TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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煌魔城で全力で迎え撃つ不幸

 ──俺は……俺たちはただひたすらに前へと進む。

 

 帝国における内戦。紅き翼を以って帝国東部を中心に数々の戦いを、苦難を乗り越えてきた。

 その果てに俺たちはカレル離宮でユーゲント陛下やプリシラ王妃ら、レーグニッツ帝都知事やエリゼを救い出し……帝都に突如現れた謎の紅い城──煌魔城へと向かった。

 

 トールズ士官学院の皆からの後押しを、皆の意思を背負ってカイエン公やクロチルダさん。そしてクロウが設けたこの舞台に上がり、全てに決着をつけるつもりで。

 

 Ⅶ組の仲間もまた因縁ある相手との戦いを乗り越えるために。この内戦を終結させ、セドリック殿下を救い出し、俺たちⅦ組が培ってきたものを証明する。

 

 その煌魔城第一層では結社の執行者No.Ⅹ《怪盗紳士》ブルブランと結社最強の戦闘部隊である《鉄機隊》の筆頭隊士である《神速》のデュバリィと。

 第二層ではフィーの古巣である《西風の旅団》の連隊長《罠使い》ゼノと《破壊獣》レオニダスと戦い、それぞれ力を証明した後に頼もしい助っ人たち──オリヴァルト殿下やトヴァルさん。クレア大尉にシャロンさんにその場を受け持ってもらい、なんとか乗り越えた。

 

 そして続く第三層──最上層へと向かうエレベーターがある最奥。神殿のような場所へと俺たちは辿り着く。

 

「誰かいる……!」

 

「……………………」

 

 だが──俺たちは薄々気づいていた。

 気配に気付いただけじゃない。そこで待ち受ける強敵の予感。

 ここに来るまでにいなかった相手。下で戦った人たちよりも更に手強い壁の存在を。

 

「いるんでしょう……? 結社《身喰らう蛇》の執行者、No.Ⅰ──《劫炎》のマクバーン」

 

 俺はその気配を感じ取って名を告げる。

 俺の中にある力よりも遥かに強い何らかの気配──それを持つ結社最強の執行者《劫炎》のマクバーン。

 だが俺が──いや、俺たちが感じ取ったのはそれだけじゃない。

 この限りなく薄い気配。本当は完全に気配を消すことも出来るだろうに、あえて俺たちを試すように浸透しているその気配が俺たちにその存在を知らせてくれる。

 

「そしてもう1人……」

 

 そう。ここで待ち受けているのはマクバーン1人じゃない。

 俺たちⅦ組にとってのもう1人の担任教官。

 クロウだけじゃない。俺たちの元から離れてしまったⅦ組の仲間の1人。

 

「──アーヤ教官も、そこにいるんですね?」

 

「クク……」

 

 その名を俺は呼ぶ。

 結社の執行者という肩書で呼ぶこともなく、あくまで教官なのだと伝えるために。

 そうして柱の陰から出てきたのは、まずマクバーンの方で。

 

「公爵の砦以来か。お互い、面倒臭ぇ場所まで付き合わされちまったもんだな?」

 

「ああ……同感だよ」

 

「そんなに面倒ならとっとと引き上げて欲しいものね。それと……あんたの方はいつまで隠れてるつもりかしら?」

 

 サラ教官がまだ出てこないもう1人に対していつになったら出てくるのかと声をかける。

 するとマクバーンも隣にもう1人いないことに気づいたのだろう。顔だけで僅かに振り返ってもう1人を呼ぶ。

 

「呼ばれてるぜ。さっさと出てきたらどうだ?」

 

「──いやだっていきなり来るから……よいしょっと」

 

「やはりいたんですね。アーヤ教官──」

 

「──ってことで年末限定アーヤちゃんの年越し蕎麦屋台、開店だよー! 美味しいよー!」

 

 ──そうして柱の陰から屋台を引いて現れたアーヤ教官に俺たちは絶句する。

 

 即席で、しかも自分で作ったのだろう。手作り感がいい味を出していて……ってそうじゃない! 

 

「な、ななな……何をやっているんですかアーヤ教官!?」

 

「え? いや、だって年末だし……東方じゃ年末はお蕎麦を食べるんだよ? 細くて長い蕎麦を食べることで寿命や家運を伸ばして、同時に切れやすい蕎麦を食べることで1年の苦労や厄災を断ち切る意味もあるんだから」

 

「そんなことを聞いているんじゃありませんっ!」

 

「皆も食べる? 美味しいよー」

 

「そんなの食べるわけ──「わーい! 食べる食べるー!」って、何を普通に受け取っている貴様!?」

 

「初めて食べたけど結構いけるね」

 

「フィー君もいつの間に食べているんだ!?」

 

 そして俺やユーシスやマキアスがツッコミを入れる中、ミリアムやフィーは普通にアーヤ教官から蕎麦を受け取って食べていた。

 

「あー……待っててやるから食いたきゃ食ってもいいぜ。俺も食ったが味は悪くなかったしな」

 

「案外呑気な御仁だな……」

 

「って、緊張感ゼロなんですけど!?」

 

「ふむ。そういうことなら頂こう。風もそう言っている」

 

「確かに美味しそうな匂いはするけど……」

 

「あ、あはは……いいんでしょうか……?」

 

「良いわけないだろう!?」

 

「ええい! 何を和んでいる!? 幾らアーヤ教官が相手とはいえ……!」

 

「でもこれ美味しいよ? しかも気力や体力が全快する気がする!」

 

「HPとCPに不安がある人は是非食べてね!」

 

「意味不明なこと言ってんじゃないわよ!」

 

 ラウラが呆れ、アリサがツッコミ、ガイウスは受け入れ、エリオットはなんとも言えない顔で、エマは苦笑い。更にマキアスとユーシスがツッコミを入れるが、ミリアムやアーヤ教官は笑顔で蕎麦を食べていた。セリーヌも思わずツッコむ。なんなんだこの状況は。

 だがこうなったら仕方ない。俺たちはアーヤ教官に押されるままに蕎麦を受け取り、それを食べてから決戦に挑むことにした。……ちなみに味は結構美味かったし、体力や気力も確かに回復した気がした。

 

 

 

 

 

 ──もう少しで年越しだ! あけましておめでとう! アーヤ・サイードです! うどんと蕎麦ならどっちも好きだけど強いて言うなら蕎麦派! 安いうどんと安い蕎麦なら安いうどんの方が美味しい気がするけど高いうどんと高い蕎麦は高い蕎麦の方が美味しい気がするよね! 

 

 ってことで年末なので年越し蕎麦を食べた。待っている間暇だったんだよね。だから木材を取ってきてささっと簡単にだけど屋台を作ってみた。DIYも得意なんだよね私。そして手打ちそばを作って皆に振る舞った。西風の2人とかブルブランとかデュバリィちゃんにもね。さすがにクロウとかヴィータ姉さんとかカイエン公なんかは上で何してるか知らないけど普通に待機してたんで食べに来なかった。

 まあでもⅦ組には振る舞えたからヨシ! この後は激戦だし、結構お辛いイベントになる可能性もあるから少しでも元気になってもらわないとね! 

