生徒に舐められていると勘違いしているけど、実は裏で生徒全員からめちゃくちゃ慕われている魔法学校教師   作:アスピラント

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迫る期末試験

 時刻は午後7時、全学年の授業が終わりを迎えて夕食を楽しんでいる時間帯にて、とある部屋では未だに何人かが活発に議論し合っていた。

 

「――という事で、期末試験は先程の範囲内であればよろしいかと。他に何か意見はあればぜひ」

「こちらからは何も」

「同じく」

 

 その部屋は職員室だった。

 1年生を受け持つ担任教師と、それぞれの科目を受け持つ教師達は大きな黒板に、魔法で浮かせたチョークで持ってスラスラと何かを書き留める。書かれていた内容はズバリ――期末試験の範囲だった。

 

 そう、いよいよ学生にとって苦難の時期と知られる期末試験が直近に迫っていたのだ。

 

「では次、魔法理論の内容に関しては一体どの辺りのレベルを参考に作ってます?」

 

 そんな重大な会議にて、議長を務めていたシルフクラスの担任教師――シルヴィアがクラヴィスに話題を振った。エメラルドの長い髪を靡かせたハイエルフの魔法使いである彼女は、教師陣の中でも最年長だ。

 ちなみに最年長と本人に言うと風の魔法で死ぬより酷い目に遭うと噂されている。

 

「魔法理論に関しては一部応用問題を除き、基本的には1年生で習う内容を網羅した上で解ける内容にしていますが……念のため確認お願いします」

 

 話をふられたクラヴィスはやや緊張気味に答えた。

 実は中間試験を作った際、どの程度の難易度にしたら良いか分からなくてうっかり激ムズにしかけた前科があった。だからこそクラヴィスは「これぐらいで大丈夫だよね?」という意味合いで皆に見せた。

 

 担任教師陣の6人と他科目を受け持つ10数人の教師陣も、マジマジと見る。

 

「――うん、難易度は高いけど1年生ではこの辺りが充分かと」

「ええ、ただ応用問題ですが……1年生で解ける子いますか? かなり難しいですよ」

 

 肯定気味の回答が多数を占めたが、中には応用問題に対して苦言を呈される。ただクラヴィス自身はこんな反応されるだろうという予想はしていた。

 

「ええ、実際……この問題は上級生でも解けない子はいるでしょう」

「なら……」

「ですが、これには理由がありまして……」

 

 しかしこの問題を入れたのも訳がある。

 思い当たる節があった担任教師陣は、ちょっとばかり苦笑する。

 

「うちのクラスにいるジルガは、もう既に学生レベルを超えた知識があります。そして……他クラスにも何人かいましてですね。彼らの存在と能力は他の生徒の刺激にもなっています。なので敢えて応用を入れています」

「競争意識を持たせるためにと?」

()()()理由のひとつです」

 

 ジルガ・オブスキュラ。

 ルーメンクラス在籍の魔族出身の才女である。

 何を隠そう彼女は学年1位の成績の持ち主、生半可な問題じゃ彼女は容易く満点を取れてしまう。そんな彼女と彼女に追いつくために奮闘する他クラス生徒のために、クラヴィスは敢えて難しい問題を放り込んだ。

 

 全ては彼女が退屈しないようにするために。

 クラヴィスはその一心だった。

 

「わかりました、試験範囲はこのままでいいかと」

「ありがとうございます」

 

 良かった、認めてもらえた――そう安堵したのも束の間、会議参加者から次の質問が飛んできた。

 

「ですが……クラス順位の件は大丈夫ですか」

「――――」

「あまり難しいと……自らの首を締めることになりますが……」

 

 クラヴィスは冷や汗ダラダラだった。

 ああ……そう言えばそうだ。

 ちょっと色々考えなきゃやばいなと、頭の中はぐるぐるしていた。

 

「あなたのクラスは良くも悪くも目立つので」

「はい……」

「ルーメンクラスの伝統や権威を……くれぐれも蔑ろにしないように」

「はい……」

 

