──その報告を耳にした時、1番ショックを受けたのはユーシスでしょうね。
だけどあたしもまた静かに怒りと申し訳無さを感じていた。
長閑な田園風景が広がっていたその街。帝国の食料の多くを賄っている交易の街ケルディックがクロイツェン領邦軍に焼き討ちされたと聞いてアタシはリィンたち教え子と共に現場に急行した。
そしてそこに広がっていた光景を静かに受け止める。
焼け落ちた家。倒壊した建物。焦げついた畑。それらの前で嘆き悲しむ領民。
幸いにも死人は少なかったとオットー元締めやクレイグ中将に聞いてもその衝撃と畏怖を隠すことは出来ない。
クロイツェン領邦軍とあたしの古巣の《北の猟兵》がケルディックの住民に与えた恐怖と被害は謝っても許されることではない。
特に《北の猟兵》。彼らの事情は元々そこに所属していたあたしが誰よりも知っている。
塩に飲まれた祖国を救うために猟兵として戦うことを決めた彼らの覚悟はわかっている。
だけどそれでも、このような蛮行を許すわけにはいかない。あたしの第二の故郷である帝国を荒らさせるわけにはいかなかった。
あたしはそうしてケジメをつけることを決めた。
……だけど不可解なこともある。
「アーヤ教官が……?」
「ああ。もう1人の剣士……おそらくは結社の元執行者《剣帝》レオンハルトでしょう。彼と共にケルディックの街を襲う領邦軍や《北の猟兵》を斬り捨てています」
「っ……」
「アーヤ教官は貴族連合についているはずじゃ……」
「詳しい経緯は不明ですが、住民の多くがそれを目撃しています。彼らに救われたと……」
クレア大尉やナイトハルト教官。クレイグ中将からその補足を聞いた時、あたしは疑問と共に憤りを感じてしまった。
アーヤ・サイード。結社の執行者であり、伝説の暗殺者。
かつて《北の猟兵》を襲撃した大勢の命を奪った相手。
そのアーヤが、またしても《北の猟兵》を殺害した。
もちろん今回の件は《北の猟兵》と領邦軍。アルバレア公に非がある。
彼らがケルディックを焼き討ちした。その結果、ケルディックを守ろうとした《剣帝》やアーヤに返り討ちを受けて死んだ。それはただの因果応報であり、恨みや怒りを抱く筋はない。そのことはあたしだって理解している。
だけど、それでも。どうしたって思い出す。
あの時の皆の恐怖に満ちた表情。仲間を殺された怒りと悲しみ。大勢の兵を失ったことで更に困窮した祖国のことを。
それを引き起こしたのがアーヤだ。そのアーヤが、《北の猟兵》を殺害することがアタシは許せなかった。
それが身勝手な私情であることが分かっていながら、あたしはその矛盾をどうしても見過ごすことは出来ない。
だからこそあたしは《北の猟兵》にケジメをつけるだけでなく、アーヤにも問い質すつもりだった。
どういうつもりなのかと。
何故ケルディックを守ったのか。それを襲う《北の猟兵》を殺したのか。
そして、それができるなら──なぜあの時《北の猟兵》を襲ったのか。
それを知りたい。知らなければならないと思った。
「──あんたたちのやり方は否定しないわ。でも今のあたしはこの子たちの担任教官よ。そしてこの国は故郷を捨てたあたしにとって第二の故郷でもある……焼き討ちのような非道を働くなら容赦はしない──二度と悪さが出来ないよう懲らしめてあげるわ! あたし1人の手でね……!」
──そしてそのためにあたしは教え子のリィンやユーシスたちと共にオーロックス砦に侵入した。
目的はあくまでアルバレア公の拘束。貴族連合からもそれに干渉しないと言質も取っている。
だけど目の前にいる祖国の元同胞とこの砦にいるかもしれないあいつのことは放って置くことは出来ない。
だからあたしはたった1人でまずは《北の猟兵》に挑んだ。
元国軍である《北の猟兵》の練度は高い。小隊規模とはいえあたし1人では苦戦は免れないことはわかっている。
だけど教え子たちを巻き込むわけにはいかなかった。これはあたしの付け損ねたケジメだから。