 

「ごちそうさま~。さ、お片付けも終わったし、これからどうする? 年末だし皆でボードゲームでもする?」

 

「やらないわよっ! ったく……《執行者》は結社から“あらゆる自由”が認められてるって聞くけど……あんたは自由過ぎでしょ……」

 

「こいつは特別だが……ま、そうだな。別に計画に協力する義理もねぇ」

 

「え? むしろめちゃくちゃ弁えてる方だよ? 結社で1番働いてるの私だと思うし」

 

「お前らの因縁にも興味はねぇし、帝国出身でもないから内戦がどう転ぼうが知らねえしな。用が済み次第、消えてもいいぜ」

 

「こらー無視するなー」

 

「その“用”というのは……?」

 

 なんか無視されてる。解せぬ。執行者の中で1番働いてるのは私なのに……私ほどまともな執行者いないよ? 結社って変人ばっかりなんだから。

 

「今回は“紫電”もいるが……少しばかり気が変わった。とっとと“騎神”とやらを呼んでもらおうか」

 

「!」

 

「ええっ!?」

 

「何……!?」

 

「……………………」

 

 そして私が内心で異論を出してる間にマクバーンが騎神出して欲しいとかなんとか言ってる。あーあー……始まったよ……マクバーンの戦闘狂というか本気出したいからとにかく強い相手寄越せ病……実際《騎神》相手でも全然戦えるというか、倒しちゃうだろうからね……全合体した《巨イナル一》というか《鋼の至宝》くらいになればどうなるか分かんないけど、それでも分かんないってなるくらいには本気の本気のマクバーンは強い。本当に桁違いだからね。

 だからⅦ組が全員で来てるのは当然というかむしろ褒めてあげたいくらいだけど……私はともかく、マクバーン相手だとこれでも全然足りないから困る。いやほんと……どうするんだろ。心配になってきた……マクバーンの焔って私でも熱くてダメージ&火傷不可避なのに……。

 

「まさか生身でヴァリマールと戦うつもりか」

 

「──そのまさかだ。お前自身の“力”にも興味はちょいと出てきたが……あのデカブツ相手なら“本気”が出せそうだからな。遠慮は無用だ。とっとと呼び出してみろよ」

 

「っ……」

 

「んー、本気みたいだね」

 

「……あり得ない」

 

「あり得ないでしょ? でもマクバーンはマジだから困っちゃうよねー……あはは……」

 

「挑発に乗る必要はないわ! こんな所で彼の力を使ったら決戦の障りになるわよ!」

 

「ああ……その通りだ」

 

 いやー……どうだろうね? オルディーネとか《紅き終焉の魔王》より本気マクバーンの方が私的には死ねると思うんだけど……まあ人間サイズだから戦いやすく見えるのはマクバーンの方かもしれないんだけどさ……でも魔王もなんだかんだヤバいし、どっこいどっこいかな? 私にはもう分からない。ゼムリア大陸最強議論スレでも立てて誰か勝手に決めてほしい。でも実際にこの目で見てる意見としてはなんとも言えないし、やっぱりどっちもヤバいってことで。

 

「アンタは強い……俺とは次元が異なるだろう。その焔の力──どういう異能かは判らないが灼き尽くせないものは無さそうだ」

 

「……私にもそう感じます。おそらく“蛇”に伝わるという“外の理”に関わる──」

 

「……嬢ちゃん。()()()()()()()()()()()

 

「……っ…………」

 

「あっ、こらー! エマちゃんを怖がらせるなー!」

 

「クク、悪かったな。だがまあ正解だ。それなのに俺とこいつ……2人にあえて挑むってのか?」

 

 あ、話振ってきた。そりゃそうだよね。私もいるんだから。ちょっと気まずいけど一応答えておこう。

 

「その話だけど……正直私いらなくない? 別に相手にしなくてもいいと思うんだけど……」

 

「──いいえ。アンタには相手になってもらうわ」

 

「……サラちゃん?」

 

 え? サラちゃんどうしたの? 私にも相手してもらうって……あ、もしかして。

 

「どうしたの? 楽できるならその方が良いと思うけど……あ、もしかしてまだ恨んでる? そのことならほんと、なんて言ったらいいか分かんないけど……」

 

「そのことじゃないわ」

 

 違うの? じゃあなんだろう……ちょっと分からない。とりあえず空気を読んでサラちゃんの話を聞いてあげよう。

 

「……まあ、全く恨んでないと言ったら嘘になるけどね」

 

「…………」

 

「……だけど、アンタの話と事情を聞いて理解したわ。あたしの復讐心は、正当性も何もない……本当にただの私怨……いえ逆恨みに過ぎないってことがね」

 

 サラちゃんはバツが悪そうに視線を逸らして告げてくる。うーん……そんなことないと思うけどね。殺したのは確かだし。恨んでくれても別に……いやまあ恨まれたくはないけど、それはそれとして恨んでもしょうがないんじゃない? 

 

「そしてあんたの方はそうすることも理解出来る……だけどね。そもそもそれ以前の話よ」

 

「え?」

 

「あたしは《北の猟兵》を抜けて遊撃士となって……それからトールズの教官になった。それなのに過去の遺恨をいつまでも引きずって……生徒たちを教え導く教官として情けない姿を見せてしまった」

 

「サラ教官……」

 

「ただそれはあんたの方も同じよ」

 

 ──え? 私も? ちょっと何言ってるか分からない。でも真面目な雰囲気だから最後まで聞こう。サラちゃんも何か分かってるっぽいし! ……で? どういうこと? 

 

「教官にあるまじき姿を見せた私が言えたことじゃないけど……あんただって、トールズの──Ⅶ組の担当教官であることには変わりないわ」

 

「それは──」

 

「あんたの事情は分からない。きっと複雑なんでしょうし、教官になったのも一時のこと。執行者として他に目的があったからこそなんでしょう」

 

 サラちゃんが眉を立てて私を見てくる。私が言おうとしたことを読み取って逃げることを許さない。

 

「だけどね──ほんの一時でもあんたはこの子達の教官だった。そのあんたが、教官として生徒と向き合わずに逃げること……同じ教官として見過ごすことは出来ない」

 

 ──あー……なるほど。それはまた……なんとも痛いところを突いてくるね。

 私はサラちゃんの言いたいことを理解する。なんというか、それでも私のことを同僚として、教官として認めてくれたわけだ。

 だからⅦ組と向き合わないまま逃げるなってことだ。教官なら、ちゃんと生徒を見てあげないといけない。教え導いて上げないといけない。私の事情とか一時的なものとか北の猟兵の一件とかそういうものは一切合切関係ない。

 

「そしてあたし自身も……自分の気持ちも含めて、あんたと改めて向き合わせてもらうわ──()()()()()()()()()()()()……! あんた達も、それでいいわね!?」

 

「サラ教官……ええ、その通りです……!」

 

「フッ……確かにⅦ組を取り戻すには欠けているものがあったか」

 

「戦って証明してみせる……!」

 

「ああ……! 強敵とどうしても戦わなければいけなくなった時……!」

 

「今がまさにその時というわけだ……!」

 

「その教えをぶつけてみせます!」

 

 Ⅶ組の皆が私を同じⅦ組の仲間として意思を向けてきてくれているのを感じる。

 私はそれを受けて……なんとも普通に感動する。

 仲間とかそういう柄じゃないんだけどね。ただこうやって言われると中々に困る。嬉しいし、教官としては冥利に尽きる展開だ。

 それだけに向き合うってのは難しいけど……だけどまあ、ちゃんと戦ってその意思を受け止めてあげるくらいは全然構わない。

 Ⅶ組のことを大切に思ってるのは私も同じだしね! 

