TS不幸少女のゼムリア大陸災難記   作:黒岩

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旅行先で剣の達人と出くわす不幸

 ──高校時代からアーヤはとても印象的な友人だった。

 

 そもそもの出会いからして入学式の日にいきなり車に轢かれたのにも関わらず怪我1つなく入学式に参加しようと駄々を捏ねたという衝撃的な初対面だった。

 その後に同じクラスになったことも戸惑ったものだけど、本当にすごかったのは入学してからだった。

《アラミスの狂人》なんて不名誉な渾名を付けられたのもとにかく良くも悪くも騒ぎを起こしまくっていたからで今でも忘れられない思い出が数えられないほどある。それこそ学校側からもかなりのトラブルメーカーとして目を付けられていたわね。

 

 ただそれでも私の知る限り、アーヤと1度でも話したり深く関わった人の中でアーヤのことを本当に嫌っている人はいなかった。彼女は騒ぎは起こすけれど、そこに悪気は一切ない。明るくて楽しくて悩みなんて1つもないんじゃないかってくらいお気楽な子で、その上で友達想いだった。私もあることで悩んでいた時に何度も相談に乗ってもらったし、2年生に上がってからヴァンが私たちの前から姿を消した時も変わらず普段通りに接してくれた。おかげで必要以上に暗くならずに済んだ。

 ……もっとも、3年生に上がってからはリベールに留学したり、1年の時からファッションデザイナーとして自身のブランドを立ち上げたことでその仕事が忙しかったりで殆ど会うことはなかったけどそれでも卒業前には戻ってきたし、卒業後もずっと友達だと言ってくれた。

 私は遊撃士の道を進むこととなり、強さを得るための訓練や依頼をがむしゃらにこなすことに夢中になったけれど、それでもアーヤの仕立てた服が毎年ショーに出て雑誌で大きく取り上げられていたりするのを見て嬉しく思った。アーヤがあんなに頑張ってるんだから私も負けないように頑張らないと。そんな思いで仕事への意欲も高まったし、時折タイレル地区にあるアーヤのブランドのお店にも立ち寄って良いと思った服なんかを買って気分転換を行うこともあった。

 向こうも忙しいため中々会う機会は得られなかったけれど、それでも友人だと思っていた。たまに帰ってくることがあればあのいつも通りの邪気のない笑顔を向けてくるだろう。愛想がない私には羨ましいと、そんなことを思いながら遊撃士として仕事をしていたある日のこと。

 

 ──私はアーヤが結社《身喰らう蛇》の執行者であることを知った。

 

 きっかけは私がD級に上がった時のこと。ある仕事の中で《身喰らう蛇》のことを知り、それから共和国ギルドの重鎮で私自身も準遊撃士になってからお世話になっているジンさんに結社のことを教えてもらった。

 民間人の安全と平和を第一とする遊撃士にとって猟兵や裏社会の組織は警戒しておかなければならない相手だ。

 そしてその数ある裏の組織の中でも特に得体の知れず、それでいてかなりの戦力や技術力を持つ組織。それが結社《身喰らう蛇》だ。

 その中で執行者と言えば結社の最高位のエージェント。No.0から始まり、現在はNo.ⅩⅦまでが確認されていて、その全員が常人を遥かに凌ぐ実力者。武術の達人であったり、何らかの異能を持っている者も少なくない。

 アーヤはその執行者のNo.ⅩⅢだった。《血染の裁縫師》という異名を持つ裏ではかなり名の知られた暗殺者であり、更には大陸各地で《切り裂き魔》などの都市伝説としても知られている。

 私はそれを知って……正直なところかなりのショックを受けた。あのアーヤが裏社会の人間なんて悪い冗談にも程がある。誰よりも明るくてお気楽で友達思いだったアーヤが執行者だったなんて信じられなかった。

 

