TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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魔人化に立ち向かう不幸

 ──魔人化したヘンテコなヨアヒムとの戦いは……まさに死闘だった。

 

「その程度の攻撃が通じるとでも思ったか……!!」

 

「っ……つ、強い……!」

 

「ヘンテコな見た目なのに……!」

 

「傷を負わせても再生しちまう……!」

 

「今までの魔人化とはレベルが違います……!」

 

 ──ヨアヒムの攻撃は、その変な見た目に反して凄まじく、少しでも気を抜けば致命傷を負いかねないものだ。

 だがそれよりも厄介なのはその再生力。攻撃を行ってもまるで効いている気がしないのだ。

 先ほど戦ったアーヤさんに似ているその特性によって俺たちはその対処に困った。

 だがそれを救ってくれたのはエステルとヨシュア。そして……薬の効果を消す方法を知っているアーヤさんだった。

 

「ダサい見た目してるくせに調子に乗るなー! 激辛麻婆を食らえー!」

 

「ハハハハ!! バカめ! 血迷ったか!? 僕の作った《黄金の叡智(グノーシス)》に弱点は──ぐおおおっ!?」

 

「効いた!?」

 

「ど、どういうこと!?」

 

「そういえばさっきもガルシアのオッサンに食べ物を与えてやがったが……」

 

「もしかしてそれが弱点なんでしょうか……?」

 

「意味はまるで分からないけど確かに攻撃が効くようになったわ!」

 

「この調子でどんどん頼むよアーヤ! 僕も手伝うから!」

 

「オッケー! 調理開始ー!」

 

「ば、馬鹿な……こんなフザけた対処法があるなんて……!」

 

 ──いつの間にか拘束から逃れていたアーヤさんが放った麻婆豆腐。それを口に放り込まれたヨアヒムが苦しみだす。

 それはエステルの言うように全く意味がわからない現象であったが、どうやらアーヤさんが言うには「私のその時1番ハマってる好物がそのまま弱点になるみたい!」らしい。聞いてもやっぱり意味が分からない。なぜリンクするんだ……? そもそも好物が弱点になる意味もわからない。

 だが確かに攻撃は通り始めてる。だから俺たちは戸惑いながらも麻婆豆腐を作り始めるアーヤさんとヨシュアをサポートしながら攻撃を与え続けた。そのあまりにもシュールな戦法を真面目に取ることにしたのだが……。

 

「おらー! 追加の麻婆を食らえー!」

 

「待ってアーヤ! それはまだ仕上げの花椒が入ってない! それじゃ麻婆豆腐とは呼べない!」

 

「え!? そんな……──ならカレーを食らえー!!」

 

「ええ!? 全然関係ないじゃない!! そんなの効くわけ……」

 

「ぐああああ!!?」

 

「き、効いた──!!」

 

「今だ! 一気に畳み掛けるチャンス! 行くよ、ヨシュアくん!!」

 

「ああ! 合わせるよ!」

 

「「“麻婆カレー十文字”!!」」

 

「がああああああああああッッ!!!」

 

「何だその技!?」

 

「というかヨシュアはなんで合わせられるわけ!?」

 

「慣れてるから」

 

「これがヨシュアくんと私のコンビクラフトだー! 結社の誇る暗殺者の妙技を思い知れー!」

 

「暗殺技術は微塵も感じねぇが確かに効いてるぞ! ──ロイド!」

 

「ああ! 俺たちも一気に畳み掛けよう!」

 

 ──本当に、本当に意味不明だがそれをスルーすることにし、確かに怯んでいるヨアヒムに向けて、俺たちは全員で一気に決めきるために最大の戦技をそれぞれ放つ。

 

「これで決める! ──“ライジング「麻婆!」サン”!!」

 

「気高き女神の息吹よ……力となりて我が銃に集え……! “エアリアル「麻婆!」カノン”!!」

 

「ガンナーモード起動します……! オーバルドライバー……出力最大……“エーテル「麻婆!」バスター!!」

 

「赤き夜の「麻婆!」よ、戦場を駆け、兵どもを貫け……! はあああっ! “デス「麻婆!」スコルピオン!!」

 