 最後にきっちり釘を刺されてクラヴィスは渋い顔をする。

 試験難易度ちょっと緩くすべきだったかなと。

 

 ◆

 

「はー、どうしよ。試験内容は簡単にした方がいいか……?」

 

 会議が終わり、クラヴィスはいつも以上に怠そうにしていた。理由は明白、中間時点でルーメンクラスは歴代のルーメンクラス最低クラスのクラス順位である4位だったからだ。

 

「勿論アイツらの為を思うなら難しくして、ちゃんと真面目にやってもらうように呼びかけたらいい……けどぉ」

 

 中間試験までクラヴィスはクラスメイトとは心の壁があった。しかもちょっとしたトラブルもあったりして、クラス環境はかなり悪くなっていたし、正直言って最悪のスタートだった。

 今なら多少はマシだろうが、いきなり4位から1位か2位に上げるのは難しい。しかも1位になったニクスクラスは歴代最高とも噂の生徒達。勝ち目はなかなか薄かった。

 

「あいつら授業は真面目で筋は悪くないんだけどな」

 

 いまだクラヴィスの中では、自分のクラスメイトは言う事をちゃんと聞くかわからないキャラばっかだった。なんだかんだで嫌ってはいないはずだが、勉強しましょうねと呼びかけて「はい! わかりました!」と威勢よく言う姿が想像出来なかった。

 このままじゃまずい、試験内容をちょっと優しくするしかないかと、半ば狡い考えが過ぎった辺りでクラヴィスは肩を叩かれた。

 

「クラヴィス先生、お疲れ様です」

「ヴィヴィアン先生!」

 

 声をかけてきたのはウンディーネクラスの担任教師――ヴィヴィアンだった。水色のふんわりボブカットが特徴的な彼女は、天文学とルーン魔術の専門家だ。年齢は28歳とクラヴィスより歳上だが、教師になったのは2年前と最近だ。

 

 とは言えクラヴィスからしたら先輩だ。

 事実この学校で働き出してからは、何かとお世話になっている。

 

「何やらお困りみたいですね、ふふふ」

「いやー……試験どうしようかなと思って……」

 

 クスクスと微笑ましい様子で笑う彼女は、教師陣の中でも癒しキャラ枠としての地位を確立しているだけあって、かなり様になっていた。クラヴィスは内心で「可愛らしい人だな……」と思いつつ、頭を掻いているとまた別の人物がやってきた。

 

「今のままで良い気もするがな! 何せルーメンクラスは才気溢れる子ばかり! 問題ないでしょう!」

「イグニスさんは体育部門で試験作る難しさとか、いまいちわからないでしょうに」

「はは! ヴィヴィアンは相変わらず手厳しいな!」

 

 暑苦しいという言葉が似合う、体格の大きな男――イグニス。彼はサラマンダークラスの担任教師であり、魔術による肉体強化と魔法戦闘部門のエキスパートだ。赤い短髪に、縦に切れ込みを入れたような形状をした瞳孔、丸太ぐらい太い腕とドッシリした下半身は、彼が竜の血を引く証拠でもあった。

 

「クラヴィス、ヴィヴィアン、良かったら昼食を共に取らないか?」

「イグニス先生、俺は仕事が――」

「昼休みぐらいはしっかりと休む! きちんと切り替えるのも大事だぞ!」

「うぐ……暑苦しいなこの人!」

 

 そう言うと、イグニスはいきなりクラヴィスのデスクに散らばった書類を素早く片付けてしまった。イグニスは悪い人じゃないし良い人だが暑苦しいのだ。とりわけ体育の時間になったらガチすぎて、生徒たちの中にはイグニス先生に苦手意識を持つ者までいた。

 そして苦手意識を抱くのは決まって文化系のクラブ活動をしている子だ。

 

「イグニスさん、あなたまたそう言って無理矢理するから……」

「だがなヴィヴィアン、切り替えは大事だぞ?」

「生徒たちからノンデリって言われるんですよ?」

「っ!!?」

 

