TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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創立記念祭での不幸

 ──あの人……アーヤさんはイリアさんに少し似ています。

 

 仕事に対する姿勢と言うか、舞台を良くすることにどこまでも情熱的で輝きを見せるイリアさんに、衣装に対してすごくこだわりがあって、天才的なデザインの衣装を仕立ててみせるアーヤさん。2人の馬が合うのも納得で、イリアさんがアーヤさんのデザインを気に入って急遽衣装を仕立ててもらうよう依頼したのも仕方がないなと思いました。サイードというブランドのことは私も耳にしていましたし、評判も良いですし。私も良いと思います。着心地も良いですし、デザインも素敵なものですから。

 

 なのでアーヤさんに対する不安はあまりありませんが……ここ最近は裏の方で色々と厄介なことになっています。

 

 イリアさんに届いた脅迫状の件。私の裏の顔──《銀》の名を騙った件もありましたし、《切り裂き魔》という暗殺者がルバーチェ商会に雇われたという噂も聞きました。

 かつて私の父の仕事を失敗させた、色んな意味で厄介な暗殺者……その人物が本当にルバーチェ商会に雇われたかどうかはわかりませんが、どちらにせよ私が《黒月》に雇われている以上は警戒しないといけない。そもそも《切り裂き魔》がいなくてもガルシア・ロッシという元猟兵の若頭は手強いと見ています。決して油断できる相手ではないと。

 

 ただ《銀》を騙った相手……市長秘書のアーネスト・ライズの件は特務支援課が解決してくれて……それは良かったです。おかげで公演も無事に成功しました。

 ルバーチェ商会の方もしばらくは戦力を増やすことに集中していて、それに《黒の競売会》が控えているからそれまでは事を起こすことはないだろうとツァオさんも言っていました。

 なのでしばらくは公演に集中することが出来そうです。

 

 ──そう思ってすぐ……殺人事件が起こりました。

 

 被害者はルバーチェ商会の組員とそれと繋がっていると思われる帝国派議員。場所はその議員の邸宅だったそうです。それもツァオさんから、クロスベルタイムズにも載っていましたが、詳しく教えてもらいました。犯人の候補に《黒月》が。正確には──《銀》が上がっていることも

 

 被害者がルバーチェ商会の組員と帝国派議員であることや、その場にいた関係のない女性が東方由来の眠り薬によって眠らされていたこと。現場の状況を見るに恐ろしく手慣れていることや証拠がないこともあって、伝説の凶手である《銀》やその《銀》を雇っている対抗組織である《黒月》の仕業ではないかと思われ、翌日には《黒月》に取り調べの捜査官たちがやってきたとツァオさんが言っていました。もちろん私はやっていませんし、証拠もないので捕まることはありませんが……疑われてしまったことは、しょうがありませんが、少し気になります。

 ツァオさんは《切り裂き魔》の名前を使ったルバーチェ商会に対する《切り裂き魔》からの報復の可能性があると言っていましたが、同時にそれだけでは説明がつかないこともあるとして犯人は分からないとも言っていました。そして、私が疑われることも無理ないことだと。

 ……私は特務支援課の方々や警備隊に姿を晒してしまいました。つまり、実在することを知られてしまっています。このクロスベルに滞在していることも。《黒月》に雇われていることも。

 対して《切り裂き魔》はまだ警察からは実在が疑われている上に、そもそもこのクロスベルにいるかどうかも分からない。ルバーチェ商会に本当に雇われているとすればその組員や繋がりのある議員を殺す意味もないですし、それがルバーチェの虚言だったとしても《切り裂き魔》の犯行だと断定できるものはありません。私自身、本当に《切り裂き魔》がやったかどうかわかりませんし……わかるのは少なくとも《切り裂き魔》がルバーチェ商会に雇われていないということだけで。

 だから《銀》が疑われるのも仕方のないことなのだとツァオさんは言っていました。中には《切り裂き魔》の逸話を知る記者が《銀》と同一人物なのではないかという話も出る始末で、少しだけ頭が痛いです……。

