六年前―――――、厳密には五年と数ヶ月前、俺が小六、零士が小四の頃だ。
俺達には親がいなかった。捨てられたか、死んだかは知らないがな。だから俺達は物心ついた時からずっと教会に住んでいたんだ。だがこのご時世、神に祈りを捧げたり、懺悔しようなんて人間なんてそうはいない。こぢんまりしたボロい教会で、実質孤児院みたいな扱いだったのさ。そこには俺達以外にも子ども達が何人かいた。皆の世話をしていたのは『優奈』というたった一人のシスターだ。綺麗で、優しくて、身寄りのない俺達にとって優奈が母で、他の皆が兄弟で、一つの大家族みたいだった。『天城零士』という名も、優奈が付けた名だ。どうやら俺の場合は拾われた時に名札がついていたらしくてな。
そんな俺達の数少ない遊びの一つがデュエルだった。金なんてロクにないはずなのに皆の分のデッキとデュエルディスクがあった。きっとデュエルを通して絆とか友情とかリスペクトとか、人として大事なものを知って欲しかったんだろうな。そして皆の中でも俺と零士はデュエルで頭一つ飛び抜けていた。それだけが理由ってわけじゃないんだろうが、俺達二人はいつしか子ども達の兄貴分みたいになっていった。
「行くぞ優奈。《大天使クリスティア》で《ガーディアン・エアトス》を攻撃」
「あら大変。なら私は速攻魔法《収縮》を発動してクリスティアの攻撃力を半分にするわ」
「なっ」
「これで零士のライフは0。また私の勝ちね」
「またお前の敗けか零士。今までお前が優奈に勝った回数は48回。敗けた数は・・・、3ケタ入ってからはもう数えてないな」
「黙れ秋人。お前だって49回でほとんど変わらないだろ」
「アハハ、また優奈が勝ったー!」
「零士弱ーい!」
「お前らに関しては一度も勝ったことがないだろうが。―――クソ、優奈、もう一回だ」
「ダメよ零士。もう遅いから。また明日、学校から帰ってきてからね」
「・・・・・・分かったよ」
「ハッハッハ!零士は本当に優奈には頭が上がらないな!」
「それは全員に言えることだろう」
そんな日々がずっと続くと、俺達は思っていた。
―――――だがこれが皆と過ごせた、最後の夜だった。
「ここまでは君達のための回想だ」
秋人はそこで一旦話を区切って彼らの様子を見た。
「ちょっと待って。その話が本当なら、今零士が使ってるデッキって・・・」
千鳥が言い切る前に零士は答えた。
「デッキだけじゃない。このデュエルディスクも、優奈の遺品だ」
「遺品?じゃあその優奈って人は・・・・・・」
フユは秋人を見た。
「そしてここからが、あの時の真実だ」
翌日俺は、零士を含めて皆より一足先に帰っていた。ただの偶然だ。そう思いたい。帰ってくる時はいつも聖堂から入っていた。いつもなら他の子ども達が遊んでいるか、まだ誰もいないか、そのはずだった。
聖堂には人が―――、招かれざる客がいた。年の頃は俺と同じぐらい。フードをかぶっていて顔は分からなかった。
「待っていたぞ。選ばれし者よ」
「何の話だ?小学生のくせに中二病か?でなきゃ人違いだろう」
「こいつを見ても、そんな口が聞けるかな?」
そいつの足元には手足を縛られた優奈が倒れていた。
「優奈っ!!貴様ッ・・・!!優奈を離せ!!!」
「おおっと」
そいつが指を弾くと、優奈の周りを覆うように地面から火柱が吹き出したんだ。
「なっ・・・!?」
「安心しろ。これは触れても熱はないただの柱だ。お前が下手な真似をしなければな」
「くっ・・・・・・!」
「私のことはいいから、早く逃げて!!秋人!!」
「そうはさせんよ」
再びそいつが指を弾くと、俺の背後の正面扉だけでなく、全ての通路を炎の柱が塞いだ。そしてよく見ると、優奈の手足を縛っているのも炎でできた鎖だった。
「こんなことをして、何が目的だ!?」
「私の要求は一つ。満月秋人、私とデュエルをしてもらおうか」
「そのぐらい、こんなことをしなくてもやってやるよ!!」
「私が望むのは命懸けのデュエルだ。お前が勝てばこの女を開放してやろう。だが私が勝ったら・・・、この女は天へと召されるだろうな」
「あ、あなたは一体何者なの?どうして・・・」
「私はこの男の同類だ」
「えっ・・・!?」
「もういい、優奈」
「秋人・・・・・・。でも」
「こいつが何者か何てどうでもいい。だが俺達の母親とも言える人にこんな真似をする奴を、俺は許しはしない・・・!!――――大丈夫さ。俺が必ず助ける」
「別れの挨拶は済んだか?では始めようか」
「「デュエル!!」」
秋人 LP8000
?? LP8000
デュエルの実力はほぼ互角。一進一退の攻防だった。そして――――――。
「ふん。そんなものか。お前の実力は?」
