──そやつは儂から見ても完全には見通せぬ、不思議な娘じゃった。
その者のことはシズナから聞いておった。数年前にシズナと勝負をして引き分け、いずれまた戦うことを約束した友人だと。
斬っても斬れないその肉体自体が鋼のような娘であり、その上で修羅。これまでに多くの人を屠り、迷いのない者が纏う気をまるで霞が如く漂わせている。《理》に至り、目を養わなければ気付けない程にその娘の気配の消し方。殺しの腕前は中々に極まっておった。
しかしそれでいてその本質はどこまでも臆病に見えた。
「ひいっ!? こっち来るなー!!」
「ほっほ! なら逃げ延びてみせい! 止めさせてもらうがのう!」
それはこの死合いの中でも表れていた。
個人的に縁のある温泉宿から少し離れた起伏のある荒野にて改めてその者──アーヤと果たし合いを行った最初の感想は、怯えながらも躊躇はしない。
いや、怯えているからこそ躊躇をしない、と言うべきかのう。強者に対する畏れ。戦闘において致命傷を負いかねないという恐れを抱き、それから逃れ得るために刃を振るう。
謂わば護身のために行っているのにも関わらず、その殺しの腕は末恐ろしい程に高い。こちらの剣に防戦一方になっているように見えて、3回に1回はこちらの致命傷になりうるような鋭い一撃を放ってくる。
それはまさしくこの者が《修羅》に至っている証拠じゃろうて。《理》ではないものの、裏の者達が至る強者の証。このアーヤが繰り出す手の1つ1つにその色が見える。愚直なまでに幼き頃から鍛え上げてきたのだろう。裏の剣法。今は既に滅んだ《月光木馬團》やかの《鋼の聖女》の薫陶も授かっておると見た。
あのシズナが目を輝かせるのも無理はない。儂とて儂の剣がこの力を断ち切れるかどうか……試してみたくないと言えば嘘になってしまうからのう。
《八葉》の技は一通り放ってはみたが……どれ、次は《黒神》で試してみるとするか。
「凌げるかのう……!」
「え!? なになになに!? 怖い! 龍!?」
儂が八葉を築き上げる前に受け継いできた黒神の技を放つ。受けるのも躱すのも好きにするといい。下手をしたら死んでしまうかもしれんがのう。その時はその時じゃ。不確定要素を消してしまうのは少々惜しいが、どの道この程度で消えるようであれば不確定要素になることはないじゃろう。
「立ち昇れ……!! “
「うあああああああああん!!?」
逃げようと試みる娘に向かって黒い龍の剣気を放って妨害する。
しかしその情けない叫び声とは裏腹にアーヤは大して深手を負っておらず、それどころかすぐ様反撃に転じてきた。衝撃で舞い上がった砂塵の中から向こうの得物である巨大な鋏が2つに別れて飛来してくる。
1つ目を躱し、2つ目を弾いた。その得物は恐らくじゃが所謂《外》の物じゃろう。弾いたところですぐに向こうの手元へ戻る。
ゆえに砂塵が晴れる頃には相手は再びこちらから逃げ延びようと駆けていた。それも中々にすばしっこい。岩肌や崖などなんのその。身体能力が元より高いのだろう。それに加えて走り慣れている。
その様はまるで山伏のよう。一足飛びで岩肌を登って一気に駆けていくアーヤを追いかけ──しかし追撃ではなく防御行動を行う。
「おっと……!」
突如空中で急転換し、こちらに斬撃を見舞ってくる。その一撃を受け止め、その殺意の鋭さと巧さに感心した。
おそらくは糸を用いたのであろう。跳躍し、足場のない一瞬をこちらの隙と見たか。
「危ない危ない。対応を見誤れば首を落としていたところじゃわい!」
「うわーん! やっぱ気づかれた! 人外だ人外! 極東に帰れー!」
「なんの。儂の方も少しばかり乗ってきたところじゃ。まだまだ付き合ってもらうぞ!」
「嫌ですー! 帰れ帰れー! ってか私が帰るから!」
巧みにこちらの攻撃をいなして逃走を図り、隙と見れば鋭い一撃を一転して放ってくるアーヤとの戦闘が小気味よく、こちらもつい笑ってしまう。
成程。カシウスの奴が手傷を負うわけじゃな。初見でこの娘の奇襲から逃れるのは至難の業じゃろう。攻撃の1つ1つが必殺を狙うものであり、なおかつ気配を読み取らせず虚を突くことに長けておる。この娘の暗殺から逃れるのはよほど勘の良い者でなければ叶うまい。
あるいはこの娘が本当の本気であれば如何な達人であろうとも問答無用であの世へ誘うような手段があると見たが……さて、儂相手には使ってくるかのう?
