──どうもおはようございます。執行者No.ⅩⅢ《血染の裁縫師》アーヤ・サイードです。この間初めてこの挨拶を使いました。1回名乗ったら割と慣れてきた。まあ慣れたからといって使いたいかって言われると別の話だけどね。
さて、そんな訳で研究所から女の子2人を誘拐した私たちは結社の所有するクソデカ戦闘飛行空母《紅の方舟》グロリアスに帰ってきました。このバカデカい船って滅多に使われないんだけどね。カンパネルラが《盟主》様に許可を取ってきたらしい。《盟主》様の許可がないと使えないんだよね。
結社の《十三工房》って割とオーバーテクノロジーが多いけどその中でもこの戦闘空母は中々やりすぎというか、導力飛行船の技術に秀でてるリベールもといツァイス中央工房ですらこんなの作れんだろってレベルのものである。まあやろうと思えば出来るかもしれないけどそもそも必要ないというかね。ガチで戦争でもするんかってレベルの大きさ──全長280アージュもあるからね。
とはいえこの飛行戦艦程度ならそのうち帝国や共和国が作る──というか開発中っぽいのでやっぱり大国は違うよね。結社の技術は割と表側の導力技術メーカー。ツァイス中央工房にラインフォルト社にヴェルヌ社。それにエプスタイン財団とかからのパクリで出来ているところもあるし。変態博士が応用の天才なので良い技術を見つけるとそのちょっと上の技術や発明を出すことで表よりも先を行っている感じだ。
そしてまあそんな結社の技術力を証明する内の1つがこのグロリアスな訳だけど……まあ乗り心地は実際悪くない。デカい分設備も整ってるからね。部屋も多いしお風呂だってある。というか取り付けさせた。昔、博士にグロリアスにお風呂付けないと実験に協力しないよって駄々こねたら普通に付けてくれた。不潔なのは良くないからね。なので強化猟兵の人達もちゃんと入浴はするように。
ということなので身嗜みが気になる女の子の配慮も行き届いてるので女の子を招待したって大丈夫。大丈夫ではあるけど──
「先輩……?」
「あ、おはよークローゼちゃん」
──お姫様を招待するのはちょっと……いや、かなり色々と問題あるよねぇ……。
私はベッドの上で目覚めたクローゼちゃんにいつも通り挨拶して笑顔を向けながらもどうしたものかと思考する。教授に言われた通りに連れてきちゃったけどどうにかして帰さないとなぁ。催眠エロ教授や変態紳士もいるからここに置いておくのはちょっとね。
まあ私が何かしなくてもエステルちゃんやヨシュアくんが何とかしてくれるとは思うけど……おっと。いけないけない。それよりも不安そうなクローゼちゃんに応じてあげなきゃ。
「アーヤ先輩……」
「大丈夫? 気分悪い? 何でも言っていいよ」
「っ……ここは一体どこなんです……?」
「ここは《紅の方舟》グロリアスって言って結社の所有する飛行空母だね。めっちゃデカくて強いやつ。ほら、外見たら分かるでしょ?」
「……! なんて大きさ……」
クローゼちゃんが窓の外を見て驚いている。良い反応だなぁ。不安なのに気丈に振る舞ってるのもクローゼちゃんらしい。でも本当にどうしようかな……このままじゃ色々と聞かれちゃうだろうし。
「先輩は……先輩たちは、リベールで一体何をするつもりなんですか?」
「うーん……それはね──」
『やあ、お目覚めのようだね』
「! この声は……」
──と、私がクローゼちゃんとお喋りを始めようとしたところで艦内放送。変態面白教授がタイミングを見計らって声を掛けてきた。うわぁ、嫌な目覚めだなぁ……起きて早々に催眠教授の声を聞くとか私なら勘弁してほしい。
『ようこそ、クローディア姫。寝心地はいかがだったかな? こんな場所に連れて来られてさぞかし不安で仕方がないだろう。その心中はお察しするが、安心してほしい。我々は姫殿下に危害を加えるつもりはないからね』
「……信用出来ません」
『フフ、確かに我々結社のことは信用出来ないだろう。しかし君の大事な先輩のことならば多少は信用出来るのではないかね?』
「……それは……」
うわっ、私に振ってきた。このエロ教授、クローゼちゃんに精神攻撃して愉しんでやがるな。あの変態め……これも余罪に追加しておこう。後で絶対に慰謝料をふんだくってやる!
