──そいつは扱いが難しい奴だった。
最初の出会いは俺たち《帝国解放戦線》のスポンサーのカイエン公に紹介されて出会ったんだが……最初見た時は普通の明るいだけの女に見えたんだがな。
いや、今も普通の女に見えるっちゃ見える。だが、そいつの素性と実力を知った後じゃその普通さが逆に恐ろしく見える。ヴィータから結社切っての暗殺者と聞いた時は冗談か何かだと思ったが、今じゃ納得しかない。騎神を元にしてシュミットの爺さんが作った機甲兵も簡単に乗りこなしてたしな。その機甲兵の戦いじゃさすがに俺の方に軍配が上がるが、素のやり合いじゃ正直なところ勝てる気がしない。あいつの隠形は異常だし、攻撃には殺意はないくせに思い切りが良すぎて殺されちまうんじゃないかとヒヤヒヤする。おまけに傷をつけられねぇ。仮にあいつを本気でやるんならオルディーネを出す必要があるんじゃないかと割と真面目に思う。なんなら機甲兵より硬いんじゃねぇか? ……それはさすがに言い過ぎか? でもそんな馬鹿な比較が成り立つくらいにはあいつは硬い。ヴィータの奴は“そういう異能”だと言ってたが、つくづく結社ってのは化け物ばっかの魔窟だと思い知った。
……だがそれだけの化け物だからこそ、俺たちとしちゃちょっと複雑な気持ちを抱えてる。
いや、俺個人としてはあいつのことは嫌いじゃねぇよ? むしろ明るい良い奴だと思ってる。妙に気の抜ける奴ではあるが、悪気は全く感じないし、人のことを考えてる良い奴だと思う。愛嬌もあるしな。歳も同じだし、たまに会うとカードゲームやらで遊んで適当に駄弁ったりする。……まあ学院に来た時はさすがにビビったけどな。実戦技術の教官になったと聞いた時は一周回って感心しちまったが、よくよく考えなくてもおかしすぎる。結社の人間が情報局に入ってしかも士官学院の教官になるって、そんなことが許されていいのか? ギリアス・オズボーンはイカれてんのかと仇敵の頭を本気で心配しちまったくらいだ。
まあそれもスパイのため。情報収集を行うためと言われちゃ納得するしかなかったが。実際あいつが持ってくる情報はどれも有用なものばかりだしな。俺たちとしても少なからず役立たせてもらってるが……役に立ちすぎるってのも考えものだ。これじゃ俺たちの大義がブレちまう。
アーヤ・サイードは優秀過ぎる暗殺者だが、優秀過ぎるからこそ使うわけにはいかない。そもそもあいつは結社でヴィータとか他の奴らと同じ。《鉄血宰相》に恨みを持っているわけではない部外者だ。貴族連合と同じくバックアップしてくれることは助かるし恩に着るが、あいつに任せたら全てが終わっちまいかねない。事実、カイエン公はあいつの有能さを見て鉄血宰相を直接暗殺出来ないかとあいつに一度持ちかけていた。その提案にあいつは「色んな意味でガードが硬いんで難しいかと……」と苦笑いをしながら拒否していたが、あいつは難しいとは言っても無理とは言わなかった。もしかしたらあいつなりに俺たちに気を使った可能性があると俺は思い、そのことを心の中で感謝したが、それでもあいつが俺たちにとって目的を奪ってしまうような存在であることには変わりない。カイエン公は俺を騎神の起動者として丁重に扱ってくれているが、《帝国解放戦線》の方はただの駒でしかない。表立って事を荒立てずに《鉄血宰相》を中心とする革新派を追い立てるただの駒。成功すればそれで良いが、失敗したところで気にも留めないだろう。
そしてそんな他人を利用することしか考えてない貴族共だからこそ、俺たちよりも使える《血染の裁縫師》を重用してしまうことを俺たちは危惧していた。カイエン公はアーヤに協力してもらうように俺たちに告げてくるが、それを認めてアーヤに計画を手伝わせると色んな意味で台無しになっちまう可能性がある。成功したところで俺たちの《鉄血宰相》に対する仕返しは成り立たない。他人に任せてやる遊戯ほど面白くないもんはないからな。《鉄血宰相》の行う遊戯に一度乗った以上、俺たちは俺たちでやるのが筋ってもんだ。カイエン公だろうがヴィータだろうがあいつはやらせねぇ。必ず俺たちで仕留める。