「脱ぎたての下着くらいならあげるから帰ってー!」
「儂のことを何だと思っておるのじゃ?」
「妖怪変態混浴エロジジイ! エロ本でも喰らえー!」
なんとも心外なイメージを持たれてしまったようじゃが、まあそれもよかろう。何のために持ち歩いていたのか、艶やかな女人が表紙に載った書物を投げてきたのでそれを斬り落とす──のは忍びないので回収しておく。興味がないわけでは勿論ないからのう。そうやってわざと乗ってやればその受け取った一瞬を狙ってやはり攻撃を行ってきた。
「引っかかったね!」
「む……これは……」
そしてその攻撃は今までとは毛色の違うものじゃった。あの巨大な洋鋏のような得物での一撃を防いだそれと全く同じ時。周囲に砂塵が漂い始めたことで儂はその攻撃の正体を看破する。火薬の臭いなどは全くせぬが、それと同じであろうと。
「オジサン直伝! “ハザードダスト”!!」
斜め後ろに大きく跳躍しながらアーヤが指を鳴らすとその刹那、爆炎が巻き起こる。
儂はその爆炎を斬撃で一瞬だけ逸らすと背後に大きく3歩程跳躍して逃れた。爆発するまでは無害であるから気づくのに遅れたわい。これが吸い込んだ瞬間死に絶える猛毒とかであれば放たれる前に気づけたんじゃがのう。
「ふむ。そして此処までか」
「追いかけて来るなー! 来たらもう本当に容赦しないからね! ほ、ほんとだよ! 追いかけて来たら大変なことしちゃうからね! ハッタリじゃないから!」
既に50アージュほど離れたアーヤが遠くから大声で警告をしてきておる。その様子はどこか大したことのないように思えるが、儂の方は危機を感じて足を止めた。
おそらく──これ以上追い詰めれば向こうも本腰を入れてこちらを殺りに来るであろう。
それも手段は問わずに。儂の方もこんなこともあろうかと秘伝の薬を忍ばせて来ていたが、それがあってもなお半々でこちらもやられてしまう可能性が見えた。
謂わば運次第。あの娘を害しようと思うのならばそういったことも覚悟しなければならない。
故にそこで踏み込むことを止めた。言葉と刃を交えたことで見えてきたこともあるしのう。クローゼの言うように根は善良でどこか抜けておるが、アリオスの言うように一度刃を抜くとなれば容赦はしない気質も持っている。
そう安々と殺りには来ないとはいえ、相手の素性によって条件は変わってくる。
「そして儂はどうやら後者……いや、
儂の目……周囲からは《天元眼》などという大層な名で呼ばれておるそれが見通した可能性を思考する。
おそらく、儂のことを断片的に識っているが会うのは今回が最初であるということ。
大凡の可能性において、
あの娘がどこまで自覚しているか、識っているかは読めなかったが、その内に秘めた力がどのように作用するか。それによって今後の運命は変わるであろう。
「じゃがもし乗り越えれば……あるいは……」
儂は自然と小さな笑みを零す。
我が最後の弟子リィン・シュバルツァーと同じ。困難を乗り越えた先にある僅かな可能性を思えば、見届ける余地は十分にあるであろう。
「表の弟子も裏の弟子も世話になっておるようじゃし、今回は見送ろうかの」
あの娘が東部に芽吹かせたあの《奇蹟の霊木》……《白の神木》のこともある。
あるいは《回天》やその果てにおいても重要な役割を担うこともあり得る。それを思えば──取り除いてしまうのは手段を1つ消してしまうことになる。それは惜しい。
そして個人的にもいなくなるには惜しい存在だと思ってしまった。
「楽しみにしておるぞアーヤ・サイードよ。これより待ち受ける世界の
……とはいえ一応
儂ら以外の動きも気になるところじゃが、当分はどこも座視するしかないであろう。
一先ずは《鋼》がどのような結末を迎えるか。しばらくは儂も座して見守ることにしよう。
──アローハー! アーヤ・サイードです! 海と山なら圧倒的海派です!
