TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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王太女の不幸

 ──私には私を変えるきっかけとなった大切な先輩が2人います。

 

 1人は一昨年に突如として学園を退学してしまったレクター先輩。現在はかの《鉄血宰相》の元で働いている飄々として掴みどころのない先輩です。

 そしてもう1人は──

 

「……………………」

 

「なーにぼーっとしてるの? クローゼ」

 

「あ……ジル。いえ、なんでも。ちょっと考え事をしていただけです」

 

「そう? 私はてっきりアーヤ先輩のことでも考えてるのかと思ってたけど」

 

「えっ」

 

 私が通うジェニス王立学園。その生徒会室で生徒会長で友人のジルにそう指摘され、私は鼓動を跳ねさせる。それが図星だったから。

 

「……どうして分かったんですか?」

 

「そりゃお裁縫してるのに手を動かさないでじっとしてるんだもん。それ、先輩から教えられた奴でしょ?」

 

「あ……」

 

「アーヤ先輩なぁ。中々強烈な先輩だったよな。留学生だってのに毎日大はしゃぎで。確かにあの人がいないだけで学園が静かに感じるぜ」

 

「しかもデザイナーとしての仕事もしながらだしね。あのバイタリティは素直に尊敬よね。──クローゼもアーヤ先輩が帰っちゃったから寂しいんでしょ?」

 

「……ええ。正直なところ、少し。アーヤ先輩がいた時はすごく賑やかでしたから。急にいなくなるとやっぱり思い出してしまいますよね」

 

 私は2人の友人からの指摘に心配をかけないように笑顔で先輩の話を口にする。

 カルバード共和国の首都にある名門校アラミス高等学校から短期留学生としてやってきたアーヤ先輩は、2人の言うようにとても明るくて面白くてどこか子供みたいで……そして優しい先輩でした。

 学園にやってきてすぐにその振る舞いから有名になり、学業とファッションデザイナーとしての仕事を同時に行っていた才女であり、その傍らで遊びにも全力で、私も沢山遊びに連れ出してもらって、マーシア孤児院に贈る衣服を仕立てる時にその得意とする裁縫も教えてもらって。時には相談にも乗ってもらって……とてもお世話になった先輩です。

 

 ──それはたとえ、彼女が《リベールの異変》を起こした結社《身喰らう蛇》の執行者であり、伝説の暗殺者《切り裂き魔》であったとしてもそれはなんら変わりはありません。

 

 あの明るくて優しかったアーヤ先輩がそういうことに手を染めているのも、そこにはどうしようもない事情と背景がそこにあるからだと私は理解しています。

 だから私は先輩に軽々しくそれをやめるようにはまだ口にせず、先輩の相談に乗ってその力になるという決意を……答えを出しました。

 それが王族として、人として正しいことなのかは分からなくても──友人として私がやりたいことだったから。

 

 ……ですが今は……それを実行に移す機会がありません。

 

 あのリベールの異変でアーヤ先輩は……私の前から姿を消してしまったのですから。

 きっと今もどこかで明るく過ごしているはず。生きているはずだと私は信じています。先輩を助けに向かったレーヴェさんもそう約束してくれました。

 だけど時が経つにつれて私は不安になっていきました。

 もしかしたらもう先輩は……と最悪の想像をしてしまう。

 かつて学園を去ったレクター先輩と再会した時は、同じように再会できると一時的に不安は解消されましたが、また時が経つにつれて私の心には影が差していきました。

 ですがそんな時──

 

「──アーヤ先輩が……あの時にはもう共和国に帰っていた……?」

 

「ええ。調査会社経由で調べたところ、我々がリベールの異変で彼女を確認し、実際に対峙していた時──共和国ではアーヤ・サイードなる人物の姿が確認されたと」

 

