──結社最強の執行者《火焔魔人》マクバーンとトールズ最強の教官でもあるアーヤ教官をレオンハルトさんと子爵閣下に任せた俺たちは遂にクロウとクロチルダさんのもとへと辿り着いた。
「……来たか……」
「フフ……ようこそ、物語の終焉へ」
待ち受けていた2人と言葉を交わし、俺たちはその目的を告げる。
この内戦を終結させること。先輩たちの約束と俺たちの夢──クロウを取り戻し、共に卒業を迎えること。
そしてオリヴァルト殿下とアルフィン殿下との約束。セドリック殿下を取り戻すこと。
カイエン公がかつて“偽帝”と称されたオルトロス・ライゼ・アルノールの血を継いだ存在であることも明かされ、《緋の騎神》を起動するためにセドリック殿下を利用しようとしていることも知った。
そんなことは見過ごせない。彼の大望には興味はないが、約束を果たすためにも、俺たちのケリを付けるためにも皇太子殿下を解放し、クロウとクロチルダさんも倒す。
「《帝国解放戦線》リーダー、クロウ・アームブラスト──組織最後の1人として活動を締めくくらせてもらうぞ!」
「使徒第二柱、《蒼の深淵》ヴィータ・クロチルダ──“終焉”への導き手として君たちを案内させてもらうわ」
「戦術リンク……!」
「よりにもよって……!」
「構いません!」
そしてただでさえ手強い2人がARCUSによる戦術リンクを発動させるも、俺たちは怯みはしない。それを受け入れて挑む。
「──Ⅶ組総員、迎撃準備! 全力をもって目標を撃破する!」
『応!』
俺たちの夢を叶えるために。
戦いは正しく死闘となり、クロウとクロチルダさんの連携も凄まじいものだった。
きっと以前までの俺なら……いや俺たちなら全く歯が立たなかっただろう。
だが俺たちはそれぞれの意志を以て修羅場を乗り越え、覚悟を決めてここまで辿り着いた。
俺自身も自分の思い上がりを正して少なからず力を物にしてきた。
その結果……俺たちはなんとか2人を乗り越えた。
「さあ──始めるとしようぜ! 誰にも邪魔はさせねえ! 俺とお前の最期の勝負を!」
「ああ──望むところだ! 真っ白になるまで……互いの魂が燃え尽きるまで!」
「おおおおおおおおっ……!」
「らあああああああっ……!」
そしてとうとう俺とクロウによる最期の戦い──互いに騎神に乗りこんでの戦いが始まる。
俺の駆る《灰の騎神》ヴァリマールとクロウの駆る《蒼の騎神》オルディーネ。
ゼムリアストーン製の太刀を携えて挑んだその決戦。
準起動者である仲間たちの力も借りて俺はクロウと幾度となく刃を打ち付けあい、幾つもの攻防を行った。
そしてやがて──その瞬間は訪れる。
「あ──」
「……はあっ……はあっ……」
──俺の太刀が、クロウの得物を弾き飛ばす。
そう……戦いは、なんとか俺の勝利で終わった。
仲間たちが駆けつけ、俺のことを労ってくれる。
サラ教官からは剣の境地の1つを見たと言ってくれたが、正直なところもう1度やれと言われても出来る気がしない。それくらい無心で挑んでいた。
「クク……まったく。認めるしかねえじゃねえか。俺の負けだ──完璧に、完膚なきまでにな」
「あ……」
そして皆の想いをクロウもまた認めてくれて。
「……すまねえな、ヴィータ。色々借りを作ったのに期待に応えられなくてよ」
「フフ……気にする必要はないわ。正直、想定外だったけど……これはこれでアリかもしれない」
「え」
クロウとクロチルダさんのやり取りを聞いてようやく決着が着いたと理解しながらも、その意味深な言葉に反応しようとした直後──
「ふ、巫山戯るなあああッ!!」
──カイエン公の怒声が響き渡り、俺たちはそちらに注目する。
「魔女殿、どういうつもりだ!? まさかこれで終わりにするつもりか!?」
「あ、いたんだ」
「カイエン公……」
「あはは、なんか完全に忘れてたねー」
「……元より《結社》の目的はこの勝負の“舞台”を導くこと。“蒼”と“灰”の勝敗以外は興味はないと申し上げた筈ですが?」
「ね、姉さん……?」
「そもそもアンタ、どうしてこんな勝負を──」
俺たちが疑問になっていた部分。結社の目的──いや、クロチルダさんの目的についてエマとセリーヌが問い質す……その機会は与えられなかった。