そんなわけで七耀暦1205年のもう6月。ヴァリス市国に大陸東部と旅行に行って帰ってきました。めちゃくちゃ大変だった……いや、旅行と仕事自体は割と楽しく出来たんだけどね。まさか《剣仙》といきなりエンカウントするとは思わなかったし、めっちゃ強くて痛くて危なかった。あのまま続けてたら普通にやられてたかもしれない。逃げられて良かった……。
またしても大陸東部にトラウマを植え付けられたけど、引きずっててもしょうがないので私は次の目的地へ向かうことにした。次は家族旅行だ! 行き先は遥か南のモルジア諸島。共和国最南端のネメス島よりも更に南にある島々だね!
ってことでイクスとヨルダ。それにエースくんも連れて旅行へレッツゴー! いやー、モルジア諸島は行ったことがなかったからね。私はめちゃくちゃ楽しみだ。果物が美味しかったり、海賊伝説があったりする。海も相当綺麗で自然も豊富で観光地としても大人気!
なのでまたしばらくは遊び倒すつもりだ。一応現地で結社からの仕事をちょっとだけこなすけど、それは本当にちょっとなので殆どは遊べる。そう思って専用の導力飛空艇で現地に飛ぼうとして──
「アーヤ姉! また会ったね!」
「ほう。モルジアへ家族旅行、か。ちょうどいい。俺たちも向こうで仕事があってな。時間が合えば前に言っていた訓練を行うのはどうだ?」
──なんか赤毛の親子に見つかった。シャーリィちゃんとシグムントさんだった……しかもノリで一緒に行くことになった……オルランド家と一緒に家族旅行とか怖いんだけど……。何が起こるか分からないけど絶対物騒なことになりそうだし……。
でもまあ実のところシャーリィちゃんもシグムントさんも戦いが大好きってだけで普段は割とまともだから一緒に旅行する分には危険なことは何もないだろう。むしろ頼もしいまである。敵なら怖いけど、味方だからね。シャーリィちゃんはなんだかんだで可愛い後輩になってきてるし、シグムントさんは友達のお父さんみたいな感じで普通に接することが出来る。
「へぇ……? 結構やりそうじゃん。子どもなのに3人とも普通じゃなさそうだね?」
「ああ。大方、アーヤに育てられた暗殺者か結社の執行者候補と言ったところか?」
「なんなんだよこのムキムキのオッサン……」
「お姉さんの方もかなりヤバそうだね……本当に一緒に行動するつもり?」
「戦力ではこちらが不利だろう。どうするつもりだ?」
「そんなに怯えないでも大丈夫大丈夫! 仲良くする分には危なくないから! 多分!」
それにウチの子どもたち3人も警戒してるとはいえ、割と相性は良さそうかも。3人とも若干捻くれてるしコミュニケーション能力に難があるけど、オルランド家の人たちはそんなの意に介さないというか、猟兵としての価値観があるから普通に接するし、なんなら割と好意的だ。これも良い機会かもしれないね。旅は道連れってことで旅行を通じて色んな人と仲良くしてみよう! 船でも借りて釣りとかダイビングとか色々と──
「そこの船止まれ!」
「止まらねぇと沈めるぞ!」
──と思うじゃん? なんか海賊に襲われた。
しかもガチ海賊だ。帆船に海賊旗掲げてサーベルとフリントロックピストルを持って乗り込んでくるタイプじゃなくて導力式のモーターボートと完全武装で乗り込んでくる猟兵団的な海賊。乗り込んでくるところだけ同じな海賊と運悪く遭遇した。うわぁ……怖い……
「パパー。もう殺っちゃっていい?」
「少し待て。まずはこいつらの頭の居所を吐かせるぞ。運が良いことにどうやらこいつらが標的の団のようだ」
「りょうかーい。それじゃアーヤ姉、一緒に拷問しない?」
「ハッハー! おらどうしたよおっさん共! ボク全然本気出してないんだけど?」
「せっかくのバカンスなのに弱い上にウザい……全員影で深海に引きずりこんでやろうかな」
「落ち着け。無用に殺しをすることはない。こっちの海上警察にでも突き出せばいいだろう」