 ──王宮の一室で私は王国軍の准将にしてエステルさんの父親でもあるカシウスさんから、耳を疑う報告を受けました。

 以前より頼んでいたアーヤ先輩の消息についての調査報告。リシャール大佐が軍を退役して立ち上げた調査会社の調査によれば……アーヤ・サイードという人物は複数人存在するとのことで。

 

「どういうことですか?」

 

「……おそらくは偽装工作かと。彼女が社長を務めるサイード社にも連絡したところ、社長はその時期には会社で働いているとのことで。更に彼女の国籍のある中東……ヴァリス市国の方でも同様の報告が来ていましたが、そちらは何分遠い上、同姓同名の人物が複数人登録されているようで。未だ満足の行く調査結果が得られないのが現状です」

 

「それは……やはり結社の?」

 

「……現時点でそうと断定することは出来かねますが、工作が行われているのは事実かと。アーヤ・サイードの情報を探られたくない何者かの意図によるものでしょうな」

 

 カシウスさんからそう報告を受け、私はやっぱり先輩はずっと昔から裏の人間として生きてきたんだと改めて思い知らされました。

 先輩の消息を辿るだけでもそれだけの偽装工作が行われていることが発覚する。その上で、先輩の消息自体は不明のまま。

 その調査結果を聞いた私に、カシウスさんは何かを考え込むようにその重い口を開きました。

 

「……殿下。友人想いである殿下にこのような提案をするのは心苦しくもありますが──彼女に関してこれ以上深入りすることは止めた方がよろしいかと」

 

「! それは……どうしてでしょうか? もしかして……先輩の過去のことで……?」

 

「……無論、その心配もありますがそうではありません。彼女の過去について触れるだけであればともかく……どうにも危険な気配を感じ取りましたので」

 

「危険な……気配ですか?」

 

「ええ。一連の偽装工作や共和国に送った調査員が謎の襲撃を受けたことといい……どこか警告のようなものを感じます。彼女について、あまり探ってくれるなよと言うような」

 

「!」

 

 私はそれを聞いて思わず拒否してしまいそうになりながらも落ち着いてカシウスさんの言葉を聞きます。

 彼の先読みの能力は誰もが信頼しています。《理》という段階に至った達人による物事の本質を見極める力……それを持っているからこそ、彼は私を案じてそう口にしたのです。

 

「……我々だけであればよいかもしれませんが、殿下にも危険が及ぶ可能性もないとは言い切れません。王国軍の准将としては彼女に拘ることはおすすめ出来ません」

 

「ですが……!」

 

「殿下。言うまでもなく、貴方はこのリベールという国家の王族で国の象徴にして中枢に座すべき御方です。そのことを今一度、考えて頂きたい」

 

「……………………」

 

「その上で調査を続行せよと。彼女に深入りすることを決意するのであれば私には止めることはできません。ですが自分を含めた国家と国民……それらを危険に晒す覚悟が殿下にはありますか?」

 

「っ……」

 

 カシウスさんの言葉を聞いて、私は反論を引っ込めて考えます。

 そしてややあって──私はカシウスさんの提案に「……わかりました。少し考えてみます」と返答をするのでした。

 

 ──そして後日。

 

「ふぅ……すっかり遅くなっちゃったな……」

 

 学園に戻り、いつもの日常を過ごす私はその日も休日を利用してマーシア孤児院に遊びに行き、テレサ院長や子供たちとの時間を過ごしてから一度ルーアンでの用事を済ませ、1人で帰路についていました。

 時刻は夕暮れ。辺りには夕日が差し込み、水面を反射して趣きのある風景を作り出しています。

 ……こんなに遅くなるのは久しぶりだな。

 私は夕暮れの街を見て、ふと思い出します。アーヤ先輩に連れ出されて遊びに出かけ、駆け足で学園まで帰った日のことを。

 そして先日、カシウスさんから言われたことを思い出し……私はまたしても悩んでいました。

 自分の中での答えは出ていて、その決心はしたはずなのに。後一歩を踏み出すことを躊躇してしまう。

 本当にこれで正しいのだろうかと疑問を投げかけてしまう。

 王族としての覚悟を決めた以上、こうして友人のために私心で行動することは良い行いなのかと。

 そんな風に悩み──そして、思ってしまいます。こんな時に先輩がいてくれたらと。

 こんな時、先輩は悩みなんてまるでないような明るい顔で私の肩を叩き、背中を押してくれました。そのことをつい私は懐かしみ──

 

