏡の人が言うにはなんか事情があるんだってさ。そして不器用らしい。そこまで聞いてそういえばアガットさんって最初ちょっと感じ悪かったんだっけと思い出した。エステルちゃんとヨシュアくんが準遊撃士だから半人前扱いしてる感じだ。まあでもどっかでそのうち仲良くなるんだろうから今はあれでいいんだろうね。
そして調査をアガットさんが引き継ぐ代わりじゃないけど、今度はクローゼちゃんが学園祭の劇をエステルちゃんとヨシュアくんに手伝ってほしいと依頼を出して2人もそれを受諾したため一緒にジェニス王立学園に向かうことになった。この辺りは覚えてるよ! ヨシュアくんとクローゼちゃんがキスするんだよね! くぅぅ……羨ましい……代わってほしい……!
だけど私は留学生だし、あんまり劇で出しゃばるわけにもいかない。これでもちゃんと気を使ってる。なので私がやるのは精々劇の衣装を仕立てたりちょっと調整してあげたりするだけだ。これはきちんと生徒会に頼まれたんだよね。
「んーこんなもんでいいかな。ジルちゃん出来たよー」
「あ、はーい! どれどれ……うわ~! さすがアーヤ先輩! 現役ファッションデザイナーなだけはありますね~!」
「ふふん。でしょ? もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
「いや、実際すごいっすよ先輩」
「そうそう。そのままエステルちゃんとヨシュアくんの衣装の調整もお願いしてもいいですか?」
「もちろんいいよ! この天才アーヤちゃんに任せなさい!」
と、講堂の舞台裏で私を褒め称えてくれるのは生徒会長で劇の監督を担当してる眼鏡ポニテっ娘のジルちゃんと副会長で脚本と演出を担当してるハンスくんの2人だ。
この2人とクローゼちゃんの3人が中心になって今回の劇『白き花のマドリガル』の企画は進んでいる。
ちなみにこの『白き花のマドリガル』。脚本自体は身分差のある恋愛をテーマにした王道の話なんだけどアレンジの仕方が中々面白い。男子は女子の役をやって女子は男子の役をやるって言うんだからね。ジルちゃんは性差別からの脱却とかジェンダーからの解放とか言ってたけど価値観がすっごい新しいというかすごくない? 共和国だとそういう多様性の価値観もそれなりに浸透してるから説明つくけど君って元は20年くらい前のキャラクターだよね? それとも私が覚えてないだけで本当はこんなこと言ってない、細かい変化だったりする? ──まあ分かんないし確かめようがないからどっちでもいっか!
ってことで私はエステルちゃんたちの衣装を若干調整。衣装自体は完成してたけどサイズはちゃんと調整した方がいいからね。着心地だけじゃなくて見栄えもその方がよくなるから絶対に必要なことなんだよね、これが。
「ふむふむ。エステルちゃんはやっぱり健康的でスタイルいいね~。運動してる肉の付き方と弾力が……」
「あ、あの~アーヤさん?」
「おっといけない。えーっとサイズがこれくらいなら本当にちょっと調整するだけで済むね。ここをちょっと締めて着丈もちょっとだけ……よし、こんなもんかな。はい、試着してみてー」
「えっ、もう出来ちゃったの!?」
「そりゃあプロですから。これくらいは簡単にね」
「うーん、この間貰った装備もすっごい着心地良かったし、アーヤさんって本当に凄腕のデザイナーなんだ……」
「こらこら、その言い方だと今までなんだと思ってたの?」
「あはは……ごめんごめん。でも本当にすごい手際よね~。ヨシュアの衣装ももう調整終わったって聞いたけど……どんな感じだった?」
「うん。あっちも終わってるよ。まあ向こうは着るのに時間がかかりそうだったけどね~♪」
「むむ、それは確かに気になる……よーし、それじゃヨシュアの女装姿を拝みに行くとしますか♪」
「導力カメラで写真も撮っちゃお~っと♪」
「あはは……2人共息ぴったりですね」