……ってことで数分後には海賊は全員海の藻屑になっちゃいましたとさ。ちゃんちゃん。知ってた速報。そりゃオルランド家に子供とはいえ庭園のエリート暗殺者3人がいたらそりゃこうなるよね……ちなみに私はずっとリクライニングチェアで寝転がって日向ぼっこしてた。いや、どうせこうなるんだから動かなくていいかなって……私が何も言わなくても勝手に海賊団は殲滅されるだろうし、シグムントさんやエースくんが比較的理性的なストッパーとして機能してるからそこまで酷いことにもならなそうだしね。
なので私はこの後どうやって遊ぶかを考えた。とりあえずこっちで噂になってる幻の大魚を釣りたい。割と沖合にいるらしいけど気をつけないと。こっちに来る前にオジサンが言ってた。『外海には行き過ぎるんじゃねぇぞ。お前の場合、
そういうわけなので私はこのまま普通にバカンスを楽しみ──「よし、ではこのまま海賊共の根城に乗り込むぞ。アーヤ、そっちも構わないな?」──あ、うん。別にいいよ。…………え? 海賊の根城に乗り込むの? 私も一緒に? え、嫌なんだけど……うんって言っちゃった……。
そうしてシャーリィちゃんがひゃっほーって感じでクルーズを操縦して針路を海賊たちのアジトに変更しちゃったのを私は見る。……ま、いっか! なんかバカンス中だからか私もテンション上がってきた! こっちの方が戦力は多いし、初めて来る土地で海賊と戦うとは本当に冒険してみてるみたいで面白いし! まるでイースⅩみたいだぜ! いえーい!
「──うわーん! 助けて──ゴボゴボゴボ……!」
「魔獣に海中に引きずり込まれやがったぞ!?」
「ちょっと……何やってんの!?」
「あはは! アーヤ姉面白すぎでしょ!」
「ふむ。タコ型の巨大魔獣か……どうやらこの辺りの海域の主のようだな。クク、面白い……!!」
「とりあえず助けるしかないか……」
──そうしてはしゃいでいた私は海賊のアジトに辿り着く道中で現れたでっかいタコみたいな魔獣に襲われて海中に引きずり込まれた挙げ句、紆余曲折あって溺れかけながらも海賊たちのアジトに流れ着いてそこの海賊たちを倒したが、どうやらさっき襲ってきた団とは違って近くにある村の食料のために仕方なく海賊をやってるというなんか規模は違うけど北の猟兵みたいな理由で海賊をやってる人達と遭遇し、彼らと敵対する海賊団が幾つかあってそいつらが海賊伝説で噂される伝説の海賊の秘宝を求めて争ってるみたいな話を聞いたので私はノリでちょっとだけ協力してその海賊団を倒した。ワン○ースか何かかな? まあなんでもいいや。面舵いっぱーい! 目指せラフ○ル! 邪魔する奴は全部倒すぜ! 余裕だぜ! 次行くぞー! おらー! 私と勝負しろー!
「やっと合流出来たか。随分と暴れていたようだが、おかげで標的を始末することが出来た。このままお礼を兼ねて約束していた死合いを行うとしよう──
──あっ、シグムントさんいたのね……い、いや、今のは勘違いでシグムントさん相手に勝負しろって言ったわけじゃ……ぎゃー!!? まだ良いって言ってない!! なのに斧投げて来ないでー!! ゴリラすぎるー! 嫌ー!? シャーリィちゃんも混ざらないでー!! うわああああああん!!
そうして私は海賊団を倒し、同じく海賊を倒し終えていたシグムントさんたちと合流してから流れでオルランド家のブートキャンプに参加することになった……当然だけどシグムントさんは馬鹿みたいに強いしシャーリィちゃんも強くてヤバかった……。イクスとヨルダとエースくんは遠くで海賊から奪った物資を物色したりエースくんがご飯を作ったりして普通に楽しそうだった。まあ3人が楽しんでくれてるならよし。私はオルランド家と戦闘尽くしだったけどね! こんちくしょー! でも戦闘以外は割と楽しい旅行だったから複雑な気分ー! ……今度は1人で来よっと。たこ焼きうまうま。
…………と、そんな感じで良い休暇を楽しんだ! ヴァリス市国も大陸東部もモルジア諸島もなんだかんだで楽しかったね! 良いリフレッシュになった! デザインもめちゃくちゃ浮かんだし、表の仕事が捗る! 執行者としてもなんだかんだで仕事こなしまくってお金も沢山貯まったし、無敵感を感じる! 全然無敵じゃないけどね!
