TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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光の剣匠と手合わせする不幸

 ──私が知る強さと最もかけ離れた者……それがアーヤ教官だ。

 

 私は幼少より強さを求めてきた。私の生まれたアルゼイド家はその名の通り《アルゼイド流》を伝承する家系である。ゆえに貴族としての務めも然ることながら、アルゼイドの剣と強さを父上より教わってきた。

 強さとは心より生まれるもの。心なき力はただの力でしかない。己の魂と意志を持って剣を振るうべし──それが父上の教えである。

 だから私も己の剣に誇りを持って自らの心と体と技を鍛えてきた。未だ道半ばであり、未熟も良いところではあるが、トールズに入ってⅦ組の仲間と出会ったことで私も少なからず成長しているという実感がある。特別実習を経てリィンと分かり合い、そしてフィーとも認めあったことで私はまた一歩先に進んだ。

 とはいえ言ったように未だ道半ば。アルゼイド流を継ぐものとして。貴族として。士官学院の生徒として。そして1人の帝国人として。今のエレボニアの在り方と自分の在り方。そして相良を考える。時に迷い、立ち止まることもあるだろうが、Ⅶ組の仲間と一緒であれば前を向いて歩いていけると。私はそう信じていた。

 

「──アーヤ教官っ! 聞いているのかね!?」

 

「聞いてる聞いてる。だからごめんなさいって言ってるじゃないですかー」

 

「以前にも同じことをしていたのを忘れたのかね!?」

 

「いえいえ、覚えてますよ。ええっと……学院に制服を着てきた件でしたっけ? それとも食堂に激辛麻婆定食を追加した件ですか?」

 

「貴族生徒の授業の件だ! 覚えてないどころか話すら聞いていないではないか!」

 

「あー……いやいやいや、聞いてましたよ。でもそこはほら、一応ちゃんと説明して理解した上で受けてもらってるので……」

 

「だからといって毎回のように怪我人を出す者がおるか! いいかね!? 彼らは各領地からお預かりしている大事な──」

 

「怪我っていってもかすり傷だし、大きいのでも打撲くらいなんだからそれくらい……」

 

「それと! 君とサラ教官の喧嘩で修練場が破損した件も──」

 

「それはサラちゃんが……ああ、いえ、なんでもないです。反省してまーす」

 

「そもそも君はいつもいつも──」

 

 ──ところで今日も教頭に怒られているこの教官はまるで成長していないのだが、私はどうすればよいだろうか? 

 

 職員室前の廊下でハインリッヒ教頭に怒られているアーヤ教官を見て私はなんとも言えない気分となる。

 何しろこの光景は日常茶飯事だからだ。アーヤ教官がこの学院にやってきてから約2ヶ月が経とうとしていたが、アーヤ教官はいつもお騒がせなことをして教頭を怒らせているし、サラ教官のことも何やら因縁があるようなので仕方がないとはいえよく怒らせている。その姿はとてもではないが教官らしからぬものだ。サラ教官もサラ教官でだらしのないところはあるが、アーヤ教官はだらしがないわけではない。むしろいつも誰よりも元気であり遅刻もなければ事務仕事をサボることもないという噂だ。確かに授業の内容は少し変わっているが、それでも実戦に役立つことを毎回教えてくれている。確か今週は高所からの飛び降りの際におけるあまり痛くもないし怪我もしにくい飛び降り方と受け身の取り方の授業だったが……確かにあれは下手をすれば怪我をしてもおかしくない授業だったから教頭が怒るのもわからなくはない。が、それについてはいざという時に役に立つことも事実であるため擁護できなくもないものだ。実際に校舎の窓から跳び下りるというものでなければ。私はいいが教頭が懸念するのも致し方ないだろう。

