生徒に舐められていると勘違いしているけど、実は裏で生徒全員からめちゃくちゃ慕われている魔法学校教師 作:アスピラント
どうか息抜き程度にでも楽しんでくれたら嬉しいです!
それはオルダがリーダー決めの試合をする約3週間前まで遡る。時期的にはまだ6月辺りで、そろそろ期末試験がジリジリと存在感を露わにするタイミングだった。
「今更だけどウチのクラスメイトってすごいよな」
「どうしたんだ……エリス」
昼休み、メガロマギア高等魔法学校の学生食堂にて茶髪のポニーテールが良く似合う少女――エリス・ヨハンソンは、遠い目をしながらぼやく。彼女は今学食の中でも人気な日替わりランチプレートを頼み、目の前にいた男子生徒の友人とグリルをむしゃむしゃ食べていたところだった。
学生たちの楽しげに騒ぐ声と明るい日差しがある荘厳な食堂。まさに平和な空間そのものと言っていいのに、エリスの周りの空気だけクソほど澱んでいた。
「いや、クラスメイトがすごいから……アタシらみたいな普通人はそこら辺の石ころみたいだなと」
「さらりと僕まで入れてくれたな、おい」
エリスは深く項垂れ、男子生徒――デイヴィッド・クロウルは青筋を浮かべた、青い髪に灰色の瞳、中々人目を惹きつけるような見た目をしているが、実はこれと言って何か特別な才能はない。勿論この学校にいる時点で優秀な生徒だが、ユスティやオルダみたいに際立った才はない。
つまり……比較的凡人に近い立ち位置をした男子学生であり、モブであった。
「だって仕方ないじゃん、事実そうだしさ」
「エリスに言われたくないな……」
いち早く揶揄したエリス・ヨハンソンも一般人に近い立ち位置にいる生徒だ。両親はグランセルク王国内で杖の販売を行っている。その歴史は地味に古く、500年ぐらいの歴史がある老舗であった。
環境的に幼い頃から魔法に密に触れてきたエリスは、そのまま魔法理論の虜になり、初等部と中等部ではかなり優秀な成績をおさめてメガロマギア高等魔法学校の入学を決めた。
「……なんだって急にそんな話になったんだ? クラスメイトがすごい奴らばかりなんて、入学時点でわかってたろ」
「これを読んだんだよ」
そう言ってエリスは何やらピンク色をした本を、すっと静かに差し出す。何だ何だとデイヴィッドが見ると固まった。
〈これでアナタも意中の人の特別に!? ウソみたいに上手く行くかもしれない恋愛指南書〉
それはそれはもうウソみたいに、上手く行くのか微妙な感じがする恋愛指南書だった。デイヴィッドは頭が痛くなる思いをしていた。
「……何これ」
「教科書」
「違うと思う」
間違っても教科書じゃない。
デイヴィッドがエリスに対して白い目を向けていると、エリスは何やらモジモジしながら話す。
「そこにさ……書いてあったんだよ。人は特別な何かを持つ相手に興味を持って、やがて好きになっていくもんだって」
「うーん……」
「え? アタシが誰が好きか知りたいって? しょうがないなぁ」
「まだ何も言ってねえ。あと知ってる」
デイヴィッドはもはや言われなくてもわかっていた。
エリスはずっと……自らの
「……少しは乗り気になれよ」
「答えが分かり切ってるのに、乗るもクソもあるか」
そう言ってデイヴィッドはさっさと恋愛指南書を返す。なんか甘ったるい何かで具合悪くなりそうだ。現にエリスの周りの空気は
「それで……何で特別かどうかで悩むんだよ」
「だってさ、アタシは普通じゃん? 秀でたものがない。つまりアピールポイントがないんだよ」