「……教授の言う通り危害は加えないし……もし加えられそうになったら私が守るからさ。安心は出来ないかもしれないけど大丈夫だよ」
「先輩……」
『どうだろう、一度ゆっくり話してみるつもりはないかね?』
「話……ですか?」
『ちょうど君の友人のエステルくんにも同じ誘いをしたところだ。結社のことやその目的。共通の友人についてね。君たちの疑問に答えてあげようと思ってね』
「…………分かりました」
『よろしい、なら君のことも招待させてもらおう。──アーヤ、クローディア姫をお連れしてくれ』
「……はーい、よろこんでー」
と、そんな感じで言いたいことだけ言うと艦内放送が切れた。嫌な放送だったなぁ……もっと面白い愉快な放送流したらいいのに。そうだなぁ……『アーヤちゃんの切り裂き生ラジオ』なんてどう? 毎回ゲストを呼んでリスナー(結社構成員)からのお便りに辛口に答えていく。切り込むじゃなくて切り裂いていく感じで。最初のゲストは呼びやすいデュバリィちゃん辺りかこういうことをノリ良くやってくれそうなカンパネルラ辺りかな。後はあんまり呼びたくないけどオジサンとかも案外ノリノリでやってくれそう。後は大本命のヴィータ姉さんね。ラジオ放送やってるし。使徒や執行者を呼ぶのは普通に盛り上がるかもしれない。皆私を含めて良い声してるしね。
「それじゃ気は進まないけどクローゼちゃん、一緒に行こうか」
「……どこへ行くんですか?」
「《聖堂》って呼ばれてる広い部屋だね。パイプオルガンが置かれててさ。教授が大物感出すためにどうせ弾きながら待ってるだろうからごめんだけど付き合ってあげて? エステルちゃんもそっちに行ってるだろうしさ」
「……分かりました。案内してください」
「オッケー。それじゃついて来て」
そしてクローゼちゃんを連れて私はグロリアスの最上階の聖堂へ向かう。それにしても大人しいし思ったより動じてないね。やっぱり王族だからこういう時はお強い。……いや、王族だから強いわけじゃないか。クローゼちゃんが精神的に強いんだろう。
とはいえそのクローゼちゃんもさっきから私のことを窺ってる。多分色々聞きたいんだろうね。うん、私としてもお話してあげたいのは山々なんだけど、とりあえず今は教授の用が先かな。クローゼちゃんの方もまだ我慢してる感じある。
「……先輩。後でお話させてください」
「ん、いいよ。それじゃ気をつけて行っておいでー」
「……はい」
なのでとりあえず聖堂にクローゼちゃんを送り出す。クローゼちゃんから後で話がしたいって言われたけどほんとにどうしよっかなぁ……今のうちに質問の答えを考えておかないと。結社の目的は答えるわけにはいかないでしょ? 私の計画に参加する動機も言えないし……結社に入った理由とか掘り下げてもクローゼちゃんの気分悪くするだけだから話したくないしなぁ……話すにしても一部分だけ。それも簡潔に明るく言うか、面白おかしく脚色しようかな? そしてオチを作って自虐ギャグみたいにすれば笑ってくれるかもしれない。よし、今のうちにネタを考えておこう。
──ということで私はこっそりと聖堂の中に入って盗み聞きをする。地味にレンもいて私の真似をして気配を消しながらついて来てたので頭を撫でてあげながら入口近くで教授とエステルちゃんとクローゼちゃんの話し合いを眺めた。
でも正直殆どは私の記憶に薄っすらとある原作通りだ。だから私は、あーあーこんな感じだったね、と懐かしみながら眺めた。まあクローゼちゃんがいるからところどころは違うけどね。でも大体は同じだ。面白教授が面白特技のパイプオルガンを披露して、そこから自己紹介をする。教会にいた時にパイプオルガンを嗜んでてそこで研究者、学僧してたよって。実際はその時点ですら割と酷い人体実験やらロリショタに性的な興味を向けてたエロ教授なんだけどね。そんで《福音計画》を主導してる黒幕であることも自白しつつ、それでも計画のことや《輝く環》のことは何も答えない。匂わせだけして結局答えない辺りがさすがというか……というか全然答えてないじゃん! エステルちゃんが文句を言うのも当然だよ! 質問に答えろー! 答弁を拒否するなー! こらー!
