──俺はその日、CIDのデータベースにあるアーヤ・サイードについての情報を更新しまとめていた。
アーヤ・サイード。ゼムリア大陸中東部辺境出身。七耀暦1184年。1月2日生まれ。
父ファジュル・サイード。母ラーニヤ・サイードの間に生まれた10人目の子供として生を受ける。なお三親等以内の血縁者は生存を確認出来ておらず七耀暦1198年までに全員死亡していると思われる。それ以外の血縁者についても確認出来ていない。
国籍はヴァリス市国に登録されているが、これは不正に登録されたものである。入手経路については不明。カルバード共和国の市民権も持つが、こちらは正規の手続きによって入手している。
詳しい経緯は不明だが、本人曰く5歳の時に武装商人経由で《D∴G教団》に売られ、それから約3年半の間、教団のロッジにて売春と実験に使われ続けたとされる。(なお仲介を行った武装商人やその関係者は既に死亡しており、事実確認は出来ていない)
そしてある日、教団から脱走したところを後に結社《身喰らう蛇》の第四柱となる《千の破戒者》に拾われ、《月光木馬團》へ入団。暗殺者として育てられるも《月光木馬團》が結社との抗争に破れるとそのまま《破戒》や《黄金蝶》、《告死戦域》といった人物らと共に結社へ合流したとのこと。七耀暦1195年には執行者No.ⅩⅢ《血染の裁縫師》として活動していたことが確認されている。(最初に存在が確認された《北の猟兵襲撃事件》については別途ファイルを参照)
それから大陸各地で数え切れないほどの暗殺を行ったとされるが、証拠が存在しないため正確な数や真偽は不明。一説によると大陸各地で潜伏していた《D∴G教団》の関係者を狙ったものであるとされ、共和国政府や軍、警察の上層部も不審死している。《切り裂き魔》の存在が噂されるようになったのはこの頃であり、以降裏の世界では《銀》と並ぶ伝説の暗殺者として認識されている。
七耀暦1200年。アラミス高等学校に入学し、入学当初から奇行を繰り返し、後に《アラミスの狂人》の異名を付けられる。学校の成績は中の下だが、高い運動能力を持っていた他、非凡な服飾の才能を持ち、1年生の時には自身のファッションブランド《SAID》を立ち上げている。
3年生の時にはリベール王国のジェニス王立学院に留学。なおこの時にはサイード社を立ち上げ、共和国有数のオートクチュールブランドとしてイーディスファッションウィークにも参加。以降は更に名声と評価を高め、大陸各地に支店を増やしていくことになる。
また《リベールの異変》にも結社の執行者として関与していたことが確認されており、長らく正体不明だった《血染の裁縫師》の正体がアーヤ・サイードであることもこの時に判明したが、サイード社の共和国経済との結びつきが強く、ノーザンブリアや大陸中東部における支援活動も滞ることが予想されたこと。
また彼女の事情を鑑みて情状酌量の余地があること。加えてその能力や影響力を考えて高度な政治的判断によって摘発を取り止められることになり、以降はサイード社を含めてCIDの監視対象として置かれることになる。
七耀暦1203年。当時の秘匿職員がラングポートにおいて初めてアーヤ・サイードの捕捉に成功するが、すぐに見失う。
《黒月》と《赤い星座》の抗争に何らかの理由で介入していたとされ、《黒月》側の情報提供によれば《黒月》側が差し向けた
このことからアーヤ・サイードの戦力は達人級。こと暗殺、潜伏、工作能力は《黒月》の凶手すら大きく上回るとされ、脅威度SSSに格上げ。戦闘の際は《ゾルフシャマール》と呼ばれる身の丈程もある鋏のような剣を用いる他、糸や針といった暗器も使用する。また未確認だが毒も使うという情報もある。
また頭脳面は阿呆で最底辺かつ本人の性格は能天気な狂人といったところで並とされており、本人の性格は善良。裏の事情が絡まなければ無害だが、表裏問わず仕事を精力的に行うため注意が必要。
