TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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剣聖を襲撃する不幸

 ──僕は壊れた人形だった。

 

 だった、というのは過去形で今は違うと思っていた。少なくともエステルと父さん……カシウス・ブライトと出会ってからの僕は徐々に人間らしさというのを取り戻し、2人の家族となって温かい日々を過ごすことが出来た。

 だからこそ時折、自分の冷たさに言いようのない不安を感じつつもなんとかここまでやってこれた。遊撃士としてもエステルと一緒に各地を回って成長することが出来たと思う。

 だけどそれでも僕が欠陥品であったことに間違いはない。人間としても組織の暗殺者としても僕は欠陥品だった。僕は彼女に敵わず《執行者》には成れなかった。

 

「こらー! 逃げるな卑怯者ー!!」

 

 ──彼女を……アーヤさんを見てると僕は()()を思い出す。

 どうあっても彼女と一致しない筈のアーヤさんだが、アーヤさんを見ていると時折頭が痛くなるんだ。

 それはボースで初めて彼女と会った時もそうだし、ルーアンでダルモア市長邸に乗り込んだ時にもそう思った。ダルモア市長の使った空間を停止させるアーティファクトの効果が途切れた時、アーヤさんはエステルよりも迷わず真っ先にダルモア市長を追いかけて、ダルモア市長の乗り込んだヨットにしがみついた。

 その際にダルモア市長はアーヤさんに銃を向けて発砲し、僕達は一瞬血の気が引いた。僕が「危ないっ!!」と声を上げた時には手遅れで、アーヤさんは銃弾を受けてヨットから落ちてしまった。エステルも「嘘でしょ……」と顔を青くし、クローゼも「アーヤ先輩……!」と泣きそうになりながらも湖に飛び込んだ。

 僕らはそれを苦々しく思いながらもダルモア市長を追いかけ、王国軍の協力もありつつ何とかダルモア市長を捕まえることが出来た。

 そしてすぐにアーヤさんの救助に向かった。船を動かしてクローゼとアーヤさんを引き上げようと。

 だけど不幸中の幸いと言うべきか、アーヤさんは無事だった。笑顔でこちらに手を振っていて、僕らを戸惑わせた。彼女が言うには「いや~急に発砲されてびっくりしたよ。あ、びっくりして落ちただけで怪我はないから心配しないで大丈夫だよ!」とのことで、僕たちは銃弾が当たったのは見間違いかと思い、胸を撫で下ろした。エステルも笑顔を取り戻し、クローゼも喜んでいた。

 ……ただ本当に当たってなかったのだろうかと僕だけは疑問に思った。

 もちろん怪我はないのだから当たってないと考える他ない。その筈なんだけど、僕はこの現象を何故か知っている気がする。

 銃弾を身体に受けようと問題なく指令を続行する彼女。僕以上の暗殺者の存在を。

 だけど思い出せない。それに、そんな筈はないと思ってしまう。

 だから僕もまたアーヤさんが無事で良かったとその思いを正直に受け止めるしかない。それは容易だった。違和感はありつつも、アーヤさんが無事であることは僕にとっても自然と喜べることだったから。

 アーヤさんは明るくていつも楽しそうで良い人だ。少しエステルに似ていて、エステルよりも少しトラブルメーカーな気質はあるけれどそれでも彼女が善良な人であることには変わりない。

 僕はそのことに違和感を持つことはなかった。──仮に何かを思い出したとしても、そのこと自体に違和感は持たないだろう。彼女が善良な人間であることに違いはなかったのだから。

 だからアーヤさんと彼女を重ねるのはお門違いだと、僕はそう思ってエステルと共に彼女と別れ──

 

「あ、ヨシュアくん。ヨシュアくんが女装した時の衣装を装備として使えるように補強しておいたから渡しておくね!