しかもその後はヨシュアの居場所やヨシュアを教授が調整したことやヨシュアにどういうことをしてきたのかも答えていた。そしてそれを聞いたエステルちゃんは「全部、全部ッ! あんたのせいじゃないかああ!」って言って怒って教授に襲いかかった。うん、間違いない。教授ってそういうところが悪趣味なんだよね。選択権があるようでないというか誘導してる感じがいやらしい。結局一本道な上にそれを見て愉しんでるから良くない。うん、やっぱり早く塩漬けにした方が良いんじゃないかな? 私もエステルちゃんに加勢したいくらいだよ。今はまだ無理だけどね。最終的には教授の企みを阻止するために頑張っていきたい所存である。
だけど今ここで襲いかかってもさすがに教授には届かない。今回の計画に参加してる執行者が勢揃いしてるからね。仕方ないから私も登場しよう。はぁ、気が乗らないなぁ。
「エステルさん!」
「《剣帝》レーヴェ……い、一体どこから現れたの……」
「……最初からここにいた。お前が気づかなかっただけだ」
「さすがレーヴェ! かっこいー! キャー!」
「やれやれ……何とも品のない振る舞いだ。私の挑戦を無視するからそのような無様を晒すのだ。クローディア姫を見習って、少しは考えて行動したまえ」
「こらーエステルちゃんを虐めるなー! そこがエステルちゃんの良いところでしょ! 言い過ぎだぞ変態紳士ー!」
「クカカ、そう言うなよ。《白面》に殴りかかれるなんざ並の度胸じゃできねえはずだぜ」
「そうだそうだー! ヴァルターは分かってるぞー! 謝れブルブランー!」
「ふふ、腕はともかく度胸だけは大したものね。それとも鈍いだけなのかしら?」
「ルシオラ姉さんの言う通りだー! エステルちゃんは度胸がある良い子なんだぞー! 怪盗ちんち──あ、ごめ、噛んじゃった。怪盗ちん◯んって……あ、でもよくよく考えたらブルブランって名前に合ってる気が……ちん◯んブルブラン……ぷっ……ふくく……」
「──小声で更に品のないことを言うのをやめたまえ!!」
「ご、ごめんて。で、でもなんかツボっちゃって……あはは……!」
「くっ……何と下品な……!! それでも我が認めた芸術家か!? 見損なったぞアーヤ・サイード!!」
「……落ち着けブルブラン」
「そうよ。いつものことじゃない」
「……気持ちは分かるがあいつの言動を気にしすぎると損するぜ」
「っ……ああ、そうだったな……すまない。少し取り乱した」
「あ……う……」
「ウフフ……君が《剣聖》のお嬢さんで、そっちはリベールのお姫様だね」
──と、そんな感じで結社の執行者たちが続々と現れたことでエステルちゃんたちはその威圧感に気圧されていた。可哀想に。私は庇ってあげないと。ちょっと面白い噛み方してツボっちゃったけど気を取り直して、と。はぁ、面白かった。
「フフ、初めましてかな。執行者No.0──《道化師》カンパネルラさ。以後、ヨロシク頼むよ♡」
「くっ……」
「もう、みんなでエステルを脅かしたらダメじゃない」
「そうそう。2人が可哀想でしょ!」
「レン……」
「アーヤ先輩……」
──よし! ちゃんと良い感じに登場出来た! 執行者としてちゃんと威厳は出していかないとね! なんとなくこだわりとして! 執行者として登場する時はなんかかっこいい方が映えるし!