「わ、我らの波状攻撃をたった1人で……」
「くっ……団にいた時以上か……」
──だけどなんとか、あたしは彼らの攻撃を防いで痛手を負わせることに成功した。
体力はかなり消費したし、向こうはまだ戦うことは出来る。
でも明確に上回ることが出来た。その結果を以て、あたしは突きつける。
「さあ──まだやるの!? だったらいいわ! いっそ全員でかかってきなさい! 最後まで、気の済むまで相手になってあげるわ──!!」
「っ…………」
あたしは彼らを退けるまで諦めない。
殺すことはしないし、したくはない。
道を違えても故郷の人間であることには変わりないから。
だからあたしは、彼らが諦めるまで相手をするつもりだった。
「……フン、気が削がれた。これ以上、手負いの雌獅子とやり合うメリットは無さそうだ」
「……戦機を逸した以上このあたりが退き時だろう」
「クロイツェン州との契約はこの場で打ち切らせてもらう」
「……あ…………」
──そしてあたしの覚悟が届いたのか、彼らは戦闘態勢を取ることをやめた。
「……父との契約を反故にしていいのか?」
「報酬分は既に働いている。これ以上は過ぎたサービスというものだろう」
猟兵らしいもっともな理由を口にしていたし、それは事実本当のことだろう。
だけどその中に一欠片でもあたしの意思が届いたのだとすれば、あたしが骨を折った甲斐もある。
出来れば今後はこのようなことをしてほしくない。それが難しいことを知りながらもそう思わざるを得なかった。
「さらばだ、バレスタイン」
「少なくとも、この内戦ではもはや会うことはあるまい」
「……ええ、そう願うけど、その前に1つ聞かせて」
別れを告げてその場から撤退しようとする《北の猟兵》にあたしは1つだけ質問をする。
「この砦にあんたたちの焼き討ちを妨害した《血染の裁縫師》……アーヤ・サイードはいるかしら?」
「む……」
「アーヤ・サイード、か……」
その名前は《北の猟兵》にとって有名だ。
一時期は《北の猟兵》をあげて捜索し、報復しようという話が上がったこともある。
だからこそ彼らは反応した。だけど……その反応がどうにも歯切れが悪い。
「……バレスタイン。貴様は……まだあの娘に恨みを持っているのか?」
「……っ……さあね。恨みかどうかは自分自身よく分からないわ。だけどあたしはあいつに聞く必要がある。なんであの時、あんなことをしたのか……その答えをね……!」
あたしはあたし自身の決意を彼らに聞かせる。
そしてあたしはその理由を、彼らもまた理解出来ると思っていた。仲間を殺された無念。その理由をせめて聞きたいと思うのはなんらおかしくないことだと思っていた。
だけど──
「……バレスタイン。1つだけ忠告しておこう」
「……あの娘……アーヤ・サイードが何故かつて我ら《北の猟兵》を襲ったのか……その理由を貴様は知らない方がいい」
「っ……!」
──それは予想外の返答だった。
意味が分からない。彼らが何故そんなことをあたしに告げるのか。
しかもそう答えるってことは、彼らはあたしが知りたがっているその答えを知っているのではないかと。
「それは……一体どういうことよ……!? あんたたち、もしかして……!」
「……サイード社を知っているか?」
「あの女が社長をやっている会社でしょ、それが一体何なの!? あんたたち、何か知っているなら教えなさい!」
「表向きにはあまり知られてないことだが……あの会社は大陸各地の貧困地域に支援を行っている。衣類や食料品などを中心にな」
「そしてそれは我らが故郷も例外ではない」
「は……?」
あたしは彼らから告げられる初めて聞く事実に、理解が出来なかった。
言っている意味が理解出来ないわけじゃない。サイード社がアーヤ・サイードが社長を務めている会社であることは理解しているし、その会社が大陸各地に……それもノーザンブリアにも多額の支援を行っていることも理解した。