 

 ──また頭が痛くなった。僕は戸惑いながらもそれを受け取り、エステルにも囃し立てられながら息を吐く。やっぱりこの感じ……僕の記憶にある()()に似ているかもしれないと。

 

 

 

 

 

 ──はぁ……あ、どうもー。アーヤ・サイードでーす。《身喰らう蛇》所属の暗殺者でーす。ちっすちっすー。

 

 さて、ジェニス王立学園での学園祭が終わってから3日後。私はエレボニア帝国に来ていました。

 理由は面白教授からの指令──帝国の遊撃士に対する妨害工作を行い、カシウス・ブライトの暗殺を実行して足止めをしろという無茶な仕事を行うためです。

 いやほんと、すっごい無茶振りだよね……無茶すぎて割り切りが得意な私ですらここに来るまでに何度ドタキャンしようかと思ったことか。だって《剣聖》だよ《剣聖》。剣聖って言われるってことはつまりあのとんでも剣術《八葉一刀流》の奥義皆伝ってことで《理》に至ってる人外ってことだ。

 まあカシウスは既に剣を置いて今は棒術を使ってるけどそれでも《理》に達してるんで化け物みたいに強い達人であることには変わりないし、観の目とかいう物事の本質を見通してくるふざけたことまでしてくるので結局ヤバい。結社も中々強い人はいっぱいいるけど剣聖と対等以上に戦えるってなるとリアンヌママにマクバーン、レーヴェとレティ姉さんだったりと本当に限られてくるからね。

 そんな化け物を暗殺してこいって教授って馬鹿なのかな? 馬鹿の教授なの? これは面白とか言ってられるレベルじゃない。内容からしてまあ失敗してもいいみたいなダメ元暗殺な感じだったけどそれにしても無茶すぎる。クルツはなんかいけたけどレベルが全然違いすぎるし。

 もしかして暗殺を舐めていらっしゃる? もしくは使い潰そうとしてる? 死ねってこと? 計画に私は必要ないからここで使い潰してもまあいいや的な? 

 というかさ、というかだよ? 私の暗殺理論というかやり方的に失敗前提ってのがまず厳しいんだけど……そこら辺ちゃんと分かってくれてるのかな? 

 いやどういうことかと言うと暗殺者ってバレたくないんだよね。そりゃ暗殺者なら当然だろって感じだと思うけど、私の場合殺しの仕事をする時は姿()()()()()()()()()()()。それは私が昔から褒められてきた、なんか弱そう。殺気とか強そうな気配を感じないっていうのに関係してきたりする。なんか貶されてるみたいに聞こえるかもしれないけど私的には全然いい。油断してくれるならそれに越したことはないし。

 

 そう、油断なんだよね。暗殺ってのは要は相手やその周りの人間に気づかれないように殺すってこと。だから闇討ちとかするわけなんだけど私の場合もそれは変わらない。気配を隠して一撃で殺す。一撃で無理だったとしても一撃で割と重傷を負わせてから殺す。まあ暗殺者のやり方って大体皆こういう感じだ。

 でもこの暗殺のやり方というか相手に如何に気づかれないように殺るかってのがミソなんだよね。ここにやっぱ上手さが出てくる。足音を消したり気配を消したり素早く動いたり人体の急所をそれぞれの得物で正確に狙い撃ったりってのは全部暗殺に必要な技術だ。正面からの戦闘の強さは二の次というか、こういう技術を習得していくにつれて自然と身につくというか強くなるって感じ。

 まあ手練れ相手だと正面からの強さも必要だけど、それが何故必要かって一定以上の実力になると気配とかを察知してくるから結局ちょっとやり合って殺す羽目になったりするわけだ。暗殺対象が全員腕に覚えがない素人ってわけでもないし、そうだとしても護衛がついてたりもあるからね。そういう実力が上の相手ほど当然気づかれる可能性も高いし暗殺も難しくなる。

 

 そういった場合、やり方には搦め手とか工夫をしないといけない。オジサンのBC兵器なんかはその最たるものというか、オジサンはガチで相手を殺すことだけを徹底したら多分誰も勝てないくらいヤバい。面白くないからやらないだけで多分オジサンは誰でも殺せるんじゃないかな……オジサンのBC兵器が気づかれてたことってないし。気付いたとしても既に手遅れだったりするパターンばっかりだしね。

