生徒に舐められていると勘違いしているけど、実は裏で生徒全員からめちゃくちゃ慕われている魔法学校教師   作:アスピラント

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ゆるーりと続いていく想定です。


小生意気なエルフは意外と献身的である

「ねぇクラっち、聞いてる??」

 

 目の前に膝をつきながら、此方をじっと見るエルフの少女がいる。とは言っても古今東西から知られてきたエルフにしては、ちょっとチャラ付いている見た目はしていた。

 耳には煌びやかピアスが輝き、元々整っている顔にはしっかりと化粧がしてあった。とは言え濃すぎず薄すぎず、ちょうどエルフ由来の顔を更に魅力的にしているので、ちっともけばくはない。

 

 そんな彼女だが、今何をしているのかと言うと――

 

「聞いてる聞いてるー」

「本当にー?」

「あのさ……」

 

 クラヴィスは散らかったデスクの上は少し横にはけると、同じように真正面から見つめる。

 

「俺今昼休憩中で飯食ってんだけどさ」

「うんうん♪」

「……教師の自室に来て、飯食ってるだけの俺を見て……楽しい?」

「楽しいよ? なんか一生懸命餌を食べる猫見てるみたいで」

「おい俺ペット扱いか」

 

 昼休憩中のクラヴィスに会うために、研究室兼自室にわざわざやってきたのだ。古城を改装した高等魔法学校内の3階……その隅っこにクラヴィスの部屋があるのだが、お世辞にも広いとは言えない。

 ただこれは校長先生含めたお偉いさん方による嫌がらせではなく、クラヴィス本人きっての希望だったりする。

 

「なーんでこんな狭っ苦しいの? クラっちー」

「俺、狭くてジメジメしたところ好きなんだ」

「ナメクジみたい」

「思っても言うんじゃない!」

 

 生粋のインドアで引きこもり気質な彼が単純にそっちのが過ごしやすいだけだった。めちゃくちゃ浅い理由に、エルフのギャル――ユスティは面白そうにケラケラ笑う。

 

「ていうか、マジで何しに来たの」

「一緒にご飯食べよ、クラっち」

「え」

 

 そう言ってユスティは可愛らしいデザインをした包みに包まれたランチボックスを取り出す。クラヴィスは目をパチクリとさせて、意外そうな顔をした。

 

「クラっちの分もあるよ、ほら。中にはサンドウィッチが入ってるよん」

「な――」

「え、何そのリアクション……意外そうな顔して」

「いやだって……ユスティがちゃんと料理出来るのかって」

「な! 失礼だな〜君は〜」

「お前が失礼って言うか!?」

 

 普段タメ口だろ、おいとクラヴィスは突っ込んだがユスティはまぁまぁ落ち着きたまえ、ランチは逃げやしないよと言ってクラヴィスの正論を封じた。これで強く出れない辺り、今後も彼が生徒におちょくられる関係性は変わらないだろう。

 

「つーか何で昼飯を? わざわざ作ってくれたのは嬉しいけどさ」

「クラっちさ、普段私らのためにずっっと授業の準備だけじゃなく、進路相談とかしてくれてるじゃん?」

「ん……まぁ先生だからな。当たり前だろ」

 

 クラヴィスはあっけらかんと言うが、40人近くいるクラスメイト全員の成績から、将来の目標までの道筋を考えつつ、授業の準備や研究までしている。更には教師としての事務仕事まで含まれたら、まぁブラックかよってレベルの仕事量にはなる。

 

 クラヴィスの目に隈があるのは、寝る時間をゴリゴリ削っているからだった。

 

「ご飯……ちゃんと食べてる?」

「シルフクラスのクリスティーナ先生いるだろ?」

「ん? あーいるね、私と同じ金髪で胸がバインバインな女教師」

「どんな印象を抱いてんだ……あの人さ、魔法薬学の専門家だろ? あの人からたまに増強剤貰って何とかしてるよ」

 

 とクラヴィスは普通のテンションで言ったが……それがユスティの逆鱗にちょびっとだけ掠った。

 