 ヴィヴィアンは冷たい目でイグニスを刺し貫く。

 イグニスは目に見えてショックを受けていた。

 

(ヴィヴィアン先生、たまに目が怖くなるんだよな……。可哀想に……イグニス先生……)

「さてクラヴィス先生、このノンデリ――じゃなくてイグニスさんの言う通り、昼休みは休む時間ですよ? それに悩み相談なら休み時間に聞けますから」

「は、はい……」

 

 もうノンデリ言ってるじゃんとツッコミたくなる気持ちを抑え、クラヴィスはすっかり立ち直ったイグニスに連れられて食堂へ向かうと、3人はそれぞれ別のメニューを頼み出した。

 

「ヴィヴィアン先生はヘルシー志向なんですね」

「はい、健康には気を使わないと。クラヴィス先生はパン好きなんですか?」

「手っ取り早いので……」

 

 2人はちょうど一人前ぐらいだが、イグニスだけは違った。

 

「2人はもっと肉を食った方がいいぞ、体は資本だからな」

「昼からステーキは私に重すぎます」

「俺は胃がもたれちゃうので」

「むぅ……うまいのに」

 

 大盛りのライスにでっけぇステーキ、ガッツリ過ぎてクラヴィスは見てるだけで胃もたれしかけていた。まぁガッツリ食わないと体が作れないからだろう。ある意味職業病なのはクラヴィスも理解していた。

 

 と……食堂でサンドウィッチにむしゃぶりついた辺りで、見知らぬ生徒たちが自分達を見て会釈した後、元気よく挨拶してきた。

 

「あ、先生! こんにちは!」

「廊下は走るなよ!」

「げ! イグニス先生だ!」

「ゲって言うんじゃない!」

 

 生徒に厄介者扱いされるイグニス。

 対するヴィヴィアンはと言うと。

 

「ヴィヴィアン先生!」

「あら、こんにちは」

「また教えてください!」

「今度、私たちの勉強会で――」

 

 女子生徒を中心に人集りが出来ているほど、めちゃくちゃ人気者だった。2人とも全く異なる反応をされているのが何だか面白い。

 

「相変わらず生徒から人気だな、ヴィヴィアンは」

「ですね……」

「俺は立場的に避けられやすいからな、生活指導もしているとやはり接しづらいのだろう」

 

 多分それだけじゃないですよとは口が裂けても言えない。

 クラヴィスはそんなことを思いつつ、こうして同僚と穏やかな時間を過ごせる事に、何となく感動すら覚えていた。

 

(前職じゃ絶対あり得ない光景だからな!)

 

 同僚、先輩、誰もが冷たいところだった。

 クラヴィスも環境に順応しようとして――壊れた。

 

(この……優しい空間が……俺にとって何よりの……)

「クラヴィス先生?」

「ぅお!?」

 

 暗くなりかけたクラヴィスの意識が戻ったのは、ヴィヴィアンの呼びかけだった。

 

「大丈夫ですか? ちょっと暗い顔してたので……」

「ん、あ、いやいや! テスト……どうしようかなって悩んでただけですよ!」

 

 うっかり前職時代のトラウマを思い出しそうになったが、クラヴィスは気を取り直す。嘘みたいに聞こえるが、テストに関してどうすべきか悩んでるのは本当だった。

 

「ああ、先程の試験範囲についてですか」

「はい……ルーメンクラスの伝統というか、まぁ順位についてぐちぐち言われましてね」

「ちなみに前回は何位でした?」

「……4位ですね、ルーメンクラスが4位になったのは100年振りだと聞きました」

「逆に100年に一回の逸材と捉えればいいじゃないか」

「洒落にならないですよ! イグニス先生!」

 