 まあさすがにオジサンくらい用意周到かつ凶悪な殺し方をするのは難しいしお手本にするのは道徳的にアレだけど……それでもまあ、多少は参考にならなくもない。要は気づかれずに暗殺──悪いことをするってことだ。

 

 で、ここからが本題で私がいつも大体どうするかって言うと……私の場合はシンプルに潜入して殺ることが多い。

 さっきも言ったように私って他の人が言うにはあんまり強そうには見えないし、警戒しづらい気配をしてるらしい。まあ一旦戦闘に入っちゃったらさすがにそういうわけにもいかないらしいんだけど、普段過ごしてる時は本当にお気楽な一般人美少女に見えるんだとか。

 なのでちっちゃい頃から私はそれを利用してきた。女性でしかも子供ってのが有利でね。その2つは警戒から程遠い存在なので対象に近づくのが楽だったりする。なので私が暗殺する時は意外と隠れていて隠れてなかったりするのだ。下手に隠れず堂々と正面から近づいてばっさりするのが割と私の暗殺の勝ちパターンの1つ。私が暗殺の時にあんまり顔を隠さないのもそういう理由もあったりする。顔を隠しちゃったら明らかに怪しいからね。なので仮に目撃証言があっても私が犯人だって気づかれなきゃいいし対象に見られたとしても殺すから問題ないっていうのが私の暗殺理論なわけだ。

 ちなみに暗殺仕事以外の時は見られてもいいかなって感じ。特に猟兵相手とかは別に見られても相手も悪どい商売してるわけだし別に……だって殺しても罪……ではあるけど一般人を殺すのとは全然違うしね。

 ……え? でも暗殺以外でも見られてたら結局裏の仕事をしてるってことになってヤバいって? ……そ、それはまあ、ほら……昔から気づいてましたけどね! あえてそうしてるんだよあえて! 決して気付いた時には手遅れだったってわけではないからね! 

 

 まあ細かいことはいいじゃん。幸いにも表のアーヤちゃんと執行者としての私と暗殺者としての私の顔を全部知ってる人ってそんないないし。

 そんなことよりも仕事の話に移ろう。面白くない教授の無茶振りだとしても一応任された仕事はちゃんとやる、もといやるだけやりましたのポーズは取らないと後が怖いんで本当にやれることはやる。

 なので命令通り、まずはこの帝国で起きたばかりの《帝国遊撃士協会支部連続襲撃事件》の後始末……その邪魔をしなければならない。

 この長ったらしい名前の事件は教授がカシウスさんをリベール国内から遠ざけるために計画した事件で、カンパネルラが地味に指揮官をしていて実行犯はジェスター猟兵団。そして後はクルーガーちゃんもノーザンブリアの方でA級遊撃士の《紫電》のバレスタイン。つまりサラ教官を足止めするために動いてたっぽい。せっかく帝国来たなら久し振りにクルーガーちゃんと会いたかったなぁ……。まあでも仕方ないか。ってことでその面々が動いて帝国の6つの都市の遊撃士協会支部を爆破してめちゃくちゃしたりしたんだけど、それの解決に来たカシウスさんもさすがで最初の襲撃が起きてからたった2ヶ月で実行犯のジェスター猟兵団を捕縛して事件を解決しちゃったんだよね。

 なので今はもうその事件の後始末を行ってるわけだけど……それが終わっちゃったらカシウスさんはリベールに帰っちゃってこれから起こるリシャール大佐のクーデターを解決しちゃうかもしれない。なので出来れば足止めを行いたい。

 そこで白羽の矢が立ったのが私だ。人選ミスここに極まれり。しかも足止め方法は暗殺指定でそれ以外の細かい指示がない。私が1人で計画して1人で動かないといけない。ワンオペだ。ブラックすぎる。

 でもどれだけブラックだろうとやるしかない。なので私はまず衣装を用意することにした。

 

 ──じゃんじゃじゃーん! 暗殺者用衣装~! 

