──まさかここまで段取りが狂うとは思わなかった。
いえ……それ以前に、彼をここで失うとは思わなかった。
「……はは……これも……因果応報かよ…………」
──《蒼の騎士》クロウ・アームブラスト。
私が計画のために導き手となり、《蒼の騎神》オルディーネと引き合わせた起動者。
彼の強さは……騎神の駆り手としての実力は灰の起動者たるリィンくんを完全に上回っている筈だった。
だからこそ彼が負けた時は心底驚いたけれど……《紅き終焉の魔王》を愚かにもカイエン公が復活させ、更にどこから手に入れたのか、アーヤの血によって強化したことによって私の筋書きと結末は大きく狂いを見せた。
一体誰がこうなることを想像出来るだろう。予想──いえ、予言できるのはそれこそあの御方……盟主様くらいのものだと思う。
──だけど……。
「……無理なのね?」
「……ええ……たとえ魔女の治癒術でも。……ここまで心臓を貫かれてしまっては……せめて……痛みだけでも……」
「だ、駄目……これ以上は……」
「ゴホッ……委員長ちゃん……黒猫も……悪ぃな……おかげで……最後の挨拶ができる……」
そう、想像なんてできるはずがない。
これでも魔女としては卓越した能力を持っているという自負がある。僅かだが運命を見通すことも出来る。
もっとも、人の運命は移ろいやすいもの。
だからこそ魔女の私でもこの結末は見通すことは出来なかった。
目の前でクロウがこの場にいる1人1人に最期の言葉を送っている。
それを確かな哀しみと共に見届けながら、しかし私は1つの疑問が頭に残り続けていた。
「……アーヤ……お前と過ごす時間は、色々あり過ぎたが……なんだかんだ楽しかったぜ……」
「……………………」
それは──たった今クロウから最期の言葉を送られたアーヤのこと。
あの時……どういうわけか、アーヤはクロウへの《紅き終焉の魔王》の認識外からの攻撃を察知しているようだった。
いえ、もっと言うなら──
間近で戦っていたクロウやリィンくんよりも先にその攻撃に気づく。アーヤは優れた暗殺者だからそれは絶対にありえないと断言することはできないけれど……果たして本当にあり得るのだろうか?
──そして思えば……アーヤについて、私は実のところ知っていることは僅かだ。
他の使徒……第四柱や第六柱ほどの情報は持っていないと断言できる。
分かっているのは彼女が《外の理》を含む何らかの奇蹟をその身に宿していること。酷く悲しい過去を持っているということ。
だからこそアーヤは執行者になった。私が結社に、あの御方に忠誠を誓うよりも前に、その素質を見込まれて。
だから詳しいことは知らない。彼女が何故、そういった在り方をしているのかも何もかも。
私の左斜め前に位置するところでクロウを見下ろしているその表情は私からは見えない。
こんな時にどうかと思うが、アーヤがどんな顔をしているか気になってしまう。彼女はこういった辛い出来事に対する耐性がありすぎる。
そのせいか、こういう時に本気で哀しんでいるところを見たことがない。
だから少なからず仲良くしていたクロウが目の前で死んで……どんな表情をしているのか。
悲しいに決まってはいても、アーヤが何を考えているかは読みきれない。
あるいは本当に、この事態を予測していて、それを受け止める準備が出来ていたのやもしれない──そんな馬鹿なことを考えてしまう始末だ。
「……俺は立ち止まっちまった……だがお前は……お前らは……まっすぐ前を向いて歩いていけ……」
クロウの正真正銘最期の言葉が耳に届く。
だから私は……結局アーヤのことを1度脇に置いた。
「……ただひたすらに……ひたむきに……前へ…………」
クロウの最期を見届ける。
他の事は、今だけは二の次にした。
「へへ……そうすりゃ…………きっと………………」
──かつてアーヤがリベールでレーヴェを救ったことも脇に置いて。
私はクロウの最期をⅦ組と共に看取った。
「────────」
そして皆が悲しみに暮れ、私もまた悲嘆の感情に心が埋め尽くされた。
今はどんな事も邪魔でしかない。どんな事も瑣末事だと断じた。
「ええい──愁嘆場はそこまでだ!」
だからこそその見苦しい横槍が入った時は心底呆れ果て、そして怒りを抱いた。