そして七耀暦1204年。エレボニア帝国軍情報局の特務少尉としてトールズ士官学院の教官として赴任し始めたことを確認。帝国政府へ問い合わせるも「貴国のアーヤ・サイードなる人物と我が国の情報局に所属するアーヤ・サイード特務少尉は何の関係もない」という回答がエレボニア帝国に戸籍を持つアーヤ・サイードの戸籍情報と一緒に送られてきた。
その書類によれば、どうやらアーヤ・サイード特務少尉はエレボニア帝国ラマール州ラクウェル出身の平民ということになっていた。
明らかに偽造。帝国政府によって作られた経歴であることは明らかであり、あまりにも馬鹿げた回答ではあったものの、アーヤ・サイードの素性を追求するとなれば共和国側がアーヤ・サイードという人物の素性を把握しながらも放置しているという事実を掘り下げてしまうことになる。犯罪者を匿っていることを明らかにされて困るのは共和国も同じ。そのため高度な政治的判断によって追求を諦めざるを得なかった。
いっそのこと共和国政府も理由を付けてアーヤ・サイードを召喚し、CIDの職員として密かに雇う計画も持ち上がったが、やはりリスクが大きいとその計画はすぐに破却された。
逆に考えれば帝国政府はリスクを受け入れてなおアーヤ・サイードを帝国側に引き入れたい何らかの理由があると思われるが……帝国政府及び《鉄血宰相》ギリアス・オズボーンの狙いについては現在も調査中である。
またクロスベル独立国騒動。帝国の内戦においても幾つもの動きを見せていたようだが、そちらについても未だ調査中であり、詳細が分かり次第記載することとする。
そして今年の始め頃。アーヤ・サイードは共和国に帰国し、反移民派テロリストの捕縛、及び民間人の保護に尽力しているが、その方法がエレインに化けたりテロリストをダース単位でCID本部の俺のデスクに段ボール詰めにして積み上げたり、あまりにもふざけた方法であったために俺は即座にエレインと合流して駅前で呑気にコーヒーを飲んでいた馬鹿に同行を求めて事情を聞き出し、そして半強制的にテロリストの捕縛に協力させることにした。こんな馬鹿だが役に立つことには違いないからな。
それにしても……今思い出しても腹立たしい。アーヤがCID本部に侵入したせいで俺は他の職員と共に警備体制の見直しから大量のテロリストとされる者達の処遇に追われてしばらく寝られなかった。
おまけに奴にそのことを問い質せば「え? 段ボールにテロリストを詰め込んだまま忍び込んだのかって? あはは、そんなわけないじゃん。まず段ボールだけCIDの天井裏に忍ばせといてテロリストを連れてからその場で組み立てて箱詰めにして積み上げたんだよ。謂わばアーヤちゃんの一夜城だね!」とかふざけたことを言って笑っていた。何がアーヤちゃんの一夜城だ。逮捕するぞ。この大馬鹿者め。
……だがやはりこの隠形能力は脅威と言う他ない。今までどれだけ警察が捜査しても見つからなかった理由がわかる。
そしてこのアーヤが完全に裏に潜ってしまえば捕捉することは困難を極めるだろう。それを思えば、やはり表に繋ぎ止めるにも現状を維持することが最善だ。
アーヤの表の仕事であるファッションデザイナー業やサイード社の動きはアーヤの動きを掴む有用な情報源だ。オートクチュールの職人として現在も富裕層を中心に依頼が殺到しているし、既製品を取り扱っている店舗でも若者の流行の最先端を行っている。俺も何度か店舗を訪れたが……まあ奴の腕前は学生時代から分かりきっていたため、品質もセンスも何も問題はない。サイード社の製品は私服として何着も持っている。