わからなかったのは……そんなことであの女を許せと言っている彼らのことだ。
「……意味が分からない……何を言ってるのよ……それが、それがどうしたって言うの!?」
「……我らの口から語ることが出来るのはここまでだ」
「……我々は祖国を救うために猟兵へ身を落とすことを決めた。それ故、
「だがバレスタイン。貴様が過去と決別するというなら、あの女の過去を今更掘り返すことはおすすめしない。それが貴様のためだ」
何かを思い出すかのように彼らは静かにそれを口にし、背中を向ける。
「待ちなさい! まだ話は終わって──」
「──撤収だ! 各員、散開しつつ離脱ポイントまで撤退する!」
『了解!』
そしてあたしが引き止める言葉を聞くことはなく、彼らはそれだけ言うと猟兵らしく素早く撤退していく。
体力を削られたあたしはすぐに追いかけることが出来なかった。
「どうやら……片付いたみたいだな」
「ああ……そこの教官殿が文字通り獅子奮迅の働きをしてくれたからな」
「でも今の話は……」
背後から教え子たちがあたしを労うように近寄ってくる。
だけど……あたしは余計に分からなくなった。
リィンたちにあたしが元《北の猟兵》であることを告げながらも、あたしの頭は先ほどの言葉でいっぱいだった。
「……やっぱり教官も色々と抱えていたんですね。ですがアーヤ教官との間に一体何があったんですか?」
「……あの女は、かつて《北の猟兵》を襲撃し、100名近い死者を出したのよ。それも、たった1人でね」
「……っ!?」
「それは……!」
「重傷者や間接的に被害にあった人間も含めればもっと多い。だからこそ、かつてのあたしはあの女を……アーヤを恨んでいた。民間人を殺さなかったとはいえ、仲間を大量に殺戮したあの女のことをね」
あたしはリィンたちにアーヤとの確執の理由を教える。
だけど1つだけ嘘をついた。
かつてのあたしは、と言ったけど本当は今でも思うところがある。
そうでなきゃここまでこだわる必要なんてない。
そしてそのことに、多分リィンたちは気づいていた。
「……事情は分かりました。だけど教官は……」
「悪いけど、ついていかせてもらうわ。アーヤがこの先にいるなら、あたしも……!」
「……ええ。それなら俺たちの後ろに」
「教官は少し休んでいるといい」
「後は私たちに任せてください……!」
あたしが意地でもついていくとワガママを言えば、リィンたちはあたしをサポートして最奥まで連れて行くことで同意してくれた。
その頼もしい姿に誇らしくなるし、感謝も覚える。
これで真実を知ることが出来る。彼らは知らない方がいいと暗に匂わせていたけど、あたしは知りたい。知らなきゃ前に進めない。そう思ったから──
「さあ教えてもらうわよ! あんたがなんでかつて《北の猟兵》を襲ったのか……!」
「ええっ!? いや、そんなこと言われても特に理由はないっていうか……仕事だったからってだけで……」
「っ……ふざけんじゃないわよ! あんたのせいで、あたしの故郷が……ノーザンブリアの人がどんな目にあったかわかってんの!?」
「そ、それはごめんだけど……うぅ……」
──アルバレア公の前に立ち塞がったアーヤと鉄機隊の隊士。
その2人をなんとか下してあたしはその聞きたいことを問い質そうとした。
だけど煮えきらない答えばかりが返ってくる。そのふざけた答えにあたしは激して──
「……黙って聞いていれば好き放題言ってますわね」
「え? デュバリィちゃん?」
──アーヤの隣にいた《神速》のデュバリィという騎士の女が何やら憤りを感じた様子でこちらを見ていた。
その対応にアーヤは困惑している様子で、あたしもまた何を言うのか待った。どんな言葉を返してくるつもりなのかと、そう思って。
「貴方、《北の猟兵》を襲撃されたことで随分とアーヤに怒りを向けている様子ですが……自分たちがアーヤに何をしたのかはちゃんと理解していますの?」
