──おはようございます! 帝国軍情報局から出向してきた実践技術教官のアーヤ・サイード特務少尉でありまーす! 中東出身、趣味は料理とガーデニングと最近はカードゲーム。特技は服作りとかくれんぼ。好きな食べ物は辛いものと、最近はじっくり作るビーフシチューやハンバーグにハマってます! よろしくお願いしまーす!
よし、挨拶は完璧だ。最初の挨拶は大事だからね。しかも学校で生徒相手への挨拶となるとここで受け入れてもらえるかが決まるかもしれないし、明るく笑顔で挨拶しないと。
とまあそんなわけで7月になって私は遂に帝都に近いトリスタの町に。そこにあるトールズ士官学院にやって来ていた。伝統ある士官学院だぜ! ふっふー! 説明すると七耀暦980年頃にオズボーンの前世である帝国中興の祖ドライケルス大帝により設立された学院で、当時としてはかなり珍しい平民にも門戸を開かれたすごい学校なのだ。その大帝が残した『若者よ、世の礎たれ』という名言を教育方針に掲げているぞ! はい、ここテストにでまーす。歴史の先生じゃないけど私もちょっと前まで学生だったからこの辺りの歴史とかはちゃんと頭に入ってる。なんたって名門アラミス高等学校を出てるしね! ふふん。勉強なら私もゼムリア大陸の上澄みかもしれないね。
なので私が教師としてトールズ士官学院に受け入れられるのも当然だった。そもそも鉄血宰相直属の情報局から出向してきたと言われればヴァンダイク学院長(強そうででっかいおじいちゃんの帝国軍名誉元帥)も断らないよね。他の教官たちからも職員室ではちゃんと拍手を貰えた。まあ帝国史と文学の教官トマス・ライサンダー(実は星杯騎士団の第二位)とかは本当に歓迎しているのか微妙なところだけどね。何考えてるかわからないし怖いから用がない時は近づかないでおこう。私って騎士団とは相性悪いし……後は軍事学教官のナイトハルト少佐とか導力技術と自然科学を担当するシュミットおじいちゃんの弟子でもあるマカロフ教官に、保険医で医学を担当する《死人返し》の異名を持つ優しそうなおばあちゃん、ベアトリクス教官。音楽と芸術と調理技術を担当するメアリー教官(地味にアルトハイム家は付き合いがあるから1番仲良くなれそう)。それと気難しそうだけどからかい甲斐がありそうなハインリッヒ教頭……はまああれとしても、トールズの教官は名門校なだけあって優秀な顔ぶれが揃ってる。
そして生徒──トールズは二年制の学校で、クラスも貴族クラスと平民クラスで別れている──けどまあ皆私のことをちゃんと教官として認めてくれている……はず。まあそれはまだわかんないけどね。これから授業をしていく上で仲良くなっていこう。まあ大丈夫。既に何名かの生徒とはお洒落とか流行りの話題で仲良くなってるからね! 歳も近いから互いに親しみやすくていいかも。教育実習にやってきた大学生と生徒みたいな感じでね!
……とまあ私のトールズでの教官生活は上手くいく予感しかしないんだけど、それでも1つ問題があった。それは最初の挨拶でⅦ組に向かった時のこと。教官たちには先に挨拶し終えて、サラ教官とⅦ組にはまだ挨拶してなかったから全体挨拶の前に顔合わせしとこうと会いに行って……でまあやっぱりそこでちょっぴり驚かれてサラ教官はどういうことかと職員室まで連れて行かれて私が教官になることが本当だと知って……それでその日はなんか納得いかない感じで抗議してたんだけどさ。その抗議が通るはずもなく……なのでサラ教官も引き下がったかと思いきや、次のⅦ組の実践技術の授業中に私に言い放ってきたのだ。
「──アーヤ・サイード! 私はあんたを教官とは認めないわ! だから……教官の座をかけてあたしと勝負しなさい!!」
「…………あー……マジ? そういう感じかぁ……」
──ってな感じでね。剣を突きつけられてそんなことを言われてしまった。しかもⅦ組の生徒たちの前でだ。
「サラ教官とアーヤ教官が勝負……!?」
「し、しかも教官の座を賭けてとは……!?」
「ふむ……どうやら相当の確執があるようだな」
「あーあ……」
ほら、皆見てる! なのでついでにⅦ組の生徒たちを上から紹介していこう! この間のノルドでの紹介に引き続きね!
