──ヨシュアさんがいなくなった話を聞いてから私はずっとエステルさんのことが心配でした。
心配で力になりたくて、でも何も出来ない自分が嫌になって。
それでもなんとか日々を過ごすことが出来たのは学園にいるジルやハンスくんなどの友達の存在や、復興されたマーシア孤児院のテレサ院長や子供たちの存在。
そして何よりアーヤ先輩がいつも私を励ましてくれたからです。
学業だけでなく仕事でも忙しく、どこかに出かけたりカルバードに一時帰国したりして学園にいない時もあるアーヤ先輩ですが、学園に来ている時はいつも私に声をかけて私に明るい話題を提供してくれました。マーシア孤児院に復興祝いをしようと誘ってくれたり、強引に学校の外へと連れ出してお買い物に誘ってくれたり。アーヤ先輩には本当に感謝してもしきれません。
だから私もお返しとして先輩の誕生日の前祝いとして買い物に出かけた際に見つけた銀色の翼を模したブローチを送りました。
先輩はそれだけで子供みたいに喜んでくれました。すぐに胸の部分にそのブローチをつけてはしゃぎ回っていて。その時だけは心の底から笑顔を浮かべることが出来た気がしました。
──そんな日々を送りながらの2ヶ月。
ジェニスでも学期末となる定期試験が行われ、試験期間中は外出も禁止ということで私も試験に集中して取り組みました。
そうして試験が終わった日の放課後。ジルにハンスくん。そしてアーヤ先輩と校内を歩いていると──校門にエステルさんたちの姿が見えました。
私は思わず駆け出し、エステルさんに抱きついて心配していたことを伝え、それから再会を喜んだ後にエステルさんたちがやってきた目的を学園長室で聞いてからその『白い影』の調査に協力することになりました。
ジルの指示で役割分担をして、ジルとシェラザードさんは職員室で先生方への聞き込み。ハンスくんが資料室で過去の事件をチェック。ドロシーさんとオリビエさん。そしてアーヤ先輩は学園内の散策となり、私とエステルさんで生徒たちへの聞き込みを担当することになりました。
そうして学園内の聞き込みをエステルさんと行っている途中……講堂で数ヶ月前に行われた学園祭の舞台の話をきっかけに、私はエステルさんにヨシュアさんのことが好きだったことを告白しました。
ヨシュアさんにあの時、本当にキスをしようとしていたこと。
エステルさんに対するヨシュアさんの強い想いを感じ取って自ら身を引いたこと。
私とヨシュアさんの似ているところ。違うところ。その話の流れから私が王位継承の件で悩んでいることも打ち明けて。エステルさんからも色んな想いを聞かせてもらいました。
そしてエステルさんと話をしている最中に──講堂の控え室に当たる場所から音がして、そこからアーヤさんが少し気まずそうに出てきました。
「アーヤ先輩?」
「あはは……ごめん。ちょっと聞いちゃってた……出るタイミングがなくて……」
「き、聞いちゃってたんだ……あはは……ちょっと恥ずかしいかも……」
「私は全然……アーヤ先輩なら大丈夫です。先輩には前にも一度相談していますし」
「あ、そうなんだ。クローゼとアーヤも仲良いわよね」
「はい。先輩とは仲良くさせてもらってます」
「うん、超仲良しだよ! この間だってクローゼちゃんからプレゼント貰ったからね! ほら、このブローチ! かわいいでしょ!」
「もう、先輩ったらまたそうやって人に自慢して……」
「あはは……でも本当に仲が良いのね」
「いやいや、エステルちゃんとも仲良しだと思ってるよ! ──ってことで2人とも仲良しのハグの刑ー!」
「わわっ!?」
「きゃっ!?」
話に加わったアーヤ先輩は突然私たちのことを抱きしめてきました。そうして私とエステルさんの頭を撫でながら。
「うんうん♪ 2人とも肌も柔らかくてすべすべだし髪もさらさらで超可愛い! こんな可愛い子2人に好きになってもらえるなんてヨシュアくんって罪な男だね!」
「も、もうアーヤってば……ちょっと恥ずかしいんですけど?」
「あはは……アーヤ先輩はいつもこんな感じなんです。スキンシップが多いと言いますか……」
「そうそう。だからクローゼも安心してね」
「え?」
「私からは逃げられないからね! 女王様になっても気軽に話したり、こうやって抱きしめたりするし、強引に遊びに連れ出して行っちゃうんだから!」
「! ……先輩……」
「エステルちゃんも! 悩むのも良いけどあんまり思い詰めないようにね! 大丈夫! エステルちゃんならきっと全部上手くいくから! ヨシュアくんのことも全部何とかなるなる!」
「! アーヤ……うん、ありがとう。いきなりでびっくりしたけどすごく元気出てきたかも」