 ただおかげで高所から落ちた際や跳び下りる必要がある時の正しい衝撃の殺し方というものを学べた。アーヤ教官曰く「人間生きてると高所からの落下の1つや2つはあるんだからいざという時に備えておいた方がいいよ!」とのこと。それはさすがに言い過ぎだとは思うが……確かに武人や軍人が高所から跳び下りて足を挫くなどしては格好がつかないし、そういう状況がないとも限らない。なので私としては意外と面白い授業ではあった。マキアスやエリオット、エマやアリサなどは苦戦していたが、言い方は悪いがそういう腕に自信のない者にも役立つ授業をアーヤ教官は率先して教えてくれている。隠形や気配察知を鍛えるかくれんぼや障害物の多い都市部や森林、山岳地帯などを問題なく走破するための身体の使い方など。曰く「逃げる時に一々転んでたら逃げられない」とのこと。確かにそれは理解できるものだ。

 

 ……だが、アーヤ教官のそれらの言動からは私の知る強さとは違うものを強く感じられる。

 

 言うなればフィーに近いものだ。フィーの猟兵としての技術や生き方は私の知る強さとはかけ離れたもので、頭が硬い私は最近までそれを認められなかったものだ。今は勿論そういう強さや生き方もあるのだと理解して認めているが、アーヤ教官はその猟兵ともまた違う。

 そもそも強さをあまり感じないのだ。初めて見た時には軍人とは聞いても腕前は素人か何かだと勘ぐってしまったほどであり、実際にアーヤ教官がサラ教官を凌ぐほどの強者だと理解した後でもアーヤ教官からはおよそ強者らしい圧力や覇気のようなものを感じることはない。達人とも言える隠形や刃物の扱いなどを見れば明らかに強者であることは分かるが、それを実際に見なければ気付けないほどにアーヤ教官の擬態は凄まじかった。

 

 そして思うのは、そういった強さを習得するのに、アーヤ教官はこれまでどんな人生を送ってきたのかということだ。

 

 フィーが猟兵に拾われて育ち、猟兵の強さを獲得したように、アーヤ教官もアーヤ教官なりのルーツがあるはず。過酷な環境に身を置いていたのか、それとも私のように何らかの武術を伝承しようと技を磨いてきたのか……裏の人間であるならば、どのようなことをしてきたのか。聞くことは出来ていないが、気にならないといえば嘘になる。

 

 しかしオリヴァルト殿下が悪い人ではないとお墨付きを出し、実際にこうして教官になっている以上はテロリストとかそういう類の人間ではないはず。しかしそうであるなら一体……と、時折そういった疑問を思考することがあった。以前からの知り合いであるらしいフィーやサラ教官。後はⅦ組に合流してきたミリアムなどは何か知っていそうだが……それでも答えないということは我々が知るべきではないということなのか、アーヤ教官の許可なしに話せないということなのか。あるいはその両方だろう。

 そしてそうであるならばアーヤ教官が口にしない以上は私たちも無闇に尋ねたりすることもしないし、時折そのことを話し合うことはあってもアーヤ教官を既に信頼している私たちはいずれ聞かせてくれることもあるかもしれないとして話題を別のものに移していた。

 

 ──そして話は変わるが、8月に入ってしばらく。私たちⅦ組は今月も特別実習を行うことになった。

 

 それまでにミリアムと上級生のクロウがⅦ組に合流したり、水練の特訓があってアーヤ教官とサラ教官の勝負が再び行われたり、定期試験があったりもしたがそれは置いておこう。私としてはその特別実習の行き先の1つが、私の生家であるアルゼイド子爵家の領地であるレグラムになったことで嬉しさを感じていた。まだしばらくは帰ることはないと思っていたが、これも女神の導きか。今回は私が皆を案内しなければな。

 

 ──だが今回の行き先はA班のレグラムとB班のジュライ特区だけでなく、それぞれ2日をその地で過ごした後に帝国東部国境にあるガレリア要塞にも向かうことになるらしいとやってきたナイトハルト教官から伝えられた。その際にサラ教官とナイトハルト教官が互いに舌鋒を交わし合っていたが……そんな中でも自然体のまま揺らぐことのないアーヤ教官は思い出したかのように私たちに告げた。

 

「あ、サラちゃんたちはガレリア要塞で合流するけど私はいないからそのつもりでよろしくねー」

 

「? 何か用事でもあるんですか?」

 

「まあちょっとね。──宰相閣下の護衛でクロスベルに行くことになっちゃったから引率はできないんだよ。ごめんね」

 

「! 宰相閣下の護衛でクロスベルにって……」

 

