非常に興味深い人間を見つけた。
教団の秘薬たる《グノーシス》に耐性を持ち、あらゆる実験に耐える幼い子供がいるという情報を手に入れた。
もしかしたら何か有益な技術が手に入るかもしれない。こういう時のための幹部司祭の地位だ。私はその実験体が囚われているというロッジに向かい、教団の連中の目を盗んでその実験体の少女をこの手で直接調べた。
その結果、なるほど、確かに通常の人間を遥かに上回る数値だ。これならば教団の愚かな実験にも耐えられるだろう。教団如きには過ぎたオモチャとも思えるほどに子供は素体として優秀だった。
何しろ驚くべきことに我らが開発している戦術殻との同調率が、通常の人間としては考えられないほどに高い。人造人間や我ら工房の人間──それ用に調整した人間を僅かに下回るのみで戦闘でも手足のように問題なく操作出来る数値だ。
その結果を見て思案する。あるいは、この少女を使えば《根源たる虚無の剣》作成にかかる工程を幾つか短縮出来るかもしれないが……。
「現時点では不確定要素が多すぎるか」
メインプランとすることは難しいだろうと結論付ける。この子供──《アーヤ・サイード》を使用した計画に変更するのであれば、また時間をかけてしまうことは避けられない。
だがもしものためのスペア……3番目の選択肢としては使えないこともない。
そしてそうでなくとも我ら《黒の工房》の利益となるだろう。
今は教団の監視があるため面倒であるし、他にやるべきことが多く精々その情報を持ち帰ることぐらいしか出来ないが、時が来たら《工房》の役に立ってもらうとしよう。
──全ては偉大なる《イシュメルガ》様のために。我ら《
──七耀暦1192年。4月。
仕事先で面白そうなガキを見つけた。
上から与えられる仕事はあまり面白みがねえ。普通にやったら普通にこなせちまう仕事だ。
だからこういう時は引っ掻き回して自分なりに楽しみを作るに限る。その上でキッチリ仕事をこなす。それが大人ってモンだ。
だから俺はその日、せっかくだから溜まっていた仕事──暗殺対象の人間と無関係の猟兵や遊撃士を集めて《D∴G教団》のロッジが隠れてるある街のスラムでかち合わせてやった。
おかげで街は大層な賑いを見せてくれて満足だ。しばらくその祭りを見守って楽しみ、ある程度収まってきたらいつも通り、予め設置しておいたオジサン特製の新作兵器で暗殺対象の人間を一網打尽にしてやった。効果は上々といったところだ。暗殺対象以外の人間もそれなりに巻き込まれたが、それもまた乙ってなモンだ。
そして良い死に様を見れて満足し、そろそろ上がるかと思った時だ──路地裏から
「──痛ぁっ!?」
「──あぁ?」
路地裏から現れ、俺にぶつかってきたのは日焼けしたような肌を持つ中東人の子供。それも女の子だ。
容姿は中々に整っていて将来は美人になりそうな子供でオジサンはさすがに趣味じゃあないが教団と繋がってるような特殊な趣味を持つ連中にはウケるだろうな。
「……おいおい、大丈夫かお嬢ちゃん。そっちは危険だぜ?」
──だがそんなことよりも面白そうな現象がその子供には起こっていた。
「つっても、お嬢ちゃんが来た方も危険なはずなんだが……さぁーて、これは一体どういうことだ……?」
「あ、あの……げほっ、ごほっ……!」
「ん? どうかしたかお嬢ちゃん。オジサンに何か用かな?」
その子供が通ってきた路地は俺が設置しておいたBC兵器が空気中に滞留し充満しているとびきりの危険地帯だ。人間が通れば無事じゃあ済まない。数秒もすれば手足に力が入らなくなり全身を麻痺させ、すぐに声も出せなくなって死ぬようになっている。
だがこいつはそこを通りながらも極めて軽症。ただの風邪のような症状で済んでやがる。
「わ、私危険な人達に追われていて……ずるっ、げほっ、た、助けてはくれませんか……?」
「ほう、追われてる、か。つまり、お嬢ちゃんはそっちの路地を抜けてここまでやってきたのか」
「は、はい……逃げてきました……! 私、ずっと監禁されていて……捕まったらまた連れ戻されちゃう……!」
諸々の状況から推察するに教団に捕まっていた実験体ってところか。改造でも施されてんのか、あるいは超常的な能力を獲得しているか。もしくは
そしてそんな子供が俺に助けを求めている。咳や鼻水が酷くて苦しそうでつい苦笑しちまうが……さて、どうするかねぇ。
「そいつは大変だな。だが……オジサンも忙しくてなぁ。助けたいのは山々だが、子供の面倒を見る余裕がねえんだな、これが」
思案し、一旦はおどけて試してみる。反応が見たかったんでな。大した意味はない。
「そ、そこをなんとか……けほっ、あの、助けてくれるなら何でもしますから……掃除洗濯料理とかの家事とか……あっ、後お裁縫が得意で……」
「何でも、か。そこまで言われちゃ良い大人として見捨てるのは心苦しいねぇ」