 だけどその一方で、どこか納得もした。アーヤは昔から色々と不思議だったから。実の家族は1人もおらず、一緒に暮らしてる子どもが数人いるだけだと言っていたし、仕事があると言って学校を休むこともあった。

 おまけに身体能力は学生時代から異常なほどに高かったのは言うまでもない。今にして思えば、車に轢かれてなんともなかったのも彼女が執行者でなおかつ何らかの力を有しているからだったのかもしれない。

 

 そうして私は考えれば考えるほどにアーヤが執行者であることを否定出来なくなり、結局それを受け入れるしかなかった。──ヴァンが私たちの前から離れていった時のように。

 アラミスを卒業してから2年。私たちも成人してもう立派な大人だ。ヴァンはいつの間にか首都に戻ってきて裏解決屋という胡乱な商売を始めたらしい。

 ルネはCIDの職員として相変わらず辣腕を振るっている。1度話したけれど、向こうもアーヤのことを少し前に知ったらしいが、CIDの情報網から得た情報をD級程度の遊撃士に伝えるわけにもいかないため黙っていたと言っていた。

 

 私は受け入れるしかない。いつまでも子どもではいられない。学生の時のように仲良くし続けることなんて出来ない。

 

 大人になってそれぞれが立場を得た。その役目に従って接することしか出来ない。

 だからもしアーヤが私の前に現れた時は、私は遊撃士として彼女の前に立ち塞がらないといけないと、私は強く覚悟した。どんなことがあっても──

 

「オ(ー)ク(レール)斗羅漢剣!! この速い突きが躱せるかぁ~!?」

 

「ぎゃあああ!?」

 

「な、なんだあのヘルメットを被った女は!?」

 

「分からねぇ! とにかく逃げろ!」

 

「逃げられんぞぉ~! おい、私の名前を言ってみろ!」

 

「し、知るか! 誰だお前は!?」

 

「私はオク斗神剣伝承者! 遊撃士のエレイン・オークレール様だ~!!」

 

「ひでぶっ!?」

 

「はははっ! どうだ悔しいか~!?」

 

 ──監視カメラの映像の中でヘルメットを被り、変な技名でテロリストを次々に倒していく私の偽物を見て私は強い怒りを覚えた。

 

 肌や顔は隠していたし、髪もご丁寧に私と同じ色のウィッグで変装しているようだけど声は明らかにアーヤだった。というか、アーヤ以外にこんなふざけたことをする人はいない。ギルドに大量の民間人がエレイン・オークレールに助けられたと聞いて保護を求めてやってきていたことから、おそらくは素性を明かすわけにはいかなかったのだろうけどそれでも他にやり方は幾らでもあるでしょう。

 ただそこでこんなふざけたことをするのがアーヤだ。私はそれを知ってる。なのでそれを見た数日後には同じく被害にあっていたルネと一緒に駅前で呑気にコーヒーを飲んでいたアーヤに声をかけた。そして何故あんなことをしたのかを問い質し、散々説教した後で話の流れで一緒に協力することになった。次に会ったら敵として立ち塞がると決めていたのに……全く、気を抜けさせてくれるわね……。

 

 だけど呆れると同時にどこか安心している自分がいることにも気付いた。執行者であるアーヤは、そのことを私たちに知られても特に態度を変えない。明るく気の抜ける思いやりのあるアーヤのままだった。

 

 アーヤの姿は偽りじゃなかったと、そう気づいたからか。アーヤの態度がいつも通りすぎるせいで問い質すことも出来なかった。過去のことはある程度聞いているとはいえ、色々と話したいことはあったのだけど。

 

 だけど私はまたいつものように心の中で幾つも理由を付けて、それを心の内に押し込める。聞く必要はないし、聞いても何も変わらないと。アーヤは執行者で私は遊撃士。たとえ友人同士で変わらず話せたとしても、根本的な部分で相容れるわけにはいかないのだから。

 

 

 

 

 

 ──おつおつ~。今《星辰の(アストラル)コード》でチャットしてるからちょっと待っててね~。

 

