──特務支援課が再始動して2週間頃。
私がクロスベル警備隊から特務支援課に出向し、仕事にも空気感にも慣れ始めた頃。先の選挙で新たなクロスベル市長になったディーター・クロイス市長の呼びかけでゼムリア大陸における初の国際会議──《西ゼムリア通商会議》がこの度、クロスベルで行われることになりました。
参加国は開催地であるクロスベル自治州と宗主国であるエレボニア帝国にカルバード共和国。それにリベール王国にレミフェリア公国。ゼムリア大陸西部における主な国々から国家元首やそれに近しい国の代表が来賓し、経済や貿易、安全保障についての様々な議題について話し合うことになっているそうです。
そんな中、私たち特務支援課はクロスベル警備隊や警察の他の課と協力してクロスベル市内の警備に協力し、私たちは会場であるオルキスタワーの国際会議場フロアの巡回警備を行うことになりました。
犯罪組織やテロリストに謎のハッカー……《赤い星座》や《黒月》といった帝国と共和国の政府と何らかの関与がある両組織の怪しい動きもあり、油断は決して出来ません。会議に出席するVIPの方々に何かがあってはいけませんし、問題が起これば国際問題にもなりかねません。
ですから私たち特務支援課は34F、35F、36Fの3つのフロアを予めディーター市長直々に案内してもらい、会議が始まってからは巡回警備を行いながら関係者の方々に色々と話を聞いて回っていたんですが……休憩時間に入ってエレボニアのギリアス・オズボーン宰相閣下とカルバードのサミュエル・ロックスミス大統領閣下から話がしたいと言われてしまい、私たちは36Fにある両首脳の部屋を訪ねることなりました。
そして階段を使用して36Fに上がったところ──人の声が届き、私たちは図らずして盗み聞きをすることになってしまったのですが……そこで聞こえてきた内容が……その、なんというか──
「──や、やぁ、クローゼちゃん。久し振りだね!」
「はい。久し振りですねアーヤ先輩。レクター先輩も」
「お、おう(なんだこのプレッシャーは……)」
「あはは……クローゼちゃんは休憩中? こんなとこにいて大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫です。アーヤ先輩も今は休憩ですよね。せっかくですからお話でもしましょうか」
「ええっと……一応私は護衛というか今は帝国の軍人だから私の一存では──」
「会議の終わり際にオズボーン宰相にアーヤ先輩をお借り出来ないか聞きましたので大丈夫かと。休憩時間の間は好きにして構わないそうです」
「うぇっ!? そ、そうなんだ……それならまあ仕方ないけど……」
「アーヤ先輩? どうして逃げようとしてるんですか?」
「べ、別にそんなつもりはないよ! あーと……そういえばクローゼちゃん、なんで刀持ってるの? クローゼちゃんの得物は細剣じゃ……?」
「少し前からカシウスさんから剣を教わっているんです。それで得物も新しく東方の太刀を用立ててもらいまして」
「えっ。そ、それってまさか八葉一刀流……?」
「はい。一通りの型を習いつつ今は四の型《紅葉》に素質があると言っていただいたので今はそれを重点的に習っています」
「そ、そうなんだ……それはすごいね……」
「そんなことないです。
「ユン老師!? というか《観の目》まで使えるの!?」
「まだ修行中ですが少しは。なのでいずれアーヤ先輩がどこに行っても探し当てられるようになってみせますね?」
「探し当てられるように?」
「はい。ですからあんまり無茶なことはしないでくださいね? その時は私も鍛えた技で先輩を止めないといけませんし」
「……き、肝に銘じておくよ……あはは……」
──と、なぜかリベールのクローディア殿下が情報局のレクター特務大尉と一緒にいるアーヤと呼ばれた女の人に何やら親しげにやり取りを交わしていましたが、そこには何故か圧とアーヤさんの方が怯んでいるような構図になっていて……私はどういう状況なのかと困惑していましたが、私もロイドさんたちと同じく途中で気づきました。
「貴方は……アーヤさん……!!」
「えっ? ──あっ」
ロイドさんは居ても立っても居られなかったのでしょう。盗み聞きをしてしまったことを謝罪するよりも先に、3人の前に出てアーヤさんの名前を呼びます。
そこには少しばかり緊迫した、それでいて微妙な雰囲気が流れていました。というのも彼女……アーヤさんのことを私たちは知っているからです。