それと妙に活動的なところも変わっていないことが会社の動きを見ているだけで分かる。普通のブランドショップだけでなく、服を見ながらお茶を楽しめるアパレルカフェを開いたり、最近は学生時代の友人と協力して導力ゲームを開発したり、飲食店を開いたりしていたりする。東方料理屋《ジパング》や中東料理屋《シャローム》が有名だな。俺も何度か行ったことがあるが、やはりあいつの出す店なだけあって悪くない味だった。
そして現在は共和国を中心に表の仕事に勤しんでいることが確認出来ているが、それ以外の活動についてはやはり捕捉出来ず。裏の仕事もまた精力的に行っていると思われる。
またアーヤ・サイードと同居している子供が3人ほど確認出来たが、彼らについても情報は少なく、推測だが結社の構成員か傘下の組織に属していると思われる。かつての同居人が執行者であったことを鑑みると彼らは執行者候補として育てられている可能性も考えられるが、いずれにしても詳細は不明。
……と、こんなところか。途中から個人的なものも混じってしまっていたが、それらを添削しつつ情報を更新する。
それこそあいつの好きなものとかそういう情報も一応記載しておいたが、なんというべきか……やはりカオスと言わざるを得ない。
もっとも過去に関してはそんな言葉で片付けられない悲惨なものではあるが。正直なところ、初めて知った時は相応にショックは受けたものだ。あの能天気でお気楽後輩があんな過去や執行者という立場を隠し持っていたとはな。やはり人というのは何を抱え込んでいるか、親しく接していても実際には分からないものだ。
だが俺よりもエレインやヴァンの方がショックは大きいだろうな。どちらもあのことがあってからあまり話せてはいないが、それでも気にしないというのは無理があるだろう。
しかしアーヤの方はそんなことは気にせずに普通に友人として接しようとしてくるのだから対応に困るだろう。見た目も高校時代から殆ど変わっていないため余計に当時の思い出を想起させる。そして結局はあいつのノリに流されてまんまと気軽に接してしまうのだ。
そしてそれは俺も同じ、か。ふぅ……正直なところ距離を置きたかったが、業務上ある程度繋がりを保っておく方が有用ではある。
まあ未だに先輩として普通に接してくるあいつのことは別に好きでもないが、嫌いでもない。ゆえに業務上厄介な相手ではあるが、精々元先輩として便宜を図りつつ利用することにしよう。
──さて考えもまとまったし、仕事もこれで終わりだ。時刻は20時頃。少し遅いが、この後は付き合っている彼女と待ち合わせして食事を取ることになっているし、早めに待ち合わせ場所へ向かうとしよう。
場所は俺のお気に入りのジャズバーだ。食事もかなり美味く、ムードもあってデートには最適。今の彼女は音楽も好きなのでしばらく仕事が忙しくて会えていなかった彼女の機嫌を取るためにも最初はこの店で音楽とアルコールを楽しみ、それからプレゼントを渡す。デートにおいても手を抜かない。完璧とは言わないが相応に自信のあるプランで臨んだ。
そしていざ彼女と合流し、軽く食事を取ってからムーディな曲を楽しむ。──因みに予めマスターに頼んで今日は雰囲気の良い曲を演奏してもらうように頼んでおいた。
そう、頼んでおいたのだが──
「……ん? なんだこの軽快な音楽は……?」
「そういえば今日は特別ステージがあるらしいわよ」
「そうだったのか。……まあたまにはこういうのも──」
「──イエ────イ!! 皆今日は来てくれてありがとー! 飛び入りで歌って踊ります! アーヤ・サイードです! アヤチャンサンバ行くよー! オ・レ!」
──ステージに現れた複数のダンサーと馬鹿1人の顔と名前を見聞きして俺は思わず真顔になった。
…………はっ……俺としたことが。一瞬本気でホルスターから銃を取り出して眉間を撃ち抜いてやろうか迷ったが、なんとかその軽挙な行動を耐える。そうして軽快な音楽とノリの良いダンスとあいつの明るいポップな歌が始まり──くっ……なんでこんなところにあいつがいる……!? 偶然だとしたら不運にも程がある……!!