 クラヴィスに苦言を呈したのは、比較的ベテランの地位にいる教師陣からだ。古き良き時代――と言えば聞こえは良いが、実際の所は学校の評判を落としたくないという、生徒たちのことは二の次にした体制を重視する連中だ。確かに成績不振が目立てば生徒の将来にも響くが、どうにもそれを隠れ蓑にしているようにしか見えなかった。

 

(まぁ俺自身……仕組み作りから変えたいと思ってやってきた訳じゃない。自分が受け持つ生徒たちが夢を叶えられるように背中を押すのが仕事だ)

 

 壮大な目標などないが、自分のやるべきことは決まっている。先生として生徒のために何が出来るか、それだけを考えればいいと彼は考えていた。

 

「――なるほど、試験の内容をどうすべきかですか」

「勿論難易度は高くしますよ、ただルーメンクラスは何かと俺の言う事を素直に聞くか、怪しい連中ばかりでして」

 

 主に騒がしいのが大好きなギャルーズや運動出来る男子達が――と心の中で付け加える。生徒たちとの仲は多分良好だとクラヴィスは思っていた。実際は良好どころじゃなく、マジで愛が深い生徒もいるがわかっていなかった。

 

 まぁ普段からろくに先生呼びをしてくれなかったりするから、そこで舐められていると感じてしまうのも無理はなかった。

 

「なるほど、つまりは生徒がちゃんと試験を重要視してくれるかわからないと」

「はい、だからちょっとだけ緩くした方が良かったかなと……」

「ふむ」

 

 ヴィヴィアンは暫しの沈黙を挟んだ後、真面目な顔をして答えた。

 

「先生、あなたの生徒はちゃんと言う事を聞くと思いますよ?」

「……そうですか?」

「はい、というか……クラヴィス先生なら確実に聞いてくれますよ」

 

 ものすごく真摯に答えたヴィヴィアンだが……実は言うとクラヴィスが生徒から尋常じゃなく慕われているのは知っていた。

 

(というか慕うを通り越してるわね)

 

 ヴィヴィアンは人の感情の機微に、かなり鋭いのだ。

 目線や魔力、声色や振る舞いで何となく察してしまうぐらいの観察眼。そして自分自身がそう言った心理に関わる魔法のエキスパートというのもあって、抱く感情が強ければ強いほどオーラとして見えてしまうぐらいだ。

 

 そんなヴィヴィアンがルーメンクラスに何気なく立ち寄った際は、()()クラヴィスに対しての重い感情が可視化されて「おもてぇ」とキャラブレ起こしかけたぐらいだった。

 

「クラヴィス、先生として大事な要素には生徒を信じる事も含まれるぞ」

 

 そしてイグニスは付け加えるようにアドバイスをした。彼は機微に疎い、つまり鈍い方だがちゃんとした先生だ。暑苦しいと言われがちだが、彼のことを尊敬する人は多い――全員体育会系だが。

 

「俺はルーメンクラスの子達と接点は少ないが、話を聞く限り……皆きちんとしている子ばかりだ。それはクラヴィスも理解してるだろう?」

「は、はい、まぁ」

「なら大丈夫だ、だから無理してテスト難易度を下げるとかしなくていいと思うぞ」

「そうですよ! このノンデリが言うぐらいですから、きっと大丈夫です。クラヴィス先生がその口で直接言えばわかりますよ」

「……ヴィヴィアンは俺にも優しくしようか」

 

 さらりと貶す辺り、ヴィヴィアンはちょっと黒いところがありそうだ。クラヴィスは聞かなかったふりをしながら生徒たちの事を考えた。

 

(そう、だったな……あいつらは授業中はちゃんと真面目だ。ならきっと取り組んでくれるはず)

 

 クラヴィスはまだ新米だ。

 幾ら優秀だったとは言え、こうした人間関係はまだまだわからないことばかり。言われて初めて気がつく事ばかりだ。

 

「ありがとうございます、ヴィヴィアン先生」

「いーえ、私なんかのアドバイスが参考になれば」

「なりますよ!」

 