「あ……」

 

 ──そんな時でした。

 

 不意に先輩の香りを感じたのは。

 以前先輩がプレゼントで貰ったという香水。それと同じ匂いが漂ってきて。

 

「先輩……?」

 

 私はその時、僅かな期待を持ってしまいました。

 そういえば、先輩と一緒に贈り物を選んだ露天商はこの路地にあったなと。それを思い出して。

 私は何気なく、一瞬だけ確認するつもりでその露店があったはずの路地裏に足を踏み入れ。

 しかし今日は店を開いていないみたいで。誰もいない路地裏に私はやっぱりいるはずがないかと踵を返そうとしました。

 

「──よう、ちょっといいか?」

 

「!」

 

 ──その時、背後から声を掛けられて……思わず私は鼓動を跳ねさせました。

 それは不意のもので純粋に驚いた結果によるものだとそう思って私は振り返ります。

 だけどそれはすぐにそうではないのだと本能で気付いて。私は声を掛けてきた相手と対面しました。

 夕暮れという時間帯と路地裏という場所によって生じた深い影により、その顔ははっきりとは確認できません。性別は男性。歳は私より2回り以上は上と言ったところ。葉巻を蒸すその男性は派手目の青いコートが目立つ人でした。

 それだけであれば私はこんなにも、警戒心を抱くことはなかったでしょう。

 ですがはっきりとした説明は出来ません。理由はわかりませんが、どこか危険な匂いがする──そうとしか説明できない。本能からの警鐘を感じた私は言葉を返すことが出来ず、咄嗟に自分の得物に手を添えてしまいました。

 

「おっと。驚かせちまったか?」

 

 その男性は私の反応を見て、フランクに接してきます。一見して何もない。人の良さそうな様子を見せる相手に、私は警戒しながらもそこでようやく声を返します。

 

「……何か用、ですか?」

 

「ああ。実はオジサン、今日カルバードからやって来たばかりでなァ。さっきまで観光やらカジノやら色々楽しんでたところなんだが、ちょっと道に迷っちまってな。良かったら道案内でもしてくれると助かるんだが……」

 

「……そうですか。でもすみません。見ての通り私は学生でして……もう帰らなければならないんです。ですので、申し訳ありませんけど道案内なら他の方に──」

 

 私は相手の頼みを丁寧に断ろうとします。実際に門限が迫っているので嘘は言っていませんでした。

 ですが相手はそれを聞いて、何でもないことのように葉巻を蒸しながら私にとって聞き逃がせない言葉を投げてきました。

 

「ああ? そうなのか? ()()()()()()()()()門限ギリギリまで友達と遊ぶし、困ってる人は放っておけない親切な性格だと聞いてたんだが……俺の記憶違いだったか?」

 

「っ……!?」

 

 ──その言葉を聞いて私は警戒を最大限に引き上げます。

 私の素性を知っている危険な気配を感じる相手。私が表情を強張らせる中、その相手はどこか面白がっているような笑みを浮かべています。

 

「貴方は……何者ですか?」

 

「何、そう警戒しなくていいぜ。俺はさっきも言った通り……観光にやってきたただのしがないオジサンだからなぁ」

 

「……悪いですが、とてもそうは思えません。貴方からは……どこか危険な気配を感じます」

 

「クク、酷いねぇ。ま、よく言われるけどな」

 

 その男性は私からの問いを涼しく受け流しながら自然体で葉巻を片手にこちらを見ています。

 私は葉巻の独特の臭いを感じながらも最後同じ問いかけをすることにしました。

 