 No.ⅩⅢ:『【任務募集】大陸東部で第五柱に頼まれた仕事で3人くらい。手伝いしてくれる人いるー?』

 

 No.ⅩⅧ:『ゴメン、ちょっち厳しいかもー。今月は同じく中東方面で仕事があってさー』

 

 No.ⅩⅢ:『おけまるー。他誰かいるー?』

 

 No.ⅩⅦ:『戦闘あるよね? だったら行ってもいいよアーヤ姉』

 

 No.ⅩⅢ:『ありがとー! 他@2くらい。誰か来る人ー。シメオンとかブルブランとか暇ー?』

 

 No.Ⅹ:『余裕がない訳ではないが私の興味は今は西にあってね。すまないが今回は遠慮させてもらおう』

 

 No.Ⅶ:『私の方も生憎と博士から頼まれた仕事を請け負ってしまっていてね。申し訳ないが今回は見送らせてもらおう』

 

 No.ⅩⅢ:『そっかー。おけまるー。じゃあヴァルターは? ヴァルターいるー?』

 

 No.ⅩⅧ:『さっきまではいたけど今は席外してるっぽいかも?』

 

 No.Ⅲ:『ああ。ヴァルターはんならさっきまで一緒におったけどアーヤと仕事なんてまっぴらごめんとか言って近くにいた魔獣を狩りに行きはったわ』

 

 No.ⅩⅢ:『酷い』

 

 No.0:『君の場合自業自得じゃないかな?』

 

 No.ⅩⅢ:『ヴァルターのへんたーい。ばーかばーか』

 

 No.Ⅷ:『テメェ今どこにいる? 殴りに行くから場所教えろや』

 

 システムログ:『No.ⅩⅢがチャットルームから退室しました』

 

 No.ⅩⅧ:『逃げ足早っ!?』

 

 No.Ⅷ:『あ、あの野郎……!』

 

 No.ⅩⅦ『あはは! さすがはアーヤ姉!』

 

 ──ふぅ……よし、チャット終わり! どもども~! アーヤ・サイードでーす! 好きなブラウザは火狐だけどクローム使ってました! 

 

 ってことで今何をしてたかと言うと、仕事の連絡だね。それも結社の仕事だから超便利なネットワークが使える。その名も《星辰の(アストラル)コード》。

 これは盟主様が授けてくれた外の理を記述出来るとんでもない技術であり、第六柱のノバルティス博士が色々と調整して使いやすくしてくれたもの。簡単に言えば結社専用回線って感じ? 既存の導力ネットや導力通信に頼らずにアカウントを持っている者同士で連絡が取り合えるし、こうしてやったようにチャットも出来れば映像付きの通信なんかも出来る。なんならこれを使って導力ネットのハッキングなんかも出来るし、転移なんかも可能という超チート技術だ。

 結社の使徒や執行者は1人に付きアカウントを1つずつ持ってるので今やったみたいに互いに連絡を取ったり出来るんだよね。あ、ただ抜けた人はアカウントも取り消しされてる。なのでレーヴェとかレンちゃんはもう持ってないし使えないね。クルーガーちゃんなんかは休業してるだけなんで使えるけど。

 

 ──とまあ結社の誇るとんでも技術の説明を行ったところで私が何をしてるかだけど……何から言えばいいやら……色々ありすぎて……。

 

 とりあえず、共和国内の混乱は収まった。共和国政府や警察やギルドやらと協力してテロリストを逮捕しまくったからね。経済的にヤバいのはまだ続いてるけど、とりあえずはクロスベル問題を片付けなきゃいけないからね。共和国的には。

 だから2月になって早速共和国軍が帝国領となったクロスベルに攻め込んでたけど、そこは普通に迎撃されてた。そりゃあそう。機甲兵には勝てないよね。しかもリィンくんとヴァリマールもいるし。共和国は空軍がわりかし強いとされてるけどそんなの関係なかったね。

 

 そして私は共和国内での仕事を終えると早速クロスベルに入った。ジェラールとかいう特級のやべー奴から逃げるために。後はメルキオルに任せて逃げた。だってどうせ契約するんでしょ! もう好きにすればいいよ! 私がダメって言っても聞かなそうだし! そもそも《庭園》って園ごとに若干方針が違ったりするし! 契約したい奴だけしてどうぞ! 

