TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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特務支援課と関わる不幸

 

 ──特務支援課が発足して2ヶ月余りが過ぎた頃。

 

 市民からの要請や他の課からの雑用などを行う地道な活動にも慣れてきた俺たちはその日、アルカンシェルからの緊急の要請を受けることになった。

 相談してきたのはアルカンシェルの新人アーティストのリーシャ・マオさんで、その内容は看板女優であるイリア・プラティエに届いたという脅迫状についての相談であり、その依頼を受けることにした俺たちは実際にアルカンシェルまで赴いてそこでリーシャさんにイリアさん、劇団長などの関係者から詳しい話を聞くなどして調査を始めた。

 来月に新作の公演を控えている彼女に届いた《銀》という謎の差出人からの脅迫状。イリアさんの言う通り単なる嫌がらせの可能性も確かにあるけれど、無記名ではなく《銀》という思わせぶりな名前が記載されていてリーシャさんが不安に思う気持ちも理解できた。

 更にはあのクロスベルの裏社会を取り仕切るルバーチェ商会の会長、マルコーニの名前まで出てきたため、俺たちはより一層の疑念を抱いた。何でもマルコーニ会長がイリアさんに言い寄った際にイリアさんがビンタをかましてしまったらしく、そのことを恨んでる可能性も考えられると。

 幾つかの手がかりを得た俺たちは脅迫状を預かってからアルカンシェルの玄関ホールにまで戻り、そこでリーシャさん──いや、リーシャから砕けて話してもらうようにお願いされたため、それを了承した。

 

「それじゃあ──ちょっと砕けさせてもらうよ」

 

「は、はい! どうもありがとうございます!」

 

「──どうもー! 宅配便でーす! ご注文の衣装をお届けに上がりましたー! ……ってあれ……?」

 

 ──そしてそんな時、背後から隠そうとしない人の気配を感じて俺たちは振り返ると、そこにはお洒落な格好をした褐色肌の可愛い女性がいた。

 

「あなたたちは……」

 

「あ、お疲れ様です。アーヤさん」

 

「お疲れ様、リーシャちゃん! で、この人達は?」

 

「こちらは警察の特務支援課の方々です。例の脅迫状の件で相談に乗ってもらっていて……」

 

「ああ、あの特務支援課ね! クロスベルタイムズにも載ってた!」

 

「はは……(結構あの記事のこと皆知ってるんだな……)」

 

(外国の方でしょうか?)

 

(どうかしら。でもすごいお洒落な人ね)

 

(…………)

 

 その中東人と思われる女性はリーシャと挨拶を交わす。その間に俺たちは小声でその印象について軽く口にした──ランディだけは少しだけ見惚れでもしていたのか無言だったけれど、それでも相手の挨拶に合わせてこちらも名乗りを返す。

 

「初めましてー! ファッションデザイナーのアーヤ・サイードです。よろしくね!」

 

「特務支援課のロイド・バニングスです」

 

「エリィ・マクダエルです」

 

「ティオ・プラトーです。初めまして……」

 

「…………」

 

「ランディ?」

 

「! っと、すまねぇ。ランディ・オルランド。よろしくッス」

 

「はいはいよろしくねー。……それにしても……ふむふむ……」

 

「えっと、何ですか?」

 

 そうして挨拶を交わし終えるとそのアーヤさんは俺たちを品定めでもするかのように視線を向けてきた。何かと思い俺が問いかけるとアーヤさんは何かを閃いたかのように目を輝かせ……。

 

「──うん! 全員良い感じにお洒落しがいがありそうだね!」

 

「お、お洒落……?」

 

「そういえばファッションデザイナーって……もしかしてあの“サイード社”の方ですか?」

 

「お、知ってるねーエリィちゃん。──そう! 私こそ共和国のファッション業界に突如現れた新星! カリスマファッションデザイナーのアーヤちゃんだよ!」

 

 そう言ってビシッとポーズを決めるアーヤさんに俺たちは戸惑ってしまう。

 

「え、えっと……」

 

(なんというか……)

 

(すごい個性的な人みたいですね……)

 

「(……ま、そんなわけねぇか)……確かに洒落た格好っすね! それにサイードって言やぁ最近中央通りにできたあの高級ブランドショップじゃないっすか?」

 

「ふふん。そのサイードの社長にしてファッションデザイナーが私だよ。すごいでしょ?」

 