いやだが落ち着け。ここはさっさと店を出ればいいだけだ。今はまだちょっとしたアクシデントが起きたに過ぎない。彼女を連れて店を移そう。アーヤに気づかれる前に……。
「な、なんかすごいわね……というかアーヤ・サイードってどこかで聞いたことあるような……」
「気の所為だろう。それよりもだ。そろそろ二軒目に行かないか? 実は最近お気に入りのお店が──」
「──あっ、ルネっち先輩じゃん! やっほーやっほー! こんなところで奇遇だね! こんなすごい偶然、これはもう一緒に踊るしかないね! はいステージに上がって上がって! オ・レ!」
──最悪だ。気づかれた。しかもとてとてとこっちに妙なステップで近づいてくる。あのニヤニヤ煽り顔が苛立ちを感じさせるが、今は苛立ってる場合じゃない。即座に逃げ……何っ!? 回り込まれた!? 腕を掴まれ……くっ、逃げられない!!
「やめろこの阿呆! お前の妙ちきりんなミュージカルに
「え? オ・レ? ──アヤチャンサンバ~♪」
「言葉の揚げ足を取るな! こっちには連れもいる! だから今日は──」
「あ! もしかしてアーヤ・サイードってファッションデザイナーのアーヤ・サイードさんですか!?」
「そうだよ~♪ もしかして私のファン? そのシャツ良い感じだね! オ・レ!」
「あ、ありがとうございます! その、良ければサインを……!」
「いいよ! それじゃ一緒に踊ろっか!」
「はい! ほら、ルネも踊って!」
「………………………………ああ……」
──最悪だ。彼女がアーヤの熱狂的なファンだった。店から出るどころか一緒になって踊ることになってしまった。──というか店の他の客も地味に盛り上がって踊っているが、お前たちはジャズ好きじゃないのか? 何を流されている。ちょっと軽快な音楽が流れたくらいで矜持を捨てるな。こういう店じゃないだろうここは。
「なんということだ……」
「──そう。彼はこの時、サンバの素晴らしさに気づきました。これからの人生は細かいことに悩まず……そう、サンバのように面白く愉快に生きようと。そんな彼のサンビスタとしての新たな夜明けを祝う曲です。聞いてください──『もう恋なんてしない』」
「勝手に俺の心情を捏造するな!! ……それとよく知らんが、絶対そんな曲ではないだろう!?」
「初めて聞くけど良い曲ね……!」
「…………ああ、そうだな……」
……それからしばらく、俺はアーヤの飛び入りライブに夜明けまで付き合わされことになった。彼女がアーヤのファンだったので付き合わざるを得なかった。曲も良いのばかりで歌も踊りも上手かったのが逆に苛ついた。
とりあえず、彼女とは折の良いタイミングで別れることも視野に入れよう。こんなことが続くようならとてもじゃないが付き合ってはいけないからな……それとこういう役回りはヴァン、お前の役だろう。なのでアーヤにはヴァンが音楽好きで一緒に演奏したがっていたという情報を与えて遠ざけることにした。もしくは表の仕事でも裏の仕事でもいいから早く共和国から離れてくれ。おちおちデートにも行けないからな……。
──ズドラーストヴィチェ! アーヤ・サイードです! 最近またイメチェンして髪型をウルフカットにしました! 他は短いけど襟足だけが長いナチュラル感のある髪型だね! くせ毛が可愛いと思ってね! 全体の髪色は地毛の明るい銀色のままだけど襟足のインナカラーはパステルピンクで毛先に近づくほど色を濃くした赤っぽいピンクになるグラデーション。ついでに前髪に同じ色のメッシュも入れつつ、ピアスや髪飾りでも色を拾うとめちゃくちゃ可愛いね! ついでに最近入ってきた執行者の新人の子に相談されてデザインした《身喰らう蛇》をイメージしたハートマーク。それをタトゥー用に更にアレンジしてデフォルメ蛇っぽいハートのタトゥーシールを作ってみたのでそれを太腿に貼り付けたり、服のデザインに流用してみれば統一感も出て更に良い感じ! ネクタイとかにデザインすると可愛いね!