 なので《棘の園》は《アルマータ》と契約して何をするかは知らんけど暗躍するっぽい。すっごい怖いし嫌な予感しかしないけど、私は止めたからね! 興味ないって言ったからね! これで何かするようなら知らないよ! 

 

 でまあクロスベルに入ったら帝国軍が普通に撃ってきたんで危なかったけど、そこはリィンくんが突然現れて止めてくれた。さすがリィンくん。今は《灰色の騎士》として帝国の若き英雄として祭り上げられているけど、実際リィンくんはかなり英雄だと思うよ。言われたくないだろうから言わないけどね。

 

 で、クロスベル自治州に入ってからは再び変身。前に仕立てた改造軍服を身につけてからトールズに1度戻った。……本当はリィンくんとアルティナちゃんについて行きたかったんだけどロイドくんやリーシャちゃんと出くわしても困るっちゃ困るのでちゃんと私は私のやるべきことをやりに行った。一応はまだ教官だからね。

 なのでトールズに先に戻ってからは3月まで普通に授業を付けてあげた。Ⅶ組の皆が今年度でリィンくん以外が卒業するからそのために1年分のカリキュラムを一気に進めないといけなかった。なので私も実戦技術の担当教官として1か月くらいだけどみっちりⅦ組の皆を鍛えてあげた。もう色々と隠す必要はないから《ゾルフシャマール》を使って毎日のように誰かをボコボコにしちゃったけど、皆すっごいやる気で学ぶ姿勢を持ってたから私も力が入ったね。

 

 そしてとうとう卒業の日がやってきたわけだけど……いやー泣けたね。というかめっちゃ泣いた。私が。隠れてわんわんとね。

 というのも無限回廊の攻略には参加したけど、その後はまた仕事の予定があったのでⅦ組の卒業は陰から見届けるだけで済ませた。一応別れの言葉というか、皆には「卒業しても元気でね! 過去を振り返らず、前を見て進むように!」って最後の薫陶を送っておいたので安心だ。その後で「うわあああああああん!! 卒業だー! 寂しいよー!」ってな感じで陰で泣いたけど、これはⅦ組の門出でもあることだし、別に会えなくなるわけじゃない。

 まあ私としても初めての教師生活。最初で最後の教え子ってこともあって結構クるものはあったけど、Ⅶ組の皆が前を向いていたので私も嬉しくなった。

 

 なので私も今まで通り前向きで行こうと。そうして私は半年余りのトールズでの教官としての仕事を終えた。

 

 ──ってことで私は旅行に行くぞー! イエイイエーイ! 

 

 やっと帝国やクロスベルや共和国を離れられる! ──まあデザイナーとして服を仕立てたり結社で細々とした仕事はまだあるんだけど、それでも旅行に行ってリフレッシュ出来ることには変わりないからね! なので私にとっては休暇でしかない! 

 

 なので私は頑張って予定を立てた。7月の帝都の夏至祭に合わせてオズボーン宰相と商談予定だからそれまでは外国で遊べるぜ! 

 だから私は行きたいとこに全部行く! ぜんぶだ! モルジア諸島もヴァリス市国も大陸東部にも行くぜ! 4ヶ月あれば余裕だ! 

 

 私はウッキウキで予定を立てた。金ならある! 家族旅行も社員旅行も自分探しの旅までコンプリートする! 