 むしろ彼女にはめちゃくちゃ助けられている。

 これからも相談しようと固く誓った。

 

「俺のアドバイスはどうだ?」

「イグニス先生もです!」

 

 言われるまで忘れてた……とは流石に言えなかったクラヴィスは、誰もいなかったらイグニスを頼ろうと決めた。

 

 ◆

 

「――はーい、お前らちょっと話を聞いてくれるか?」

「んー? クラっちまだ何かあるの?」

 

 明くる日、魔法理論の授業がひと段落してからクラヴィスは早速ルーメンクラス全体に向けて切り込んだ。皆授業は終わったと油断していたのか、訝しげにクラヴィスを見ていた。

 

「皆、あと2週間経ったら何がある」

「夏休み!!」

 

 メアが勢いよく立ち上がって宣言すると、皆も一緒に席を立ち上がって湧き立った。

 

「「ついに来たー!!」」

「おい、メア! 違わないけど――」

「ね! 皆でどこいくー?」

「やっぱり旅行だろ!! オルダは?」

「俺は騎士団の活動あるからなぁ……」

 

 いや違わなくはないけど違う――とクラヴィスは言いたかったが、夏休みという魔法のワードを前にしてテンション上がらない学生はいない。

 

「クラっちは夏休みどうするの?」

「何だユスティ……知りたいか」

「そら勿論! 良かったら〜? 私達と遊ぶ??」

 

 艶やかな表情で誘うユスティとメア達、男子達は少しばかり顔を赤くする一方でクラヴィスの顔は死んでいた。

 

「仕事ダヨ」

「……あら」

「しかも他国の学校へ行く研修出張もあるヨ、休みは5日ダケダヨ。ドーダスゴイダロ。コレガオトナダ」

「ごめんって先生!!」

 

 目をぐるぐる回しながら迫るクラヴィスを見て、ユスティ達はすっかり怯えてしまった。まぁ社会人の夏休みなんてそんなものである。学生時代みたいに長期間の休みを取る機会はほとんど無い。

 

「ま、それは冗談として……お前たち、そろそろ期末が近いのはわかってるよな?」

 

 話を切り替えようとクラヴィスは改まって学生にとって最も触れてほしくない話題ベスト10には入る内容――期末テストについて切り出した。

 

「わかってるってば、私達は……エリートですからっ!」

 

 キラーンとエフェクトがかかりそうな勢いでウィンクするユスティを見て、クラヴィスはいやさっきまで夏休みの話で忘れてたろと目で訴えた。ただ……実際ルーメンクラスは優秀な生徒ばかり。皆15歳の若さにしてちゃんと将来像を明確にしてる子ばかりであり、勉強に関してもしっかりやってくるタイプではある。

 

 しかしそれは他の学校に比べたらの話だ。

 ここでは皆やっていて当たり前であり、ルーメンクラスはその中での代表である。優秀な生徒たちの見本と見做される立場なのだ。

 

「って言ってるけど、前回の中間……俺たちは7クラス中何位だった?」

 

 クラヴィスは含み笑い全開にして言うと、皆何とも言えない表情をし出した。何故なら皆()()()触れないようにしていたのだ。

 

「ユスティさんや……何位だった??」

「……4位」

「はい、そうなんです! 4位なんです! 最下位ならまだ笑いに出来たけど4位はガチ感が出て弄りにくい!」

 

 何だその理由――とクラスメイトの心理は今一致した。

 しかしこれにはちょっと深い訳があった。中間時点でルーメンクラスはクラヴィスに対して信を置いてる生徒がまだ少なかったのだ。周りの生徒はまだまだエリート思想がびっちりとこびりついていたし、学校は単なる踏み台程度にしか捉えていなかった。

 

 そんな中でやってきた新米教師クラヴィスは、いきなり皆に対して大馬鹿者呼ばわりした後に、皆の意識改革を行った。今までとは違う態度を取る先生を前に、皆はただ困惑した。だが今では逆に先生は生徒を思い遣ってくれる人物としての印象が高まり、慕いすぎる人まで現れた。