舞台裏でそんな会話をしつつ、エステルちゃんとクローゼちゃんが衣装を着て舞台に出る。そうして談笑しながらヨシュアくんのドレス姿を見て全員で見惚れた。うーん、これはいける。女の子としても男の子としても良い感じだね。昔っから美少年ではあったけど今が1番ちょうどいいかもしれない。ヨシュアくんは嫌そうだけどすっごい似合ってるよ。レーヴェにも見せてあげたいなぁ……ってそういえば見に来るんだっけ。そんな記憶がある。じゃあ写真なくてもいいか。でも一応後で撮っておこう。思い出としてね。
そしてそれからはエステルちゃんとヨシュアくんを加えての学校生活。舞台の練習を続けたんだけど……なんというか青春って感じがしていいね! エステルちゃんとクローゼちゃん、ジルちゃんと一緒に恋バナみたいなのにも混ぜてもらったし、舞台の練習もちょいちょい私にも意見を求められた。というのもジルちゃんが噂で聞いてたらしい。昨年の交換留学生からアラミス学藝祭での伝説の舞台のことを。
「──へぇ~それじゃアーヤさん、以前も似たような経験してるんだ」
「そうそう。アーヤ先輩は本当にすごかったらしいんだから。去年のアラミス学藝祭じゃ伝説になるくらい色んなものに関わってて、特に先輩も関わった舞台はそれこそ国境を越えて噂が轟くほどで……!」
「単純に去年アラミスに行ってた先輩から聞いただけだけどな……」
「はは……でもそれだけ噂になるってことは本当にすごかったんですね」
と、こんな感じでジルちゃんが説明しつつも褒め称えてくれる。ハンスくんはツッコミ入れてるしヨシュアくんも褒めてくれるしで嬉しい限りだね。
「いやいや確かに私の衣装の完成度は最高だったけど……あの舞台が成功したのは私じゃなくて私の友達──当時の生徒会が頑張ったからだけどね」
「あ、そっちも生徒会主導だったんですか?」
「まあねー。1つ上の生徒会長の先輩ともう2人は私と同級生だったんだけどその3人がすっごい仲良しで相性もばっちしの幼馴染グループでさ。今思い出してもよくあの過密スケジュールで出来たなってくらいのすさまじいチームワークのゴリ押しだったね~」
「チームワークのゴリ押しって……」
「一体どんなスケジュール組んでたんだろ……」
エステルちゃんとヨシュアくんが苦笑いをしてる。いや、スケジュールは本当に余裕がなかったね。なさすぎて何回か夜中に学校に忍び込んだというか、徹夜で作業したこともあった。そしたらヴァンが騒ぐから先生に見つかりそうになってね。そんな大声でツッコミ入れるから駄目なんだよって私も注意した。今思い出しても本当にヴァンは問題児だったね。後からルネっち先輩やエレインちゃんに呆れられたのも良い思い出だね!
「あ、それじゃあ今年の春の学藝祭もまたすごい舞台とか企画やってたりしたんですか?」
「ん? あー……それはまあ……」
ジルちゃんからそう聞かれて答えようとして言葉を迷ってしまう。いやぁ……それがそうもいかないというかね……どっかのおヴァカが退学しちゃったもんでバラバラなんだよねとは言いづらい。ヴァンがいなくてルネっち先輩が卒業して今年の学藝祭はエレインちゃん1人だもんね。私がいないのはまだそんなに寂しくないとしても去年の学藝祭までは幼馴染も全員揃って最高に楽しかった筈なのに今年になって急に1人になってるのは中々寂しいんじゃないだろうか。
って考えると私でもいた方が良かったかな……? でも私は私でジェニスに来るしかなかったし……うーん、今になって若干エレインちゃんがどうしてるか気になってきた。
「?」
「……アーヤ先輩?」
「……あっ、ごめんちょっと思い出してた。うーんそうだね! 今年もすっごい盛り上がったと思うよ! 私がいたのは春休みまでだけどアラミスの学藝祭は毎年すっごいんだから!」
「やっぱりそうなんですね~。うーん、これはウチらも負けてられないわね」
「生徒会主導の舞台劇ってのも同じだしな。アーヤ先輩には悪いけど今年はそれ以上の舞台にしてやろうぜ」
「おー頑張れ頑張れー。でも簡単に越えられると思うなよ~?」