「っ……!? あたしたち、が……?」
「あっ! ちょっと駄目だってデュバリィちゃん! それ言っちゃ──」
「貴方には悪いですがそんなに好き放題言われてるのを聞いていて黙っていることなど出来ませんわ! ──ふん、知らないなら教えてあげます! 《紫電》のバレスタイン……貴方の所属していた《北の猟兵》は──」
義憤に燃えた様子で何かを口にしようとするデュバリィを見て、アーヤが焦っている。
そしてあたしは何故か、その言葉を聞いて心が警鐘を鳴らしていた。
聞いてはいけないと。
あたしの知りたいという欲求に反して心は嫌な予感を的確に感じ取っていた。
アーヤがかつて《北の猟兵》を襲った理由。その答えが、今まさにあたしの耳に届いて──
「──かつてアーヤの故郷を滅ぼして、アーヤが教団に売られる原因を作った元凶なんですのよ」
「…………え…………」
──そしてあたしは……その衝撃的な真実を知ることになった。
どこまでも深い闇。ギルド経由で聞いたアーヤの不幸な境遇の源泉。
その原因が──《北の猟兵》にあることを知って、あたしは目の前が真っ暗になった。
──うわああああああああああああん!!? 何言っちゃってんのデュバリィちゃ────ん!!? 全然違う! 理由違う! あれは私が《破戒》のオジサンに身分証を頼んだらその条件として襲うことになっただけで私怨とか何もないのに────!!? なんで嘘ついてサラちゃんが傷つくようなこと言うの!? 確かに猟兵殺すくらいならしょうがないじゃんとは思ったけど言い訳するつもりはなかったのにさあ!!
……あ、どうも。結社《身喰らう蛇》の執行者No.ⅩⅢ《血染の裁縫師》アーヤ・サイードです。今は現在進行形ですごい状況で困ってます。
というか最近はマジで忙しくて困ってるんだよね。いやほんと。分刻みどころか秒刻みのスケジュールでさ。困りすぎて時間が巻き戻ればいいのになーって思ってるくらい。オジサンからもらった第8のゲネシス使えないかなー。もしくはどっかに刻の至宝落ちてたりしない? どこにあるのか知らんけどさ。
まあそんな与太は置いとくとしても本当に忙しい。具体的には1日毎にクロスベルと帝国を往復して行ったり来たりしてるくらいには。昨日まではクロスベルで特務支援課と星見の塔で戦った……ってあれ? 私戦ってないか。ちょっと踊った記憶しかない……ま、いいや、それでその後はケルディックの焼き討ちをアリオッチやレーヴェと一緒に防ぐことは出来なかったけど被害はそれなりに抑えてすたこらさっさと逃げた。
その後はまた貴族連合の要請でアルバレア公が断罪されるところを見届けてきてって言われたのでマクバーンやデュバリィちゃんと一緒にオーロックス砦の司令部でブレードとかもう少しで発売予定の《VM》とかやって遊んでたんだけどアルバレア公に遊ぶなって言われてからやめた。はぁ、面白くなーい。つまんなーい。って思ったけど一応は仕事なのでギリギリまだ雇い主のアルバレア公に従ってⅦ組を待ち構えたんだけどさ。早々にマクバーンは私たちだけで十分だろとか言ってどっか行っちゃうし、サラちゃんはなんか「あんたが10年前に《北の猟兵》を襲った理由を教えてもらうわよ!」とかすんごい鼻息荒くして言ってくるからすっごい困った。そんなこと言われても理由なんて別にない……オジサンの頼みだったからやっただけなんて言ったら怒っちゃうかもしんないし、あんまり言いたくないんだよね……民間人は殺してないよ! なんて言い訳をするのも良くないし、めちゃくちゃバツが悪い。
そして勝ったら教えてもらうとか勝手なことを言われたんだけど、私とデュバリィちゃんは生憎とかなり疲れてた。特にデュバリィちゃん。私の方はまあ平気っちゃ平気だったけどデュバリィちゃんがキツそうだったのと勝ったら勝ったでアルバレア公が逮捕されないのは困るしムカつくので程々でいいかなって思ってデュバリィちゃんに合わせて1本取られた雰囲気を出しておいた。デュバリィちゃんも疲れてなければもっといい勝負出来たのに悔しいだろうね。