「お前こそ、こんな仰々しい真似をする割にはたいしたことないな。―――俺は自分の場に《剣闘獣》と名のつくモンスター、ベストロウリィがいることにより、〈スレイブ・タイガー〉を特殊召喚!さらに《スレイブ・タイガー》の効果発動!このカードをリリースし、ベストロウリィをデッキに戻す!そしてデッキから《剣闘獣ダリウス》を特殊召喚!さらに《スレイブ・タイガー》の効果でデッキから特殊召喚された《剣闘獣》は、《剣闘獣》の効果で特殊召喚された扱いとなるから、その効果が発動される!ダリウスの効果で墓地の《剣闘獣ホプロムス》を特殊召喚!さらに《剣闘獣ラクエル》を召喚する!」
「ほう。来るか」
「俺の家族に手を出した罪は、後できっちり償ってもらう!俺はラクエル、ダリウス、ホプロムスの三体をデッキに戻し、このモンスターを融合召喚する!!闘いに生きる獣よ、我が敵を薙ぎ払え!!出でよ、《剣闘獣ヘラクレイノス》!!!」
「・・・・・・・・・・」
「《剣闘獣ヘラクレイノス》でお前のモンスターを攻撃!!百獣斬斧!!!」
この攻撃が通れば俺が勝つ。また平和な日常がやって来る。そう思った時だ。
俺の右手が光りだし、この、『A』のマークが現れたんだ。
「なっ、何だよこれは・・・!!」
そして気が付くと、
?? LP0
「っ・・・。か、勝った、のか・・・?」
(こんなあっさりと・・・・・・?いや、これでいいんだ!)
「お前の勝ちだ・・・」
そう言った奴の頬を血が滴っていた。
「お、おい!お前それ、血!待ってろ、すぐ手当てを・・・」
「自分で傷付けた人間を自分で助けようというのか?滑稽な話だ」
「何を言って・・・」
「お前の最後の攻撃の時、マークが浮かんでいただろ?あれが浮かんでる時はな、ダメージが実体化するんだよ」
「何だと!?」
「ちなみに私にもこれがある。ずっと発動していたぞ。このデュエルが始まった時からな」
そう言った奴の右手には青い『S』のマークがあった。
「同類というのは、まさかそう言う意味か?」
「悠長に長話をしている暇があるのか?周りをよく見てみろ」
「・・・・・・・・・なっ!?」
デュエルに集中して周りが見えていなかった。奴を倒したことで炎の柱は全て消えていた。だが代わりに聖堂のいたるところで本物の火が燃え上がり、柱や壁が今にも崩れそうになっていた。
「約束通りその女は開放してやる。だが、二人共生きてここから出られるかな?」
「貴様・・・、最初からそれを狙って・・・・・・!!」
「恨むなら、こうなるまで気が付かなかった己の愚かさを恨むんだな」
じゃあな、そう言い残しそいつは炎に覆われた。そして炎が消えるとそいつの姿は跡形もなく消えていた。目の前で起きたことが色々と信じられなくて、正気に戻るのに数秒かかった。―――――今もその数秒が恨めしいよ。
「優奈!!」
俺は我を取り戻してすぐ、優奈を助けようとした。あと少しで手が届く。その時、
ガラガラガラッ!!
近くの壁と柱が倒れてきて、優奈だけがその下敷きになった。上半身だけがかろうじて無事な程度だった。
「待ってろ優奈!今助ける!!」
俺は瓦礫を動かそうとしたが、たった一人、それも子どもの腕力なんてたかが知れている。
「秋人・・・。もういいの」
優奈は力なく首を横に振った。もう諦めていたんだろう。
「あなただけでも・・・」
「馬鹿野郎!!何言ってんだ!!俺もお前も生きてここから出るんだよ!!デュエルで零士をフルボッコにしたり、また皆で楽しくやるんだ!!俺達には・・・、優奈が必要なんだよ!!!」
「皆に伝えて・・・・・・」
優奈がそう言った時、俺の頭上の天井まで崩れてきた。優奈は残った力を振り絞って、俺の体を突き飛ばした。
「ごめんなさい・・・・・・・」
それが俺の見た、最後の優奈の顔だった。最後まで、ずっと微笑んでいた。
「ク・・・、ソ・・・・・・!!チクショオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォッ!!!!!」
その時ほど、俺は自分の無力さを思い知った時はない。
「これが、六年前の真実だ」
零士の表情は相変わらずだったが、他の四人には衝撃が大きかった。
「そんな・・・、そんなことって・・・・・・!!」
千鳥は口元を覆っている。
「それで、その襲ってきた相手の正体って分かってるんですか?」
フユの問いに秋人は首を横に振った。
「いや、それ以来全く姿を見せないんだ。顔もロクに見えていなかったしな。使っていたカードももうこんなに時間が経っていると、変えられている可能性が高い」
「でもオレ達の疑問はまだ残ってるぜ」
ケイトはいつになく冷静だ。
「零士、何で復讐の対象が先輩さんだったんだよ?本当ならその火ぃ出す手品師のはずだろ?」
「・・・・・・・・・・・・」
零士は少しの間目を閉じて、何かを考えている様子だった。
「分かった。ここからはオレが話そう」
