TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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自由行動日で絆イベントを起こす不幸

 ──わたしが今まで会った人の中で1番変な人……それがアーヤ。

 

 最初の出会いは確か大体3年くらい前だったかな。わたしが前いた場所……《西風の旅団》で、帝国の辺境辺りで他の猟兵団と戦っていたところにアーヤがいた。

 決して弱くはない他の猟兵たちを沢山切り裂いて倒していて。その標的に多分わたしたちも入っていたんだろうね。団長が奇襲される前に罠に嵌めてこっちが逆に誘い込んで囲んだ。

 だけど団のほぼ全員で囲んでも中々倒せないし捕らえられなくて。おまけにわたしの攻撃なんて無視してた。無視ってのは文字通りの無視。避けもせずに攻撃を直撃しても無傷で団長や他の危険な攻撃をしてくる相手の対応を優先してたね。あれを見た時は正直、人間じゃないと思った。でも一応人間らしい。その後になんとか捕まえて酒場で話した時にちょっぴり怒りながら人間だって言ってた。その振る舞いがすごく明るくて馬鹿っぽいせいで最初は警戒してたけどなんか警戒するのがそれこそ馬鹿らしくなっちゃってやめた。話してみると普通のお姉さんだったし、《結社》とかいう裏の組織に属してる割には別に悪い人でもなさそうだった。

 それと、すごく裁縫が得意でその場で一瞬で作った《西風》のシンボルを刺繍したハンカチは本当に一瞬で作った割にはすごくよくできてて今でも使ってる。正直に言うとこれは嬉しかった。わたしのお気に入りだね。布もよくわからないけどすごく良いものみたいだし、汚れてもちゃんと洗って使ってる。

 それで会ったのは一度きりだし、もう会うことはないかなと思ってたんだけどね。そんなアーヤが──トールズに教官としてやってきた時はさすがに驚いた。わたしやサラも不思議だけどアーヤが来るのは意外すぎて。しかもなんか軍人になってたし。意味がわからなかった。

 ただわたしよりもサラが動揺してたし、わたしたちに挨拶をした後はすぐに職員室に行って色々抗議したっぽい。その後でこっそりアーヤに会って聞いてみたけどそう言ってた。なんでも仕事で来たらしいけど《結社》って組織はよくわからないけどそれ辞めてきたのって聞いたら露骨に誤魔化してた。ってことは辞めてないけど、色々事情があって軍人になって、それで仕事でトールズにやってきたらしい。聞いてもよくわからなかったし、あんまり深く考えてもしょうがないかもしれない。

 

 でもわたしはともかく、サラの方はすごく不機嫌になってたし、昔の因縁のせいか勝負を挑んだりしてた。それにわたしたちも巻き込まれてすごく面倒だった。いつもより前のめりなサラにわたしとは相性の悪いラウラと組むことになったし、久し振りに戦ったアーヤは前以上に強くなってる気がしてかなり疲れた。しかもなんかサラが急に教官辞めるとか言い出すし……まあそれはアーヤがめちゃくちゃ煽ったおかげでなんとかなったからいいけど。

 

 ──それからアーヤはトールズの実践技術の2人目の教官になったし、わたしたちⅦ組の副担任になった。なんでも実践技術は1人で全校生徒を見るのは大変だし、Ⅶ組の特別実習は毎回班を分けて別々の場所に行くけど、引率する教官がどっちかにしかいないというのは地味に問題ということで教頭が決めたみたい。サラがそう愚痴ってた。サラもあれから落ち着いたとはいえ暇があればアーヤに突っかかるし、よく勝負をしてる。でも大体はアーヤが勝ってるみたい。アーヤが言ってた。「同僚に嫌われるのちゅらい」って。だったらあんなに煽らなきゃよかったのに。まあ、ああでも言わなきゃサラも辞めてたかもしれないってのはわかるけど。

 