すると期待していた通りの反応が返ってきやがった。
しかしまあ、自分で言うのもなんだがよりによってこの俺に助けを求めるとは。こういうの、運がないって言うのかねぇ。せっかく命からがら教団から逃げ出せたっていうのに俺に目を付けられちまうなんて可哀想で涙が出そうだ。
「しかしいいのかねぇ。オジサン、これで結構評判が悪くてな。付いてくれば後ろ指刺されちまうだろうし、いい歳して独身なもんだから子育てする自信もない。色々と手探りで育てることになっちまうが、構わねぇか?」
「だ、大丈夫です! 過酷な環境には慣れているので!」
一応親切心で予め警告してやるが、どうやらそれでも構わねえらしい。まあ確かに教団のロッジに比べりゃ天国かもしれねえなぁ。別の方向性で地獄だとは思うが。
だが平気だって言うんなら仕方ねえな。俺は親切なオジサンとして可哀想な孤児の頼みを引き受けてやることにした。
「そこまで言われちゃしょうがねぇな。それに──その方が面白そうだ」
「で、では……!」
「ああ。引き取ってやるさ。ちょうど仕事も終わったことだし、ついてきな」
「あ、ありがとうございますっ……! けほっ!」
「構わねえさ。その代わりにしっかりと働いてはもらうからな」
「は、はい! それはもちろん……あっ、それでオジサンは何のお仕事をしてらっしゃるんですか?」
「ああ──暗殺業だ。《月光木馬團》って言うんだが……さすがに聞いたことないだろ?」
「なるほど、暗殺業ですか。組織の名前も、確かに聞いたことは…………………………………………えっ」
そう──礼を言う必要はねえぜ?
何しろ言ったように、お前にはこれからたっぷりと働いてもらうんだからな。
──七耀暦1192年、5月。
上から任された仕事を終えた後。暗殺業と聞いて驚愕し、大口を開ける子供──アーヤ・サイードを俺は《月光木馬團》に連れ帰った。
團にはそれほど多くはないがこいつのような子供もいる。何しろ中世から続く由緒正しい暗殺組織なもんでな。暗殺者を育てるには幼少期から教育を施しちまった方が良い暗殺者になる。中途半端な大人を組織に引き入れるよりよっぽど従順で躊躇をしない。倫理観がぶっ飛んでくれるからなあ。オジサンに子供を苦しめる趣味はないが、そういう闇深い子供を見るのは面白いから嫌いじゃない。このアーヤ・サイードという教団出身の子供もすぐに馴染めるだろう。
だがさすがにいきなり知らない大人の群れに混じって仕事をしろってのは困難だ。せめてもの親切として俺はよく仕事で同伴させるレティと、同じ子供の中では最も使える暗殺者のクルーガー。後は何人か團で抱えてる子供に紹介してやることにした。
クルーガーは感情がなくて接しにくいかもしれねえが仕事の見本にはなるだろうしレティは子供好きだから世話を焼くだろう。会った瞬間から互いに印象は悪くねえようだ。
團の生え抜きの、それも同性で歳が近い奴らと知り合わせてやったんだ。精々頑張って育ってくれよ?
──それとアーヤの詳細についちゃすぐに調べがついた。あの《楽園》出身だとはな。悪名高いあの場所で生き抜き、教団の実験を受けながらも五体満足でいるとは中々に面白いじゃねえか。俺の兵器が効かないこともこのアーヤの体質が関係してんだろう。なんでそういう身体になってんのか、興味がねえわけじゃねえが……それを調べて解明するよりもそれでどんなことが出来るか試す方が面白そうだ。
──七耀暦1192年。6月。
世間じゃあエレボニア帝国とリベール王国の戦争で中々刺激的な有様だが、俺の方は俺の方でやることがあって野次馬のように観戦するくらいしか出来そうにない。まったく組織務めってのはしがらみが多くて嫌になるよなあ。
だが仕事にも面白味がないわけじゃねえからな。少し前に拾ったアーヤを観察することも出来るしな。
そのアーヤだが……今はまだ暗殺者としての技術が未熟で仕事に出すには不確実だ。
だから團に入れた当初からレティが面倒を見てやってる。刃物の扱いに関しちゃあいつは天才だ。團でもあいつ以上の使い手はいねえからなあ。アーヤの奴が習うにはうってつけの相手だろう。組織で面倒を見てる以上家庭教師くらいは付けてやらねえとな。
後はクルーガーとも模擬戦って形でやり合ってるみたいだな。こっちはアーヤの方から持ちかけたようだな。どうにもアーヤの奴はクルーガーを気に入ったらしい。糸の使い方を教えてほしいと何度簀巻きにされてもそれを口実に関わりにいってやがる。感情のない殺戮マシーンのクルーガーのどこをそんなに気に入ったのかは知らねえが、あるいは
そして肝心の戦闘技術は僅かに上達したが、それでもまだまだ團が求める暗殺者としての基準には達してねえ。子供であることを利用した暗殺なら使い道はあるが、それだけなら他の子供にも出来ることだ。これじゃ使い道はねえなあ? 処分も検討されちまうかもしれねえぜ?
