TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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外道に目を付けられまくる不幸

 ──どうも。今年で8歳になるアーヤ・サイードです。

 

 釣りキチ眼鏡教授の手によって無事《楽園》を出た私に待ち受けていたのは人体実験と辛いもの責めの日々でした。

 導力飛行船を経由して共和国内にあるロッジに移動し、「今日からここが君の部屋だよ」とそれなりにちゃんとした個室を与えられた時までは、もしかして本当に親切にしてくれるのかな? と今にして思えば愚かな希望を抱いたのもつかの間。まずは軽い身体検査を行うと告げられ、全裸にされて身体の色んなところを、穴という穴まで念入りに調べられたところで私の釣りキチ眼鏡に対する好感度は最低値になった。このロリコン釣りキチ眼鏡め! その眼鏡叩き割ってやる! 

 でも今はそんなことは出来ないので暇つぶし用の裁縫道具とか勉強用の本を貸し出してくれるように求めてしばらくは大人しく過ごすことにした。おかげで待遇自体は悪くなかったように思う。他の実験体はもっと酷い待遇らしいし。

 だけど実験の内容はあまり優しくはなかった。最初の頃はやはり薬漬けで中々気持ち悪い経験をした。毒物や細菌、ウイルスなども身体にぶち込まれたおかげで腹を下すだけでなく嘔吐したり風邪を引いて鼻水や咳が止まらなくなったりと結構しんどかった。

 しかもその上、食事はどういうわけか辛いものばかり。麻婆豆腐に担々麺にエビチリ等、とにかく唐辛子を使った赤い共和国料理ばかりを食べさせられて辟易した。風邪引いて喉痛い時に辛いものばかり食べさせるとか拷問すぎる……たまに出てくるミートソースパスタが癒やしだった。

 

 ──まあその内慣れて平気になったけど。よくよく考えたら私、辛いもの好きだし。そもそも食べられるだけでありがたいし。辛いものばかりとはいえレパートリーもそこそこなので文句を言うほどではない。

 なぜ辛いものばかり食べさせるかの理由は分からないけど。でも多分あの眼鏡は変態だからどうせまた私のお腹が壊れることを期待してのことだろう。最近は中々腹を壊すことはなくなってきたし、少しでも私の胃腸にダメージを与えようとしたに違いない。変態ロリコンスカ◯ロ眼鏡の執念恐るべし。だが辛いもの如きで壊れるような軟な胃腸はしていないので平気だ。残念だったね! 

 

 なんて調子に乗っていたんだけど私はすぐに絶望した。程なくして始まった身体を弄りまくる人体実験の数々でかなりの痛みや怪我を負わされたのだ。おかげで可愛い女の子らしからぬ悲鳴を上げまくってしまった。おまけに薬もなんだか訳の分からない効果が出るものを与えられた。なんか身体が痺れたり酔っ払ったりしてしまった。「あばばばば」とか「うへへへへ」とか、あんな恥ずかしい状態には二度となりたくない。

 

 後途中からよく血液を抜かれるようになった。なんか変な道具を使われた上でナイフを渡され、広めの密室空間で弱い魔物と戦うように言われた実験が終わってからのことだ。あの時は恥ずかしかったなぁ……多分あの変な道具は導力魔法の触媒か何かだろう。それで何か強化系のアーツを使われたに違いない。身体がポカポカして強くなった気がしたし。それでテンションが上がり、初めての戦闘だ! と意気込んで魔物に飛びかかった。魔物も弱そうだしなんとなく私でも倒せそうな気がしたのだ。

 しかし世の中そう甘くはない。調子に乗りすぎた私は足を滑らせて転び、その間に魔物に噛みつかれた。痛かったなぁ……それで気がついたら眠っていて部屋に戻されていた。それからしばらく暇になった。きっと変態眼鏡が変態なりに恥ずかしい振る舞いをした私を気遣ったのだろう。変態の前で情けない有様を見せてしまうとはそれこそ情けない。恥ずかしくなった私は一応筋トレなど身体を鍛える真似事をしてみることにした。またあんな情けないことにならないように。

 

 そしてその後は特に変わらず実験三昧だったが……後は精神的にも若干責められたかな。心理テストや暗示みたいなことをされたり、趣味で行っている裁縫による衣服作りに水を差されたり、育てている植物のタカシくん枯らされたりした。あのクソ眼鏡め……今思い出しても中々に腹が立つ。あの時はさすがに憤慨したものだ。