「えいい、黙れ黙れ! こうなったら……こちらも手段を選ばぬまでだ!」
埒が明かないとでも思ったのか。悪あがきでもする気なのか。カイエン公が走ってその場所へ──緋の玉座。セドリック殿下の元へと向かっていく。
「まさか──」
「おい、やめろ──!」
「……ぁ…………」
「さあ殿下──覇道のお時間ですぞ! 古のアルノールの血、存分に滾らせるがよろしい!」
「や、やだ……やめて……」
「フフ……御安心なされよ殿下。貴方の血に加え……
「うああああああああああ……!」
カイエン公がセドリック殿下の目隠しを外し、柱に封印されているその《緋の騎神》に押し込み──セドリック殿下を呑み込ませてしまう。
その直後、振動が巻き起こり……空間を、いや、帝都全体を揺るがすほどの圧倒的な力の気配が広がっていった。
膨大な霊力が紅く立ち昇り、それと共に現れるのは──
「ま、まさか……」
「《緋の騎神》を核に250年前にも現れた……」
「《
──《
「ククク……ハハハハハハハハハハハハッ! これぞ緋の魔王! 千の武器を持つ魔神──! それを更に強化した……250年前、オルトロス帝が顕現させた絶対支配者か──!」
圧倒的な霊圧が俺たちに重く伸し掛かる。
それを防ぐためにエマやセリーヌだけでなくクロチルダさんもまた必死になって俺たちを守ってくれた。
そしてこの魔王を倒すために俺たちはクロウの提案した作戦──クロウとクロチルダさんが隙を作り、俺たちがなんとか、騎神に霊力が戻るまでの間を耐え凌ぐ。その作戦を実行することになった。
騎神さえ動かせるようになれば俺とクロウでどうにか倒してみせる。それしか勝機がないと踏んだ俺たちは再びⅦ組総員で、今度は《紅き終焉の魔王》へと挑んだ。
──だが。
「くっ……これでどう!?」
「やったか!?」
「いいや……まだだ!」
「こ、これでも駄目なのー!?」
「おそらく……カイエン公が使った謎の強化薬が……!」
「ええ……! 《紅き終焉の魔王》の力を更に高めている……!」
「ならまだ耐え凌ぐ必要があるということか……」
「で、でも……もう体力が……」
「あと少しだというのに……!」
「くっ……霊力の充電はまだなのか……!?」
「──済マヌ。起動ニハマダ少々足リナイヨウダ」
「そんな……!」
「一体どうすれば……!」
──俺たちは《紅き終焉の魔王》を抑え切る前に、力尽きようとしていた。
想定以上に敵が強い。カイエン公が使った謎の薬の影響もあってか、本当に耐え凌ぐので精一杯だった。
そしてこのまま続けば耐えることは出来ない。クロウとクロチルダさんが作ってくれた隙だが、俺たちが倒れてしまえば魔王を抑えることは出来ないだろう。
そしてヴァリマールとオルディーネの霊力が戻るより先に、俺たちは終わってしまう。
そんなことを許すわけにはいかないと俺も神気合一を使ってなんとか踏ん張るも──それでももう限界に近かった。
もう少し……もう少しなのに……!
もはやこれまでなのか……!? と、必死に踏ん張って耐えてきた意志が僅かに折れかける──そんな絶体絶命の窮地に。
「──こらー!! 教え子を虐めるなー!」
「!?」
「え……?」
「この声は、まさか……!」
俺たちが知る声の中で最もお気楽かつ明るいその人物──《紅き終焉の魔王》に向かって巨大な鋏による振り下ろしを放ち、現れたその背中を見た俺たちはその名を呼ぶ。
「──アーヤ教官っ!」
「なんとか間に合ったね!」
──俺たちⅦ組の副担任。最後の、頼れる仲間が俺たちを助けに来た。
──うわあああああああ!!? もう嫌! アーヤ帰る! こんな人外バトルに付き合ってられるかー! 後はマクバーンに任せて私は逃げるぞ! 分け身とアーヤちゃん特製煙幕。そして私の気配消し能力にかかれば如何に《光の剣匠》相手でも逃げ切れる……筈! なんなら逃げ切れなくてもいい! リィンくんたちのもとにたどり着ければね! なんかすっごいやばい気配も感じるし、多分だけど《紅き終焉の魔王》が復活したっぽいし! そろそろ行かないと手遅れになっちゃう! ってことでさよならー! 後は人外同士で仲良くしててね! 私はリィンくんたちに加勢に行ってくるから!