だからこそ俺は個人的にアーヤと仲良くしつつもアーヤを使うことを良しとはしなかった。他の仲間も同じだ。俺たちの作戦なんざアーヤにしてみればたった1人で簡単にこなせちまうようなガキのお使いにしか見えないかもしれねぇが、俺たちにも意地がある。少なくともそれが済むまではスパイとして使うことに留めて大人しくしてもらおうと俺たちは思っていた。
だからもしトールズの教官として。あるいは情報局の特務少尉として出てくるならある程度は戦いを演じる必要もあるかもなと思う。あいつが俺たちと通じてるとバレるわけにはいかない。《鉄血宰相》なら既に見抜いてる可能性もあるが、少なくともそこ以外にはっきりとさせるわけにはいかない。
だから対面上、本気で敵として扱う必要があった。そう、それは覚悟してる。《鉄血の子供たち》を相手にするように、革新派で最も警戒するべき敵として扱うと──
「ぎゃ────!!? 危な──い!! このっ! 骨のくせに謎に強いのやめろ!! さっさと成仏して! 悪霊退散! 悪霊退散! あーもうなんなのこの瘴気! 煙たいからやめろアホー!」
──と、そう思ってたんだが……なんだこの状況は?
帝都ヘイムダルの地下。作戦遂行中のギデオンを案じて俺は《帝国解放戦線》のリーダー《C》としての仮面を被り、同じ仲間の幹部であるヴァルカンとスカーレットを連れてやってきたんだが……そこで行われていた骨の竜とアーヤの戦いを見て俺たちは困惑した。
ギデオンの《降魔の笛》で操ったものかとも思ったが、よく見ればギデオンは既に地面に倒れ、笛も破壊されている。つまり何らかのイレギュラーが起きてこの魔獣にギデオンはやられちまったと見るべきだが……だとしてこの状況はどうするべきか。ギデオンのことは残念だが……しばらくは様子を見て、アーヤがこの骨の竜を倒した後で姿を現すのが得策か……。
「だ、大丈夫ですか教官!?」
「一応ね! 死霊系の魔獣は苦手だけど大丈夫! それより──あっ! そっちにまだ隠れてる人いるからそっちの対応お願い!」
「!?」
「何だって!?」
──と、そう思っていたところで再びの衝撃。戦闘中のアーヤが隠れている俺たちの気配を察知してⅦ組に指示を送った。
頭の中で思い描いていた段取りが一瞬にして崩れた瞬間だった。仕方ねぇ……アーヤが骨の竜と戦ってるのはある意味好都合とも言えるし、少し忙しないし騒がしいが、Ⅶ組の連中に挨拶しとくか。《帝国解放戦線》のリーダーとしてな。俺はヴァルカンとスカーレットに目で合図し、姿を現す。
「ほう……よくぞ気付いたな」
「ガキ共の教官か。さすがにやるじゃねぇか」
「情報局の人間なだけはあるみたいね」
「っ……お前たちは……!?」
リィンが姿を現した俺たちを見て声を上げる。他のⅦ組の連中もテロリストの仲間が現れて驚いているみたいだな。ちょっと可哀想だが、仕方がない。別に殺すつもりも傷つけるつもりもないからな。ただ挨拶だけはさせてもらうが。
「同志《G》は……手遅れだったか。やはり潮時か」
「お前たちもそこのテロリストの仲間か……!」
「如何にも。私は《C》。《帝国解放戦線》のリーダーを務めさせてもらっている。よろしく頼むよ──《Ⅶ組》の諸君」
「俺たちのことまで……!」
「フフ、さて。本来ならば作戦を見届け、失敗するようであれば皇族を返却した後に余興でも行おうと思っていたのだが……生憎と立て込んでいるようだな?」
「そうね。残念だわ。あんな骨の竜が暴れてるんじゃあね」
