TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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帝国解放戦線として動く不幸

 ──アーヤ教官は謎が多い人だ。

 

 僕の通うトールズ士官学院に突然、2人目の実戦技術教官として赴任し、僕らⅦ組の副担任にもなった情報局の特務少尉で褐色の肌といつもお洒落な服装をしているのが特徴的な年上の女の人。

 実戦技術の教官なだけあってかなり強くて僕たちに実戦で役立つ技術なんかを教えてくれるし、人柄も親しみやすくて友達のような距離感で生徒に接する教官として既に校内じゃ話題になっている。

 ……ただちょっと個性的な人でもあるけどね。それこそ教官らしくないというか、まだ学院に来てちょっとしか経ってないのに伝説になりそうなことを沢山起こしてる。教頭のハインリッヒ教官にはよく怒られているところを見るし、サラ教官とはよく争っている。

 まあサラ教官に関してはサラ教官を辞めさせないためのものだったみたいだけど……そうなった経緯に関してもちょっと謎だった。フィー辺りは何か知ってそうというか、昔から知り合いみたいだから原因を知ってるみたいだけど僕たちには教えてくれない。サラ教官かアーヤ教官に聞けばいいんだろうけどなんとなく聞きづらくて結局は謎のままだ。

 だけど結論として、良い人だとは思ってる。これはⅦ組の総意──かはわからないけど、少なくとも僕はそう思う。この間も吹奏楽部に顔を出していたし、授業の時も僕にアドバイスをするついでに音楽の話をした。

 

「エリオットくんは楽器1番何が得意なの?」

 

「僕はヴァイオリンかな。一応一通りの楽器は触ったことはありますけど……そういうアーヤ教官も何か弾けるんですか?」

 

「私も色々弾けるよー。ギターとかピアノとか……マイナーなところだとカーヌーンとかネイとかも弾けるかな」

 

「カーヌーンにネイ……えっと、確か大陸中東の楽器でしたよね」

 

「おお、よく知ってるねー! さすがは吹奏楽部の期待の新人!」

 

「はは……知識だけで実際に見たことも弾いたこともありませんけどね」

 

「いやいや、知ってるだけですごいよ。うーん、これは私ももっと頑張らないとなぁ。私は遊びで弾いてるだけだし、私も次の演奏会でソロパートを任せられるくらいになってみせる!」

 

「いやいや……教官は吹奏楽部じゃありませんよね?」

 

「メアリーちゃんとは仲良しだし許可も取ってるからへーきへーき! それじゃ次の部活の時もよろしくねー!」

 

「いいのかなぁ……」

 

 ──と、こんな感じで何故か吹奏楽部に顔を出してきたりしている。最近のマイブームらしい。と言っても色んな部活に顔を出してるみたいだけど……なんというか、すごいアグレッシブな人だよね。いつもかなり忙しそうにしてる割には学生以上に部活やら遊びやらを楽しんでる印象だ。

 ただそういうところが悪い人じゃないと思える部分かもしれない。気が抜けるというか……授業の動きなんかを見てるとすごい人なんだろうけどね。裁縫の技術なんかはこの間授業でちょっとだけ見せてくれたけど更にすごかったし。手が見えない上にすごく正確だった。

 

 ──だけどやっぱり色々と謎はあって……特にそのことは帝都での特別実習の2日目……オリヴァルト殿下からも少しだけ匂わされた。

 

「──何よりも現場の責任者として最高のスタッフを揃えてくれたからね」

 

「最高のスタッフ、ですか?」

 

「もしかして……サラ教官のことでしょうか?」

 

「それと一応アーヤも」

 

「はは、彼女たちだけではないがね。ただ学院長がサラくんを引き抜いたのは非常に大きかっただろう。帝国でも指折りの実力者だし、何より《特別実習》の指導には打ってつけの人材だろうからね」

 

 オリヴァルト殿下はそうしてまずはサラ教官のことについて教えてくれた。何でもサラ教官は最年少でA級にまでなった元遊撃士で《紫電のバレスタイン》なんて名前で呼ばれてるらしい。