 

 ……でもそれは裏稼業を続ける上で仕方のないことでもあります。一応私としても個人的に調べてみましたが、結局痕跡は見つかりませんでした。かつて《切り裂き魔》と思われる相手の姿を見た父の話では中東人という話でしたが……それだけじゃさすがに分かりませんし……。

 

 中東人と言えば一応私の近くにも1人いますけど──

 

「──リーシャちゃんおっぱい! 間違えた! おっぱいのサイズまたちょっと大きくなってるでしょ!? 衣装の美しさが損なわれるからもう一度ちゃんと測らせてもらうね! なんなら下着も作ってあげよっか!?」

 

「あらそうなの? ならあたしも手伝うわよ」

 

「ダメ! 衣装を仕立てる上でリーシャちゃんの身体のサイズはちゃんと把握しておかないといけないんだから! おっぱいは私が触──測るの!」

 

「リーシャはあたしの後輩であたしと一緒に舞台の上で踊るんだから! リーシャのおっぱいはあたしもしっかりと把握しておかないといけないのよ!」

 

「ダメ! おっぱいは私の!」

 

「あたしのよ!」

 

 ──ど、どっちのものでもありませんけど……!? 

 

 私はアーヤさんとイリアさんの喧嘩を止めながら思った──中東人ではありますけど、こんな抜けた人が《切り裂き魔》な筈がありませんよね……と。

 

 

 

 

 

 ──いらっしゃいませー。サイード社社長のアーヤ・サイードです。最近ファッションデザイナー業だけじゃなくて何か他のこともしようかと考え中です。たとえば服屋と飲食店を合体させたアパレルカフェとかね。服を見ながらお茶やらコーヒーやら軽食を楽しめるお店とかウケそうだよね。後はシンプルに飲食店もありだし、導力ネットが発展することを見越してゲーム開発とかもしようかと考え中。横スクロールのアクションゲームとか格闘ゲームとか。音ゲーとかもいけそうだしね。ポムっとが作れるならそういうのもいけるでしょ。時代が急激に進みすぎて出てきてないだけで多分そういう波は絶対来るだろうしね! 後はメタ的に原作で出せないだけで絶対あるはず! 私も純粋に遊びたいしね! でも制作にそこそこ時間はかかるだろうから先にできそうなのはカフェとかの飲食店かなー。あ、ラーメン屋でもいい。屋台で試しに売ってみようかな? 学生の時に学藝祭でちょっとやったことあるからいけそうだし! 

 

 とまあ色々考えてるんだけど、それも今が祭りの最中だからね。クロスベル創立記念祭っていう自治州が成立した70年の節目のお祭りで今日から5日間に渡って開催される。なので観光客も沢山やってくるし、自治州民もお祭りってことでかなり盛り上がってる。そんな感じだから私のお店も結構客が来てるみたいだし、他のお店もいつもより繁盛してるのは確実だ。そんな状況だから私としてもビジネスチャンスが思い浮かんじゃうんだよね。私って敏腕若手女社長だからなー。経営のこととかあんまり分かんないし丸投げしてるけどやり手のビジネスウーマンだからねー。そのうち取材とか来たらどうしよう。困っちゃうなー。ふっふっふ。

 

 たださすがに今から新しいお店を開店するとか間に合わないんで創立記念祭はデュバリィちゃんと一緒に見て回ることにした。デュバリィちゃんは「呑気なものですわね」とお祭り騒ぎをしている自治州の人達を見て若干皮肉めいたことを言ってたけどお祭りなんだからそれは言いっこなしだよ! マクダエル市長、エリィちゃんのお祖父ちゃんも言ってたけどお祭りの時くらい何も考えずに楽しんだほうが得だしね! 一応お店の方でちょっとしたイベントもやってたりするけど私はいなくてもいいみたいなんでたまに様子を見に行くくらいでいいだろう。後はミシュラムワンダーランドに行く予定もあるし、《黒の競売会》の招待状もちゃんとゲットしたからデュバリィちゃんと遊びに行く予定だ。デュバリィちゃんにみっしぃヘアバンドとか付けてあげよう。ホテルもちゃんと取ってあるし問題なし! ってことで湾港区で2人で歩いてお店でも行こうかなーとか思ってたら──