 でも嫌われるのが辛いって言う割には今でもノリノリでサラを煽ったり負かしたりふざけて苛つかせたりしてるけど……授業中とかに──例えばこの間あった水練の授業とかでも男子と女子でそれぞれ勝負をした後にわたしとラウラとリィンとサラ。そしてアーヤも交えて勝負することになったんだけど、そこでも空気を読まずにアーヤが1位を取ってた。それに対抗心を燃やしたサラがしばらく水練の度にアーヤに勝負を挑むことになったりはしてた。おかげでわたしたちまでつきあわされてすごく面倒だった。……教官なんだよね? わたしたちより子供っぽい勝負してるのはなんなのかな……。

 

 ──ただサラも評判は悪くないけどアーヤも教官としては結構人気みたい。生徒と距離が近くて友達みたいな感じで喋ってるのをよく見かける。お洒落とか流行に敏感で今度時間がある時に帝都のお店に遊びに行く話をしていた。……本当に教官なんだよね? 確かに年齢は近いけどそれにしても年上って感じがしないし教官の威厳とかは皆無に近い。なんなら一緒になって教頭に怒られてる姿もたまに見る。本当に教官には見えない。でも授業はちゃんとやるというか、悪くないんだよね。この間アーヤが主導で行った授業は結構面白かった。こんな感じで──

 

「それじゃ今日はかくれんぼをしまーす!」

 

「かくれんぼ?」

 

「ええっと……冗談かな?」

 

「そうは見えないが……」

 

「ど、どういうことですか教官! 授業の最中ですよ! いきなりかくれんぼだなんて……」

 

「どうどう。落ち着いてマキアスくん。かくれんぼって言ってもちゃんと訓練なんだよ? 主に隠れたり気配を察知したりするためのさ」

 

「! ……それは……」

 

「……なるほど。隠密行動の訓練、というわけか」

 

「お、さすがユーシスくん! 理解が早い! ユーシスくんに5点! とまあ結論から言っちゃったけど、隠れるのって大事だからね! 特殊な作戦行動とか突入作戦とか任務の際に隠れることや奇襲を求められることって多々あるでしょ? そういう時にちゃんと音を立てない動き方とか気配の消し方とかを習得しとかないと気づかれて作戦が失敗しちゃうかもしれないしさ」

 

「そ、それは確かに……」

 

「ふむ、だからかくれんぼというわけか……」

 

「……ま、奇襲は基本だね。それに加えて奇襲の備え方も学ぶって感じかな」

 

「そうそう! フィーちゃん正解! 反対に隠れてる人を見つけることができたら相手の奇襲を阻止できるし、色々と便利だからね! 人の存在に気付くことと自分の存在を隠すこと。それをかくれんぼを通じて学んでもらおうと思ったんだよね!」

 

「……なるほど。だから旧校舎にやってきたんですね」

 

「ならアーヤ教官。自分たちはどうすれば?」

 

「とりあえず隠れる側と見つける側の2グループに別れて。それで先に隠れる側が旧校舎に入って隠れてから2分後に見つける側が旧校舎に入る感じにしようかな。──ってなわけではい! グループ作ってー! かくれんぼするよー!」

 

「……意義は理解したがなんというか……」

 

「あはは……緊張感はないよね」

 

 ──と、旧校舎にやってきたわたしたちはそうして2グループに別れてかくれんぼを始めた。地下は無し。見つかったら抵抗は無し。まずは本当に普通のかくれんぼをするみたいで、正直わたしにとっては得意だけど少し温い内容だった。

 でもわたし以外にとってはそうでもないみたいで。

 

「だめだめ! 全然なってないよ! もっと足音押さえてー! 気配もダダ漏れだよー! それとアリサちゃん! びっくりしたからって声上げないようにね!」

 

「す、すみません……」

 

「それとラウラちゃんとユーシスくんはちょっと存在感出しすぎかな! もっと存在感消すように! でも初めてにしてはよくできてるね! ユーシスくんには飴ちゃんをあげるね!」

 

「ううむ……わかってはいるのだが……これは思ったよりも難しいものだな」

 