 まあ二つ名については以前からアーヤ教官が口にしていたから知っていたけど……リィンやラウラが驚いているのを見る限り、かなりすごい人だったみたいだ。

 でもそれならそのサラ教官と同等以上に渡り合っているアーヤ教官の方は一体どんな人なのか。それが気にならないはずがない。

 

「そうだったのか……」

 

「なら殿下。アーヤ教官は……」

 

「……彼女の方は……そうだね。《鉄血宰相》が雇った情報局の新入りということは君たちも知っているとは思うが……アーヤくんの方はサラくんとは逆で、裏の世界で広く名を知られた人物だ」

 

「裏の世界……」

 

「それってつまり……フィーのような……」

 

「いや、アーヤは猟兵じゃないよ。もっとやばい」

 

「まあ、そうだね。詳細は敢えて伏せさせてもらうが……とはいえ悪い人間でないことは保証させてもらうよ。彼女からも君たちの教官の1人として君たちの手助けをするために来たとはっきりと言っていたからね」

 

「それは……」

 

「なんだか余計わからないような……」

 

「すまないね。彼女の素性については少しデリケートな問題なんだ。できれば彼女自身の口から聞いてほしい」

 

「……わかりました」

 

「裏社会の人間かぁ……とてもそうは見えないけど……」

 

 そう言って僕たちは部屋の外から聞こえる声と音の方に視線を向けた。

 

「──はいサラちゃん下手くそ~! 楽器よわよわ~!」

 

「うっさいわね! そもそもなんであんたは楽器なんて弾けるのよ!? 本業はそっちじゃないでしょうが!」

 

「ふふん。私はアーティストだからね! でもってまた私の勝ち~! 《紫電》の速度で焼きそばパンと牛乳お願いね~」

 

「くっ……覚えてなさいよ! 次はこうは行かないから……!」

 

「そういうことはリコーダーの1つでもまともに弾けるようになってから言うんだね! ──へっぽこぴーひゃらサラちゃん♡」

 

「~~~~っ! 本っ当に覚えてなさい! 次の実戦授業ではボコボコにしてやるわ!」

 

 ──本当にね。そうは見えないんだよね……。

 

 僕たちは部屋の外から聞こえてくるサラ教官とアーヤ教官の喧嘩を耳にして呆れ果てる。割と毎回あんな感じで争っているが、実戦技術以外の適当な勝負だとアーヤ教官は謎にスキルが高いため、いつもあんな感じで勝利してサラ教官を煽っていた。まああれもサラ教官を辞めさせないため……なんだよね? うん……そう信じることにしよう。じゃないと頭が痛くなりそうだし。

 そうして僕たちはオリヴァルト殿下から《帝国解放戦線》というテロリストの話や明日の園遊会での警備の話や、マキアスのお父さんが襲撃されたことについての詳しい話を聞いてからその場を後にすることにした。

 

 

 

 

 

 ──どうも! しがない雇われ暗殺者のアーヤ・サイードです! 今の勤め先は主にエレボニア帝国政府と四大名門に帝国解放戦線とかその他諸々です! 

 

 とまあそういうことなので、特別実習の3日目になりました。今日も今日とて私は忙しくしてる。昨日はまだマシだったんだけどね。昨日はちょっとばかし、事情聴取を受けていた。

 というのもレーグニッツ帝都知事が襲撃されたことについて、容疑者として私の名前が上がったらしい。いや、なんで? 私はアリバイあるよー。な、ナニモシテナイヨー。ホントウダヨー? と、やってきたクレアさんやサラちゃんにそう言って、私はちゃんと《鉄血宰相》と共にいたことを説明すれば、サラちゃんの方はともかくクレアちゃんの方は納得してくれた。アリバイがあるというのはやっぱり大きいよね。サラちゃんはそもそもオズボーンを信用してないのでそれでも怪しんでたけど、このタイミングで、しかも宰相の盟友であるレーグニッツ帝都知事を襲う理由が見つからなかったのか、最終的には私を容疑者から外したけどね。ふー……危ない危ない。なんとか誤魔化せた。まあ証拠は一切残してないから仮に詰められても知らぬ存ぜぬで通せたけど、それでも疑われるのは怖い。今までは疑われすらしなかったけどね。これが有名になってしまった弊害か……裏の顔の方はもっと闇に潜んでいたかったなぁ……と思う。私の素性を知ってる人も結構増えてきちゃったからね。こういう時に疑われちゃうのは仕方ない。