そしてその戦闘後にサラちゃんが私に改めて問い質してきたんだけど、私はなんて言おうか迷ってまごまごしていた。するとなんかデュバリィちゃんが急にシュバって私のことで怒ったのか「《北の猟兵》が故郷を滅ぼしたから売られることになったんだよこのアホー!」っていうことを(意訳)サラ教官にぶちまけたので私は内心で「何言ってんのこの子ー!!?」って驚愕した。今ココ。
「《北の猟兵》が、アーヤ教官の故郷を滅ぼした……?」
「それはまさかケルディックの焼き討ちのような……」
「あ、いや、それはなんというか……」
「その通りですわ。先にやったのは貴方の古巣の方です。しかもアーヤとは違い、民間人を巻き込むことを辞さずに行った。アーヤの親戚や隣人も帰らぬ人になったとわたくしは聞きましたわ。それを知らずに元猟兵が殺されただの大騒ぎして……まあ同胞を殺された哀しみや怒りは理屈ではありませんしある程度は理解しますが……それでもアーヤに恨みをぶつけるのはお門違い。散々他で同じことをやっておきながら恨みをぶつけるなど、些か厚顔無恥だと言わざるを得ませんわね」
「だ、だからデュバリィちゃんちょっと待ってー!!?」
いやだからなんでデュバリィちゃんが怒ってるの!? ──あ、私のためか。あはは、それは嬉しいけどさー。もうデュバリィちゃんってば普段はあんなにツンデレなのにこういうとこあるよね。さすがは友情に厚い──って、そんなこと言ってる場合じゃないー!!
ってかなんでデュバリィちゃん今日だけこんなレスバ強いの!? 普段はポンコツなのに!
「あんた……その話、本当なの……?」
「え? あ、えーと……本当か嘘かって言われるとちょっと困っちゃうなー……あははー……」
「本当かどうかなど貴方がよく知っているはずでしょう? 焼き討ちは《北の猟兵》の十八番。帝国外においても金次第で非道な作戦を行うことは有名な話ですわ」
「っ……」
ああああああ!!? だからなんでデュバリィちゃんそんなこと言うの!? ほら、サラちゃんが苦しそう! すっごい歯噛みしてるじゃん! 可哀想! どっちがやったやられたとかもういいじゃん! 私怒ってないし憎しみの連鎖とか良くないからもうやめましょうよ! 命がもったいない!
「貴様ら何を訳の分からんこと言っておる! とっとと私を守るがいい!!」
「うるさーい! 黙れアホアホ公爵! 空気読め! 今それどころじゃないのっ!」
「なっ……!? だ、黙れだと……!? 貴様、雇い主に向かってなんという暴言を……!」
「だからうるさい! 私たちの任務はそっちが逮捕されるのを見届けることなんだから守る義務なんてありませーん! バーカバーカ!」
「なっ……なんだと……っ!? さ、最初から私を見捨てるつもりだったのか!?」
「カイエン公とユーシスのお兄さんに言われたからね! まあ、それがなくてもどっちみちやられてたと思うけど! なんなら個人的にもやっちゃおうかって迷うくらいにはやり過ぎてたね!」
「な、なっ……」
ちょっと後ろからうるさかったので私は最後にアルバレア公に文句をつけて黙らせておく。いやほんと、今はそれどころじゃないしアルバレア公のことなんてどうでもいい。さっさと逮捕されてくれ。こんなのでもユーシスくんの身内だから殺したくはないし、これ以上やりすぎる前に逮捕される感じになってくれてむしろありがたいんだよね。
「ってことでデュバリィちゃん帰ろう! そろそろ次の仕事もあるしさ!」
「む……ですが……」
「まあまあいいじゃん! 色々言ってくれてありがとね! でも私はなんとも思ってないから!
「っ……」
私はそう言ってデュバリィちゃんを抑える。あれ? なぜかそれを聞いたサラちゃんたちの方がなんかちょっとビビってるような……気の所為かな? ──ま、いいや。とりあえず撤収!