 

「──おい」

 

「ん? ──あっ」

 

「? 何ですの?」

 

 ──なんか見知った顔の不良に声を掛けられた。ガタイの良い噛ませ犬っぽい不良が私たちに気づき、めちゃくちゃ顔がかっこいい甘いマスクのイケメンホストの不良がそれを見て同じく私たちに目を向けてくる。

 

「知り合いかい? ヴァルド」

 

「てめえには関係ねえよ。おい、てめえら……俺のことを忘れたとは言わせねえ……あの時の借り……返させてもらうぜ……!」

 

「……? 何やらよくわかりませんが……もしかして貴方の知り合いですの?」

 

「いやほら、お酒飲んだ時に絡まれたじゃん。チーム《サーバルキャット》のサーヴァルちゃんだよ」

 

「違えよ! 誰がそんな変な猫みてえな名前付けるか! 《サーベルバイパー》のヘッドのヴァルド様だ!」

 

「どっちでもあんまり変わらないじゃん」

 

「変わるだろうが!! 舐めてんのか!?」

 

「……そういえばそんな記憶が薄っすらとあるような気もしますが……まあいいですわ。それで、その不良がわたくしたちに何の用ですか?」

 

「決まってんだろ……あの時の借りを返させてもらうんだよ!!」

 

 そう言ってサーヴァルくんはその手に持った鎖を巻いた木刀を地面にガンって叩いて威嚇してくる。すごーい! サーヴァルドくんはどこでも喧嘩を売ってくるフレンズなんだね! 

 

「事情がよくわからないけど……もしかしてヴァルド。そのお姉さんたちに負けてしまったのかい?」

 

「っ……うるせえ。あの時は油断してただけだ。今度は本気でやってやる。──いいな、てめえら!?」

 

「うーっす!!」

 

「……ふん。井の中の蛙……とはまさにこのことですわね。正直あなたたちみたいな不良、相手にする価値もありませんが……それでも挑んでくるというのなら容赦はしませんわよ?」

 

「ハッ、舐めんじゃねえよ! 女だろうがお前らみたいな強い奴をぶっ潰すのが俺の楽しみでなぁ……! 上等だぜ……!」

 

「やめときなよ、ヴァルド。その2人、君の言う通りかなり強そうな気がするしさ」

 

「いやいや、私たちなんて全然強くないし、せっかくのお祭りなんだしやめない? ほら、チュール奢ってあげるから許してよ。ね?」

 

「いつまで猫扱いしてやがるんだてめえは!!」

 

「ものすごい煽りだね……」

 

 あれ? なんかすごいやる気になってる? おかしいなぁ。デュバリィちゃんの威嚇と私の優しい言葉に引き下がらないなんて……好戦的だなぁ。とはいえこのサーヴァルドくんはともかく、隣のワジくんは実は《聖杯騎士団》の守護騎士第九位だし……おまけにもう1人の禿頭は名前忘れたけど正騎士だし……あんまりやり合いたくないんだよね。まあそもそも本気でやるつもりないけどさ。デュバリィちゃんもこう言ってるけど全然本気ではない。それこそ威嚇しただけだ。実際殴りかかられても指一本触れることも出来ないだろうし、その気になれば逃げることも余裕だし。まあただ逃げる理由もないからそこはちょっと困るよね。どうしよっかなぁ……。

 

 まあでも軽く格の違いを見せるくらいなら問題ないのかな? ひたすら攻撃を避け続ければそのうち諦めたりするんじゃないだろうか。もしくはもう1回股間に一発食らわせてから帰ろうかな。喧嘩は良くないけどこっちは可愛くか弱い女の子2人。襲いかかられたらそれくらい正当防衛だよねってもしお巡りさんが来てもそう説明しよう! ということで──