「それって……」

 

「《西ゼムリア通商会議》か……」

 

 そう。今回のガレリア要塞での特別実習にはアーヤ教官はサラ教官と違って合流しない。アリサやエリオット。そしてユーシスが言うようにクロスベルで行われる《西ゼムリア通商会議》の場に護衛として帯同することが決まっているために。

 アーヤ教官は苦笑いでそのことを告げ、その上で「でもレグラムの方はちゃんとついていくからね!」と懐から導力カメラを取り出して観光する気満々だった。サラ教官とナイトハルト教官の指摘にも「うんうん! 楽しみだね!」とどこ吹く風で私たちは個性的な教官陣のやり取りに半ば呆れながらも解散した。

 

 ──そしてその3日後。特別実習の日付になって私が所属するA班……リィンにエマにユーシスにガイウスにミリアムとアーヤ教官は駅から列車に乗り込み、レグラムへ向かった。

 

 バリアハート本線の列車から途中で乗り換えてレグラムに向かう道中は私がレグラムの説明を行いつつ、それぞれやり取りを行ったのだが……。

 

「ふんふ~ん♪」

 

「アーヤ教官。ご機嫌ですね」

 

「そりゃあねー。レグラムには前々から行ってみたかったから。こんな機会で行けるなんてラッキーハッピーだよ!」

 

「へぇ、何か目当てのものでもあるんですか?」

 

「そりゃあなんと言っても《槍の聖女》リアンヌ様にまつわる土地だからね! 《ローエングリン城》も楽しみだし、銅像とも一緒に写真撮りたいし、聖地巡礼するところが多すぎる!」

 

「な、なるほど……」

 

「故郷をそこまで好きでいてくれるのは嬉しいが……」

 

「レグラムというより《槍の聖女》のファンみたいですね……」

 

「確かに帝国内ではそれなりに人気だが、ここまで熱を入れてる人間は珍しいな……」

 

 リィンが話しかけるとアーヤ教官からは彼女が《槍の聖女》リアンヌ・サンドロットを好いていることがよくわかった。ユーシスの言う通りここまで熱を入れてる者は珍しいが、我が家と縁のある人物を好いてくれるのは悪い気分ではない。熱の入りように多少怯んでしまったが。

 

「私のターン! サンダーボルトを発動! ミリアムちゃんの7のカードを破壊する!」

 

「何の! ボクのターン! ミラーを出して場のカードを交換するよ!」

 

「何の何の! 私のターン! 聖なるバリア・ミラー◯ォース! 更にカードを交換する!」

 

「うわー!? やられちゃったー!? ……なんてね! 更にミラー◯ォース? を発動!」

 

「うわああああん!? ……なんてね! まだ私のバトルフェイズは終了してないぜ!」

 

「な、なんだってー!?」

 

 ──と、後はブレードでアーヤ教官とミリアムが少々……いや、かなり騒がしく熱い勝負を繰り広げていたのを見て私たちは少し呆れたりすることもあったが、概ね予定通りに私たちはレグラムに到着した。

 

 そして到着してすぐに気配を消して現れた爺……アルゼイド家の家令である執事のクラウスが我々を案内することになった。爺はアルゼイド流の師範代でもあり、かなりの実力を持っている。だがそんな爺から見てもアーヤ教官の隠形は並外れているようで「もっともそちらの者には敵いませんが」と口にしていた。そして肝心のアーヤ教官は「レグラムだ──!! 霧すごい! 涼しい! リアンヌ様の聖地! あ、像ある! さっそく写真撮らなきゃ! 後でデュバリィちゃんに自慢しよっと!」……と、既にはしゃぎまわっていた。私の故郷でそこまで喜んでくれるのは良いのだが、この教官は本当に何をしに来たのだろうか……? と、疑問を覚えてしまう勢いだ。一応は引率役だったはずだが……。

 しかし一応爆速で写真を撮りまくった後にクラウスに「それじゃ生徒共々よろしくお願いしまーす!」と挨拶はしっかり行っていた。そして私の生家である屋敷に入り、テラスから《ローエングリン城》を見るとまたしても写真を撮りまくってはしゃいでいた。ここまで来ると本当にリアンヌが好きなのだな……と一周回って感心を覚えるほどだった。