ただこの後はちょっと不安なのが、オズボーン宰相との商談があるんだよねぇ……しかもその前に《破戒》のオジサンからも呼び出しを受けてるし、何をやらされることになるのか不安でしかない。
まあその前にもう何個か楽しい仕事もあるけどね! 例えばこれ! 映画の衣装担当としてのお仕事! スケジュールが空いてたし、楽しそうだったから受けた!
「やっほー! ジュディスちゃん久し振りー!」
「うげっ……あ、アーヤ……アンタ、まさかまた……」
「うん、衣装製作担当だよ! 今回も可愛くてエロティックな衣装仕立ててあげるからよろしくね! ──あ、ゴッチ監督おはようございまーす!」
「おお! おはようアーヤ君! 相変わらず明るくて元気そうで何よりじゃ!」
「監督も元気そうですね! それで早速なんですけど今回はこういう衣装はどうですか?」
「む、さすがはアーヤ君。仕事が早いのう! では早速拝見させてもらうぞ。どれどれ……むむっ……」
「かなり良いデザインですよね!?」
「──素晴らしいっ!! ワハハ! さすがアーヤ君じゃ! ワシの頭の中でイメージしていたデザインを遥かに上回ってくるとは! 今をときめくカリスマファッションデザイナーの名に偽りなしじゃ!!」
「いやーそれほどでもありますけどねー!」
「うむ、本当に素晴らしいデザインじゃ。……じゃがこの衣装は終盤で破いてしまうことになるのじゃが……毎度のことじゃがこれだけの力作を破いてしまってよいのかね?」
「何を言ってるんですかゴッチ監督! 確かに私はファッションデザイナー! 人間に必要不可欠な衣服を創造して愛する人! ですが……人は生まれたままの姿があるからこそ服が映えるんです!」
「!」
「ゴッチ監督ならお分かりの筈。“服を着る”と同じくらい“服を脱ぐ”というのはファッションにおいて重要なんです! そして人が服を着てる以上は汚れたり破れたりすることも自然なこと! そこにだって確かな芸術性が、お洒落があるんですよ! ダメージジーンズが若者の間で流行り出すように!」
「あ、アーヤ君……!」
「そして私は今回の衣装にもちゃんと仕込みを入れてます! どれだけの激しいアクションをしても普通にしていれば破れることも脱げることもありませんが、この一点にだけ力を加えれば綺麗に艶やかに破けるようになってますから! 私の計算だとそれが1番エッチで芸術性も高くなるはず!」
「す…………素晴らしいっ!! アーヤ君! 君という人は……デザイナーとしてどこまでの高みにおるんじゃあっ!? ここまでの芸術観を持ち合わせているとは……!」
「ふふ、私はどんな衣装も妥協しませんよ。どんなエロ衣装も汚れたり破れたりする予定の衣装も勿論シンプルに格好いい美しい衣装も私に任せてください。全部完璧に仕立てますので! 代わりに私の衣装を最大限に活かせる映画を頼みますよ!」
「アーヤ君!」
「ジュディスちゃん!」
「なんでそこであたし!? 2人で勝手にやってなさいよ!」
「いやだって抱きつくならゴッチ監督よりもジュディスちゃんの方がいいし」
「わっはっは! そりゃあそうじゃ!」
「あっはっは! そうですよねー!」
「……はぁ……過去一でしんどい現場になりそうね……」
ということで今回私に仕事を依頼してきてくれたのはあの売れっ子映画監督! サルバトーレ・ゴッチ監督! 大衆映画を撮らせたら右に出るものはいない! 多分!
ちなみに一緒に仕事をするのはこれで2度目だ。最近まで忙しかったし、映画の衣装製作の仕事はちょいちょい受けるんだけど他の配給会社や監督の作品も受けたりするしね。
そして映画女優として同じく売れっ子のジュディスちゃんとも久し振りに一緒の現場だし、今回も楽しくなりそうだ。
「──随分と盛り上がってるようだねぇ」
「うっ……お祖母ちゃん」
「え?」
「おお、そうじゃ。アーヤ君にも紹介しておかねばな! アーヤ君、こちらは今回の映画で演出に協力してくれるドミニクさんじゃ」
「ドミニク・ランスターだ。あんたの噂は、色々と耳にしているよ」
うわっ、びっくりした。なんか突然貫禄のある女の人の声がしたと思ったらジュディスちゃんと同じ髪色のお婆ちゃんがやって来た。知ってる人だ! しかもそんなに怖くないタイプの!