 

 まあこれはなんで必要かって見られる可能性が高いからね。特にカシウスさん襲撃の際は絶対失敗するんで私の顔が見られる。顔が見られたらなんか色々と計画に支障が出るかもしれない。というか面倒くさい。なので色々と考えて今回は顔を隠すことにした。衣装の名前は《切り裂き魔衣装》ってとこかな。ちょっぴりデフォルメされた髑髏風の目元を隠すお面に赤い外套。そしてデザインは私のオリジナルで私が仕立てたとびきりの衣装! これがあれば私とはバレない! やったのは謎の暗殺者ってことになるだろう! 

 そう! つまりはその都市伝説を利用してその伝説の暗殺者《切り裂き魔(ザ・リッパー)》とやらに罪を押し付けちゃおうって作戦だ! これなら仮に執行者アーヤちゃんがファッションデザイナーアーヤちゃんと分かったとしても暗殺者の方は──え、それ私じゃないですよ? と知らん顔することも出来なくもない。なんなら《切り裂き魔(ザ・リッパー)》ですらないよって言ってもいい。髪色と肌色で怪しいかもしれないけど灰色は黒じゃないからね! 

 まあこれを使っちゃうと私お得意の無関係な一般人の振りしてザクーが出来なくなるけどそれはしょうがない。どうしたって気づかれちゃう可能性が高いんだから今回は顔を隠した方が都合が良い。

 それに軌跡と言えばほら……仮面みたいなところない? 謎の仮面の人物。あれは一体誰なんだ……的な。プレイヤーからするとバレバレのパターンが多いけどね! だとしても問題ない! 筈! カシウスさんに気づかれなければそれでいいから! 

 

 ってことで早速《切り裂き魔衣装》を試着。うんしょっと……うん、さすが私。サイズも着心地もデザイン性も問題ない。ポイントはいつも通りお腹周りを出してるとこ。谷間はちなみに出してない。私って基本お腹を出すから大体胸の谷間は自重してる。あんまり露出しすぎてもだしね。肩や脇の部分も露出してるけど可愛いし普段は外套で隠してるから問題なし。袖丈は手首まであるけどちょっと手首周りを広めに。スカート丈はミニスカートって感じで短いけど腰巻きも巻いているため後ろからは見えない。中東の衣装ではよくある形だけど地味にスカートの横にスリットを入れてる。まあスリットというよりはスカート自体が前掛けと後ろ掛けに分かれてるような形だけど繋がってないと風でめくれあがるのでそこはしっかりとスリット部分がちゃんとクロスした布で繋がってるので問題なくスカートとして機能する。太腿の横が見えるってのはちょっぴりえっちで可愛いよね。腰巻きを外せばそれはそれで可愛くもなる。そして色は全体的に赤を基調にして次に黒が多めでところどころに白、後は金のアクセサリーで纏めてる。中東の巫女みたいな感じだね。さしずめ暗殺教団の巫女って感じのイメージでデザインを描いてみました。かっこかわいい暗殺者って感じでかなり良い。外套や仮面無しなら私服で使えるくらいにはおしゃれで傑作の出来だと思う。

 

 …………ちょっと凝りすぎたかな? いやでもせっかく着るものに妥協したくないし……装備という面でもしっかりしてるから使いやすい。まあ私がメインで着る服って大体素材もしっかり厳選してるから防御面や身軽さって面でも優秀だったりするんだけどね。

 いや、待てよ? 多少おしゃれで目立つとはいえ普段は私服で使えるなら仮面や外套さえなければこのまま移動出来るじゃん! おお、さすが私! 仕事の時だけ仮面と外套をつければ隠せるんだから着替える必要もなくていいじゃん! 