「くっ……頼みの綱の《蒼の騎士》がこんな所で……魔女といい、《結社》といいとんだ見掛け倒しではないかッ!」
今回の計画の協力者である貴族連合の主宰──カイエン公。
彼がこのエレボニアの皇太子であるセドリック殿下の首元に短剣を突きつけていた。
「目を掛けてやった恩も忘れて我が大望を妨げるとは……! 許さんぞ……! 亡国の浮浪児ごときが……!」
その過ぎた言葉と振る舞いを見て私は向き直る。
貴族連合に協力した今回の計画の導き手として幕を閉じる必要もある。
未だ失意のⅦ組に代わってカイエン公を下し、私は役目を果たそうとした。
「──カイエン公。その手を離しなさい。これ以上、場を弁えないのなら……私にも考えがあるわよ?」
「ひっ……」
そう──所詮は小物。
もはや第二幕は終わりを迎えた。これ以上、カイエン公のような愚物に出番は与えない。
そう思って私は魔女の力を行使しようとして──
「君の出番は終わりだよ──魔女殿」
「っ……!?」
──聞き覚えのある声が耳に届いた。
その直後、こちらに一瞬で近づいてくる誰かの気配と、私の近くから離れていった使い魔のグリアノス。
私はその刹那、自らの危機を感じた。完全な不意打ち──それを防ぐことは出来ないのだと。
そう思いながらも抵抗しようとし、しかしそれでも間に合うことはなく、グリアノスは彼の剣に斬り裂かれ──
「──さすがにそれは許さないよ?」
「っ……と。なるほど。君がいたか、《血染の裁縫師》殿」
──ることはなく、その前に割って入ったアーヤによって防がれた。
気配を察知した──あるいは、それもまた予め知っていた……? ううん、考えすぎ……? でもどっちでもあり得る。
どちらにせよアーヤはその危機を察知した彼の、ルーファス・アルバレアの剣を止めてその場から下がらせた。グリアノスもその場でアーヤによって保護される。
「なんで闇討ちするの? する意味なくない? 出番が終わりって言うなら普通に言葉で言えばいいし、グリアノスを殺す必要ないよね? 普通に可哀想でしょ?」
「フフ、散々それをしてきた君がそれを言うのかね? ──まあそれはともかく、幕引きも兼ねて警告しておきたかったのだが……さすがに大陸一の暗殺者の隙を突くのは難しかったか。このタイミングなら幾ら君でも油断してると思ったのだがね」
「はぁ……なんというか、帝国の偉い人って意外と空気読めないよね? 今はそういう時じゃないのにさ」
「そうだ、君がいたではないか! よ、よく来てくれた! ルーファス君! わ、私を助けに来てくれたのだな!?」
「ほらね」
「フフ……そちらと同じにされるのは遺憾ではあるが、まあそう言われるのも致し方ないのかもしれないし、甘んじてその評価は受け止めるとしようか」
「な、なにを……お喋りに興じているのだね!? 早く私を──」
「悪いが……『寝言は寝てほざくがいい』──庶民の言葉を以て幕を閉じさせてもらうよ」
「え……」
──その言葉と共に現れたアルティナ・オライオン……《黒の工房》の少女がカイエン公を吹き飛ばし、そのまま拘束したことで私はそこでようやく事態を半ば把握する。
おそらくこれは……全て仕組まれていたのだと。
目の前のルーファス・アルバレア──いえ、《鉄血の子供達》。
それとその主である──
「──だからこそ“今”なのだよ」
──《鉄血宰相》ギリアス・オズボーンの手によって。
──はぁ……あ、どうもー。アーヤ・サイードです。今は若干テンション低めでお送りしてまーす。
その理由は……まあ分かるでしょ? ──クロウが死んじゃったんだよね。
《紅き終焉の魔王》を相手にかなり頑張って時間を稼いで後をリィンくんとクロウに任せたんだけどね。その後もなんとか戻って尻尾攻撃を防いだんだけど……まさか二本目の尻尾が生えてたなんてね。
しかもそれが私が原因の強化薬のせいとかさ。そりゃテンションも下がるし、哀しいってもんだよ。
………………………………………………ま、でもクロウは後で生き返らせることが出来るからね。そこをなんとか頑張っていこう。防げなかったし、死んじゃったものは仕方がない。割り切って切り替えていこう。目指せトゥルーエンド! ノーマルエンドには絶対させない!