まずは中性的な容姿の少年! エリオット・クレイグきゅん! 音楽家を目指してる男の子だ! 父親は帝国正規軍最強の呼び声も高い第四機甲師団の師団長。《紅毛》のクレイグことオーラフ・クレイグ中将! こっちは強そうなヒゲのおじさんだけどエリオットきゅんは女装したら普通に女の子にしか見えないくらい可愛いぞ! 導力杖を使ったり得意のバイオリンで支援を行うⅦ組の一員だ!
次に眼鏡! ジャスティス! マキアス・レーグニッツ! 帝都出身で平民で貴族が大嫌いな生真面目優等生眼鏡男子! 父親は帝都知事のカール・レーグニッツ! 武器は導力式ショットガン! いや、ショットガンて……導力式とはいえちょっと殺意高くて怖いぞ! あれ当たると結構痛いからね! まあ本人は貴族嫌いで頭が硬いだけで良い子なんだけどさ! ちなみにSクラフトでは銃を捨てて……あ、いや、それはダドリー捜査官の方だっけ。マキアスくんも銃を捨てて拳で殴ればいいのにと思った覚えがある。……まあ教官として私がそうさせるように鍛えてあげればいっか! にわか仕込みの東方式拳法を教えてあげよっと。
次に武人女子! ポニーテール! ラウラ・S・アルゼイド! 凛々しくて背の高い美少女だ! 姓から分かるとおり帝国に二大剣術流派であるアルゼイド流を修めるアルゼイド子爵家の息女! つまりは大剣使い! なのでパワーがあるしすっごい強いぞ! 父親はあの《光の剣匠》ヴィクター・S・アルゼイドだ! 怖い! 近寄りたくない! 因みにアルゼイド家はリアンヌママが昔率いていた鉄騎隊の副長を務めていた家系なので実は関係が深い。Sもリアンヌママの名字のサンドロットから拝借してるしね。デュバリィちゃんが将来ライバル視するのもなんかわかるよね。
そして最後はロリ! フィー・クラウゼルちゃん! 《西風の妖精》の異名を持つ元《西風の旅団》所属の猟兵だ! というか普通に知り合いだ! ちっちゃくて可愛いぞ! 前見た時よりは成長してるけどまだ小さいね! なんか私とサラ教官の対峙を見てジト目を私に向けてきてるのはなんでだろうね! 武器は双剣銃だ! かっこいい! 素早くて強いぞ! 多分Ⅶ組の中じゃラウラちゃんと並んで2トップの実力かな? でも今はまだ仲が悪いんだっけ。早く仲良くなろうね!