「命拾いしたな、ガキ共。本来なら同志《G》の無念を晴らして──ゲフゥ!?」
──と、そうして挨拶だけを行おうとしたところ……同志《V》の腹に骨の破片が激突した。
普通にただ飛んできたわけじゃない。骨の竜の攻撃をアーヤが弾いた結果、偶然にもヴァルカンに当たってしまった。その不運すぎる結果に俺たちは動揺する。
「ど、同志《V》!?」
「大丈夫!?」
「た、大したことねぇ……! だが……てめぇ何しやがる……!? 喧嘩売ってんのか……!!」
「あ、ごめん。…………って、ごめんじゃない! そんなところにいる方が悪いでしょーが! 邪魔だし何もしないなら見逃してあげるからさっさと帰れー! こっちは今それどころじゃないの!」
「何だと……!?」
ヴァルカンの怒りに一度は謝ってみせるアーヤだが、少ししてすぐに自分は悪くないとでも思ったのだろう。ヴァルカンや俺たちに帰れと告げる。おそらくはここで戦って捕まえるようなことになったらヤバいと俺たちに気を使ったものだろう。一応その意は読み取った。実際避けられなかったヴァルカンが悪いとも言えなくもない。
「舐めやがって……! その骨の竜ごとやっちまってもいいんだぜ……!?」
「落ち着け、同志《V》。ここで奴とやり合うのは得策ではない」
「そうよ。勝手に潰し合ってくれるのだからここは同志《G》の遺体を回収して撤退するべきだわ」
「……そうだな。すまねぇ。つい熱くなっちまったぜ。あんなスカスカな骨の竜の骨をぶつけられたくらいでカッとなっちまうとはな。俺としたことが──」
そうしてヴァルカンが冷静になった直後。俺は骨の竜がその言葉に反応して
「ゴオオオオオオ!!」
「ぐわああああああ!!?」
「ど、同志《V》──!?」
──闇の息吹を放ってきやがった。
近くにいた俺たちもなんとかガードを行うが、少なからずダメージを負う。もちろん大したことじゃなかったが……それでも直撃したヴァルカンを心配して俺とスカーレットは駆け寄った。
「大丈夫か!? 同志《V》!」
「だ、大丈夫だ……ガードはした……だが、あの骨の竜……まさか俺の言葉に反応を……!?」
「一体どういうこと……?」
「スカスカとか言ったから怒ったんだよ! 多分!」
「グルゥ……」
「あ、アーヤ教官!? 魔獣の言葉が分かるんですか!?」
「いや、多分適当だと思う……」
「だがまるで意思疎通が取れてるようにも見えなくもないぞ……」
「知能があるのか……?」
「多分真面目に考えることじゃないと思うけど……アーヤだし……前も団で襲った時に似たようなことあったし……」
「前にもあったんだ……」
俺たちだけじゃなくⅦ組の連中も困惑する。そりゃ困惑する。魔獣までアーヤみたいに意味不明な行動を取ってくるなんてな……あまりにも厄介すぎる。
「もしかして……これが種族を超えた友情……YU-JOってコト……?」
「な、何を言ってるんですかアーヤ教官!」
「意味がわかりません!」
「リィンにマキアスも落ち着いて。アーヤはいつもあれで正気だよ」
「でももしかしたら本当に……?」
「そういうこともあるのか……?」
──あるわけねぇだろ、と、エリオットとラウラにツッコミたい。だが今は《C》の仮面を付けてるためそれは出来ねぇ。中々に頭が痛い状況だった。
「グルル……」
「あ! でもなんか手を伸ばして……! もしかして握手を求めてる……?」
「嘘だろ?」
──と思っていたが骨の竜が手をアーヤに向けてゆっくり近づけていたため、俺は思わず素の口調で声を出してしまう。変声機を使っているため問題はないと思うが……いや、それよりもどういうことだと俺はそれを見守った。
骨の竜はアーヤに近づいて、それからゆっくりと頭を近づけている。まさか本当にアーヤに操られて……? それとも本当に友情が……?
