TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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福音計画が始まる不幸

 ──目が覚めるとヨシュアがいなくなっていた。

 

 王城の客室のベッドから起きたあたしは昨夜のことを夢だと思って──いや、思おうとして焦燥感を抑えながらヨシュアを探した。

 だけどヨシュアは見つからず、代わりにシェラ姉からあたしは昨夜、疲れて別の部屋で眠ったことを聞かされた。

 そしてそれを口にしたのは父さんだったと聞いた。身に覚えがないその言葉にあたしは急いで王城の空中庭園で待つ父さんに会いに行った。

 

 そして……そこで色んなことを教えられた。

 

 どうやら父さんはヨシュアの過去のことを知っていたみたいだった。だからこそ部屋に書き置きが残されているのを見て大体の事情を察したんだって言ってた。

 ヨシュアを探そうと言うあたしに父さんは、それは無駄だと言った。何でも本気でヨシュアが姿を消したら父さんでも見つけられない。5年前に襲われた時も苦戦したと、あたしが知らないヨシュアの実力を教えながら、更にヨシュアが何者なのかという質問にも答えてくれた。

 

 ──《身喰らう蛇》。

 

 《盟主》という首領が導き、世界を闇から動かそうとする秘密結社の存在。

 遊撃士協会でも実態を把握していないその結社に、ヨシュアは所属していたらしい。

 そして結社は今回のクーデター事件の黒幕で、更にあのロランス・ベルガー少尉もおそらく結社の一員で関与していた。

 そしてこの事件に関与していた何人か──ヨシュアもまたそれに含まれているって、そう言った。

 何でも暗示をかけられて色んなことを無意識に報告させられてたらしい。

 頭が混乱してぐちゃぐちゃになる中、更に父さんはあたしにヨシュアの誓いを教えてもらった。

 それは、ヨシュアがあたしたちに迷惑をかけた時や結社という過去がヨシュアに接触してきた時に、あたしたちの前から姿を消すって内容。

 

 それを聞いて、あたしは駆け出した。父さんがそのことを知っていたことも。ヨシュアがそんなことを誓っていたことも。ヨシュアがいなくなったことも……全部ショックだった。

 

 ──あたしは駆け出し……そして家に帰ることにした。

 

 親切な兵士さんに教えられ、飛行船でケビンさんっていう変な神父さんに付き添われ、ロレントにあるあたしたちの家に帰った。

 その道中でみっともなく泣いちゃったけど、それでも気を取り直して家に辿り着いたあたしはヨシュアを探した。

 だけどどこを探してもヨシュアはいなくて……あたしはもう二度とヨシュアに会えないんだとようやくそれを理解した。

 

 ……でもあたしはケビンさんに諭された──諦めるのが早いって。

 

 ヨシュアがいなくなったことには何か理由があるはず──そう言われてあたしは思い出した。

 クーデター事件で起こったこと。そして、あの時休憩所で出会った人が思い出せないこと。

 そしてそれを自分で自覚した時……新しい希望が生まれた。

 ヨシュアの目的である悪い魔法使いを止めること……その悪い魔法使いがリベールで何か大きな事件を起こそうとしているなら、遊撃士のあたしがそれを止めることが出来たなら。

 ひょっとしたら──またヨシュアに会えるかもしれないと。

 

 それを口にしようとした瞬間、あたしの前に父さんとシェラ姉が現れた。どうやらケビン神父が連絡していたみたい。

 そして父さんからそこで改めて言葉を交わして、シェラ姉からも背中を押されて……そうしてあたしは決意した──《身喰らう蛇》の陰謀を阻止してヨシュアを連れ戻してみせる。

 

 ──あたしに新たな目標が出来て、あたしは父さんとシェラ姉と改めて話し合った。

 

 父さんにはもうあたしを止める気はない。だけど父さんはあたしの身を案じてか、服の袖をまくってその腕の傷を見せてきた。

 

「切り傷……?」

 

「ああ──俺が帝国で負った傷だ」

 

「先生に手傷を負わせるなんて……一体何があったんですか?」

 

「結社の暗殺者に襲われた。相手はおそらく《切り裂き魔(ザ・リッパー)》……都市伝説にもなっている伝説の暗殺者だ」

 