──ということで以上! 前回紹介したのも合わせてこれが愉快なⅦ組のメンバーだ! これからまだミリアムちゃんとかクロウとかが増えるけどね! それと新Ⅶ組とかも……とはいえ現時点ではこれがⅦ組総員であることに変わりはない! そしてそこに私も加えて欲しいんだけど……まずは私を睨んできてるサラ教官をなんとかしないとね。えーっと……。
「勝負かー。それじゃあ何で勝負する? あっち向いてホイとか?」
「……勝負といったらこれに決まってるでしょ。一対一の勝負。1本取った方の勝ちでどう?」
うわー……私の気を和ませる言葉も聞いてくれない……これ普通に嫌われてる……うう、仕方ないとはいえ傷つくなぁ……。
とはいえ勝負か……それならなんとかなるかも? いや、勝ち負けとかじゃなくてね。良い感じに勝負をすればほら……なんか青春というか、互いに力を認めて友情の握手をして解決できそうじゃない? 確かラウラちゃんとフィーちゃんもそんな感じで仲直りしたっぽいし。ここは学院で学び舎。生徒たちの前ってこともあるし、私たち教官陣もアオハルしたっていいよね。──よし! そうと決まればサラ教官と仲良くなるために勝負しよう! でも一対一は怖いから……。
「生徒の前だし、授業中なんだから一対一はダメなんじゃないかな?」
「っ……それは……」
「それよりもチーム戦とかにしない? 生徒の中から3人を選んで4対4だったら生徒たちも学べるし、生徒を導く手腕というか連携とかも確かめられるし! 教官の座を賭けてって言うならその方がいいと思うんだけど……どうかな?」
私はそんな勝負方法をサラ教官に提案する。この方がほら、サラ教官も本気出しにくそうというか、冷静になってくれそうじゃない? 普通に一対一で戦ったら不利かもしれないし……地味に負けるわけにもいかないし……このルールならリィンくんさえ取れば後は主人公補正でなんとかしてくれそうかなーって。
「…………わかったわ。それでやりましょう。授業の一貫としてだけど、負けたらあんたには教職を辞してもらうわよ」
「……うん、わかった。それじゃチームはどうやって分ける?」
「……あたしの方は数ヶ月生徒たちを見てきたアドバンテージがある。だからあんたから先に選びなさい」
「え、いいの?」
「対等な勝負じゃなきゃあんただって納得できないでしょ」
おお……てっきりじゃんけんで決めるとかするかと思ったのにこっちに有利な条件でやってくるなんて……さすがはサラ教官。元遊撃士なだけあってそういうところはちゃんとしてくれるんだね。
……でも原作知識で良いなら私も結構知ってるし、悪いけどここは勝たないといけないからちゃんとガチメンバーを選ぼう。
「わかった。それなら私は──リィンくんに……ガイウスくんとユーシスくんにしようかな!」
「っ……」
「あ……はい……!」
「ああ」
「……仕方あるまい」
私が選んだのは男子3人。主人公のリィンくんに先日ノルドでも関わった男子2人を選ばせてもらう。ARCUSでの連携もできるしね。それに一応ちゃんとした理由もある。サラ教官がちょっとだけ歯噛みしたのがその証拠だ。
「……ならこっちはラウラと……フィー。それにエマにお願いするわ」
「……心得た」
「……ん」
「は、はい!」
そしてサラ教官が3人を、今度は女子3人を選ぶ。フィーちゃんとラウラちゃんがいるのでかなり強いメンバーだね。エマちゃんもアーツ使いが上手だし、結構良い勝負になりそうだ。
まあ私本来の獲物である《ゾルフシャマール》はさすがに使えないし、私が頑張ればの話だけど……ま、まあなんとかなるでしょ! 大丈夫。こっちにはリィンくんもいるし! おまけにあっちは不安要素を押し付けたし!
「さて。これでチーム分けは終わったし……それじゃあやろっか?」
「ええ。──マキアス。合図をお願い」
「ぼ、僕ですか?」
「難しい? それならアリサでもいいわよ」
「ああ、いえ……難しいわけではなく……えっと、わかりました。合図をすればいいんですよね?」
「ええ、お願い」
勝負の合図をマキアスくんに任せて私たちは少し距離を取った上で武器を構える。私の武器は大剣と短剣。ゾルフシャマールが使えないからね。疑似二刀流みたいな感じだ。刃物は大体使えるし、一刀と二刀を使い分けられるならある程度は同じように戦える。もしくはリィンくんもいるから太刀を使っても良かったかもしれないけど、さすがにサラ教官相手にそこまで遊ぶのはちょっとね。負けちゃうかもしれないから──。
「それでは──は、始め!」
「──はあああっ!!」
──うわっ!? いきなり来たぁ!? みんなー! ARCUS起動して私を助けてー! 連携でサラ教官を倒すぞー! って、うわあああああ!!? サラ教官速いんだけどー!? 本気でやるのやめてー! 今は授業なんだからさぁ!? ああもう、私は本気でやるわけにはいかないってのにー!!