 だけど植物は種があるからまた育てればいいし、引き裂かれた布は縫合して修復! 頭に思い浮かべていたデザインを再現! ……とまでは行かないが普通に縫合して再利用した。おかげでハンカチや小物入れは大量に保持している。どうやら私の精神に関しても変態眼鏡は調べているらしかった。

 

 ──ちなみに私は元男だが、正直男としてのこだわりというかアイデンティティというか、執着はあまりない。いやだってせっかく可愛い女の子に生まれたんだから普通に女の子として生きた方がよくない? 男としての自己にこだわる余りに苦悩して苦しむことになるくらいなら割り切って女の子として生きた方が思い悩むこともないし幸せだろう。変態親父相手に性的な接客をするのも普通に女として受け入れてしまった方が抵抗感は少なくていいはずだ。

 元男が女の子になって自分の身体や同性の他人の身体、あるいは下着とか可愛らしい洋服を着てドギマギする様を見て楽しみたいという高尚な趣味を持つド変態の皆様には申し訳ないけど私の前世が男だということは誰も知りようがなければ知ったところでどうにもならないので諦めてもらいたい。むしろ私はおしゃれ好きだ。可愛い自分を可愛く着飾るのは普通に楽しい。何気なく趣味として始めた裁縫も衣服を買うことが出来ない私には実利の面でも合っている。でもそろそろアクセサリーとかも欲しいなー。

 

 そういうわけで普通に可愛い褐色美少女として8歳の誕生日を迎えた私(ちなみに誕生日は1月2日)。このロッジに来て1年が経ち、実験漬けの日々にも慣れてきた頃──転機が訪れた。

 

「アーヤ。今日はまた少し変わった実験を行う。付いてきてくれ」

 

「はーい、よろこんでー」

 

 全くよろこんではないけどいつもの決まり文句を口にして変態眼鏡に付いていき、診察台に寝転んで拘束される。この感じだとまた身体を弄り回されるんだろうなぁ……と淡々と思う。麻酔が効かないので痛いし苦しいしでやめてほしいのだがやめてと喚いたところでやめてはくれない。なのでそんな無駄なことは……する。痛いものは痛いので痛い時は声を大にして口にする。歯医者さんで痛いと思ったら手を上げてくださいね~と言われるのと一緒だ。意思表明はするがやめてはくれない。だから歯医者とマッドサイエンティストは嫌いなんだ! 

 

「ふむ……この同調率は……」

 

(まーたなんか勝手に身体調べてる……ここって変態しかいないのかな)

 

 そして1年が過ぎた頃になると研究主任のロリコンヨアヒム君だけでなく、それ以外の教団の幹部司祭がちょくちょく私の身体を調べるようになった。いつも変態眼鏡の目を盗んで調べているのは気になるけど……まあいいだろう。どうせ誰がやろうと大差ない。私って普通よりかなり身体が丈夫らしいが、それ以外におかしな部分もなければ変な特殊能力もないのでやるだけ無駄なはずだ。多分。頭良くないから分かんないけどね。

 そういうわけでなんか長髪で上から下まで真っ黒い服に教団の司祭用の礼服を付けた男は何やらブツブツ呟いた後で去っていった。どうせモブのくせに意味深だなぁ……よほど黒が好きみたいで黒黒うるさかった。あれはきっと厨二病だろう。良い大人なのに可哀想だ。

 

「お待たせ。さあ、実験を始めようか」

 

 ──待ってないが? と黒い男と入れ替わりでやってきたロリコンヨアヒム君と一緒にやってきた見慣れない幹部司祭に内心で反抗する。どうでもいいけど無駄に顔面偏差値高いなぁ……変態ヨアヒムも顔だけは良いし、初めて見る幹部司祭もなんか若くてかっこいい。でもどうせ優れているのは見た目とか能力だけで中身はイカレ野郎なんだろうなぁ。教団はモブだろうが名有りだろうがイカレポンチしかいないのでエンカウントするのは全員変態マッドサイエンティストである。

 そしてそんな彼らに好かれる私……乙女ゲーかな。全く嬉しくない。

 

「これから君の身体にこれまでとは全く違って手を加えるから覚悟してくれ」

 

「はい、よろこんでー! …………え? いや、それはちょっと……」

 

「大丈夫。君なら耐えられると信じているよ──ではジェラール。始めようか」

 

「はい」

 

「い、いやーもうちょっとお話しませんか? 私、もっと2人と話してたいなー! ……ん? なんか聞き覚えががががががががッ!? 痛い痛い痛い!! 胸、痛い!! やめろアホ!! 変態!! ロリコン!! 色情魔!!」