「高級ブランド……ですか」

 

「ならアルカンシェルにもひょっとしてお仕事で?」

 

「まあね。舞台で使う衣装を仕立ててほしいってイリアさんから依頼をもらったから。今日は最後の一着を届けに来たって感じかな。──ね、リーシャちゃん!」

 

「あ、はい。そうなんです。なんでもイリアさんが直接お店まで押しかけて依頼したみたいで……その節はその……」

 

「ああ、全然いいって! 確かに予約は埋まってたけどさ。あのアルカンシェルの舞台衣装を手掛けられるなら予定くらい全然空けられるしどうにでもなるからさ! ──ってことではい。これがご依頼の衣装だよ」

 

「態々直接届けて頂いてありがとうございます。──それじゃあ皆さん。後はどうかよろしくお願いします」

 

「ロイドくんたちも頑張って! また今度ゆっくりお話しようね!」

 

 そうしてリーシャは最後に礼をして、アーヤさんは軽く手を振って舞台の方へ向かっていった。衣装の納品や仕事を依頼したイリアさんへの挨拶や他の仕事もあるのだろう。

 残された俺たちは出会ったアーヤさんへの印象を話し合う。

 

「……なんだかバイタリティがすごそうな方でしたね。イリアさんとも気が合いそうというか……」

 

「そうね。確か数年前……学生時代からブランドを起ち上げて活動していたって話だから精力的なのは間違いないはずよ。ファッション業界ではかなり有名で評価も高いわね。私も一度店に行って何着か購入したけれどデザインも着心地もかなり良いものだったわ。ただその分、少し値は張るけれど」

 

「へえ、そうだったのか」

 

「前に聞いたローゼンベルク人形のようなものですね」

 

「ええ。特に彼女の仕立てるオートクチュールの衣服は芸術品としての評価も高いみたいね」

 

「なるほど。イリアさんが押しかけてまで依頼するのも無理ないってことか」

 

 エリィの話を聞いて俺は納得する。高級ブランドを手掛けるファッションデザイナー。先程のイリアさんの踊りも引き込まれるものがあったけど、彼女の着ていた服もかなり完成度の高いものだった。お洒落に詳しくない俺でも他とか明らかに違うと思えるくらいには。

 

「そういえばランディ。さっきアーヤさんを見て少し驚いてたみたいだけど……」

 

「ああ、それなら何でもねぇよ。以前にも会ったことがあるかもしれねぇ……って、そう思っただけだからな」

 

「……またナンパですか?」

 

「……ランディ。その手はどうかと思うけど……」

 

「確かに声をかけてみるのも良いかもしれねぇ……見たところ年齢も同じくらいだし、中東系の可愛い系美人にはまだお近づきになったことが……」

 

「もう……」

 

「……ランディさんは相変わらずですね」

 

「はは……それじゃそろそろ行こうか」

 

 アーヤさんについての話題も程々に、俺たちはアルカンシェルを出て脅迫状の調査を開始する。

 

 ──そうして幾つかの手がかりを辿り、最初は《ルバーチェ商会》に出向いてそこでルバーチェ商会の営業本部長、若頭のガルシア・ロッシに迎えられ、その次は弁護士のイアン先生からルバーチェについての詳しい話を聞いた後、《銀》という伝説の凶手の話も聞かせてもらった。

《銀》は東方で噂される暗殺者であり、カルバード共和国の東方人街に巨大な勢力を築く《黒月》と関係があるかもしれないと見た俺たちは次に湾港区にある黒月貿易公司に向かうことにし、そこでやり手と噂の支社長……ツァオ・リーに話を聞かせてもらった。

 

 最高の刺客にして暗殺者である《銀》は実在し、《黒月》と関係があることを匂わせ、更にはこのクロスベルにまでやってきていることまで仄めかされた。ルバーチェとクロスベルの裏社会の覇権を取り合っていることまで。

 だがルバーチェとは違って芸能方面には手を出しておらず、脅迫状になぜ《銀》の名前が書かれているかも分からないと。彼の話を信じるならばこの一件には全く関与していないとのことだった。

 そしてそれを聞いた俺たちは充分に収穫は得られたと判断して黒月貿易公司を後にしようとしたんだが……そこでツァオから更に奇妙な話を聞いた。

 