 

 アーヤ教官のはしゃぎっぷりに皆で半ば呆れつつも特別実習はあくまで我々生徒が行うもの。そのため特別実習の課題を受け取るために私たちはレグラムの遊撃士協会支部……今はほとんど使われていないそこに向かい、そこで待っていた父とも懇意にしている遊撃士トヴァル・ランドナーに迎え入れられた。

 その際にアーヤ教官を見て「うおっ……マジでいやがる……」と何やら怯んでいたが、アーヤ教官もアーヤ教官で「ぜ……《零駆動》……アーツ……B級遊撃士……ううん……頭が……」とこちらもこちらでなぜか恐れているような微妙な反応を見せていた。やはりアーヤ教官と遊撃士の間では色々と因縁があるようだな……ミリアムも先ほど遊撃士の活動をオズボーン閣下が制限したという話の時に「それで言うならアーヤも──」と何か言いかけていた。トヴァルがやってきたことでその先を聞くことはできなかったし、アーヤ教官も「ええっと……それじゃうちの生徒たちをよろしくお願いしますねー……私は適当に宿で待ってるから何かあったら言いに来てね!」と挨拶を済ませるとすぐに遊撃士協会支部の建物から出ていった。やはり少し気まずいようだ。

 

 そしてその後は課題内容を受け取り、手配魔獣の討伐や街頭灯の交換などの課題を済ませたが、その後に爺からの依頼で門下生との手合わせが来ていたので、そちらに向かい、アルゼイドの門下生やその後に爺とも手合わせを行ってなんとか膝を突かせることができた。

 そうして課題を全てこなす頃には時刻も夕暮れとなり、私たちは報告のために再びトヴァル殿の下へ向かったのだが──そこにはトヴァル殿以外の人物も待ち受けていた。

 

「そなたがアーヤ・サイード殿か。情報局の特務少尉であり、トールズ士官学院の教官だと聞いている。娘が世話になっているようだな」

 

「あ、あはは……いえいえ……そんなことは……おたくの娘さんはとても優秀でありまして……《アルゼイド流》の剣もさすがと言いますか……」

 

「しかしそなたの振るう《修羅》の如き刃には敵うまい」

 

「しゅ、修羅だなんてそんな……私なんて全然大したことは……」

 

「……ふむ。どうやらそなたの方も後ろめたさがある様子。私の方も娘を預けるにあたってそなたの器を見極めたい」

 

「う、器を……?」

 

「ああ。互いの理解を深め、遠慮を取っ払うためにも──そなたに手合わせを申し込みたい」

 

 ──そこにいたのはアルゼイド流の筆頭伝承者。《光の剣匠》ヴィクター・S・アルゼイド……我が父だった。

 その父と対峙するアーヤ教官。その2人が、手合わせを行う──それを聞いた私たちは父上に改めて迎え入れられながらも屋敷で夕食を取り、その後に練武場にて私たちはアーヤ教官と父上の立ち合いを見届けることになった。裏の達人であるアーヤ教官と帝国で3本の指に入る剣士の父上の勝負……武人として興味が尽きない。一体どうなるのか……私はその勝負を見逃さぬようじっと2人を視界に入れ続けた。

 

 

 

 

 

 ──うわああああああああああああああん!!? 《光の剣匠》との手合わせとかイヤ──!!? 帝国でも上から数えた方が早い武人とか勝てるわけない! アルゼイド流で1番強くて以前のレーヴェくらい強いんでしょ!? キツイキツイ! 無理無理無理! でも親御さんだしお世話になる身だから断れないー!! うわあああああ──あ、どうも……トールズ士官学院実戦技術教官のアーヤ・サイードです……。

 