彼女は都市伝説の暗殺者《切り裂き魔》で結社と呼ばれる組織の《執行者》でもあると……私もあの教団事件の顛末をロイドさんたちに共有してもらって知っています。なので私は特に警戒して彼女の前に立ちましたが……やっぱりなんというか……。
「おいおい……何驚いてんだ? お前さん気づかなかったのか?」
「いやだって……クローゼちゃんに意識を持ってかれてたから……」
「アーヤ先輩はうっかりなところがありますからね。私に意識を集中させていたということは、それだけ私の言葉が効いたということでしょうか?」
「まあ、それは……」
「なら無茶なことはしないと約束していただけますね?」
「そ、それについてはノーコメント……」
「成程。アーヤ先輩にはこれから何か無茶をする予定があると。でしたら注意して見ておかないといけませんね」
「怖い! クローゼちゃん怖いよ! 助けて特務支援課!」
「ええと……」
「なんつーか色々と聞きたいことはあるが……」
「なんだか緊張感がないですね……」
「そういえばアーヤさんはこういう人だったわね……」
……と、やっぱりどこか弛緩した空気が流れてしまうというか……本当にこれが伝説の暗殺者の姿なのかと、素性を知った今でも少し呆れてしまうような気持ちでした。
しかし警備の観点から見てもアーヤ・サイードという裏の人間がこの場にいることを見過ごすことは出来ないと、私たちはそこで少しだけ話をさせてもらうことにしました。……とはいえ帝国の軍人という身分がある以上は拘束することも出来なければ本当に話をすることくらいしか出来ませんが……。
──しかしここでもっと踏み込んで聞いておけば、
私たちは……いえ、私は自分の判断を後悔しています。どれだけ穏便で良い人そうに見えても……彼女は裏の住人で暗殺者。それが必要と判断すれば
──どうもー! エレボニア帝国からクロスベル自治州へ! ゼムリア大陸の車窓からお届けします! エレボニア帝国正規軍情報局所属の特務少尉! アーヤ・サイードです! 政府専用の特別列車、アイゼングラーフ号に乗って快適に《西ゼムリア通商会議》に向かいます!
まあ向かうのは政府代表の《鉄血宰相》ギリアス・オズボーン閣下と皇族を代表してやってきたオリヴァルト・ライゼ・アルノールなんだけどね! 私や他の軍人、ミュラー少佐やレクターなんかも皆護衛とかそういう感じだ。さすがにVIP待遇というか護衛が手厚い。バリアハートで特別に停車してもらってから乗り込んだけど内装も良い感じだしサービスも良い。ランチを特別に出してもらったけどすごく美味しかった! まあ他の軍人さんからは白い目で見られたというか鼻白んだ感じだったけどオズボーン閣下が許してるから何も言われない。旅行気分で楽しいね!
……でもこの後は憂鬱な仕事が待ってるんだよね……はぁーあ。クロスベルに行くのは久し振りだけどテンションはあんまり上がらない。目的が目的だからね。
でもかといってあのままレグラムに居続けると《黄金の羅刹》に襲われかねなかったし……まあ予定があって助かったとも言う。なんで私なんかに興味を持つのか。私なんて本物の達人に比べたら全然大したことないっていうのになぁ……やっぱり《光の剣匠》相手に1本取っちゃったのがまずかったんだろうか。でもあれは避けられないイベントだったし……こんなことならレグラムに行かなければ……とも思ったけど良いこともあったんだよね。リアンヌママの聖地も巡礼できたし、なんなら2日目の深夜にはリアンヌママとも会ってきた。Ⅶ組のA班の皆がローエングリン城に行った時に出てきたⅦ組の皆を助けてたからね。その時にささっと私だけ会いに行った。その時にお願いして一緒にローエングリン城の前で写真を撮ってもらった。ダメ元だったんだけどね。仕方ないですね、とか言って私の頼みを聞いてくれるのはやっぱりママが優しいからだよね! これもデュバリィちゃんに自慢しよう。羨ましがるだろうなー。ただレグラムに行っただけじゃなくてリアンヌママと一緒に写真も撮ったって聞いたら。羨ましすぎて怒っちゃうかもしれない。
とまあ良いことはあったので結果的に行って良かった──と思うことにしよう。良いレグラム観光だった。そしてⅦ組の皆は次にガレリア要塞に特別実習に行くというので駅で別れた。一応何かあれば通信で色々と教えてあげよう。今の私は教官だからね。生徒たちのことは常に考えてる。