 まずはヴァリス市国のリゾートホテルに社員旅行! さすがに本社全員をずっと休ませるわけにはいかないから3泊4日くらいだけどね! ただ私のアトリエでいっぱい働いてくれたセラちゃんとかシーナちゃんたちはしばらく楽しんでていいよ! 旅行の後も休みあるからね! 

 ただ私はヴァリスの6つ星ホテルの中でも仕事だ! でも仕事であって仕事じゃない。服のデザイン描いたり仕立てたりするのは楽しいからね! バカ広いプールの脇でリクライニングチェアに腰掛けながらデザインを考えるのは楽しくてしょうがない。

 

 しかも……そう、しかもだ。ヴァリス市国では私にしては珍しいことに──()()()()()()()()()()()()! 

 

 旅行中は普通にショッピングしたり良いデザインが思い浮かんだから服を仕立てたりプールでイケメンやお金持ちに話しかけられたりしてそっから私の服を求めてくれる人が増えたりしてパーティに誘われたのでパーティに参加したりして楽しんだ。なんか()()()()()()()()()()()()()()()()。へえー。なんか聞いたことある気がするけどなんだったっけ? 忘れた。ま、いっか。ってことでそんな感じで特に不幸なことは何もなかったから社員旅行は一先ず成功だね! 

 

 そして次は大陸東部に個人的な旅行と結社の仕事だ! 大陸東部は何年か前に来たけど簡単にこの地の状況と私がやるべきことを説明しよう! 

 

 ──七耀暦107X年。ゼムリア大陸東部、イスカ神聖皇国は天変地異によって崩壊した。木は枯れ、地は裂け、あらゆる生命が死滅したかに見えた。

 だが、人間は死滅していなかった! 

 

 そして私はイスカ都市同盟で相変わらず争いや奪い合いを続ける勢力の中で、特にゲスで酷いことをしている組織を第五柱の指示で殲滅する救世主アーヤちゃん! 

 

 幾つかの都市に隠れ潜んでるその組織のアジトを何名かの執行者で襲撃だ! 

 

「──よく来てくれた。《血染の裁縫師》。それに《赤の戦鬼》よ」

 

「いや全然だよ! 久し振りに本場の東方料理が食べたかったしね! ……それにオジサンからの仕事に比べたら全然マシだし……」

 

「東はあんまり来ないから1度来て見たかったんだよね。こっちも結構色んな団がいるから1度見てこいってパパからも言われてたしさ」

 

「……うむ。貴公らがいれば殲滅も楽に済むであろう」

 

 ってことで一緒に付いて来てくれたのは新しく執行者になったNo.ⅩⅦ《赤の戦鬼》シャーリィ・オルランドちゃん! 殺し合い大好きな物騒な後輩と一緒に第五柱と合流して敵を殲滅する簡単なお仕事だ! その後は本場の東方料理に舌鼓を打つぞ! 

 

「それじゃレッツゴー!」

 

「ではこちらは頼んだぞ。──()()()()()()。貴公もアーヤたちと共に行くといい」

 

「ああ。好きにやらせてもらうぜ。約束通り、仕事の後は俺の自由だしなァ?」

 

 あっ。ヴァルターいる。逃げよ。

 

「それじゃ私はこれで……」

 

「おい……どこへ行くつもりだ?」

 

「私の命守るため~♪ 私は旅立ち~♪」

 

「おい逃げてんじゃねぇぞゴラァッ!」

 

「リアル凸反対! リアル凸反対! ネットでの喧嘩はネットで済ませようよ! うわーん!」

 

「知ったことかよ! 久し振りに稽古付けてやるから覚悟しやがれ!」

 

「あはは! 仕事終わった後にやり合うならシャーリィも混ぜてよ!」

 

「嫌ー! うわーん!」

 

「チッ……! また速くなりやがって……! だから待ちやがれってんだよ!」

 

 うわあああああああああん!! ヴァルターに襲われるー! こっち来るなバカー! くっそー! こうなったらさっさと殲滅して逃げ切ってやる! おらー死ねーモヒカンじゃないけどモヒカン共ー! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──数時間後。