 なんなら夕方にはオリヴァルト皇子ことオリビエとも久し振りに会ったしね。普通にオリビエとしてリュートを持ってやってきてたので、私もハーモニカを吹きながら登場して「久し振りー」って気楽に挨拶したら向こうの方が何故か驚いていた。──え、なに? もしかして私がいるの知らなかったの? うん、それはびっくりだね。しょうがない。

 

 ってことでオリビエからも色々聞かれた。エステルくんやヨシュアくんとは会ったのかとか、情報局に、《鉄血宰相》の配下についている理由とか、結社は辞めたのかとか、目的とか、本当に色々ね。そのうち答えられないのはオズボーンの配下についてる理由と目的の一部。なので他はちゃんと嘘をつかずに答えたよ。エステルちゃんとヨシュアくんにはクロスベルで会ったし、結社は辞めてないし、目的としてはⅦ組の副担任として皆の手助けをしたいんだよねって。そう言ったら難しい顔はしてたけど一応納得はしてた。ただ「できることならそのまま表に留まってくれれば有り難いが、そうもいかないのだろうね」となんかわかってるかのような意味深な言葉を投げかけられたので私は反応に困ったよね。いやー……私だってそりゃその方がいいよ? でも言う通り、そうも行かないのが現実ってやつでして……裏でやらなきゃならないこともいっぱいあるし、そこはもうしょうがないと割り切って前向きにやるしかない。なのでⅦ組に危害を与えるつもりはないことはちゃんと約束した上で今度は接する機会もあるかもしれないからよろしくねってしといた。まあ傷つけるつもりはない。戦ったり、勢力的に争ったりはするかもしれないけど、目的としては割と一貫してるし、Ⅶ組は可愛い生徒たちなんだからちゃんと成長を見守って乗り越えてほしいという気持ちでいっぱいだ。こう言うとオズボーンと似たようなスタンスかもしれないね。便宜上敵対はしたりするけど、その根本には好意しかないよ! 本当だよ! イシュメルガとかいう黒カスのせいで言えないけど信じて! 

 

 ……いや、実際迂闊に喋ったりするとどこで感知されるかわかんないから困るんだよね。私ってば最悪なことに下僕のアルベリヒの方とも接点あるし、イシュメルガは精神体で帝国全土に影響を及ぼすほど出現場所が広すぎる地縛霊みたいなもんだからどこで顔を出してきてもおかしくない。これだから帝国に足を踏み入れるのを昔は躊躇してたんだよね。今はもう仕方ないから割り切って普通にしてるけど大変で気苦労があることには変わりない。早くあの怨霊滅びないかなー。

 

 と、それはそれとして。話を戻すとオリヴァルト皇子がⅦ組を呼んだのは明日から始まる夏至祭のことだったりで、更には《帝国解放戦線》が何か事を起こしてくるかもしれないと伝えるためだった。その後でクレアちゃんもやってきてサラちゃんと一緒に鉄道憲兵隊本部でブリーフィングをした。マキアスくんのお父さんが襲撃されたことについても話してマキアスくんは動揺してたけど、怪我もなく命に別状がないことを聞けば一先ずは安心していた。……クレアちゃんはなんだかすごい言い辛そうにしてたけど……ま、まあしょうがないよね? 仕事だし……間違えて媚薬呑ませちゃったけど……もしかしてまだ効果続いてるとかないよね? さすがにね? まだビクンビクンしてるとかだったらさすがに可哀想だ。私がやったことだし、後でお見舞いにでも行こうかな。解毒薬なんて作ってないけど抜いてあげたら助かるかもだし。いやでもさすがに生徒のお父さんはダメか。ならこっそりお見舞いの品だけ置いていこう。