 ということではい……遂にレグラムへやってきました……。湖畔の町で自然豊かで何よりリアンヌ様の聖地であるこの土地にやってくることは私の以前からの楽しみで、そのために導力カメラも1番高級な奴を持ってきたし、事前の下調べもばっちりで、観光する気満々でやってきた。正直めちゃくちゃ楽しみだったんだけど、1つ不安要素があって……あ、トヴァル・ランドナーもいたけどそっちは……まあ許容範囲とした。《零駆動》って渾名は怖いけど多分……本当に多分だけど勝てると思うし……アーツで奇襲とかされたら嫌だけど近接戦闘だと私の方が強い……はず。なのでまあそっちは別に良かったんだけど、私が恐れてるのはこのレグラムの町を治める領主のアルゼイド子爵。つまりは《光の剣匠》ヴィクター・S・アルゼイドでラウラちゃんのお父さんだ。

 帝国でも上から数えた方が強い剣士と出会って戦うようなことになったらヤバいってレベルじゃないし、私は会わないように気をつけていた。夕方には適当な宿の部屋で缶詰にでもなってやり過ごそうと思ってたんだけど……リアンヌ様の聖地巡りでテンション上がりすぎて少し遅くなったところ、町中でばったりと出くわしてしまい、それから立ち話もなんだからと遊撃士協会支部に連れ込まれ、そこで挨拶を行い、それから断れない流れで屋敷に招かれ……そして最悪にも手合わせを行うことになってしまった……はぁ……本当に嫌だ……私の素性とかも知ってそうだし「娘に卑怯な技術を教えたそなたは社会の屑なのでここで果ててもらう」とか言われて殺されないだろうかと心配になる。いや、さすがに人格者らしいしそこまで解像度低いことは言わないだろうけど……でもあの口ぶりからして戦った結果、お眼鏡に適わなかったら何をされるかわからなくて怖い……。

 

「アーヤと《光の剣匠》の勝負楽しみだねー!」

 

「アーヤ教官は裏の達人だと聞くが、相手は表の達人か」

 

「ああ……それも帝国でも指折りの剣士だ」

 

「ど、どっちが勝つんでしょうか……?」

 

「……分からぬ。おそらくは父上の方が純粋な腕前は上だと思うが……いや、それも私の希望的観測に過ぎないか……」

 

「いや、俺もヴィクターさんの方が有利だと思う。だけどアーヤ教官は不利な戦いを得意としているようだし、実際どうなるかは予想がつかないな……」

 

 ──って、そこ! 生徒たち! 私の不幸を観戦するんじゃない! しかもなんか私が《光の剣匠》と普通に戦えるみたいに言ってるけど過大評価過ぎる! ボロ負けだから! 予想できるでしょ! オッズにしたら私の勝ちなんて大穴! 万馬券みたいなもんだよ! そもそも勝負する土俵に至ってないから! だから勝負なんてやめてほしいけどやっぱりやめるなんて言えない雰囲気だし……! 

 

「では、始めようか」

 

「は、はいぃ……」

 

「……その振る舞い。怖れているように見えるのもそなたの術中と見た。油断した相手を一瞬の内に刈り取る……裏に轟く達人の手管、見せてもらおうか」

 

 ぎゃ──!!? なんか馬鹿でかい大剣取り出したー! ラウラちゃんが言うには宝剣《ガランシャール》って言うらしい──!! 怖いよー!! 私の得物も同じくらいでかいけど使い手が月とスッポン──!! しかも私の怯み具合まで過大評価してる──!! うわあああああん!! 

 

「《アルゼイド流》筆頭伝承者、ヴィクター・S・アルゼイド、参る」

 

「あ、アーヤ・サイードです……流派は特にありません……(強いて言うなら《月光木馬團流》? 結社流暗殺術? みたいな感じだけど言えるわけない──!!)」

 

 し、仕方ない……こうなったらひたすら逃げ回って生き残ろう。そしたら許してくれ──うわああああああ!!? いきなり全力で斬りかかってきたー!! 危な──い!! 

 

 私はその大剣をなんとかギリギリのところで受け止めつつも距離を取る。つ、強い……もうダメだ……勝てるわけがなさすぎる……! でもなんか参ったとも言い辛いし、あんまりあっさりやられるとやっぱり娘を任せるには相応しくないとか言われて面倒なことになりそうだし……! 

 

「どうした? そなたの力はこんなものではなかろう! 遠慮はいらぬ……存分に裏の妙技を見せてみるがいい!」

 

 ──というか手加減してる余裕ないー!! くっそー! もうやるしかないー! こうなったらヤケクソだー! とりあえず“分け身”で撹乱するぞ! おらー! 