ってことで服も私が割とよく着る黒と濃いピンクのコート(昔アリオスに斬られたやつ。ちなみに裏地はワインレッドにして)をセルフリメイクして新しく仕立てて着て(ちゃんとインナーが見えるように前は止めずにね。こうすることでインナーだけじゃなくコートの裏地も自然と見えておしゃれ!)、インナーは丈の短くてお腹が丸見えな白いシャツに黒色でピンクのウロボロスハートが目印のネクタイ。更に下は今回はショートパンツにした。素材はレザーに似た特殊素材で統一感を出すために同じく黒色でね。そして右足は網ストッキング! 左足はあえて膝上までのニーハイソックスタイツ! 見えている私の褐色の左太腿にはさっきのタトゥーシールをぺたり! この左右非対称で違いを出すのが可愛い! 更に足元はまた別に白のルーズソックスを履いて靴は濃いピンク色の靴紐が可愛いスニーカーブーツだね! 全体のコーディネートとしては統一感を出すために大体3色程度にまとめてみた! ちなみにコートの下に着てるインナーのシャツも地味に左右非対称で右手側には白いシャツの布地があるけど左手側ははなくて肩が丸出しになっている。代わりに二の腕までをカバーする指先を出したレザーに似た特殊素材の黒い手袋を付けてる。それに合わせるために右手には同じ素材の指先の空いた手袋を着けた。こっちの長さはは手首までだね。腕の大部分は普段はコートで見えないけど脱いでもお洒落! その上で右手の爪には黒のマニキュア。左手の爪にはピンクのマニキュア! 全体的にアシンメトリーなデザインでおしゃれ! 頭の天辺から指先までお洒落を怠らないのがアーヤちゃん流だ!
──ってことで長々とひとりでに説明しちゃったけどこれがアーヤちゃん最新コーディネート! 七耀暦1205年版! 全体的にかっこかわよく仕上がった! 飽きなければしばらくはこれを基本コーディネートとして行くよ! 少なくとも閃の軌跡4とか創の軌跡くらいまでは!
私は自分のコーディネートを改めて確認して自慢気になる。ううん……こうして改めて見ると……私ってめちゃくちゃ可愛いよね。というか前々から思ってたけど私って16、17歳くらいから見た目が全然変わってないから年齢よりも幼く見えるんだよね。顔も可愛らしい童顔の美少女だし……背丈はそこまで小さくないしスタイルも悪くないのによく子供扱いされたりするのはそれが原因かもしれない。前に守護騎士の1人のすぐ怒るおチビちゃんに「てめぇの方が童顔だろうが!」ってキレられながら追いかけ回されたことを思い出す。同じくらいだと思うけどなぁ。でも身長は私の方が大きいから私の方が大人だね。
まあそんな訳で共和国のカリスマファッションデザイナーかつゼムリア大陸のおしゃれの最先端を行く私は今日もお出かけだ。服は自分を表現するため。そして周囲に見せつけるためにあるからね。当然ながら装備としても使えるよう素材は全部十三工房製だからかなり丈夫。斬られようが撃たれようが燃やされようが私と同じで全然傷つかない。最強防具だ! どんなものを素材に使ったか知らないけど十三工房もやっぱすごいよね!
とはいえあんまり汚したくはないよね。そんな私が今何をしているかと言うと──戦闘訓練だ!
「とりゃー!!」
「はああっ!!」
「……!」
私はもう1人の味方。相変わらずの甲冑姿で剣を振るう友達かつ仕事仲間。鉄機隊筆頭隊士のデュバリィちゃんと一緒に稽古をつけてくれる相手に斬りかかる。
私もなんだかんだで昔に比べたらそこそこは強くなったし、デュバリィちゃんもめきめきと成長してるからね。並の相手ならさすがにささっと倒せる自信はある。
だけど稽古相手が私の知ってる人の中で最強に並ぶ人なんだよね。その名も《蛇の使徒》第七柱! 《鋼の聖女》ことリアンヌ・サンドロット様! リアンヌママだ!