「「「「って、麻婆を被せ(ないでください)るな!!!」」」」

 

「え? だってその方が効くし……!」

 

「さすがにそんなわけ……」

 

「ぐっ……小癪な……! 麻婆さえなければァァァ……!!」

 

「効いてる!?」

 

「正気を失ったのか!?」

 

「オオオオオオ……!!」

 

「なっ……!?」

 

「これは……釣り糸!?」

 

「絡め取られて……!!」

 

「ど、どうやら完全に暴走してしまったみたいです!」

 

「マァァァァボォォォォ……!! 麻婆麻婆麻婆ォォォォ!!!」

 

「どうやら完全に頭もおかしくなったみたいです!」

 

「言ってる場合かよ! このままじゃ……!」

 

 ──そうして何度も麻婆豆腐と攻撃を食らわせた結果、ヨアヒムは暴走して俺たちを地面から生えてきた追加の釣り糸で拘束してしまった。ふざけた攻撃だがこれでは動けない。

 だがここで諦めるわけにはいかない。どうにかしようと更に気合を入れた……その直後。

 

「何これ……」

 

「あっ……!」

 

「《パテル=マテル》……!」

 

「レン!」

 

「うわあああ!! レン久し振りいいいい!! 助けて──!!」

 

「な、なんだかよく分からないけど……アーヤを元にした薬でも使って色々とおかしくなったのかしら」

 

「合ってる!?」

 

「とにかく今助けるわ! 《ダブル・バスターキャノン》!!」

 

「グオオオオオオオ……!!?」

 

 ──空から巨大な人形兵器と共に現れたレン……彼女はその状況を見て困惑していたようだが、すぐに状況を把握してその《パテル=マテル》でヨアヒムを攻撃して俺たちの拘束を解いてくれた。

 

 そしてそこからは最後のダメ押しで全力の攻撃を行い、ヨアヒムにトドメを刺した。

 とはいえそれは命を奪うという意味ではなく、彼を正気に、元の人間に戻した上で捕らえるためであったが……ヨアヒムの身体は徐々に崩壊していった。

 

「……ハ……ハハ……やるじゃないか……ゲホッ……ゲホッ……喉が……」

 

「これが私たち特務支援課の力だ!」

 

「お前は特務支援課じゃねぇだろ!?」

 

「忌々しいが……最後にあのダサい姿から元に戻してくれた事だけは……礼を……言っておこう……」

 

「ヨアヒム……あんた……」

 

「ダサいって自覚あったんだ……」

 

「クク……憐れみの目で僕を見ないでくれたまえ……見届ける事は叶わないが……我らが大望は成ったのだから……」

 

 そうしてヨアヒムは人の姿に戻った上で、最後に意味深な言葉を残して──

 

「あの方は……キーア様はきっと──」

 

「──気持ちよく死のうとするなー!! おらー最後の激辛麻婆を食らえー!!」

 

「ぐぼぉぉ!!?」

 

「何やってるの!?」

 

 ……だが倒れているヨアヒムの口にアーヤさんが残りの麻婆豆腐を注ぎ込んだ。まあ恨みはあるだろうから仕方がないんだが……。

 

「あ、アーヤ……君はやっぱり……ゲホゲホゲホッ! ゴホッ! ()()()()()……そ……」

 

 そして最後の最後まで激辛を食らいながらヨアヒムは消滅していった。

 

「……あっ……」

 

「チッ……最後まで世迷言を……」

 

「でも……哀れね……色んな意味で……」

 

「……はい……色んな意味で……」

 

 ヨアヒムが最後まで教団の信徒として、自らの罪を自覚せずに死んでいったことに俺は悔しさを感じた。

 だが反対にアーヤさんの方は満足そうで──

 

「いやーよかったよかった! これでめでたしめでたしだね!」

 

「アーヤさん……」

 

「アーヤ……」

 

「ほら、浮かない顔しないしない。──ああ、それとレンもありがとねー。手助けしてくれて」

 

「……っ……え、ええ……」

 