それと
私はそうやって内心で改めて前向きになる。クロウも最後に私と過ごす時間は楽しかったって言ってくれて嬉しかったし、皆に向けてひたすらに前へとも言ってるからね。そうしよう。元々私はそういう生き方してるけどね!
ってことで徐々にテンションが戻ってきたんだけど、そんな時に空気を読まない人たち──カイエン公with《鉄血の子供たち》。今皆でしんみりしてるんだから邪魔しないの! 特にそこに隠れて隙を窺ってるルーファス! グリアノスを殺そうとするのやめろ! 動物虐待反対!
そして私はルーファスの闇討ちを防いだ。そして更に思ったけど、このルーファスって人怖い……なんでこんなに闇討ち上手いの……? 貴族だよね? いや、貴族じゃないんだけど貴族育ちだよね? 私が今まで見てきた暗殺者の中でも上位に来るくらい闇討ちが上手いんですけど……もしかして父親が暗殺者だったりでもした? もしくは暗殺組織で実は育てられたの? 今すぐ《庭園》で暗殺者やっていけるし、なんなら管理人出来るんじゃない? 帝国一の暗殺者怖いよぉ……私でも気を張ってないと気づくの多分無理……本気で狙われたら死んじゃうかも……ひい……。
「オ、オジサンっ!?」
「あー……ま、そりゃ来てるよねー」
「久しいな、ミリアム。アーヤ。《Ⅶ組》の諸君に、遊撃士殿も。──そして公爵閣下ともな」
あ、どうもどうも……私の雇い主の1人が相変わらず威厳たっぷり覇気たっぷりで現れた。すごいよね《鉄血宰相》ギリアス・オズボーン。最後まで呪いたっぷりだもん。
ってか私にもミリアムちゃんと並べて挨拶するのやめない? 私まで《鉄血の子供達》みたいに思われちゃうじゃん。私はあくまで雇われてるだけなんだから──「アーヤ……あなた、もしかしなくても知っていたのね?」──え? あ、いや、その、違くて……ヴィータ姉さん聞いて? 後で詳しく話すけど私はその……なんというか、生きてることを知らされてただけで、実際にオズボーン宰相がどんなことを企んでるかは知らなかっただけというか……。
「フフ、アーヤのことなら互いに良い取引相手──ビジネスパートナーというだけだ。《結社》の執行者はあらゆる自由が認められる……使徒たる魔女であれは当然承知のことだと思っていたが?」
「……そう。だとしても、まさか十三工房の一角まで完全に取り込んでいたなんてね……! この先、どうするつもりなの!?」
「クク──決まっている」
おお! 鉄血おじさんが助け舟を出してくれた! やっぱ意外に優しい! 私の立場が悪くなりすぎないようにしてくれてる! 実際本当にただのビジネスパートナーで裏切ったわけじゃないから許してヴィータ姉さん! 私は《破戒》のオジサンとは違うから裏切ったりしないよ! ルールも可能な限りは守るし! だから結社の一員として一緒に帰ろう! 鉄血おじさんの宣戦布告聞いてからね!
「結社の《幻焔計画》とやら──このまま私が乗っ取らせてもらおう。クロスベルの後始末も兼ねてな」
「……!!」
「え、ええええっ!?」
うわああああああ!! よし、上手く驚けたな! でも本当にヤバいよね。結社の計画乗っ取るとか。最初知った時はめちゃくちゃびっくりしたもんだよ。まあ全部終わってから見ると納得しかないんだけどさ。《黒》の起動者って時点でむしろこの人抜きじゃ計画進まないまであるし。リアンヌママもこの人に取り憑いてるイシュメルガを倒すのを目的にしてるし。そりゃ結社も認めるよね。なので実のところ全く裏切ってない。最終的には協力することになっちゃうからね。
「今は見逃してやろう──魔女よ。帰って他の蛇どもと飼い主に伝えるがいい。──立ち向かうのであれば遠慮なく叩き潰してくれると」
「……っ……」
ひえええ……黒の起動者が言うと重みが違ぁう……怖~……実際この人って不死者だし、勝てないよね。騎神同士の相克に勝たない限りは。
もしくは他の至宝の力でも使えばいけなくもないのかな? ただ単純な強さで言うなら鋼の至宝の大部分を占めてる黒は大分ヤバいし、《巨イナル一》になったらもっとヤバいからね。本当にチート。色んな意味で敵対したくない。実は良い人ってことも含めてね。
「ああ、それとアーヤ。君にはまた後に商談の機会を設けたい」
「え?」
「此度の内戦において多くの民間人を救ってみせた功績もある。正式に招待するから楽しみにしておいてくれたまえ」
「あっはい」
ええ……なんかまた仕事を頼みたいってこと? まあ帝国で自由に動ける立場をくれてるのはありがたいから良いんだけどさ……このタイミングで仕事を頼まれるって嫌な予感しかしないんだよなぁ……まさかクロスベル侵攻のお手伝いとかしないといけない?