 

 そしてその間にもお話は続き、Ⅶ組は遊軍として夏至祭の警備に協力することになった。私も情報局の人間としてちゃんと説明もする。主に規模とかね。「《帝国解放戦線》は大体100名にも満たない程度の集団だけど幹部はそこそこ厄介だから気をつけるように!」って言ったら普通に皆驚いてた。そしてサラ教官がチクチクと私に言葉を投げかけてきた。「さすがは情報局ね。──いえ、それとも別の筋からの情報かしら?」と。いやいや、サラちゃんやめてよ。結社絡みを匂わせられると私も困る。実際のところ完全に無関係でもないんだよね、これが……《帝国解放戦線》はバックにカイエン公を始めとする《四大名門》と貴族連合がついてて、その協力者には結社もついている。なので実質関わっていると言っても過言じゃない。特に帝国側の計画の主導者であるヴィータ姉さんは《帝国解放戦線》……というかクロウに結構肩入れしてるからね。カイエン公なんかも手駒として見てる。まあクロウ以外は割とどうでもいいと思ってそうだけど。私に暗殺を頼むくらいだし。

 

「ま、帝都のギルドが残ってれば少しは手伝えたんでしょうけどね~」

 

「ええ……それは確かに心強かったと思いますが。……あの、サラさん。遊撃士教会の撤退に鉄道憲兵隊は一切関与していないのですが……」

 

「そうかしら? 少なくとも親分と兄弟筋はいまだに露骨なんだけどね~」

 

「それは……」

 

 そして未だにサラちゃんのチクチク口撃は続いている。クレアちゃんが可哀想! ここは助け舟を出さないと! 

 

「もうサラちゃん。クレア大尉をいじめちゃだめだよ」

 

「……あたしとしてはあんたにも色々物申したい気分なんだけどね」

 

「?」

 

「──って、後ろを向くな! あんたのことよ! まさか忘れたんじゃないでしょうね!?」

 

「や、やだなぁ、サラちゃん。あれは私は関係ないよ。あれはどこかの猟兵くずれとどこかのボクっ子がやったことだし……」

 

「ならあたしたちや《剣聖》を襲ったのは──」

 

「し、シラナイヨー? 一体どこの誰がそんなことを……きっと未だに正体不明なんだろうなー……」

 

「……ま、ムカつくけどいいわ。とにかく、今は兄弟筋もこの脳天気な奴以外は忙しいみたいだし」

 

「だから酷いよサラちゃん! クレア大尉は全然能天気じゃないでしょ!」

 

「あんたのことよ!!」

「あなたのことです!!」

 

「え?」

 

 ──サラちゃんとクレアちゃんに揃ってツッコミを入れられる。心外だなぁ。私が能天気なわけないじゃん。私ほど色々考えててシリアスな人いないよ? 今だって仕事どうしようかなぁ……って考えてるし。Ⅶ組は守らないといけないし、かといって成長を妨げてもいけない。その塩梅が難しいんだよねぇ……全力で急いだ結果ギリギリで助けるのと、助けるタイミングを見計らうのとじゃ結構違う。タイミングを見てるから余計に難しいんだよね。

 まあでも私が助けに入らなくてもⅦ組は乗り越えてくれるはずだよね! 私も教官なんだし、生徒のことを信じないと! 

 

 なのでそのブリーフィングを終えてⅦ組が協力することになって一夜明けてからの3日目──今日から夏至祭だ! アーヤ祭り大好き! 色々見て回りたい! ……なーんて、言ってる場合じゃないんだよなぁ……。今日は仕事の大詰め。帝国解放戦線はテロを起こすし、私はもしもの時のために備えないといけない。それに加えてⅦ組以外に引率もしないといけないのだ。その相手は──

 

「それじゃアーヤさん。今日はよろしくお願いしますね?」

 

「ああ、うん。それじゃ行こっかミルディーヌちゃん」

 

「はい。テロが起こるとすれば園遊会の最中……おそらく午後3時前後になるでしょう。それまでに待ち伏せしておかないといけませんね」

 

