──おそようございます。中東辺境出身。元教団被害者のアーヤ・サイードです。遂にヨアヒムをやりました! やったー! いえいいえーい! これで私の悩みのタネが1つ消えたぞー! 平穏な生活に向けて一歩前進だ!
私は内心で大喜びする。人目がなければ万歳してた。それくらい嬉しい。
……でも生憎とロイドくんたちがいるんだよなぁ……なのでそんなに強くは喜べない。引かれたくないからね。人殺して大喜びはよくない。嬉しいけど。なので大人しめにしつつ皆の視線と私がヨアヒムくんをやったことに対して向けられる反応に応じることにする。
「アーヤさん……! やっぱりあなたが……《切り裂き魔》だったんですね!?」
「あーうん。そうだけどその呼び名はあんまり好きじゃないんだよね。それならまだ──結社《身喰らう蛇》の執行者No.ⅩⅢ《血染の裁縫師》アーヤ・サイードの方がマシだからどうせ裏の名前で呼ぶならそっちの方でお願いね」
「《血染の裁縫師》……やっぱ同一人物だったってことかよ……!」
「その節はどうもね。《闘神の息子》……はその呼び名そっちも嫌いなんだっけ? じゃあ普通にランディ兄でいいかな。久し振りー!」
「ランディさん……知り合いだったんですか?」
「いや……ガキの頃にちょっと戦場でかち合ったことがあるだけだ。だがまさか《切り裂き魔》の正体だったとはな」
「それも驚きだけど……アーヤさん。あなたは……」
「そういえばファイル見たんだっけ。まあそうだよ。私もティオちゃんとかレンと同じで昔教団に捕まってたんだ。《楽園》とかヨアヒムのいたロッジとかにね。大体3年半くらいかな」
「っ……だからって……なんで殺したんだ……!?」
「あー……まあそれはほら、ね? しょうがないというか……代わりと言ってはなんだけど知りたいことがあったら私が代わりに教えてあげるよ。大体のことは知ってるからさ。──キーアちゃんの事とか聞いときたいでしょ?」
「! キーアちゃんのことを知っているの……!?」
「まあ一応ね。だから教えてあげるけど──キーアちゃんってえーっと……500歳くらいだっけ。うん、多分それくらいかな。この時代の生まれじゃなくて500年前に生まれてずっとそこで眠ってた子なんだよね」
「なっ……!?」
「な、何を言ってやがる……!?」
「そこで眠ってたなんて……そんなことが……」
おー驚いてる驚いてる。ヨアヒム殺したことあんまり責められたくないし理由とか聞かれても気まずいからキーアちゃんのことを話題に出してみたけど良い食いつきだ。まあヨアヒムをさっさと殺しちゃったせいでキーアちゃんのこととか何も聞き出せないだろうからその役目は私が担おう。せめてもの償いだね。ってことで続けて説明してあげる。
「昔の錬金術師の技術とかを使ったっぽいよ? まあ今は存在しない技術の揺り籠だからそれなら納得できるんじゃないかなって」
「な、なるほど……」
「……明らかに受け売りみたいだけど筋は通っているね」
「そ、それはスルーしてもらえると……情報源聞かれても答えられないからそこんとこもよろしくね!」
ヨシュアくんにツッコまれるけどそこは困るので焦りながらも質問は受け付けませんのポーズ。
「……キーアのことについて教えてくれたことは助かります。だけどあなたがヨアヒムを殺したことでキーアをどうして拐おうとしたのか。各地のロッジで行われていた非道な実験の目的も分からないままになってしまった……!」
「それも知ってるよ? ヨアヒム……というか教団はキーアちゃんを
「なっ……」
「か、神って……どういうことよアーヤ!?」
「いや教団の人達って
まあ私もあんまり信じてないんだけどね。一応不思議ファンタジー世界だからメタ的にいる可能性もあるんじゃないかとは思ってるけど別に信仰心とかはない。ただ考察的には
「だ、だったらなんで……教団の人達はなんであんな酷いことをしたのか……アーヤさんは知っているんですか……?」
「ん、それもまあ……ある程度は知ってるけど……」
ちょっと泣きそうなティオちゃんにそう聞かれて私は迷う。話しすぎても良くないんだよね。教団の目的……って言われてもロッジ毎に方針が違うから一概には言えないし……まあでもヨアヒムの目的だけでいいかな?