「《切り裂き魔》って……ヨシュアたちが王都の地下で出会ったっていう……!」

 

「おそらくは同一人物だろう。ヨシュアたちもかなり苦戦させられたらしいが、俺も同じだ。かなり苦戦させられた」

 

「父さんが……」

 

 あたしはその事実を改めて思い知る。

 今までは父さんの実力にあんまり実感がなかったけど、準遊撃士になって色んな人から父さんの活躍や逸話を教えられ、《輪の守護者(トロイメライ)》の腕を一撃で破壊したところを見てきた。だから父さんの実力もある程度は分かっているつもり。

 その父さんに怪我を負わせた《切り裂き魔》に、あたしたちも全く刃が立たなかったロランス少尉……あたしが思い出せない悪い魔法使いも、その全員が結社の一員なんだと理解した。

 

「これで分かっただろうが……今のお前の実力では結社の相手はあまりにも危険すぎる」

 

 父さんはそう注意した上であたしに、遊撃士協会の本部があるレマン自治州に行って、そこにあるル=ロックルという訓練施設で本格的な訓練を受けてみないかと提案してきた。

 訓練期間は大体1か月。その間に何かがあればすぐに連絡してくれるとシェラ姉は言った。

 父さんからも決めるのはあたし自身だと……それを聞いてあたしは訓練を受けることを決めた。

 これからは自分の判断と実力にかかっている。ヨシュアに頼ることは……少なくともヨシュアを連れ戻すまでは出来ない。

 だからあたしは訓練を受けて自らを鍛えることにした。強くなってヨシュアを絶対に連れ戻すために。

 

 あたしはそう決意し、次の日には訓練を申請することになり、程なくして出発も決まった。飛行船に乗ってあたしはレマン自治州へと向かう。新たな決意を胸に──

 

「──あっエステルちゃん! やっほやっほー! シェラさんもこんにちはー! え、何? もしかして服買うの!? へ~レマン自治州に行くんだ。あ、じゃあ私も何着か見繕ってあげる! えーととりあえず冬用のコートは欠かせないし……あ、このマフラー可愛い! エステルちゃんに似合いそうだから買ってあげよっか! それなら手袋とかも欲しいよね! 冬用コーデってことで! それじゃあタイツとかも必要だし、ブーツとかもいいよね! 後は下着なんかも──」

 

 ……その出発前にシェラ姉と一緒に寄った王都の百貨店でアーヤと出会って沢山の服を押し付けられたけど……まあ、それはともかくとして、あたしは気を取り直してレマン自治州にあるル=ロックルでの訓練を開始した。

 

 

 

 

 

 ──どうもー! アーヤ・サイードでーす! 執行者No.ⅩⅢ《血染の裁縫師(ブラッドクチュリエール)》でーす! よろしくお願いしまーす! 

 

 さて。早いものであれから2ヶ月ちょっと。年の暮れも近い11月になりました。女王生誕祭から2ヶ月ちょっとと言い換えてもいいし、なのでまあそれなりに時間が経った訳だけどその間は色々あった。

 あの後レーヴェは私の告白を黙って聞いた後、「計画が終わるまでは事を荒立てるつもりはない」と言って冷静に部屋に戻った。うん、一応ヨシュアくんのことだからレーヴェには聞かせておいた方がいいかなって思ったけどやっぱりレーヴェは冷静だった。エロ催眠の教授を問い詰めるのは全部終わった後にするみたい。まあ多分教授死ぬけど。でももし生き残ったら私も証人として証言台に立とう。私もなんだかんだ慰謝料も何も貰ってないし、第二審では必ず謝罪と慰謝料を勝ち取ってやる! ヨシュアくんと一緒にね!