「……なぜ俺にだけは妙に甘い?」

 

「他の皆も上手くできなくても初めてだからしょうがないし、全然いいけどね! リィンくんとガイウスくんは見つける方は得意みたいだけど隠れるのがもうちょっとかな?」

 

「ええ。気配察知には少しばかり心得があるので……」

 

「風を読めばある程度は。それでもフィーは見つけられなかったが」

 

「うん、こういうのは得意」

 

「うんうん! フィーちゃんは隠れるのが上手だね! 皆もフィーちゃんを見習うようにねー!」

 

「は、はい。それはわかってますけど……」

 

「音を出さないようにはまだしも、気配の消し方と言われてもどうすれば……」

 

 ……まあ、それはそうだよね。普通は難しいだろうし初めてなら尚更かも。リィンとかガイウスは気配を察知するのが上手だし隠れるのもそこそこ。ラウラとユーシスは頑張ってはいるけど苦戦してて、アリサやエリオット。マキアスやエマなんかはかなり苦戦してる。実際隠れ方と言っても難しいと思うけど、アーヤは見ただけでもわかる。それが抜群に上手くてマキアスからの質問に実践で応えてみせた。

 

「まあそれはもっともだね。それじゃお手本見せるからよく見ててー」

 

「……わかりました──って、え……?」

 

「教官が消えた……!?」

 

「風を感じない……?」

 

「気配もない……!」

 

「周囲に姿も見えないね……」

 

 ──アーヤはそうしておもむろにわたしたちの前から消えてみせる。それも一瞬の内に。しかも驚いたことに、速さでどうにかしてるわけじゃない……と思う。気配から先に消えて、その後でアーヤの姿が目の前からなくなった。

 ガイウスやリィンも見つけられてないみたいだし、周囲を見渡しても当然姿は見えない。なんだっけ……団長が言ってた。東方とかにいる凄腕の暗殺者とかだと一瞬で姿を消したり現れたりするから相手をするのが面倒だとかなんとか。なるほど、確かにこれは厄介かも。実戦でこんなことやられたら死は免れない。ただここまでできるのは多分アーヤくらいだとは思うけど……。

 

「一体どこへ……!?」

 

「──ここだよー」

 

「!? おわぁ!!?」

 

「び、びっくりした……!!」

 

「また急に現れて……!?」

 

「いや……それよりも見ろ。最初に立っていた位置から動いていない……!」

 

「さすがにそれは……」

 

「今のを見せられたらありえないとも言い切れないが……」

 

「実際はどうなんですか、教官?」

 

「ふふん。すごいでしょ。まあ今のは結構テクニックは使ったけど、それでも練習すれば誰でもできると思うよ!」

 

「──そんなわけないでしょうが!! そんな人外染みた隠密ができるのはあんたくらいよ!」

 

 と、わたしたちの大半がアーヤの言うことを真に受けるべきなのか、それとも冗談なのか、どう受け取ればいいか分からずに戸惑っているとここまでずっと離れて見ていたサラがとうとうツッコんだ。するとアーヤもサラの方を見て言葉を返す。

 

「いやいや、そんなことないってサラちゃん。練習すれば誰でもできるできる! 最初から諦めるのはよくないよ? なんならサラちゃんも練習する? プルスウルトラの精神で頑張ろう!」

 

「やんないわよ!」

 

「そっかー。でも隠密行動の訓練はしておいた方がいいと思わない? 特別実習とかでも役立ちそうだしさ」

 

「っ……まあ、それは認めなくもないけれど……だとしても今の授業方法は何? もうちょっと生徒に寄り添った方が良いと思うけど? いきなりかくれんぼなんて──」

 

「よーし! それじゃ次は先生もアドバイスしながらやろっか! グーッとパーで分かれましょ!」

 

「って、聞きなさいよ!」

 

「とにかく頑張ろうね! これを覚えたら正面からじゃ敵わない相手になんとかできたり、隠れなきゃいけない状況なんかで役立つからさ! ──あ、それとフィーちゃんは筋が良いしなんか出来そうな気がするから“分け身”のやり方でも教えてあげるね!