「ねー……クラっち〜……」

「なんだ? えらく魔力が――ひぃ!?」

 

 ハイライトの消えたユスティがクラヴィスをじっと見ていた。淀んだ魔力を全身から放出して、ジリジリと迫るエルフの少女はまさしくハイエルフの血を引く、高貴な存在だと嫌でも認識させられた。

 

「それさ〜……食事って言わないよねー……」

「は、はい、左様でございます……」

「って言うか普段から結構無理してるって事ー……?」

「いやいやこれぐらい無理には入らないさ、無理してるのは血反吐吐いてから本――」

「何だって……?」

「何でもないです」

 

 ええ……怖いよ俺の生徒とクラヴィスはガクブルしながら身を小さくした。第一無茶なんて教師になる前にいた職場では当たり前だった。これぐらい何とでもないとクラヴィスは言おうとしたが、ユスティの真剣な目がそれを許さなかった。

 

「クラっち、君は私たちの担任です!」

「あ……? うん、もちろんわかってるよ」

「私たちがちゃんと学校を卒業するまで、見届ける義務があります!」

「ああ、そりゃそうだ。俺はお前たちが全員夢を叶える瞬間まで見届ける責任がある」

 

 そうクラヴィスが言うと、ユスティは「う……」とちょっとだけ頬を染めるが、コホンと咳をわざと入れて気を取り直した。

 

「私の夢……忘れてないよね」

「ああ、世界一のマジックジュエリーデザイナーだろ?」

 

 ユスティの夢――それは魔法を付与(エンチャント)して作る魔法の宝石を専門的に扱う、マジックジュエリーデザイナーだ。

 

「私が……ちゃんと夢を叶える姿をクラっちに見せたいの。身体を壊したりしたら、見れなくなっちゃうかもしれないでしょ?」

「大袈裟な……」

「大袈裟じゃないってばー……もう」

 

 ユスティは頬を膨らませると、思いっきり可愛らしい包みがされたランチボックスを差し出す。

 

「ああ、もう! ちゃんと食べて、睡眠も取って! あと大事な生徒との時間を大事にしろ!」

「わ……っと!」

 

 美味そうなサンドウィッチが敷き詰められたランチボックスをずいっと目の前に差し出されたクラヴィスは恐る恐る受け取る。そこそこの量があるのか、ズシっとしっかりとした重さを感じる。

 

「あ、ありがとな……ユスティ」

「私、意外と家庭的なんだよ〜? じゃ一緒に食べよ!」

 

 そう言ってユスティは近くにあった椅子を適当に引っ張って、目の前に座ると自分の弁当を広げた。内容は卵とハムが挟んであるベーシックなサンドウィッチが5つ、更にはブロッコリーなどの野菜、プチトマトなどバランス良く配置されていた。

 

「す、すげぇ」

「学校の厨房借りてね、友達と作ってみたの。どーよ……!」

「いやもうめちゃくちゃ美味そう。ていうか友達と食わなくて良かったのか?」

 

 ユスティの友達は漏れなくギャルばかりだ。

 あとは他クラスにもちらほらいて、クラヴィス自身彼女が極めて社交的なのを知っている。年頃の子なら仲良い友達とワイワイするのが当たり前だと彼は思っていた。

 だって普通先生と休み時間を過ごしたいだなんて、思うわけないだろうとクラヴィスは思っていた。

 

 先生とそんな仲良くプライベートな話題なんて話したくならないだろうと。ただそれは普通の教師であったらの話――クラヴィスの立ち位置は、本人が思っている以上に生徒の心の内側にいるのだ。

 

「私、クラっちと昼休みいたくて来たんだけど……」

「え」

「ダメ……?」

 

 ちょっと寂しそうな目を向けられたクラヴィスは、一気に罪悪感が湧いてきた。

 

(マジかよ……そこまでしてくれるなんて――いや違う。俺は今何と言った)

 