 

 私は“分け身”で3人に分かれつつ、3方向から《光の剣匠》に攻撃を加える。普通の相手ならこれだけでも余裕で勝てるけど、相手は達人の中の達人なので当然この攻撃は防いできます! 驚くべきことに手数ではなんとか勝ってる感はあるけどそれでも全部防がれるんだから実力差は明白だ! だから早くこの勝負から解放して! 

 

「“分け身”による撹乱と迷いのない力強い太刀筋……なるほど。どうやら見立て通り《修羅》に至っているようだな」

 

 ──至ってないっ!! 至ってません!! どこが!? この私のプリティフェイスと小市民オーラを見てどこが《修羅》だって証拠だよ!? 《修羅》ってレーヴェとかレティ姉さんとかのレベルでしょ! よく知らないけどね! 

 

 私は的確に本体を狙って馬鹿でかい剣をぶんぶん振り回してくるヴィクターさんの攻撃を紙一重で躱す。受け止めるのも出来るけど力が強くて疲れるし怖いからやだ! このお父さん怖いよぉ! さすがラウラちゃんのお父さん! 剣から光が出るのはどういう原理なのか私気になります! 意味不明だしチートすぎる! こんなんどうしようもないじゃん! どうにかできるのはレーヴェクラスでしょ! レーヴェ! レーヴェ! 助けてレーヴェ! 頭の中のレーヴェに聞いてみよう! こんな時どうすればいいですか!? 

 

『お前は相手の虚を突くことに長けている。格上を相手にする時も虚を突くことができれば《理》に至った達人相手とはいえ勝機もあるだろう』

 

 おお! さすがは私の脳内のレーヴェ! 男性の中で1番好きな相手なだけあって解像度が高い! というか前に言われた気がする! 今思い出したけど! でも虚を突くとか言われてもどうすればいいか難しいんですけど! リアンヌママ助けて! 頭の中のリアンヌママにお便りを送ろう! 《光の剣匠》に襲われて困っています。どうすればいいですか? 教えてください! 

 

『窮地は好機でもあります。如何な達人であろうとも相手が攻めに転じたならば、守りは僅かに疎かになる。その時を狙うとよいでしょう』

 

 おお! さすがは私の脳内ママ! ママにしたい相手ぶっちぎりの1位! 蛇の使徒の良心なだけはある! 解像度が高い! というかこれも前に言われたのを思い出しただけだけど! とはいえそう言われても《光の剣匠》ほどの相手になると攻撃してる時の隙もマジで一瞬で消えちゃうんですが! どうすればいいかなレティ姉さん! このままじゃ色々とおじゃんになりそうなので助言ください! 

 

『アーヤは目がええし、死にそうになると旦さんばりに予想外のことをしてくるのがええとこやなぁ。いざという時に躊躇しないのはそれだけで才能あるゆうことやから、その調子で気張りや?』

 

 おお! さすがは私の脳内姉さん! 自己肯定感が上がってきた! 昔から褒め上手なんだよね! これもなんか昔言われた気がする! ぶっちゃけ全然実感ないけどね! 才能とかある気がしないけど褒められるのは嬉しいというジレンマ! 

 

 私はヴィクターさんのクッソ強い剣技をギリギリのところで受け止めてひーひーしながらこの場を乗り越える方法を考える。そして脳内で私の師匠たちにアドバイスを貰った結果……適当に強い連携と奥義でも見せて良い感じに許してもらおう作戦を行うことに決めました! ほら軌跡だとよくあるじゃん! 格下が良い感じの一撃を格上に見せて認められて勝負が終わるやつ! ボス戦というかゲーム上だと勝ってるけど勝ってないことになる良い感じの負けイベ! それを目指そう! そうじゃないと許してくれる気がしないし! 

 

「それが限界か。ならばそろそろ終わりにしよう──」

 

 そうと決まれば良い感じに奥義を──って、向こうが先に奥義使ってきたー!!? ぎゃー!! 死ぬー! これ防がないと死んじゃうー!! もう出し惜しみしてる場合じゃない! こんなこともあろうかと夕食後に奥歯に仕込んできた《AS-DROP0》を解禁だ! こなくそー! 