 

「──ちょっとちょっと! あなたたち、何してるのよ?」

 

「あん……?」

 

「……へえ……?」

 

「──あっ」

 

「! あなたたちは……!?」

 

 ──あっ、やべっ。エステルちゃんとヨシュアくんだ。別に会ってもいいけど気まずい。それにヨシュアくんの方はデュバリィちゃんのこと知ってるし……なんか聞かれたらやっぱり気まずい。

 

「……まさかこんなところで会うことになるなんてね……それにまさか貴方までいるなんてね──デュバリィさん」

 

「……それはこちらの台詞ですわ。久し振りですわね、ヨシュア」

 

「──あ、アーヤ!? それにそっちの人は一体……?」

 

「──え、アーヤ? 誰それ。人違いじゃない?」

 

「え?」

 

 ってことで私はサングラスをかけることにした。そして2人に向けて私は言う。……エステルちゃんの方はともかく、ヨシュアくんの方はなんかまた変なこと言いだしたって感じで呆れてる気がするけど、今の私はアーヤじゃない。そう、私の名前は──

 

「私の名前は……えーっと……そう! 《喘息》のアヤリィ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「……………………」

 

「あ……貴方何を言っていますの!? 何ですのその戯けた名前は!?」

 

「な、何って初めましての人に挨拶してるだけだよ。何もおかしいことはないでしょ、()()()()()()()()()()

 

「誰が姉ですか!! 貴方、名乗りたくないからって適当すぎじゃありませんこと!?」

 

「て、適当じゃないよ。私は《減速》のアヤリィ。デュバリィちゃんの妹だよ」

 

「さっきと言ってる渾名が違うじゃありませんの!!?」

 

「……えーっと……」

 

「ど、どうしよっかヨシュア」

 

「デュバリィにアヤリィ……覚えたぜ、てめえらの名前……!」

 

「いや、どう考えても後者は偽名だと思うけど……」

 

「……何をしているんだ……?」

 

 ──ふー。これで何とか誤魔化せたかな。ということで私はアヤリィです。そこのエステルちゃんやヨシュアくんとも知り合いじゃないし、サーヴァルドくんやワジくんとも初対面。遠くでなんか様子を見てるっぽいロイドくんたちとも知り合いじゃないよ! 

 

 

 

 

 

 ──通報を受けて湾港区に行くとそこには()()()()()この間会ったファッションデザイナーのアーヤ・サイードとその連れの女。それに遊撃士のエステルとヨシュアに旧市街の不良チームの2つが騒ぎを起こしていた。

 

 そのアーヤちゃんは何故かサングラスをかけてアヤリィとか名乗っちゃいたが……話を聞く限り、どうやらエステルやヨシュアと知り合いでそれを誤魔化すためにその場しのぎで誤魔化したんだろう。それにしちゃお粗末すぎねぇか……? とツッコミたくなったが、それはともかく俺たちの仕事は喧嘩を止めることだ。

 

「──ま、待った! 話は聞かせてもらったが、少し落ち着いてくれ!」

 

「ハッ、これが落ち着いていられるかよ! 俺をゾクゾクさせてくれるこいつらをぶっ潰さなきゃ俺は気がすまねえんだ!」

 

「助けてお巡りさん! 不良に襲われてます! アヤリィです! この人達とは何の関係もありません! 