「“シュトルムランツァー”!!」
「うわーん!?」
「うぐっ……!?」
だからまあ多少良い感じに攻撃をしたところでこの通り。デュバリィちゃんと一緒にやられちゃうんだなこれが。結構長引かせたし、意外にも割と良い線は行ったけどやっぱりリアンヌママは強い! そりゃ勝てるわけないよね! 最強だし!
「──今日のところはこのくらいにしておきましょう」
「はい! リアンヌ様!」
「っ……はい。稽古を付けて頂いて感謝しますマスター」
そうしてリアンヌママの方からここで終わりって宣言をされたのでデュバリィちゃんと一緒にありがとうございますって挨拶をする。
ここまでに今は観戦してるアイネスちゃんとエンネアちゃんも一緒に鉄機隊の訓練に混ざって稽古を付けてもらってたんだけど、最後にリアンヌママと一対一で仕合を行って、その後でリアンヌママからデュバリィちゃんと一緒に挑んできなさいって言われたので二対一でやってみたってのがここまでの事情。ちゃんとグランドクロスも耐えたから痛かったけど充実した訓練だった。リアンヌママとの訓練は厳しいけど優しいというか、絶対に殺されないし殺意とかの嫌な感じが全くしないからやっててもあんまり怖くなくて好きなんだよね。だからちょっと痛くてもまだ我慢出来る。
「やはり《ARCUS》による戦術リンク機能……表の世界の技術というのも馬鹿には出来ませんね。2人とも、良い手応えでした」
「ほんとですか! えへへ、ありがとうございまーす!」
「あ、ありがとうございます。しかしマスター。お言葉ですが我々には星洸陣がありますし、戦術リンクに頼る必要はないと思うのですが……」
「えー!? デュバリィちゃんは私とリンクするの嫌だって言うの!? あんなにも深く繋がった仲なのに!」
「別に嫌というわけでは……ただ戦術リンクに頼らずとも連携くらい我々には簡単にこなせるかと……」
「深い意味はありませんよ。最新の戦闘技術に触れておくのも悪くはない。そう思っただけのことです」
「なるほど! さすがはリアンヌ様!」
「そういった意味でしたか。そうとは知らずに不躾な質問をしてしまい申し訳ないですわ」
「構いません。……それより、成長しましたね2人共。やはり互いに切磋琢磨したことが大きいでしょうか」
「! それは……」
「わーい! ありがとうございまーす!」
おお! リアンヌママから褒められた! わーい! やったねデュバリィちゃん! 今夜はお赤飯でも食べよう!
「──クク、確かになぁ。よくここまで成長したもんだ」
「ワーイ、アリガトウゴザイマスー」
うわ、戦闘中にやってきたんだろう。いつの間にか葉巻を蒸しながら観戦していたらしいオジサンに褒められた。別に嬉しくない。オジサンのお褒めの言葉はなぁ……強く成長して嬉しいとかじゃなくて立派な暗殺者になってくれて嬉しい。これでもっと色んな悪巧みを任せられるぜ。みたいな裏の意味が隠れてそうだし。
「貴方も来ましたか《破戒》殿」
「よう、《鋼》の。相変わらずお前さんもその部下も精が出るねぇ。さすがは結社最強の戦闘部隊ってところか」
「常に備えておかなければいざという時に働きを為すことは出来ませんからね。特に今後の方針次第ではかの《鉄血宰相》と──いえ、帝国との正面衝突もあり得るでしょうから」
「ああ、確かにな。頓挫しちまった《幻焔計画》の奪還……それをどういう風に進めていくかはまだ決まっちゃいない。《深淵》の奴は当初の計画通りに再び進めることを提案しちゃいるが……さて、どっちに転んだ方が面白くなるかねぇ?」
「……《破戒》殿。我らの役目はあくまであの方の計画を滞りなく進めること。面白さを判断基準に含めるのは自重するべきかと」
「そんなに心配せずとも、重々承知してるぜ? 優先すべきはあくまで計画の進行。使徒として弁えてるし、個人的にも計画はしっかりと進めてもらった方が愉しめそうだからなあ。そこを邪魔する気はねえさ」
「ええ、そこについては信用しています。ですが貴方の場合、計画に支障が出ない範囲で動くことはままありますので。私としてもそこを心配しているだけですよ」
「クク、信用あるねぇ。まあどっちにしろ今回の計画の主役はオジサンじゃないわけだし、関わる気もない。《鉄血宰相》の手並みの方は気になるが──そこんところは現在進行形でスパイしてるウチの娘の意見も聞きたいところだな?」
うわこっち見た。というか娘言うな! 確かに関係性を一言で表すとそうなるのかもだけど! あらぬ誤解を受けるでしょうが!