「そ、そうとは限らないけど……まあでもそうだね! それじゃ早めに行こうか!」

 

 ということでミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエンちゃんと合流して街へ出た。中等部でまだまだ可愛い少女だけどこの時点でなんか怪しい感じがする。いやまあ初めて会った時からそうなんだけどね。私は何も喋ってないのになんか私のことも色々知ってる雰囲気醸し出すし……叔父のクロワールこと現カイエン公が内戦を起こすこともとっくに読んでるっぽいし、今だってテロリストが具体的にどこを狙って何時くらいに襲ってくるかも何も話してないのに読んできてるし……接してるとちょっぴり怖い時もあるけど良い子だ。私の仕立てる服も気に入ってくれてるし、普通に仲良しではある。

 

「ところで、その手に持っているのは……?」

 

「ん? これはネイだよ?」

 

「中東の楽器ですね。まるで誰でも知っている常識かのように言われても普通の人は知らないと思いますが……そんなものをなぜ持っているんですか?」

 

「最近楽器がマイブームでね! 暇な時に練習しようと思って持ってきたんだよ!」

 

「……そうですか。何やら妙なことになる予感がしますが、マイブームなら仕方ないですね」

 

「ミルディーヌちゃんも吹いてみる?」

 

「今回は遠慮しておきます。それより、この辺りでいいんですか?」

 

「うん、多分ね。ということで──《エクス=マキナ》。ステルスモードしてあげて」

 

『かしこまりー』

 

「! これは……!」

 

 なんてことを喋りながら帝都の地下に降りて事前に待ち伏せするために広場っぽいところの陰にミルディーヌちゃんを待機させることに。多分ここで合ってるはずだし、ここで待っとけばⅦ組の活躍が見れるだろう。なので《エクス=マキナ》を呼び出してミルディーヌちゃんと一緒にステルスしてもらう。この間のアップデートで追加された機能だ。《黒の工房》はその名の通り目的は真っ黒くて信用ならないけど仕事は信用できる。

 

「これで隠れててね」

 

「……驚きましたね。このような武装……いえ、兵器まで所持しているとは……」

 

「まあ私も伝手があるからね。でも静かにしてね。音とかは消えないし、ステルスって言っても思ったよりは隠れないからさ」

 

「わかりました。アーヤさんを反面教師にして大人しく見てますね」

 

「どういう意味!? 私は静かだよ! 隠れるのは上手いってよく言われてたんだから」

 

「隠れるのは上手い、ですか……なるほど。確かにそうですね。失礼しました」

 

「ミルディーヌちゃんにも今度上手い隠れ方教えてあげるね。それじゃちょっと待っててねー」

 

 と、ミルディーヌちゃんをその場に置いて別れる。大人しく隠れてれば見つからないだろうし、魔獣なんかが出ても《エクス=マキナ》が倒してくれるだろうから何も問題なし! 後は私も着替えて……と。合流して手伝おっと。

 

「やっほやっほー。準備は順調?」

 

「!? 貴様は……こんなとこで何をしている?」

 

「何をって手伝いに来たんだよ。雇い主の依頼でね」

 

「雇い主……か。なるほど。それは結構なことだが、そちらの手伝いなど必要ない」

 

「まあまあ。警備が強化されてるって話だし、念の為いといてあげるよ! もしもの時は手伝ってあげるからさ!」

 

「ふん……なら大人しく見ておくがいい。私の計画が成就する瞬間をな」

 

 次にやってきたのは地下でなんか隠れてたテロリスト。《帝国解放戦線》の皆さんだ。幹部の同志《G》ことギデオンもいる。地下を利用するのはいいんだけど隠密がまだまだなってないなぁとは思う。私でもこれだけできるんだからもうちょっと頑張ってみない? 隠れるの大事だよ? なんなら教えてあげよっかとも思ったけどテロリストだしなぁ……ま、いっか。仕事しよ仕事。

 

「……ところで貴様のその格好はなんだ?」

 

「おお、これに目を付けるなんてお目が高いね! これは《帝国解放戦線》衣装だよ! それっぽいでしょ! 私のことは同志《A》って呼んでね!」

 