「……ま、いいか。ヨアヒムの目的は多分だけど《グノーシス》にしかないよ。あいつ薬物フェチだし。グノーシスをとにかく完成させるために実験を繰り返してたって感じ。子供を使ってた理由は実益と趣味が半々なんじゃない? ──つまり変態だったんだよ」
「っ……」
「そんなことが……」
「……まあよくわかったぜ。確かに、そいつがお前さんが殺したくなったっておかしくない外道だってことはな……」
そして私がそれを教えると特務支援課の面々はショックを受けていた。そりゃ聞くのも嫌だよね。病院の先生に偽装してた奴が変態だったとか……治療と称して変なことしてそうだし……変態過ぎて私も捕まってた時はかなり辟易としていたのを思い出す。
「つまりアーヤ……やっぱり君は昔の恨みをヨアヒムに……いや──生き残っている教団の残党に全てぶつけるつもりなんだね? 全員君の手で直接殺すことで」
「!」
と思い返してたらなんかヨシュアくんがすごいこと言い出した。大体は当たってるけど別にそんな強い言い方しなくてもいいのに。
「恨みって言うと語弊はあるし、別に自分の手で直接ってほどこだわりもないけど一応そうなるかな。教団の人間だけはこの世から全員消すつもりだよ」
「やっぱり……」
「……アーヤさん。あなたが相当な……教団に酷いことをされてきたであろうことは理解できます。だけど……だからといって殺人なんて……!」
「んー……そりゃ他にやり方があればそれでいいんだけどそれ以外に解決方法がなかったからね。──じゃあどうすればよかったと思う?」
「っ……」
…………あれ? なんで黙ってるんだろう。質問したよね? ……え? ひょっとして今私のターン? なんでそんなちょっと怯んでるんだろう……ロイドくんたちなら答えてくれるかと思って軽い気持ちで聞いただけだから何も返ってこないと困るというか戸惑うんだけど……いやまあいいけどさ。じゃあえっと……一応私なりの言い分でも口にしておこう。勘違いされても困るからね。
「ヨアヒムみたいな教団の幹部司祭とか教団の人間って完全にイッちゃってるからさ。殺さないとどうしようもないんだよ。野放しにしてる時間が長ければ長いほど数が増えるし。害虫みたいなもんなんだよね」
「っ……だが……! 捕まえて裁きを受けさせて自分の罪を受け止めさせないと……! そうでないと彼自身も彼が犠牲にした人たちも哀しすぎるじゃないか……!」
「そのために今生きてる人に犠牲になれってこと? 現在進行形でヨアヒムはクロスベル市内でグノーシスを服用した人を操って襲わせてるし、教団の人間は未だにのうのうと生きて人を犠牲にしてたりするけど」
「そうじゃない! 教団の人間が犯罪を犯すなら、それらは取り締まられるべきなんだ……! それにあなたの目的が復讐であっても悪行を止めるためであっても……殺しなんて手段を取ったら、尚更被害を被ることになるじゃないか……!」
…………ん? どういうこと? ……あ、あー……もしかして教団のために殺人を犯すことが、そもそも教団の被害を受けてより苦しむことになるみたいな話かな? まあ確かに。それも教団のせいで犯罪をしてるわけで被害を被ってるとも言えるかもしれない。なるほどね。中々優しい意見だ。警察官だからもっと法律とか道徳的な部分で責めてくるかと思ったけど柔軟だね。意外とちゃんと私のことも被害者として見てくれてるみたいだね。
でもなぁ……これだとやめないといけなくなるみたいで嫌だし、反論しとこうかな。正直説教系みたいになりそうで嫌だけど。別にロイドくんたちのことを責めたいわけでも口喧嘩したいわけでもないし……なんならロイドくんたちはロイドくんたちでそのまま頑張ってほしいし……ただの方針の違いでしかないし認めてるんだけどな……。でもまあ説明してほしそうだから言っておこう。彼らへの誠意としてね。
「そりゃそうかもだけどしょうがないんだよね。だって殺さないといつまでも追いかけてくるし」
「いつまでも追いかけてくる……?」
「教団って妙に私に執着してるんだよね。キーアちゃんほどじゃないけど、私の生まれもった力? それに興味津々で未だに実験とかに使いたいみたいで」
「生まれ持った力……ですか?」
「それはもしかして君のその……」
「生まれ持ったとか言われてもあんまりピンと来ないんだけどね。まあちょっと普通じゃないのは認めるしかないんだけどさー……ただそのせいでロッジから逃げ出した後もずっと追われてたんだよね」
「っ……なら誰かに保護されることも……」
「いや、保護はされたよ? ただそれが結社やその前の組織じゃなかったらヤバかったけど。力を得ることも出来なかっただろうし、昔は今よりもっと酷くて色んなとこに教団の人間やその協力者が紛れ込んでたからさ。いやーあの頃はちょっと表を歩いただけですぐ襲われて大変だったなー」
「そうか……教団が潰れる前に逃げたのなら今以上に警察や軍の上層部にも教団の人間がいてもおかしくない……」
「まーめちゃくちゃいたね。だから教団の人間をやらないと満足に出歩けなかったんだよね」
「だが……それでも今は自分の身を守ることができてるはずだろう。それなのになぜ未だに殺し続ける必要があるんだ!?」