オレや他の奴らは帰ってくると、すぐにわずかな異変に気付いた。聖堂はもとより、中に入るための全ての扉が開かなくなっていたんだ。その時はまだそこまで焦る者は誰もいなかった。外でしばらく待っていると、一人が窓を指差して言ったんだ。
「ねえ零士。中、変じゃない?」
「何?」
オレは窓を覗き込むと、中は火の海だった。
「おい、お前らは今すぐ消防を呼んで来い。火事だ」
「「う、うん!」」
オレは何人かを選んで消防署に行かせた後、もう一度扉を開けようとした。だが蹴りを入れても体当たりしても開かない。
「クソッ」
すると中から秋人が出てきた。
「おい、中で何があった?優奈は?」
「優奈は・・・・・・、俺が殺した」
「こんな時にくだらない冗談はやめろ。優奈はどこだ?どうせ買い物か何かなんだろ?」
「本当だ。これも全て俺がやった」
「嘘だろ・・・。なぜこんなことをした?」
秋人は口元を歪めて、こう言った。
「それが知りたいのなら、俺にデュエルで勝つことだな。それ以外の手段で俺が口をわると思うな」
オレは秋人を掴んでいた手を離した。無論、デュエルをするためではない。
「お前らは絶対に来るな」
後ろにいた他の奴らにそう言うと、オレは炎上する聖堂の中に突っ込んだ。優奈がここにいるということも、死んだということも、秋人が殺したということも、何もかも信じられなかった。オレは聖堂だけでなく、教会の中全てを探し回った。だがどこにも優奈の姿はない。オレの中で、本当に優奈が死んだんじゃないかという疑念が強くなってきていた。もう一度聖堂を探していた時だ。炎が燃え広がり、完全に行き場を失った。それだけじゃない。天井が落ちてきた。死ぬのか、オレは。自然とそう悟った。ここで、優奈と共に・・・。そう思って静かに目を閉じる直前に、視界に真っ白な羽根が舞ったんだ。
気が付くと、オレは外に出ていた。
「オレは、助かったのか・・・?」
そしていつの間にかデッキが収められた優奈のデュエルディスクを抱えていた。
「オレは・・・、オレは・・・・・・」
この一件の後、オレ以外はバラバラに引き取られた。後で聞いた話だが、この火事は事故として処理され、優奈の死体も発見されなかったらしい。
「これがオレがそいつを追っていた理由だ」
「なるほどな。よーく分かったよ」
「でも最後、『アンタ以外は』引き取られたって言ってたわよね。じゃあアンタはどうしたのよ?」
千鳥の問いは最もなところ。
「教会を生活できる程度まで直して、そこで住んでいる」
「へえ〜。なかなかハードな生活送ってるねぇ。オレが一緒に住んでやろうか?」
「断る」
ケイトの冗談交じりの提案を零士は速攻ではねのけた。
「それはそうと、何で零士や他の子達に本当のことを隠してたんです?きっと、誰にもこのことは話してないんじゃないですか?」
それを聞いて秋人は自嘲的な笑みを浮かべた。
「・・・・・・恐かったんだよ。零士や他の皆が巻き込まれるのが。だから不可能と考えられる条件を突きつけたんだ」
「お前はオレが死ぬとでも思ったのか?優奈のように」
「昔はな。だが、今は違う」
秋人は零士とその周りを見た。
「今のお前には、最高の仲間がいる」
零士はそれには何も答えず、踵を返した。
「お前はオレのターゲットではなくなったし、聞くべきことは全て聞いた。もうお前に用はない」
「零士。最後に一つだけ言わせてくれ。俺個人だけでなく、優奈の言葉として」
「・・・・・・すまなかった」
零士は一瞬立ち止まって、すぐに歩き出した。一度も振り返ろうとはしなかった。
場所は変わって、彼らの教室。放課後である。中にいるのはチームACEの五人だけ。皆空気を読んで教室を出ている。
「あんな話聞いちまったら、なーんか終わった感はねえよなー」
ケイトが伸びをしながら言った。
「だが、俺達は優勝したんだ。それは素直に喜ぼう」
英雄の言うことにも一理ある。
「零士は本当に秋人先輩が殺したって思ってたの?」
「アイツは昔から嘘つきだった。特に自分が不利になるような嘘をよくついていた」
「そんな風に言うってことは無実だって信じてたんだ?」
「も〜う!英雄がさっき喜ぼうって言ったばかりじゃない!」
「・・・そうだね千鳥。じゃあリーダーとして一言言わせてもらえるかな」
フユは一度咳払いをしてから、四人を見渡した。
「ハーメルンではシステムの都合で『おまけページのコーナー』はないよ!気になる読者はすぴばる版の第四十二話を読んでね!」
「さっきまでのいい感じが台無しじゃねーかああああああああああ!!!!」
これにてデュエルフェスタ編は終了です。最後はスノブラにあるまじきシリアス調でしたね。
次回からは新章、『精霊世界編(仮)前章』がスタートし、いつものボケとツッコミの応酬となります。