 

「……そっか。それならしょうがないね」

 

 私は空間から《ゾルフシャマール》を取り出して構える。

 今まではダガーとか大剣とか他の得物で相手にしてたけどね。今回はちゃんと本来の得物で相手にしてあげないと。逃げるのは良くないよね。

 

「だけど分かってる? 私とマクバーンを相手にするのはかなり厳しいよ?」

 

「クク、まさかこいつまでやる気にさせちまうとはな。本当にそれでいいんだな?」

 

「ああ──アンタもアーヤ教官も倒しきれるとは思わない。だが、その先に続く道を切り拓くくらいは出来るつもりだ」

 

 そうして私たちの問いに対して、Ⅶ組の重心たるリィンくんは言葉と共に太刀を抜き放つ。

 その曇り無き刃を私たちに向けて、意思を言葉に乗せた。

 

「数多の想いを託してくれた学院のみんなを代表して──トールズ士官学院《Ⅶ組》、最強の魔人と最強の教官に挑ませてもらう!

 

 リィンくんの号令と共にⅦ組の皆もそれぞれの覚悟を言葉にして武器を抜き放って構えた。

 その覚悟は私だけじゃなくマクバーンにも届いたことだろう。元々結社の中じゃ常識を弁えてる方だし、こういう覚悟が分からない人じゃないしね。

 だから私はマクバーンと並んでⅦ組を迎え撃つ。

 

「ま、いいだろう。御託はいいからとっとと掛かってこい。()()()()()()()

 

「Ⅶ組副担任としてクロウやヴィータ姉さんに挑む前の最後の実技試験をしてあげる。大怪我しないよう全力で挑んでくるように!」

 

「っ……怯むな!」

 

 お供の……あ、そうだ。《エクス=マキナ》は昨日の戦いで壊れてて修理中だから出せないや。ならしょうがない。こっちは2人だし、お供無しでいいかな。マクバーンも持ってきてる人形兵器出してないし。

 ただそれでもマクバーンは黒い焔の闘気を出してるし、中々にヤバい。隣にいるだけでちょっと熱いからね。Ⅶ組の皆は本当に気を付けて戦ってほしい。私の教えを思い出してね。私も殺す気ではやらないし本気は出さないけどちゃんと向き合うくらいの強さは出すつもりだからさ。

 

「士官学院《Ⅶ組》、これより目標を突破する!」

 

「総員、戦術リンクON! 最大限に連携して当たるわよ!」

 

 ──よーし! それじゃ戦闘開始! 今までで1番明るい気持ちで戦えて私嬉しいよ! 先生が受け止めてあげるからマクバーンの焔にだけ気をつけて全力で挑んでこーい! ちなみに私は昨日の戦いで若干疲れてるから隙はあるぞー! 頑張れー! 

 

 

 

 

 

 ──第三層で結社最強の執行者である《劫炎》のマクバーンと同じく執行者であり、俺たちⅦ組の副担任でもあったアーヤ教官との戦いは下で戦った二組よりも更に厳しく激しいものだった。

 

 サラ教官も含めた全員での戦い。それであってもARCUSによる戦術リンク機能で連携は完璧に取ることが出来る。11対2。圧倒的な数の差があるにも関わらず……マクバーンとアーヤ教官は俺たちを相手に常に優勢だった。

 

「ん! いいよリィンくん! ラウラちゃんも! 太刀筋が鋭いね! でももっと重く出来るはずだよ!」

 

「っ……ええ! 分かりました!」

 

「胸を借りるつもりで挑ませてもらいます……!」

 

 アーヤ教官は俺とラウラの斬撃を、その巨大な鋏のような得物を2つに分けて防ぎきってくる。俺の太刀は疾さに長け、ラウラの方は学生顔負けのパワーである筈だがアーヤ教官はその巨大な鋏を振るっているだけあって力もある。それでいて疾さや技の鋭さもまた長けていた。

 明らかな格上。しかも向こうはこちらの手の内を理解している。

 だが俺たちも成長している。個々の強さは勿論のこと、育んだ絆からくる連携の上手さは2人にも通じる筈だ。

 

「おっと!」

 

「嘘!? 完全に死角だったのに!?」

 

「アリサちゃん狙いが良くなったね! でも狙いが良すぎかな! 私相手だと死角を狙うよりタイミングを重視するといいよ! ──あ、それは危ない! 良いタイミングだけどね!」

 

「攻撃を防げないタイミングを狙い撃つ……! そういうことでしょう……!」

 

 アリサがアーヤ教官を狙って弓を放つも、それは首を動かして回避される。アドバイスをこちらに送りながら戦うアーヤ教官はまだ余裕がある様子だが、それでも更なる攻撃のタイミングでガイウスが槍で突けばアーヤ教官もさすがに危なそうにしていた。

 やはり決して乗り越えられない相手ではない。そう思い、俺たちもまた攻勢に出るもそれより早くアーヤ教官が動いた。

 

「攻撃の方は良い感じだね! ──でも防御の方はどうかな!?」

 

「っ……速い……!」

 

「マキアス! エリオット!」

 

「くっ……!」

 

「わわっ!?」

 

 俺たち前衛を一瞬で抜き去ってアーヤ教官は後衛を狙う。高速の一閃。それを受け止めることはマキアスやエリオットには荷が重い。

 

 ──だが回避を行うことは出来る。

 

 それにカバーすることも。俺たちはそれを前提に動く。アーヤ教官の一閃に対し、マキアスもエリオットもなんとか身を翻してそれを躱すことに成功した。

 

「おおっ!? いいね! マキアスくんにエリオットくんも! ちゃんと前衛に攻撃された時の対処を学んでるじゃん!」

 

「っ……はいっ……なんとか……ですが……っ!」

 

「正直キツイけど……っ!」

 

「うんうん! キツくても避けないと死ぬから当然だね! ──そんでそのまま後衛が狙われないようにカバーにやってくるとこまで良い判断だよ!」

 

「当然っ……!」

 

「はぁっ!」

 

 後衛を狙ったアーヤ教官に、その攻撃の隙を突いてフィーとユーシスが肉薄する。フィーの素早い連続攻撃とユーシスの騎士剣術。その両方を凌ぎ続けることもアーヤ教官なら難しくはないかもしれない。