 

「えっと……とりあえず、ここは公共の場所だ。タイマン勝負にしてもスジを通すにしても他の場所でやってくれ。──アーヤさんも嫌がってるようだし」

 

「アヤリィです!」

 

「んー、そうは言ってもねぇ。ここまで盛り上がった以上、ハイ解散ってのもアレじゃない?」

 

「ワジ……!?」

 

「ヴァルドは頭に血が上ってるしお姉さんたちもお仕事で来ている。そこのアーヤさんとデュバリィさんにしても両者に因縁があるみたいだし」

 

「アヤリィです! 因縁なんて何もないよ!」

 

「お互い勝負するくらいしかスジは通せないんじゃないかな?」

 

「クク、その通りだぜ……!」

 

「……まあそっちのあなたにはちょっと腹が立ってきてるし、アーヤには聞きたいこともあるからあたしは勝負を受けても構わないわよ?」

 

「アヤリィです! 聞かれても何も答えられません!」

 

「上等だ……!」

 

「アヤリィです! お腹が空いてきたから帰りたい!」

 

「あ、貴方はいつまでその名前を通し続けるつもりですの!?」

 

「ああもう……! ヨシュア! 君も何とか言ってくれよ!」

 

「……ごめん。僕もちょっと退けないかな」

 

「うっ……」

 

「フフ、それじゃあ僕はヴァルドに加勢しようかな。さすがの君も、2人ずつ……4人を相手にするのは厳しいだろうし」

 

「ケッ……勝手にしろや」

 

「私はアヤリィです!」

 

「だあああ~っ! だから何でそうなるんだって!」

 

 ──ああ、うん。ロイドが叫びたくなる気持ちも分かるぜ。不良共は全く退く気がなさそうだし、エステルとヨシュアにしても喧嘩を売ってきた不良たちに少し苛立ちを募らせて、アーヤちゃんに連れのデュバリィちゃんって娘にも何か聞きたいことがありそうだ。

 

 ……それに俺も、最初に会った時は気の所為かとも思ったが、もしかしたら昔会った《結社》とかいう謎の組織──結局親父や伯父貴からは詳しいことは教えてもらえなかったが、少なくとも表の稼業じゃない裏の人間……アーヤちゃんはそれかもしれねえしな。態々ほじくり返そうとは思わねぇが……その疑念を確かめるって意味でもだ。

 

「そんなにやり合いたいんなら別の方法でやればいいんじゃね?」

 

 と、俺は提案することにした。

 

 ──そして俺は勝負の方法を説明しながら旧市街まで向かった。

 

 

 

 

 

 ──どうも! デュバリィちゃんの妹! 鉄機隊の《喘息》のアヤリィです! なんか巻き込まれました! 今は旧市街にいます! ランディ兄貴の提案で! 

 

「フフ……なるほどね。旧市街の地形を利用した追いかけっこか……なかなか楽しめそうじゃない?」

 

「ハッ、いいじゃねえか! 妨害アリ、何でもアリのケンカレースってわけだな!?」

 

「スピード、パワー、テクニック、それに駆け引き……一通りが必要になるわけですね」

 

「へえ~、面白そうかも!」

 

「確かに面白そうだね! アヤリィです!」

 

「ハハ、だろ?」

 

「だろって……ランディ、あのなぁ」

 

「結局、周りの人たちに迷惑をかけるんじゃないかしら?」

 

「まあ、その割には皆さん見物に集まってますけど」

 

「ま、いいんじゃない? なんかお祭りっぽくてさ。それで……本当に君たちも参加するワケ?」

 

 とまあそんな感じでね。なぜか4組でチェイスバトルをやることになったわけだけど……いや、ワジくんの言う通り特務支援課は参加する必要ないし、私たちはもっと参加する必要ないよね! まあいいけど! 確かにちょっと面白そうだし! 

 

「まったく……なぜわたくしたちがこんなことを……」

 

「……えっと……デュバリィさん、だっけ。あなたはその……」

 

「……エステル。その話はここでは……」

 

 ただデュバリィちゃんは呆れてるというか、あんまり乗り気じゃないし、エステルちゃんとヨシュアくんは私達のことが気になっている様子だ。

 だけどデュバリィちゃん、ここまでなんか来たんだよね。勝負の説明を聞いて思うところがあったのだろう。どういう理由か、デュバリィちゃんはそうして声をかけてきた2人に対して向き直ると。

 