「……もう一度聞きますが、貴方は一体何者ですか?」

 

「だから言ってんだろ? ただのしがないオジサンだってよ。だが強いて言うならお姫様と同じ──アーヤに縁がある人物ってところだ」

 

「っ……! やっぱりアーヤ先輩のこと知ってるんですね……! なら貴方は──」

 

「クク、まあお前さんの想像通りだ。それに加えて俺はあいつの、言っちまえば保護者でなぁ。あいつとの付き合いは10年近くになる。だからあいつのことは誰よりも知ってるぜ?」

 

「……!」

 

 アーヤ先輩の保護者。それを聞いて私は先ほどまでの会話からその正体を推測する。

 なら相手はおそらく──結社の人間。使徒か執行者か分からないけれど、そう考えるのが自然な程に、相手は危険な気配を漂わせ続けていた。

 そして10年以上の付き合い。保護者と聞けば、私の脳裏に最悪なものが思い浮かぶ。あるいはこの男性が──

 

「だが勘違いしないでくれよ? 保護者と言ってもあいつに売春やら実験やらを強制してた連中とは別口でな。むしろ俺はそいつらからあいつを助けて生きる方法を授けた側……自分で言うのも何だが──恩人みたいなもんだ」

 

「……そうですか。なら、その保護者である貴方は何をしに来たんですか?」

 

「クク、観光って答えじゃお気に召さないみたいだな。なら単刀直入に言うぜ。ここに来た理由は──忠告だ」

 

「!」

 

 忠告。その言葉が出てきた意味を私はすぐに理解する。

 つまりはアーヤ先輩の素性を掴ませないように偽装工作を行っていた人物。それが目の前の男性だと。

 私は冷静に思考し、そのことを問い質します。

 

「……何故そんなことを?」

 

「ま、言っちまえば親切だ。これ以上あいつに関わると痛い目を見るぜってな。言わねえとあいつに拘るどこかの国のお姫様が──悪い男に目を付けられて火傷しちまうかもしれねぇだろ?

 

「っ……」

 

 ──男性の獣のような鋭い眼光が私を貫く。

 先ほどまでとは比較にならないほどの危険を感じ、そこで私は剣を抜きました。そしてそれを構えながら、強く言葉をぶつけます。

 

「貴方は……アーヤ先輩を使って何をするつもりなんですか!?」

 

「おいおい……剣なんて抜いちまって危ねえなぁ。こっちは教授や他の連中みたいに異能もなければ武術の達人でもねぇ……普通の人間なんだ。おまけに銃や刃物の類なんかも持ってねぇいわゆる丸腰。そんな相手にビビる必要なんてねぇんだぜ?」

 

「答えてください!!」

 

 この男性の言葉は信用できなかった。

 ともすれば彼の告げた名前──教授よりも危険な気配を感じる。

 そしてそんな男がアーヤ先輩の保護者で、こちらが深入りすることを止めようとしてくる。

 その意味が理解出来ない。

 

「ったく仕方ねぇな。なら出血大サービスで教えてやるが……今のところ何もするつもりはないぜ? ただまあ、これからもあいつの周りじゃ面倒事や不幸な出来事……とんでもない大事件なんかが起こるだろうからな。場合によっちゃあ周りにいる人間が死ぬ可能性だって出てくる──そんな不幸な人間の1人になりたくねぇだろ?」

 

「……っ……」

 

「クク……ま、その危険を承知の上で関わるってんならそれはそれで面白えから構わねえが……これでも俺なりに気を使っててな。あんまりやりすぎると幾ら丈夫なあいつでも傷ついてどうにかなっちまうかもしれねぇだろ? 不貞腐れて引きこもりにでもなっちまったら面倒だしなぁ」

 

「……………………」

 