 だがそこに更に別の攻撃が迫れば凌ぐことは難しい。そう判断した俺たちは戦術リンク越しにアーヤ教官を突き崩す最適解を実行しようとする。

 それが実行出来ればアーヤ教官から1本を取ることも出来ただろうが──

 

「っとと! でももう1人忘れちゃダメだよ! ってか忘れたら死ぬから注意して!」

 

「──燃えろ……!」

 

「ッ……!? 避けなさい!」

 

 ──だがもう1人。最強の執行者が控えていた。

 

 サラ教官やエマ、ミリアム。先程まではフィーやユーシスらも一緒に抑えようとしていたマクバーン。その彼が極大の焔をこちらに放つ。

 

「なんとか抑えてみせますっ……!」

 

「そうそう! 抑えるか、もしくは絶対回避推奨! マクバーンの焔は当たったら大変なことになるからね! 回復も備えておいた方がいいよ!」

 

「ったく、お前さんはどっちの味方だ? ──ま、別に構いやしねぇがな。これくらいでいいハンデだろ」

 

「ちっ……!」

 

「わわわ! 近づくだけで熱いよー!」

 

 その焔をエマが術で抑え、俺たちはアーヤ教官のアドバイス通り回避に全力を注ぐ。敵として立ち塞がりながらも助言をしてくるアーヤ教官は本当に実戦テストをやっている時のようだった。

 だがそうやってまだ本気じゃない状態ですらこちらにとっては手に余る。アーヤ教官はそう言いながらも戦闘を問題なく続けてこちらの攻撃を捌いているし、マクバーンの方もサラ教官やミリアムの攻撃を難なく受け止めていた。

 やはり最初にサラ教官が告げたように、最大限に連携する必要がある。個々の実力では敵わないのだから当然、乗り越えるには力を合わせるしかない。

 ゆえに俺も少しでも2人に追いつくために力を解放することにした。自分の中にある力に意識を集中させ──そして一気に解放する。

 

「“神気合一”!!」

 

「おおっ……かっこいい!」

 

「クク、出たか……!」

 

 自分の中にある鬼の力。それを制御し、身体能力を上昇させる。

 そうしてようやくアーヤ教官やマクバーンに追いつくことが出来た。俺は一気に前に出てフィーやラウラ、サラ教官と共に2人に攻撃する。

 

「二の型……“裏疾風”ッ!!」

 

「“鉄砕刃”!」

 

「せーのっ!」

 

「はあっ!」

 

「痛っ!?」

 

「温ィ……! ──が、やるじゃねぇか……!」

 

 ようやく攻撃をクリーンヒットさせて2人を下がらせる。

 だが対して効いてはいないことは明白。続くエマやユーシスのアーツが放たれ、マキアスも援護に入る。エリオットが回復アーツを用意していた。

 互いに言葉がなくとも自然と連携を取ることが出来る。ARCUSの真骨頂。

 

「“プレタポルテ……ドゥイユ”!!」

 

 ──ゆえに誰かが気づいた危機に、俺たちもまたすぐに察知して対応に移ることが出来る。

 

 こちらの攻撃を受けて殆ど怯むこともなくアーヤ教官は攻撃に移っていた。アーヤ教官が2人に見える──《神速》がやってきた残像を残すほどの高速の斬撃。

 いつの間にか俺たちを挟み込むように位置していた2人のアーヤ教官が、クロスするように斬撃を放った。

 

「させないっ!」

 

「っと! サラちゃん! よく見切れたね……!」

 

「あんたと手合わせした回数なら、生徒以上だってのよ……! この程度で押し切れるとは思わないことね……!」

 

 アーヤ教官とサラ教官の得物が激突し、鋼を打ち合う音が響く。そのまま鍔迫り合いに持っていったサラ教官に、俺たちは助力しようとしながらも半数はマクバーンの相手を担いに向かった。

 

「ご褒美だ……! 良いモン見せてやる……!」

 

 ──が、更なる危険がそこに待ち受けていた。

 俺たちの攻撃を受けて熱くなってきたのか。戦いに愉しみを見出す笑みを浮かべていたマクバーンが、これまで以上に強い焔の気配を立ち昇らせている。

 

「皆さん固まってくださいっ!」

 

「えっ!? ちょ、待っ! まだ私がこっちに……!」

 

「オラオラオラオラオラオラ……!!」

 

 超高温の焔の塊。それらが連発され、俺たちがいた場所を中心に爆発が巻き怒る。

 だがそれすらも序の口に過ぎない。マクバーンの手には、小さな光熱の球。圧縮された劫炎が無理やり極小の球となってそこにある。

 

「さあて……こいつで仕上げだ……!」

 

「だ、だから──」

 

「“ジリオン……ハザード“ォ……!!!」

 

「──だから私のいる時に撃つなっていつも言ってんでしょうがー! うわー!?」

 

 そしてその焔が放たれると、徐々に大きさを増していき──直撃と共に光が周囲を明るく照らし、音が一瞬消えるほどのとてつもない爆発を起こす。

 

「くっ……!」

 

「なんてパワーだ……!」

 

「ガーちゃん頑張って!」

 

 それを俺たちはエマの魔術とミリアムのアガートラムによる防御でなんとか耐え凌ぐ。

 しかしそれでも感じる焔の熱に俺たちは苦悶の声を漏らした──何かアーヤ教官に直撃していたような気もするが、アーヤ教官なら躱しているだろうし、当たっても問題はない……はず。いや、もしかして不味かったか……? 今になってアーヤ教官を心配してしまう。おそらく全員がそう思ったことだろう。アーヤ教官の耐久力は常軌を逸しているが、幾らなんでも……と。

 

「熱──────い!! うわああああああん!!」

 

 ──と思ったがやはり大丈夫そうだ。何やら焔の中で喚いているアーヤ教官が見える。地面を転がって焔を消していた。そしてすぐに立ち上がってマクバーンに文句を言いに行く。

 

「馬鹿馬鹿馬鹿! 何してんの!?」

 

「お前さんなら俺の焔を食らっても問題はねぇと分かってたからな。こっちも連携とやらで攻めるとしようぜ」

 

「あれ? 言葉通じてないのかな? ゼムリア大陸以外の言葉でも喋ってる? 燃やされてるのに連携しようとか意味不明なこと言われてるんですけど? 耳の中に燃えカスでも詰まってるの?」

 

「俺の焔の中で自由に動けるのはお前さんくらいのもんだ……! ちょいと熱いが我慢しろよ……!」

 

「通じてた! 通じてない方が良かった! え!? ひょっとして私が前で戦ってそこを容赦なく燃やすとかそういう話!? ねえちょっと!?」

 

「灼き尽くせ……! “ギルティフレイム”!!」

 

「熱っ! いや、ギルティなのはあんたでしょーがー!! いやー!?」

 

 ──しかし敵の連携もまた侮れない。アーヤ教官がこちらに肉薄してくる中、マクバーンは味方であるアーヤ教官を気にすることなく焔を放ってくる。

 その焔の中でアーヤ教官は問題なく行動して俺たちを狙ってくるから俺たちからすれば対処が難しい。アーヤ教官の連撃を防ぎながらマクバーンの焔にも注意して戦わないといけないからだ。ちょっとでも対応を誤れば切り裂かれるか、焔で灼き尽くされるか。

 しかしそれでも俺たちは引くわけにはいかない。アーヤ教官……行きます! “終の太刀・暁”!!! 