おっと、ロイドくんが熱くなってきた。どうどう。別に否定してるわけじゃないから落ち着いてほしい。私は私なりに丁寧に自分の方針を説明してるだけだから。まあ拒否感があるのもわかるんだけどさ。ちょっとだけでいいから言い分を聞いて欲しい。ま、まあ詰められたら普通に破綻する理由なんだけどさ……それでも一応私なりの理由はある。
「私はね。確かに自分の身は守れるけど──
「! 私以外は……?」
「アーヤ。それはもしかして……」
あ、そういえばヨシュアくんは知ってるんだっけ。……ならどうせバレるし教えとこうかな。話すと嫌な思いさせちゃうから話したくはないけど皆知りたそうだし。しょうがない。
「ああ、うん。私の家族の話だね。教団ってばめちゃくちゃ酷くてさ。私が一向に捕まらないことに業を煮やして私と血の繋がった人間まで捕らえて実験に使い始めたんだよねー」
「えっ……」
「それは……」
一応言い方には気をつけよう。あんまり重く話しちゃうとキツそうだし、明るくあっさりめにね。こってりはよくない。ラーメンの話かな? そういえば深夜で殺しの後だからかまたラーメン食べたくなってきた。この後デュバリィちゃん誘って朝ラー行こうかなー。
「私って10人も上に兄や姉がいたし、私が知ってる限りでも20人くらい家族がいたんだけどさ。全員教団に捕まって人体実験を受けて殺されちゃったんだよね。なんなら子供は私と同じように《楽園》で変態な大人のお客様相手への接客に使われてたみたいでさ。はい、よろこんでーって感じで」
「……っ……」
「そんな……酷いことが……」
「普通にあったね。私が《楽園》を潰しに行った時には私の1個上の姉まで死んじゃってたし。──でまあそれで思い知ったね。私1人は大丈夫でも私が生まれちゃった以上、私の関係者はいつまでも狙われ続けるんだってさ」
「っ……外道って言葉すら生温い連中だったか……」
「……なるほど……その《楽園》の関係で議長も取り込まれたのか……」
「そういうことだね。ただ大体のお客様は一度味わったら普通に楽しみ始めたから私的にはその時点で被害者でもなんでもないなって感じだけどね。ハルトマンも何度も来てたみたいだし、なんなら時期的に私の姉妹も
「……………………」
よしよし、上手くマイルドに話せたな。パーフェクトコミュニケーション! ……は、さすがに言い過ぎだけど重くなりすぎないように話せたと思う。それとハルトマンと他の議員はこの後皆やらないとね。タイミング的に警察や警備隊も対応に追われてるだろうから割と楽だと思うし。もうちょっとでクロスベルは綺麗に掃除できるから頑張らないと。
「それでも……アーヤは、教団のことを恨んでないの?」
「恨むっていうか不快だったかな。ほら、家の中に害虫がいたら安心して過ごせないじゃん? 私にとっての教団はそれと同じ。存在したら安心して過ごせないし、周りも不快になる。おまけに害虫駆除業者は働いてくれないからね。それなら私がやるしかないかなーって感じかな」
「っ……」
エステルちゃんにそんな質問をされたのでわかりやすい例え話で話してあげる。これも良い例え話だ。私がどう思ってるかを例えるにはこれが1番分かりやすい。放置してたら増えるところも似てるしね。教団と害虫。この世に必要ないところとかも。
「……アーヤさんの言い分はわかった。確かに……殺人を犯そうとする理由は理解できる。ただそれでも……かつての遊撃士や警察が合同で教団を制圧したように、それ以外で解決する方法だって……」
「あるとは思うけどないかもしれないじゃん?」
「っ……だけど……」
「だって教団って500年以上ずっと続いてきてたし、権力者すら取り込んでたんだよ? その制圧作戦だって完璧じゃない上、私たちが取り込まれてた上層部をやってなかったら行われてなかったかもしれないしね。それでさっきの話に戻るけど、なんなら今も《グノーシス》を服用しちゃった人が誰かを殺してるかもしれないよ? それでも殺したらダメ? これから頑張って正当な方法で時間をかけてなんとかするから今苦しんでる被害者は我慢して死ねってこと?」
「──そうは言っていない!」
「あ、ごめん。そこまでは思ってないよね。ただそれと同じかなーって私的には思うわけで……」
「……っ……」
……え? なんでそこでそっちが黙るの……? というかびっくりしたー。そんな大声出さなくたっていいじゃん……でも言い過ぎたかな……? もうちょっと優しくマイルドにしないとね。歳上のお姉さんらしく大人の対応を見せないと。
「──まあ無理に理解する必要はないんじゃないかな!」
「え……?」
「私はロイドくんたちのことは応援してるし、できることを互いにやればそれでいいと思うんだけどどうかな? 100か0かって無理に決める必要もないしね。時と場合によるだろうしケースバイケースでもあると思う。私はそれしかないと思ったからやるけど、ロイドくんたちは正当な方法で捕まえるなんなりしてくれればいいと思うよ! ──警察と遊撃士みたいに、互いに手の届かないところを補い合うのが良いと思うんだけど、どうかな?」
「……………………」
よし! これで良い感じに和解できるかも! 今はさすがに悩んでるみたいだけどこれで納得してくれるはず! ……いやまあしなくてもいいんだけどね。だって教団関係者やることだけは変わらないし……それ以外については本当に頑張ってほしい! 私も特務支援課のファンだからね! キーアちゃんのこととかこれから苦しいことは沢山あるから私のことなんか無視して壁を乗り越えてね!