 

 せっかく媚びたのに躊躇なく始めやがった! このロリコン共め! いつか絶対に──って、痛い痛い痛い! いつもより痛いってこれ! 身体の中でなんか蠢いてる気がするんですけど!? しかもなんか幻聴まで聞こえてきた! なんか悪魔の囁きみたいな! というかなんか意識まで薄れて──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 ──気がつけば、私は外にいた。

 視界に映るのは町並み。そして地面に倒れる教団やそれ以外の人達。

 

「これってどういう状況……?」

 

 私は徐々に意識をはっきりとさせ、そして周囲を見渡しながら聞こえてきた音を拾う。その内容は──

 

「実験体が逃げたぞ……! 決して逃がすな……!」

 

「なんだこれは……!?」

 

「クソ……! 巻き込まれた……! すぐに身を隠せ!」

 

「だが実験体が……!」

 

 ……ふーむ、なるほどなるほどー。多分だけど、これ……私追われてない? 

 

 なんで外にいるのか。なんで町の中にいてなんで人が倒れているのか。よく分からないけど……。

 

「これは待ちに待った逃走のチャンス! そうと決まれば……っ!?」

 

 と、私は絶好の機会を逃さぬように足に力を込めようとして……しかし感じた違和感に身体を硬直させる。

 この感覚は……知っている。不快な感覚だ。

 まるで自分の身体が何かに侵されてしまったかのように、操られてしまったかのように身体が動いてしまう。止めようとしても止められない。身体が勝手に動く。どう足掻いても逃れることの叶わない。最悪最大の──

 

「──ぶえっくしょんっ!!!」

 

 ──くしゃみが出てしまった。

 

 その現象に私は恥ずかしさと不快さを覚え、鼻を啜る。うーん、風邪かな。もしくは熱かもしれない。なんか身体が熱くなってきたし喉も痛いし……。

 

「おい、何か聞こえたぞ!」

 

「そっちに誰かいるんだな!?」

 

「あ、やばっ……げほっ、げほっ!」

 

 と、呑気に自分の状態について確認していると正面の曲がり角から大人の声が聞こえてきたため、私は今度こそ足に力を込めて反対方向に向けて全力で駆け出す。ここで捕まるわけにはいかないからね! 経緯は不明だがこんなチャンスは二度と訪れないだろうし! 

 

「待て! 君は……!?」

 

「子供、か……!? それにこの倒れている人の山は……うっ!?」

 

「誰が待つかこの変態共め! げほっ、ごほっ! はっくしょん! うーん、やっぱ風邪引いてるかも……!」

 

 身体のしんどさを無視して必死に走る。捕まってしまえばまた実験漬けの日々に逆戻りだ。それは避けたい。

 あるいは遊撃士のような善良な正義の味方がいればすぐに保護を求めて助けてもらうんだけど、そんな都合よく助けてくれる存在が現れるはずがない。追いかけてくる奴らは全員敵だと思った方がいいだろう。

 

「こほっ、こほっ! ずるるっ……それにしても、足遅いな……」

 

 そして逃げ続ける──が、どういうわけか追手の声は遠くなるのみで徐々に減っていく。これは一体どういうことだろうか。考えられるのは……そう、教団の連中はどいつもこいつも運動不足なので少し走っただけで疲れてしまったとか。あるいは、私の足が思ったより早いとか? 

 

「何にせよ逃げられるならヨシ! あっはっは! これで、ゲホッ、私は自由だー! あははははげほごほっ! くしゅんっ!」

 

 私の足を止められる者は(少なくともこの場には)いない。そう思い、背後から聞こえる制止の声を振り切って曲がり角を曲がれば。

 

「──痛ぁっ!?」

 

「──あぁ?」

 

 ──人とぶつかってしまった。しかも、転んでしまう。顔を打ってしまった。

 

 私は顔を擦り、痛みに喘ぐ。せっかくの美少女フェイスが……って、そんなこと考えてる場合じゃない! 早く逃げないと! きっと追手だろうし、このままじゃ捕らえられる──

 

「……おいおい、大丈夫かお嬢ちゃん。そっちは危険だぜ?」

 

 ──って、あれ……? 襲われない……? それに捕らわれることもない。私がぶつかったと思われる相手は、ダンディズムを感じさせる声で私を心配してくれる。私はおそるおそる顔を上げた。

 

「つっても、お嬢ちゃんが来た方も()()()()()()()()()……さぁーて、これは一体どういうことだ……?」

 