「──ああそれともう1つ、言い忘れていたことがありました」

 

「……言い忘れていたことですか?」

 

「ええ。ちょうど今しがた思い出したのですが……あなた方は《切り裂き魔》という暗殺者のことを知っていますか?」

 

「《切り裂き魔》……?」

 

「! そいつは……」

 

「それって……」

 

「おや、どうやらそちらの赤毛の方とお嬢さんの方はご存知のようですね。まあこちらは《銀》以上に有名な伝説ですから無理からぬことですが」

 

「! 2人は知っているのか?」

 

「……ああ。つってもちょっとした噂くらいだがな」

 

「……私もちょっと耳にしたことがあるだけで詳しくはないけれど……でもそれは未解決事件に付けられる噂のようなものだったはずですが……」

 

「未解決事件?」

 

 俺は初めて耳にする《切り裂き魔》という存在の名前にランディやエリィに聞き返すように声に出すも、それに答えたのはツァオだった。

 

「ええ、その《切り裂き魔》です。まあこちらも虚構ではなく実在することは確かですがね。《銀》のように古くからの伝説というわけではありませんが、近年の知名度ではこちらの方がより知れ渡っているようで。噂ではたった数年で数百人、あるいはそれ以上の犠牲者を出した連続殺人鬼とされています」

 

 ツァオは笑みを浮かべながらその恐ろしい話を口にする。どういう訳か、何故か少し愉快そうに。

 

「ですが我々の掴んでいる情報だと《切り裂き魔》は無差別な殺人鬼というわけではなく、どうやら《銀》と同じく凄腕の暗殺者のようでしてね。もっとも、一般の方々を多数殺害されていることも確かですが一応は秩序ある暗殺者ということです」

 

「……なるほど。それは確かに気になりますが……ですがその《切り裂き魔》が今回の件と何か関係が?」

 

「ふふ、関係があるかどうかは定かではありませんが……ただ我々も、それこそ噂に聞いたんですよ──《ルバーチェ商会》が《切り裂き魔》を雇ったとね」

 

「っ……!?」

 

「ルバーチェ商会が《切り裂き魔》を……!?」

 

 ツァオからの言葉に俺は言葉もなく驚愕してしまう。

 それが一体どういう意味なのか。ツァオは親切なほどに詳しく教えてくれた。

 

「驚くのも無理はありません。都市伝説の殺人鬼が実在し、しかもかの組織に雇われたなどと聞いてしまっては皆さんのような治安維持を職務とする方々は不安で仕方ないでしょう」

 

「……それは、本当の話なんですか?」

 

「それは分かりかねます。私共が聞いたのはあくまで噂ですから。ただ……それが真実である場合、こちらとしても動きにくいのは確かでしてね。以前にも煮え湯を飲まされたこともある相手……《銀》に匹敵する暗殺者なんて使われてはこちらも警戒しなくてはなりませんし。それこそ暗殺だけでなく諜報や工作……我々《黒月》を潰すために《銀》の名を騙ることだってありえると思いませんか?」

 

「!」

 

「それは……」

 

「おいおい……」

 

 ツァオが言いたいことを俺たちは理解する。つまり、ルバーチェが《切り裂き魔》を雇ったことが事実ならば、それを使って抗争を有利に進めようとする。暗殺に諜報に工作……それこそ、今回の件のように《銀》の名を出すこともありえると。

 

「ふふ、これが一体どういう意味を孕むのか……その調査は本職であるあなた方に任せます。先ほども言ったように私はあなた方のファンですから。なかなか興味深い今回の一件を、あなた方がどのように解決してくれるか……いちファンとして楽しみにさせて頂きますよ」

 

 ──ツァオはそう締めくくると部下に命じて俺たちを丁重に外まで見送った。

 

 そうして俺たちは話し合って聞いた話を整理していたが……そこで一課のダドリー捜査官に声を掛けられ、離れた場所で情報を寄越すように言われて俺たちは仕方なくそれを共有した。

 

 ──そして後は一課が捜査を引き継ぐとそう言われてしまった。

 

「どうやら状況を判断する限り《銀》が実在するのは確かだろう。《切り裂き魔》についても《ルバーチェ》に雇われたかどうかはともかく、同じく実在することだけは確かだ。《黒月》や《ルバーチェ》の動向にも気を配りつつ姿無き暗殺者の手からイリア・プラティアを守りきる……そんな真似がお前たちにできるのか?」