 

「絶技──“洸凰剣”!!」

 

 うおおおお!!? 剣から光が伸びてしかも残像を出すほど高速で一瞬で斬りかかってきた──!!? チートすぎる!! これはマジで受け止められない! めっちゃ痛い痛い痛い! というか普通の人にそんな即死技打つなー! 人格者じゃないのかこらー! 

 私は《光の剣匠》の奥義を受けて使っていた大剣を空中へ弾き飛ばされる。Sクラフト強すぎ! 人外すぎる! 

 でも──ちょっとだけ隙が見えたような……って、考えてる場合じゃない! 今だ! 大剣を弾き飛ばしたことで決着がついたと思った隙を突いて《ゾルフシャマール》を取り出して斬りかかれー! 

 

「っ!? その得物は……!」

 

 おお! 驚いてる! これは上手くいったかも! 針付きの大量の糸の雨を縦横無尽に降らせつつ攻撃だ! 更に《ゾルフシャマール》を分離させて双剣状態にして連続で切り刻み、次にくっつけて大剣状態で一振り! そして最後に挟み切る! 名付けて、奥義! 

 

「“オートクチュール・ル・サン”!!」

 

 よし! 上手くいった! 練習では一回もかっこよく決まらなくて四苦八苦してたけど! 相手を殺しかねない技だけど《光の剣匠》相手なら問題ないし、手応えからしても受け止められた! なのでこれで良い感じに許してもらおう! 負けイベント完遂だ! 

 

「──これが《修羅》の力か……しかと見せてもらった」

 

 ほら! ヴィクターさんも()()()()()()()()()()()()()…………。

 

 ……あれ? 

 

「フフ、見事だ。そなたの力と培ってきたものは……少なくとも邪な意志を持って鍛えられたものではないようだな」

 

「あ……」

 

「これは……」

 

「信じられん……」

 

「すごーい! ()()()()()()()()()()!?」

 

「まさか父上が1本取られるとは……」

 

「アーヤ教官……!」

 

 ──勝負が終わって生徒たちが私の下に集まってくる。そんな私の前には膝を突いたヴィクターさんが意味深なことを言って、そしてやがてゆっくりと立ち上がって私の方にやってきて手を差し伸べてきたので、私はまだ理解出来ないままその手を握り返す。

 

「えっと……ありがとうございます?」

 

「こちらこそ無理な手合わせに付き合ってもらった。そのことに感謝を」

 

 はぁ……いやいやいや……えっ? なにこれ? 

 もしかして私……勝っちゃった? 奇跡的に1本取っただけとはいえあの《光の剣匠》相手に? 

 私はその事実を徐々に理解し、そして思う。《光の剣匠》相手に奇跡的に1本取っただけとはいえ勝利するとか……もしかして私って結構強いのでは? と……。

 

 

 

 

 

 ──まさか私が1本取られてしまうとはな。

 

 我がアルゼイド流の練武場。そこで行った結社の執行者、アーヤ・サイードとの手合わせは私が1本取られるという結果に終わった。

 その事実に私は少なからず彼女が邪気のない相手であることを理解する。その剣の冴え。途中で取り出した謎の鋏のような得物の扱いも含めて、そこには闇を感じるものの、彼女自身は人を殺すことを厭うような人物であることを察せられた。

 とはいえ《修羅》の気を纏う以上、それを覚悟すれば躊躇はしないのだろうが……それが無差別に振りまかれることは恐らくないだろう。彼女がそれを犯す時はそれが必要な時のみ。無論、1人の人間としてそれを簡単に許すことがあってはならないが、1人の武人として。剣士として。それを行わざるを得ない時があることも理解している。

 だからこそ私は彼女を責めることも追求することもしない。娘も含めて生徒からも慕われていることでもある。私と彼女の勝負の後、リィン・シュバルツァー……彼とも手合わせを行ったが、その気概からは少なからず私と手合わせをした“力”を畏れず出し惜しみしない彼女の戦いに影響を受けたと思われる上、私から1本取ったことも実戦技術の教官として不足はないだろう。武人として言い訳も口にしない。たとえこの後、手合わせを続けてほとんど私が勝つような実力差だとしても最初の1本を取られた以上は言い訳も効かない。相手への失礼にもなるだろう。