 

 ホテルで姿見を見ながら私は少しテンションを上げる。よしよし。これでちょっとはやる気が出てきた。

 衣装を身に付けてこっそりとホテルを出た私は早速仕事へ向かう。ちなみに今の場所は帝都ヘイムダル。《緋の帝都》とも言われる煉瓦色の街並みがとても綺麗で歴史を感じさせるゼムリア大陸最大の都市だ。私の服の色とも似合ってて良い感じだよね。

 そんで最初は何をやるかっていうと……とりあえず適当に遊撃士を襲う。でも暗殺はしない。こっちは事件解決の邪魔をしろってのが命令なんでね。後始末で奔走してる遊撃士を適当に負傷させればちょっとは時間も稼げるしカシウスさんもしばらく残ってくれるはずだ。

 そして肝心のカシウスさんの暗殺だけど……こっちはまあ成功する訳ないんだから適当に一当てしたらすぐに逃げよう。やるだけやりましたけど無理でしたって体を作るために1回は戦ってまだ事件は終わってない感を出して自主的に留まってもらう。だって怪我させるのもまず不可能だし。そんなに深追いしたらこっちが怪我をして大変なことになりかねない。だから失敗を前提に足止めは成功させる方向にすることにした。

 ちなみに他の工作は出来ない。向いてないんでやらない。そもそも任務内容がね。暗殺しろって言われてるからそれは守らざるを得ないんだよ。仕事で指定されてるならしょうがないけど、そうじゃないなら民間人に迷惑をかけすぎるのも良くないし似たようなテロ行為は出来ればやりたくないから今回は却下。狙うのはあくまで遊撃士とカシウスさんだけだ。

 

 そういうことなので私は建物の屋根の上から適当な遊撃士を探す。出来れば暗殺の方は一晩の内に終わらせるのがベストかな。誰かが襲われたって分かれば警戒が強くなって不意打ちそのものが出来なくなるかもしれないし──お、あの大剣持ってる人とか良さそう。支える籠手のシンボル付けてるし顔も全然知らないからなんかモブっぽいし。よーし、そうと決まれば後をつけてと。まだ調査でもしてるのかな? 地下水道に入ろうとしてるんでそのタイミングで後ろから──

 

「失礼しまーす」

 

「あ……?」

 

 ──はい、普通に後ろから歩いて近づき、直前で踏み込んで高速でざっくりと。横腹を致命傷にならない程度に。だけど戦闘不可能にはなるくらいには切り裂く。大剣を背負った遊撃士の人は何が起こったか分からないといった様子で膝を突き、襲われたと分かって大剣に手をかけようとするもさすがに私の方が速い。

 

「大丈夫大丈夫。殺さないんでちょっと眠っててくださいね」

 

「っ……く、そ……!」

 

 手首をちょっぴりリストカットして妨害。その後はまあ定番の打撃で意識を刈り取る。おお……我ながら素晴らしい手際だ。さすがに自らの成長を感じる。やっぱA級ですらないそこらの遊撃士なら簡単に戦闘不能に出来るね。しかも単独だしより楽だ。弱くても複数人いたらさすがに面倒くさいからね。

 ってことで後は適当に包帯を巻いてから放置かな。このまま放置すると気づくのが遅れた場合死んじゃうからね。殺すことが目的ではないし仕事でもないから殺しはよくない。応急処置をしたら適当に転がしておこう。多分そのうち誰かが気づくだろうし。

 そしてまた屋根の上に昇って移動。次はどうしよっかなー……もう1人くらいやってもいいけど、あんまり長引かせるとさっきも言ったように気づかれて警戒されちゃうかもしれないし……。

 

 ……はぁ、しょうがない。気は乗らないけどカシウスさんに襲撃に行くか……。

 

 私は屋根の上を移動してカシウスさんを探す。でも正直、見つけたとしても不意打ち出来る状況かどうかは分からないからね。最低限単独でいてもらわなきゃ出来ないし、人通りが多すぎるところもアウトだ。いや、実は人通り多い方がやりやすい疑惑は私の中であるんだけどさすがにそんなことをしたら騒ぎになりすぎるしやりたくない。

 

 なので私は遊撃士達が臨時で使ってる作戦司令部のある建物のちょっと離れたところで観察。見つけた上で条件が合えば襲撃。見つからなかったり条件が合わなかったら……適当にお茶を濁そうかな。もうちょっと他の遊撃士を片っ端から襲いまくるとか……でもそれはそれでカシウスさんの暗殺が……まあどうすればいいかは分からないけど、とりあえず足止めになるように頑張るしかない。