「それなら……お手!」
「ガブ」
「あっ」
──と、俺たちが固唾をのんで見守る中、アーヤは手を差し出し……そしてその手を噛まれた。
そのあまりにもシュールな光景。意味不明な一連の流れに時が止まる。俺たち《帝国解放戦線》もⅦ組も。アーヤの手が噛まれたことで思考も動きも止まり……。
「──って、痛いわこの馬鹿あああああ!!」
「なっ──!? ぐっ!?」
「きゃあ!?」
「ま、またか……!!」
──だが次の瞬間。噛まれたことに怒りを発したアーヤがその手に持っていた大剣で骨の竜の頭を殴るように斬り飛ばし、その頭蓋骨が意図せず俺たちのところに飛んできたことで俺たちは再びダメージを負った。
そうして出来た俺たちの隙を、あいつの教え子たちは見逃さなかった。
「──今だ! 殿下たちを救出する!」
「向こうはダメージを負ってる! 今ならいけるよ!」
「了解した……!」
「なるほど……! このためにアーヤ教官はあえて意味不明な行動を……! さすがです! アーヤ教官!」
「え? あ、うん。そういうことだよ!」
「多分違うような反応してるけどそれは言ってる場合じゃないよね……!」
「くっ……しまった……!」
リィンの号令と共にⅦ組の面子が俺たちの方に奇襲をかけ、アルフィン皇女やリィンの妹を抱えていた仲間を倒され、俺たちの方にも手を出されないようリィンにラウラやフィーといったそこそこ出来る面々の攻撃が加えられる。元々返すつもりだったからそれはが別にいいが……それでも自主的に取り返されるとは思わなかった。
だからこそ少しばかり面白さを感じる。リィンが、いや、リィンたちがまさかここまでやるとはな。個人の実力はまだまだだが、それでも面白い。骨の竜も倒されたことだし、そもそも戦闘はもう始まってしまった。
だから少しばかり相手になってやろうと俺は俺の得物を取り出す。
「刀使いに大剣使い……それと双銃剣の使い手か」
「その武具は……!?」
「暗黒時代の遺物、双刃剣か……!」
「来い──相手をしてやろう。士官学院Ⅶ組の力……見せてもらおうか!」
そうして俺たちを捕まえようとするⅦ組の武術トップ3の面々を迎え撃つ形で俺は相手にする。確かにダメージは負ったが、これくらいで負けるほど《帝国解放戦線》は弱くはないってことをこいつらに教えてやるぜ……!
──そうして俺はⅦ組と戦った。3対1だったが、結果は俺の圧勝で終わろうと……。
「──危ない! 《C》!」
「は? ──うおぉ!?」
──と、勝利直前。俺はスカーレットの言葉にギリギリで反応して身体を動かす。Ⅶ組を返り討ちにしようとしていた俺の横っ腹に
「あ……っと。大剣すっぽ抜けちゃった。噛まれたせいで手が痛くて……めんごめんご」
「……………………どうやら余興はここまでのようだな」
……すっぽ抜けちゃったじゃねぇよ! 危ねぇな! 殺す気か! というか死ぬところだったぞ!?