「いや娘じゃないし私に振られてもなー。オズボーンは怪物だってオジサンなら分かってるでしょ」
「そりゃ報告は聞いちゃいるが、実際にお目にかかったことも言葉を交わしたこともないしな。見聞きしたこともない相手のことを詳細に分かるわけねえだろ? だからオジサンよりもお前や《鋼》の方がどれくらいヤバい相手なのかは分かってると思ったんだが」
「……………………」
「えー……いや別にそんなことないって。ぶっちゃけ何考えてるか高度すぎてよく分からないし」
なんかオジサンに質問されたんで半分嘘で半分本当の回答をする。いや、本当にオズボーン宰相がどれくらいすごいのかってのは分かってるようで分かってないからね。そりゃ化け物なのは分かるけど、何考えてるかってのは最終目標とかは分かっててもどういう計算の元で動いているかの正確なところは私の頭じゃ理解しきれない。とりあえず、全部イシュメルガを打倒して愛する者を守ることに繋がってるってことだけ分かってるくらいだし。
というかそれよりも態々リアンヌママの名前も出す辺り、やっぱり使徒は全員リアンヌママの素性というか、《銀の騎神》のことも知ってるし、オズボーン宰相と何か因縁があることくらいは予想ついてるんだろうなぁ。まあそこまで想像つくのはオジサンくらい頭が良い人だけかもしれないけど。
そもそもだ。使徒の会話に一般執行者の私を混ぜないでほしい。デュバリィちゃんたちは大人しく黙ってるっていうのに。デュバリィちゃんたちは何も言わないけどオジサンのこと好きじゃないだろうしね。執行者じゃないデュバリィちゃんたちにとって使徒は上司であり敬意を払うべき相手だけどそれでも好き嫌いはあるのは仕方ない。多分《面白》の次くらいに嫌いだろうし。《面白》は結社の嫌いな上司ランキング殿堂入り不動の1位で、その次は博士とオジサンで争ってる感じかな。デュバリィちゃんたちみたいな誇りある武人タイプはオジサンは苦手だろう。
とはいえ普通に接するくらいは問題ない相手だ。オジサンは趣味がルール破るの大好きっていうアレなだけで人付き合いは良いから。《面白》は趣味も人の嫌がることをするのが好きという終わってる趣味な上に性格も下劣で卑劣でいやらしくて……ってそう考えると《面白》教授の嫌われっぷりってすごい。
そして余談だけどリアンヌママとオジサンも割と普通というか普通に信頼関係あるのがちょっと不思議だ。やっぱ使徒同士だからかな。盟主様に忠誠を誓っている者同士の信頼関係があるのだろう。それなのに嫌われてた教授って……やっぱ殿堂入りだね。
「ま、お前は頭の方は少しばかり残念だからな。分からないのも無理はねえか」
「残念じゃないっ! そりゃオジサンには敵わないけどデュバリィちゃんよりは頭いいし!」
「ちょっと! そこでなんでわたくしの名前が出ますの!? 貴方より頭が悪いなんてそんなこと絶対にありえませんから!」
「でも勉強は私の方が出来るよね?」
「わたくしだってちゃんと自主学習で高等教育の範囲は学びましたわ!」
「私は薬学も得意だし、アラミス卒業してるしトールズの教官もしてたから私の方が客観的に見て上だもんね~。──はい論破ぁ~!」
「トールズの教官と言っても貴方、実戦技術しか教えてなかった筈でしょう! そもそも勉強だけで頭の良さは決まりませんわ! そうでしょう! アイネス! エンネアもそう思いますわよね!?」
「ああ、うむ……そうだな」
「デュバリィとアーヤ……方向性が違うから正直悩ましいわね……」
「って、なんで腑に落ちていませんの!?」
「はい私の勝ちー!」
「勝手に決めるんじゃありませんわ!!」