「はい。私も、ありがとうございますアーヤ先輩」
「いやいや気にしないでいいよ。2人共私の友達……もとい妹分みたいなもんだからね! 励ますのは当然だからさ!」
「そういえば年上なんだっけ……そう言われてみるとアーヤって普段はそんな感じしないけど、たまに年上っぽくなるわよね」
「ええっ? いやいやいや、普段から結構年上っぽくない?」
「ど、どうかなぁ……? クローゼはどう思う?」
「私はすごく頼りになると思いますよ。いつも明るくて接しているとこっちまで元気が出ますし……そういう意味じゃ、エステルさんとアーヤ先輩は似ているかもしれませんね」
「えー? そう? 私エステルちゃんほど猪突猛進じゃないと思うけど……」
「う……なんだろう。アーヤには言われるとちょっとムカっとくるかも……」
「私の方が勉強出来るし頭良いからね!」
「ぐ……そう言われると言い返せない……! でもなんか納得出来ないんですけどー?」
「あはは、ごめんごめん。そうだよねー。エステルちゃんは元気なところが良いところだもんねー。おーよちよち」
「って、それはさすがに子供扱いしすぎ!」
「ごめんなさーい♪」
「ふふ……」
──と。私は講堂でエステルさんにアーヤ先輩を加えてそんなひとときを過ごしました。
エステルさんに悩みを打ち明け、互いに想いを確認し、アーヤ先輩から励まされ……すごく元気が出ました。エステルさんは自信がないみたいでしたけどやっぱりすごい魅力的ですし、アーヤ先輩もあんな風に言葉を掛けてくれて……正直なところ、すごく嬉しかったです。
否定はしていましたがやっぱり2人は似ているところがありますね。話していてとても明るくなれる2人のことが私は大好きです。本当に友達になれて良かったと思っています。
そうしてひとしきり話した後、再び聞き込みを再開して──それらが一段落したところで一度集まって情報を整理した結果……学園の旧校舎が怪しいという結論が出ました。
なので私たちは調査に行こうとして──そこでエステルさんが気絶をしてしまって、彼女を寮へと運んで寝かせました。
起きてから事情を聞けば、何でも窓の外にその白い影を見かけたそうで、気絶させられたエステルさんはその幽霊をとっちめてやると意気込んでいます。
それから先生から裏門の寮を借りて、私たちは旧校舎へと調査へ向かうことに。魔獣が出るかもしれないので学生は待機するように言われましたが、私は無理を行って同行させてもらうことに──その際にアーヤ先輩も「私も私も! 戦えるから行けるよ!」と同じように同行を求めたので悩みながらも同行が許可されたので一緒に向かうことに。
──それから旧校舎の調査が始まって……途中で危険を感じてドロシーさんとその護衛としてアーヤさんを残して先へと進んだ私たちは、そこで遂に『白い影』の正体に行き着きました。
「改めて自己紹介をしよう。執行者No.Ⅹ。《怪盗紳士》ブルブラン──《身喰らう蛇》に連なる者なり」
──辿り着いたその場所にいた仮面を被った男の人は私の正体を指摘しつつ、そう名乗りを上げた後、リシャール大佐が使っていた漆黒の導力機である《ゴスペル》を私たちに見せつけてきました。
白い影を作り出していた物の正体こそがその実験用に作られた《ゴスペル》であり、今回の騒動は彼らの実験に依るものだとそう言って。
……そしてその目的は、私と相見えるためだと。
市長逮捕の時に変装して見ていたという彼はそう言って、私達に遺跡の守護者だと言う甲冑の人形兵器を差し向けました。
ですが私達は苦戦しながらも何とかそれを打ち倒し、再び執行者である彼と向き直り──しかしそこで不思議な術によって動きを止められてしまって。
私達を助けようと飛び込んできたジークも同じように影に針を刺す術で止められてしまって。
そうして彼は私に近づいてきました。
「クローディア姫。これで貴女は私の虜だ。フフ、どのような気分かね?」
「……見くびらないで下さい。たとえこの身が囚われようと心までは縛られない……私が私である限り、決して」
「そう、その目だよ! 気高く清らかで何者にも屈しない目! その輝きが何よりも欲しい!」
「ふ、ふざけたこと抜かしてんじゃないわよ!」
私が決して屈しないと意志を言葉に乗せた時。エステルさんもまた異議を唱えてくれました。
動けないはずの身体まで僅かに動かしながら。
だけど更にその時──
「このキテレツ仮面! クローゼから離れなさいっての!」
「やれやれ、この仮面の美しさが分からないとは……君には美の何たるかが理解できていないようだな」