 そしてレンとはやはり同じ結社の一員かつ教団の被害者ということもあって、どうやらただの知り合いという程度の関係ではないようだった。

 そのレンの、どこか気まずそうな様子が印象的だった。

 それとアーヤさんのレンに対する言葉も──

 

「そ、その……アーヤは……」

 

「──ああ。それと前にも言ったけど私のことは気にしないでいいからね! ちょうどエステルちゃんにヨシュアくんもいることだし、一緒について行っちゃったら?」

 

「あ……」

 

 ──どこか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それは俺たちだけでなくエステルたちも同じことを思ったようで。

 

「ちょっとアーヤ……」

 

「あっ、結社への連絡なら私がしとくから大丈夫! 博士がうるさいだろうけどそれもなんとかしとくからさ!」

 

「そうじゃなくて……」

 

「──それじゃ私はもう帰るから! ロイドくんたちもまた会おうね! エステルちゃんにヨシュアくんはレンをよろしくねー!」

 

「あ……!」

 

「ぜぇ……ぜぇ……どうにか倒しましたわ……さて、後は元凶の──」

 

「デュバリィちゃん! 全部終わったから帰るよ!」

 

「は……はぁ!? ちょっと待ちなさいな! ──って、1人でさっさと帰ろうとするんじゃありません!」

 

 だが2人の言葉すらも届かず、アーヤさんは一方的に言いたいことを告げるとやってきたデュバリィさんと一緒に逃げるようにその場から去っていった。それを追いかける元気は残ってないし、万全でも追いつくことは難しいだろう。俺たちはそれを黙って見送ることしかできなかった。

 

「……………………」

 

「レン……やっぱり、アーヤと一緒にいたいのよね?」

 

「そ、それは……」

 

「隠さなくても大丈夫だよ。アーヤとレンの関係はわかってる。結社から抜けて僕たちのところに来るとしても、アーヤを1人残して行くことなんてできない。だからこそここでアーヤと僕たちにそれを告げようとしたんだろう?」

 

「もしレンがそうしたいならあたしたちもそれを手伝うわ。なんだったらレンに結社を抜けることを強制もしないわ。アーヤとの問題を解決してからでもいいわけだし……結社にいてもいなくてももうレンはしちゃダメなことはしないってあたしたちは信じてるから」

 

「エステル……ヨシュア……」

 

「……だけどもし僕たちの力が必要なら、一先ず一緒に行動してみないかい?」

 

「これからどうするか考えるのはそれからでも遅くはないでしょ? それにあたしたちはレンやアーヤの過去を知っても諦めたりしないんだから」

 

「うううっ……そんなのっ……」

 

 ──そうしてレンはエステルとヨシュアとは和解し、自律稼働し始めた《パテル=マテル》の後押しもあって仲間として一緒に行動することを決めたようだった。

 それを見て俺たちは心が温かくなる。

 そして改めてレンのような子に慕われているアーヤさんは、決して悪い人ではないのだと思った。

 だが、良い悪いと一概に決められる相手でもないことも事実で……俺たちはエステルたちを応援し、一先ずその和解を祝福した上で、囚われてる人たちと合流しつつ撤収することにした。

 

 ──そうして外に出れば既に朝日が昇っていて。

 

 砦の入口にはキーアにツァイト。セルゲイ課長にダドリーさんにアリオスさん……ソーニャ副司令にノエルもやってきていた。

 そこに記者のグレイスさんもやってきて……俺たちはその場にいる全員で写真を撮ってもらうことになった。

 

 ──クロスベルに混乱をもたらした《D∴G教団》の事件は終息し、事件の概要はクロスベルタイムズによって報じられ大スキャンダルへと発展した。

 

 だがそれで全てが解決したわけではない。

 教団と繋がっていた議員や警備隊や警察の上層部……そのコネクションを洗い出し、それを検挙するよりも先に──全員が死体として見つかった。

 ハルトマン議長に帝国派議員に共和国議員……教団と繋がっていた者たちを残らず暗殺しながらも証拠を一切残さないその事件はクロスベル市民に不安をもたらしたが……既に彼らの不祥事の多くが報じられた後ということもあってか、市民の間では自業自得という声も上がっており、その暗殺事件に対する恐怖はそれほど感じられなかった。