 

 そしてその件のヨシュアくんだが案の定エステルちゃんの元から去ったらしく行方知れず。エステルちゃんはヨシュアくんを連れ戻すために強くなることを決意して遊撃士協会本部のあるレマン自治州に訓練に向かったって聞いた。なんならそのちょっと前に王都の百貨店で会ったんで餞別として色々洋服をプレゼントしてあげた。レマン自治州は大陸の北の方だからね。それにしては温暖な気候だけどもしかしたら寒くなるかもしれないし冬用コーデを見繕った。リベールじゃ着る機会なさそうだけど今後大陸各地でヨシュアくんとデートするようなことになった時にでも着てほしいね。

 で、エステルちゃんが旅立ってる間に私の方も相変わらずのジェニスでの学園生活──だけではなく、相変わらずの学園に表の仕事に裏の仕事にとかなり忙しい日々を送った。

 

 具体的に何をしたかっていうと、まあまずはファッションデザイナーとしての仕事だよね。年末の時期ということもあって今年もカルバード共和国の首都イーディスで行われるイーディスファッションウィークへの参加を打診されたので私はそれを快諾。新作としてオートクチュールの衣装を何着か仕立てたし、会社としてもブランドショップの売上が好調で利益をかなり伸ばしている。それに合わせて既製服を作るための工場というか大規模なアトリエを用意して従業員もそれなりに雇った。その辺りの調整のために一度カルバードに帰って用事を済ませたりもした。ぶっちゃけ運営は好きにしてもらっていいんだけどさすがに一応の代表である私が確認した方がいいこともあったみたいなので。店舗を増やすとか本社を移転した方がいいんじゃないかとか色々ね。その辺りも適当に任せた。私は今まで通りデザイン描いて服を仕立てるだけ。後たまに優秀なスタッフ──デザイナーの卵から教えを乞われたりしたんでアドバイスもしてあげたりね。久し振りにシーナちゃんを始めとするスタッフの皆とも会ったけど皆元気だった。若干疲れてたというかアトリエが大分散らかってたのが気になるけどよっぽど服作りが楽しくてそこまで気が回らなかったのかもね。

 

 そして裏の仕事の方は……こっちも思い返してみれば濃かったかもしれない。

《庭園》としては正直、イクスとヨルダが暗殺者としてはちゃんと育ってるのでそれを見てあげたくらいなんだけどね。久し振りに会った2人はちょっと背が伸びて相変わらず元気だった。今は近所の日曜学校に通いつつ、仕方なくエンペラーやメルキオルから任された暗殺を何件かやったんだって。学校に通わせるのは私の方針なんだけど暗殺の方は本当に仕方なくだ。まあ2人もなんか全然やる気があったんでマシ……マシ? だけどね。この2人も解放してあげたいのは山々だけど生憎とこの2人の保護者はオジサンや庭園なので私にはままならないところがある。せめて裏だけじゃなく表でも楽しくやれるようにしてあげるとか色々と便宜を図ってあげるとか優しくしてあげるくらいしか出来ないのでそんな感じで調整してる。サイコな殺し屋にはなってほしくないからね。私みたいに一般人としてのスキルや考えもしっかり備えてもらわないと将来苦労するので教育はしっかり行うつもり。

 

 とまあ庭園に関しては私が一応ボスなおかげかそんなに忙しくはないんだけど、問題は結社の方だ。相変わらずこっちは私に無茶振りを投げてくる。

 なんでも《福音計画》を問題なく進めるためにリベール国外の各地でちょっとした事件とか起こしたり暗躍したりして目をそっちに向けさせたりする必要があるらしい。……いや、それなら別の執行者に頼めばいいじゃん。なんで私に頼むの? って思ったけどそれは私の《切り裂き魔》としての名前が関係してるんだとか。というのも《切り裂き魔》……つまり私を追い続けてる《星杯騎士団》の守護騎士がいるらしいのでリベールに来てもらっては困るらしい。……いや、だったら最初から私を変に表に出さなきゃいいのに……と思ったけどそれはそれ。私がまた別の地域で暗躍することも計算の内ってことなので仕方なく私はレマン自治州で遊撃士協会本部を襲撃してちょっとだけ脅かしたりしてその後にも大陸の色んなところでちょっとずつ顔を出したりした。

 いやー……終わってみればあっという間だったけど思い返すと大変だったなぁ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、私の知識にない()()()()()()()()()()大変なことになったり……ほんとやめてほしい。前者も困ったけど後者なんてさぁ……私の未知数の強者を出されても困るんだよねー……何も分からないから怖い。知ってても怖いけど知らないのも怖い。大陸に4人しかいない奴となんでこんなに頻繁に出会うの? おかしくない? 私なんかよりもっと大物の相手をしてほしいよね、ほんと。