 

 しかし最後の一撃は見事だった。些か物騒かつ容赦のない奥義であったが、それも私なら問題ないと信頼してのことだろう。この若さでこれだけの実力を持っているとは……さすがは執行者と言うべきか。この若さと強さは我が弟子の1人を思い出させる。《アルゼイド流》と《ヴァンダール流》を極め、独自の剣に至った偉才……《黄金の羅刹》オーレリア・ルグィン。かの弟子とも久しく会っていないが……ふむ、機会があれば彼女のことを話してみるのも悪くないやもしれぬな。腕に差はあるが武人として互いに良い刺激を受けることが出来るだろう。私はそのことを思い、その日はアーヤ殿と少し語らってから休むことにした。やたらリアンヌ・サンドロットの話を聞きたがるのは不思議であったが……ふむ。かの《槍の聖女》に憧れているのであれば裏の者とはいえ真っ直ぐなのも頷ける。やはり我が弟子と一度は会わせてみたいものだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──特別実習の2日目。レグラムで観光中のアーヤ・サイードです! 《光の剣匠》にまぐれで1本取ったことでちょっとだけ私は強いんじゃないかと思ったけどすぐに撤回したくなりました! なぜなら──

 

「ふむ。そなたがアーヤ・サイードで相違ないな?」

 

「人違いです! だから来ないでー! 嫌ー!!」

 

「フフ、そう嫌がらずとも無理やり仕掛けることはない。ただ先ほど話に聞いたものでな。我が師から1本取ったそうだが……そうであるなら師の仇を取ることも弟子の務めであろう? ゆえに私も手合わせを願いたいのだが──」

 

「この後仕事があるから無理ですー! 他を当たってくださいー!」

 

「なら次の機会にしよう。それで構わぬか?」

 

「良くない! 《黄金の羅刹》なんて相手に出来るほど私強くないから! むしろ弱いから許してー! うわああああああん!!」

 

「ほう……そうして油断させてから仕掛けるつもりか。フフ、良かろう。ならばいつでも奇襲してくるがよい。何、遠慮はいらぬ。同じ勢力に属する者同士、武を以て親交を深めようではないか」

 

 ──私の目の前にはヴィクターさんを尋ねてやってきたカイエン公に、何の因果か私を訪ねてやってきた《黄金の羅刹》オーレリア・ルグィンがいて、私に手合わせを仕掛けようとしてきていた……超怖い……帝国最強の剣士とか絶対戦いたくない……! というかあなたと戦えるほど私強くないから! 精々サラちゃんよりちょっと強いくらいだから全然弱いし! だからこっち来るなー! カイエン公止めてー! 目を逸らして無視するなー! 《西風》の2人も無視して帰ろうとするなー! せっかくのレグラム観光なんだから邪魔しないでー! うわああああああん!! こんなんに興味持たれるくらいなら頑張らなきゃ良かったー! もう手合わせなんて絶対にしない!




今回はここまで。作中で言ってるように、ヴィクターには100回やって1回奇跡的に勝てるくらい。デュバリィがレーヴェに100回に1本取れるみたいなもんです。今回はドーピングと得物隠しによる奇襲と脳内師匠達による自己肯定感増加とやる気を高めて追い詰められた上でなんとか届きました。なのでもっと頑張ろうアーヤちゃん! 強くなって結果を出せば出すほど強い人がやってくるぞ!
次回は遂に碧の軌跡。といっても2章からだけど。鉄血宰相とやかかし男と一緒にクロスベル訪問! 知り合いだらけでヤバいしテロリストもいるよ! 頑張れアーヤちゃん!
そして今回のSクラフト説明。ちなみにサンはフランス語で血って意味です。

オートクチュール・ル・サン:CP100以上 物理攻撃 威力:4S 範囲:円LL 即死・必殺100% 大量の糸を巻き付けた裁縫針で相手を縫い付け、その上で相手を血染にするほど切り刻む連撃。

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