生徒と言えば一緒に付いてきてるトワちゃんとも道中結構お喋りしたね。相変わらずちっさくて可愛い。なんだかんだ心も許してくれてる感あるし、ついて来てくれて良かった。一緒にいるのがオズボーン閣下にレクターにオリビエにミュラーに帝国の将校だけだと男だらけでむさ苦しいし重苦しいしね。トワちゃんだけが癒やしだ。この2日間は一緒にご飯を食べる約束をしておいた。会議が始まる明日、31日は忙しいけど今日は昼食会とかアルカンシェルの観劇とか割と社交的なイベントばかりなので割と暇だ。いや、護衛なんだから暇じゃないはずなんだけど私の役目は護衛というのはただの名目で……実際はテロリストの皆殺しが仕事内容なんだよねー。
なので私は30日。色々と社交的なイベントについて行って楽しむ中でやり方を考える。相手は宰相閣下を狙う《帝国解放戦線》の下っ端連中と共和国のサミュエル・ロックスミス大統領を狙う《反移民政策主義》の人たちだ。どっちも割とろくでもない。でも前者は一応同じ勢力の味方みたいなもんだし、クロウもいるからギリギリ同情出来ないこともなくなくもないけど反移民の人たちはなぁ……移民が嫌いだから大統領殺りますは訳わからんというか、そんなに嫌いなら《黒月》とかに喧嘩を売ればいいのに……とか私も一応共和国の移民だから思うところはあったりする。共和国のそういう人たちは帝国の貴族に近いところがあるんだよね。エレインちゃんの実家のオークレール家とか旧都オラシオンの旧貴族の人たちは本当に余計なことばっかりしちゃうからね。なんならそういう人たちこそかつて教団に肩入れしてたりもするしで困っちゃう。たまーに私が手に入れる教団関係者の情報の大半はそういう人たちだったりするしね。
まあでもただ移民が嫌いってそれだけならさすがに殺したりはしない。でもテロは別だし、仕事でもあるからこれは防がないといけない。そもそも知り合いだらけだし、普通に嫌だし……面倒だし殺したいわけじゃないけど殺すのが仕事と言われても拒否する必要はないかなってくらいの相手ではある。
だからこそ皆殺し命令はちゃんと真面目に考えないと。どうしよっかなぁ……整理すると彼らは屋上からやってきて後で地下に逃げる(だったはず)わけなんだけどそこで待ち伏せするのは「お前何で知ってんの?」案件であんまりよろしくな気がする。私がやったとはできれば思われたくないんだよね。クロスベルの、特に特務支援課には睨まれたくないし。もう手遅れかもだけど……だからいつもみたいにちょきんと切っていくのは最終手段かな。
……よし決めた。アレを使おう。できれば使いたくないものではあるけど相手はこっちを民間人とかも含めて皆殺しにしようとしてくるテロリストだし、危険を避けるためならしょうがないと割り切る。
ってことで31日。通商会議が行われるオルキスタワーに私も入って、事前準備を行うことに。特務支援課とは出くわさないように気をつけつつ私は屋上で最上階である40Fから会議が行われる35Fを下見する。うーん、屋上は高いなぁ。テンション上がる。でも屋外で高所なだけあってばらまいてもすぐに霧散しそうだからあんまり適してないかな。
──とまあこう言えばわかると思うけど私がこれから使うのは私が持ってる三種の神器、もといオジサンから貰った3つの薬品の1つである化学兵器だ。その名も《AS-CHEMICAL01》。オジサン特製のBC兵器なのでめちゃくちゃ凶悪で最悪な代物なんだけどね……ただ毒としてはめちゃくちゃ優れてるんだよなぁ……何がいいって、ほぼバレることがないってのが良い。今の科学捜査じゃオジサン特製のBC兵器の痕跡を見つけることはほぼ不可能だが、その中でもこれは半分はオカルトなので秘匿性に関しては更に優れている……とはオジサンの談。というか貰ったマニュアルに書いてある。なんでもこの毒ガスは無味無臭かつ視覚でも判別不可能。吸い込めばほぼ間違いなく死ぬというシンプルに極悪な性能をしている。なので取り扱いは注意だが、何でも
なのでこれをテロリストが絶対に通ってくる40Fの通路にでも設置しておこう! そうすればそこを通った時点で自動的に死亡だ! それだけで任務完了! 周りからは私がやったとはバレないけどオズボーン閣下には仕事をこなしたと言うだけ! これで私は目を付けられず! なおかつ皆苦労することもない! なんかテロリストが突っ込んできたと思ったら急死しました! ……ちょっとモヤモヤするオチで物語的にはどうかと思うけど平和だ! 《赤い星座》や《黒月》の出番もないぜ!