──アーヤ・サイード。その人物のことを知らないはずがない。
正確にはその裏の名前のことを。7月になって突如学院にやってきた褐色の肌に黄金の瞳。銀白色の髪に赤のインナーカラーに染めた情報局の特務少尉だと名乗ったその女に、あたしはまさかとは思ったがすぐにその正体に気がついた。
実際に見たことがあるわけではない。だけど、あたしが元いた《北の猟兵》での話や、遊撃士の知り合いから聞いてその風貌も名前も最近になって正確なものを入手した。
結社《身喰らう蛇》の執行者No.ⅩⅢ《血染の裁縫師》。都市伝説の暗殺者《切り裂き魔》。
何百人という人が犠牲になった《北の猟兵襲撃事件》を起こした刺客──それがこのアーヤとかいう女の正体だ。
それがなぜ今は帝国軍の情報局に務めていて、トールズに出向してきたかはわからない。あの女……シャロンのように今は結社と距離を置いているのかもしれないが、何をしにここに来たのかという質問に対し、アーヤは「命令されたからってのもあるけど、私個人としてで言うなら──未来ある若者たちを……特にⅦ組を教え導いてあげるためにだね」と、そんなわけがない理由を口にしたため真偽はわからない。
いや、仮にそれが本当だとしてもだ。あたしは認めたくなかった。
北の猟兵の件で恨むのは筋違いだとあたしも頭では理解しているし、情報局からの出向という形でやってきたのならあたしに拒む権利なんてないこともわかっている。だからあたしが拒むのは既にあたしが実践技術の教官であるということからの抗議になるけれど……それも学院長や教頭には宥められるだけで受け入れられることはなかった。もっともらしい理由を幾つか言われたが、そもそもお上から言われたことを理由もなく突っぱねることはできない。学院とはいえ国の管理下にある組織の1つだということを改めて思い知らされながらも、あたしはそれでも認めきれずに授業にやってきたアーヤに勝負を持ちかけた。
あたしが勝てばこの女は自ら職を辞すると、そんな賭けを持ちかけて。受けてもらえるかどうかは未知数で、もしかしたら受けてもらえないかとも思ったがアーヤはそれを受けた。生徒を交えたチーム戦。あくまで授業の一貫として。
それを告げられてあたしは自分の行いがわがままであることを突きつけられたようで、更に不満を募らせた。もしかしたら勝ってもあたしの要求は通らないかもしれないが、それでもあたしの中の不満が背中を押して勝負へと駆り立てたのだ。
そしてチーム分けの権利を相手に委ねたが、正直なところ、あたしは有利に戦えると思っていた。負ける可能性は低いと。相手の実力はかなりのものだろうが、生徒を交えたチーム戦となると生徒のことを理解しているあたしの方が有利だと見ていた。ARCUSは所持しているようだが、連携を取れるかどうかは微妙なところ。ならあたしの方に勝機はあると、そう思っていた。
──だが、それは浅はかな考えだったと言わざるを得ない。
「リィンくん!」
「はいっ!」
「っ……!」
チーム分けによって決まった相手のチーム──アーヤにリィンにガイウスにユーシス。その4人によってあたしたちのチーム──あたしにラウラにフィーにエマは攻め立てられる。
つまりは劣勢だった。向こうが正確な連携を行ってくるのに対し、こちらは少しぎくしゃくしている。
その理由は明らかだった。ラウラとフィーの不和……それが解消されていない。だからARCUSでの連携が取れていない。それがこっちのチームが押されている大きな理由だった。
そのことについて教官として思うところはあるけれど、当然ながらラウラとフィーが悪いわけじゃない。いずれは解消してもらいたいけれど今思うことは、この女がしっかりと生徒たちのことを見ていたことだ。