──ヨアヒムを音もなく一瞬で刺殺した時……そこでようやく俺はアーヤさんが《切り裂き魔》であることに実感が湧いた。
アーヤさんの名前付きの子供の頃の写真をあのファイルから見つけても到底信じられないような気持ちだった。だけどその認識を一瞬にして塗り替えるような早業。誰も気配に気付くことが出来なかった。
そしてそこから彼女は結社の執行者であることも明かし……そして教団のこと。キーアのこと。自身のことを色々と教えてくれた。
だけどそれでわかったのは……アーヤさんが……いや、彼女を含む教団の被害者たちがどうしようもない状況に置かれていたという理不尽な現実だ。
ティオと同じ……いや、それ以上に残酷な仕打ちを子供の頃から受けていたというアーヤさんの動機は怖いほどに理解できる。殺意が芽生えるのに充分すぎるもので、それをしたっておかしくはない。
だがそれでも、それで殺人を犯すなんて……それで解決しようとするなんてことは間違っている。
「……アーヤさん。あなたが相当な……教団に酷いことをされてきたであろうことは理解できます。だけど……だからといって殺人なんて……!」
だから俺は直接そう告げた。少なくとも追い詰めたヨアヒムを殺す必要はなかったんじゃないかと。
だけど……。
「んー……そりゃ他にやり方があればそれでいいんだけどそれ以外に解決方法がなかったからね。──じゃあどうすればよかったと思う?」
「っ……」
──何気なくそう返ってきた言葉とアーヤさんの普段と何ら変わりない表情に俺は寒気を感じた。
アリオスさんやガルシアのような凄みや迫力も何もない。それなのに、恐怖を感じる。
《銀》と同じ凄腕の暗殺者ではあるがその《銀》とも違う。アーヤさんにはそういう分かりやすい気迫を感じない。
だがそれが逆にプレッシャーを感じさせていた。普通の一般人のようでいて、その手に持った巨大な鋏のような獲物に血を滴らせる彼女のその矛盾が恐ろしい。おそらくは殺しを日常としているがゆえの自然体なのだろう。アーヤさんは以前会った時と変わることなく、まるで世間話でもするかのような様子で更に俺たちにそういう行動を取った理由……動機を教えてくれた。
──そしてそれは……聞けば聞くほど救いのない……どうしようもない話だった。
「そりゃそうかもだけどしょうがないんだよね。だって殺さないといつまでも追いかけてくるし」
「教団って妙に私に執着してるんだよね。キーアちゃんほどじゃないけど、私の生まれもった力? それに興味津々で未だに実験とかに使いたいみたいで」
「生まれ持ったとか言われてもあんまりピンと来ないんだけどね。まあちょっと普通じゃないのは認めるしかないんだけどさー……ただそのせいでロッジから逃げ出した後もずっと追われてたんだよね」
──アーヤさんは逃げた後も教団に追われ続けた。キーアのように特異な力を持っていたために。
「いや、保護はされたよ? ただそれが結社やその前の組織じゃなかったらヤバかったけど。力を得ることも出来なかっただろうし、昔は今よりもっと酷くて色んなとこに教団の人間やその協力者が紛れ込んでたから。いやーあの頃はちょっと表を歩いただけですぐ襲われて大変だったなー」
「まーめちゃくちゃいたね。だから教団の人間をやらないと満足に出歩けなかったんだよね」
──アーヤさんは表で生きることが出来なかった。教団が野放しになっているせいで。
「私はね。確かに自分の身は守れるけど──
「ああ、うん。私の家族の話だね。教団ってばめちゃくちゃ酷くてさ。私が一向に捕まらないことに業を煮やして私と血の繋がった人間まで捕らえて実験に使い始めたんだよねー」