 

 そんなことを考えながら待つこと少し──建物からカシウスさんと遊撃士が2人ほど出てきた。

 

 うわぁ……本当にいるよ……しかもなんか指示出してるし……カシウスさん自身も調査に向かうみたいだ……あれ? もしかしてマジで1人になってる? …………うわぁ……。

 なんか狙い通りの状況になっていくのを見て私はむしろテンションを下げる。いや、マジで行くの? 今からでもやっぱりやめない? ダメ? 多分ダメだよねぇ……はぁ、仕方ないか。とりあえずいってみよう。やるだけやってから帰ろう。

 私はカシウスさんを追いかける。すたこらさっさと。いつも通り最初っから全力でやろう。そうしないと今度こそ反撃でやられちゃうかもしれないからね。全力ね。全力でいつも通りに──えいっ。

 

 

 

 

 

 ──俺がそれに気づけたのは《観の眼》によって()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だがそれでもだ。その違和感は限りなく小さく、それでいて気配だと分かっても警戒することを躊躇うような気配だった。

 例えるなら偶然通りがかった子供がいきなり飛び込んできたかのような気配。そこに攻撃の意思はなく、敵意もなければ当然殺意すらない。こちらを害そうという意思もなく、それどころかただの一般人のように感じられた。

 

「! ──せいっ!」

 

「!?」

 

 だからこそ俺は()()()()()()()()()()()()()()直ぐに得物の棒を取り出して反撃に転ずる。

 俺の技は無にして螺旋。剣を捨てた今でも師より教わった《八葉》の理は俺の中に根付いている。

 一撃目を許し、続く二撃目を棒で受け止め、更に続いた三撃目の攻撃を棒を回転させながら弾いて距離を取る。その上で油断なく構えながらそこでようやく相手の姿をしっかりと視界に収めた。

 

「暗殺者か……どうやら相当な凄腕のようだな。直前まで全く気配を感じなかった。──おかげで少し傷を貰ってしまったが……どこの組織の者だ?」

 

「…………………………………………」

 

「だんまりか。見たところ中東人のようだが……」

 

 俺は自らの腕から僅かに滴る血を無視して構えたまま会話からの情報を入手することを試みる。それと同時に彼女の姿に対する分析も頭の中で行った。

 歳は若い。おそらく二十歳前後かあるいはそれ以下の女だ。褐色の肌に僅かだが見える白銀の髪。中東人としては珍しくない特徴を持っている。身につけている衣装は赤い外套で半ば隠れているが、その少し見える部分でもかなり凝った意匠を感じられる。中東特有の伝統的な衣装にも似ているが、それでいて紋様やところどころのデザインに伝統ではない独自性を感じられるな。あまりファッションには詳しくはないが、それでも分かることはある。特にその閉じた鋏のような巨大な得物はあまり見たことはない。だが情報だけは頭に入っている。

 

「その巨大な鋏のような得物……聞き覚えがある。かつて《北の猟兵》を襲った暗殺者……そしてかの教団事件の際に目撃された中東人の少女」

 

「!?」

 

 そう、北の猟兵襲撃事件と教団殲滅作戦。前者は遊撃士協会の情報で。後者は俺の弟弟子であり同じ遊撃士のアリオスからそのことは伝え聞いている。

 ゆえにその正体にも見当はついた。俺はそれを口にする。

 

「加えてその腕前……そこから推察出来る人物は1人しかいない。結社《身喰らう蛇》のエージェント。《執行者》のNo.ⅩⅢ──《血染の裁縫師》。その人物で間違いないな?」

 

「……………………さあ、どうかな……?」

 

「あくまでしらばっくれるか。それとも都市伝説扱いもされる伝説の暗殺者──切り裂き魔(ザ・リッパー)と呼んだ方がいいか?」

 

「……質問には答えない」

 

「ああ。俺も簡単に答えてくれるとは思っていない。相手が顔を隠した暗殺者であるなら尚更な。ゆえに──」

 