 

 

 

 

 家のシャロンと親友のアーヤ教官が悪い人なわけない。

 シャロンも言っていた──『あの子は結社きっての暗殺者ですが……それでも私が知る限り、あの子ほど根が善良な執行者はいませんわ』と。

 私自身アーヤ教官からは弓を扱う際にどこを狙うのがいいか。その工夫の仕方なども教わったし、日常でもいつも明るく話すアーヤ教官に勇気づけられてきた。

 だからその恩をここで返す。だから切り札を使わせてもらうわよ! 

 

 

 

 

 

 学院祭でのステージ。その衣装を仕立てて貰ったり、その打ち合わせで僕はアーヤ教官と楽しい時間を過ごしてきた。色んな曲を、『空を見上げて』とか『琥珀の愛』とかそれ以外にも僕の知らない曲も弾いてほしいとせがまれてそれを弾いたりセッションしたりした。

 僕自身の迷いもアーヤ教官からすればお見通しだったみたいで僕はアーヤ教官や他のⅦ組の仲間を見ていてこの道が正しいと思えるようになったんだ。

 授業は僕には厳しいものばかりだったけど、それも僕たちを思ってのことだったって分かってる。

 だからここでその成果を見せつけるんだ……! 癒やしなら僕に任せて! アーヤ教官の回復力には負けない! 

 

 

 

 

 

 アーヤ教官の強さはよく理解している。

 普段の授業で見せる身体能力や技の数々……私の故郷レグラムでの特別実習では父を相手に1本を取って見せるほどの達人だ。

 そして私自身、まだ未熟とはいえ、剣を合わせたことでアーヤ教官のことは信頼している。その太刀筋に迷いはなく、それでいて生徒を想っている。私たちの成長に合わせて、より高みを目指せるように様々なことを教え、鍛えてくれた。

 一対一で上回れるとは思わない。今の私たちに出来るのはⅦ組の皆と共に彼らから1本を取り、道を切り拓くこと。

 そのために私も全身全霊で挑ませてもらう! アルゼイドの秘剣……とくと見よ! 

 

 

 

 

 

 正直なところ最初にその事実を知った時はショックを受けた。

 あのアーヤ教官が結社の執行者で暗殺者……そして父を襲った張本人だったなんて、と。

 一時は迷い、苦悩もした。だが……それでもリィンと再会した時の話や父から聞いた話で僕の中の迷いも晴れた。

 アーヤ教官はリィンの故郷も、ケルディックも、各地の戦線でも……とにかく犠牲を減らすように動いていた。

 僕の父を襲ったことも本来は暗殺を頼まれたのではないかというのが僕たちの予想で、父もまたそう考えていた。

 ……アーヤ教官は僕たち生徒の相談に乗って、教師として教えを授けてくれた。

 貴族だ平民だと色眼鏡で見ることの愚かさ……それは僕がⅦ組に入って学んだことの1つ。

 結社の執行者で伝説の暗殺者。その情報だけでアーヤ教官を見ない。それを鑑みても……アーヤ教官を信じることは難しくなかった。

 アーヤ教官や僕がⅦ組で学んだ全てをここでぶつける! 行くぞ! これでチェックメイトだ! 

 

 

 

 

 

 アーヤ教官は最初に会った時から不思議な雰囲気を持った人でした。

 天真爛漫で教官というよりは年上の先輩や友人のような存在で。それでいてサラ教官を上回るほどの強さを持っている。

 セリーヌはずっと怪しんでいたみたいだけれど、私は疑っていなかった。

 結果的にセリーヌの推測は当たっていたけれど……セリーヌは多分、やたら見かける度に撫でられたり猫じゃらしを向けられたりマタタビを嗅がされたりで散々猫として可愛がられていたからそのことを根に持っているだけだとは思う。

 アーヤ教官には世話になったし、今にして思えばヴィータ姉さんの香りを時々漂わせていたのはヴィータ姉さんに会っていたのだろう。そのことも聞いてみたいし、私もお世話になってきた。ヴィータ姉さんやクロウさんの元へ辿り着くためにも……Ⅶ組の1人として乗り越える手伝いをさせていただきます! 

 

 

 

 

 

 アーヤ教官が胡乱な人なのは最初から分かりきっていたことだ。

 それだけに今更結社の執行者だ暗殺者だと言われてもどうでもいい。アーヤ教官はⅦ組の副担任であることに変わりはない。

 ……それに俺は、幾度となくアーヤ教官の世話になってしまった。リィンの故郷であるユミルの件やケルディックの焼き討ち。それを引き起こした父上の件。引いては貴族連合全体の、各地の民間人の被害を抑えるために戦っていたことは分かっている。

 そのことに俺がどれだけ救われたか。口には出さないまでも感謝している。

 ゆえになんだって構わない。俺たちはアーヤ教官にお世話になった恩を返す必要がある。力を持ってな……! 来い、シュトラール! 

 

 

 

 

 

 ま、昔っからアーヤはそういう人だったよね。

 結社っていう犯罪組織に所属してるけどそれでも良いお姉さん……っていうにはちょっとバカなところがあって年上っぽくはないけど、それでも明るくて楽しい人だった。

 ……西風の皆も親しくしてた。それこそ団長が次に会ったら西風に誘ってみるかと言うくらいには。

 私も前は猟兵だった。それだけにアーヤとは変わらないと思う。過去に色々あったみたいだし、そのことは悲しいけど……昔は色々あっても今は仲間って意味じゃやっぱり変わらない。

 それになんだかんだ戦い方も教えてもらって助かった。暗殺者のアーヤと素早さを活かす私は戦い方が似ていて参考になる部分も多い。分け身も教えてもらったしね。やっと使えるようになったし、その成長振りをアーヤに見せてあげようかな。それじゃ行くよ……! 

 

 

 

 

 

 最初から悪い人ではないと俺は思っていた。

 故郷であるノルドの地を救うために力になってくれた。弟や妹たちと遊んで、服を送ってくれた。

 学院では俺たちを導き、時に力になり、時に一緒になって友好を温めた。

 それだけで俺には十分だ。風も言っている。アーヤ教官からは悪い風を感じない。

 もっとも何かを抱えてはいるのだろうが、それはアーヤ教官がいずれ自分から話してくれるのを待つしかない。

 あるいは話してはくれなくても……支えになれると信じている。俺たちⅦ組が互いに支え合っているように。アーヤ教官もクロウと同じくⅦ組の仲間なのだからな。

 それとアーヤ教官の故郷である中東部は俺たちノルドの民の祖先がいた地でもある。それだけに少し親近感も感じていた。そんなアーヤ教官に俺たちの力を証明する。そのためにも……早き風よ! 唸れ! はああああっ!! 