 

「くっ……」

 

「……人手がなければ難しいかもしれませんね」

 

 そう言われれば言い返す言葉もなく、俺たちはアルカンシェルへ、相談を持ちかけてきたリーシャに報告しに行くことにした。

 

 ──それからは……また色々なことがあった。

 

 エリィの祖父でありクロスベル自治州の共同代表を務めるヘンリー・マクダエル市長やその秘書でエリィの家庭教師も務めていたアーネスト・ライズさんと出会い……夜になってエリィからの相談を受けて……改めて腹を括って動き出すことにした俺たち特務支援課の元に《銀》からの支援要請が届いたりもした。

 その端末を辿ってIBCの本社を訪れ、総裁のディーター・クロイスさんやその娘でエリィの友達であるマリアベル・クロイスさんとも出会い、彼女に案内されてメイン端末を調べることになり、その分野に強いティオのおかげでハッカーの正体を……ジオフロントにある端末を使って特務支援課の端末に代理で要請を送った張本人であるヨナ・セイクリッドを突き止めた。そして彼から渡された新たな《銀》からのメッセージ……ウルスラ間道の途中にある《星の塔》へと俺たちは警備隊のノエルと共に向かい──そこで遂に《銀》と対面した。

 

 彼は俺たちを試すと告げ、その伝説の凶手に相応しい実力で俺たちに襲いかかってきたが……それを辛くも退け、それが“分け身”であることが分かってその強さに驚くも、俺たちは《銀》から直接、脅迫状を出したのは自分ではないという証言をもらった。

 

 ……それと《切り裂き魔》についても。

 

「……それともう1つ聞きたいことがある。《切り裂き魔》について何か知っていることはないか?」

 

「……《切り裂き魔》か……悪いが奴について大した情報は持っていない。《ルバーチェ》が奴を雇ったという噂の真偽も含めてな」

 

「こっちはあんたが《切り裂き魔》と同一人物である可能性もあると踏んでいるんだが……そうではないと?」

 

「……それはありえないな。この《銀》と《切り裂き魔》は別人だ。だが1つ言えることがあるとすれば……奴は私以上に危険な相手ということだ」

 

「……ということは実際に会ったことが?」

 

「フ……さてな。だが注意した方がいいだろう。もし奴が本当にこのクロスベルの地に来ているのなら、血が流れることは避けられないだろうからな」

 

 ──と、《銀》はそう言っていた。そしてここまで辿り着いた俺たちに《銀》を騙る何者かの勝手を許さないようアルカンシェルの本公演初日とプレ公演の警戒と対処を頼み、俺たちの前から消えていった。

 

 クロスベルで暗躍する暗殺者の頼みを引き受けるのは癪だったが、警備を行い事態を未然に防ぐことは俺たちにとっても望むところ。

《切り裂き魔》についての情報が集まらなかったことだけは気がかりだが、その警戒も含めて俺たちはアルカンシェルの関係者に連絡してプレ公演の段取りを詰めていった。

 

 ──そして後日。俺とエリィは劇場内で警戒に当たり、ランディとティオは劇場外で待機しておく。

 招待された関係者が続々とアルカンシェルに集まる中……俺たちは巡回警備を行い、そしてプレ公演が始まった。

 だがそんな中、クロスベルタイムズの記者であり顔見知りでもあるグレイスさんを発見し、俺とエリィはそこで市長秘書であるアーネストさんの黒い話を耳にした。

 そしてもしこの状況で市長に何かあれば、目撃者さえ作らなければ犯人は別のヤツに偽装することができる。

 そのことに気付いて俺とエリィは走り出した。そして貴賓席に突入すれば──そこには倒れている警備の警察官とマクダエル市長。そして今まさに刃を突き立てようとしていた秘書のアーネストがいて。

 俺は直ぐに刃を弾き飛ばしたが、彼を取り押さえることはできずに市長を人質に取られてしまった。そこで彼はこの事態を全て計画していたことを口にし、その上で異常な速さでその場から逃げだした。

 一時は逃走を許してしまうかと思ったが……外で控えていたランディやティオ。そしてツァイトのおかげで彼を捕まえることができた。

 

 ──マクダエル市長暗殺未遂事件は翌日のクロスベルタイムズに一面で掲載され、市民に衝撃を与えた。

 