 

 ──そしてそんなありがたいような面倒なような提案をされて、わたしは他の人よりも一歩進んだ教えを受けることになった……“分け身”のやり方と気配消しの活かし方を。確かにわたしが1番向いてるだろうから教官としては見る目はあるんだろうね。

 

「ほらみんな逃げろー! 鬼のサラちゃんが追いかけてくるぞー! 捕まったら鬼みたいに小言を受けちゃうぞー!」

 

「誰が鬼よ!! このっ……!」

 

『ぷるぷる……私悪い分け身じゃないよ!』

 

『分け身もそう思います』

 

「だから分け身を使ってまで煽るな──!! 今日こそはぶっ倒してやるわ!!」

 

 ……でもサラを相変わらず煽っている姿を見て、やっぱり教官には見えないなって思った。なんかわたしとラウラの喧嘩がバカらしく思えてくる……。

 

 

 

 

 

 ──おはようございます! 私が来た! トールズ士官学院実戦技術教官、特科クラスⅦ組の副担任を務めるアーヤ先生だよ! 先生という称号に相応しいくらい立派な振る舞いをしていきたいよね。目指せ名教師! 

 

 ってことで最近の私はトールズの教官として充実した日々を送ってる。いや本当にね。トールズはすごい良いところだ。トリスタの町もすごしやすいし、町の人も皆親切だし、生徒は良い子ばっかり。貴族平民問わず帝国の将来を担う有望な生徒が集まってる。ここが帝国の上澄みだね。

 そして教師も良い人ばっかり! まあ一部……というかサラ教官に猛烈に嫌われちゃってるのは困ったものだけど……それも私がこの間、サラちゃんを煽ったせい……で、でもあれはしょうがなかったんだって! 勝負に勝ったらなんか辞めるとか言い出すし! 辞められた困るから煽るしかなかったんだから! 私も超絶焦ったよ! 

 まあ煽ったおかげでなんとか煽って引き止めることはできたんだけど……それからというもの、事ある毎に嫌味を言われたり突っかかられたりして困ってる。これが新任教師に対するイビリってやつかもしれない。社会は厳しいなぁ……私的にはサラちゃんとも仲良くなりたいんだけど、向こうが拒んでくるならしょうがないとも思う。

 なのでそこは割り切りつつ、サラちゃんとは辞めてもらわないように程よい距離を取りつつ他の人とは普通に仲良くしてる。メアリー教官とは芸術関連の話題が合ったし、女子生徒は生徒会長のトワ・ハーシェルちゃんがちっちゃくて可愛いし、クロウはなんか苦笑いというか最初遭遇した時なぜか顔が引き攣ってたけど仲良くしてる。貴族クラスの生徒も平民で人種が違うとはいえさすがに教師にわかりやすく突っかかってきたりはしないので授業中も真面目だし仲良くしてる。特に2年生のエーデルちゃんとランベルトくんとフリーデルちゃんにマルガリータちゃんは貴族クラスの中でも仲が良くなったかな! エーデルちゃんは園芸部だから私も興味があってお花とか野菜の種を植えに行った時に仲良くなった。ちなみにフィーちゃんもいた。ランベルトくんは馬術部なので私がノルド高原から連れてきたノルドバクシンオーの世話を頼んでる。たまにレースで盛り上がってる。フリーデルちゃんはフェンシング部。実戦技術の授業で挑まれたんで返り討ちにしたらそこそこ尊敬されるようになった。でもフェンシングは別にそんなに得意じゃないけどね。刃物の中じゃレイピアの練度はあんまり高くない。マルガリータちゃんは調理部で料理についてアドバイスをしてあげたら仲良くなった。でもなんか怪しいものも入れてる気がするけど……でも毒じゃなさそうだし、別にいいのかな? 毒とかヤバい薬とかが入ってたら私も遺憾なことにわかっちゃうんだけどマルガリータちゃんは愛情だけを入れてるっぽいので私も応援してる。ヴィンセントくん! お幸せに! 