なんかオジサンに頭脳面を貶されたけど私はそんな言われるほど頭悪くないよ。失礼しちゃうよね。結社で頭良いランキング作ったら真ん中くらいにはいると思う。最下位はギルバートくんかな。
「──あはは、相変わらず愉快なやり取りをしてるみたいだね」
「あ、カンパネルラ。カンパネルラはどっちの頭がいいと思う? やっぱり私だよね?」
「どっちもそんなに変わらないんじゃない? ──まあそれはともかく本当に一緒に来る気なのかな?」
とかなんとか言ってたらカンパネルラが転移でどこからともなくやって来たため、私は一応質問するも流される。解せぬ。そして本題と言わんばかりに質問を返してくるけどその相手は私じゃなくてオジサンの方だった。
「ああ。俺たちと契約した《北の猟兵》がどういう終わりを迎えるか。結果は分かりきってるとはいえたまには休暇も兼ねて観光に行くのも愉しそうだしなぁ」
「うわ~……本当に来るんだ。アーヤは《鉄血宰相》からも頼まれてるみたいだから仕方ないとはいえ、オジサンまで来ちゃったら収拾つかなくなるんじゃない? ただの観光だって言うけど全く何もしないって訳でもないんでしょ?」
「しかも休暇の旅行で行くところがこれから戦争が起きるかもしれない場所ってのがオジサンって感じだよねー」
「おいおい君たち……オジサンのことを何だと思ってるんだ? せっかくの休暇の旅行なんだ──精々金を使って遊び回るくらいのことしかやるつもりはないぜ? なあ、アーヤ」
「オジサンの遊びってそれ仕事とあんまり変わんないじゃん……言っとくけどあんまり無茶なことさせないでよね。言っても無駄だと思うけどさ」
「お前の帝国での関係性や計画に支障が出るようなことはしないから安心しな。お前さんの方も構わねえな?」
「ええ。了解しました。以前仕事を代わってもらった借りを今回は返すとしましょう。──デュバリィ、アイネス、エンネア」
『はっ!』
「ノーザンブリアでは《破戒》殿の意に沿って動くように」
「……承知致しましたわ」
「御意」
「マスターの御心のままに」
「後からブルブランにレティも合流する予定だ。クク──さあ、それじゃ行くとしようぜ。《身喰らう蛇》御一行様の愉しい愉しいノーザンブリア旅行の始まり始まり~ってな♪」
そうしてオジサンはノリノリで旅行へ向かうことを宣言する。ぶっちゃけこの時点で最悪に嫌な予感がするけど……まあ人数が多いってのは心強くはある。私が大変な目に遭うってことはなさそうだし、ノーザンブリアの民間人とかリィンくんたちに注意しておけばいいかな。結構長い事行くみたいだし、退屈しないように色々持っていこうっと。ノーザンブリアは久し振りだし、仕事が大変なことを除けば普通に楽しみだな~♪ ふんふーん♪ 気分はピクニックだね!
──数ヶ月後。
「ノーザンブリアを……《北の猟兵》を襲撃した悪魔……! この手で討ち取ってやる!!」
「え?」
──え? なんか急にモブ猟兵に襲われたんだけど。誰? 見た目は可愛いけど……うーん、とりあえず返り討ちにしちゃっていいかな? 気は進まないけど猟兵に殺意を向けられたらやるしかないよね?
今回はここまで。閃の軌跡Northern War編が始まりますが、ぶっちゃけ見てなくても問題ないくらいの感じで書くので安心してください。知ってた方が分かりやすいのは勿論だけど。次回もお楽しみに。
ちなみに情報としてはアーヤちゃんの見た目と服のデザインは実際にあるものや人をモデルにさせて頂いてます。
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