「そうかぁ? 部活でお前それなりに頑張ってるじゃん」
バクバクと食べ進めた後、エリスはドカリと背もたれに身体を預ける。一応エリスにも特技というか……好きな事はあった。それはスポーツが好きな事だ。彼女はブルームレースという競技の部活に所属している。
ルールは簡単で飛行と速度に優れた魔法の箒に乗って、コース上にある障害物やトラップを掻い潜り、いち早くゴールへ辿り着くという種目だ。
ブルームレースの人気はかなりのもので、4年に一度世界大会が開かれるほど。そこでスター選手になった人たちは国の英雄扱いされたりするのだ。
エリスはそんな人気スポーツの部活に入っている。1年生時点でかなり奮闘しているし、デイヴィッドも凄いなと思っているのだが……エリスは違った。
「いやアタシはレギュラーじゃないし」
「でもさ」
「その時点でアタシはブルームレーサーとして、特別な才はないよ。だって1年ですでにすごい奴いるし」
アタシも才能欲しかったなーとエリスは項垂れる。まぁそう言って諦めたくなる気持ちはわかるが、デイヴィッドはずっとモヤモヤしていた。何というか……エリスは普通だ普通だと言って、自分を慰めているように見えたのだ。
「あんま卑屈にならなくて良いと思うけどな」
「え……?」
「だって俺たちはまだ1年だろ?」
そう言ってデイヴィッドはランチプレートをいそいそと片付けていく。
「むしろこっからだと俺は思うけどな」
ニコリと笑い、デイヴィッドは踵を返して席を立つ。後に残されたエリスは「う〜ん……」とまた唸ると、同じように片付けていく。
「そう思いたいよ……」
エリスの悩みはより深まる。
そんな中で思い出すのは、クラヴィスに対して興味を持ったきっかけとなった出来事だ。
「でもアタシにとって、先生は」
――特別なんだ。
◆
エリスがクラヴィスに対して、並々ならぬ感情を抱いたきっかけは入学して間もない頃だった。入学当初……ルーメンクラスはまだまだエリート主義な考えが抜けていない殺伐としたクラスであり、クラスメイトはお互いを仲間ではなく蹴落とすべき敵としてしか見ていなかった。
とりわけ貴族やらハイエルフの血を持つ者、魔族、亜人など様々な種族出身の特殊な出自をした生徒ばかり。普段から競い合う環境にいた者の方が大半だった。
「はぁ……やだな……この空気」
そんなクラスで一般家庭から入ってきたエリスは、何かされた訳じゃないのにクラスが嫌いになりかけていた。ずっとピリピリした空気が流れているし、クラスメイトの目が刺々しい。エリス本人としてはそこそこの企業に入って、そこそこの給料で普通の暮らしが出来れば良いやと考えていた。
何か目指す夢はないし、高い目標はない。
昔はこの学校に入るという高い目標があったが、それも叶ってしまうと一種の燃え尽き症候群になってしまった。つまりこの時点でエリスはかなり後ろ向きだった。
(皆エリートな何かになりたくて来た子ばかり。まぁ没個性なアタシは目をつけられないように過ごすしかないな)
ただこれは根本的な解決策とは言い難い。
6年間こんな生活が続くと精神的に辛い。環境を変えたくても両親が高い学費を払って自分を通わせてくれている手前、辞めたいなんて口にも出せない。
(……あたし、普通の学校生活が送りたかったな)
と憂鬱な気分になっていると、教室のドアがガラガラと開いて目の隈が目立つヤバい青年が入ってきた。
ざわ……っ!