……と、そんなわけで私は戦いの途中だったけどぶっちした。いやもう無理……だってあのまま続けてたら間に合わないどころかこっちが死んでる可能性もあったし……やっぱりヴィクターさんは化け物すぎる。幻覚を見せたり感覚を狂わせる系の毒を解禁したのになんで的確に私に攻撃当ててくるの? 後めっちゃ力強いし重いし。ラウラちゃんも強いと思ってたけどやっぱりヴィクターさんは桁違いだ。ほんときつかった。マクバーンを利用して焔に当てたり焔を盾にするように戦わなかったらどうなってたか……奥義も相変わらずめっっっちゃ痛かったし……もう戦いたくない……というか疲れた……本当にお家に帰りたい……。
だけどこのまま帰ろうにも帰れない。とりあえず上をなんとかしないと。なんだかんだ皆危ないし、放っといたらクロウが死ぬし、ヴィータ姉さんの使い魔のグリアノスも死んじゃう。子どもの頃からよく遊んでもらってたから出来れば死なせたくない。
ってことで少なくとも上で待機しとかないといけないので急いで上へ向かった。霊圧? みたいなのが強すぎて上に行くだけでも怖かったけど我慢する。ひええ……魔王とか怖いぃ……私みたいなモブ美少女には最初の村で服でも仕立てるのがお似合いだってのになんでラストダンジョンの一番奥で魔王と対峙しに行かないといけないのか……まあ自分のせいでもあるし目的のためなら仕方ないんだけどさぁ……!
……まあでもⅦ組と一緒に戦えるならなんとかなると思う。Ⅶ組は強いし連携も取れる。私もARCUS持ってるからね。私がパーティインすれば仮に《紅き終焉の魔王》に苦戦していたとしても多少は力になれるかもしれないし、クロウが……えーと、どんな攻撃で死ぬかは覚えてないけど、《紅き終焉の魔王》の攻撃をどうにか防いだり注意したりすることは出来るかもしれない。ってことで最上階に侵入! こっそりね!
そして盗み見たんだけど……あれ!? やばい! なんかⅦ組が結構苦戦してそう! やっぱバカみたいに強いんだ! うわあああああ!?
だ、だけど私もⅦ組の教官だし、生徒と一緒なら怖くない! よーし、たまには勇気を出して積極的に加勢するぞ! おらー! 霊的な存在にも効く呪い系の毒を塗りたくった《ゾルフシャマール》を喰らえー!
「──アーヤ教官っ!」
「なんとか間に合ったね!」
「なんでここに……!」
「下の戦いから抜け出してきてね。まだ決着はついてないっぽいけど、こっちの方が大変そうだと思ってさ! ──ってことで私にも協力させて!」
そして頼もしい教官らしい決めセリフ! 決まった……ドヤァ……! ふふ、目の前に魔王がいてすっごい怖いし顔が引き攣ってるけど教え子たちには見せない。味方がいるからなんとか耐えきれる。
そういうわけで絆の力を思い知らせてやる! 行くぞ《千の武器を持つ魔神》! 武器の貯蔵は十分か──。
「分かりました……!」
「ここはアーヤ教官に任せて一旦後退だ! 回復に専念するぞ!」
「悪いわね……! だけど少しの間、あんたに任せたわよ!」
「すぐに戻ってきます! それまでなんとか……!」
「うん、そうそう。ここは私に任せて回復するといいよ。それになんなら、倒してしまっても構わんのだろう? ………………ん?」
…………あれ? なんで皆下がっていくの? 一緒に戦うんじゃないの? え、もしかしてギリギリだった? 回復に専念する? 死にかけだったってこと? 少なくとも1回下がらないといけないくらいには……。
え、じゃあ、本当に1人で──。
「────────」
「──あ、どうも……」
──目の前にいた《
えーと……なんと言いますか、本日はお日柄も良く……《紅き終焉の魔王》様に置かれましては遂に現世での復活ということで……ええと……と、とりあえず見逃してくれたらなー……なーんて……。
「ってことで少しの間私と楽しくお喋りなんて──」
「……………………」
──魔剣プロパトール
──あっ、無言で魔剣取り出してきた。死ぬわ、これ。強……速……避……無理! 受け止める無事で!? 出来る!?
「うわあああああああああああああああん!!?」
──痛ああああああああああああい!? うわーん!! このアホー! 人間に向けて騎神を元にした魔王が本気で攻撃するなー! こっちはただの人間だぞー! ふざけるなー! こうなったらすぐに逃げ……出来ないっ! 後ろで教え子たちが回復しながら見てるっ! 逃げたらそっちが狙われちゃう!