 俺たちはその犯人がアーヤさんであることは分かっているが……だが証拠もなく、本人がクロスベルから消えていたこともあってか、彼女を捕らえることはできなかった。

 それどころか、意外なところからアーヤさんに対する擁護とも言うべき連絡がクロスベル警察に入った。

 

 ──それは帝国政府だった。

 

 帝国政府によればアーヤ・サイードという人物は巷で噂されている暗殺事件と何ら関わりなく、それどころか公的に身分を証明された確かな人物であるとのこと。

 俺たちは混乱しながらも、それを受け止めるしかなかった。他の事件についての証拠もなく、ヨアヒム殺しについてもクロスベルを陥れた犯罪者を、警察や警備隊が後手に回る中、大事になるのを未然に防いだとしてその殺人に関しては罪に問われることはないと──後になってその事実を俺たちは知らされることになる。

 

 ……元よりアーヤさんのことは迷っていた。

 

 彼女のやったことが正しいのか間違いなのか……今の俺たちにはわからない。

 それなのに彼女のやったことを咎めるようなことは俺たちにはできない。

 だからこそその判断には……一応納得している。

 だけどいずれ……そう、いつかは答えを出さなくてはならないだろう。

 

 ──キーアのこと。俺の兄のこと。アーヤさんのこと。それら全ての事件を解き明かすこと……それが俺たちの役目なのだから。

 

 

 

 

 

 ──はいどうもー! アーヤ・サイードです! 

 

 ということで……色々あった教団事件も終結しました! わーい! ぱちぱちぱちー! 

 いやー、大変だったね。最後にヨアヒムだっさい姿になって暴れるし、麻婆豆腐を大量に食べさせなきゃならなかったし、途中でレンが来てちょっと気まずくもなったし。さっさと倒してエステルちゃんたちに任せたから問題ないけど私1人だったら多分キツかった。だからロイドくんたちがいてくれて結果的に助かったよね。

 そして熊さんを無事に倒してたデュバリィちゃんと一緒に帰った後は、直ぐ様残りの始末も終わらせといた。ハルトマンとか議員とか教団と繋がって悪事を行ってた人達ね。ちゃんと1人1人丁寧にやっといたんでこれでクロスベルは……一応綺麗になった。黒幕とかはいるんだけどそっちはやれないからね。これでめでたしめでたしってわけだ。

 

 あ、それと途中でいなくなってたメルキオルとエンペラーは後から連絡を入れてきた。しかもその内容が「黒月と和解することになったけどいい?」という意外と大きいことで私はびっくりした。……いやなんでそうなった? てっきりツァオも含めてやっちゃってるものかと思ったんだけど……。

 でも交渉して今度から私たちのことを狙うこともないってことで手打ちにしたらしい。まあそれなら別にいいけどさ。次にまた手を出してきたらやってもいいんだよね? あくまで今回の件に関しては手打ちってだけで──そんな風に聞いたらそれもそれでオッケーらしい。それに際してツァオの方から直接会って謝罪したいって言ってきたらしいけど、それは断った。怖いし。何考えてるかわかんなくて嫌だ。なんか普通に罠に嵌めてきそうなんだよね。全然信用してないから直接会うのはなしってことでその辺りのことはメルキオルとかエンペラーに任せることにした。組織の運営とかどうこうはあんまり関わりたくないしね。

 

 ──ということでクロスベルとは一旦さよならバイバイ! 事件で色々あるし、ちょっとだけ距離を置くことにした。会ったら気まずいしね。なんか任意同行とかされたら嫌だ。

 それにクロスベルの仕事はしばらくはない。次は……多分夏とか秋頃かな? それくらいになったら行く必要もあるけど時間を置けばフラットに会えそうだから別にいいかなって。……というかそもそも断れないんだけどね。契約してるし。次はクロイス家に弁護士にアリオスとお仕事かぁ……それにノバルティスの変態博士もいるし……ただリアンヌママと鉄機隊がいるのは良いことだけどね! 