「うふふ……心配しなくてもいいわ。別に2人を殺すために集まったわけじゃないから」
「へ……」
「……一体どういうことですか?」
「ねえ、教授。早く例の話を2人にしてあげて?」
「フフ……そうさせてもらおうか」
そして次にレンが教授にそんな風に話を催促して──って、あれ? 2人? 2人にするの? え、マジ? いやいやいや……そんな訳──
「どうだろう、2人共──《身喰らう蛇》に入ってみる気はないかね?」
「へ……」
「え?」
「……ごめん。聞き間違えちゃったみたい。もう一度、言ってくれない?」
──わ、私も聞き間違えたかも。うん、ちょっとよく聞こえなかった。で、なんて言ったの? もう1回言って?
「君たち2人に《身喰らう蛇》に入ってみる気はないかと言った。まずは《執行者》候補としてね」
「あ、あ、あ……あんですってー!?」
「……! 何を、言っているんですか……?」
「フフ、そんなに驚くことでは──『うわああああああああ!!? そんなー!!? クローゼちゃんが執行者候補にー!!? そんなバカなことがあるなんてー!!? うわああああああ!!』……君は驚きすぎだから少し黙っていてくれないかね?」
「あ、はい」
「急に落ち着きやがった……」
「それはそれでおかしな感じになるわね……」
私は驚いた。そんな訳があった。いや、エステルちゃんは分かるけどね? ……いや、エステルちゃんも分からないか。入るわけなくないっていう。どんな理由があってもエステルちゃんは入らないし、クローゼちゃんも入らないでしょ。特にクローゼちゃんなんて現役の王族だよ? 王族なのに結社に入って執行者になるなんて馬鹿な人いるわけないでしょ。……ん? 誰かいたような気もするけど……まあそれはいいか。とにかく王族が結社に入る訳ないだろうが! バーカ!
「理由についてだが……まずはエステルくんの方から言わせてもらおう」
「な、何よ……?」
「考えてもみたまえ。君が結社に入ればヨシュアも意地を張らずに戻って来るとは思わないかね?」
「あ……」
「エステルの望みはヨシュアと再会することよね? 《結社》に入りさえすればその望みはすぐにでも叶うわ」
えーいや、レンには悪いけどそれはないと思うけどなぁ……エステルちゃんが入ったところでヨシュアくん戻って来る? うーん……ああ、でも完全に心が死んで抗う気力もなくなった結果、再びヨシュアくんが暗示によって戻って来ることはあるのかな。そういう意味なら確かに戻って来るけどさぁ……エステルちゃんが求めてるのってそういうことじゃないよね。
「それとクローディア姫。君の方も考えてみるといい」
「……何をでしょうか」
「そこにいる君の大事な友人にして先輩のことをだよ。今、君は彼女のことを知りたがっている。いや、理解したがっているのではないのかね?」
「……! それは……」
──え、私? 何急に? 私が理由なの?
いや、だとしたら余計にそれは悪手というか……でもこれも教授の悪趣味の一貫なんだろうなぁ。クローゼちゃんは優しいからね。友達のことを引き合いに出されるとキツいところはあるだろう。精神攻撃をして愉しんでいるんだ。くそー、面白くない教授め。どうにかして止めないと……。
「フフ、だが彼女を知る者として断言させてもらおう。──クローディア姫。君では彼女を理解することは出来ないと」
「な、何を言っているんですか? そんなことは……」
「そんなことはないと言いたくなる気持ちも分かるがね。ただ、残念ながら不可能だろう。──生まれに恵まれ、闇の一端すら知らない君ではね」
「え……?」
「そ、それって……一体どういう意味よ!?」
そうだー! どういう意味だ!? 意味分かんないぞー! 私を理解って……いやいや別に理解する必要ある? 仮にそうしたいのだとしても結社に入る必要なんてないだろ! 自分で言うのもなんだけど私って割と単純だし! 闇って過去のことを言ってるんだろうけどそれを知らなくても全然問題ないでしょうが!