くっそー! こうなったらどんなことをしてでも時間いっぱいまで耐え凌いでやる! 私のしぶとさについてこれるもんなら付いてきてみろー!
──アーヤ教官が1人でこの場を凌いでみせると言った時、俺たちはもちろん不安になった。
幾らアーヤ教官でも《紅き終焉の魔王》を相手にどこまで持ち堪えられるのか。もしかしたら一瞬でやられてしまうかもしれない。それを思えば俺たちも一刻も早く回復する必要があるが、それは俺たちにはどうすることも出来ないことだ。
俺たちは見ていることしか出来ない。アーヤ教官の決死の戦い振りを──
「うわああああああ!! トマトトマトトマトトマトォ──!!」
「って、何をやってるんですか!?」
「なぜトマトを投げている!?」
「それに何か意味があるんですかアーヤ教官!?」
──と思ったが、どうにも意味不明な戦いぶりだった。どういうわけか、アーヤ教官は《紅き終焉の魔王》にトマトを投げつけている。
一体それになんの意味が……はっ。
「……そういえば俺の故郷ユミルでもトマト祭りを開催していたけど……!」
「トマト祭りって何よ!?」
「意味が分からぬ……」
「──いや、アーヤ教官のことだ。もしかしたらあの行為にも何か意味があるのかもしれん」
「ガイウスのそのアーヤに対する謎の信頼は何なの?」
「よく分かんないけど一応当たってるみたい!」
「躱す必要も受ける必要もないだけでは……?」
その通りだ。アーヤ教官のトマト投げは確かに相手の顔の辺りに直撃しているが、そこになんのアクションも起こしていない。この行為に意味があるとは思えないが……アーヤ教官は真剣だった。
「ど、どう!? 私の血で強化されたんなら《黄金の叡智》と同じように私の嵌まってるもので解除されたり……?」
「……………………」
──魔弓バルバトス
「うわー!? やっぱ駄目だったー! 食べれないんだから当然だよねー! いやー!?」
「それはそうでしょ! あんた馬鹿なの!?」
「──でも時間は稼げているわ。さすがはアーヤね……!」
「あの光景を見て信頼出来るお前が恐ろしいぜ、ヴィータ……!」
どうやら駄目だったらしい。《紅き終焉の魔王》は弓を取り出してアーヤ教官を撃ち抜こうと射撃する。
しかしクロチルダさんの言うように何故か時間は稼げているのは確かなのでこれもアーヤ教官の作戦なのだろう。見た目の印象で言うと物凄く馬鹿らしく見えるが……どんな手も時には効果的なものになる。さすがはアーヤ教官だ……!
「くそー! この手は駄目か! なら次は──《エクス=マキナ》! 出てきて!」
「《エクス=マキナ》というと……」
「確かアーヤ教官の持つ特殊な人形兵器か……!」
「なるほど。少しでも手数と火力を増やせば時間を稼ぐことも……」
『プスプス……うう……お呼び、ですか……マスター……ガクッ……』
「既に壊れかけだー!?」
「うわああああ!? マキナ―! そういえば修理中なの忘れてたー!」
「やっぱあんた馬鹿じゃないの!?」
──そして今度は空間からアーヤ教官の持つ頼もしい人形兵器《エクス=マキナ》が現れたが、何故か既に壊れかけていた。……子爵閣下との戦いで使用して壊されていたのか……?
とにかくどうやらそれは使えないらしい。アーヤ教官もショックを受けていた。
「……………………」
──魔槍エンノイア
「うわーん!? 《ゾルフシャマール》も弾かれたー! やっぱり強いよー! マキナー! なんか良い手ないー!?」
『マスターの血で強化された《紅き終焉の魔王》……で、でしたらこれを、使ってください……ご武運を、祈ります……ガクッ……』
「ま、マキナー! よくもマキナを!」
「やったのは別の人なんじゃ……」
「それはともかく何かを受け取ったぞ!」
「ああ! もしかしたらそれが何か有効な手を……」
「こ、これは……」
──アーヤはソーセージを装備した。
「ソーセージだった!!」
「この場で最もいらないものであろうっ!!」
「有効な手が打てる訳がないっ!!」
「あの人形兵器やっぱり壊れてるんじゃないの!? 元から!」
俺はユーシスとマキアスとアリサと共にツッコミを入れる。アーヤ教官は神妙な顔でそれを受け取っているが……いや、アーヤ教官、それを持っていても意味がないと思います……!