 

 ってことでこの2ヶ月の間に学園と各地を行ったり来たりしていたので大変だったし無駄に鍛えられた気がする。来年に卒業すれば多少は余裕も出来るんだろうけど今はまだ学生なので少し無理しないといけない。

 まあただ単位とか出席日数は一応は足りてるんで大丈夫だと思う。なので今日からはまたリベールで執行者として暗躍生活だ。

 場所はリベール王国の中心にある巨大な湖──ヴァレリア湖畔の北側。そこに結社の秘密基地があるんで、私はそこで今回の計画に参加する執行者たちを出迎えた。

 

 ──ということで私と会話した時のことを回想しつつ、そのイカれたメンバーを紹介するぜ! まずはこの人! 殺人拳を極めし者! 戦闘大好きグラサンおじさん! 執行者No.Ⅷ! 《痩せ狼》ヴァルター! 

 

「よう、久し振りだな《剣帝》」

 

「……ヴァルターか。随分と早い到着だな」

 

「ちょうど退屈してたもんでな。それにお前もいるって聞いたからな。今度こそは手合わせ出来るかと思ってよ」

 

「……いいだろう。ちょうど少しばかり気が立っていたところだ。今回だけはこれを鎮めるためにお前の誘いに乗ろう」

 

「! ──クク、クカカ……! おいおいマジかよ! 言ってみるもんだぜ! まさかお前が俺の誘いに乗るとは……お前にしちゃ珍しいことがあったもんだな?」

 

「……悪いがやるからには手加減はしない。計画の前に怪我をしないよう精々気をつけることだな」

 

「上等だ……! ──おい、アーヤ。てめぇが立ち会いをしろや。さすがにどっちかが死ぬまでやり合う訳にはいかねぇからよ」

 

「──え? ごめん聞いてなかった。でもいいよー。戦うんでしょ? 服縫いながら見てるから好きに始めちゃってー」

 

 ──と、こんな会話が……え? 私との会話じゃないって? でもその場に私もいたし……服縫ってたからあんまり会話に加わらなかったけどね。でもすごかったよ。レーヴェとヴァルターの手合わせ。さすがにちょっと服縫ってる場合じゃないくらいすごくてテンション上がったのでめちゃくちゃ応援した。いつも通り戦闘狂のヴァルターとなぜか()()()()()()冷たい《修羅》の気を放つレーヴェ。その手合わせの結果は良い感じに基地の屋上がボロボロになったところでレーヴェの勝利。でもヴァルターも満足そうだったね。私も熱くなってその後屋上で1人で稽古もしたくらいにはテンション上がった。レーヴェの真似をして床に破砕剣とかやってみたけど中々良い感じに出来た。私がやると武器も相まって大切断って感じだったけどね。

 

 ってことでその次はこの人! 結社随一の占い師! 妖艶! えっち! お姉さん! 良い人! 執行者No.Ⅵ! 《幻惑の鈴》ルシオラ! 

 

「ふふ、久し振りね。レーヴェ、アーヤ」

 

「お前も来たか、ルシオラ」

 

「ルシオラ姉さーん! いらっしゃーい! 久し振りに占ってー!」

 

「2人とも変わらないわね。それとアーヤ。貴方が何を占いたいかは分からないけど……貴方の運勢については占うまでもないわ」

 

「え、どうして?」

 

「占うまでもなく貴方には吉兆が見えるからよ」

 

「え、ほんと!? やったー! さすがはルシオラ姉さん! 占うまでもなく占えるなんてさすがは結社一の占い師!」

 

「ウフフ、ありがとう。……それより聞きたいのだけれど、屋上が壊れているのはなぜかしら? 戦闘跡のようだけど……もしかして襲撃でもあったの?」

 

「……俺とヴァルターで少し手合わせをな。些かやりすぎたが」

 

「そうそう! すごかったよ! おかげでボロボロになったけど今補修中だしすぐ直るから気にしないで!」

 

「成程ね。貴方がヴァルターの誘いに乗るなんて珍しいこともあったものだけど……何故そうなったかは聞かないことにしておくわ」

 