 

「はぁ……気持ちいいー……」

 

 私は大陸東部のとある温泉に浸かっていた。

 あの後、ヴァルターとシャーリィちゃんに追いかけられながら標的の組織を殲滅してヴァルターとシャーリィちゃんとも戦う羽目になってかなり痛かったけどなんとかそれを切り抜けて今に至る。

 そうして温泉に浸かりながら思うのは……やっぱ私って地味に強くなってるなーと。

 さすがに自分が弱いとまではもう思ってないけど、自信はそんなにない。でもなんか普通にヴァルターとかシャーリィちゃんみたいなバリバリの武闘派相手に良い感じに戦えるのは地味にすごいのではと思うわけで。

 

「もしかしたら自信を持ってもいい? 私って結構強いんだよね的な?」

 

「ほう。自らの強さに悩んでおるのか?」

 

「いや、強さに悩んでるっていうか自分が結局のところどれくらい強いのかよく分からないというか、正直あんまり強いとは思えないというか。でもやっぱ私って結構強いんじゃ? みたいな時期に入ろうとしてるところですねー」

 

「なるほどのう」

 

「そうなんですよー。……で、お爺ちゃんは普通に入って来ましたけどここって混浴だったっけ?」

 

「はて、どうだったかの~」

 

 ……なんか1人で温泉入って独り言呟いてたらなんか変なお爺ちゃんが温泉に入ってきた。誰? ボケてるのかな? ここって男湯と女湯分かれてなかったっけ? 

 

「まあ細かいことはいいではないか。それより、強さに自信が持てないというのならより高みに至った者に見立てて貰うのはどうじゃ?」

 

「……ま、いっか。──いやー、それも試したというか、よく言われるんですけどピンと来なくて……私が強い人見ると腰引けちゃうタイプなんで精神的に強いと言われても安心出来ないって感じですかねー」

 

「ふむ。儂の見立てではむしろ死地にこそ腹を決めるたいぷに見えるがのう。身体の方も気が満ちておるようじゃ。顔つきや雰囲気はやや幼いが中々に良い身体をしていて──」

 

「エロジジイかな?」

 

「ほっほっほ、冗談じゃよ冗談。若い娘さんと湯を共にして生き返る心地なのは確かじゃがの」

 

「ま、褒められる分には良いけどねー」

 

 そう言ってちょけている白髪のお爺ちゃんを見て私は流す。一応身体は隠してるし、見られても別にいいかな。全裸でもそこまで気にしないけどね。

 それにしても不思議なお爺ちゃんだね。結構なお爺ちゃんなのによく見たら結構しっかりした身体してるし……私よりもそっちの方がある意味意外というか……。

 

「おお、そうじゃ。時に話は変わるが娘さん。お主は《奇蹟の霊木》を知っておるかね?」

 

「《奇蹟の霊木》? なにそれ知らない面白そう」

 

「ここよりも東の荒野に突如として生えてきた1本の小さな木の事じゃ。《神木》とも呼ばれておってな。数年前には何もなかった土地に突如として1本の木が新たに生えていたんじゃよ」

 

「へぇ~……そんなことあるんだね。龍脈が枯渇してるとかどうかって話じゃなかったっけ?」

 

「ほほう。よく知っておるの~? まあその通りじゃ。この地はいつしか龍脈が枯渇し、留めない砂漠化に悩まされておるのじゃが……それだけに、突如として現れた1本の木に皆驚きを隠せなんだ。たかが1本。されど1本。1本でも木が生えたのであればこの地の不毛化に何らかの解決策が見出だせるのではないかと西より優れた研究者がやって来てその木を研究しておるのじゃが……未だその木が生えてきた原因は()()()()()()()()()不可思議極まりない木。それが《奇蹟の霊木》といつしか名付けられるようになった」

 

「へぇ~……面白い話だね。なんかよく分からないけどまた緑でいっぱいになるといいね!」

 

「儂としてもそれを願っておるのじゃがの~。上手くいくかどうかは儂から見てもよく分からないというのが現状じゃな」

 

 へぇ~。そんなものもあるんだ。面白い。大陸東部の情報は私もそんなには持ってないからね。初めて知る情報に興味津々だ。結社に所属してるとこっちに詳しい人もいるから色んな話を聞けるけど、こうやって民間の人から聞く神秘の話も中々に味わい深い。地元のお爺ちゃんから聞くってのも良いよね! 