「あ、あの……げほっ、ごほっ……!」

 

「ん? どうかしたかお嬢ちゃん。オジサンに何か用かな?」

 

 咳と鼻水、そして涙が出てきて目の前の大人の人の顔が見えにくいが、どうも教団とは無関係の一般人……のような気がする。

 身体もしんどいし、一か八か、私は目の前の大人が善良な一市民であることに賭けてみることにした。

 

「わ、私危険な人達に追われていて……ずるっ、げほっ、た、助けてはくれませんか……?」

 

「ほう、追われてる、か。つまり、お嬢ちゃんはそっちの路地を抜けてここまでやってきたのか」

 

「は、はい……逃げてきました……! 私、ずっと監禁されていて……捕まったらまた連れ戻されちゃう……!」

 

 ──今だ! 全力で媚びろ私! 変態ロリコンおじさん達相手に鍛えられた私の振る舞いに保護欲を掻き立てられてくれ! 

 

「そいつは大変だな。だが……オジサンも忙しくてなぁ。助けたいのは山々だが、子供の面倒を見る余裕がねえんだな、これが」

 

 ──マズい……! このままじゃ見捨てられる! もっとだもっと媚びろ私! 

 

「そ、そこをなんとか……けほっ、あの、助けてくれるなら何でもしますから……掃除洗濯料理とかの家事とか……あっ、後お裁縫が得意で……」

 

「何でも、か。そこまで言われちゃ良い大人として見捨てるのは心苦しいねぇ」

 

 ──いいぞ! もう一押しだ! あともう少しで匿ってもらえる! 

 

「しかしいいのかねぇ。オジサン、これで結構評判が悪くてな。付いてくれば後ろ指刺されちまうだろうし、いい歳して独身なもんだから子育てする自信もない。色々と手探りで育てることになっちまうが、構わねぇか?」

 

「だ、大丈夫です! 過酷な環境には慣れているので!」

 

 いっそのこと放任してくれて構わない! なんだかいつの間にか引き取るような話になっている気もするが、それはそれでいい。こちとらまだ子供なのだ。大人に引き取って貰えるならそれに越したことはない。

 

「そこまで言われちゃしょうがねぇな。それに──その方が面白そうだ」

 

「で、では……!」

 

「ああ。引き取ってやるさ。ちょうど仕事も終わったことだし、ついてきな」

 

 愉快さを感じさせる声色でそう言った青い輪郭の男は、先導するように歩き出す。

 私は柄にもなく感動した。まさか……まさかこんなに良い人がいるなんて! 見ず知らずの私を引き取ってくれる大人がいるなんて……! この世界も捨てたもんじゃない。これで私は今度こそ自由なんだ……! 

 

 そ、そうと決まればこのオジサンと親睦を深めないと! 後からやっぱり面倒だからと捨てられないようにしないと! 

 

「あ、ありがとうございますっ……! けほっ!」

 

「構わねえさ。その代わりにしっかりと働いてはもらうからな」

 

「は、はい! それはもちろん……あっ、それでオジサンは何のお仕事をしてらっしゃるんですか?」

 

 ──いやー楽しみだなー。子供を引き取れるくらいだからそれなりに生活は安定してそうだし、雰囲気からしても何となく仕事が出来そうな人な気がする。サラリーマンとかかな。もしくはありえないけど結構偉い人だったりして。そしたら後々はコネで将来の勤め先を確保して、将来は安定した生活を──

 

「ああ──暗殺業だ。《月光木馬團》って言うんだが……さすがに聞いたことないだろ?」

 

「なるほど、暗殺業ですか。組織の名前も、確かに聞いたことは…………………………………………えっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「心配しなくてもお嬢ちゃんと同じ年頃の子供もいるぜ? だからそいつらに倣ってりゃあ……ま、何とかなんだろ──ああ、そういやまだお嬢ちゃんの名前を聞いてなかったな。俺はエルロイ・ハーウッドってモンだが、お嬢ちゃんは?」

 

 ──ぎゃあああああああ!!? は……《破戒》のオジサンだ────!!? いやああああああああああ!!? 

 

 

 

 

 

 ──七耀暦1192年。4月。

 

《アーヤ・サイード》が《月光木馬團》に入団した。




今回はこんなところで。優しい釣り好きのお兄さんに親切な学者にちょっとお茶目な王家の末裔と親切な人がいっぱいだなぁ。
次回は黒とか破戒のオジサン視点と月光木馬團でのあれこれです。お楽しみに。

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