「私って10人も上に兄や姉がいたし、私が知ってる限りでも20人くらい家族がいたんだけどさ。全員教団に捕まって人体実験を受けて殺されちゃったんだよね。なんなら子供は私と同じように《楽園》で変態な大人のお客様相手への接客に使われてたみたいでさ。はい、よろこんでーって感じで」
「普通にあったね。私が《楽園》を潰しに行った時には私の1個上の姉まで死んじゃってたし。──でまあそれで思い知ったね。私1人は大丈夫でも私が生まれちゃった以上、私の関係者はいつまでも狙われ続けるんだってさ」
「そういうことだね。ただ大体のお客様は一度味わったら普通に楽しみ始めたから私的にはその時点で被害者でもなんでもないなって感じだけどね。ハルトマンも何度も来てたみたいだし、なんなら時期的に私の姉妹も使ってたんじゃないかな?」
「……………………」
──それはまるで俺たちに、改めて理不尽な現実を思い知らせるようだった。
「恨むっていうか不快だったかな。ほら、家の中に害虫がいたら安心して過ごせないじゃん? 私にとっての教団はそれと同じ。存在したら安心して過ごせないし、周りも不快になる。おまけに害虫駆除業者は働いてくれないからね。それなら私がやるしかないかなーって感じかな」
「っ……」
聞いてるだけで辛くて……悲しくて……そして教団への怒りが湧いてくるそんな話をアーヤさんは明るく説明してくれる。ただ聞いただけの俺たちですら感情をこれほどかき乱されるのだから実際にそれを経験すれば……もはや想像が出来ないほどの苦痛をアーヤさんは感じたのだろう。殺意を覚えても何らおかしくはない。
だけどそれなのに……それだけのことをされてもアーヤさんは教団を憎んではいないと言う。それが本当かどうかは分からないが、見ている限りではアーヤさんの様子は普通で普段通りだった。
──だがそれが逆に彼女の闇を感じさせた。
しかしそれを指摘できるはずがない。
それではまるで苦痛を受けていた方が良いと……そう言っているようなものだから。
「……アーヤさんの言い分はわかった。確かに……殺人を犯そうとする理由は理解できる。ただそれでも……かつての遊撃士や警察が合同で教団を制圧したように、それ以外で解決する方法だって……」
「あるとは思うけどないかもしれないじゃん?」
「っ……だが……」
「だって教団って500年以上ずっと続いてきてたし、権力者すら取り込んでたんだよ? その制圧作戦だって完璧じゃない上、私たちが取り込まれてた上層部をやってなかったら行われてなかったかもしれないしね。それでさっきの話に戻るけど、なんなら今も市内で《グノーシス》を服用しちゃった人が誰かを殺してるかもしれないよ? それでも殺したらダメ? これから頑張って正当な方法で時間をかけてなんとかするから今苦しんでる被害者は我慢して死ねってこと?」
「──そうは言っていない!」
「あ、ごめん。そこまでは思ってないよね。ただそれと同じかなーって私的には思うわけで……」
「……っ……」
──だから俺は、それでも警察として。1人の人間として別の解決方法があるはずだと、そんな希望を口にした。
だけどそれすらも……容易く、自然に撥ね退けられた。
俺たちがこのクロスベルで、特務支援課として活動していく中で感じた理不尽な《壁》。様々な事情が渦巻くこのクロスベルで、それでも《壁》を乗り越えるための可能性を見出せると……そう信じてやってきたし、今もその想いは変わってはいない。
だが……そうやって小さい《壁》を乗り越えていく中で、俺たちが間に合わずに犠牲になった人達はどうすればいいのか?