「……貴様は同志ではない。《A》と呼ぶのは了承して構わないが、同志と呼ぶことは遠慮させてもらおう」

 

「オッケー。それじゃそんな感じで」

 

 ギデオンが私の格好に言及してきたのでくるりと回ってその衣装を見せつつ名前も隠すように告げるも同志と呼ぶことは否定するし、協力も拒んでくる。なんかつれないなぁ……でもつれないなりに雇い主である貴族連合に雇われてる私に対する一定の配慮は感じる。大人の対応って感じだね。でもテロリストなんだよなぁ……まあいいけどね。とりあえず作戦決行だ! 園遊会に突入して警備をぶっ倒してアルフィン皇女を誘拐だ! 正直そんなことぐらいでオズボーンが揺らぐかって言うとそうでもない気もするけど一国の皇女を誘拐は普通にヤバいことだからね。そんなことしでかすなんて……本当に悪い人だね! 私でも王族誘拐なんて──

 

「したことあった……」

 

「突然膝を突いて何をしている? 《A》」

 

「なんでもない……」

 

 地面に両手を突いて落ち込む。そういえばクローゼちゃん誘拐とかしたなぁ……で、でもあれは塩の教授にやれって言われたことだから……私が自分の意志でやったわけじゃないからギリギリセーフだよね……! 

 

「──そこまでだッ!!」

 

 ──うわ、もう来た!? リィンくんたちA班! まだ皇女とリィンくんの義妹のエリゼ・シュバルツァーちゃんを攫ってからそんなに経ってないのに! すごいぞ! 教官として鼻が高い。奇襲もよく出来てるね! まあ私は気付いてたけど! 

 

「──兄様!」

 

「皆さん……!」

 

「ここまでだ。殿下とエリゼを解放してもらおうか」

 

「あまりの不敬、見過ごすのはさすがに躊躇われるが……」

 

「大人しく解放するなら見逃さないでもないぞ?」

 

「こいつら……」

 

「5対3。勝ち目はないよ。少なくとも2人を連れて逃げ切るのは不可能」

 

「その、まずは2人を解放してもらえませんか?」

 

「フフ……恐れ入った。《トールズ士官学院》……まさかここまでの逸材たちを育てていたとは」

 

「世辞は無用。2人を解放するかこのまま睨み合うかだけだ。言っておくが……2人に傷一つでも付けたら一切の容赦はしないと思え」

 

 そしてこれにはテロリストたちも怯む! というか普通に囲まれちゃってるよ! リィンくんたちがすごい! テロリストは情けない! もっと頑張ろう! ギデオンは元教師だっけ? だからかちょっと感心してるみたいだけど別に諦めてる感じはしない。一応声掛けようかな。咄嗟に隠れちゃったけど私が手を出すって選択肢もなくはないしね。

 

「……分かった、降参だ。少なくとも我々だけでは勝ち目が無いことだけは認めよう」

 

「我々だけでは……?」

 

「……大人しく解放する気は?」

 

「ああ──“彼”に勝てたら考えよう」

 

 あ、もしかして今? 今やる感じ? それとも違う? なんか攫った2人を眠らせてるし、笛取り出したし。ってことは魔獣使うのかな……ってことは私やることないじゃん…………なんか暇だなー……暇だし、私も笛でも吹いとこうかな。中東の笛のネイね。中東の笛って言ってもスポーツ用語じゃないよ。ちゃんとした楽器だ。暇なんでそれでも吹いていようと。

 

「クク、気絶させただけさ。うら若き乙女に見せるのは少々躊躇われるからな」

 

「な、なんだ……!?」

 

「……咆哮……」

 

「これは……」

 

 そうして私も笛を吹いていると──

 

「……なんか別の笛の音が……」

 

「そのせいか、何も起こらない……」

 

「《A》!! 貴様、何をしている!?」

 

「え? あ、ごめん。暇だったから笛吹いてた」

 

「!? 新手……!?」

 

「もう1人いたのか……!」

 

「気配に気付けなかった……」

 