「ああ、そうしてくれると助かる」

 

「え? 何? 何の話?」

 

「なんでもないわ。それよりもその服は新しい衣装?」

 

「! あっ、これはルシオラ姉さんにプレゼントしようと思って──」

 

 ──と、そんな会話があった。ルシオラ姉さんは結社の執行者の中でもかなり良い人の部類に入るから会話も穏やかで平和になる。途中何の話か分からないところはあったけどまあそれよりも久し振りに会う皆に私の仕立てた衣装をプレゼントする方が大事だからね! その後ちゃんとルシオラ姉さんにもプレゼントした。

 

 そんでそんで次はこの子ー! すっごい可愛い私の妹! (今だけ) 何でもこなせる天才ロリ美少女! 執行者No.ⅩⅤ! 《殲滅天使》レンちゃん! ゴルディアス級人形兵器のパテル=マテルもいるよ! というかパテル=マテルに乗ってきた! 

 

「アーヤー! レーヴェ! 久し振りー!」

 

「レン久し振りー! 元気だった? また身長伸びたねー! このこのー!」

 

「あはは! くすぐったいわアーヤ! ──って、あれ……? なんかパテル=マテルの着地した場所が軋んで──」

 

「! ──崩れるぞ! 飛び退け!

 

「あっ」

 

「えっ? ──きゃっ!?」

 

 ──と、パテル=マテルが着地した場所が偶然、最も破損している緩い場所だったためなのか、運悪くパテル=マテルの重量に耐えきれずに屋上の床を突き抜けたこともあった。すごくびっくりしたけど……まあしょうがないよね! 耐えられない基地の方が悪い! うん、レンは悪くないし、もちろんレーヴェとヴァルターも悪くない! 悪いのはこの基地をもっと硬くしておかなかった教授か技術担当の博士だ! 

 

 ってことで次は──っと、そういえばブルブランはいないんだった……タイミングが悪くてね。私が基地に来た時はもう出かけた後だった。どうやら先にリベールに来ていたみたい。そういえばいたんだっけ……? まあいいか。とりあえず執行者No.Ⅹ! 《怪盗紳士》ブルブラン!(欠席)

 なのでトリを務めるは謎の少年! 男か女かも分からない! そもそもお前は人なのか!? 普通の執行者とは違うらしい計画の見届け役! 執行者No.0! 《道化師》カンパネルラ! 

 

「やあ、《剣帝》。ずいぶん久し振りだねぇ。君がいない半年間、寂しくてたまらなかったよ」

 

「フッ、心にもないことを。……帝国遊撃士協会の襲撃はお前が担当したと聞いている。カシウス・ブライトの相手はさぞかし楽しかっただろう?」

 

「なぁんだ、知ってたのか。そうそう《血染の裁縫師》と一緒にね。僕が裏から色々動いて彼女が実際にあのオジサンと戦ったんだけどとんでもなくてさぁ。手持ちの猟兵団がひとつ潰されちゃったんだよ」

 

「《ジェスター猟兵団》か。一度、稽古は付けてやったがどうにも凡庸な連中だったな」

 

「でもま、君の工作完了まで足止めできたから上出来かな。──君もあの時はありがとうね」

 

「──本当だよね。もっと褒めてくれてもいいよ? 後は報酬とかもっと増やしてもいいと思うんだけどなぁ……そもそも私以外が相手すればいいのになんで私が……」

 

「フフ、まああの役目が出来るのは君くらいなもんだよ。もしくは《剣帝》かな。そっちの勝負も是非見てみたかったけどね」

 

「俺としても少々残念ではあるがな。だがその機会は訪れないだろう。奴は軍務という名の鎖に繋がれてしまった。もはや正攻法で我らを止めることは叶うまい」

 

「ふふ、教授の計画が見事図にあたったみたいだね。それじゃあ、他のメンバーはもうリベールに来てるのかい?」

 

「ああ、昨日集結したばかりだ」

 

「ブルブランは先に来てたみたいだけどね」

 

「ああ。──《怪盗紳士》《痩せ狼》《幻惑の鈴》《殲滅天使》……揃いも揃って、クセのある連中ばかりが集まったものだ」

 