 

 ……と、そうそう。契約と言えばだよ。零の軌跡が無事に終わったってことで……私が次に行く場所は当然──エレボニア帝国だ。つまりは閃の軌跡だね。時系列的にはもう始まってる感じなので、私はちょっと遅れて帝国入りして合流する寸法。

 いやまあ他の面々が本格的に動きだすのは内戦が始まってからになる予定なんだけど、私は帝国解放戦線……正確には貴族連合に雇われてるから地味に裏の仕事もあるしね。それになんと言ってもだ。個人的に契約している相手が私にはいる。

 

「──遠路はるばるご苦労。久し振りだな、アーヤ・サイード」

 

「あはは……はい。お久しぶりです。オズボーン閣下」

 

 そう。それが──エレボニア帝国政府代表。《鉄血宰相》ギリアス・オズボーンだ。

 言わずと知れたチート親父。怪物。武力も頭脳も最強クラス。剣も達人だし、騎神だって乗れるし、策略も誰も敵わないくらい最強。特に頭脳面がヤバい。オジサンに頭脳で勝てるかもしれないって言えばそのヤバさが伝わるだろう。いや、むしろこっちと比較できるオジサンがヤバいのかもしれないけどね。

 ただ私的にはオズボーンの方が怖い。純粋に慣れてないのと何をされるか分からないから。しかもこれ常に《黒》が取り憑いてるんでしょ? 怖ー……イシュメルガなんて関わりたくなさすぎる。いやまあ帝国にいる限り関わらないなんて不可能なんだけどね……救いがあるとすればこの人はイシュメルガに従順なようで、実はイシュメルガを出し抜こうと策謀を巡らせてるってこと。イシュメルガは放置すると世界がガチで滅ぶんでそれを回避しようとしてるんだよね。確か。細かいところはうろ覚えだけど最終的な目的はそんな感じ。一応ハッピーエンドを目指しつつ、最悪のパターンでも滅びだけは回避しようとしてるって感じだ。……そう考えると私とちょっと似てるかもしれない。私もハッピーエンドに向かってるけど最悪の最悪だけは回避するように動いてるし。実は似た者同士……? 

 

「どうかしたかね?」

 

「あ、いや、なんでもないです!」

 

 じっとオズボーンの顔を見て考えてみるも、言葉を返されたため慌てて取り繕う。……まあ似てる云々はともかくとして、怖いので従順になっておこう。仕事の契約を結んだ相手でもあるし。

 ということで遅くなったけど今は《緋の帝都》ヘイムダルの中心にある皇帝の御わすバルフレイム宮。その宰相執務室に呼ばれたので私は居心地悪くソファーに座って会談に臨んでいる。会談って言うほどじゃないけどね。シンプルに呼び出されただけだし。でも何話すんだろう……無茶な仕事じゃないといいなぁ……。

 

「フフ、そんなに緊張する必要はない。仕事の話とはいえ私と君の関係は対等な契約に基づくものだ。雇い主だからと無用な気を使う必要はない」

 

「そ、そうですか……じゃ、じゃあタメ口でも良い……みたいな……?」

 

「公式の場でもなければ別に構わないとも。宰相執務室とはいえ今ここには私と君以外の誰もいないのだからな」

 

「な、なるほど……それじゃあ努力します」

 

 ……と、緊張せずにもっと自然体で話してもいいと許しを貰うけど、だからといっていきなり──「よっ! ギリちゃん元気? お土産にお菓子と流行りの導力ゲーム持ってきたから一緒に食べながら遊ぼう!」──みたいなことは言えない。楽にしていいと言われたからといって楽にするのは罠の可能性があるからね。まあタメ口だけなら別にいいとは思うんだけど失礼すぎるのは良くない。しかも初対面でトマトジュース吹きかけちゃったこともあるし……その時はちゃんとお詫びして服も送ったから大丈夫だと思うけど……まだ距離感を測りかねてるところはあるんで、言ったようにちょっとずつ距離を詰めていこう。大丈夫。仲良くなるのは得意だからね。

 

「それで……仕事の方は一体どのような……? やっぱり殺しだったりします?」

 

