生徒に舐められていると勘違いしているけど、実は裏で生徒全員からめちゃくちゃ慕われている魔法学校教師 作:アスピラント
ジルガ・オブスキュラは間違いなくこの魔法学校で、1番と言ってもいいお嬢様である。何せ彼女のご先祖さまは昔魔族とその他種族がはちゃめちゃに仲悪かった時代にて、史上最強にして最恐の異名を持つ偉大な魔王なのだ。
一時期は本当に世界征服を達成して、勇者すら下して悪逆の限りを尽くしたという。
今でこそ魔族との平和条約は結ばれて、種族関係なく手を取り合って生きることが出来る世界になったものの、長命な種族を中心に今だに恐るべき者として触れちゃいけない存在になっている。
そんな凄まじい魔族の血を受け継ぐジルガは、生まれながらにして全てに恵まれていた。優しい両親と多すぎる使用人に囲まれ、蝶よ花よと大切に育てられた彼女は学生の枠組みから逸脱するレベルで優秀になった。
魔力、知力、魔族由来のフィジカル、全てが一級品。
まさに完璧な才女――しかし弱点が存在した。
「――ど、どうしよう……上手く出来る……のかななな……」
甘やかされた結果、バチバチに重度なコミュ障が完成されたのだ。今までちゃんと話してきたのは身内と、唯一の理解者と見ているクラヴィスぐらい。
「……はぁ、今までのツケが回ってきた気分……」
ジルガは自室でめちゃくちゃ悩み苦しんでいた。
理由は先日クラヴィスから言われた一言だ。
――成績に自信ない奴に勉強を教えてやってくれないか――
もはやコミュ障にとっての死刑宣告だ。
ジルガは絶望し実家に引き篭もりたい。
しかしクラヴィスは何もいじわるしたいから、そんなきつい事を言った訳じゃない。
全てはジルガに成長機会を与えるのと同時に、ルーメンクラスを首位に返り咲かせる為に必要な事なのだ。
(いい加減、逃げるのは止めよう。そんな事したら……私は変われない)
ジルガは今空き教室の前に佇んでいた。
この部屋の中には成績下位に位置する生徒と、ジルガのサポーターとして選ばれしユスティがいる。
「ん……」
控えめに気合いを入れた瞬間――ぬっと謎の影が割り込んだ。
「あ、ジルガちゃん!」
「ぴょ!!?」
ジルガの後ろからユスティが元気よく挨拶し、ジルガはめちゃくちゃに顔が変形した。陽キャに免疫のないジルガからしたら、ユスティの元気溌剌挨拶は劇物だ、特にジルガみたいな隠の者にはいい意味でも悪い意味でも効きすぎる。
「いつかきちんと話してみたいって思ってたんだよね、だから今日はすごく楽しみにしてた!」
「しょ、しょうでしゅか……」
「あれ……? ひょっとして体調悪い?」
心配そうにユスティは様子を伺うために顔を近づけた。
しかしそんな事をしたら、エルフ由来の超絶美形な顔がジルガの網膜を焼き払い、羞恥心ゲージを簡単にぶち壊してしまう。
「…………顔がつょい……」
「ジルガちゃーん!!?」
パターンとドアの前でぶっ倒れたジルガを目の当たりにしたユスティは思った――彼女って本当は病弱だったのかなと。
◆
「――えー、あの、お、遅れてすみません。こここれからべんきょはじめますょ」
「最後なんて言ったかわからないけど、皆で勉強会だ! おー!!」
「「おー!!」」
「ふん」
その後に来た生徒たちのおかげで何とか再起動したジルガは、隣にユスティを添えて勉強会がスタートした。コミュ障なジルガの隣にユスティがいたら、あまりにも眩しい陽のエネルギーを受けてぶっ倒れないか心配ではあったが、意外と大丈夫そうだった。
まぁちゃんと緊張してモニョってるので大丈夫ではないが。それはともかく、今ジルガが立ち向かわないといけないのは、ルーメンクラスの中で最下位のデッドヒート(ガチ)を繰り広げているクラスメイトである。
その数は合計3人、まずは1人目から紹介していこう。
「いやー……今日からお世話になりますぅ。うち……どーも勉強だけは苦手でな〜」
おっとりした話し方と、大和撫子な雰囲気を兼ね備えた女子生徒――
ちなみに家業は妹がやる気満々らしいが、親はめちゃくちゃ長女にやってほしいらしく、家族関係はギクシャクしている。
そしてもう1人は自信がなさそうな背の低い男の子だ。
「ジルガさん……ありがとう、ボク勉強は特段苦手意識はないけど、授業難しいから……あまり追いつけてなくて……」