 結局アーネストと繋がっていた帝国派議員の名前は上がることなく、マクダエル市長とエリィのこともあって素直には喜べなかったが、俺たちは事件を解決することができた。

 

 ──だが次の日になって戻ってきたエリィと共に朝食を取っている最中のこと。俺たちはセルゲイ課長から耳を疑う言葉を聞いた。

 

「課長。何かあったんですか?」

 

「ああ……殺人事件だ。──被害者はルバーチェ商会の構成員十数名とクロスベル自治州議会の議員の1人……それも帝国派と目されている人物だ

 

「えっ……!?」

 

 ──そこで俺たちは初めて……《切り裂き魔(ザ・リッパー)》の恐ろしさを知ることになった。

 

 

 

 

 

 ──どーも《切り裂き魔(ザ・リッパー)》アーヤ・サイードです。最近は帝国とクロスベルによく行くし新章みたいなもんだから帝国風衣装を仕立てて着ることにしてる。黒とワインレッドの貴族風舞台衣装みたいな感じでね。フォーマルな場でも着れるような中性的な衣装だ。丈が短いホットパンツに分類されるパンツで素足をしっかり見せているから少しはしたなく見えるが、これは魅せるための衣装なのだから問題ない。貴族の着る燕尾服も参考にして上着の裾を伸ばすのも良い感じだし、今回はシルクハットも含めて仕立てたのでより舞台衣装っぽく仕上がってる。髪を切ったのも正解だね。ロングよりも短めの方がちょっとかっこいい感じで似合ってるし。手袋にシューズも当然こだわってるし、これに懐中時計やステッキなんかもあればより完成度は高まる。これで帝国の大都市を歩けばそれだけで様になるというか、主役気分を味わえる! ただの一人歩きが舞台劇みたいになるのが最高だね! そういう演出が大事。自分の人生の主役は自分。つまり自分の中では自分が最も貴い人物なのだ。誰だって心持ちは貴族になれる。そういう堂々とした綺羅びやかさをテーマにして仕立ててみました。

 

 ってことでね。今日は何をするかと言うと……暗殺しようと思います。はぁ、気が乗らないなぁ。でもしょうがないよね。もう決まっちゃったことだし。

 

 ただこれには事情というか理由がある。あのハゲオヤジ……ルバーチェ商会の会長がね。私の名前を勝手に使って何かを画策してたんだよね。まあどうせ《黒月》との抗争のためとかくだらないことだと思うけど。やっぱり教団と繋がってるような人間はクズしかいないんだなー。それならしょうがないよねとデュバリィちゃんからその話を耳にした私はあのハゲオヤジをちょん切ろうと決意したわけだ。

 

 だけど殺すと決めたからといってすぐに衝動的に殺しに行くわけじゃない。それはよくない。人間は理性ある生き物。そして私たちは文明人なんだから。感情的にかっとなってやるのはよくない。だからとりあえず私は関係各所にお伺いを立てることにした。導力通信でね。まずはマリアベルから──あ、今大丈夫? ちょっとマルコーニ殺したいんだけどいいかな? って事情を一通り話しながらね。

 そしたらマリアベルは少し考えた上で私に“No”を突きつけた。なんでかって聞いたら、別にあのハゲオヤジのことはどうでもいいけどルバーチェ商会にはまだ潰れてもらっては困るし《黒の競売会(シュバルツオークション)》はきちんと開催してもらわないといけないからそれまでは待ってほしいって言われたんで私は「はえ~」ってなった。そういえばそんなイベントもあったねって。

 

 まあ説明すると《黒の競売会》っての盗品やら横流し品とか曰く付きの品とかをオークション形式で売り捌く裏の社交パーティみたいなもので毎年クロスベル創立記念祭の最中にハルトマン議長邸でハルトマンとルバーチェ商会の主催で行われている。まあクロスベルの闇が詰まってる催しだね。帝国や共和国から流れてきた賄賂品を安全に捌いたりすることもできるから両国からも黙認されてる。おかげで警察も手出しできない。そもそも主催者がクロスベルの共同代表の1人だし。あのロリコンも出世したなぁ。昔は小物だったから後回しというか、別にやらなくてもいっかって思ってたけど今は立派な悪徳政治家だ。これはギルティ。いずれやるけど今はマルコーニと同じ理由で捨て置いておかないといけない。マリアベルとかイアンとかいう太っちょ弁護士やらアリオスやら黒幕側の意向でね。というのもこの《黒の競売会》であのヨアヒムから奪ったホムンクルスのキーアちゃんをローゼンベルク人形の入った鞄に入れ替えてそれを合法的に保護するために一芝居打つのにあの黒の競売会の舞台が必要なのだ。そうしてキーアちゃんを保護したマリアベルは《零の至宝》を誕生させるために色々するんだろうね。