アーヤさんの言うように、アーヤさんが教団事件の解決に殺しという手段を取ったのは俺たち警察や遊撃士や各国の軍などが、正当な手段でどうにもできなかったからだ。
言い訳のしようもない。俺たちは当事者じゃないが、それでも。
努力もしただろうし葛藤もしただろう。そうしてなんとか可能性を見出して大規模な制圧作戦を行うことができたのは救いで、実際にそうして救われたティオのような存在もある。
だけどそれまでの間……きっと何年……いや、何十年何百年と苦しんできた人達がいたはずだ。
それを全て背負おうとは思わない。
だが、事実としてそれだけの間野放しになってきたという現実がある。今なお被害に苦しんでいる人がいるという現実がある。
──つまりそれは俺たちがこれから味わうことになる現実だ。
理想を追求し、正当な方法で《壁》を乗り越えることに固執した結果……その過程で被害を受ける人に対して、どう向き合えばいいのか。
だからといって殺人による解決を認めることはできない。できないが……だからといって我慢してくれと言えるはずもない。
ならどうすればいいか……俺は考え、しかし、答えを出せなかった。
エリィもティオもランディも黙っている。彼女と知り合いらしいエステルにヨシュアだって。アーヤさんの持つ……そう、《修羅》のような気配に気圧されていた。
「──まあ無理に理解する必要はないんじゃないかな!」
「え……?」
──だがそんな俺たちに対し、アーヤさんは明るく慰めてきた。
「私はロイドくんたちのことは応援してるし、できることを互いにやればそれでいいと思うんだけどどうかな? 100か0かって無理に決める必要もないしね。時と場合によるだろうしケースバイケースでもあると思う。私はそれしかないと思ったからやるけど、ロイドくんたちは正当な方法で捕まえるなんなりしてくれればいいと思うよ! ──警察と遊撃士みたいに、互いに手の届かないところを補い合うのが良いと思うんだけど、どうかな?」
「……………………」
そしてそれは……紛うことなき拒絶だった。
俺たちがなんと言おうとアーヤさんは教団の人間を殺すことをやめることはないという意思表示。わかりあう必要なんてない。互いに譲れないのなら理解も納得も必要ない。
なんなら、邪魔をするなら容赦はしないと……そんな風にも思えてしまった。言っていることは理解できる。俺たちが特務支援課として、遊撃士の存在だけじゃ解決できない問題を解決しようと意志を定めたように、彼女もそういった別の力で立ち向かうから一緒に頑張ろうとリスペクトして手を差し伸べてきている。
だがそれが……どうしてこんなにも哀しく、辛く、そして恐ろしいものに感じてしまうのか。
だからだろうか。俺にはアーヤさんが酷く高い《壁》に思えた。
アリオスさんに感じた目標としての《壁》ではなく……俺たちが理想を貫き通すためにはいずれ必ず答えを出す必要がある……そんな理不尽な現実の象徴とも言える《壁》に。
「あー……それにほら。なんだったら教団の人間が全員死んでくれた方がキーアちゃんとか……ティオちゃんも安心できると思わない? 牢屋にぶち込むくらいじゃいつ抜け出して悪さするかわかんないし」
「っ……で、ですが……」
「感応力を引き出す実験だっけ。私も受けたことあるけどあれもきつかったよねー。あんなことしてくる相手に慈悲かける必要もないと思うんだよね。どうせ死んだって治らないんだしさ。ああ、もちろん理解しなくても大丈夫! 全部私が勝手にやるだけのことだから!」
そしてアーヤさんはティオやキーアのためにもそうした方がいいと一方的に告げてきた。
確かに、その方が……特にキーアに危害が及ぶ可能性はなくなるかもしれない。
だが……だからといって……そんな手段を認められるはずが……!
「……なるほど。アーヤがやりたかったことってそういうことだったのね。だけどあたしたちは譲らないわよ」
「そうだね。僕も同じ気持ちだ」
「! ……エステル……ヨシュア……」
そして俺たちが葛藤する間、エステルとヨシュアはそれを静かに聞き届けた上で、それでも曲げない意思を示していた。
「エステルちゃんにヨシュアくん……って、別にだからいいんだって。一応やるのは教団の人間とか悪人とかどうしようもない相手だけなんだから……えっと、見逃してくれない?」
「悪いけど……それは無理かな。そのヨアヒムって人だけならまだ見逃す余地もあるとは思うけど……」
「ただ君はこの後、それ以外の……
「そりゃあまあ……ね? 教団と繋がって私腹を肥やす人なんて生かしておいたら良くないことになるだろうし」
「だからって議員まで殺す必要はないでしょ。彼らにそんな大それたことができるとは思わないわ」
「……可能性が低いのは認めるけど、それもわからないでしょ? ヨアヒムなんてただの変態釣りキチ眼鏡が教団の幹部司祭になるくらいだし、一度教団の影響を受けた人間は何をしでかすか分からない。──はぁ……だから教団って厄介なんだよねー……まったく、面倒でしょうがないよ」