「フフッ……」
「む……?」
オリビエさんがその言葉に反応を見せたことで執行者もまた反応を返して。
「ハハ、これは失敬。いや、キミがあまりにも初歩的な勘違いをしているのでね。つい罪のないほほえみがこぼれ落ちてしまったのだよ」
「ほう……面白い。私のどこが勘違いをしているというのかね?」
「確かにボクも、姫殿下の美しさを認めるに吝かではない。だがそれは、キミのちっぽけな美学で計れるものではないのさ──顔を洗って出直してきたまえ」
「おお、何という暴言! たかが旅の演奏家ごときがどんな理由で我が美学を貶める!? 返答次第では只ではすまさんぞ!」
「フッ、ならば問おう──美とは何ぞや?」
「何かと思えば馬鹿馬鹿しい……」
──問答が始まる中。
「美とは気高さ! 遥か高みで輝くこと! それ以外にどんな答えがあるというのだ?」
「フッ、笑止……」
──オリビエさんは自分なりの美の定義を答えようとしていたところで……。
「真の美──それは愛ッ!」
「……何ッ!?」
「愛するが故に人は──『それは違うよ!』──む……?」
「え……?」
「何……?」
彼女は突然広間にやって来ました。
その正体は、当然私の知る──
「君は……!」
「──アーヤ!?」
「そうアーヤちゃん! ってことで……2人とも! さっきから聞いてれば色々と間違ってるよ! だから私がクローゼちゃんのために真実を教えてあげる!」
「アーヤ先輩……!」
「ほう……?」
「ふむ……?」
と、皆に注目されている中で仁王立ち。そしてブルブランと名乗る彼とオリビエさんにそれぞれ指を突きつけて、アーヤ先輩は私を慮ってはっきりと言葉を──
「──クローゼちゃんは
──かけてはくれましたがちょっと斜め上でした。
──どうもこんにちはー。座右の銘は『可愛いは正義』! アーヤ・サイードです!
ってことで色々とあったんだけど現在進行形で今は討論中だから忙しい!
「──愛するが故に人は美を感じる! 愛無き美など空しい幻に過ぎない! 気高き者も、卑しき者も、愛があればみな美しいのさっ!」
「くっ、小賢しいことを……だが私に言わせれば愛こそ虚ろにして幻想! 人の感情などを経ずとも美は美として成立しうるのだ! そう、高き峰の頂きに咲く花が人の目に触れずとも美しいように!」
「むむっ……」
「何でもいいけどクローゼちゃんは私の(後輩)だからね! どっちにもあげないよ! 私の方がクローゼちゃんの良さを知ってるし! クローゼちゃんの美しさも知ってるんだから!」
「せ、先輩……」
「フッ、何を言うかと思えば美についてではなく所有権の話とは……妄言も甚だしいが……だが敢えて乗ってやろう。クローディア姫のどういう美しさを知っているのだね?」
「例えばそう! 子供たちを相手にしてる時の母性! クローゼちゃんは基本的にずっと優しいし私のやることも何だって受け入れてくれるけど子供たちを相手にする時もすごく優しくて可愛くてママ味があるんだよ! つまりクローゼちゃんはママなんだ!」
「……先輩?」
「ほうほう。なるほどねぇ。確かに、母から与えられる無償の愛というのは非常に美しいものだ。アーヤくんの意見も理解出来るよ」
「そう! でもダメなことはダメっていう厳しさもある! その芯の強さもママなんだよ! 品もあるしエプロンだって似合うしね!」
「先輩?」
「つまり母性こそ美しさだと言うのか。こちら側からではなく、クローディア姫から向けられる反応に趣きを感じるというのは理解出来なくはないが……ならば君はそちらの演奏家の意見に賛同するとでも?」
「いや別に。そういうわけじゃないけどね。私が言いたいのはクローゼちゃんはすごく可愛くて正義。そしてその可愛いクローゼちゃんは私のものってことだよ!」
「フッ、あくまで主張は変わらぬか……ならば問おう! 何を以ってして自らの物だと言うのだ!?」
「──私はクローゼちゃんと一緒にお風呂に入ったこともあるし、寝たこともあれば、キスだって(ほっぺだけど)したことある!」
「先輩!?」
「何……?」
「ほう……詳しく」
「つまりこの中では1番進んでるんだからね! 1番仲良しなのは私だし、互いに好き同士だし、色んなことを知ってるんだから! なんだったら服を送ってるからね! 身体の各部位のサイズなんかも──」
「──先輩? それ以上言うと怒りますよ?」
「あっ、はい。──ということで以上! 私の大好きな後輩クローゼちゃんが私の物である理由でした! ご清聴どうもありがとうございました!」