 ──なんか知らんけど魔獣が呼び起こされなかったんで私が怒られる。え、そんなことある? なんとなくセッションしてみただけなのに……その程度でアーティファクトが効果を発生しないなんてなくない? ただギデオンが笛の音色間違えただけとかじゃ? しかもそれでⅦ組の皆にも姿を視認されるけどそれはいい。分かってたことだし。

 

「邪魔をするなと言わなかったか!?」

 

「邪魔はしてないけど……それより手伝おうか? 私ならその2人を連れて逃げることも一応できるけど……」

 

「っ……まだ必要ない! いいから大人しくしておけ」

 

「仕方ないな……」

 

 私は少し離れて見物に回る。まあちっちゃく鳴らせば大丈夫かな。音を抑えて練習しよう。それなら大丈夫だろうしってことで今度こそギデオンが暗黒竜を復活させるのを眺める。おお……スケルトンドラゴンだ……! 

 

「クックックッ……ハハハハハハハハッ!! これぞ《降魔の笛》の力……! 暗黒時代の帝都の“魔”すらも従わせる古代遺物だ……!」

 

 まあまあすごそうな骨の竜が復活してギデオンもこれにはご満悦だ。私もちょっとだけ感動。確か暗黒竜って本物もいるんだっけ? その辺りの設定は忘れたけど、確かに大層な魔獣ではある。

 でもこの時点のⅦ組の半数でも倒せるんだから大したことないよね? 個人的には強そうに見えるけど、倒せるってことは私でもいけるってことか……。

 

 まあでも私が戦うことはないか! よーし! 安心して観戦しよう! Ⅶ組がんばれー! ギデオンも別に何の義理もないけど死ぬなよー! 一応殺さなくていいプランを考えて来たんだから! 暗黒竜も適当に頑張ってⅦ組を成長させろー! 

 

「さあ、それでは今度こそ死出の旅路へと向かいたまえ……《トールズ士官学院》Ⅶ組の諸君!」

 

「──みんな! 気合いを入れるぞ! 今回の実習で俺たちが得たものを考えたら──勝てない相手じゃないッ!」

 

「!」

 

「その通りだ……!」

 

「クッ……悪あがきを! 行くがいい、暗黒時代の魔物よ! この愚かで哀れな若者どもに無慈悲なる鉄槌を下すがいい!!」

 

「ゴオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 そして伝説の暗黒竜は、ギデオンの声に応えてⅦ組に──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ぐああああああああああああ!!?」

 

「ど……同志《G》ィ────!!?」

 

 ──ではなく、ギデオンを叩き潰した。

 

「え……いや、なんで?」

 

「ど、どういうことだ!?」

 

「瘴気が再び……!?」

 

「操った相手も襲うなんて……!」

 

「なんて凶暴な魔獣なんだ……!」

 

 ……え、いや、そんなことある? なんで凶暴化してるの? 何も変なこと起きてないよね? 私も何もしてないし……ちょっと笛吹いただけで……。

 

 …………もしかしてその笛の音のせい? ……いやいや、そんな馬鹿な……これただの笛だよ? 確かにちょっと《降魔の笛》とセッションはしたけどさ……それでなんか干渉しちゃった? オジサンも私はアーティファクトと相性が良いとか悪いとか言ってたし……いやいや、でも私が直接吹いたわけじゃ──

 

「くっ……強い……!」

 

「このままでは……!」

 

「ど、どうするんだ……!?」

 

「このままじゃ俺たちまでやられちまう……!」

 

 ──って、そんな場合じゃなーい!!? このままじゃ皆死んじゃうー!! 暗黒竜に喰い殺されるー!! テロリストはどうでもいいけどアルフィン皇女もエリゼちゃんもいるし、Ⅶ組も危なーい!! 早く着替えて教官として手助けしないと!! だからちょっとだけ待っててねー!! 急げええええ!! うわああああああああん!!




今回はここまで。月末は忙しくてちょっと空いたけど次回は9月2日くらいかな。次回は頼れる教官アーヤちゃんの出番です。お楽しみに。

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