──まあでも何でもいいや。とりあえず今はⅦ組の皆が心配だからこの場に残って見届けを──「アーヤ。あなたには後で話があるわ」──あっ、はい……ヴィータ姉さんからも呼び出された……事情を聞かれるんだろうなぁ……すごい行きたくないけどヴィータ姉さんも災難だっただろうし、ちゃんと行かないとね。
後はこれを見届けよう。リィンくんがクロウくんの死に様やこれまでの人生を思って我慢出来なくなってオズボーンの胸ぐらを掴むシーン。ここでリィンくんは思いの丈をぶちまけて、そして更に思い出すんだよね。
「久しぶりだな、我が息子よ。いや──帝都奪還の立役者たる《灰色の騎士》よ。お前には“英雄”としてしばらく役に立ってもらうぞ」
──今~♪ 別れの~時~♪ 果てしない行く先に~♪ 僕ら~♪ 約束を~♪ 交わそう~♪ た~とえもう二度と~♪ 会えないとしても~♪ あいるりめんばーゆ~♪
……ってことでここで閃の軌跡Ⅱはブラックアウト。一応終わりになるんだったよね。だから内心でエンディング曲を歌っておこう。うう……クロウ……Ⅲで《蒼》のジークフリードとかいう黒歴史を見せてくれるけどそれまで元気でね……! なんならその後も最終的には復活させるけどこの時点だとすっごく悲しい終わりだ。
──まあゲームではここでエンディングだけど残念ながら私のいる場所は現実なんで普通に続くんですけどね。とりあえず項垂れたリィンくんを介護して皆で城を出て、オズボーンが言うように煌魔城が数時間で消えたんで残っていた魔煌兵とか魔獣を倒してから帝都の治安やら各地に内戦が終結したことを告げたり、それを収拾したり、Ⅶ組はそれぞれ暗い表情で列車に乗り込んでトリスタに帰ったり……なんともまあ鬱屈とした過程を思う存分見せ付けられる。とりあえず道中で寄り添ってあげた。こういう哀しい時は慰めの言葉よりも何よりも側に人がいるってのが1番効き目があるんだよねー。
ってことで駅までは見送りつつ「また後で会いに来るね」と約束してからⅦ組と別れた。そして私は……ま、とりあえず適当にご飯でも食べて一休みしてから久し振りに家に帰ろうかな? 明後日は私の誕生日だしね! 21歳の誕生日! 明日もお正月だし、色々忙しいけどどうにか時間を作ってお祝いしよう! エース君にイクスにヨルダも元気かなー? セラフィーネちゃん達にも会わないとだし、会社にも顔を出したいし、庭園の様子もどうなってるか一応見ないといけないけど、2日くらいは休んでもいいよね? わーい! お休みだー! ゆっくりするぞー!