「……言いたいことはわかりますわ。ただ、わたくしたちは貴方からの質問に答える義理はありませんし、ヨシュア。貴方も同じです。──意味は分かりますわね?」

 

「っ……やっぱり……」

 

「それは……」

 

 あえて言葉を濁すのは事情を知らない人も多数いるからね。民間人もいっぱいだし。多分エステルちゃんはデュバリィちゃんが結社の一員であることを察したんだろう。私と一緒にいるわけだし。それに何の目的でいるのかも2人は聞きたいに違いない。特に私には色々と聞きたいことがあるだろうし……ただそれは聞かれても答えられないというか答えたくないんだよねぇ。

 

「まあそういうことだね! そもそも私はアヤリィだけど!」

 

「……この勝負に関しても正直受ける義理はまったくありませんし、あの不良だけなら早々に撒くことも考えましたが……貴方たちを見て気が変わりましたわ」

 

 え、そうなの? デュバリィちゃん、エステルちゃんとヨシュアくんを見て勝負を受ける気になったってどういうこと? って、そう思ったけど理由はすぐに答えてくれた。

 

()()()に関してはわたくしも聞き及んでいます。──()()アーヤに勝利したという貴方たち2人の実力……ここで見極めさせてもらいますわ」

 

「っ……」

 

「……成程。そういうことか」

 

 ──あー……なるほどね。私も言われてわかった。要するに、レーヴェと私に勝利したエステルちゃんとヨシュアくんの実力が気になるんだね。デュバリィちゃんはレーヴェの強さもよく知ってるし、確かに実際に目にしなければ信じられないだろう。ヨシュアくんがレーヴェに勝ったとか言われてもね。デュバリィちゃんは100本中1本しか取れなかったくらいだし。私に関してもまあ……レーヴェほどじゃないにしろ、そこらの遊撃士に負けたって聞いた時はなんか怒ってたからね。なんでデュバリィちゃんが怒るんだろうって言われた時は思ったけどもしかしたらライバル心でもあるのかな? そういうことなら分からなくもない。

 そしてエステルちゃんもデュバリィちゃんのにじみ出る気迫を感じ取っていたし、ヨシュアくんも改めてその意味を理解して顔つきが真剣なものになった。

 

「もし貴方たちが勝つようなことがあれば貴方たちの質問に答えても構いませんわよ」

 

「え? それはちょっと……いいの?」

 

「無論、答えられることに限りますが。ですから精々気張ることですわね。──まあこのルールなら万に一つもないでしょうが」

 

「あっ……それもそうだね。ならいっかぁ」

 

 そしてデュバリィちゃんはもし勝負に勝ったら聞きたい疑問に答えると約束して私はちょっとそれはマズいんじゃ……と思ったけど、デュバリィちゃんに言われて確かに問題ないなって思ったのでその条件を呑むことにする。

 まあなんで問題ないかって言うと、ランディ兄が説明してる通り──今回の勝負は『追いかけっこ』だからだ。

 

 旧市街を3周して1番早くゴールしたチームの勝ちで、毎週3箇所のチェックポイントに衝撃を与えないといけない。チェックポイントは路地の奥にあるし、コースも厳選してるからよほど先行でもしなければ逃げ切りはできない。そして相手の妨害も可能でトラップなんかも設置していいことになってる。

 そしてチームはロイド&ランディの特務支援課チームにエステル&ヨシュアの遊撃士チームにヴァルド&ワジの旧市街チームに私とデュバリィちゃんの観光客(結社)チームで争うことになる。

 

 ──ってことでもうわかったと思うけど、この勝負……私とデュバリィちゃんが負けることはほぼありえない。

 正確にはデュバリィちゃんがね。なんてたってデュバリィちゃんは《神速》。そのスピードだけなら結社でもぶっちぎりで勝てる相手は殆どいないと言ってもいい。強いて言うならヨシュアくんが本気を出せば良い勝負になるかもしれないけど、この勝負はチームでのゴールを目指すものだ。ヨシュアくんが1人で突っ走っても意味ない。なのでエステルちゃんもゴールしないといけないわけだけど、そうなると私とエステルちゃんの足の速さが重要になってくるわけで……まあ、負けないよね。さすがに勝てる。エステルちゃんも更に成長してるとは思うけどね。足の速さには私もデュバリィちゃんとかヨシュアくんほどじゃないけど自信ある。

 

 なのでまあ負けないからいいよね! ってことで楽しもう! 別にこっちは変装してるし、ちょっと動けることが分かっても問題ないだろうし! 