チーム分けの権利を与えた時点で、あたしには予感があった。この女が実力者で見る目があるならば、おそらく選ぶのはラウラとフィーになるだろうと。なぜならこの2人の実力はⅦ組の中でも……いや、新入生の中でも抜けているし、フィーの方はどうやら知り合いっぽいようだったから。ラウラについてもアルゼイド流を修めているであろうことは名前を見ただけでわかること。
だからその2人を選んで確実に勝ちを取ろうとしてくると思っていたが……その予想は外れた。この女はリィンにガイウスとユーシスという男子3人を……いや、ラウラとフィーを除いた前衛のできる生徒を選んだのだ。
それをされたことであたしの方は一気に辛くなった。この女のチームが前衛4人となれば、さすがにこっちも前衛を外すことはできない。この女を抑えるだけでも厳しいのだ。アリサやエリオット、マキアスにエマといった後衛メンバーで固めるのはさすがに不利となる。あたし1人で向こうの前衛を抑えきれないからだ。
だからあたしはラウラとフィーを選ぶ他ない──しかしそうなれば、ARCUSでの連携が取れない以上、集団での戦い。連携面においてこちらは劣ってしまう。
それを覚悟でラウラとフィーを選ぶか、それとも前衛の数を少なくしてでも連携面を重視してラウラかフィーのどちらかを外すか……私はその二択を選ばされた。
リィンにガイウスにユーシスも強い。純粋に武術面での強さで比較するならラウラやフィーに続くのがこの3人だ。特にリィンはラウラとフィーにも近い強さを持っている。アーツや遠距離攻撃を主軸とする他の生徒たちとは競う部分が違うとはいえ……それでも前衛無しで戦うと仮定すれば勝つことは難しいだろう。
だからこそあたしはラウラとフィーを選ぶ他なかった。あたしがこの女を抑えるなら、リィンたちをこの2人で抑えてもらう必要がある。そして最後の1人はアーツの扱いに優れているエマを選んで支援を行ってもらうことにして、そうして勝負を開始したが……やはりと言うべきか、劣勢を強いられた。向こうはこの間のノルドでの一件で行動を少しの間共にしたせいなのか、連携が取れている。ARCUSの戦術リンクは問題なく機能していた。
だが連携面もそうだが、それ以上に──
「うわっ!? 危ないなぁ! もうちょっと手加減しない? 授業なんだしさ!」
「っ……言うじゃない……! これくらいは余裕ってわけね……!」
「なんでそうなるのかわかんないけど……でも辛うじて私たちの方が有利みたいだね!」
──この女はあたしの想定よりも強い。
あたしの攻撃を余裕で捌いてみせる。しかもおそらく、本来の得物じゃない武器を使ってだ。
軽口を叩く余裕すらあった。こっちは時折、反射的に振るわれる鋭い一撃に肝を冷やしているのにだ。一応は教官として来ているのなら殺す気はないと思いたいが、そうは思えない攻撃にあたしは全力の対応を強いられる。
そしてあたしは理解した。なぜ《北の猟兵》が、遊撃士が、《剣聖》の異名を持つカシウスさんまでもが不覚を取ったのか。その理由を相対して初めて思い知る。この女は強い。あたしよりも。本気じゃないのにも関わらず。
そのことが酷く悔しくて。どうにかしたくて。だからあたしは、
「そこだ!」
「っ……しまっ──くっ!?」
目の前のアーヤに集中しすぎて、いつの間にか後ろに下がっていたユーシスのアーツを食らってしまう。ユーシスはリィンやガイウスなどの他の前衛に比べてアーツも得意としている。もちろん警戒していたけれど──
「一気に畳み掛けるよ!」
「はい!」
「ああ!」
「くっ……!」
「これは……ちょっと無理かも……」
──気づけばリィンやガイウスもフィーとラウラの2人を倒していて。残った後衛のエマも程なくして抑えられた。
そしてあたしの首元には、鋭く煌めいた刃が添えられて。