 

 つまりこの順応していく期間でルーメンクラスは、勉強が身に入らなかった子が割といたのだった。

 

 それが意味するのはつまり――

 

「――あれ? クラっちのせいじゃない?」

 

 ユスティが真顔で言うと皆も「確かに……」と頷く。

 

「何でだよ! 試験を受けたのはお前ら! 成績落ちたのを俺のせいにするんじゃない!」

「それは勿論そうだけど、メンタルも重要だよ??」

 

 クラヴィスは膝から崩れ落ちそうになった。

 ああ……確かに、何も言えないな。やらかしてるのは自分だと。しかしだからといって仕方ないですねで終わらせる訳にはいかない。

 

「その点についてはごめん、俺も皆を混乱させた責任はあるからな」

「あ、いや……全てクラっちのせいとかまでは思ってないけどね」

 

 ユスティは焦ったように言った。

 

「ああわかってるさ、ユスティ」

「うん……」

「皆、順位についてだが俺の目標としてはクラス一位を目指して欲しいと考えている」

 

 あれほど騒いでいたクラスは静かにこちらをまっすぐ見ていた。切り替えが早い、これには話しを切り出したクラヴィス自身が感心してしまった。

 

「何故、俺が1位を目指して欲しいと言ったか理由わかるか?」

「はい」

「お、メアか。珍しいな」

 

 すぐに手を挙げたのはメアだった。

 

「ルーメンクラスは代々……ニクスクラスと双璧を成す最優秀なクラスと定められたクラスだからです」

「ふむ、続けて」

「私達の学年に限らず、7クラスは色々な学問に特化した生徒が集っています。サラマンダーなら運動系、シルフなら魔法生物などの生物学に特化した生徒がいるように、各クラスで優れた生徒が集まっています」

 

 つらつら喋るメアを見て、クラヴィスは普段の姿からじゃ想像つかないなと苦笑した。

 

「しかしその中でもルーメンとニクスは別です。この2クラスは全てにおいて優れた生徒を揃えています。入学時点での成績を踏まえて今私達はここにいます」

「ああ、そうだ。ルーメンとニクスは特別――それが伝統だと。卒業生の中でも著名人となった魔法使いの何人かはルーメンかニクス出身の人が数多くいる」

 

 この2クラスはいわば学校の顔である。

 世間に対してこんな優秀な人を輩出しているんだ、スゴイだろとアピールして入学する生徒を増やしてきているのだ。そうなれば必然的に古い先生方はかなり必死になる。

 

 ただ――クラヴィスは学校の誇りなんぞ、別にどうだって良かった。

 

「だけど俺がお前達に1位になって欲しいのは……学校のためとか、前回1位だったニクスに勝ちたいからとかじゃない。1位になったクラスは将来の夢を叶えるためのサポートになってくれるからだ」

 

 クラヴィスは黒板に何かをつらつらと書いていく。

 

「1位になったクラスは、他クラスとは違って……学生インターンをいち早く受けられるんだ」

「学生インターン……」

「早い話、職場体験みたいなもんだ。騎士団志望なら本職の人と一緒になって、訓練や話を聞けたりする」

 

 クラヴィスはオルダの方を見て話す。

 オルダは目を輝かせながらうなづく。

 

「他もそうだ。この国にはとある有名な錬金術師がいる。そいつは様々な大企業と契約しては、誰もが見惚れてしまうような魔法を編み込んだ装飾品を手がけている。アルバイト感覚でもマジックジュエリーの技術を身につけられるかもしれない」

 

 今度はユスティを見て言った。

 彼女はほんのりと顔を赤くすると、ぎゅっと拳を握りしめた。

 

「たかが試験と侮るなかれ、1位になればそうした特権を扱える機会が増える。学校の伝統とか関係なく……俺はお前たちの未来が幸せなものになって欲しいから、こう言ってるんだ」

 