「くっ……ずるい……! ずるいよ《紅き終焉の魔王》! こっちはソーセージだってのにそっちはそんな強そうな武器持って! もっと手加減してよ!」
「ええいっ! そんな言葉が通じる筈がないだろう! 早くいつもの得物に持ち変えろ!」
「魔王の風上にもおけないよ! 魔王を名乗るんならもっと余裕を見せてみたらどうなの!?」
「話は通じないと思いますアーヤ教官!」
「……………………」
「え?」
「な、なにか新たな武器を取り出したぞ!?」
「あれは……」
──魔槍セージ
「なんか向こうもソーセージみたいな武器取り出してきたー!?」
「形状がソーセージに似てて美味しそー!」
「あ、あれは古に伝わる魔槍セージ……! その昔数多の魔獣を一投で貫き、悪魔ですらその槍に耐えることは──」
「何を言ってるんだエマ君!?」
「古の文献に名前が載っていたわ……! まさかあんな形状だったなんて……!」
「実在するのかよっ! 何でもありだな《千の武器を持つ魔神》!」
「うぎゃー!? いたーい!」
「しかも強い!?」
──そして今度はそのソーセージに似た槍でアーヤ教官を追いかけてぶん殴っていた。
やはりどんな武器も《千の武器を持つ魔神》の名に恥じない強さを持っている。くっ、早く回復しないと……!
「あーもう! こうなったら私特製の薬品を解禁しちゃうんだからね!」
「薬品だと……?」
「そういえばアーヤは毒や薬に詳しい」
「ええ……噂だとアーヤが本気を出す時は検出不可能な毒薬を使うと聞いたことがあるわ」
「それは事実ね……! 確かに、アーヤの例の薬なら相手に効く可能性も……!」
「この際手段は選んじゃいられねぇってことか……!」
「いっけー! やっちゃえアーヤ!」
逃げ惑うアーヤ教官が懐から何かが入った瓶を取り出したことで俺たちは期待する。アーヤ教官の毒。それをアーヤ教官が用いることに僅かに複雑な気持ちにもなるが、それでもクロウが言うように手段は選べないのは事実。俺たちを守るために使うことを決断したのだから、俺たちはそれがどんなに酷い代物でも受け入れてみせると覚悟して──
「喰らえー! ASローション!」
「って、何を使ってるんですかアーヤ教官!?」
「ろ、ローションって……あんた馬鹿じゃないの!?」
「ローションってなにー?」
「あー……それはだな……」
「す、スキンケア用の商品です! いわゆる化粧品ですね!」
「委員長……?」
──なんか床にローションをぶちまけていた。毒でもなんでもなかった。俺たちはそれを見て困惑する。ローションとは何なのかとミリアムに聞かれて何やらクロウが言い辛そうにしているし、エマは何やら誤魔化している気配を感じたが、俺は何も言わない。言ったらこっちにも飛び火しそうだからだ。代わりにアーヤ教官へツッコミを入れる。
「で、ですがアーヤ教官! そんなことをしてなんの意味が……!」
「…………!」
──《紅き終焉の魔王》がローションの塗られた床を踏みつけて転んで頭を打ち付けた。
「意味があった!?」
「騎神も転んだりするの!? いや形状的には当然だけど!」
「アーヤちゃん特製ローションだからね! ぬるつき具合は他のローションの比じゃないよ!」
「何故そんなものを……」
「いや、とにかくチャンスだ! 隙が出来たぞ!」
「そうだ! 今のうちに攻撃を喰らえー! ──うわあああああああー!?」
「アーヤ教官も滑っていったー!?」
「何してんの……?」
──いやほんと、フィーの言う通り何してるんだと言いたくなった。
だが相手をこかすことは出来たのは事実だし、やはり俺たちのためにやってくれてるのだから文句も言えない。時間を稼いでいるのも確かだしな……。
「──なーんてね!」
「……!」
「こっちは滑るのには慣れてるから平気なんだよね! 喰らえ“グリムシザー”!」
「滑ってそのまま攻撃した!?」
「ふざけた攻撃方法だがいいぞ……! そのままやってしまえ!」
「もち! このまま立ち上がる前に──」
アーヤ教官はそのままローション塗れの床の上でも的確に滑って《紅き終焉の魔王》を攻撃していた。
そしてそのまま相手の背後に回ると、そのまま頭部へと移動してアーヤ教官は《ゾルフシャマール》を振るう。あるいはこのまま致命傷を与えることも出来るのではないかと俺たちは期待して──