 

 ──ま、結局はロイドくんたちに保護されちゃうんだけどね! そしてそれでヨシとしたのかキーアちゃんは以後特務支援課に預けられることになるんだけど……まあそういうことでとにかく黒の競売会は開かれないといけない。なので今はまだマルコーニやらハルトマンを殺すわけにはいかないのだ。殺しちゃうと今年は行いませんってなるかもしれないからね。特に後者は無理。なので今はまだ諦めるしかない。

 

 それにまあ、私としてもバレたくはないからね。何か騒ぎの時にどさくさに紛れてやった方が楽だし、しょうがないから私ももう少し待ってあげようと思う。残念だけどね。なので私は仕方なく納得して電話を切ろうとしたんだけど、マリアベルからは「でも少しちょっかいをかけるくらいは構いませんわ」って言われて、どういうこと? って聞き返したらマルコーニは消すわけにはいかないけどガルシア・ロッシは味方に出来そうにもない上に戦力としては大きい扱いにくい相手ってことで消しても構わないし、構成員はどうなろうと構わないらしい。だから納得いかないからそっちを殺してくれてもいいってマリアベルは言ってた。

 

 ただそれを聞いて「はい、そうですか」とはならない。いや、私のことを快楽殺人鬼か何かと勘違いしてない? そりゃ確かに暗殺者だけどさぁ……別に誰彼構わず殺したいってわけじゃないし……しかもガルシア・ロッシとかあの熊さんでしょ? 殺すの難しそうだし怖いし戦いたくないから嫌だ。それに構成員も……まあ別にやってもいいんだけどね。マルコーニにわからせるためにはある程度は仕返しする必要もあるっちゃあるし……ただ別に積極的に殺りたいわけじゃないからなぁ……どうしようかって悩んだんだけどね。なら情報提供の1つとして教団の隠蔽を手伝ってたハルトマンのお仲間の議員のことを教えてもらったんで──あ、それなら大歓迎。じゃあそれでいいやって納得して私はマリアベルとの通信を切った。

 

 そして次は帝国側に連絡することにした。相手は当然鉄血宰相。帝国派議員を殺すなら一応帝国側にも連絡しておこうと思って。そしたら向こうも別に構わないって言ってたのでじゃあやろうってことで決行することに。

 

 ただその前に衣装の納品をしないといけないのでアルカンシェルに向かったところそこでロイドたち──特務支援課に遂に出会った! そのイカれたメンバーを紹介するぜ! メインの主人公にして唯一の捜査官資格持ち! 根性と推理力と甘いマスクでどんな壁も乗り越えるぜ! あのガイ・バニングスの弟! トンファー使いのロイド・バニングス! 政治家を志す清楚でスタイルの良いお嬢様! マクダエル市長の孫でマリアベルの友人! ある意味で唯一の普通の人! エリィ・マクダエル! 教団被害者仲間の天才ロリ! エイオンシステム起動! チートすぎる! ティオ・プラトー! 元《赤い星座》で《闘神の息子》! ベルゼルガーは封印してもまあまあ強いぞ! 軽薄そうだけど頼れる兄貴! ランディ・オルランド! ──以上! この4人が特務支援課の初期メンバーだ! 