「彼女を理解するなら、少なくとも闇に触れる必要があるということだ。私はそのための道筋として《結社》に入るという確かな助言をしたに過ぎない」
「闇に……触れる……」
「フフ、もっとも触れたところで理解出来るかどうかまでは保証しかねるが……それでも可能性はあるだろう」
「…………」
「そしてヨシュアについても同じことが言えるだろう。大切な人を理解することが叶うのだ。君たちが結社に入りさえすればね」
「うふふ……考えるまでもないわよね?」
「……で、でも……あたし……」
「フフ、ゆっくりと考えたまえ。この後、我々はしばらく艦を留守にする必要があってね。帰ってきたら、その時にでも返事を聞かせてもらおうか」
いやいやいや、考えなくても答え決まってるって! 絶対入らないし、なんなら私が入れさせない! そういうIFストーリーはいらない! というか絶対バッドエンドになるからダメ!
「申し訳ないが、それまでは君たちの自由は制限させてもらうよ。足りないものがあれば彼らに希望を伝えるといい」
そうして教授は見張りの強化猟兵にエステルちゃんとクローゼちゃんを部屋まで連れて行かせた。ぐぬぬ……教授め……2人に精神攻撃をするなんて許せん。やっぱり少なくともクローゼちゃんだけは先に逃がすべきかな……でもやっぱり私がやるよりヨシュアくんに任せた方がいいだろうし……うん、やっぱり自主的に逃げてもらおう。そのためにはどうしようかな……2人をとりあえず同じ部屋にするか。ちょうどレーヴェ以外の執行者は教授と一緒に出かけるし、私は留守番組になったからそれくらいは出来るだろう。よーし、そうと決まったら──ほらどいて! クローゼちゃんをエステルちゃんの部屋に連れて行くから! え、ダメ? 教授に言われてる? うるさいなぁ、どいてって言ってんの! どかないとちょんぎるよ! ──あ、どいてくれた! 思ったより物分かりが良かった。
──よーし、それじゃあエステルちゃんとクローゼちゃんの脱出作戦を陰ながら支援しよう! 行動開始!
──あたしたちは結社に囚われて、そこで色んなことを知った。
リベールで起こる数々の事件の黒幕──結社の最高幹部。《蛇の使徒》のワイスマンのこと。
ヨシュアがなぜあの日、あたしに別れを告げたのか。ヨシュアがワイスマンに作られたことも。
《福音計画》については殆ど教えてもらえなかったけれど、それでも幾つもの真実を教えられた。
執行者の1人……《切り裂き魔》。いえ、《血染の裁縫師》の正体がアーヤだったことも改めて思い知った。
そして……あたしとクローゼは執行者候補にならないかと誘われた。
それを聞いたあたしは部屋で1人悩んでいた。
そこにレーヴェが現れて──あたしはそこでヨシュアとレーヴェの関係とその過去……闇を聞いた。
──《ハーメルの悲劇》と呼ばれた事件の真相。
カリンというヨシュアのお姉さんはその事件で他の村人共々、王国軍を騙る帝国の雇った猟兵によって殺されて……ヨシュアもまた人の命を奪いながらもレーヴェと共にたった2人だけで生き延びたこと。
そしてそれを全て隠蔽されてしまって……心が壊れてしまって。そこを教授に、ワイスマンに誘われて結社に入ったこと。
結社に入ってからヨシュアは教授によって心を再構築されて、そして結社の構成員になったこと。
その闇を全部聞いて……すごく悲しい気持ちになった。
だけど同時に、あたしの中にあった迷いが吹っ切れた。
「──教授の誘いは今ここで断らせてもらうわ」
あたしはレーヴェに向かってそう告げた。
あたしは絶対に《身喰らう蛇》には入らない。結社が好きか嫌いか、そういうのは関係なく……あたしがヨシュアを追いかけ続けるなら、絶対に入っちゃダメだって、そう感じたから。
ただ仲間に誘ってくれたレンには謝る必要はあるけどね。
それともう1人──アーヤについても……。
「フッ……おかしな娘だ。今の話を聞いて逆に迷いを吹っ切るとはな。どうやら、ただ《剣聖》の娘というだけでは無さそうだ」