「──それじゃ話を聞かせてもらうわよ?」
「……答えたくないことは答えなくて構わない。だが、些か気になることはある。今後のためにも、出来れば答えてほしい」
──アッハイ。全然終わりじゃないですよね休めるわけないですよねそうですよねー。あはは……。
そういうわけで帝都の地下水路にて私はヴィータ姉さんとレーヴェと合流して話をすることになった。まあ元々レーヴェには後で話がしたいって言われてたからそのために来たんだけどね。大晦日はレーヴェと一緒に過ごせることになるし、一緒に初日の出でも見ようかなーって……でもなんかヴィータ姉さんがそこでインターセプトしてきて、気になることがあるって言うから一緒に話をすることになった。困った……ヴィータ姉さんの視線が痛い。なんか色んな意味合いを感じる……女の勘的にマズいかもしれない……。
「……ずっと疑問ではあった。リベールでの《福音計画》に突如参加し、俺を救ったこと……今回の《幻焔計画》でもクロウ・アームブラストを救おうとしたことも……どうにもお前は、先のことを見据えて動いているように見えた」
「ルーファス・アルバレアが私の不意を突いた時もそうね。私とグリアノスを守ってくれたことは礼を言うけれど……それとこれとは別の話よ。単刀直入に聞かせてもらうけど──あなたはどこまで知っているのかしら?」
「えとえと……見据えてるとか知ってると言うのはなんとも……そのぉ……」
ど、どうしよう……なんか知らないけど勘付かれてる……こういうのってバレたら良くないよね? 幾らレーヴェとかヴィータ姉さんでもそれを教えると色々とおかしくなりそうだし……喋るわけにはいかないけど、私って誤魔化すの苦手なんだよね……うわああああん! どうすればいいんだー!
「──もしや、お前の持つ《外の理》の力が関係しているのか?」
──いやああああああ!!? レーヴェ鋭いー! さすがレーヴェ! 頭が良いところもかっこいいー! 結婚してー! でもそれ聞かれると困るー! ほぼほぼ当たってるみたいなもんだし! ど、どう誤魔化せば……いや、もうこうなったらいっそのこと──
「えーと……その、まあ、あんまり言いたくないけど、そんな感じ、かな?」
「そんな感じ?」
「だ、だからえっと……げ、限定的に見えるだけというか……一部だけ知ってただけというか……全部が全部分かるわけじゃなくて……だからその……」
「……つまり、限定的な未来視……あるいは予言の力のようなものがお前の中に──」
うわあああああ!! それは違うー! 嘘言っちゃったごめんなさーい! でも全部言うわけにはいかないからこう言うしかなくて……! その程度でご勘弁をー!
……ってあれ? 言葉が止まった。どうしたのレーヴェ? ……って、ん? これは……。
「…………そこに隠れている者。出てきたらどうだ?」
「──おや、バレてしまいましたか」
──あ、やっぱり誰か隠れてた。今しがた近づいてきた感じだけど、この声って……え?
「み、ミルディーヌちゃん!?」
「はい。お久しぶりですアーヤさん。内戦では随分とご活躍だったようですね」
──うわっ、ミュゼちゃんだ! 今はミルディーヌちゃんだけど! なんでここに? なにしに来たの?
「……その制服。確か、帝都にある女学院の制服だな。──何者だ?」
「ええ、よくご存知ですね。私は聖アストライア女学院に在籍するミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエンと申します。以後、お見知り置きを」
「カイエン……? まさかあなた、カイエン公爵家の……!」
「はい。一応継承権を持つ身です。その説は叔父クロワールが大変ご迷惑をおかけしました」
「え、え、言っちゃうの? というか本当に何しに来たの?」
「ふふ、私たちにとっての重大な用件がありまして。アーヤさんと、そちらのお二方に」
「……アーヤとは以前からの知り合いのようだな」
「叔父のご機嫌取りの一貫で引き合わされまして。幾つか私服やドレスを仕立ててもらいました。──他にも
「──何だと?」
──え? 何? そんなの話し合ってないよね? なんでミルディーヌちゃんそんなこと言うの? ミルディーヌちゃんはそりゃ知ってるだろうけど私は……というかこの流れってなんか思い当たるような……。
「……用件があると言ったわね。いきなり現れて何を……と言いたいところだけどアーヤと以前から知り合いで色々事情をご存知のようだし、話だけは聞いてあげるわ。──私たちに一体何の用かしら」
「さすがに出会ったばかりで信用はされませんか。でしたら信用して頂けるように私の知る全てをお話します」
そうしてミルディーヌちゃんは話を始めて……あんなことやこんなことを話した。指し手の能力──数万手先の手を読めることや、叔父クロワールが内戦を引き起こすことも読んでいて、私と繋がりを持って未来への布石を打っていたとかどうのこうの。
「結論を言います。《蒼の深淵》ヴィータ・クロチルダ様。《剣帝》レオンハルト様。《血染の裁縫師》アーヤ・サイード様。あなた方には近い将来、この帝国で発生する何らかの“呪い”……それに伴う東の大国との大戦や、その先に続く世界の破滅の可能性に備えるために──私の協力者になって頂きたいのです」
──そうして更にミルディーヌちゃんはこれから帝国政府が起こす事柄を全て言い当てて見せ……まあこの時点だとただの予測だけど……その能力を証明し、私たちに協力を頼んだ。
そしてその提案をヴィータ姉さんと
……まあ、結論を言うと──なんか流れで《ヴァイスラント決起軍》にも組み込まれちゃいました。うわーい。なんかレーヴェとヴィータ姉さんの追求も私がミルディーヌちゃんとはまた別の限定的な未来の知識を持ってるってことで決着したし、言う事なしだー。うわーい。
…………さて! どうしよう。困ったなぁ……結社と帝国政府とヴァイスラント決起軍とトールズⅦ組の全部に所属しちゃってるよ……最終的にやることは決まってるとはいえ、もう私じゃどう過程を進んだらいいかわかんない……誰か相談相手がほしい……。
私は帰路につきながら考える。なんなら占い師とかに相談してみようかな……もしくはなんでも話せる壁みたいな無機物にでも独り言をつぶやきに行こうかな。それで考えがまとまるかもしれないし──『ヨコセ……』──ん? 誰? 今ちょっと考え事してるんだから黙っててくれない?