俺は内心だけで叫ぶ。クソ……! あいつが敵にいると何もかも思い通りにいかねぇ……! だがせめて名乗りだけは──
「……命拾いしたな」
「命拾いしたのはそっちの方じゃないのか?」
「…………とにかく、我々は《帝国解放戦線》。静かなる怒りの焔をたたえ「──そこまでです!」度し難き独裁者に鉄槌を下す……まあそういった集団だ……」
「え? なんて? もっかい言って? クレア大尉のクソデカボイスで聞こえなかった」
「……………………」
──だあああ!! 本っ当に何も上手くいかねぇ!! もう撤退だ!!
やってきた鉄道憲兵隊やサラ・バレスタインからも逃げるように爆薬を使って俺たちその場を後にした。ちょっと顔を出しただけだってのに異常に疲れた……なるほどな……これがヴィータの言ってたアーヤの厄介な部分かよ……これはもうちょっと慣れねぇと活動に支障が出そうだな……。
──ご苦労さまであります! 帝国正規軍情報局の特務少尉のアーヤ・サイードであります! 情報局切っての敏腕有能新入りとは私のことであります!
なんてたって……帝都ヘイムダルでの特別実習は無事に大成功! 《帝国解放戦線》のテロも無事に阻止したし、頼まれた仕事もほぼ全部終わった! ミッションコンプリート! 私にビッグボスの称号を与える! それくらい完璧な立ち回りだった!
……まあちょっとばかしイレギュラーなことも起こったけど……でも結果的には悪くない。結果としてレーグニッツ帝都知事は脅したし、帝国解放戦線の幹部は1人捕まったし、ミュゼちゃんにⅦ組の活躍を少しだが見せることは出来た。ミュゼちゃんは満足そうにしてたし、カイエン公も多分これで文句はないだろう。そして《鉄血宰相》に関してもヘイムダルを後にする前にⅦ組の前に姿を現したし、私とも話したけど「ご苦労」と労ってくれた。Ⅶ組に対しても「若き獅子たちの育成のために私からも優秀な人材を派遣させてもらったのだが……」と改めて私を出向させたのが《鉄血宰相》であることをここで開示する。まあわかりきったことではあったけどね。それにサラちゃんは「ええ、非常に助かってます。こんな優秀な人材をどこから引き抜いたのか、すごく気になりますわ」とすごく含みのある抑揚と笑顔で言っていたため、私は苦笑いを浮かべるしかなかった。意訳すると「てめぇ結社と繋がりあんだろ? おぉん。遊撃士舐めてんのか?」みたいな感じ。サラちゃんってかなり気が強いよね。オズボーン宰相にまでそんなチクチク言葉を投げられるなんてすごい度胸だよ。まあこういうやり取りは宰相閣下の方も望むところなんだろうけどね。そのサラちゃんのデッドボールに対しオズボーンは「フフ……大したことではない。有能な若者を迎え入れることは引いては国益となる。君も教官としてこれからも若者を導いてやって欲しい」と、サラちゃんが鼻を鳴らすくらいしかできない言葉で躱していた。国益のために元遊撃士のお前も頑張れよってところかな。実際トールズの教官って時点でほぼ公務員みたいなもんだからね。その気になればいつでも首を切られそう。まあ理事長が皇族で理事に貴族派の大貴族と革新派の帝都知事と一応中立派の大企業のトップと勢力が別れてるとはいえ実質理事長のオリヴァルト殿下以外は《鉄血宰相》の配下みたいなもんだしね……まあそれはともかくとして最後にいつもの“激動の時代”というキーワードを口にしてギリアス・オズボーンはⅦ組への激励を終えた。本当に激動なんだよなぁ……これから数年の間にどんだけ世界がヤバい事件起きるんだよってレベル。そしてそれを見通してる《鉄血宰相》もやっぱりチート親父だ。味方で良かった!
──とまあそんなことがありけり、遂に夏が来た! 季節は夏! 8月! 夏休みだ! いえいいえーい! 海行こう海! 山でピクニックもいいよ! 川遊びも楽しいし! 新しい水着も仕立ててあるし! もしくはリゾート地でも行く!? サルバッドとかヴァリス市国のリゾートホテルとかおすすめだよ! 遊び尽くそう!