 私はその男性の言葉を聞いて、苦々しくも冷静に受け止める。

 この男性は信用はできない。だけど、それでもその言葉の全てが嘘というわけではないとそう感じる。

 アーヤ先輩に関わることで私も危険に巻き込まれることも事実だと思う。

 アーヤ先輩の問題に、この男性が関わるものなのかどうかは分からない。

 だけど、危険であることは間違いない。

 そして何よりも、ここまでの話で1つ分かったことがある。

 

「……なるほど。わかりました」

 

「ならオジサンの忠告を素直に聞いてくれんのか?」

 

「いえ、そうじゃありません。わかったと言うのは貴方の話のおかげで──少なくともアーヤ先輩が生きているということです」

 

「! ほう……?」

 

 ──そう。それが彼の言ったことの中で唯一、私にとって希望になったことだ。

 私の前に進む原動力。もしもの時に対する恐怖。もう手遅れになっているのではないかという私の中の揺らぎ。

 

「ですから……ありがとうございます。おかげで迷いが晴れました」

 

 それらが一気に解消された。

 だから私は彼にお礼を言いながら、そして構えていた剣を真っ直ぐ前に。彼に向ける。

 

「貴方の話は理解しました。貴方が危険な人物であること……アーヤ先輩に関わることで危険に巻き込まれる可能性があること……ですが、それを聞いた上でも──私はアーヤ先輩を諦めるつもりはありません」

 

 そして私の意志を告げます。

 

「いずれ必ず……私は先輩の力になって、先輩を連れ戻します。そのためなら──たとえ相手が貴方であっても引くつもりはありません」

 

「……!」

 

 私は決意と覚悟を持って、再び答えを出します。

 私は私の大切な友人を諦めたくない。大切な友人を諦めてしまえるような、そんな自分にはなりたくない。

 なりたい自分のために、私は戦う覚悟を決めました。

 

「ハハ……!! なるほど、面白いじゃねぇか……!」

 

 得体の知れない男性が私の意志を聞いて声を響かせます。

 だけどその笑いは嘲笑しているという感じではなく……愉しみを見出したかのような様子で。

 

「ああ、ならいいぜ。それなら好きにしな。オジサンとしても、そういうのは大歓迎だ。なんでもかんでも思い通りに事が進んでばかりじゃあ退屈だからなァ。予想外に殴りかかられるのもそれはそれで乙なもんだ」

 

「……悪趣味なんですね」

 

「クク、お褒めに預かり恐悦至極……ってな」

 

 私の悪趣味という言葉を褒め言葉と捉えて腰を折ってみせたその男性は、そこで背中を見せました。

 

「それじゃあ忠告も無駄に終わったところだし、オジサンは帰るとするか。──ああ、それとアーヤに関してはご指摘の通りピンピンしてるぜ? いつも通り大陸中を飛び回ってるから俺の妨害がなくても捕まえるのは苦労するだろうがな。連絡がしたきゃ流行りの導力通信機能付きのオーブメントでも手に入れるといいんじゃねぇか?」

 

「……そうですか。教えてくださってありがとうございます。──ですが、まだ貴方のお名前を聞かせてもらっていません」

 

「そいつは聞かない方がいいんじゃねぇか? 聞いちまったら最後、後悔しちまうかもしれねぇぜ?」

 

「いえ、聞かせてください。一応、大事な友人の保護者ではあるみたいですし……そして何より、敵の名前を知らなければ戦うのも難しいですから」

 

「──成程。良い口説き文句だ。教えるつもりはなかったが……そういうことなら少しだけ教えてやるよ」

 

 と、その男性は最後、去り際に告げる。

 その渾名。不吉かつ最悪な想像しかできない異名を──

 

「身内からはよく──《破戒》って呼ばれてる

 

 ──《破戒》。

 

 それがアーヤ先輩の保護者で、私の敵の名前。

 そしてその名を告げたのを最後に、彼は路地裏からゆっくりと消えていく。その場に葉巻の香りだけを残して。

 