異様に青白い肌に、赤い瞳、明るいところよりジメジメした場所が好きな吸血鬼――ノストラは、とにかく自己肯定感が低い。一応地元じゃ頭良いと有名だったが、メガロマギア高等魔法学校は世界中から優秀な子供が入ってくる超名門校。アマチュアで満足していたら、プロにいきなり放り込まれて無事沈没したパターンだった。
そして最後の1人、これが1番問題だった。
「ちっ……クラ先も……余計な真似を……」
(ひ、ひぃ〜……何で不良みたいな子がいるののの……)
瑠璃色の髪、鋭いナイフのような目つきに、一本角が額から生えている。顔立ちは凛としてカッコいい印象だが、椅子の上にあぐらをかいて、肘を机の上につき、とんがった歯をギラリと見せつけている。彼女は藍羅――鬼の血族であり、見ての通りドヤンキーだ。
彼女は一応ジルガのような魔族と近縁にあたるが、住んでいた場所も異なるし文化も違うため、今の時代じゃ接点はほとんどない。元を辿ればほぼ同じように、お淑やかヤンキーとはこれいかにといった具合だ。
以上が成績問題児トライデントである。
「さぁ! もう試験まで時間ない! とりあえずわからないとこを重点的に潰して、少しでも成績をあげよう! だから頑張ろう!」
意気揚々とユスティはガッツポーズを取る。
とりあえず時間がない以上は効率重視、弱い部分を補強すればそれだけで爆上がりだ。さぁ弱い部分を曝け出せ、全部潰して進ぜようと勢いづくユスティだったが――
「「「全部」」」
「ん……??」
「「「全部自信ない」」」
「……」
3人は悪びれもなく言った。
真顔になったユスティはジルガの方へ向くと、頭をペコリと下げる。
「ジルガちゃん……メインは貴女で……私サポートする」
「ちょっ!? 今諦めた目をしてなかった……!?」
「無理って目はした」
「それ意味同じ……」
意外にもユスティが使えない説が出たが、そこは流石の天才少女ジルガ。コミュ障だけど持ち前の集中力と知力で、力こそパワー作戦で行けば良いと判断し、ジルガは差し出された教材を食い入るように見る。
「――うん、じゃあまず皇さん」
「はいな〜」
「こことここ――」
彼女は1人1人、丁寧に見ていく。
何がわからない状態になっているならば、まずはとっかかりやすい部分から入る。最初こそは分からなくても、段階的に理解を重ねれば自ずと切り口が見えてくるものだ。
「よし……じゃあノストラとアイラちゃんも!」
「ユスティは大丈夫なのか?」
「大丈夫よアイラちゃん、ジルガちゃんには負けるけど私だって勉強は得意なんだから!」
「私も…………皆の見るから」
「あんがとよ……ジルガ」
時代はおバカなギャルじゃなく、実はガチ優秀なギャルなんだからを地で行く彼女も、ジルガに倣って丁寧に教えていく。すると最初は勉強自体に抵抗感を覚えていた3人も、じわじわとやる気を出すようになり、真面目に取り組むようになった。
(おバカキャラみたいになっちゃったけど……なんだかんだでこの学校に受かっている以上、頭が悪い訳じゃないんだよね。ここのレベルが高いだけ)
ユスティは地道に勉強する3人を見て、素直に感心していた。まぁ学期の始まりにはクラヴィスのことがあったから、その分遅れてしまったのもある。
(この調子ならきっと……)
学年最高位も夢じゃない――そう思っていた時期もありました。
事態は学習を始めて数時間経ってから起きた。
「――ねぇ、これはこの方式を使えばいいんだよ?」
「ん? でも……その過程に至るまでが……なー、私どうしてもピンと来なくてなぁ〜……」
「え? いやいや……だって
「……普通……むぅ」
ジルガの普通という言い方に妙な引っ掛かりを覚えつつ、皇は頑張って理解しようとする――だがさっぱり分からず、類似の問題で躓く。
この事態は皇だけに起きてはなかった。
「ぼ、ボクも……わからない……」
「んー……? なんで……だってこれはさ」
「む、難しいよ……その……説明だと」
ノストラも同じように目を回しては、若干涙目になっていた。ユスティも慌ててフォローするが、ジルガはいつにも増して剣呑な表情をしていた。
2人はまだいい、まだ自分の感情を抑えられる方だ。
しかし藍羅の場合は違った。
「――だからよ! そんな言われたってわかんねぇよ!!」
「何で理解出来ないの、これはちゃんと考えればわかる」
「ど、怒鳴らないでアイラちゃん。ジルガちゃんも! 冷静に……」
「この内容はそんなに時間かかる内容じゃない、きっちり考え方の基礎があったらわざわざ言わなくても分かる内容」