私が珍しく深く考え込んだせいかエステルちゃんが頭に疑問符を浮かべ、クローゼちゃんもどうしたのかと声を掛けてきてたので思考を中断して会話に意識を向ける。
まあエレインちゃんは逞しいし何とかなるなる。私は私でやるべきことをしないとね。
──ってことでそこからはまた学園祭の準備に精を出し、楽しい学園生活を送った。エステルちゃんとクローゼちゃんの練習を応援したり、2人のちょっとした悩みを励ましてあげたり、ヨシュアくんとハンスくんの男トークにあえて混ざってからかってあげたりとかしてね。正直私は遊んでばっかだったかもしれない。
そしてそんなこんなで遂に学園祭当日を迎えたけど、ジェニスの学園祭は私もやることはほとんどないので普通に楽しんだだけだ。マーシア孤児院の子供たちとも途中までは一緒に見て回った。
後は強いて言うなら……ちょっと逢引はしたかな? 色々と報告も兼ねて銀髪のお兄さんとね。
「──随分と楽しんでいるようだな。アーヤ」
「まあね。むしろ楽しんでるだけっていうか、今は特にやることないから普通に楽しんでるよ。あ、ヨシュアくんも私に気付いた感じはないから安心してね」
「そのようだな。こちらも特に問題はないが……」
「? どうかした?」
「……少しな。例の孤児院……お前の作った衣服が置かれていたらしいがさすがにそこまで持ち出すことは叶わなかった。すまない」
「え?」
っと、とと。レーヴェと旧校舎近くの林の中で話してると急に謝られたため私は面食らう。びっくりした。衣装のことでまさか謝ってくるとは。ガチで良い人じゃん。いや、知ってたけどね。知ってたけどそこまで気にかけてくれてるとは思わなかった。
「あー、まあへーきへーき。レーヴェのせいじゃないし。服ならまた仕立てればいいしさ」
「いや、放火を行った特務兵は俺の部下にあたる。ならば責は俺にあるだろう。確認を怠った俺のミスだ」
「あ、うん……えっと……それじゃあこれは貸しってことで! それよりもヨシュアくんが主演の舞台が始まるからこっそり見に行こうよ!」
「ああ、いずれ借りは返そう。それと劇のことは知っているが……俺は目立たぬよう途中から見に行くつもりだ」
「最初から見ないの? 見たらいいのに。せっかくのヨシュアくんの晴れ舞台なんだからさ」
「…………お前と違って俺には認識を阻害する術がかかっていない。暗示で記憶も封じていない以上、あまり長居しては気づかれるリスクが高まるだろう」
「それはそうだけどさぁ……あ、じゃあここで貸し消費! ってことで一緒に見に行こう!」
「……また困ったことを言ってくれる」
「いいじゃん行こっ! 薄暗いし人も多いから大丈夫だって!」
「……いいだろう。ならこれで衣装の件は手打ちとさせてもらうぞ」
「それでいいよ!」
軽く息を入れて冷静にそれを受け止めたレーヴェを私は笑顔で連れて行く。というか絶対にレーヴェも見たいはずだ。せっかくの弟分の晴れ舞台だしね。じゃなきゃ態々ここまで来ないだろう。顔を見に来ただけにしても学園祭まで来るのはちょっと不自然な気もするしね!
ってことで私もフード付きのジャケットでも着て軽く変装しよう。一緒にいるところを見られたら「何あのイケメン!? アーヤさんの彼氏!?」って感じで質問攻めにあってしまうしそうなったら困る。そうでなくともさっきヨシュアくんを探してエステルちゃんとクローゼちゃんが私に話しかけてきたこともあるしね。銀髪の人と知り合いって思われたらさすがに面倒なので用心用心。
そうしてしっかりバレないようにした上でレーヴェと共に講堂の入口近くで観劇する。さてさて、脚本も全部知ってるけど本番はどんな仕上がりになるかな~? こう見えて私はこういう作品にはうるさいからね。イーディス11区のシャルダン地区にある劇場もたまに行くし、導力映画も沢山見てきた。それどころか劇も映画も制作スタッフとして参加したこともあるから目は肥えてる。まあ大抵なんでも楽しめるけどね!