 そして平民クラスの生徒は打ち解けやすいのもあってすっかり仲良しだ。歳もそんなに変わらないし、生徒というより友達感覚に近い。皆良い子たちだ。

 

 ──だけど私にとって1番重要なのはやっぱりⅦ組。なのでⅦ組とは積極的にコミュりに行ってる。そしてその中でも仲良しなのはフィーちゃんとかエマちゃんかな。フィーちゃんは知り合いだし、エマちゃんは人当たりが良い。アリサちゃんはクルーガーちゃんとの関係が気になってる様子で近づくとクルーガーちゃんが忍び寄ってくるのでそこまでは打ち解けてない。エリオットきゅんも話しやすいかな。マキアスくんはからかい甲斐がある。ガイウスくんは超然としてるというか自然体で、ラウラちゃんは少し訝しみ気味かな? フィーと知り合いって辺りで気にはなってるみたいだけど教官ということもあって別に険悪とか空気が悪いとかそんなことはない。……というよりサラちゃんとやり合ってるのを見て困惑してる気がする。まあそれは全員だけど……後ユーシスくんには優しくしてる。生きてるだけで偉い。ユーシスくんに10点。

 

 そしてなんといってもリィンくんだが、今のところ普通って感じだ。普通の教官と生徒の距離感で可もなく不可もなく。気にはなってるみたいだけど突っ込んでこないし、普通に教官として接してくれている。

 ただ正直もっと仲良くなりたい。これはリィンくんに限らず他のⅦ組の生徒全員に言えることだけどね。個人的にも良い子たちばかりだから仲良くなりたいし、お仕事的にも仲良くなった方が手助けとかもやりやすいし色々と都合が良いってのもある。

 だからもっと話しかけて打ち解けないといけないけど、あんまり強引に距離を詰めすぎるのも良くないし、ぼちぼちって感じかな。1ヶ月もすればきっと仲良しになれると思うからそんなに焦ったりはしてないし急いでもない。何度も言うけど良い子たちだからこそ仲良くなれるって信じてるんだよね。授業の機会が結構あるのでそこが大事かな。……あ、そういえばかくれんぼの授業もやった。私が教えられることって言ったらそれかなーって思ってね。皆初めての割にはよく出来ててこれが才能の差かなって少しだけ落ち込んだけどすぐに立ち直って私のそれなりによく出来てる気配の消し方とかを見せてあげた。ついでに新技もね。後はフィーちゃんに空いた時間で分け身を教えようかなーって思ってるけど、さすがに今日はお休みだね。

 

 だから今日は他の仕事──衣装を仕立ててる。私の作業スピードは普通に比べたらありえないほど速いけど、それでも売れっ子カリスマファッションデザイナーの私は忙しいのだ。なので休日にトリスタの町に借りた家のリビングで衣装を仕立ててたんだけど……それも一段落つくと気分転換に外に出たくなったので外に出る。デザインを考えるのに散歩や別のことをするのは結構良い手段だ。イマジネーションを刺激するにはそれこそ刺激になる経験が必要なんだよねー。

 

「! アーヤ教官」

 

「あ、リィンくんじゃん。奇遇だねー! 今日は何してるの? 自由行動日楽しんでる?」

 

 ──と、外のベンチに腰掛けながら色々考えてるとリィンくんが声をかけてきた。今日は7月18日の日曜日。つまり自由行動日なのでリィンくんはあれかな。生徒会の手伝いで学院や町のサブクエストをこなしてるんだろう。えらいね。私も大概忙しくしてるけどリィンくんも結構忙しいと思う。普段から学院の授業やら課題やら勉強やらで忙しいのに、たまにしかない自由行動日ですら生徒会の手伝いって……ちゃんと休んでる? 大丈夫? ──まあ若いし充実して楽しそうだし大丈夫か! 自己解決。ということでリィンくんから話しかけてきてくれたのでそっちに応えよう。絆イベントだ! 