私はクローゼちゃんの圧を感じる笑顔を見て言葉を取りやめてそこで議論を終わらせると、そこでブルブランは静かに口を開いた。
「……なるほど。まさかこんな所で美をめぐる好敵手に出会うとは。演奏家──名前を何という?」
「オリビエ・レンハイム。愛を求めて彷徨する漂白の詩人にして狩人さ」
「フフ……その名前、覚えておこう。──それにそちらの君も覚えておくがいい」
「え? 何?」
「クローディア姫が君の物であることは理解した。だが、私は怪盗だ。欲しいものがあればこの手で華麗に盗み出してみせよう」
「むむ……」
クローゼちゃんを盗まれたくなければ気をつけろと、ブルブランはそう私に言いたいのだろう。私のことを知らない振りをしながらも対立する。計画には共に協力してるけどね。でもクローゼちゃんを手に入れるなんてことは私は許さない。ダメ、絶対。もし万が一盗み出したら私が止めないと。
──とまあこんなことがありました。なんでこんなことになったかって言うと成り行き上。ブルブランを含む執行者たちは教授から《ゴスペル》を使った実験を行うよう指示を受けたけど、私は待機を命じられたので普通に学園生活を送っていたらエステルちゃんたちが白い影の正体を求めて現れたので私も同行。でも途中で置いていかれたのでこっそりとついて行った(ドロシーは置いていった。ごめんね)。そうしたらブルブランがとんでもないことを言い出していたので居ても立っても居られずに飛び出してクローゼちゃんは私のものだと宣言して討論を開始。無事クローゼちゃんを勝ち取った。
そしてその後はドロシーも広間に入ってきてドロシーフラッシュ! 困惑するブルブランに導力カメラの光が襲いかかる! 影縫いの術もこれで解除だ! 私もついでにピースしておいた。後で写真貰おっと。
そしてブルブランもこれには思わず大笑い。ヨシュアくんのことも含めて色々意味深なことを言って楽しそうに帰っていった。よしよし。これで実験も完了だね。いや、よくないけど。よくないけど良い。これで話が進む。
ってなわけで白い影の正体を掴み、結社が暗躍していることを知ったエステルちゃんたちは次の日には他の地方に、手薄になっているツァイス地方へと向かうことになり、オリビエとクローゼちゃんもそれについて行くことになったのでマーシア孤児院やジェニスの友達や学園長でクローゼちゃんとエステルちゃんたちの見送りに向かった。──え、私はどうするのかって? そりゃついて行きたいけどいかない。なんでかって他にやるべきことがいっぱいあるからね。ツァイス地方には後から温泉入りに行こうかなと思ってるし、王都にもレンから遊びに誘われてるからちょっとお邪魔する予定。ロレントは特に行く予定もないけどちょっとくらい見に行ってもいいかな? それとボースにはちゃんと仕事に行く。裏じゃなくて表の仕事にね。
だからエステルちゃんたちには、仕事で別の地方に行く予定があるからもしタイミングが合ったらまた会おうねって伝えておいた。ギルドの協力者としては手伝えないけどもしかしたらちょっと手伝ったりするかもねってくらいの距離感だ。そしてクローゼちゃんには特に気をつけるように言っておいた。クローゼちゃんも私に気をつけてくださいと言ってたし、また絆が深まった感じだね!
ということでルーアン地方の事件の調査はこれにて終了。エステルちゃんたちが飛行船に乗ってツァイス地方に向かったのを見届けてから私は一旦寮の部屋に戻った。そうして旅行の準備を始めた。
まあ今回は思わず動いちゃったけどしばらくやることないからね! とりあえず先に王都に行って、レンとちょっと遊んだらエルモ村で温泉入って、その後にボースで仕事って感じかな! うーん、裏の仕事がないって気楽でいいよね! よーし旅行にしゅっぱーつ!
「さて、君には引き続き軍への工作をお願いするよ。モルガン将軍やシード中佐といった軍の中心人物を脅かして牽制しつつ、ヨシュアの動向も確かめておいてくれ。まずないとは思うが、彼が逃げ出す可能性も0ではないからね」
「──アッハイ」
──と思っていたがやっぱり教授から仕事を押し付けられたため、私は仕方なく《
フラグ立て回でした。エステルとクローゼと更に仲良くなったところで今回はここまで。次回はティータやレンと遊んだり軍周りやヨシュア周りでちょろちょろ動きつつすぐにボースです。正直2章から4章まではそんなにやることもなければ出張りまくるわけにもいかないからね。アーヤちゃんの出番は主に5章と6章からです。お楽しみに。
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