 

 そしてちょっとだけ会話した。既に知り合いになっていたリーシャ・マオちゃん──ああ、この子は《銀》ね。伝説の凶手の。いやー遂に会ってしまった。正直バレないか心配ではあるけど気付いてる感じはしないし多分大丈夫だと思う。ってことでファッションデザイナーとして登場を果たした私は関わりを持ちながらも少しだけ今は距離を置いた。まあ表も裏も忙しいからね。アルカンシェルのプレ公演の日も普通に見てたけど関わらなかった。というか舞台がすごくて途中から忘れてた。私の衣装が映えてる! イリアさんもリーシャちゃんも他の人もすごい! ふっふー! って感じでね。因みにデュバリィちゃんも一緒にいた。なのでその日は普通に劇を見て盛り上がって帰った。

 

 ──で、決行したのは次の日。深夜にその議員のそれなりにおっきい屋敷に忍び込んでさくっとね。久し振りにの暗殺だから慎重にやろうと思って行ったんだけど、そしたらそこでその議員がどんちゃん騒ぎしててさ。なんかルバーチェ商会の構成員が接待かなんかで女の子を呼んでやることやってたんで……あー、どうしよう。面倒くさいなぁ……関係ない女の子は別に眠らせて逃がせばいいだけだけど構成員が邪魔だし……やるなら皆殺しにしないといけないしどうしよう……別にやってもいいけど……。

 

 ……でも面倒だし今日はやめとこっかなぁ……やるのは後日でもいいし……帰りに屋台のラーメンでも食べてから帰ろうかなぁ……と、そう思ったところで。

 

「──僕も手伝おっか?」

 

「うーん、でも人が多いからやるなら皆殺しにしないとだからねー。女の子は逃がしたいし……目撃されたくないし……」

 

「それなら僕も手伝えば上手くいくんじゃないかな」

 

「まあそうだねー。それならやっても……………………」

 

「ん? どうしたの、姉さん」

 

 屋根の上で黄昏れてた私に普通に話しかけてきた聞き覚えのあるミント色の髪の少年。その姿に、私は思考が少し固まって──しかし、いつも通り普通に応対した。

 

「……なんでいるの? ──メルキオル

 

「いや、ちょっとね。仕事でクロスベルに来てたんだけどそしたらアーヤ姉さんが《ルバーチェ商会》っていうマフィアに雇われてるって噂を聞いちゃってね。本当かなって調べたら名前を勝手に使ってるだけで別にそんなことはないみたいだったからさぁ。そんな舐めた真似するなんて許せないし、とりあえず皆殺しにしようかって考えてたんだけど一応姉さんに知らせに行こうかなと思ったらちょうど姉さんが変装して出てきたところだから追いかけてきたんだよ。多分殺すんだろうなぁって思ってさ♪ 手伝えるならそれはそれで嬉しいから手伝ってもいい? 相手はここにいる男全員でいいんだよね? それともあのマルコーニとかいう豚から殺す? それともあのガルシアとかいう元《西風》の若頭かな? フフ、久し振りに姉さんの殺しっぷりを見れるなんて楽しみだなぁ♥ で、誰殺すの? アーヤ姉さんに喧嘩を売ったってことは僕ら《庭園》に喧嘩を売ったってことだし、徹底的にやっちゃう? というかやらないと舐められちゃうしやるしかないよねぇ……!」

 

「──アッウン。ソウダネ」

 

 私はそこで思考を止めた。そして放っといてもメルキオルが民間人すら巻き込んで全員殺しかねないことを危惧して、とりあえず今は私はここにいる面々だけを殺して手打ちにすることにした。マルコーニやらは後で私が直接殺したいから手を出さないでねって言い聞かせた上で、2人で屋敷に忍び込んで女の子を薬で眠らせてから外に運び出してから1人ずつやった。そしてやり終わって血まみれになったメルキオルと一緒にバレないように後始末を行い、帰りに一緒にラーメンを食べた。そして食べ終わり、笑顔で別れる瞬間──私は内心で叫んだ。

 

 ──うわあああああああああああん!! メルキオルがクロスベルに来ちゃった──!! 最悪の犯罪者──!! 部下がサイコすぎる──!! 頼むから帰ってえええええ!! 特務支援課が死んじゃうよおおおおおお!!! うわああああああああん!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ僕は仕事があるから共和国に一旦帰るね」

 

「あ、それならいいよ。お疲れ様ー」

 

 ──と思ったけどなんか帰った。それならいいや! ヨシ!




ということで今回はここまで。持つべきものは頼れる仲間だよね。ちなみに別の世界線ではメルキオルが大暴れしてルバーチェ壊滅させてキーアちゃんの特務支援課救出ルート崩壊してます。
ってことで次回は創立記念祭と黒の競売会。出来ればレースさせたい。《ルバーチェ商会》VS《黒月》VS《庭園》ファイッ! ということでお楽しみに。

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