 ──そうして私は帰路について……そして後日。私はそのことを報告すると共にある決意と頼みをカシウスさんに行った。

 私の決意が固いと見ると、その選択を尊重し、覚悟を見るための言葉だったことを明かしながらこれまで通り力になってくれると言うカシウスさんに、私は──

 

「ところでカシウス准将。もう1つ、お願いがあるんですけど……」

 

「ええ。何でしょうか?」

 

「──私に剣を教えてください」

 

 ──危険を跳ね除ける力をつけるためにそのお願いをしました。

 

 またいずれアーヤ先輩に会った時に成長してる私を見せられるように。力になれるように。

 

 ──絶対に逃がしませんから。待っていてくださいね。アーヤ先輩。

 

 

 

 

 

 ──やっほー! アーヤ・サイードです! 今日は良い報告があります! なんと私──遂に運転免許をゲットしました! これで導力車を運転できる! というか導力車を購入できる! 一種のステータスだ! ってことで早速私はお店に向かって店員さんと相談しながらめちゃくちゃ悩んだ。共和国には導力社で有名なメーカーが4つ。いわゆる4大ライセンシーと呼ばれているメーカーがあるのでそこから選ぶ。《インゲルト》か《エトワス》か《レッドスター》か《レノ》か……うーん、悩ましい……でもエトワスは移民嫌いオラシオンのメーカーだし……なんか言われそうだから避けようかな。レッドスターもラングポートのメーカーで黒月が関わってそうだから却下。爆弾とか仕掛けられたら怖いし。残りはインゲルトかレノ……うーん、確かヴァンが好きなメーカーがインゲルトだっけ。昔カタログ片手に熱く語ってたのを思い出すけど……でもどっちかって言うとレノの方がデザイン的にビビッと来たからレノにしよーっと! よーし購入! 現金一括で! ちなみに導力車の一般的な値段は大体80万ミラくらい。高級車になると150万ミラ以上はするけど、私の財力ならこれくらいは問題ないぜ! 赤いスポーツカーを購入! そして早速ドライブだー! ひゃっほう! いやー気持ちいい。ずっとほしかったんだよね。人気のない郊外でぶっ飛ばすぜ! ──おっと。そうこうしてたらなんか同じようなスポーツカーが煽り運転してきた! これはあれだね、カーレースのお誘いだな!? いいねいいね! 私もちょうどそういうレースとか対決とかしたかったんだよ! 最近クロスベルで開発されたらしい《ポムっと》で対戦とかして相手をボコボコにしようとか思ってたけどカーレースでもいいよ! この間ギリアス・オズボーンに会ってからストレスのせいか少しだけ対戦ゲームとかしたかったところだ。まあ今は全くそういうことはないけどね! ──ってことでバトル! ふふん! 免許取ったばかりとはいえ私の運転技術を舐めるなよ!? おらードリフトドリフトー! 性能も技術もこっちの方が上だ! このままぶっちぎって──あっ、黒猫が……あ、危な──い!!? よ、避けろ────!!? うわああああああ!!? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、あのっ、これは、ち、違くてぇ……ね、猫が通りがかったから避けただけで……しかもなんか不自然にタイヤが滑ってぇ……き、危険運転とかしてなくてぇ……あ、それと煽り運転されたんですよ! だから私は悪くなくてぇ……」

 

「あーはいはい。分かったから。とりあえず免許出して。速度超過に物損事故に……それにしてもお嬢さん。よく怪我なかったね。一応病院で見てもらった方がいいよ。あ、とりあえず免停ね」

 

「うわーん!! そんなー!?」

 

 ──私は導力車事故を起こして免停になりました……車も壊れたし最悪だ……くっそー! 買ったばかりなのにー! また買い直さないとー! うわーん!!




軌跡シリーズは成長物語でもある。そんな回でした。多分月の扉EX。
次回はケビン回です。ダイジェスト影の国。お楽しみに。

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