「──これで勝ち……でいいかな?」
「……!」
「……えっと、マキアスくん?」
「あ……そ──そこまで!」
頭上から声がかけられた。私がそれに何を言うでもなく、マキアスからの勝負ありの号令がかけられる。
「すごい……」
「サラ教官に勝っちゃうなんて……」
観戦していたエリオットやアリサの声が耳に届く。
そう、あたしは負けた。わがままを通して勝負を持ちかけたのにも関わらず。冷静さを失って隙を突かれた。あたしのこの女に対する不満や憤りを狙い撃たれた。
そして気付く。結局のところ、あたしがこだわっていたのはこの女が結社の執行者であるとかそういう部分ではないと。
「……勝負はあたしの負け。だから……後は好きにしなさい」
「え? いや、好きにと言われても……授業は?」
「……教官の座を賭けての勝負とあたしは言った。それにあたしが負けた以上、去るべきなのはどちらなのかはわかりきってるでしょう?」
「! そんな……!?」
「サラ教官!?」
「安心しなさい。すぐに辞めたりはしないわ。だけど今日のところは学院長や教頭に話を持っていかないといけないし、後は後任の指示を聞いて動いて」
あたしは驚愕する生徒たちに教官としてそう指示を出す。わがままな賭けを行った代償はきちんと支払わないといけない。
それにこの賭けを持ちかけたのは自分がまだ甘く、未熟である証拠だった。
結局のところ、あたしは昔の因縁──《北の猟兵》が、昔の仲間が幾人も被害に遭ったという
執行者というだけなら執行者にも関わらず第三学生寮の管理人についたシャロンだって同じ。あたしがそこまでこだわる必要はない。
だけどアーヤは、かつての仲間を大勢殺した張本人。殺されたのは猟兵だけとはいえ、あたしの上官や仲間。友達の家族だっていた。そのことで故郷がより苦しんだことだって覚えている。
猟兵である以上は仕方のないことだと頭では理解していたつもりだったが……思ったよりあたしはこだわっていた。勝ち目が確実じゃない勝負を挑んで、隙を突かれて負ける程には、冷静じゃなかった。
こんな体たらくを晒し、賭けに負けた以上、あたしはいずれ教職を辞する必要がある。こんなんじゃラウラとフィーのことを言えない。
もちろんすぐに辞めることはない。それは責任を放棄することだから。
でもある程度の区切りがついた時点で……そうね。一月か二月で引き継ぎを終わらせてから──
「──って、こらー!! どこ行くねーん!! アーヤちゃんちょーっぷ!」
「痛っっっ!!?」
──と思っていたら背後から後頭部を殴られた。あたしはとてつもない痛みに後頭部を抑えてかがみ込む。そうしてすぐに立ち上がってそれを行った人物に怒りをぶつけた。
「って、あんた何すんのよ!?」
「教官が授業をほっぽりだしていいわけないでしょ! 生徒がうるさすぎて職員室に帰る先生じゃないんだから。後で代表者で謝りに行く感じの面倒くさい先生ムーブ。ああいうのってどうするのが正解なんだろうね?」
「な、何を言ってるのかわからないけど……だから、後はあんたに任せるって──」
「ダメでーす! そもそもあんな勝負成立してませーん! 私負けても辞めるつもりなかったしね! 上から言われたことなんだからそんなことで辞めれるわけないでしょ!」
「は……はぁ!? 何よそれ!? ……って、そうじゃないわ。一度勝負を持ちかけた以上は、あんたがどうであろうと──」
「そもそも辞めるって簡単に言うけどサラ教官にここを紹介したオリヴァルト殿下の顔も潰すことになるんだけどよくないよね?」
「!? な、なんでそれを……!」