ということで仕込みを終えた私は安心してその時を待つことにしたんだけど……そんな時にレクターと出くわし、更についでにクローゼちゃんとも出くわした。久し振りに会ったクローゼちゃんは相変わらず可愛かったけど、なんというか……ちょっと圧があって私は怯みっぱなしだった。しかも刀を持ってて《八葉一刀流》を学んだとか言い出した時には更に動揺した。クローゼちゃんがちょっと怖くなってる……そこで更に動揺してたら物陰から特務支援課が! ロイドくんにエリィちゃん! ランディニキにティオちゃん! ノエルちゃんにワジくんまでいる! 特務支援課勢揃いだ! しまった! そういえばこのタイミングで出くわした気がする! 職質の時間だ!
「……アーヤさん。お久しぶりですね」
「ひ、久し振りー。それじゃ私はこれで……」
「アーヤさん。あなたは……一体何をしに来たんですか? あなたは結社の執行者なんですよね。それが通商会議の場に堂々と姿を現すなんて……!」
「ま、普通はありえないわな。一体どういうからくりなんだ?」
「帝国の軍人になった、と聞きましたが……」
「聞かせてくれますか?」
「あー……それはなんというか……」
ロイドくんたちに質問責めにされて私は困る。なんと答えたものかな。あんまり詳しい説明をするわけにはいかないし……。
「正確に言うと、以前から軍人だった、が正解だな」
「レクターさん……!」
「それは一体どういうことだい?」
「要するにだ。事実はどうあれ、アーヤ・サイードは以前から帝国軍人であり、こいつのやることはギリアスのおっさんに保証されてるってこった」
「それは……」
おお! ここで突然のレクターからの助け舟だ! ワジくんの質問にも淀みなく答えるぜ! さすがは《かかし男》! 話し合いでは強いぞ! ロイドくんも言葉に詰まる。その意味を理解したのだろう。他の特務支援課の皆も真剣な面持ちだ。
「……つまりアーヤさんがヨアヒムや教団関係者を殺害した件も、帝国政府の密命を受けて起こしたことということですか?」
「前者はそれでもいいが、後者は証拠がないだろ? だからそういうわけでもないが……万が一そうだとしても問題にはならない。宗主国が自治州に巣食っていた教団というテロリスト共を駆逐して事前に犯罪を阻止した……そんなシナリオが出来上がるだけだな」
「なるほどな……最初から折り込み済みだったってわけか」
「んー別にそういうわけでもないんだがなァ。ギリアスのおっさんとこいつの契約は俺にもわからないが、こいつは結構行き当たりばったりなのはお前さんたちもよく知ってるだろ?」
「ええ。まあ……」
「はい。よく知っています」
「失礼な! 私だって結構色々考えてるよ! ちゃんと私なりの予定とか計画もあるんだから!」
レクターの同意を求める言葉にロイドくんや、なぜかクローゼちゃんまで笑顔で頷いていた。なので抗議の言葉を口にしたが、無視される。解せぬ……でもレクターの言葉には一定の効果はあったようで、ロイドくんたちは神妙な顔つきだった。まあクロスベル自治州の立場だと宗主国の軍人が犯罪者を殺したのを罪には出来ないもんね。とはいえヨアヒムに関しては別にクロスベル市民の誰かが殺したところで罪にはならないんじゃないかって思うけどそういう問題じゃないんだろう。特にヨアヒム以外の関係者の件については気にしてそうだしね。私を前にして険悪ってほどでもないけど、皆思うところがあるって感じだ。
「……ならアーヤさんはこれからは帝国の軍人として帝国政府の命に……いえ、《鉄血宰相》の命に従って動くということですか?」
「あー……まあ、少なくとも契約範囲内では? とりあえずこの会議中は軍人として。護衛として動くから安心していいよ?」
そんな風にロイドくんに質問されるとちょっと答え方に悩むけど、一応正直に答えよう。実際会議を邪魔したり貴人を害したりするつもりもないから安心してほしい。まあ完全には信用されないだろうけどね。
「……わかりました。その言葉を今は信用しておきます」
「そうしときな。そもそもこいつに意味もなくこの場で大暴れするような度胸はねぇと思うぜ」