 クラヴィスは無駄に回転の早い頭で策を練る。

 ユスティはよくからかってくるが、そのどれもが可愛らしいレベルだ。あれが彼女なりのコミュニケーションであり、ある程度は話してやっても問題ないと判断した相手にする態度だ。

 加えて彼女はかなり良い子だ、優しいし何気に気配りも出来るし、悪い子なんかじゃない。

 

 そんな彼女の混じりっ気のない善意を俺は不意にした。

 俺は何と酷い奴だ――と無駄にシリアスに捉えたクラヴィスはすかさずユスティの目を真正面から見つめ出した。

 

「ダメじゃないよ、ユスティ」

「クラっち……?」

「まさか俺と食いたいって思ってくれてるって……思ってなくてさ」

 

 真摯な思いには同等かそれ以上の思いで持って応える。これはクラヴィスが最初に教師としてやっていく際に決めた事だ。

 

「俺は昔から何かと鈍かったりするから、こういった善意に気づかなかったりするんだよな」

「い、いやいや! クラっちは何も悪くないでしょ」

「こういうときは、大人である俺が悪いんだよ。子供の気持ちに気づいてやれなかった……俺の責任だよ」

 

 そう言ってクラヴィスはユスティに向けて薄く笑う。

 大事なのは優しさだと意識して、安心させるために。

 

「一緒に食べよう、ユスティ」

「……い……なぁ」

 

 ユスティはそのまま顔を伏せて、何かポツリと言う。クラヴィスは彼女が何を言ったのか分からず、恐る恐る様子を伺うと勢いよく顔を上げた。

 

「ぷっ……ははは! クラっち……! 真面目すぎ……!」

「は、はぁ……!?」

「あれさ、私の冗談だよっ。ちょっとしおらしくしたらどんな反応するかなって思ったら……くふふ、すっごいシリアスな顔するもんだから可笑しくてぇ!」

 

 ユスティは文字通りゲラゲラ笑ってクラヴィスを揶揄う。クラヴィスはそのまま勢いよく机に顔を伏せると、耳まで顔を赤くして声を絞り出す。

 

「くっそ! 何で俺は手玉に取られて……!」

「一緒に食べよう、ユスティ――ドヤァ。だって、くふふ」

「やめろ真似するな憤死する、あとそんなドヤ顔はしてない」

 

 無駄にうまい顔真似を披露したユスティに恨みがましい目を向けたクラヴィスは、今世紀最大クラスに悶絶した。めちゃくちゃ真剣に対応したら、まさかの冗談だったというオチ。

 これにはまんまと嵌められたと思いつつ、クラヴィスは必死に内心で葛藤していた。

 

(俺が読み違えるなんて……! だってユスティの魔力は確かに不安の感情で揺らいでいたんだぞ!? まさかそれも計算だったりするのか!? ああもう〜ギャルが分からない! 未解決問題より難しい!)

 

 そう、クラヴィスは確かに魔力の揺らぎから「不安」を感じ取った。ちゃんと一緒に食べようと言ってから、ユスティの魔力が安定した事で「良かった、間違いじゃなかった」と確信していたのに、本人はまさかの冗談で言ったと抜かしたのだ。

 

 これにはもう新米教師たるクラヴィスはお手上げ状態だった。

 

「くそ〜……また俺揶揄われるじゃんか……」

「災難だったねー」

「誰のせいだ、誰の――「隙あり」んぐ」

 

 涙目になって文句を言い出したクラヴィスの口に、旨味がじんわりと広がる。ユスティがにっこりと満足げに笑って自分の分を一切れ差し出してきたのだ。クラヴィスは思わず……唖然としてしまった。

 

「どう? 美味しい?」

「……んまい」

「へへへ、さっすが私。ハイエルフの血を引く天才美少女に不可能はないわね……ふふふ」

 

 何つー高飛車な奴だとクラヴィスはジト目を向けながらも、仕方ないなとため息を吐く。まあ本当に傷ついてないなら良かった。揶揄われまくるのは癪に障るけど……ユスティが元気でいてくれるならそれで良いのだ。

 