 

「ああ、はい。教官こそ、今は何を?」

 

「うーん、服のデザインを考えててね」

 

「服のデザイン……ですか?」

 

「あれ、言わなかったっけ。先生、服を作るのが特技で趣味なんだよね。だから自分でデザイン考えてるの」

 

「そういえばそうでしたね。確かに教官はいつも随分とお洒落に気を使ってるというか……」

 

「リィンくんもお洒落には気を使わないとダメだよ? 若いんだしかっこいいんだからさ。それなのにダサい服着てたら台無しになっちゃうんだから」

 

「はは……わかりました。気をつけます」

 

 ──と、リィンくんと軽く会話をする。本当にただの日常会話だ。悪い感じは全くしないけど、このままじゃまた普通に会話して終わりになっちゃいそうだなぁ……よし、せっかくだからこっちから提案しよう! 改めて絆イベントだ! 

 

「あ、そうだ。せっかくだし、私が服を見繕ってあげよっか?」

 

「アーヤ教官がですか?」

 

「うん。私は自他共に認めるお洒落さんだからね。リィンくんが服に興味があるなら色々アドバイスしてあげるし、なんならプレゼントしてあげてもいいよ?」

 

「プレゼントはさすがに申し訳ないですが……でも、そうですね。わかりました。せっかくですし、ちょっとだけなら時間もありますから」

 

「よし! それじゃ早速行こっか!」

 

 そしてなんと! リィンくんが私の誘いを受けてくれたぞ! やったー! なので普通の洋服屋に行って普通に洋服を選んだり、お洒落のポイントを教えてあげたり、逆に私の服も選ばせてみたりしてみた! 楽しい時間が過ごせた! 絆ポイントアップ! 特筆すべきことはなかったけどこういう小さい積み重ねが重要だからね! 

 

「うんうん! 結構良い買い物が出来たねー!」

 

「ええ、そうですね。それにしてもアーヤ教官……本当に洋服に詳しいですね。まるでプロみたいでしたよ」

 

「え? ──あー、うん、まあそうだね。プロみたいなもんかな! こう見えて学生時代から友達に服を作ったりしてたし、すっごい好評だったんだから!」

 

「それは……すごいですね。それだけ得意だとやっぱり小さい頃から裁縫が得意だったんですか?」

 

「小さい頃は──まあ、そうだね。確かに小さい頃からやってたかな。家はあんまり裕福じゃなかったから家のお手伝いをしようと思ってね。それでたまたま糸と針はあったからそれで姉の洋服を作ったのが最初だったっけ」

 

「それは……」

 

「あはは、そんなに暗い話じゃないから気まずくならなくて大丈夫だよ。ちょっと貧乏なくらいよくあることだし、ただの貧乏自慢系笑い話だからさ! ほら、よくあるでしょ? お祝いの日にケーキとか七面鳥じゃなくてチキンライス食べてたみたいなさ!」

 

「……はは、わかりました。ならアーヤ教官はそれがあったから裁縫が上手になったんですね」

 

「きっかけはね。ただ上手くなったのは家を出てからだけどさ」

 

「家を出てから……ですか? えっと、それはどういう……?」

 

「──ま、人生色々あるからねー。そこは秘密かな。リィンくんだって色々あるでしょ? 妹のパンツを興味本位で手に取ってみたりとかそれを使って色々とかさ」

 

「パッ……! い、いや、そんなことするわけ──というかなんで俺に妹がいるって知ってるんですか!?」

 

「あはは、当てずっぽうで言ってみただけだよー。でもそう言うってことは本当に妹いるんだね──ん……」

 

 ──そうしてリィンくんと適当に会話をしていると、頭の中にデザインが浮かび上がってくる。こういう時は唐突だ。そして、思い浮かんだら即座に出力する必要がある。私は自分の考えたデザインが凄まじく良いものであることを自覚すると、その場から跳び上がるように立ち上がった。

 

「……? どうしたんですか?」

 

「──降りてきたー!! 神デザイン!!」

 

「うわっ!?」

 

「ごめんリィンくん! 神デザイン降りてきたから私一旦帰るね! 今日は楽しかったよ!」

 

 そうして私は走り出しながらリィンくんに手を振って別れる。唐突だけどしょうがない! 思い浮かんじゃったからね! 後はリィンくんがそれっぽく締めてくれるだろう! 絆イベント終了! 絆が深まったぜ! 