「ええ。私もそう思います。アーヤ先輩がオズボーン宰相に雇われているなら、エレボニアの国益を損なうようなことはしないかと。アーヤ先輩は良くも悪くも自分のためではなく人のために動く人ですから」
「……それはそうなんだけど度胸がないって言われるとちょっと傷つくなぁ……それと自分のためで動いてるけどね」
能力持ちのレクターはともかくなんかクローゼちゃんまで私のことわかってます感が出てるというか、すごい信頼を感じるんだけど……過大評価なくらいには……でも私にも度胸くらいあるから! 確かに強い人とかは苦手だし、危険なこともできればやりたくないけどホラーとかは得意だし! 高いところも昔はそんなに得意じゃなかったけど今は全然平気にになってるし! これでも成長はしてるんだからね!
「ええっと……クローディア殿下。アーヤさんとは知り合いなんですか?」
「なんだかすごい親しげっすけど……」
「レクターさんのことも先輩と呼んでますよね?」
「先輩というのはどういう意味なんですか?」
「学校の先輩だったんです。私がジェニス王立学園に通っていた頃の」
「そうそう! 昔……って言ってもまだ2年くらい前だけど共和国からジェニスに留学してたんだよねー!」
「とはいえ俺はアーヤとは通ってた時期が少し違うけどな。俺はクローゼが1年の時の先輩で、アーヤはクローゼが2年の時の先輩だ」
「それはまた奇妙な縁だね」
「レクターさんはともかくアーヤさんが学校とは……その頃には既に暗殺者だったはずでは……?」
「暗殺者が学校に普通に通ってるって常識外れにも程があんだろ……」
「誰にだって勉強する権利はあるし学は必要だからね! 共和国でも名門に通ってたし、こう見えてすごい頭良いんだよ!」
「そ、そうだったんですね……」
ふふん、と胸を張って自慢しておく。暗殺者だろうが裏社会の人間だろうと学校には行ったほうがいいし! 頭が悪い裏社会の人間なんてチンピラか鉄砲玉待ったなしだからね! そういうところは大事にしたいし、《庭園》でもちゃんと勉強させるように管理人には命じてる。私がボスとして命じた少ない決まり事だ。もし暗殺者をやめたとしても学がないと苦労しそうだからね。イクスとヨルダもちゃんと日曜学校に通わせてるし、エースくんに関してもそろそろどこかの高等学校に通わせようかなって考え中だ。3人とも元気かなー。通信でしか最近は話してないからそろそろまた会いたいね。
ってことでそうこうしている間にロイドくんたちは首脳たちを待たせるわけにはいかないってことで別れることになった。私もクローゼちゃんと別れ、レクターと共に護衛が詰めてる控室に向かう。ここからは普通に護衛してる風を装うことにしよう。そしてテロリストが襲ってきたら普通に対応する感じで。そして化学兵器で一網打尽だ!
──なのでまたしばらく。休憩を挟んで会議は進行する。会議の内容はなんかオズボーン閣下がこの間の教団事件についてなんか色々言及して有利に進めてたっぽいけどさすがにここまでは聞こえない。もしかして私がやったこととか利用してる……? ──まあ別にいいけどね。多分私に不利になることではないっぽいし。
それにここでの安全保障についての議論はぶっちゃけうやむやになるんだよね。ディーターさんが独立宣言とかしちゃうから。私もその辺りの流れは既に聞いているし、聞かなくても知っている。なのでクロスベルに軍を駐留させる云々も実現は──するんだけどね。計画が終わった後で。オズボーン閣下がクロスベル併合を行うからその時には更にクロスベルは大変なことになる。ほんと可哀想だよね。仕方ないことではあるけど。
「──今、この場で語られている安全保障の議論について……一つ、私の方から提案させて欲しい事があります」
お、そうこうしている間にやっとその時が来た! ディーターさんが会議がクロスベルにとって不穏な方向に流れている最中に行う提案! これが確か独立宣言なんだけど、そのタイミングで──
「な──!」
「飛行艇……!?」
──テロリストが来たー!! 《帝国解放戦線》と《反移民政策主義》だ!! めちゃくちゃ撃ってきてるー!! 危なすぎる! 特注の防弾ガラスだからって貫かれないとは限らないんだから! クローゼちゃんを守れー! オズボーン閣下は不死者だから守らなくても死なないし!