 大っぴらには言えないが、伝統なんか知ったこっちゃないのだ。学業は大事だが伝統に捉われず、あくまでも自分のために励んで欲しい。そんな気持ちを込めて言った彼の言葉は――

 

「わかりました、じゃあ私達で頑張って1位を目指します……!」

「まぁ……私達が本気出せば良いだけの話だからねー」

 

 ユスティ達は不敵な笑みを浮かべ――

 

「1位……ハードルたけぇなぁ……」

「デイヴィッド、気持ちで負けたらダメだよ」

「わかってるよエリス。手なんか抜かない……自分の為だからな」

 

 エリス達はため息を吐きつつも、闘志を露わにする。

 

「俺たちも頑張らないとな」

「そうだな、オルダ」

 

 オルダを入れたリーダー格の男子達は、控えめにしつつも確かな決意を固める。

 

(俺の心配は杞憂だったな……)

 

 いつものおふざけはどこへやら。

 夏休みムードだった空気は無くなり、今じゃ試験に立ち向かう勤勉な生徒がそこにいた。これならきっと大丈夫だろうと考えていると、1人の生徒が少し不安そうに言った。

 

「でも1位目指すなら……相手はあのニクスクラスだよね」

「歴代最高峰って噂だもんな……」

「普通にやって勝てるかな」

 

 クラヴィスはやはりその話題になるかと思った。

 今年のニクスクラスは、何ととんでもなく優秀らしい。どうやらクラス委員長が、中々カリスマ性に富んだ人物らしく、恐るべき手腕と統率力で、クラスをまとめ上げているとか。

 どこぞの独裁政治かと思うような話だが、事実結果は出している。真正面からじゃ勝つのは中々難しい相手ではある。

 

「なるほど、確かにニクスクラスは強敵だろうな」

「うん……ちょっとそこがネックではあるかも」

 

 苦笑するユスティを起点に、やる気がちょっとだけ萎む。

 だが……こちらにはそんな彼らでさえ及ばない逸材がいるのだ。

 

「だけどそんな心配しすぎる必要はない」

「クラっち?」

「ジルガ!」

「……わたし、ですか?」

 

 クラヴィスが名を呼んだのは、もっと後ろの座席にてずっと本を読んでいた魔族の少女――ジルガ・オブスキュラだった。

 

「ジルガ、君は学年1位だ。全教科満点を取って圧倒的な差を見せつけている」

「ええ、そうですね」

 

 全く表情を動かす事なく、ジルガは淡々と答えた。

 実はちょっと褒められて嬉しかったりする。

 

「そこでだ、ニクスクラスに勝つためにジルガの力を借りたい」

「……と、言いますと」

 

 しかし話の流れがジルガにとってあまり良くない方に流れていた。彼女はあまり社交的じゃない、友達だってほとんどいない。自分では認めたくないが、ボッチであるジルガは嫌な予感をビンビンに感じていた。

 

「クラスメイトに勉強のサポート、お願い出来るか?」

「ぇ、あ、ぇ」

「俺もサポートする、心配するな」

「ちょっと、そんな、問題じゃ……なくて」

 

 気づけば皆の目が一斉にジルガに向いていた。

 

「ジルガちゃん! ちゃんと話してみたかったの! よろしく!」

「小さくて可愛らしくて、おまけに頭良いとか最強か!」

「あ、ばばば……」

 

 ユスティ達は早速距離感バグった詰め方をしだす。

 いきなり大役を任せられたジルガは、ただひたすらに声にならない悲鳴をあげそうになっていた。

 

「で、出来る……事は……全て、します」

「ああ、だけど無理はしなくていいからな」

「……なら試験終わったら色々と無茶な要求します、覚悟してください先生」

「ジルガ……目が怖いぞ」

 

 こうなったらやるしかない……ジルガは半ばヤケクソ気味に了承した。試験まで2週間、ルーメンクラス全員で挑む最初の関門が間も無くやってこようとしていた。

 




次回もお楽しみに!
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