「ほう、いきなり物騒だな。さすがは伝説の暗殺者殿と言うべきか」

 

「いやいや、別に伝説だなんてそんな……確かに名は知れちゃってますけど私なんてまだまだですよ」

 

「謙遜せずとも君の優秀さは理解している。いずれはそういう仕事を頼むこともあるだろうが……一先ず君に頼むのは諜報──エレボニア帝国内における不穏分子の内偵と優秀な士官候補生の保護となるだろう」

 

「! それはやっぱり──」

 

「ああ。前者は《四大名門》やテロリストを相手にしてもらうことになる。そして後者は──フフ、こちらも少々面白い枠組みでな。君と親交あるオリヴァルト殿下肝いりで新設されたクラス……新型戦術オーブメントの運用という建前の下、様々な状況に対応できるよう優秀でありながらも特殊な事情を持つ者たちを選別した──トールズ士官学院特科クラス《Ⅶ組》の手助けをしてもらいたい」

 

 ──き……キタ────!! 《Ⅶ組》だ──!!? 閃の軌跡の主人公たちだー!! 学園編だ──!! 学生だ──!! 士官学院生だ──!! リィンくんたちに会えるぞー!! うおおおお!!

 

 私のテンションが内心でぶち上がる。特務支援課も感動したけどⅦ組も実際に会うとなると感慨深いものだ。おかげで前者の貴族相手やテロリストへの内偵……つまり実質二重スパイみたいなことをする仕事に対する面倒臭さはちょっとだけ薄れた。

 ただ原作を知ってる私はわかるけど、一応わからない振りはしないと。なので仕事に対する疑問を私は口にしておく。

 

「あはは、やっぱりご存知なんですね。まあ私がオズボーン閣下に近づいていることがバレるのは時間の問題でしょうし……なら適当に情報を卸してもいいってことですか?」

 

「ああ。くれてやるといい。情報が抜き取られているのであれば私もそれに応じて動くだけのこと。多少面倒ではあるがな」

 

 おお……さすがはチート親父。貴族連合に情報を渡してもどうにでもなるって感じか。まあ実際この人殺せないし、出し抜くことも相当難しいだろうからね。自信満々だけど納得しかない。貴族連合に怪しまれないためにも好きに動いていいとお墨付きをくれたのは私的にも楽でありがたいしね。……そう考えると良い上司かも……。

 

「えーっと、じゃあ適当にやりますね?」

 

「ああ。何かあれば適宜指令を出すこともあるだろうが、基本は好きに動くといい。その方が繋がりの多い君には動きやすいだろう。──それと《Ⅶ組》についてだが……」

 

「あ、はい。それも聞きたいんですけど……手助けってどういうことですか?」

 

 なんで学生をそんな手厚く保護するの? と質問しておく。まあこの人保護者だから実際は目をかけていてもおかしくないというか、別に自然なことなんだけどね。でも一応聞いておかないと。怪しまれたら怖いからね! 

 

「フフ、大したことではない。私も彼らには期待しているのだよ。このエレボニア帝国の将来を担うであろう優秀な人材の卵……それを守ることは1人の大人として当然のことだ」

 

「なるほど! 素晴らしきお考えかと! 子供は大人が守るものですからね!」

 

「ああ、それと私の読みでは彼らも“激動の時代”における火種の1つになると見ているのでね。注視しておくことに越したことはない──そうは思わないかね?」

 

「……お、思います! よーし、気合いを入れて手助けしちゃうぞー!」

 

「とはいえ基本は見守り、有事の際に手が回らない部分をそれとなく支えてやるのがいいだろう。大人が動きすぎると成長の機会を奪うことにもなりかねない。そのことは留意してくれたまえ」

 

「了解です! 基本は見守ります! それと手助けしすぎません!」

 

「理解してくれているなら結構だ」

 

 私はビシッと帝国軍人のように右手で敬礼をしながら了解する。なんか怖い問いかけもされた気がするけど……まあでも仕事自体は割とホワイトだから問題ない。それどころか全然オッケー! 気が乗らない仕事じゃなくて気が乗る仕事だ! 問題もあるけどね! それについても予め聞いておこう! 