生徒はその青年を見て
「悪い悪い、ついつい緊張から眠れなくなって顔色悪くなっているだけだから」
(大丈夫なのかそれは)
普段から歪みあっていた生徒の心が初めて一致した瞬間だった。
「えー……自己紹介します。俺はクラヴィス・アルゲンティア、昔この魔法学校を出たOBって奴だ。年齢は21! 本来なら6年生の年齢だが……まぁ飛び級で卒業したから今に至る訳だ」
飛び級で卒業という言葉に、生徒たちはざわつく。
元からかなりのエリート魔法学校であるここで、飛び級というのはかなりすごい事だった。少なくとも首席クラスの成績がないと不可能な話であり、クラスメイトの関心は一気に注がれる。
「せ、先生はどれぐらい飛び級を?」
「入ったのは13歳、6年生のクラスに入って……そっから1年しかいなかったんだよな。もうすぐ卒業決まったからちょっとしかいない」
「せ、先生になる前は何を!?」
「詳しくは言えない――が、一応グランセルク王国お抱えの国家魔法使いとして、14歳から18歳の間はずっと仕事」
皆の目はキラキラ輝いていた。
初めて見せる年相応の眼差しに、エリスは引いていた。なんだってそんな内容にときめいてるんだと、ツッコミたくなるほどだった。
「んで……ついこないだ教員免許ちゃーんと取得して……ルーメンクラスの担任になった! 以上!」
「出来ればもっと話が」
「俺の話はつまらんよ。聞いたって仕方ないさ」
そう言ってクラヴィスは適当にあしらうと、クラスメイトはよりミステリアスな背景を持つクラヴィスに興味を持った。
しかしエリスは――より一層目が死んだ。
(え、そんなエリート先生が担任なの? なんかアタシついていけるか不安になった)
最初は何かやる気なさそうな、ゆるーい授業とかする先生が担任かなとちょっとだけ期待したが、むしろ逆かもしれなかった。生徒たちだけじゃなく……凄まじいスパルタな教育方針だったらどうしようと一気に不安が増した。
(ダメダメ、アタシは覚悟してきたんだから)
弱気になったらダメだとエリスは内心で喝を入れた。しんどいかもしれないが、やるしか道はなかった。両親のためにも……自分の為にもと決意した。
だけどそんな彼女の予想は簡単に裏切られる事になった――良い意味で。
「――うん、お前らめっちゃピリピリしてるな」
クラヴィスは自己紹介を終えて、皆からの質問に答えた後にそう口にした。
「皆の夢は何だ?」
「国家魔法使いとして、世界の為に働く事です」
答えたのはユスティだった。
当時の彼女は制服をピチッと着こなし、ピアスも1つもなかった。プラチナブロンドの似合う貴族令嬢といった印象だった。
「ほう、だから必死に勉強していると」
「皆同じです。ですが席は限られています。私たちは確かに同じクラスメイトですが……ライバルなのです」
「ライバル……ねぇ」
クラヴィスはマジマジとクラスメイトを見渡す。
途中でエリスと目が合った。
「――大丈夫」
「え」
小さく口を動かしたクラヴィスを見て、エリスは頭にハテナを浮かべた。何故大丈夫と言ったのか理由は定かではなかったが、それを見た瞬間に不思議と安堵していた。
「確かに君らは頗る優秀な生徒だ、他国の魔法学校と比べても……これほど意識高い奴はいない」
生徒は初めて誇らしげに笑う。
だが次の一言で生徒たちの顔は怒りで歪む。
「だけどお前たちは大馬鹿者たちだ」
「な……!」
一瞬……教室は静かになってから――非難の声があがる。
「どう言う意味ですか!!」
「私たちを優秀だって言ったじゃないですか!!」
「確かに貴方の経歴に比べたら取るに足らないでしょうが、いきなり言われても腹が立ちます!」
激怒していたが、それでも敬語を忘れない辺り……育ちがいい。クラヴィスは全く見当違いな感想を抱きながらも、更に言葉を続けた。
「お前たちは学校を何だと見ているんだ?」
「教育機関では? 優秀な人材を育てるための」
「本当にそれだけだと思ってるのか?」
反論したユスティはどういう意味だと、険しい目つきを向ける事で訴えた。
「学校はな、何も他人を蹴り落として成り上がる為に存在する機関じゃないと俺は思っている。これは自論だが……学校で学ぶべきことの本質は勉学をしていく他に、この世界にて幸せに社会生活を生きていくための基礎を学ぶ場所だと思っている」