「そ、そう? よく分からないけど……」
「だが、エステル・ブライト。
「え?」
だけどそこであたしは更に質問を重ねようとして……先にレーヴェからの忠告を受けた。
それはあたしも気になっていたもう1人のことだとあたしも気づいた。
「アーヤのことだ」
「そういえば……そっちも気になってたのよね。アーヤは何なの? 教授があんな風に言うなんて……理解出来ないとか何とか……そりゃアーヤは確かにちょっと変わってるし、執行者だったことは思うところもあるけど……さっきのやり取りを見る感じ、変な話だけどあんまり悪い人には見えないっていうか……」
「……フッ、そうだな。アーヤは少し、お前に似ているだろう。周囲を明るくする光……太陽のような力の持ち主だ」
「そ、そんな風に言われると照れるんですけど……でもあたしとアーヤが似てるって……」
「似ているさ。──もっとも、お前とアーヤでは
「それって……どういう意味なの? アーヤには一体何があるの?」
「……あいつの過去に関しては、俺の口から言うべきことではない」
レーヴェはそう当然のことを言った上で、更に続けた。
「だがお前のその光は、闇を知らないからこそ育まれたものだろう。俺やヨシュアの抱えているものを知ってその闇の一端を受け止めることは出来たとしてもだ。──それ以上の闇に浸かりながら輝けるものではあるまい?」
「! それ以上の闇……」
「……さっきも言ったが《結社》に属する者はみな、闇を背負っている。だがアーヤの闇は、その誰よりも深いものだ。俺やヨシュアの過去など比べ物にならない程にな」
「そんな……そんなことって……」
あたしはそれを聞いて動揺する。
あのアーヤが、とてもレーヴェやヨシュアのような闇を──ううん、それ以上の闇を抱えているようには到底思えないから。
だけどそれが本当だとしたら、確かにアーヤは……。
「今の話を聞いただけでも分かっただろう。教授の言葉を借りるのは癪だが、お前達ではアーヤを理解することは決して出来ない。その過去に僅かでも触れれば、それだけで心に深い傷を負うことになる」
「……でも……」
レーヴェからの忠告を聞いて、だけどそれでも私は踏み込むことを考える。
アーヤもあたしの友人だ。執行者と分かった今でもその心は変わらない。出来れば話を聞いて、事情を聞いて、抱えているものを理解した上で、言葉をかけてあげたいと思っている。
それはきっとクローゼだって同じ気持ちでいるに違いない。だからあたしは──
「──それはさすがに言い過ぎじゃない?」
「! ──アーヤ! それにクローゼも……!」
だけどそこで、不意に部屋の外から声が掛けられた。部屋の扉を開けながらそう言って入ってきたのは、後ろにクローゼを連れたアーヤだった。
それを見てあたしは驚いて反応を返す。レーヴェもまたアーヤに声を返した。
「……アーヤか。聞いていたな?」
「あーうん。ごめんね。クローゼちゃんをこっちの部屋に連れて行こうとしたら聞こえちゃってさ」
「その……すみません。盗み聞きをしてしまって……」
「構わない。だが、アーヤ。クローディア姫を連れてきてどうするつもりだ? まさかこの2人を同じ部屋に置いておくとでも?」
「だって女の子1人だけじゃ心細いじゃん。2人でいさせた方がいいに決まってるし。だから連れてきちゃった」
「やれやれ……仕方のないやつだ」
レーヴェとアーヤは気安くやり取りを行っていた。それを見るとやっぱりアーヤも結社の一員だと改めて思う。
だけど不思議なのはその明るさや振る舞いが全く変わらないことだ。それだけに、あたしも自然と似たような態度で、しかし気まずさから様子を窺いながら声を掛けてしまう。
「アーヤ……」
「やっほーエステルちゃん。今まで隠しててごめんねー」
「う、うん。それは良い……いや、良くはないけど……」
「あはは、やっぱり私が執行者やってるって意外?」
「意外も何もどういうことって感じよ。まさかあのアーヤが執行者なんて……本当に思いもしなかったわ」