 俺は闘気を高め、身体に力を込める。

 そしてそれらを一気に爆発させるように──言葉と共に解放した。

 

「遊撃士の責務として──ここで捕らえさせてもらおう!!」

 

「っ……!」

 

 素早く肉薄し、棒の先端で何度も突きを放つ。それを相手はその大きな得物を用いて防ぎ、その上で身軽にも一足で建物の屋根の上へと跳躍した。

 

「逃さんっ!」

 

「きゃんっ!?」

 

 俺はそれを読んでこちらも跳躍。空中で蹴りを放って相手を吹き飛ばす。……どうにも気の抜ける声を上げていたが、逆に言えばそういった声を上げるほどの余裕を感じられた。すぐに屋根の上で立ち上がったところから見ても大して効いてはいない。蹴り程度なら耐えられる。そう見ることも出来るが、これは……。

 

「やったな……! この……!」

 

「! む……」

 

 だがその思考をまとめるより先に相手もまた攻勢に出てくる。その動きは鋭く速く、何より迷いがない。こうして立ち会いになれば気づくことも出来るが、その闘気は殆ど感じることの出来ないようなものだ。

 だがそれゆえか、薄ら寒い何かを感じられる。これほどまでに鍛え上げられた暗殺者であるのに、纏う気配が悪しきものではなく、善良な一般人に近い。その矛盾。チグハグさが警戒を阻害させ、同時に強い警戒を自覚させる。これまた矛盾することではあるが、警戒させないような気配を漂わせる相手だからこそ、自分を戒めて強く警戒をして戦いに臨ませた。

 何しろこの相手、腕前の方も相当高い。俺の娘に息子──エステルやヨシュアとそう歳が離れているようには思えないが、腕前にはかなりの差を感じる。執行者と相対するのは初めてだが達人揃いというのはやはり本当の話だったようだな。

 

 ──それから幾つかの攻防を行い、時が経つ。何度か攻撃を加えているが中々倒せないことに俺は静かに驚きを得ていたが、こうなれば更に手荒にやるしかない。人や街に被害を出さぬよう注意する必要はあるが、この程度であればまだ……! 

 

「“雷光撃”!!」

 

「速っ!?」

 

 先ほどから後退しながら戦い続ける執行者に対し、更に素早く距離を詰めて叩く。

 だがその速さも見えてはいるのだろう。得物でガードすることによって対応してくる。ならばと続けて高速の突きで崩してキツいのをお見舞いしてやろう。

 

「そらそらそらッ!! うおおりゃああああ!!」

 

「っ~~~~~!!?」

 

 戦技“百裂撃”。先ほどの連撃よりも更に速く力を込めた攻撃で相手の防御を崩し、隙が出来たところで鳩尾にキツい一撃を与える。

 急所にこれだけの攻撃を加えればさすがにしばらくは動けなくなるだろう。そう思いながらも、俺は警戒して空中に吹き飛んだ相手に更なる追撃を加えるために跳躍。自らの身体を回転させて相手へと迫り──

 

「奥義!! “鳳凰裂波”!!」

 

「!!? い、いや~~~!!? ちょっと待って!? う……うわああああああ!!」

 

 ──そしてその攻撃は相手へと直撃した。声を上げて執行者である彼女は地面へ激突する。

 さすがにこれだけダメージを与えればすぐに動くことは出来ないだろうと俺もまた地面に降り立ち、戦塵の中で膝を突く相手を未だ構えたまま観察した。

 

「これ以上痛い思いをしたくなかったら大人しく投降した方が身のためだが……」

 

「っ──言われなくても痛い思いしたくないから逃げるよ!! このチート親父め!!」

 

「何!?」

 

 だがその警戒を更に超える意外性──その執行者は鳩尾への攻撃を食らってなお殆ど怯むことなく動き出し、その鋏のような得物を、本来の鋏のように開いて挟み切ろうと俺の眼前まで一気に迫っていた。

 

「“グリムシザー”!!」

 

「ぬうっ!!」

 

「げっ!? 嘘ぉ!?」

 