クラヴィスはすっと目を細める。
「果たして……国家魔法使いになったら絶対に幸せになれるのか?」
「……それは……」
「人生は何が起きるかわからないんだぞ?国家魔法使いという憧れの仕事に就いたとこで、もしかしたら苦しい事ばっかり降りかかるかもしれない」
まぁ他の仕事にも当てはまるがなと笑うと、クラヴィスはクラスを見渡した。
「必死に追い求めたものが……想像と違い、失意の内に潰れるかもしれない」
「――!」
ユスティは口を噤む。
「俺がお前たちに望むのはただ1つ、もっと自分に素直になって欲しい」
「素直……」
エリスはポツリとこぼした。
本当は……別に優秀な魔法使いなんかにならなくても、自分が好きになれそうな事を大人になってから出来たら良いと思っていた。今はまだそれがわからないままだったが。
「重ねて問う、お前たちの本当の望みは国の為に働くお偉いさんか?」
生徒たちはザワザワと、困惑から落ち着きを無くしていった。今までにない空気にエリスはただ圧倒されていた。
「本当にやりたいこと……別にあるんじゃないか?」
「……もしあったとして、先生はどうするつもりですか」
ユスティは珍しくしおらしい態度で問うと――クラヴィスはニコリと笑う。
「俺は生徒たち全員が幸せに生きていけるよう、全力でサポートする――それだけだよ」
それからだ。
以前まで教室を支配していたピリつく空気は無くなり、クラヴィスが懸命に生徒1人1人と向き合ってからルーメンクラスが、すごくすごく楽しいクラスになったのは。
◆
「――クラっちは救世主なんだ」
エリスは穏やかに笑う。
普通の家庭を出て、エリート気質な生徒たちが醸し出す空気に苦しんでいた所を、クラヴィスはクラスの空気をガラリと変えてくれた。あの時にエリスを見たのも……きっと過ごし辛そうにしたのを見て、安心してと言ってくれたんだと今なら分かる。
「先生……あれ以来ね。友達増えたんだ……」
きっとあの教師なら「自分は何としてない」と言うだろう。
そんな所がまたエリスの好きだと思えるポイントだった。
「でもさ、周りの生徒も……きっとクラっちのことを特別だと見ていると思う」
特にユスティは怪しいどころの騒ぎじゃない。ハイエルフ由来のやんごとなきボディを使われたら、初心な男なんて簡単に出血多量であの世行き。対してエリスは良くも悪くも普通……ちょっと腹筋割れて筋肉質なのが、ちょっと気になってしまう。
「あんなに特別まみれな子達に……負けないでリードするにはどうしたら良いのかなー」
別に一撃で惚れさせる事が出来るとは思ってない。
ただ印象づけたいのだが、その機会が中々ない。
「どうしたら……いいかなー」
そんなぼやくエリスだったが、図らずともそのチャンスは結構早く訪れる事になる。
◆
「エリスー! パスパス!」
「はい――よっと!」
放課後の自由時間、エリスとデイヴィッドの他に2人のブルームレース所属の友人と共に、誰でも使える浮遊魔法を使ったボール遊びをしていた。名前はエアロボール、ルールは簡単でお互いの陣地に浮かぶリングの中にボールを通して点数を稼ぐだけ。
内容的にはサッカーに近かった。
「よっと!」
「わ!」
エリスからパスを貰った同じクラスの少女――ネプカは杖から発した魔力でボールを受け止めると、そのまま射出してゴールを決めた。彼女はエリスと最初に友人になったブルームレース部の1年生であり、親友の1人である。
「エリちゃんイェーイ!」
「ネプちゃんもよくやったね!」
元気いっぱいに2人はハイタッチ。
見ただけで癒される光景だった。
「さっすが親友、息の合ったコンビネーションだ」
「もうエリちゃんの考えは手に取るように分かるよん、ふふふ……」
ネプカ・シュピーはハーフリング出身の褐色の肌が目立つ小柄な少女だ。赤みがかった栗色の髪に、淡い青の瞳、身長は130センチ後半と小さい。皆からはマスコット扱いされている癒しキャラである。
ただし単なる癒しキャラではブルームレース部で、活躍するなんて無理だ。彼女の身軽さを活かしたアクロバティックな飛行スタイルは、上級生からも一目置かれているのだ。
「すばしっこいから中々捕まらないぜ……ったく。まんまとやられたわ」