 

 

 

 

 

 アーヤとは友達みたいな感じだよね。

 一応同じ情報局に所属してるし、おじさんに紹介されてからの付き合いだけど、なんだかんだ仲良くしてた。一緒に遊ぶのは楽しいし、服はお洒落だし、美味しいものを色々知ってる。

 後すっごい頑丈。ガーちゃん以上に硬いんじゃないかなー? 触った感じは別に硬くもないのに不思議だよねー。

 それにボクのことも色々知ってるみたい。あのアルティナって子とも仲が良いみたいだしね。機会があればそのことも聞いてみたいなー。

 ま、それも含めてまずは倒さないとね! 行こう、ガーちゃん! トランスフォーム! 

 

 

 

 

 

 結局のところあいつはⅦ組の教官であたしの同僚だ。

 思うところがないと言えば嘘になるし、あたしの中でまだ全てが消化しきれたわけでもない。元北の猟兵としても元遊撃士としても、あいつに言いたいことは山程ある。

 だけどそんなことは後で好きなだけやらせてもらえばいい。過去のことに固執して憎しみ合う……そんな姿を見せちゃ教師失格だものね。

 それに既にアーヤはそうしてる。あいつはずっと、そのことを恨まずに生きてきた。

 あいつに出来てあたしに出来ないはずがない。あたしはⅦ組の担任教官。副担任にいつまでも遅れを取るわけにはいかないのよ! 

 だから覚悟なさい。あんたには全てを解決した後でまた飲み比べに付き合ってもらうわ。馬鹿みたいに酒に強いあんたじゃ全く酔わないかもしれないけど、あたしの方は酒の力を借りたいところなのよ。

 あんたはあたしの同僚で……そう、ライバルみたいなもの。だから負けたくない。この戦いでもあんたを乗り越えて、教え子たちに道を作ってみせる! あたしが今までに培ってきた全てを使ってね! はああああっ! 

 

 

 

 

 

「“ノーザンイクシード”!!」「狙いを定めて……“ギャラクシィカノン”発射!! ヴィクトリー!!」「“イクスペルランサー”!!」「これで決める……アクセル……! “シャドウブリゲイト”!!」「来い、シュトラール! 止めだ……“アスティオンナイツ”!!」「天道を司りし、大いなる星々よ! その神秘なる輝きを以って我が声に応えよ……! “ゾディアックレイン”!!」「行くぞ! ナイト、ルーク、ビショップ! これでチェックメイトだ!」「受けてみよ、我が全霊の奥義! せいっ! やあっ! とお! おおおおっ……! 吼えろ!! “獅子洸翔斬”!!」「さぁ始めるよ! 清廉たる女神の息吹よ……我が旋律に宿り仲間達に癒しを……フィナーレ!」「踊りなさい! 大いなる輝きよ……! 我が弓に宿れ! “レディエンスアーク”!」「無明を切り裂く閃火の一刀……はあああああっ!! はっ! せいっ! たあっ! おおおおおお……!! “終ノ太刀・暁”!!」「“ジリオン……ハザード”ォ!!!」

 

 ──うわあああああああああああああん!!? 痛い痛い痛い! 殺意とか敵意は殆どないけど皆の愛が痛い! なんかすごい信頼されてる気がする! この程度じゃアーヤ教官は倒せない……! 的な! いや全然倒せる倒せる! 皆すごい成長したね! というかしすぎだしやりすぎ! サラちゃんは相変わらず強い! 北の猟兵で1番強いよね!? やっぱり化け物だ! ミリアムちゃん! ガーちゃん砲打つのやめて! ヴィクトリーじゃないっ! 痛い、痛い! ハンマーにして叩かないで! ガイウスくんは相変わらず風だね! 遅延されそう! まだ遅延効果はないけど! でも普通に槍は痛いし風もキツイ! フィーちゃんは……ええええっ!? 分け身使ってる!? こらこらこら! パーティメンバーが分け身なんてチートクラフト使っちゃダメでしょフィーちゃん! 確かに教えたけど! 出来たのは偉いけど! でも私に使うのはやめて! ユーシスくんは……え? どこからその馬来た? シュトラール!? え!? バリアハートにいるはずじゃ!? ずっと連れてきたの!? それとも帝都郊外から走ってきたの!? 帝国の馬優秀すぎる! なら私も……来い! ノルドバクシンオー! ……って、来るわけなーい! 痛ーい!? 騎馬戦失敗! エマちゃんはそんな超魔術を私に使わないで! 私ってアーツの効き悪いらしいけどそれでも普通に痛いから! エマちゃんはヴィータ姉さんの妹なだけあって魔力も高いし! セリーヌもサポートしないで大人しくしてて! また今度マタタビ上げるから! マキアスくんはこんな時でもチェスだ! なんか結界張られた! そして馬鹿でかいショットガン持ち出してきたー!? 地味にマキアスくんが1番殺意高い武器持ってきてる! やっぱお父さんに薬盛ったの怒ってる!? 謝るから許して! そんでラウラちゃんはシンプルに痛いよ重いよ強いよ! アルゼイド流の次期後継者なだけはあるよね! 私の実力を信頼してくれてるんだろうけどラウラちゃんの全力は普通に死ねるからやめて! エリオットくんは……ああ、うん、癒やしだ……! でも私にも回復ちょうだい! ほら見て! この中で1番攻撃食らってるの私! そりゃ確かに敵だけど、ちょっとくらい慈悲をくれてもいいじゃん! バカー! アリサちゃんも容赦なく弓撃ちすぎだよ! 弓って普通に危険なんだからね! ヘッドショット狙うのやめて! しかもなんか爆発してるし! ラインフォルトの技術ってすごいよね! そしてリィンくん! 神気合一を使うのは良いけどそれでSクラフトぶち込んでくるのはさすがにヤバくないかな!? 斬るのはマクバーンだけにして! そしてマクバーン…………って、だから私を巻き込むなー!! 熱うううううううい!! 本気状態じゃないだけマシだけどー!! それでもⅦ組のSクラより全然威力あるううう!! ああああああああっ!! もうヤケクソだー! 私もSクラ打つぞー! “オートクチュール・ル・サン”!! 名前の意味は血染めの高級仕立服うううう!! 

 

 そうして私は内心でおぎゃった。くっそー! でもⅦ組の成長には感動するー! やられてるのが私じゃなければね! 戦術リンクで皆タイミングを合わせて打ってくるし、やりすぎだよほんと! 