 

 ──そして私は家に帰ってその日の午前から午後にかけてはデザインを描き起こしてパターンを作り、それが一段落したところで再び外に出て足りない布やら糸を注文しつつ、一応学院の方を見に行き、そこで旧校舎にリィンくんの妹のエリゼちゃんが迷い込んだという話を聞いたんで助けに行ったりした。そういえばそんなイベントもあったねって。でも魔煌兵だっけ? 見た時はびびったけどあんまり強くなかったなぁ……リィンくんとクロウが戦ってたところで危なそうだったから切ってみたけどまさか一撃なんて。弱い魔煌兵だったのかな? これなら機甲兵の方が普通に厄介そうだね。

 

 そしてそれが終わったら他の皆とも挨拶をしてその日は帰った──ということでまあ色々あったけどとりあえず教師生活は順風満帆! 今度の特別実習──夏至祭間近の《緋の帝都》ヘイムダルでの実習もきっと上手くいくだろう。教官として皆を監督して手助けしてあげないとね! 楽しみだなー! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──その日の夜。私の元に()()()()()()()()

 

『久し振りだな、アーヤ殿。早速だが私も忙しいのですぐに本題に入らせてもらおう。──君に依頼を頼みたい。私が支援している《帝国解放戦線》が夏至祭の最中に行動を起こすというのでね。その際にあの男の盟友──カール・レーグニッツに少しばかり脅しをかけておいてくれるかね? うむ。ああ、それと一応彼らのサポートもしてやるといい。彼らは君を使うことをあまり良しとしていないようだが、私からすれば少し手ぬるいと感じてしまってね。成功するならそれで良し。失敗して万が一彼らの誰かが捕まるようなことがあれば情報を漏らさぬよう君が介錯してやってくれ。では頼んだぞ』

 

『アーヤ。トールズでの教官生活は楽しんでいるかね? フフ、それは結構。ならば既にそれなりに信用は得られているとは思うが、君と関わりが薄く素性をある程度知っている人間からはやはりまだ警戒されているようだ。それを解消するためにも、夏至祭で何か仕掛けてくるであろう《帝国解放戦線》──その幹部1人を捕らえてもらいたい。()()()()()()()。君のやりやすいようにするといい』

 

『お久しぶりですね、アーヤさん。なんでも情報局の特務少尉となり、トールズの教官になったのだとか。おめでとうございます。はい。今は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……実は少々お願いがありまして。あなたが見ているトールズ士官学院のⅦ組……彼らを一目見てみたいのですが、そのエスコートをお願いできますか? ──いえ、紹介ではありません。それも悪くありませんが、会うのは少し時期尚早かと。なので遠巻きに彼らの活躍を観察できればと思うのですが……無理とは言いませんよね? ふふ、わかりました。では当日はお願いしますね』

 

 ──私は連続でかかってきた通信の受け答えを終えて真顔になる。カイエン公に《鉄血宰相》。おまけにミュゼちゃん。その3人からの依頼を受けちゃったせいで、トールズの教官としても行動しないといけなくなってしまった……うわあああああん!! やばいー!! 相反する命令ー!! というか忙しすぎるー!! どうしよー!!? 今から計画考えないといけないー!! うわああああああああん!!!




最初の絆イベントはジャブだし短めだよねって。
次回は帝都ヘイムダルでの特別実習と夏至祭ですが、なぜかアーヤちゃんは苦労するようです。楽しい表の生活なのになんでだろうなー?

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