「──会議に出席されている方々。我々は《帝国解放戦線》である」
「──同じくカルバードの旧き伝統を守るために立ち上がった《反移民政策主義》の一派の者だ」
おっと、なんか飛空艇の拡声器越しに色々喋ってる。そのためにオズボーン宰相とロックスミス大統領を殺すとかなんとか。宰相は「話にならんな」と言ってるが、本当にそう。やるにしてももうちょっとこう……ね? 一応これでも暗殺者の端くれとして思うところはある。無関係な人間は少なくとも巻き込むべきじゃないと思うかな。私には関係ないし意見を言う気もないけどね。
まあそんなことは置いといて……ようし! 一網打尽だ! やっぱり屋上に行ったぞ! 突入してくるっぽいけど突入は出来ないはず! 皆死亡してミッションコンプリート! これにて《西ゼムリア通商会議》編完!
「──今だ……!」
「宰相の首を狙え!」
「大統領を殺せ!」
「……あれ?」
──なんか普通に突入してきてるんですけど? なんで死んでないの?
私は国際会議場フロアの廊下に突入してきたテロリストたちを見て固まる。化学兵器食らったよね? なんで死んでないのか……? もしかして失敗した? 間違えた? 薬間違えた? と、とにかく薬を確認して……! い、いやそんなことしてる場合じゃない! 急いで殺さないと! でもこの場で殺るわけにはいかない! 殺るなら誰も見てない地下で……! ──って、階段は締まってるし、エレベーターも使えない! しかも早く行かないと確か《赤い星座》と《黒月》が制圧しちゃう! 《赤い星座》の方は確か生き残りが出たような気がするけど《黒月》の方は普通に捕らえて終わりだった気がするし、先回りして殺さないと任務失敗だ!
でもどうしよう! 先回りするならここにいる護衛とか特務支援課とかより先に地下に降りないと! まさか一緒に向かうわけにもいかないし……! と、とりあえず40Fの化学兵器だけ除去してから……ええっと……他に地上に、もとい地下に降りる方法は──
「これしかないか……」
はぁ、と私はため息をつく。別にこれくらいの高さなら平気になったとはいえ、それでも若干ビビったが、仕事が失敗に終わるのは良くない。なので──
「うわああああああああああん!!? 40Fはさすがに高いよー!!!」
──そう、地上40Fのオルキスタワーの屋上から。普段は高いところといってもここまで高くはない。せいぜいこの半分くらいのビルから飛び降りたり飛び移ったりはあるけどね! 後はそれ以上になるリベルアークとか! あれは例外にしても高い! でも糸を使って上手く飛び移りつつ地下へ向かうぞ! 目的はテロリストの殲滅だ! 急げー!! 願わくば誰ともかち合いませんように!
──数分後。
「ほう……久し振りだな。《血染の裁縫師》。あるいは《切り裂き魔》と呼ぶべきか?」
「懐かしいねー! あの化け物みたいに硬かったお姉さんでしょ? あの頃は全然歯が立たなかったけど今ならいけるかなー?」
──やっぱりダメだったよ……。
最初にかち合った相手は《赤い星座》の部隊と《赤の戦鬼》シグムント・オルランドさんと《血染め》のシャーリィで私はその場で絶望した。くそー! どうせかち合うなら《黒月》の方が良かったのにー! 絶対タダで通してくれないよー! うわああああああん!!
今回はここまで。西ゼムリア通商会議は次回もあります。《AS-CHEMICAL01》は結構凶悪です。その効果とは……? 次回はテロリストがお亡くなりになります。お楽しみに。
感想、評価、良ければよろしくお願いします。