 そのせいかさすがのマクバーンも押されて結構攻撃を食らっていた。手数が違うし、おまけに連携が上手すぎてね。対処が出来なかった。

 

「うぎゃんっ!?」

 

「……………………」

 

「っ……ハアハア……」

 

「届いた……のか……?」 

 

「何という強さだ……」

 

「ちょっと次元が違うかも……」

 

「だがこれで……」

 

 そして私は散々殴られたので膝を突いてしまう。隣のマクバーンもまたⅦ組の攻勢によって同じく膝を突いていた。いや、うんしょうがないよね。ラッシュとかオーバーライズとか反則だもん。私も使いたい。マクバーンがARCUS持ってたらなー。戦術リンク機能ONにして挑むのに。

 ただそれがなくてもⅦ組の成長振りが著しいことに変わりはない。本当によくやってる。さすがにまだまだ勝ち切る実力はないし、実は結構余裕あるけどこの分なら道を開けても──

 

「……さすがだね。皆よく成長して……まさかここまで善戦するなんて思わなかったよ」

 

「……クク…………こりゃあいい……」

 

 ──あっ。やばっ。

 

「っ……!」

 

「そ、その“焔”は……」

 

「《深淵》や《鋼》の思惑なんぞ知ったことか……」

 

「いや私のことは考えて!?」

 

「お前さんなら耐えきれんだろ?」

 

「耐えれないよ!?」

 

 あっ、死にまーす。マクバーンが黒い焔を全身から立ち昇らせてまーす。隣にいるだけでくっそ熱いでーす。

 

「レーヴェの阿呆が抜けてからどうも物足りなくなったからな……」

 

「レーヴェ……《剣帝》レオンハルトか」

 

「あの人のことですか……」

 

 やば──い!! 身の危険! 身の危険! マクバーンが本気出しちゃうー!! うわあああああ!? 

 

「どこまで俺を“アツく”してくれるか試させてもらおうか──!」

 

 そうしてマクバーンは自らの力を解放してしまう。

 髪が真っ白になり、目も赤黒くなって身体に文様が浮き出てくる。

 だけどそんな身体的な特徴よりも気配がヤバい! 熱い! 死ぬ死ぬ! この焔は私でも喰らったらヤバい感じ! 本能的に逃げたくなる! 

 

「な、なに……これ……」

 

「……ほえええ…………」

 

「これが──“全部”か……!」

 

 そうそう、これが全部……っていうにはまだなんだけどね。それでも本気ではある。まだ《アングバール》出してないし、更に本気の本気があるんだけどね。本当この人おかしいよねー。あはは……って言ってる場合じゃないー! 

 

「──避けろ!」

 

「刹ッ!!」

 

 ──ぎゃああああ!? 危ない危ない! 皆逃げてー! 当たったら死ぬよー! 死なないでー! 

 

「劫ッ!!」

 

 ──ひいいいいい!!? 私も柱の陰に隠れて逃げる! まあマクバーンの焔の前にはどんな建造物も意味ないんですけどねー! 

 

「か、《火焔魔人》……」

 

「戦闘能力不明……」

 

「これは……人の手で倒せるとは……」

 

「……まるで伝承の《焔の魔人》のような……」

 

「くっ……ここまでだったなんて!」

 

「だから言ったじゃん! マクバーンはヤバいって! 今からでも遅くないから皆どうにか逃げてー!」

 

 私は柱の陰からそう叫ぶ。本当にマクバーンは怖い。いや、本人は常識人だけど力が怖い。これが結社最強の執行者である《火焔魔人》であり、外界の王の力の一端だ。見てるだけで私も胸がざわつきまくるんでやめてほしい。

 ……でもこの後って確か《光の剣匠》が助けに来るはずだから大丈夫だよね? そうしたら私もどさくさに紛れて屋上に向かって隙を伺えるし……そうなったらクロウとかグリアノスが救えるはず! 

 ってことで早くヴィクターさん来てー! 助けてー! 

 

「来い──《灰の騎」

 

「──その必要はない」

 

 ──キター!! この声は…………ん? ()()()()()()()()()? もっとダンディな声だったような……ヴィクターさんってこんなかっこいい声じゃなかったよね? 

 

「なに……!?」

 

「荒れ狂う劫火であろうと、砕き散らすのみ──滅!!」

 

「ッ、ぐう……!?」

 

 その鬼気迫る冷気──いや、闘気がマクバーンの焔を呑み込み、割って入ってきた人影が上空から斬撃を放つ。

 マクバーンの焔にも匹敵する凄まじい攻撃。剣の極地とも言える技を放ち、現れたその人影は──

 

「あ、貴方は……!」

 

「──《剣帝》レオンハルト!?」

 

 ──うわああああああああああああ!!? ヴィクターじゃない! レーヴェだった────!!? きゃああああああ!! 相変わらずかっこいいー!! なんでレーヴェがここに!? ヴィクターじゃないの!? なんで!? レーヴェが急に現れたことで思考が上手くまとまらないー!! いやー!!? 

 

「また会ったな、トールズⅦ組。まさかあの《火焔魔人》相手にここまで耐え凌いでみせるとはな」

 

「レーヴェさん……」

 

「また味方してくれるんですね……!」

 

「裏の世界じゃ最強と称されるほどの剣士……確かにあんたなら……」

 

 ──いやー!!? Ⅶ組とレーヴェが会話してるー!! 前にも見たけどー! 改めて見ると感慨深いー! 

 

「クク……久し振りだな、レーヴェ……」

 

「ああ。まさかまたその尋常ならざる姿を見ることになるとはな」

 

「やり合おうとして《鋼》に止められて以来だったか。俺とお前がやり合えばタダじゃ済まねぇ。それを危惧しちゃいたが……今のお前は執行者でも何でもねぇ。存分にやり合っても構わねぇよなァ……!!」

 

 ──ひゃー!? マクバーンが空間から魔剣《アングバール》を取り出しちゃったー!? 形状がやばすぎるー! レーヴェの《ケルンバイター》と対になる魔剣だー! 普通に激アツ展開なんだけどー!! 

 

「あ、あれは高位次元の……違う!」

 

「ええ──あっちの剣と同じ……この世界で存在するはずがない剣だわ!」

 

「《魔剣アングバール》……そこの阿呆が使ってる《ケルンバイター》の対となる剣だ。クク、俺との相性が良すぎるせいか、こんな風になっちまうけどな……!」

 

 うっわー……! 禍々しい感じになっちゃってるー……! 私でもあの形状は直接目にしたことなかったから普通に怖いー! もしかしてレーヴェでもヤバいんじゃない? え? レーヴェがやられるとか嫌なんですけど! お願い逃げてー! レーヴェー! 

 

「さて……始めるとするか。あれからお前がどれだけ成長したか……俺に見せてみろ……!」

 

「──フッ、お前は変わらないな、マクバーン」

 

「あ……?」

 

 そうして戦いが始まる刹那──レーヴェはふっと小さく笑みを見せる。

 その様子にマクバーンも訝しんだけど……その直後にレーヴェが魔剣《ケルンバイター》を構え、同じく闘気を立ち昇らせる。

 

「己の全力に耐えうる相手を求め、その劫火を以って試しを与える……初めて顔を合わせた時からお前の目的とするところは一切変わっていない」

 

「ハッ、そうだな。それは変わらねぇが……だったらなんだってんだ?」

 

「その是非を問うつもりはない。変わったのは──()()()()()()()

 

「何──ッッ!!?