──ヨコセ……ヨコセ……。
あれ? なんか聞き覚えあるような……というかなんか私の頭に直接響いてるんだけど。
──ヨウヤク声ヲ届ケル事ガデキタゾ……サア、ソノ力ヲ我ニヨコセ……騎神ヲ探シ、貴様ノ力ヲ以テ──
え? なんて? よく聞こえない。ファ◯チキくださいって言った?
──何ヲ呆ケテイル……貴様ノ精神ハ既ニ
んー? なにこれ? 耳鳴り? 段々聞こえにくくなってきたんだけど。誰かがテレパシーでも送ってきてる? 教団のロッジだとそういう異能持ちもいたこともあったけどさすがにそんな人もう残ってないよね?
──サア、我ノ言ウ事ニ従エ……!
……ま、いいや。なんか声聞こえなくなってきたし。帰ろ帰ろ。久し振りに共和国のお家に帰ってエース君の年越し手打ちうどんでも食べようかな。
──エエイ……何故言ウ事ヲ聞カヌ……!? コウナレバ更ニ干渉ヲ──
「ん? なんか黒い霧が……」
夜道を歩いているとなにか地面から黒い靄っぽい何かが漏れ出てきてるのを見て私は立ち止まり……そして気付いた。
それが私に向かって飛んでくる。怖い。私は慣れてるし、出来れば殺生はしたくないけどこういう時は咄嗟に動いてしまった。
「うわっ、ゴ◯ブリだ!? こっち来ないで!」
──ギイヤアアアアアア!!?
私は飛んできたGを《ゾルフシャマール》で切断する。なんか聞こえる筈のない叫び声が聞こえた気がするけどきっと気の所為だろう。黒い煙もなんか消えた。
──グ……何故ダ……? 別次元ノ我ニ痛ミヲ与エルダト……? 言ウコトヲ聞カヌ事ト言イ……
さーて帰ろっと。閃の軌跡Ⅱ終了~。なんとか数日は休めそうだし、一旦今後のことは忘れて久し振りに服でも仕立てて楽しまないとね! 碧の大樹やら煌魔城とかで創作意欲がグングン湧いてるし!
──コレデ終ワッタト思ウナ……イズレ必ズ……貴様ノ力モ我ノ物ニ……!
あ、そうだ。帰ったらイシュニャルガに帝国産のマタタビあげよ。そろそろ近所の野良猫たちとの縄張り争いを終えて《巨イナル猫》になってるかなー? 久し振りに会うの楽しみ!
色々布石を残しつつこれにて閃の軌跡Ⅱは終了。まあ外伝部分もちょっとあるけどね。さらっとやります。
ただ次回は共和国に一旦帰ります。そして懐かしいキャラと再会します。その後はクロスベル侵攻云々やらノーザンブリアでの北方戦役やらまたアーヤちゃんが東奔西走しつつ楽しみます。その後は閃の軌跡Ⅲ編。イシュメルガのアーヤちゃん入手エンドに向けたガバガバ黒の史書チャートをお楽しみに。
感想、評価、良ければよろしくお願いします。