 

「じゃからその事も含めてこうして自らの足で調べておったのじゃが……そんな折に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。孫娘や弟子達も世話になっておるようだし、儂も相手をして見極めてみようと思ったんじゃ」

 

「弟子? 孫娘はともかく、弟子とかもいるの? なんの弟子?」

 

「なに、しがない棒振りの技じゃよ。《八葉一刀流》と言ってな。大陸西部じゃそれなりに知られておるのではないかね?」

 

「あー《八葉一刀流》ね。知ってる知ってる。私の知り合いにもいるし、教え子にも……………………え?

 

 ──は? え? なんて? 《八葉一刀流》の弟子? 

 

 ……………………い……いやいやいや。そんなばばばば馬鹿なこと……八葉一刀流の開祖ってあの《剣仙》でしょ? もはや伝説級の剣の達人でチート親父ことカシウス・ブライトや《風の剣聖》のアリオスやらリィンくんの師匠の……。

 

「…………えーっと……もしかして……ユン・カーファイさん? あの《剣仙》と呼ばれてる……」

 

「ほほう。やはり気づいておらなんだか。なるほどのう。中々に面白い在り方をしているようじゃな。《血染の裁縫師》アーヤ・サイードよ」

 

 え……あ、いや……ちょっと、風呂から上がるのやめない? なんか嫌な予感が……。

 

「その内に秘めた力も見極めるためにも──ここは1つ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう言ってお爺ちゃんは白鞘の刀を取り出してきた……「伍の型──“霞落とし”!」って、それどころか斬り掛かってきたー!? うわー!? 《ゾルフシャマール》ガードぉ! 

 

「うむ! これくらいの奇襲は防いでみせるか!」

 

「ちょ、ちょちょちょっと待ってー! こんなところでやったら迷惑が……!」

 

「なあに、その心配は無用じゃ。この宿は《斑鳩》と縁のある宿でな。予め了解は取っておる」

 

「あ、いや、そのう……」

 

「恥ずかしいなら着替えの時間くらいはくれてやってもよいがの~? 逃げるというなら儂の方も手段は選ばず追わせてもらおうと思うのじゃが……この手合わせ受けてくれるな?」

 

「あっ……………………はい…………」

 

 おどけたようで寒気がするような剣気を漂わせて問いかけをしてくるお爺ちゃんに私は返事をするしかなく、そうして私は内心で叫んだ──うわああああああああああん!! やっぱり《剣仙》ユン・カーファイだったー!! 《八葉一刀流》の開祖で《黒神一刀流》の伝承者でもある剣術の達人中の達人だー!? あのカシウスとかアリオスとかシズナちゃんとかリィンくんの師匠ー!! 見た目そんな知らないから分からなかったー!! ひいいい!! 怖いよー! 強いよー! 誰か助けてー! うわあああああああん!! 

 

 ──そうしてその後、温泉から上がって身支度をしてから改めてユン老師と戦うことになった私は久し振りに死ぬんじゃないかって思いをしながらもなんとかその場を切り抜けて逃げ切った……大陸東部怖い……やっぱりもう行かない……少なくともしばらくは行きたくない……ぐすん。

 




あけおめことよろってことで今年最初のアーヤちゃんはここまで。ユン老師との人外バトルは次回で。そして次回はまだまだアーヤちゃんの大陸漫遊が続きます。お楽しみに。

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