元シャンソン歌手で初代グリムキャッツ。つまりジュディスちゃんの実の祖母のドミニク・ランスター! こっちも確かエンタメ業界だとたまに裏方を引き受けるすごい人! 私もたまに話には聞いてたんだよね!
因みに二代目、ジュディスちゃんのお母さんの話も聞いたことがある。レティ姉さんから。昔っからの知り合いだったみたいだね。
そして向こうも当たり前だけどなんか私のことは裏のことも知ってるっぽい。それはちょっと困るけど……まあ普通にしてればいっかな。今日は裏も何も関係ない楽しい表の仕事だし! 楽しまなきゃ損損! 子々孫々!
「初めまして! アーヤ・サイードです! ファッションデザイナーをしてます! よろしくお願いしまーす!」
「気持ちの良い挨拶だね。衣装だけじゃなく礼儀もしっかりしてるようだ」
「それほどでもあります! 早速私のデザイン見ます? それとも衣装の方を直接見ます? エキストラ用の衣装なら何着かありますよ!」
「ほう……なら一着見せてくれるかい?」
「勿論! はいどうぞ!」
業界の目上の方で初対面だし、笑顔で明るくはいよろこんで。しっかりと挨拶をして自己紹介代わりに私の仕立てた衣装を手渡す。
……と、渡してみたけど、失礼ながらこの人どこまで分かるんだろう? 服飾に関しても精通してるのかな……あ、裏地見てる。しかも細かい縫い目の部分を検分してるじゃん。デザインだけじゃなくてそういうところも見てるのは少なくとも良い衣装の見分けくらいはつくみたいだ。
まあ私に抜かりはないけどね! これは本当に!
「…………驚いたね」
「お祖母ちゃん?」
「デザインだけじゃない。それだけでもかなり優れた物であるのは確かだが、これはエキストラ用。目立ち過ぎないようデザイン性は抑えられている。だから見るべきはこの縫製の方だね。手縫いなのにミリリジュ単位で正確に縫われている上、ただ正確ってだけでもない。動きの激しくなりそうな部分は手厚く。そうでない部分にはゆとりを持たせて。そういった基本だけじゃなく、アタシでも理解できない工夫も用いて最大限に着心地が良くなるように一針一針丁寧に縫われている。当然、型紙の段階から着る人に合わせて仕立てているだろうが……ここまで着る人のことを考えて仕立てられた服をアタシは見たことがない」
「おお……! やはりドミニクさんもそう思いますか!」
「そ、そこまでなの……? (確かに着心地は良いけど……)」
「ジュディス。アンタも少しはこの子を見習うんだね。この子が直接仕立てた服を見て理解したよ。この子は、いや、アーヤはアンタの何倍もプロの仕事をしてる」
「なっ……!?」
「フン。アンタは細かいところがなってないからねェ。この分だと主役のアンタの衣装はとてつもなく完成度の高い逸品になるだろうし、その仕立てられた衣装に少しでも釣り合うように久し振りに特訓でもしてやろうかねェ」
「ええっ!? そ、それはちょっと……や、やめてほしいかなー……なんて……」
「遠慮してんじゃないよ。ほら、ちょっとこっち来な」
「あ、ドミニクさん! 良ければ名刺をどうぞ! 予約はかなり埋まってますけど初回は特別サービスで割引かつ優先的に引き受けますよ!」
「! ……ああ、考えておくよ(アタシの背後に一瞬で……なるほど。こっちの腕も噂通り達人……プロ級ってことかい。これはジュディスには荷が重い相手だねェ)」
「ちょっとお祖母ちゃん引っ張らないで! あ、アーヤ! アンタからも何か──」
「わかった! 他ならぬジュディスちゃんの頼みだもんね! ──奴はとんでもないものを盗んでいきました」
「えっ?」
「
「は…………はぁっ!?」
「アヤチャンザサ~ド♪ テテテッテッテテッ♪ テン♪」
「!? 何やってんだいジュディス! 盗られたよ! 早く取り返してきな!」
「!? なっ……何すんのよ~~~~~!!? 返しなさ~~~~い!」
──私はジュディスちゃんの懐から抜き取った変身コンパクトを手に駆け出す。ふふ、甘いねジュディスちゃん! 私は服飾のプロ! 従って服の僅かな膨らみや皺でどこに何が入ってるくらいは分かるんだよ! 怪盗アヤン3世はね!