 

「スタート順はどうするんですか?」

 

「コイントスでいいだろ。ロイド、ヴァルド、エステルちゃん、アーヤちゃん。それぞれ1ミラ硬貨を出しな」

 

「アヤリィです!」

 

「……わたくしたちは最後で構いませんわ」

 

「え?」

 

「だが……」

 

「順番は何でも構いませんのでお好きに。わたくしたちは先に作戦会議をさせてもらいますわ」

 

「ってデュバリィお姉ちゃんが言ってるのでそういうことで! ──あ、実況はちゃんとアヤリィでよろしくね! じゃないと会社に直接クレーム入れるから!」

 

 ──ってことで順番決めにすら私たちは参加しない。4チームで最後の順番ともなるとそれなりに差は出るけど、そこもどうにでもなる。なのでデュバリィちゃんに合わせて離れた。得物は短剣でも使おうかな。《ゾルフシャマール》出したら何あれってなるかもしれないし。

 

「で、どうするの? デュバリィちゃん」

 

「別にどうもしませんわ。一応貴方が先行して私が貴方に合わせる形で走りますから。後はゴールまで走り去るだけですし」

 

「ま、それもそうだねー。それじゃそういうことで。何かあったらその時はその時にどうにかしよっか」

 

「ええ。それに注意すべきは《漆黒の牙》とあの遊撃士のチームだけですわ。他は有象無象……どうにでもなるでしょうし」

 

 おっと。デュバリィちゃんはその2人にしか興味ないみたいだね。まあそれもしょうがない。ワジくんはどうせ本気を出さないし、ロイド&ランディチームはまだまだ弱いというか……強いて言うならランディが本気を出したらそこそこ食い下がってくるかなってくらいで。結局どうにでもなるということには変わらない。

 

 ──ってことで順番決めが終わり、位置についてからレース開始だ。よーし、頑張るぞー! 最後にスタートしてぶっちぎってやる! よーい……ドン! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──()()()()()()()頑張れー♥」

 

「──めっ……あびゃー!?」

 

「ちょっ!? 何急に転けて──あたっ!?」

 

「おーっと!? アヤリィ&デュバリィチーム! スタート直後思いっきりすっ転んでしまったー!!?」

 

 ──と、スタートダッシュを決めようとした私は観客の中にいる()()()()()()()()()、それで余所見をした結果転んでしまい、デュバリィちゃんもそれに驚いた結果、何故か足元に転がっていたオレンジを踏んで転んでしまった。

 

「何をやってんだ……?」

 

「大丈夫か……?」

 

「ま、待てー! 周回遅れでこのままじゃ負けちゃうよデュバリィちゃん!」

 

「ぐっ……こ、このわたくしが負けるなど……絶対に許しませんわ!!」

 

 2人してスタート直後に転んでしまい、私とデュバリィちゃんとんでもなく出遅れた上でスタートすることになった……まあそれでも勝つけど! 追込じゃー! 走れ走れー! 




アーヤちゃんの裏の顔に鉄機隊隊士《喘息》のアヤリィが追加されました。
次回はレースの詳細とやっと黒の競売会。ちなみに別ルートだとメルキオルが来ないので圧倒的スタートを切ったことでランディが疑いの色を強くしてなんやかんやあってルートを外れます。間抜けさを見せつけることが重要なんですとは再走者キーアちゃんのお言葉。ちなみにレース参加しないルートは更に終わってます。絆を育まないとね。ということで次回をお楽しみに。

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