そうしてアーヤさんはこれから更に凶行を重ねることを示唆しながら、それでいてただただ面倒という感じでため息を吐いていた。
きっと好きで殺すわけじゃないんだろう。彼女はそうすることで自らの身を守ってきた。
そのことに対する是非……いや、きちんとした答えが出てるわけじゃない。
だけど……それでも……それを許すわけにはいかない。
「だったら……止めさせてもらうよ」
「え?」
俺はその意思を示す。エステルとヨシュアに続いて、特務支援課の仲間と共に。
「あなたがハルトマン議長やその他の議員を殺すというなら……俺は警察として、特務支援課としてそれを止める」
「ええ……そうね。まだ答えは出ていないけれど……」
「だな。どんな理由があれそれを許すわけにはいかねぇ……!」
「……あなたのやっていることは理解できます。きっと教団の被害者の中にはあなたに救われてきた人も大勢いるんでしょうし、正直なところそれをダメなことと言うことはわたしにはできません。──ですがわたしも今は特務支援課の1人です。だから……ロイドさんたちと一緒に戦います!」
「ふーん……そんな感じか。それで……本当に戦うの?」
「ああ! 行くぞ皆!」
「ええ!」
「おう!」
「頑張ります……!」
「あたしたちも加勢するわ!」
「全力で行くよ! アーヤ!」
そうして俺たちは武器を構えた。戦う意思を見せて。
するとアーヤさんは苦笑いを浮かべて、それでも気乗りしないと言うように。
「あー……じゃあちょっとだけね? ──《エクス=マキナ》」
『イエス・ユア・マジェスティ!』
「! あれは……人形兵器!?」
アーヤさんがそう口にすると空間から3メートル程の巨大な人型人形兵器が現れる。
ローゼンベルク人形にも似た──それでいて金属の光沢や装備が垣間見えるそれを出現させ、自らの背後に控えさせた。
その上でその大きな鋏のような獲物を構える。
「
「逃しはしない! 全力で止めるぞ!」
──そうして5人の掛け声と共に、俺たちは未だ迷いを持ちながらも、アーヤさんに挑んだ。
──うわあああああああああああああん!!? なんでなんで!? なんで私が特務支援課にエスヨシュと戦うの!? 嫌なんですけど! 別に戦うつもりないんですけど! 邪魔するつもりもないんですけど! というか6対1とか卑怯だぞー!! こうなったらこっちもバージョンアップした《エクス=マキナ》も出すし、なんなら“分け身”も出してやる! ほらほら! 驚いた!? 特にエステルちゃんにヨシュアくんは驚いたでしょ! 前は使えなかったもんね! これでもちょっとずつだけど強くなってるんだから! 幾らエスヨシュに特務支援課が相手だって──
──それから少しして。
「くっ……!」
「なんて強さ……」
「ここまで差があるかよ……!?」
「全然ダメージが与えられません……!」
「以前よりも強くなってるわね……! それにあの人形兵器も厄介だし……!」
「《修羅》の気が以前よりも高まってる……以前は使えなかった《分け身》といい……どうやらかなり鍛えてきたみたいだね……!」
「──まあ……そんな感じかな」
…………あれ? 勝っちゃった?
なんか……弱くない? 特に特務支援課。それにエステルちゃんにヨシュアくんも……いや、その2人は前はかなりの人数だったからもしかしたら2対1ってだけなら私の方が強いかもしれないし、《エクス=マキナ》もいるからかなり苦戦はさせられるかもだったけど……特務支援課の方は私1人でも全然余裕で蹴散らせるくらいというか……思ったより弱いというか……。
──まあでもそうか。よくよく考えたら零の終盤とはいえまだまだこれからだし、この時点の特務支援課が弱くてもおかしくないのかな。空のFCのエステルちゃんたちと同じでこれから強くなるんだろうし。正直危ないのはエステルちゃんとヨシュアくんだけだったけど……《エクス=マキナ》と“分け身”のおかげで割といけちゃった。
「それじゃもういいかな? 私帰るね?」
「ま、待て……!」
「やだ。待たない。というかだから私のことなんて気にしないでキーアちゃんのことちゃんと守ってあげなって。ヨアヒムは死んだけどこれから大変だろうし……」
「これから……?」
あ、やっば。うっかり口からお漏らししちゃった。不穏な匂わせはよくない。……でもこれくらいならセーフかな? あんまり気が抜けてると碧の終盤でバッドエンドになっちゃいそうだし、これくらいは結果的に良かったのかもしれない。良い感じに成長材料になるかも。
「それじゃまたねー。とりあえず強くなっておくことをおすすめするよ!」
そうして私はその場を後にしようとして──
「──確かにそれは聞き捨てならないね。キーア様に余計なことをしないでもらいたい」
「えっ? ──うきゃん!?」
──いっ…………たあ~~~~~~~~~!!? なになになに!? なんか急に後ろからふっ飛ばされたんですけど!? しかもなんか動けない!! 茨みたいなのが絡まってる!! というかこの声ってもしかして……!