なーんて、思ってたけどここは士官学院。年末年始以外の長期休暇はありません。夏季休暇も5日しかありません……そもそも教官に夏休みなんてありません……でも貴族生徒は普通に夏休みあるから学院にいません……くっそー。残念だ。まあ私はそもそも忙しすぎてその5日もずっと服仕立ててたんだけどね。でも結構納品出来たし楽しかったからいいかな。
ただ……表の仕事はそれで良かったんだけど裏の方がやっぱり忙しい。何があったかって言うとまあ──久し振りに顔を出してきた。結社の方にね。
「──フフ、素晴らしい数値だ。以前の計測より同調率が31%も向上している。これなら更に別の機能を付けても問題なさそうだね?」
「はぁ、そう言われてもなんとやらだけど……早く服仕立てないといけないから手短にお願いできます?」
「……君は殲滅天使と比べて頭脳面で劣っているのが些か問題だね。まあ理解してもらう必要は確かにないが……」
「はぁ? 馬鹿じゃないし。むしろ頭良い方なんですけど! というかレンみたいな天才と比べないでくれない!?」
「すまないねぇ。いなくなってしまった彼女のことを思ってつい口にしてしまった。君からも結社に戻って来るように説得してもらえると助かるのだが……」
「嫌でーす。そもそもレンは私の言うことなんて多分聞かないでしょ。説得したいならご自分でどうぞー」
「そうかね? 私の見立てでは君の説得なら応じる可能性も高いと見ているのだが……」
──はい。シャットアウト。そんなわけで私が会ったのは結社の第六柱。《十三工房》統括者のF・ノバルティス博士。私があんまり会いたくない結社の使徒の1人でなのに接することの多い使徒の1人でもあるというイカれ変態マッドサイエンティスト。
なので会っても全然嬉しくないし、呼び出されても気分は滅入る。慣れてるけどね。冷房がめちゃくちゃ効いている部屋なのは良いし、私が結社に入った頃ほど無茶な実験は減ったとはいえたまにこうして呼び出しては実験に駆り出される。今日も博士が発明したものの実験テストのために来たんだけど……うーん。正直趣味じゃないんだよなぁ。ロマンは感じないでもないんだけど……どうせ作るならもっと私の趣味に合うものを作ってほしい。ゴルディアス級の兵器なんかより機甲兵の方が好みだよ、私は。
なのでレンの説得とかいうやるわけない提案は無視して私は博士の講釈を適当に聞き流しながら提案する。
「そんなことより最新の導力ゲームについてアドバイスくれない? 友達が作ろうと頑張ってるんだけど技術的な部分で結構悩んでるみたいでさ」
「導力ゲーム……ああ、財団が開発しているあのくだらないお遊びのことかね?」
「博士は
「……不本意な呼び方はやめてくれたまえ。生憎とあんなお遊びにかまけている暇はないのだよ」
「遊んだことあるの?」
「あるわけないだろう? 一度どういうものなのかと覗いては見たが、触れるにも値しないものだったからねぇ」
一応は凄腕の技術者ではある博士に私は前々から考えていた導力ゲームについての相談を持ちかけてみたが、博士はあまり興味がないみたいだった。なるほど。つまり──ああ、可哀想に。そういえば博士って友達いないもんね……そりゃ一緒に遊ぶ相手もいないか……。
私は少しばかり可哀想になる。なので興味を持たせることも兼ねて私は親切で提案してみた。
「そっかぁ……じゃあ私と遊んでみる?」
「……話を聞いていなかったのか? なぜこの私がそんな低レベルなお遊びに時間を割く必要が──」
「触れたこともないのに低レベルって決めつけるのは良くなくない? ってことでほら、私が前にクロスベルの端末から抜き取った媒体に入ってるでしょ? これで一回だけやってみよう──じゃないと実験協力しないよ?」
「ぐっ……」
私が最後にそう付け加えると博士が怯む。ふふん。博士の扱い方は分かっている。実験の協力を条件に出せばある程度は頼みも聞いてくれるのだ。この変態博士は別に強くはないからね。マッドではあるけど昔ほど怖くはない。私の方が強いしね!