「……分かりましたわ」
「よし! それじゃ私たちは帰るねー! サラちゃんにリィンくんたちも私のことは全然気にしなくていいから! お互い様ってことで! それじゃまたねー!」
そうしてデュバリィちゃんと共に転移でその場から脱出する。一応フォローで笑顔で手を振っておいた。……ふぅ。これでなんとかなったかな? あんまり気にしないでくれるといいけどね。私は本当に全く気にしてないから。
「……アーヤ」
「ん? 何、デュバリィちゃん」
「申し訳ありませんでしたわ……」
「え? 何が?」
「貴方の過去をベラベラと口にしてしまいました。ついカッとなってしまって……いえ、言い訳ですわね。とにかく謝罪しますわ」
──と、サラちゃんたちのことを考えてると今度は転移先でデュバリィちゃんが私に謝ってきた。いや、それも別に良いんだけどね。私のために言ってくれたってことはなんとなくわかったし。
「ああ、うん。全然気にしないでいいよ」
「ですが……」
「いいからいいから。私が過去のこととか全然気にしてないのは知ってるでしょ? だから別にいいんだって。そんなに恥ずかしいことじゃないしさ」
私はデュバリィちゃんを許す。というか怒ってないしね。過去のことは言ったらなんか気まずくなりがちだから出来れば言いたくないけど、だからといって私自身が隠したいかって言われるとそういうわけでもないので別にいい。
まあ実は5歳から経験あって経験人数3桁超えてます、とか言われたらさすがにちょっと恥ずかしいし困るけどさ。怒ることもあるかもしれないけどどちらにせよデュバリィちゃんには怒らないよ。友達だからね。
「……全く貴方という人は……たまには本気で怒った方がいいと思いますわよ? そうでないと貴方の優しさに増長して付け上がる人も出てきますわ」
「……ふーん?」
「……って、なんですの? その意味ありげな視線は……」
「いや、デュバリィちゃん私のこと優しいと思ってたんだーって思ってね」
「なっ……ち、違いますわ。今のは言葉の綾で……」
「そっかそっか。デュバリィちゃんは私のことそう思ってたんだね~。ついにツンデレのデレの部分が来ちゃったかー。感慨深いなー」
「だ、だから違いますわっ!」
「照れなくていいのに」
「照れてもいませんっ!」
──ということでその後は顔を赤くするデュバリィちゃんを散々からかい、とうとう剣を抜いてムキになって斬り掛かってきたところで私はデュバリィちゃんと別れた。デュバリィちゃんは「キーッ! 覚えてなさい! 次に会った時はまた決闘ですわよ!」と怒ってたけどいつものことなので気にならない。戦うのはそんなに好きじゃないとはいえデュバリィちゃんとの決闘は命の危険がないから別に嫌じゃないしね。
そして私はまたしてもクロスベルへ。予め呼ばれてたんだよね。今日はなんかまたでっかいイベントがあるって言われててさ。
まあ私はなんのことか知ってるんだけど。多分だけど時期的にディーターがやられてくまひげ先生が黒幕の1人としてマリアベルと一緒に出てきて碧の大樹をフィールドに展開する日じゃなかったっけ。
ってことは碧の軌跡もそろそろ終わりかー。なんだかんだ早かったなー。まあ私はそんなにやることないし、この後も多分そんな大きい仕事は任されないだろうけどね。なんなら後は寝てるだけでも──
「アーヤさん。貴方にも碧の大樹内で働いてもらいますわよ。領域の1つを任せますから彼らを丁重にもてなしてくださいな」
──いいわけないですよねー。あはは、りょうかーい。はぁ……ま、分かってたけどね。使える戦力は使うに決まってるし、今日まであんまりこっちの計画には参加出来てないからさ。
ただ戦うだけでいいならまあ……って感じだ。どうせスーパー根性バーニングハートで絶対壁乗り越えるマンになったロイドくんたちが全員薙ぎ倒してキーアちゃんを救うだけだしね。
その後でまあ、私の目的を達成するかどうかは流れによって決める感じでいいかな。