 

 瞬間。レーヴェが一瞬でマクバーンに迫り、剣撃をマクバーンにぶつける。

 マクバーンはその一撃の重さに耐えきれずに足裏を引きずるように後ろへ吹き飛ばされた。

 そうして更にマクバーンへと迫るレーヴェだが、マクバーンもまた体勢を立て直してレーヴェの一撃を防ぐ。そうして鍔迫り合いへと持ち込みながら、マクバーンはそこで気付いたっぽい。というか、私も気付いた。簡単なことだけど。

 

「テメェ……!?」

 

「今の俺は、己が目的のためなら誰であろうと斬り捨てると決めたかつての修羅ではない」

 

 ──そう、明らかに強くなってる……! 

 

「己の中の修羅が未だ残っているのも事実だが……それでも戦う理由は大きく変わった」

 

 そうしてレーヴェとマクバーンは互いに力を入れ、1度距離を離す。

 油断なく互いを見定めながら言葉を交わしてた。

 

「今の俺が戦うのは、遠き地で人の為に戦っている弟分とその隣にいる娘との約束のため」

 

 ヨシュアくんとエステルちゃん。その2人について言及しながら剣を再び構える。

 

「俺の故郷でもあるこの国で欺瞞を振り払い、困難に立ち向かおうとする若獅子のため」

 

 それはおそらくリィンくんやこの国で戦う人のことだろう。その背中をリィンくんたちに見せ付けながらレーヴェは闘気を発する。

 

「そして何より──この俺自身がこの世で為すべきことを果たすために」

 

 そして自分自身のためにもレーヴェは生きる。

 そのために強くなったんだろう。それこそ──マクバーンに匹敵すると思わせるほどに。

 

「邪魔をするのならば、マクバーン──たとえ外の理に通ずる魔人であろうとも……この《剣帝》の道を塞ぐことは叶わぬと思え!!

 

「ッ……! ハハ、ハハハ……!! なるほど……どうやら随分と変わっちまったようだな……! ──それこそ《鋼》に匹敵……いや、()()()()()()()()()……!!」

 

「生憎と人の身をやめたわけではない。届いたかどうかは実際に剣を合わせてみるまでは分からないだろう。──だが、たとえ《鋼》が立ち塞がろうとも切り拓くのみだ」

 

「そうかよ……! だったら見せてみろよ──お前のその意思の強さで達してみせた……独自の境地ってやつをなァ!!

 

「望むところだ……!」

 

 ──そうしてレーヴェとマクバーンの戦闘が始まる。

 互いに魔剣を振るい、異能の焔と剣の闘気が激突する。柱は崩れ落ち、あるいは焼け落ち、放った斬撃が周囲を破壊し、高速の戦闘は常人の目には映らず、一瞬にして数十にも及ぶ高度な攻防が繰り広げられる。

 

 ふぅ……いやー、ほんとやばいね。なんというか……私はもう一周回ってなんか落ち着いてる。今だけだけどね。さっきまでは、そしてもう数秒後にはまた感動するよ。こんな感じで。

 

 ──きゃあああああああああああ!! レーヴェかっっ……こいいいいいいい!! 好き好き好きー!! 抱いてー! 結婚してー! きゃ──────っ!! 

 

「行け、有角の若獅子達よ──!」

 

「ああ──()()()()()()()()()()()()()!」

 

「はいっ!」

 

「この隙に一気に駆け抜けるわよ!」

 

 ふぅ……さーて、私もしばらくこの戦いを眺めていたいのは山々だけどね。クロウくんたちを救うにはこっそり後をつけて──「そなたを止めるのは私だ」──え? 

 

「……えっと、私の相手?」

 

「あの若者が魔人の相手をしてくれるようなのでな。フッ……まさか帝国にあのような剣士が誕生していようとは……この戦いが終わったら1度語り合い、そして剣を合わせてみたいものだ」

 

「あー……それは良いと思いますよ? レーヴェはすっごい真摯な人ですし。子爵閣下とも馬が合うと思います」

 

「それは楽しみだ。──だが今はまず、私の役目を果たすとしよう」

 

 そうして宝剣……確か《ガランシャール》を構え、光の剣気を纏うダンディな男性。

 その闘気を一身に受け、私は後ろを振り返った。……誰もいない。つまり、私を見ている。私を相手に戦おうとしている──あの《光の剣匠》が。

 

「子爵閣下もお願いします!」

 

「まさか《光の剣匠》まで来るなんてね……!」

 

 リィンくんたちがエレベーターの方に走り去ってしまう。

 私は目の前にいる帝国最高峰の剣士と対峙している。その現状をようやく理解して……私は激しく動揺した。

 

「い、いえあの……私の相手なんかせずにあっちに加勢した方がいいと思いますよ?」

 

「確かにあの魔人は尋常ではない。あの若者が死地にあることは間違いないであろうな」

 

「そ、そうですよね? だったら──」

 

「だがあの若者を今は信ずるしかあるまい。私はそなたを止める──1度試合形式でやり合いはしたが……実戦においてそなた程厄介な者はおらぬであろう。油断するつもりは毛頭ない……!」

 

 え、何? 不意打ちするとでも思ってる? やだなー、そんなことするわけ……いやまあやる時はやるけどね。

 でも今は別にそんなつもりはなくてぇ……ちょっと屋上に行って備えておきたいというか……だから通して欲しくてぇ……でも理由を話すわけにはいかなくて……。

 

「……と、通してくれませんか? ちょっと屋上に用があって……私の相手をするのはあんまり良くないかなー……なーんて──」

 

「フッ、若いな」

 

「え?」

 

「“力”と“剣”は己の続きにあるものに過ぎぬ。殺し合いにおいてそなたの全力は私を凌駕しているだろうが──振るうのはあくまで“己”の魂と意志──最後にはそれが全てを決する!

 

 ──なんか戦う気満々のかっこいい台詞吐いてるー!!? いや、違う違う違う! その台詞ぶつけるの私じゃないっ! ぶつけるタイミングでもないっ! 別にあなたじゃ私の相手にならないとかそういう意味で言ったんじゃないから! 若いし未熟者だから許して! 

 

「ハッ……どうやらあっちも始まったみてぇだな……!」

 

「アーヤか……! お前にも幾つか聞きたいことはあるが……」

 

「うむ! まずは……互いに決着をつけようぞ!」

 

「あっ、あっ、だから違──うわああっ!?」

 

 そうしてヴィクターさんの大剣が私のいた場所に振るわれ、同じ場所で行われているマクバーンとレーヴェの戦いが大気を震わせ、神殿全体を揺るがす。

 って、だからぁっ!! 私を人外バトルに巻き込まないで──!! いやあああああああ!!? 死ぬ死ぬ死ぬー!! ひいいいいいぃぃっ!!? ヴィクターさんの大剣重いよー怖いよー! マクバーンの焔も熱いー! レーヴェはかっこよすぎてキュン死しちゃうよー!! 仕方なく反撃しても防がれちゃうー! クロウとか助けないといけないのにー!! うわああああああああああああああああん!!!




この後めちゃくちゃ人外バトルした。

今回はここまで。まだ閃の軌跡Ⅱは終わりじゃありません。次回のアーヤちゃんはVS《紅き終焉の魔王》です。行くぞ千の武器を持つ魔王。武器の貯蔵は十分か?
外伝を除けば次回で終わりかな? お楽しみに。

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