「ねー。執行者って個性的な人多いよねー。変人が多いっていうかさー」

 

「…………」

 

「…………それ、君が言うの? 結社随一の変わり者の《血染の裁縫師》がさ」

 

「え? 何言ってんのカンパネルラ。私って普通じゃない? 余裕でブルブランとかヴァルターの方が変人でしょ?」

 

「いやいや、君自覚ないみたいだけどさ。絶対君の方が変だって」

 

「いやいや、それを言うならカンパネルラの方が変じゃん。男か女かも分からないし。ちん◯ん生えてるかも分からないし。そう考えると1番正しい意味で変な人じゃ……」

 

「──ごめん。1回殴ってもいいかな?」

 

「じょ、冗談だってば。ニコニコ笑顔で殴るとか言わないでよ。ほら、私たち友達でしょ?」

 

「確かに仲は良い方だとは思うけどそれとこれとは話は別かな。それ言わないでって言ったよね? 僕イジるのは好きだけどイジられるのは嫌いだからそういう冗談は僕以外の人だけにしてよ? ──次言ったら()()()()見せるからね」

 

「ひっ……わ、わかったよ。もう言わないって。ごめんごめん」

 

「うん、それならいいけどさ。……そういえば『彼』……行方をくらましたんだって?」

 

 ──と、こんな会話をしてレーヴェが呆れるような溜息を吐いて私が謝っていると閑話休題って感じで今度はカンパネルラがヨシュアについての話題を投げてくる。なので私は無言のレーヴェの代わりに言葉を返した。

 

「あーそういえばそうみたいだね」

 

「………………………………」

 

「うふふ、愉しみだな。隠密行動は僕たち《執行者(レギオン)》すら上回る実力だったしね」

 

「そうそう。すごかったよー昔は。近くで見てたから分かるけど私なんかよりよっぽど隠れるの上手だったからね!」

 

「もっとも君よりは下だったみたいだけどね。とはいえ隠密能力の優秀さは変わらないし、《剣帝》と《白面》相手にどこまで頑張ってくれることやら」

 

「………………………………所詮、何年も前に結社から足を洗った人間だ。大した脅威になるはずがない」

 

「えーそんなことはないと思うけどなぁ……」

 

 ってことでヨシュアくんに対する話題で私は擁護しておく。まあレーヴェもそんな貶めるつもりもないとは思うけどね。ただ身内として厳しく言っているだけだと思う。実際ヨシュアくんは優秀だからね。私よりも才能はあると思うし。私も頑張ってくれるというか全てを解決してくれるに一票! 

 

「いやいや。彼女の言う通り、そんな事はないと思うよ」

 

 うわっ! とかなんとか言ってたら後ろから教授が来た! 話に混ざってくるな! あっち行けー! 

 でも空気の読めない教授は私の仮面越しのあっち行けオーラなんて読み取らずに普通に近づいて声を掛けてきた。

 

「やあ、カンパネルラ。わざわざご苦労だったね。見事、カシウス・ブライトを足止めしてくれて助かったよ」

 

「うふふ、彼女のおかげもあってね。愉しい仕事だったよ」

 

 本当だよ! 私にもお礼言え! いや、やっぱ言わなくていい! 言われた時のこと思い出した! 特に嬉しくもなかったからね! 

 

「しかし教授の計画書を拝見させてもらったけど……いやはや、ずいぶんと愉しいことを考えてるじゃない」

 

「ははは、道化師たる君にそう言ってもらえるとは光栄だ」

 

 ──え? 計画書なんてあるの? 私見てないんだけど……口頭での説明しか聞いてない……一応計画に参加する執行者なのに……もしかしてハブられてる? いやまあ一応流れとかやるべきことは聞いてるし、別に言われなくても知ってるからいいんだけどさ……執行者はともかく教授の仲間には入りたくないし……。

 

「しかし、実際の計画ではもっと楽しんでもらえると思うよ。何しろ今回協力してくれる諸君は皆、個人的な目的を持っている。私も、そしてこちらの2人もね」

 

「…………(?)」

 

「……否定はしないさ」

 

 え……否定したい……目的って何? 心当たりないんだけど……レーヴェを救いたいってのが強いて言うなら目的だけどそれは誰にも教えてないし、表向きの理由ってなんかあったっけ……? …………駄目だ。思い出せない……計画に参加したいって希望を出した時になんか色々言ったような気が……それとも本当の目的バレてる? レーヴェのために参加してるって? うわぁ……だとしたら恥ずかしい……それだったら私がめっちゃレーヴェのこと好きみたいじゃん……いや、嫌いじゃないけどさ。むしろ大好きだし……で、でもそういう意味じゃないんだからね! 