……まあ本気で盗るつもりもなければ逃げる範囲もそのスタジオの範囲内を適当に逃げ回るだけなんだけどね。とりあえずジュディスちゃんが訓練を免れたい? みたいだったからもっと大事な用事を作ってみた。ふふん。まあジュディスちゃんと久し振りにじゃれたくなっただけとも言う。とりあえず変身なしで全力で追いかけてくるジュディスちゃんを30分くらいいなしてからちゃんと返した。めちゃくちゃ息切れしてたし汗もかいてたけど良い感じにエッチだね! それを見てゴッチ監督もまた何か閃いたみたいだし、ドミニク・ランスターという大御所とも繋がりが出来たからヨシ! 衣装もべた褒めされてその後の衣装製作も完璧にこなしたし、その他のサイドビジネスも成功してて表の仕事は言う事なしだ!
うーん、やっぱり久し振りの地元は楽しい。いや地元ではないんだけどね。地元はとっくに滅んでるし。でも共和国はやっぱり私のホームだし知り合いも多いから楽しく過ごせる。帝国みたいに呪いもないしね!
さーて、リフレッシュも終わったし前向きに行こう。とりあえず《破戒》のオジサンと会ってから次に帝国に行って鉄血のおじさんと会うというパパ活女子もびっくりなスケジュールで行くぜ! 大したことのない用事だと良いなぁ。
「《北の猟兵》の上層部と結社が繋がってることは知ってるだろ? 近頃大きな動きがありそうなんでなぁ。お前も旅行に行きたがってたことだし、オジサンもちょいと見物に行くつもりだから最後にオジサンと家族旅行と洒落込もうぜ? 行き先は勿論──ノーザンブリアだ」
…………あーうん。知ってた。やっぱり碌な用事じゃなかったね。
何が家族旅行なのと言いたい気持ちを我慢せずに口にしながらも私はそれを了承する。まあノーザンブリアには用事がないこともないし、オジサンも本当に何もするつもりがなくて観光に行くだけだって言ってたからね。オジサンはそういう嘘はつかないから今のところは本当に何もするつもりもないんだろう。
ただそれはそれとして何か目的があって行くんだろうし、そこはちょっと怖いけどついて行くだけでモルジア諸島の別荘を報酬をくれるって言うし……べ、別に報酬に釣られたわけじゃないんだからね!
まあ物騒な仕事がある可能性は0じゃないけどそれはしょうがない。ある程度は覚悟しておくとしよう。それじゃ冬服の用意をしつつ今度は帝都で《鉄血》オジサンの用事を聞いて行くぞー! おー!
「──アーヤ・サイード
──あ、はい、よろこんでー。なんかいつの間にか中尉に昇進してるけどー。しかも軍属じゃん。断れないじゃん私。商談は? …………それはまた別の話? ノーザンブリア併合が終わったら改めて話す? ジュライ特区や併合した後のノーザンブリアでサイードショップの支店を開くに当たっての優遇措置もくれるの? 割と良い報酬はくれるのね……あっはい。分かりました。
……ふぅ……ってことで私は《北の猟兵》に結社の人間として与しながらもエレボニア帝国軍の軍人としてノーザンブリア自治州併合のために内偵調査を行うことになりました。ま、余裕余裕。これくらい、慣れるわけないっ!! また蝙蝠ムーブだ!! うわああああああああん!! しかもノーザンブリア行くってノーザンウォーだっけ?
今回はここまで。日常回でした。ちなみにアーヤちゃんの強さは執行者の中だとマクバーンシメオンレーヴェよりは下でレティ姉さんと互角かちょっぴり下くらいです。剣じゃない棒術カシウスと同じくらいかも。だから《理》上位勢相手だと不利ではある。つーか(強さ的には)これが限界かもしれない。
次回からはNW。まあいうて2、3話くらいだけどノーザンブリアに行きます。お楽しみに。1月11日の18時に投稿予定です。
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