 

「……で、オズボーン閣下? それは良いんですけど……手助けするのもやっぱり裏からそれとなくって感じですよね。表向きの立場はやっぱりこっちで適当に用意する感じですか?」

 

「その心配は無用だ。君に提示した報酬──エレボニア帝国内における確かな立場と行動の保証……それについては万全に取り計らっている」

 

 ほっ。それはよかった。帝国内で帝国軍に目をつけられるとは怖すぎるし。帝国軍とか鉄道憲兵隊とか帝国軍情報軍とか……とにかく帝国には有能かつ強い人材が多すぎて面倒なんだよね。それに怖い。帝国内のネームド軍人とかネームド剣士には気をつけないと……ブルブル。私なんてボコボコにされちゃうよ。

 でもちゃんと表でも動けるならよかった。確かな立場かー……まあやっぱりファッションデザイナーとして良い感じに関われたりするのかな? 制服の卸先とかに指定してくれたりとか……? それなら表の仕事にも繋がるから良いよね! 最近は私のブランドもエレボニア帝国内で広まってるし、支店も主要都市に既に出している。共和国人っていうところはちょっと不安んではあるけども、まあ裏の表向きにはカイエン公に雇われてるから問題ないだろう。何かあったらカイエン公に言いつけてやると言えば大抵の貴族は黙るだろうし。帝国内で動くにあたって看板としては頼もしすぎる。これなら領邦軍も手出ししてこないだろうし、帝国内での私の安全は保証されたようなもの──

 

「では正式に辞令を与えよう──アーヤ・サイード()()()()

 

「はい! …………………………………………ん?

 

「本日付けで貴官はクロスベル自治州における大規模な犯罪を未然に防いだ功により帝国軍情報局特務少尉へと昇進──同時に帝国内における不穏分子への内偵及びにその対処を行う特殊任務をエレボニア帝国政府代表ギリアス・オズボーンの名の下に命じる。──それと同時に表向きには貴官は()()()()()()()()()()()()、Ⅶ組を陰ながら支援してやるといい。臨時の実践技術教官としてな

 

「は…………はっ。了解致しました……」

 

「うむ、それでは期待しているぞ」

 

 ──そうして私は退室を促されたので、それに従って執務室を後にする。

 頭の中で先ほど言われたことを必死に飲み込み、理解に努めながらだ。そんな……帝国軍情報局って……しかもいつの間に特務准尉……いや、特務少尉に……しかもトールズ士官学院に出向って……そんなの……そんなのって──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまり──公務員じゃん!!! やったああああああああああああああ!!! 公務員だ──!! 軍人だけど公的な立場だ──!! どうせ一時的な立場だけどやった────!! 本当にめちゃくちゃ立場保証されてる────!! ──ハッ! そうと決まれば軍服! 軍服仕立てなきゃ!! ふふーん! どんなデザインにしようかなー! 前々から軍服って着てみたかったんだよねー! 情報局ならそれなりに融通は利くだろうし、お洒落でかっこかわいい感じにしよーっと! 仕事は大変だけど楽しみだなー! 気分が良いし、ここは歌っておこっかな! 希望に満ち溢れてるし! 『明日への鼓動』でもね! ~~~~♪ 空に木霊する明日への鼓動~♪ 瞬き煌めく星のように~♪ 光になって道を照らし出すよ~♪ だからほら~♪ 顔を上げて♪ 真っ直ぐ前を向いて~♪ そうさ行くよ僕は~♪ そうさ行こう君と~♪ 未来へ~♪ ふっふー! それじゃ行くぞー! 希望しかない閃の軌跡編だー! いえーい! 

 




ということで零の軌跡編は終了。次回からは閃の軌跡編。アーヤちゃんの死ぬほど忙しい日々の始まりです。碧も途中から始まりますが、とりあえずは帝国で軍人したり教官したりテロリストしたり色々やります。次回はアーヤちゃんのドキドキワクワク軍人ライフ。ノルド高原で大はしゃぎです。お楽しみに。

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