「おらー! 髪型をアフロにしてやったぞー!」
「何をやってるんですかー!?」「何をやってるのよー!?」「何をやっているこの馬鹿教官!?」「何をしているか自分で理解しているんですか教官!?」「というかどうやってパーマかけたの!?」「私にはもはや何も分からぬ程の高次元の戦いだ……」「低次元の間違いでしょ!」「もうすぐで戦いに復帰出来る……!」「それはそうなんですけど……よく普通に見れますね……!?」「あはは! おもしろーい!」「騎神をアフロにしちまうとは……!」「貴方たち体力がない割には元気ね?」
──《
いや……確かに騎神なのに頭部から金色の長い髪が生えていて少しだけ気になったけど……それでもツッコミどころしかない。ありすぎてもはや全員が口を動かしていた。
「いや、これは挑発だよ! これをしたら怒って皆の狙いをこっちに向けられるかなと思って……!」
「だからそんな感情が騎神に、いや、魔王にある筈が……!」
「……………………」
──魔怒殺暴刺死呪恨怒憎罪塵絶殺剣デスガイアー
「ものすごく殺意の高い武器が出てきたー!? 想定以上に怒ってるよー!? うわあああああん!!」
「めちゃくちゃ効いてるじゃないか!?」
「あんな武器見たことありません!」
「魔女の知識にもない未知の武器よ……! さすがは《千の武器を持つ魔神》と言ったところね……!」
「もう真面目に受け取っていいのかどうかわかんねぇよ!」
「というかさすがにあれはアーヤでもヤバいんじゃ……」
「うわあああああああ!!?」
「アーヤ教官!?」
──そして激しい怒りの表れなのか、やたら棘やら刃やら鎌やらが付いた血塗れの剣を取り出してアーヤ教官に振るう《紅き終焉の魔王》。
その攻撃で思いっきり吹き飛ばされるアーヤ教官を見て俺達はさすがに心配した。
「霊力ノ充填完了──待タセタナ、リィン」
「! ヴァリマール──!」
「コチラモ完了──クロウヨ、乗ルガイイ」
「よっしゃ、ようやくだな! 行くぜ──!」
──だがそのタイミングでヴァリマールとオルディーネの霊力が回復したため、俺とクロウはアーヤ教官の無事よりも目の前の魔王を倒すために騎神に乗り込むことにした。
幸いにもアーヤ教官の攻撃で多少は消耗していると思われる。俺とクロウ。ヴァリマールとオルディーネなら勝てる! 俺たちは再び互いを信頼して魔王へと挑み──
「あれは……!」
「皇太子を取り込んだ“核”だ。道は俺が拓く──行け、リィン!」
「判った──クロウ!」
「おおおおおおおおっ……!」
──勝機を掴んだ俺はクロウの声に従い、敵の攻撃にさらされるクロウを後ろから見送った。
だがそれが──。
「クロウ! 避けて!」
「ッ!? アーヤ!? お前、なんで──うっ!?」
「いっっっっっ……たいけどヨシ! 回避成功!」
──突如として現れた、いや、戻ってきたアーヤ教官が地面から突如として生えてきた針──《紅き終焉の魔王》の尻尾。
──そう。
「ぐっ……!」
「クロウっ!?」
「え……?」
──アーヤ教官の血によって強化されたという《紅き終焉の魔王》の尾は……2つ。
1つはアーヤ教官が防いでみせたが、もう1つはクロウの……オルディーネを貫いたように見えた。
俺は心配して声を上げる。
「カスっただけだ! ──立ち止まんな! 前を向いて、お前にしかできない事をやれ!」
「っ……ああ!」
だがクロウの声に従い、俺はそこで無心のまま相手に切り込む。
八葉一刀流・七の型──無想覇斬。
《紅き終焉の魔王》は俺とヴァリマールの放った太刀に倒れ、俺は直ぐ様その核を取り出す。
中に取り込まれたセドリック殿下を救い出し……《
そして──
「ったく……鉄血と……同じ場所とはな…………」
──俺たちは大切な仲間を……クロウを、失った。
敗因はカイエン公がどこかから手に入れたアーヤちゃんの血です。ということで閃の軌跡Ⅱのラストバトル終了。すごいシリアスで泣ける展開だよね。ってことで次回は鉄血オジサン登場と新たな不幸もありますのでお楽しみに。
次回は明後日20日の18時に投稿予定です。
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