「お疲れ、デイヴィッド」
「ミュラーもな」
同じブルームレース部所属のミュラー・アインドルは、ハーフエルフの少年だ。中性的な見た目をした線の細い体格をしているが、エルフの血を受け継いでいるだけあって身体能力は高い。彼はブルームレースの腕前なら1年生の中でも屈指だ。
「私たちのコンビネーションの前じゃ、流石のミュラーも歯が立たないか」
「ははは、これはエアロボールだよ? ブルームレースの実力とは別さ」
「いけすかない笑み浮かべやがって!」
ネプカは怒ったふりをしてミュラーを追いかけていく。いつも通りの穏やかな放課後、エリスは抱えていたストレスが段々晴れていくのを感じていた。
(やっぱり遊びの範疇での運動はたまらなく好きだな)
勿論部活も好きだが、あれはかなり気が張ってしまう。肉体的な疲れより精神的な疲れの方が辛い。
(今日は何も考えずにひたすら――)
――遊ぼう。
そう思った矢先、ネプカが叫ぶ。
「あ! クラっちー!」
「っ!?」
突然、慕っている人の名前が叫ばれてエリスは慌てる。
好奇心旺盛なネプカは、そのままダッシュを決め込んで校庭にいたクラヴィスに近寄る。
「ん? ネプカ……どうした?」
「どうしたじゃないよ! 何してんの??」
クラヴィスはシャツを腕まくりして着崩していた。手には何も持っておらず、ポケットに突っ込んでいる。何か用があって来たような雰囲気じゃないのは明らかだった。
「散歩だよ散歩、ずっとデスクワークしてたら健康に悪い。たまにはこうして運動しなきゃな」
「運動に入るの?? それ」
「お前たちみたいに全力で運動しちゃったら、夜眠くなっちまうだろ……」
ただでさえ授業で体力使うのに、さらに運動したら後が持たないと付け足すクラヴィス。ただネプカにはあまり意味がわからなかったようで……。
「夜は寝るもんじゃないの??」
「夜は仕事してるよ?? 何言ってんの?」
「うわ……ドス黒い目してる……これが社畜か……」
ネプカは初めて生きた社畜見たーとキャッキャ騒ぐ。
もはや動物園にいる珍しい生き物扱いだった。
「クラヴィス
「おーデイヴィッドにミュラー、それに――エリスも。なるほどブルームレース部組で仲良いこって」
「あ、うん……」
ちゃんと普段から先生呼びしてくれるデイヴィッドを見て、クラヴィスは何となく察した。4人は普段から仲が良く、放課後を一緒に過ごしているのをよく見ている。
ただエリスが何となく大人しいのを見て、クラヴィスはちょっと気になった。
「エリス、大丈夫か? なんか体調悪いのか?」
「え? いや……そんなことないよーうん」
「先生、エリスは今ちょっと別の病を――「ちょっと待てやミュラー」――んぐぇ」
エリスはいきなりミュラーを羽交締めすると、クラヴィスから引き離す。
「ねぇ何言うつもりだったの?? ねぇ」
「いや、だって……エリスはクラヴィスさんにお熱――」
「その話は匂わせるな……!」
彼らはエリスと非常に近しい関係性だ。
ならば当然エリスがクラヴィスに抱く感情にも理解を示している。ちゃんと上手く行けるよう応援するよとも言っていた。応援してくれるのはありがたいが、こんな場所でぶっちゃけるのは絶対に違った。
「でもさ、これってチャンスじゃない?」
「何が?」
「だってさ、エリスの得意分野じゃん? 運動」
「……んまぁそうだけど」
何が言いたいんだとエリスはミュラーを睨むと、何やらニヤついた顔でミュラーが耳打ちする。
「いいとこ見せつけてさ、クラヴィスさんにアピールしようよ」
「お前……天才か??」
「ふふ、まぁね」
前言撤回――ミュラーは天才だ。
エリスは固い握手を交わすと、まるで戦場に向かう兵士の如く険しい表情をしながら、クラヴィスに語りかけた。
「クラっち」
「エリスか、遊んでた所邪魔して悪いな」
「ううん、邪魔なんて思ってないよ。それよりさ……今暇なの?」
不安を隠したエリスが聞くと、クラヴィスは顎に手をやるとうーんと考えた。
「暇ってわけじゃないけど、時間はあるぞ」
「それならさ、アタシたちと一緒に遊ぼうよ」
「いやだから疲れ――」
「何も本気じゃなくていいよ、ただ軽く運動したらストレス発散出来るじゃん?」
確かにそれは的を射ている。