ってなわけで《白き花のマドリガル》の舞台を楽しんでいくけど……正直舞台も気になるけどレーヴェの反応も気になるよね。あんまり反応しないから分からないけどレーヴェがこういう娯楽を楽しんでいるところを見たことがないから何を考えて見てるんだろう。やっぱり現実と照らし合わせて世を憂いていたりするのかな? 少なくとも純粋に物語として楽しんではいなさそうだよね。
まあでもそういう娯楽を楽しむ余裕もそのうち多分取り戻すだろうし心配することはないだろう。気をつけるのは最後に死なないようにすることだけで平気な筈だ。
なので私は大人しくレーヴェと共に劇をしっかりと最後まで観劇し、それが終わればレーヴェはすぐに帰っていった。私も外に出てすぐにジャケットを脱いで元の制服姿に。怪しまれないようにね。素知らぬ顔で合流して劇の成功を祝った。
そしてその後だけど……特に言うことはあんまりない。学園祭で集まった寄付金100万ミラがマーシア孤児院の再建費用として渡されたりとかも良かったねという感じだ。私もこっそり10万ミラほど寄付しておいた。
だけど更にその後、涙ながらに寄付金を受け取ったテレサ院長と子供たちが黒装束──特務兵に襲われて寄付金を奪われたりしたし、それをクローゼのお友達のジークという超有能鳥が居場所を特定してやっぱりギルバートくんが依頼者だったのでボコボコにしてやろうと思ったけどさすがに自重してエステルちゃん達に任せてたら逃げられてそれをアガットが灯台からロリコンダイブして追いかけていったり、翌日になってやっぱダルモア市長が黒幕じゃんってなったので今度はダルモア市長を一緒にボコしに行こうとしたら市長邸でなんか時間停止モノのえっちな映像を再現出来るアーティファクトを持ち出してきたので変態と罵ったり、
そうして最後は王国軍がやってきてダルモア市長を捕まえて一件落着。その後は大事を取って治療という体を取りつつもエステルちゃんとヨシュアくんと別れてクローゼちゃんが2人を見送りに行くのを見送ったりした。で、多分これでルーアン地方の話は終わりってわけだ。殆どうろ覚えだった私はなるほどと納得した。実際見てみれば確かにこんな感じだった気がすると。
つまり全ては予定通り。私が出しゃばる必要もなくエステルちゃん達は無事に事件を解決したし、こちら側の思惑通りにも進んでいる。何も問題はないし、イレギュラーもないということで私はとても楽で良かった。いやぁこの調子ならこの先も楽出来そうだよね。後はもう1か月後にあるっていう女王生誕祭の時にちょっと王都に見物に行くくらいで良いはず。それだけで何も問題なく計画は進むから私は本当に何もしなくていい。少し遠くから皆の活躍を眺めてわーきゃーしよう。ほら、教授からの連絡も国内は何も問題ないって書いてあるし──
『少々予定より早く彼が帰国してしまいそうなのでね。君に仕事を頼みたい。エレボニア帝国でギルド襲撃事件収拾の妨害を行い、同時に──《剣聖》カシウス・ブライトの暗殺を実行し、彼の足止めを行ってくれたまえ』
──馬鹿かな? 私に死ねと?
私はその仕事内容を見てふっと笑う。いやいや、私に《剣聖》の暗殺なんて……出来るわけないでしょうが────!!? ああああああ!! 教授のアホ──!! なんで1番キツい相手を私に任せるんだ!! 最低限足止め出来れば問題ないじゃないんだよ!! 私がやられて捕まったらどうすんの!! 大問題でしょうが!! 嫌だー!! チート親父の相手は嫌ー!! うわああああああああん!!
──そうして私は仕事の都合ということで学園に数日の外出届けを出し、エレボニア帝国へ向かうことになった……《剣聖》とかいうチート親父の絶対成功する筈のない暗殺のために……はぁ……。
FCだから楽出来ると思った? 残念! (アーヤちゃんの相手は)チート親父でした!!
ってことで今回はここまで。次回は他キャラ視点もありつつ帝国でアーヤちゃんがきっと大活躍します。そしてFCはほぼ終わりです。その次は王都だけど賑やかしとしての出演なので。お楽しみに。
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