「ヨアヒム……っ!?」
「どうして……生きているんだ!?」
「アーヤさんに刺されたはずじゃ……!?」
「フフ、ああ。確かに刺されたし、僕も死んだと思ったとも。──だが予想外の変異が起きたようでね」
──うわああああああ!!? やっぱりヨアヒムだー!! まだ声しか聞こえないけど絶対ヨアヒムだー!! え、なんで!? 絶対殺したと思ったのに!! ミスった!? いや、心臓は確かに刺し貫いたはず! ってことはひょっとして……グノーシス!?
「《
「アーヤさんを元にしたグノーシス……!?」
「そんなことまで……!?」
「ぐっ……この変態やろー! 私の血を飲んでキマるとか変態過ぎだぞー!」
「ああ。素晴らしい気分だよ。以前より君の素養には着目していたが……なるほど。そういうことか……以前からアーヤを祀り上げようとしていた一派を異常者と見下していたが……
「意味不明なこと言うなー! どうせ言うなら全部説明しろー! バーカバーカ! 変態陰気眼鏡!」
「フフ……だがその君の力には
……うわっ、記憶まで読んでる! 気持ち悪い! キモいぞヨアヒムー! 真っ直ぐ行ってぶっ殺すから覚悟しとけー! どんな姿してるか知らないけどどうせ魔人化だろー! うろ覚えだけど人型のデカい奴! かかってこい! 私たち特務支援課が相手だ!
「全てを理解した……世界の真実も、キーア様が何故失踪したのかも……ロイドくん。君の兄の死の真相も……アーヤの力の全ても……クロスベルの地に課せられた避けられぬ運命も……僕は全てに至ったのだ……!!」
「何を狂ったことを……!」
「そうだそうだー! ラリってんじゃねー!」
「君たちには、特にアーヤくんには感謝しているよ。僕をここまで至らせてくれて……君と同じになったことで僕は完成した……! 人の限界を超えたのだ……!」
何言ってるのかわかんないけどなんか巨大なものが地面から生えてきた! 多分魔人化だ! やばいけど絶対に殺すぞー! 私を使った《グノーシス》で魔人化してるってのが不安だけどなんとかなるはず! 麻婆豆腐大盛り一丁! これを口の中に打ち込めば…………って……。
「その、姿は……」
「フフ……これこそが完成した僕の姿だ……!!」
──私は……いや、私たちはその姿を見て絶句する。
その姿は異様だった。明らかに人間をやめていた。化け物だった。
その姿は身体が真っ白い植物のようなもので出来ていた。例えるならプレロマ草にも似た形で、そもそもが人の形をしていない。植物型の魔獣のようで。
その上右手と左手の部分には細長いしなりのある銀の棒状の物になっていて、先端からは容易に人を絞め殺せるであろう糸と肉に食い込ませるための針がある。それが更に異形感を際立たせ。
更には背中に白っぽい黄金の天使のような羽があり……そして花の部分と言えばいいのだろうか。身体の頂点。その部分には巨大なヨアヒムの顔があって……ついでに言うと額に目がついていた。
つまりだ。その姿は……。
(ダッッッッッッッッサ~~~~~~……!!)
(なんて……ダサいんだ……!)
(人面草は気持ち悪いわ……ベルの服の1番酷いものに匹敵するわね……)
(釣り竿が手になってるとかダサすぎんだろ……)
(羽がアンバランスすぎてセンスを疑います……)
(なんか見ていて不安になるというか……気持ち悪いわね……)
(ワイスマンよりダサいね……)
──超絶ダサかった。
「さあ!! ここで全員果てるがいい!!」
(いや、その姿で言われても……)
……だ、だけど力はかなり強そうだし、油断しちゃダメだ。ロイドくんたちも気を取り直して戦う覚悟を決めたようで、人面草で手が何故か釣り竿で羽が生えてて顔だけはデカく殆どそのままな魔人化ヨアヒム相手に「これが最後の戦いだ──みんなの全力を貸してくれ!!」って言ってる……で、でも頑張れー! 強いし厄介そうだけど多分そいつには麻婆豆腐が効くぞー! ラスボス戦だー!!
ということで原作より強い魔人化ヨアヒムがラスボスです。悍ましい姿と硬さと再生力を持つ厄介な相手です。ちなみに別ルートだとこの姿のヨアヒムにボッコボコにされます。屈辱的です。更に余談を言うと零の軌跡のアーヤはステータス的にはラスボスより強いです。BGMは多分「Inevitable Struggle」。碧だと多分変わるけどね。
次回は零の軌跡編のラスト。そしてその後は閃の軌跡に途中合流します。お楽しみに。
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