「ふふん。私の擬態は結社一だからね! やっぱり私の演技が良かったから……」
「──いや、今だから言うがいつバレないかと肝を冷やしていたぞ」
「え、そうなの? どの辺が?」
「どの辺りと言われると困るが……強いて言うなら……ぜんぶだ」
「えーそんなことないって! クローゼちゃんにバレるまでは隠し通せてたんだしさ!」
「あはは……アーヤは、本当にノリが変わらないわね……でも……」
あたしはそこで苦笑いを浮かべながらも意を決して疑問を口にしようとする。
あのアーヤがどうしてこの計画に協力するのか。どうして結社に入っているのか。聞きたいことは幾つもある。だからそれを尋ねようとしたけど……あたしよりも先に声に出した相手がいた。
「アーヤ先輩……聞かせてください」
「! クローゼ……」
クローゼが改めてアーヤと向き合って言葉を投げかける。
あたしがヨシュアの過去を、抱えているものを知ろうと勇気を出したように、クローゼもまた考えた上できっと踏み込んだのだろう。
「聞きたいって……何をかな?」
「……あの時の質問の答えをです。どうして。何故こんなことをしているのか……生まれた時からこうなるしかなかったという言葉の意味……」
「あー……それね。うーん、でもなぁ……」
「何か理由があるなら言ってください……それとも、話したくないことなんですか?」
「まあねー。いや、私は別に良いんだけどさ。クローゼちゃんやエステルちゃんたちが
「っ……それでも……私は知りたいです。先輩が何を抱えてそうなったのか……どうしても知りたいんです」
「あたしも……もし話してくれるなら知っておきたい」
「エステルちゃんも?」
「うん。あたしもクローゼほど付き合いは長くないけど友達だから。友達が抱えていることは知りたい」
あたしはクローゼに続いて決意を持って答える。
するとアーヤはまたしても困ったような苦笑いを浮かべて頬をかいた。
「あはは……いやー、そこまで決意を口にされると……うーん、困ったなぁ……本当に聞かない方がいいと思ったんだけど……でもそこまで言うなら……それじゃあダイジェストでもいい?」
「ダイジェスト……ですか?」
「そう。それもちょっとだけね。あんまり深く深刻に話すと気分悪くなるだろうから概要を明るく面白く話してあげるよ。もちろんキツいところは自主規制しながらね!」
「そ、それだと意味がないような……?」
「大丈夫大丈夫! 知りたいのはなんで執行者になったかってことでしょ? それはちゃんと教えるからさ!」
「……分かりました。それでもいいので教えてください」
大事なところはしっかりと教えてくれるというアーヤに、私はそれならとクローゼに続いて頷いた。レーヴェも同じく部屋にいたけれど、レーヴェの場合は既に知っているからか、壁に背中を預けて目を閉じている。
そんな中で、いつも通りのアーヤはそんな明るい普段と変わらない口調で語り始める。
だけどそれは──
「ええっと──まず、私は大陸中東の貧乏な家で生まれて戦争被害にあって5歳で両親に売られて……そこでめちゃくちゃたちの悪い組織に買われて毎日大人相手に犯されたり危ない薬飲まされて身体壊したり身体の中弄られるような危ない人体実験を送る日々を大体3年ちょっとくらい送ってたんだよねー。でもそこから何とか逃げ出して暗殺組織に拾われたんで、そこで暗殺者として育った私はなんやかんやあって次に結社に拾われることになってそこで執行者候補として成長した結果執行者になりました! チャンチャン! うわーパチパチパチ~! 執行者アーヤちゃんの誕生だ~! ……と、こんな感じかな?」
「…………ぇ…………」
──レーヴェの言う通り……とてつもなく深くて暗い……
明るい話でしたね。ってことで今回はここまで。次回はクローゼ視点とグロリアス脱出。つまりヨシュアくんです。
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