 

「あなたに思わせぶりに仄めかされる筋合いはないがな」

 

 そうだそうだー! 仄めかすなー! 匂わせするなー! 気持ち悪いぞー! 変態催眠野郎ー! 

 

「やれやれ、つれない事を」

 

「ふふ、なーるほど。色々と事情がありそうだ」

 

 そうそう。事情があるんで聞かないでもらえると助かるよ。私の目的は最後まで秘密! 誰にも明かさず、そしてハッピーエンドを迎えるんだ! 

 

「まあいいや、教授の悪趣味はもはや芸術的とすら言えるからね。存分に愉しませてもらうよ」

 

「フフ……悪趣味とは聞こえが悪い」

 

「いや、悪趣味だと思うけど……」

 

「…………………………………………」

 

 私はつい声を出してカンパネルラの言葉に同意、もとい教授の発言にやんわりとツッコミを入れるも特に何も言われはしない。このくらいの悪口なら許容範囲なのかな? ──なら今度からもっと言ってやろっと。今のうちに練習しとかなきゃ……やーい! 悪趣味塩教授ー! お前のちん◯ん塩の杭~♪ 悪趣味変態塩教授~♪ ロリショタ催眠エロ教授~♪ 面白面白塩教授~♪ へいへーい! レーヴェが何か言いたそうにしてる分も私が言ってやる! 

 

「まあいい、心ゆくまで今回の計画を見届けるといい。我らが《盟主》の代理としてね」

 

「うふふ、任せておいてよ」

 

 あ、そんなこと言ってる間に始まるぞ! カンパネルラの宣言だ! 私地味にこれ好き! 生で聞けるのはちょっと嬉しい! 何が良いって声がね。カンパネルラの声が好きなんだよ。だから普段からよく話しかけるんだよね。

 

「執行者No.0──《道化師》カンパネルラ。これより使徒ワイスマンによる《福音計画》の見届けを始める」

 

 ──きゃー! 始まったー! 空の軌跡SC開始ー! 『銀の意志 金の翼』流してー! 誰か代わりに歌ってー! 合いの手するからさ! ふっふー! ほらイントロも流すからさ! いえいいえーい! ……あーおい~♪ 時、描く軌跡~♪ 辿り~♪ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そしてカンパネルラの宣言が終わった後。

 

「あ、ところでアーヤ。ちょっと聞きたいんだけどさ」

 

「ん、なに?」

 

「この屋上……なんかめちゃくちゃ壊れてるし、現在進行形で補修工事してるんだけど……もしかして君、また何かやった?」

 

「いやいや、私は何もしてないよ。これはレーヴェとヴァルターが手合わせで色んなところを破壊した後にレンのパテル=マテルがとどめを刺しちゃってね」

 

「ふーん……? じゃあ君のせいじゃないんだ。まあいいけど、レーヴェがヴァルターの手合わせを受けるなんて珍しいこともあったもんだね」

 

「ねー珍しいよねー。でも壊れたところはちゃんと教授が手配して直すから問題ないんじゃないかな」

 

「それは教授も気の毒にね。……あ、それともう1つ聞きたいんだけど君、なんでまたその格好なの? 外で仕事する時はともかくここで姿隠す必要ないんじゃないかな?」

 

「今日はこれを着たい気分だったからね。ほら、これ私服でも使えるからさ。仮面と外套を付けるとやりすぎだから外では逆に無理だけどここなら着れるしね!」

 

 ──ということでちょっとだけ工事中の屋上でカンパネルラと居残りで駄弁りつつ、私のいる空の軌跡SCは始まった。




ということで空の軌跡SC始まりました。次回はルーアン地方で変態紳士VS放蕩皇子VSアーヤちゃんVSダークライ。お楽しみに。

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