エリスはすかさずネプカに目配せすると、2人しておねだりするように上目遣いした。デイヴィッドは「うわぁ」と声を出したが、エリスが本気だと知っている以上は邪魔なんて出来なかった。
一応親友としては上手くいってくれた方が良い。
多少ぶりっこしたって仕方ないのだ。
まぁ後で揶揄いのネタにはするが。
「かわいい生徒の頼みぐらい聞いてよー」
「んー……! じゃあ仕方ない! ちょっとだけだぞ?? いいな!?」
「やった、ちょろいぜ」
「おいネプカ、せめて俺から離れた位置で言え」
面と向かって言うか普通、とクラヴィスは突っ込むが、本人はすっかり乗り気だった。だからちょろいと言われてしまうのだが……今更な話だ。
「じゃあ、クラっちはね」
アタシと同じチームになってとエリスが言おうとしたが、それを阻む予期せぬ乱入者が現れた。
「ちょっと待ったぁぁ!!!」
「ん!?」
周りがびっくりするぐらいデカい声をあげたのは、何と愉快なギャルーズの1人――メアだった。しかも側にはユスティまでいた。クラヴィスは内心でスタメンが揃ってやがると思っていた。
「メア……!」
「ちょっと聞いたら何か面白そうな事になってんじゃん、なぁエリリン!」
「いつから聞いていたの……」
メアの馴れ馴れしい絡みを前にエリスは顔をひくつかせた。
まさかここに来て強烈なキャラしかいないユスティ達がいるなんて思わなかった。
「アタシ達と遊ぼうのとこからよっ、エリリン」
ユスティは軽くウィンクし――デイヴィッドとミュラーはちょっとキュンとした。クラスのマドンナ的な存在であるユスティは、ルーメンクラスだけじゃなく1年生の男子生徒から熱烈な人気を獲得している。
「貴様ら……」
「「ヒィ!」」
ちょっと頬を赤らめた2人をエリスはギロリと睨んで威圧すると、ユスティの真正面に立つ。
「まさかユスティが割り込むなんてね……」
「割り込む? 私は普通に遊びたかっただけよ? クラっちも交えて――ね?」
「ふふ……なるほど、そう来たか」
バチバチと火花を散らす両者――クラヴィスは当事者の癖して、一体何でこんな事にと汗をたらりと流す。
「ちょうどいいじゃない、私たちとエリスのチームでエアロボールの勝負しようよ」
「へぇ……だけど普通に勝負はつまらないと思うなぁ」
「じゃあ何か賭けようか……そうだね、景品は勿論――」
ユスティはズビシとクラヴィスを指差す。
クラヴィスの意見は勿論無視だ。
「――いいね、乗った」
エリスは不敵な笑みを浮かべた。
ユスティは強敵だが、運動神経で負けるつもりはなかった。伊達に運動部に所属していないし、むしろアスリート的な思考から胸が熱く煮えたぎっていた。
「チーム分けは」
「私たちは5人、クラっちをそっちに入れたらいいんじゃない?」
いいのかとエリスはユスティに目配せすると、ハイエルフならではの人間離れした美貌を妖しく歪めた。
「いいよ、私の勇姿を焼き付けるなら相手役の方が印象残るだろうし〜……?」
「……ははは、言ったな……」
ふふふと不気味に笑う少女2人。
クラヴィスはすっかりタジタジになりながらも、エリスのチームに入るとメアが頬を膨らませた。
「えー、いっそのこと審判にしちゃお」
「さっき俺を運動に誘っておいてそれは酷くない? メアさんや」
「一緒に遊びたかったもーん」
不覚にもクラヴィスはかわいいやつめ……とやられかけた。そんな姿を見たユスティはメアに耳打ちする。
「勝てばたくさん遊べるようにしてあげるから」
「!」
メアの目の色が変わり、ウェアウルフの血が騒ぐ。
こうしとけばメアはもう無敵であると知っていたユスティは、改めて宣戦布告する。
「エリス、この勝負……私たちがもらうからね。ふふふ」
「ふ、ふふ、ふふ。やってみろよ……」
多少の想定外はあったが、まあいい。
エリスはこの特別な存在である彼女を倒し、より鮮烈な印象をクラヴィスに与えてやると決心する。
(もう勝つしかないぞ……アタシ!!)
かくして見た目と性格がとにかく目立つギャルーズと、これといった特徴はないけど負けん気だけはあるパンピー達の、仁義なき球技大会が開かれた。
ユスティについて深掘りする話を放り込むべきだったらかもと後悔。
もしかしたら2話か3話辺りに、新しく話を追加するかもです。