「……仕方あるまい。ただし一度だけだ」
「それでいいよ。ちなみに私結構強いから負けたからってキレたりしないでね?」
「フ……何を言うかと思えば。お遊びとはいえ導力端末を使った競い合いで君如きが私に勝てる筈が──」
──数分後。
「よっわ」
「アーヤ・サイード! き、貴様何をした!? こ、この私が一瞬で負けてしまうなど……!」
「いや、普通に連鎖しただけなんだけど……」
「くっ……わかった。ならばもう一度──」
「一度だけって約束だからね。今日はもう終わらないとだよねー」
「なっ──」
“ポムっと! ”でゲームよわよわおじいちゃん博士を瞬殺してしたり顔でそう言えば博士は絶句した。思ったより悔しかったのだろう。もう一度私に挑もうとしていたが、それを防がれて何も言えないご様子だ。
それでもここでデュバリィちゃんとかならムキになって挑んでくるだろうが……博士はその怒りを飲み込んだ後で静かに別の返答を返す。
「…………わかった。いいだろう。今回はここまでだ」
「あれ? 負けっぱなしでいいの?」
「フフ、私がそんな子供の遊びにムキになるとでも思ったかね?」
「そっかー。なら導力ゲームについてのアドバイスはなし?」
「まあ本来ならばこのようなお遊びにかまけている暇はないのだがね。せっかくだ。普段実験に協力してもらっている見返りとして少しだけならば見てやるのも吝かではない」
「やったー! それじゃはい! 端末に企画書と試作品が入ってるから確認して!」
──よし! 上手くいった! 変態博士が導力ゲームに興味を持ったぞ! 多分だけど! この後こっそり練習したりするに違いない! 博士くらいの技術力があればス◯ッチやプレ◯テどころかフルダイブのゲームすら作れそうだし、上手く条件を引き出して協力してもらおう! デスゲームを作っちゃいそうなのがちょっと怖いけどそこは気をつければ問題ないしね!
そういうことで私はそれからしばらく変態ゲーム初心者博士に友人が企画してる導力ゲームの説明をして──
「──ああ、それとこの後はカンパネルラと共にクロスベルに行くのだが……せっかくだ。君も私の護衛を兼ねて付いて来るかね? 幾つかの用事と次の計画の下見も兼ねているのだが」
「あ、それは大丈夫でーす。私は授業とか軍務で忙しいのでー」
──そしてクロスベルに行くことを告げられて私も付いてくるかと聞かれたが、それは断っておいた。ってことは『碧の軌跡』始まるじゃん……って思ったけどクロスベルに行くのはまだちょっと気まずいし……特務支援課と会うのなんて最後ら辺だけでいいよね? そもそも今月末はあの国際会議も近づいてるから色んな意味で行きたくない。帝国もアレだけど今年のクロスベルも魔都の名に相応しい混沌ぶりだし、仕事がなければ近づきたくは──
──後日。帝国に戻った私は《鉄血宰相》に呼び出されて命じられた。
「──今月末にクロスベルで開催される《西ゼムリア通商会議》に君も私の護衛として参加したまえ。アーヤ・サイード特務少尉」
「アッハイ。了解であります閣下……」
──ということで軍人である私はその命令に従う他なく、私はゼムリア大陸初の国際会議である《西ゼムリア通商会議》に護衛として参加することになった……「襲撃してくるテロリストは
今回はここまで。次回はミリアムとクロウが合流しつつレグラムで観光します。《光の剣匠》なんて会うわけないしきっと楽しいだけの観光になるはず。そして碧の軌跡もその後で始まります。《西ゼムリア通商会議》もきっと平和的に終わるんだろうなーってことでお楽しみに。
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