 躱すには少し遅い。ゆえに俺は棒をその挟みが閉じる中心に()()()()()()()()()()()()()()()()何とかそれを防ぐ。相手の執行者はその防御方法に驚くが、俺に言わせてみればあそこから一気に攻撃に転じて迷いなく挟み切ろうとしてきたことは中々に危険な流れだった。初見でこれを防ぐのは至難の技だろう。それに力もかなり強い。下手をすれば棒ごと挟み切られかねない強さだ。

 ならばと俺は螺旋で受け流しての更なる反撃に転じようとして──

 

「ぐっ……こ、こんなの──勝てるか──!!」

 

「むっ!?」

 

 ──相手はそこから変化をつけた。鋏を切れないように封じた俺に焦れたのか、そのまま横に思いっきり振り、俺を投げるように吹き飛ばす。

 とはいえ空中で体勢を整えて着地すればいいだけではあるが、そうして大きく距離を離したことで相手は術を発動していた。

 

「もう無理! 痛いしキツいし絶対勝てない! だから逃げるからね! でもあなたがしばらくいないとまた誰か襲うかもしれないから! 忠告しとくよ!」

 

「何だと……!? 待て!! 襲うとは一体──」

 

「待たない!! じゃあね!!」

 

 ──転移術。その発動の兆候を見た俺は直ぐ様、距離を詰めてそれを阻止しようとするが、寸前で発動して逃げられてしまう。

 

「逃げられたか……俺としたことが」

 

 既に辺りに気配はない。転移術を使ったのであれば当然──と言いたいが、それすら信用出来ないほどに先ほどの執行者の気配は異質だった。

 だからこそ警戒は怠らないまま俺は自分の腕の止血を行う。軽く切られた程度で戦闘に支障を感じるほどではないとはいえ……まさか不意打ちを食らってしまうとはな。

 だがそれほどの手練れだった。特に暗殺……虚を突く能力に関しては突出している。攻撃の気配を読むことが難しく、技量と身体能力があれだけ高いのであれば殆どの者は気づくことすら出来ずにやられてしまうだろう。

 

「やれやれ……都市伝説になるのも納得だな。結社にあんな若者がいるとは……こりゃまだまだ気が抜けなさそうだ」

 

 軽く息を吐きながら対応策を考える。相応の達人──少なくともA級でもなければ個人での行動は避けた方がいいだろう。それ以下の人員にはB級を含めた最低3名以上での行動を義務付ける。そうすればある程度は防げるか。正面からの戦闘であればあるいは制することも出来なくはなさそうだが……あの感じではもう正面から戦ってはくれないだろう。

 とはいえ警戒のためにもうしばらくは帝国に滞在する必要があるだろう。《血染の裁縫師》は()()()()()()対応が悩ましい相手である。俺は早急に対策を講じ、後始末を終えるために司令部へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 ──カシウス・ブライトが襲撃を受けた次の日。

 

「もうやだ! アーヤお家帰る! 鳩尾に痣出来た! 色んなところ内出血してる! 治るまでお腹出せないし最悪!」

 

「アハハ! それと引き換えに《剣聖》にちょっとでも傷を負わせたんなら十分じゃん! おかげで向こうもかなり警戒してるみたいだしね。傷の方はどうせすぐに治るんだから気にしなくていいでしょ」

 

「気にするの! はぁ……マジで死ぬかと思った……もう二度と戦いたくない……癒やされたい……帰ったらしばらく休もう……」

 

「休めるといいけどね♪」

 

「フラグになるから言うな!」

 

 私はカンパネルラにからかわれながらも挨拶をして何日間か様子を見た後に大丈夫そうなのでリベールに戻ることにした……《剣聖》怖い……《八葉》怖い……というかバレバレだった……頭良すぎてもう近づきたくない……。




これは伝説の暗殺者だな! 実際不意打ちの上手さで言うなら軌跡屈指の暗殺王のルーファスとかより上なんでタイミングによってはとんでもないことになります。ってことで今回はここまで。
次回は王都で賑やかし。暗殺者の仕事は続きます。後2話くらいで多分FCは終わり。次回もお楽しみに。

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