「情報局なんだからそれくらい知ってるよ! それより、あんな適当な勝負で辞めようとするなんて責任感とかないの? 大人としてダメだよね? 生徒にも迷惑かかるしさ。良い大人として恥ずかしくないの? ……後は……えっと……あ、もしかして私が怖くてここにいれないってことなのかな?」
「はぁ!?」
あたしは予想外の言葉に怒りが再燃する。
アーヤは私にからかうようなムカつく笑みを浮かべて言ってきた。私の周りでちょこまかと動きながら。
「あーやっぱ怖いんだ~! なるほど、それなら辞めちゃうのも納得だね! やーい、臆病者~。へい、チキン! そんなんで辞めるとか悔しくないの? そんなに辞めさせたいなら勝負くらい何度も受けてあげるけど~? ──ま、何度やったって私に勝てるわけないけどね~♡ サラ教官って弱いし~! やーい、ざーこ♡ ざーこ♡ 年下の美少女に負けてくやちいねぇ♡ 勝ってるのは年齢くらいなのかなぁ? 強さも若さも可愛さもオシャレ度も女子力も私の方が上だもんね~? ほらほら、悔しかったら私に一泡吹かせてみろ~! 《紫電》の名前が泣いてるぞ~? やーいやーい」
「っ……~~~~~~!!」
──瞬間、我慢を重ねていた私の血管がプチリと切れたような気がして。気づけば私は声を荒げていた。
「──上等よ!! 好き放題言ってくれちゃって……! そこまで言うなら覚悟はできてるんでしょうね……!?」
「え、覚悟? なにそれ。私アーヤちゃん。覚悟なんて知らな~い。サラ教官……いや、サラちゃんなんて片手間で倒せちゃうし~」
『分け身もそう思います』
「って、分け身なんて高等
「はいはい。怒ると皺が増えちゃうよ? まあ教師としても私の方が多分上だし? 生徒たちからも私の方が信頼されるだろうからちゃんと残って私の引き立て役になってもらわないとねー」
「そんなわけないでしょうが! いいわ……そこまで言うなら見せてあげる……!! あたしの方があんたより上だってことをね……!!」
「じゃあもう1回やる? まだ戦ってない生徒もいるし、チーム変えてもう1回戦おうか。──ま、どんなメンバーでも私の勝ちは決まってるけどね! ほら、今度は負けたサラちゃんから選んでいいよ~?」
「その言葉、飲み込ませないわよ……! なら──リィン! ラウラ! アリサ! あたしの班に加わりなさい! このふざけた女をぶちのめすわよ!!」
「は、はい……」
「凄まじい怒気だ……」
「一先ず収まった……ようには見えないわね……」
「それじゃ私はフィーちゃんとエリオットくんとマキアスくんかな。ほら、こっちこっち~」
「えっと……これはもしかして……?」
「あ、ああ……もしかしたら、止めてくれた……のか……?」
「アーヤって変な人だけど悪い人ではないから多分そう……まあこの止め方はやりすぎだけど……」
「──さあやるわよ! 次こそはぎゃふんと言わせてやるわ!!」
「はいはい。いつでもどうぞ~。格下のサラちゃん、こっちにおいで~」
「言われずともぶっ飛ばしてやるわよ!!」
──あたしは怒りで我を忘れながら目の前で煽ってくる年下の新任教官に斬りかかる。再びそれを捌かれ、そして頭の片隅で乗せられていることを半ば自覚しながらも怒りが勝ったあたしは再びの勝負で本気を出して今度は生徒の頑張りもあって辛うじて勝利することができた……が、それでも本気じゃなかったのか余裕そうなアーヤにあたしは苛立ちを隠せず、次こそは本気を引き出した上でこの女を叩き出してやると硬く誓うのだった。
ということで愉快なアオハル教官生活の始まりです。サラ教官とはまだ和解してません。閃の軌跡の序盤なんだから最初はそりゃ喧嘩するよねって。ユーシスとマキアス。ラウラとフィーみたいな感じ。
次回は教師として授業をしたり絆イベントを起こしたり特別実習で帝都に向かうことが決まったりとか色々です。お楽しみに。
感想、評価、良ければよろしくお願いします。