なので後はキーアちゃんとお喋りしながらその時を待つことにしよう。キーアちゃんは可愛いからね。
あ、そうだ。私の領域ってどんな感じになるかな? うろ覚えだけどなんか心象風景みたいになるんだっけ? つまり固有結界? 領域展開? どんな感じになるかは分からないけど私の心なんて平凡そのものだし、普通の町並みとか公園とかになるんじゃないかな。それ以外だと……遊園地とか? 私楽しいのが好きだからね。
それ以外だったらまあ……なんか訳の分からない空間になったりするんじゃない? いや、さすがの私も読めてるというか……私の内心と全然違う意味不明な空間になるんじゃないかって思わなくもないんだよね。
「『碧き零の計画』、このまま遂行させてもらうよ」
「フフ、《零の至宝》の完成形……時空を支配し、因果律を組み替える《碧の大樹》……その新たなる誕生ですわ……!」
あ、始まった。さてさて、どんな領域になるかなー。楽しみー。お裁縫道具とかお弁当とかゲームとか持ってきたし、特務支援課が来るまではどんな場所でも遊んでよーっと。しばらく服も縫えてなかったし、近日中に行われるコレクション用の衣服でも縫おうかな。ふんふーん♪
「なんだ、これは……」
──俺たちはその日、様々な人の協力を経て遂にキーアを救い出し、全てに決着をつけるために《碧の大樹》へと乗り込んだ。
その内部は迷宮と言えるほどに複雑であり、高位の魔獣が徘徊している。
その上で各領域を守っている相手を倒さなければ先へ進むことは出来なかった。
ここまでに俺たちはシャーリィとヴァルドの領域に侵入して彼らを倒し、更に碧の大樹を進んでいく。
そんな時、次なる領域へ続く扉を発見し、俺たちはその1つに手をかざした。
──だが今までと違って声が聞こえず、俺たちは困惑した。
誰か求める相手がいるというわけでもない。条件は何もない。
ただ何か声をかけられるわけでもなく、ただその扉の先に進むことが出来る。そのため俺たちは半ばそこにいる相手を予想しながらもその中へと進み、そこでこの光景を目の当たりにした。
「
──それはどこまでも、どこまでも果てしなく続く白の空間。
先が見通すことすら出来ない。足元にある白い砂がどこまでも広がっている。
「綺麗な光景、ですね……」
「ああ……だがこれは……」
その領域を、光景を見て俺たちは誰もが同じ感想を抱いた。
「どうしてでしょう……見てるだけで、どこか辛くなる気がするのは……」
「一面真っ白で色のない……それでいて全てが風化した砂漠、か……」
「どんな心を持っていればこんな光景が出来るのでしょうか……」
「分からないわ。だけど……」
「……ああ。だが……ここが誰の領域なのかだけは分かる」
それは障害物の何もない真っ白い砂漠だからこそ。
地平線に続くその道中に見える人影が僅かに見える。
だが俺たちはその名前を口にはしなかった。この光景があまりにも物悲しい……彼女の絶望を感じさせたから。
「どうやら終点には真っ直ぐすすむだけで辿り着けるみたいね」
「ああ。──皆、行こう。この先で
頷きを返すエリィ、ティオ、ランディ、ワジ、ノエル、リーシャ。
彼らと共に俺たちはこの《白の領域》とも言える場所を真っ直ぐに進んでいった。
その先にいる俺たちにとってのもう1つの《壁》──アーヤさんを乗り越えるために。
一ヶ月ぶりの更新ですが今回はこんなところで。ということでアーヤちゃんの領域は《白の領域》でした。果てしないけど何もない真っ白い砂漠です。綺麗でいいね!
そして次回かその次で碧の軌跡は終了。続いて閃の軌跡2もすぐ終わります。零碧シリーズはアーヤちゃんの怖い部分を出すシリーズなので次回はちょっとだけ怖いです。でもアーヤちゃんなのでたかが知れてるよ。楽しいよ。お楽しみに。
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