【完結】範馬刃牙 史上最強の義親子喧嘩   作:和尚我津

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エピローグ

「すみません、こちらの道場に入会したいンですが」

「おーこんな早よからご苦労さんじゃの。それじゃあこっちの用紙に必要事項の記入をお願いし…‥ま……す……?」

「はいはい。こーいうの書くのも久々だなぁ。名前は――」

 

 ――愚地独歩、っと。

 

 

******

 

 

 その日、神心会に超大型新人が現れた。

 

 ことの始まりは本部道場、その受付。

 元より総本山。ここに集うは空手に熱心に取り組む者たちばかり。未だ日も昇りきらぬ早朝から来る者は更に絞られる。

 

 数が少ないとはいえ、その中でも役割というのは自然とできるもの。

 新参者に分類される彼らは、一足早く現れ道場の清掃を行うことが、暗黙の裡に決まっていた。

 

 毎度のように受付の老父から鍵を受け取ろうとして違和感に気付く。

 いつも飄々とした態度であるのに、今日はやけに挙動不審であった。

 

 動きに落ち着きがなく、されど視線は道場の入り口に殆ど固定されている。

 釣られて見てみれば道場の扉が全開となっていた。

 

 先に来ている者が居たのか? そいつがこの老人に何かしたのか?

 

 困惑と僅かな好奇心を秘めて、彼らは道場の中を覗き込む。

 

 神聖なる道場。その中では胴着に身を包んだ太い男が、道場の中を丹念に清掃していた。

 禿げ上がった頭。毛髪のない頭部を横断するように黒革が走り、左目の眼帯を支えている。

 

 彼らはすぐに、その人物が何者なのかに気付いた。

 

「先代っ!? お身体はもう大丈夫なので?!」

 

 何を隠そう。先代館長、愚地独歩。

 胴着の隙間から垣間見える包帯は、先日の義父子喧嘩の名残りだろうか。

 

 なるほど。いつの間にやら退院してふらりと現れた元館長に、驚愕はするだろう

 とはいえそれだけで、神心会という荒くれものたちが集まる場所で長年働いてきたあの老父があそこまで取り乱すだろうか?

 

 その疑問の答えは、目の前の男から直々に告げられた。

 

 独歩はニカッという音がするような太い笑みを浮かべ。

 

「押忍ッ! 自分、本日神心会に入門いたしました、()()()()と申します! 空手暦ウン十年の新参者になりますが、ご指導ご鞭撻のほど何卒よろしくお願いします! ()()()()()! 押忍ッ!」

 

 目の前に居る己が先輩たちに向かって、頭を下げて挨拶をしたのだった。

 

「押忍ッ!…………え? 入門? 新入り?」

「…………え?」

「……え?」

「え?」

 

 ――ええぇぇえぇ~~~ッッッ!?!?

 

 早朝。絶叫が神心会を貫いた。

 

 超大型新人の名前は、愚地独歩。

 空手界最大のビッグネーム。神心会を作った張本人が、神心会に入会したのであった。

 

 

******

 

 

「コイツは一体どういう了見だよ? ああ? 義親父よぉ」

「押忍! 克己館長から頂いたお言葉に甘えて、一から空手を教えていただきたく参りました! 押忍!」

 

 早朝稽古の時間。

 館長たる愚地克己の指導の下、熱気で包まれているはずの道場は今、門下生たちの困惑で満ちていた。

 あの愚地独歩が自分たちの横に、自分たちと同じく指導を受ける側に立っているのだ。

 凄まじい違和感である。

 

 当の本人はイタズラを成功させたような子憎たらしい顔を浮かべているのみであるが。

 仕掛けられた側である現館長は義父の行動に顔を顰めている。

 

「ま。館長になっちまったのなら、オイラみてぇな面倒くさい門下生の相手もしなくちゃならねぇってことさ…‥押忍!」

 

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……はァ~~~~」

 

 百面相ならぬ六面相。

 たっぷりと時間を掛けて、男は現状を飲み込んだ。

 

 

「わぁーったよ。そういうことなら遠慮なくシゴいていくぜ、独歩クン?」

「押忍! 楽しみです! 押忍!」

「お前らも気にするな! 相手がキャリア何十年だろうと新入りは新入りだ! 積極的にビシバシ指導していけ! 気ぃ使ったり、ましてやビビるような真似はするな! 分かったな!?」

 

「「「押忍ッッッ!!!」」」

 館長の檄に応じる声は勢いよく。

 

(((いやいやいやッッ!! 無理だってッッッ!!!)))

 その内心は悲鳴で満ちていた。

 

「それではこれより朝の稽古を開始する! まずは基本の基、正拳突きからだ! 構えっっ!!」

 

 克己の号令の下始まった朝練。指導を受ける熟練の門下生たち。その中に混じって構えを取る愚地独歩。

 そこにあったのは己が空手を高めるために、恥も外聞もなく教わる側に回った拳聖の姿。

 

(全く……やっぱ親父にゃ……敵わねぇなァ~~)

 

 空手に対しては愚かなまでに真摯。

 そんな義父の姿を目の当たりにし、克己は内心苦笑するとともに畏敬の念を抱く。

 

 

 そう、結局のところ愚地独歩と自分との関係性は空手(これ)につきる。

 空手を教わり、空手を教える。

 そこに感謝とか敬意とかを乗せて伝えればいい。それで十分。それで不足なし。

 血ではなく、空手で繋がる。

 そんな義父子関係が、この世に一つくらいは、あってもいいだろう。

 

(これより、空手を教えます)

 

 その意思を籠めて愚地独歩、いや目前の門下生全てに向けて『右腕』での正拳突きを放つのであった。




本作は以上となります。
ご愛読ありがとうございました。
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