「ほら、クラっち! あーん」

「やめい、もう自分で食えるって」

「つれないなぁ、現役女子学生のあーんをもっとありがたがった方がいいよ?」

「その前に淫行疑惑かかりそうで嫌なんだよ」

 

 あとはそうだな、距離感がやけに近いのも注意しないといけない。クラヴィスは自分が21と先生の中では1番生徒と近い年齢にはいるが、きっちりと公私を分けなきゃいけないと考えていた。

 幾らおふざけでも近すぎるのはダメだ――ただ今は、まぁ大目に見てやろうと思った。

 

(なんだかんだで……生徒に想われてるって考えていいのかな)

 

 もしそうであったら嬉しいなとクラヴィスはユスティと一緒に、穏やかな昼休みを過ごした。

 

 

 ◆

 

 

 そして昼休みが間も無く終わりに差し掛かるタイミングで、ユスティは片付けを済ませて席を立つ。いつのまにか時間が過ぎていたようだ。クラヴィスはあっという間だったなと内心で驚いていた。

 

「んじゃ私ら、次の時間あるからまたね」

「おーう、ありがとうなこれ。洗って返すわ」

「ああ、いーよ別に。私がやっておくから」

 

 そう言ってユスティは容器を回収し、テキパキとまとめて部屋を出る――その前にドアから顔をちょこっと出して、いたずらっ子な笑みを浮かべる。

 

「また作ってあげるからね〜」

「……っ!」

 

 それはとても魅力的な提案だ――クラヴィスは悔しげに頷いた。

 

「にひひひ、んじゃ授業頑張ってきまーす!」

「はぁ……頑張れよ」

 

 力無く手を振るクラヴィスを見て満足したユスティは、踵を返して荘厳な回廊を歩く。若干早歩きで奥まで行って、もうクラヴィスの目が届かないであろう場所まで辿り着くと、ユスティは段々と顔を赤くした。

 

「ち、ちょっと……やり過ぎたかな!? 距離感おかしすぎたかな!?」

 

 今更自分がやり過ぎていたかもしれないと、ユスティは目をぐるぐる回して悶絶した。本人のイメージではあざとい雰囲気を出しながら、それとなーくランチを渡して退散してやるつもりだった。だけど思った以上にクラヴィスと話す時間が楽しくて、自分でもよくわからないテンションであーんまでしたり、錯乱状態だった。

 

「ぅ〜……キモがられてたら凹むなぁ……くそ」

 

 どれもこれもクラヴィスが悪い――そう思う事にした。

 クラヴィスはここ最近……というか、教師として自分達を指導するようになってから、目の隈やドヨンとした疲労の色を強く滲ませていた。

 

 他の先生に聞けば寝ずに色々作業してる他、質問を受け付けたりと様々な仕事もこなしているとのこと。挙げ句の果てに魔法薬でガンガンに意識を覚醒させたり、ゼリーで栄養を補ったりなど不摂生の極み。

 ユスティ含めた陽キャ女子エルフ達はお弁当を使って、精神的にも肉体的にも力をつけてもらう大作戦を決行。

 

 発起人たるユスティは厨房を借りて、何とかしてランチを完成させて今に至る。その作戦の結果は言うまでもないだろう。

 

「喜んでくれたら……いいな」

 

 誰かのために料理するなんて初めてだ。

 両親でさえ、そんな機会はなかった。

 なのに……あの教師はちゃんと理解してるのか不安だった。

 

「でも……ちゃんと見てくれそうだし、大丈夫」

 

 最初の頃はめちゃくちゃ苦手だった。

 親から言いつけられた人形みたいな自分に対して、偉そうに自分のやりたいことをやれと言ってきた際は「お前に何が分かる」と言ってしまった。

 

 そんな過去が……どうしようもなく情け無い。

 先生ほどルーメンクラスの事を考えている人はいないのに。

 

「責任取れよ〜……クラっち〜」

 

 なーんてねと薄く笑ったユスティは、そのままスキップしながら次の授業へ向かっていった。

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