──そんな具合で軽く脅してみたら「何でもするんで処分だけは勘弁してください!」と土下座かまして来たんで俺は愉快になってその頼みを叶えてやることにした。
──七耀暦1192年。7月。
まだまだアーヤは暗殺者として求める水準に達してはいない。刃物の使い方はそこそこになったが、それでも毛が生えた程度。糸の方もようやく基本を覚えた程度。毒物の扱いもまだまだ甘い。
これじゃ暗殺に出しても良くて失敗。悪けりゃ死ぬだろう。もう少し育ててやるのが賢明な判断ってヤツだ。
──だがだからこそ仕事をさせた方が面白いだろ? だから俺はアーヤの技術がまだ未熟であることを承知の上で暗殺任務を与えることにした。一応備えはした上でな。もし失敗して暗殺対象が逃れようとしたらあいつごと特製の毒ガスに巻き込んで殺すとするか。
ってなわけで初の暗殺任務を行わせた結果、あいつは案の定失敗した──が、持ち前の回復力とタフさで何とか粘りまくり、暗殺対象を護衛する兵を数人殺してみせた。別に急激に強くなったとかそういうんじゃねえが、筋はある。特に死んだと思わせての奇襲の嗅覚は悪くない。力も子供にしちゃ妙に強いときてる。ダメ元で行わせてみたがやっぱ使えるかもな。
ただ暗殺対象は仕留めちゃいねえ。だから結局、化学兵器を起動させてあいつごと巻き込んで殺した。アーヤの奴はくしゃみと鼻水、涙が止まらない花粉症のような症状になりながらプンプンと怒って俺に文句を言ってきたが、俺としちゃあ面白くてしょうがねえ。まだまだこの手で遊べそうだな。次は生物兵器と一緒に特攻でもさせてみるか。
──七耀暦1192年。11月。
アーヤを《月光木馬團》に入れてから半年が経ったが仕事にも刃物の扱いにも慣れてちったあ使えるようになったな。それに俺が紹介してやった團の連中とも随分と仲良くなってやがる。
気安い関係になってオジサンとしても微笑ましい気持ちだが、俺の呼び出しを拒否しようとするのはいただけねぇなあ。確かに嫌われるようなことはしまくったが恩人のオジサンを嫌いになるとは悲しいぜ。それか思春期ってやつか?
オジサンとしてもその意思を尊重してやりたいが、生憎とまだまだアーヤを使ってやりたいことがある。鍵を閉めて引きこもったアーヤの自室に先読みでプレゼントを大量に仕込んでやればむせび泣いて部屋から出てきた。オジサンのプレゼントでまだ涙を流してくれるとは。俺も鼻が高いねえ。ってことは分かってたが普通の人間に使ったら即死だな。アーヤには手加減が必要ねえから助かるぜ。御駄賃をくれてやりゃ大抵のことは呑み込むしな。
そういうわけで今日も助手を連れて元気よくお仕事だ。つっても團の仕事じゃなくて俺の趣味の犯罪だがな。殺戮マシーンのクルーガーや大抵のことは受け流しちまうレティと違ってアーヤは反応が良くて愉しめる。びっくり箱を開く時にはうってつけの盛り上げ要員だ。下手に巻き込んでも大抵のことじゃ死なねえのも使い勝手が良くていい。子供を使ったあらゆる犯罪に使えそうだ。クク……せっかくだ。今日はこいつに仕掛けを頼んでみるか。
──それとそろそろ教団の連中がアーヤの居場所を嗅ぎつけそうだったんで先んじて追手を皆殺しにしておいたが……感謝しろよ? 今のお前じゃまだ大人には勝てないだろうからなあ。立派に成長して一人前の暗殺者になるまではオジサンが手厚く保護してやるよ。
──七耀暦1193年。1月。
誕生日を迎え9歳になったアーヤにお誕生日プレゼントとして役立つ物を渡してやった。まだ未熟とはいえ子供の暗殺者としては一応の及第点だ。持ち前の体質にレティに仕込まれた刃物の扱いとクルーガーから学んだ糸の扱い。それと
つーわけでただの暗殺だけじゃなく敵対組織との小競り合いや戦争にも連れて行ってやらねえとな。何、今までと危険度は変わらねえから安心しな。クク、これでオジサンも安心して目を離せるぜ。今までは一応心配して気を使ってたからなあ。今度からはある程度自力で何とかするようヨロシク! ってな。レティやクルーガー、仲良くなった他の子供と一緒に頑張って生き残ってくれよ?
──そんで特に仲がいいのは確か……メルキオルってガキだったか?
破戒オジサンのパーティ編成のTierトップのサポートアーヤちゃんでした。育成ゲーム愉しんでる。優しいオジサンに拾われて良かったねぇ……
次回はアーヤちゃんが月光木馬團で色んな人に鍛えられて親交を深めたりする話。お楽しみに。
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