もうすっかり勉学の戦士と化したジルガは、コミュ障の自分すら忘れて厳しく3人にいいつける。どうしてこんなのがわからない、普通わかる、そんなきつい言葉を連続で浴びせられた藍羅はついにキレた。
「あー!! うぜぇ!!! やっぱりこんな奴頼るんじゃなかったぜ!!! クラ先に文句言ってやる!!」
「自分の出来なさを他人に押しつける気?」
「てめぇ……!」
「何? 逃げるの?」
「あ、あわわわわ……やばい、死闘が、死闘が始まる……!」
2人の魔族による魔力によって、教室内がビリビリと細かく揺れる。あまりの魔力にノストラはビビって机の下に避難し、皇は呪符を構える。
「逃げたって構わない、だけどクラヴィス先生の迷惑になるような事は許さない」
「はぁぁ?? クラ先は関係ねぇ、問題はてめぇだよ」
ダンと机を強く叩きつけた藍羅は吠えた。
「教えてあげてるみたいな……同じクラスメイトなのに見下してるような目を向けてるてめぇは、本当にクラ先の生徒か??」
「何……?」
「悪いが、あたしゃ耐えられない。もう寮へ帰る」
「待ちなさい!!」
ジルガは思いっきり叫んで止めようとするが、藍羅は無視して出ていく。気まずい空気が漂う中で皇とノストラも口を開いた。
「ウチらも……ちょっと帰るな……居心地悪い」
「ボクも……」
「あ! 2人とも!」
ユスティは慌てて止めようとしたが、時すでに遅し。2人も帰ってしまい、ポツンとジルガとユスティだけが残されてしまった。空気はもう史上最悪レベルに陥っており、明るい性格が売りのユスティもがっくしと落ち込む始末。
「ジルガちゃん……とりあえず今からでも、謝りに――」
「や……」
「ん……?」
「やややや、やらかしちゃった……ぶくぶくぶく……」
「ジルガちゃん!? 二度目の昏倒!?」
まるでぶち壊れた機械の如く震え出したジルガは、そのまま泡を吹いてぶっ倒れてしまう。もうこれ以上の続行は不可能と判断したユスティは、とりあえずジルガを医務室へ連れていった。
こうして波乱に満ちた初日は、なぜ教えていたジルガが急患として運ばれて終わるという結末に終わってしまった。
◆
「はぁぁぁ〜…………」
翌日――すっかり意識を取り戻したジルガは授業を休み、図書室の隅っこで魂が抜けたように項垂れていた。
理由は明白だ。
昨日ジルガは本気になるあまり、マジモードが出てしまい、教えなきゃいけないクラスメイトを傷つけたからだ。
(もう! もう! 私の……悪い癖が出るなんて!)
ジルガがコミュ障になっていた要因は、勿論人見知りというのもあるが、本気になると冷徹な思考になって正論ビシバシ言ってしまう事だった。そのせいで同じ魔族の子供からビビられたりするし、かつての大魔王を知る老人からは「大魔王の再来じゃああ!!」とナショナリズムを発揮させることもあった。
(血のせいになんかしたくないけど……スイッチ入るのヤダよぉ、もう……)
ただ当人のジルガは皆と仲良くしつつ、一緒に和気藹々と成績を上げていきたい。内なる自分なんて邪魔で邪魔で仕方ないし、何とかしたいのが本音だった。
「はぁ……」
しかも同じクラスなら絶対顔を合わせる。
あんなぶつかり合って普通に教え合うのはもう不可能だと思っていた。
「どうしよ……」
「やっぱりここにいたんだな、ジルガ」
「へ……!? クラヴィス先生……!」
「しっ! 図書館じゃ静かに!」
「せ、先生のが声デカいです……」
そらそうだったとクラヴィスは気まずい感じになると、ジルガの隣に座る。ジルガはプイッと顔を背けて、落ち込んだ顔を隠した。
「先生……仕事は?」
「もう授業終わってる時間だぞ」
「え……? あ……本当だ」
気づいたらずっと図書館にいたようだ。
落ち込みすぎて時間が全くわからなくなってしまったようだ。
「先生……私……教えるの無理かも」
「ほぅ」
「……私が当たり前だと思っている事が、藍羅たちには当たり前じゃなかった。そのせいで……私は傷つけて……」
「まぁジルガは頭良いからなぁ、理解力がずば抜けている。数段階ぶっ飛ばして先にある答えをわかってしまうからね」
クラヴィスもそれなりに自信はあったが、ジルガの才能は恐らく自分のそれを超えていると見ていた。
「……私、ダメダメだ……先生の期待、裏切った」
「んな事はないさ、まだ全然大丈夫」
「でも……私じゃ」
「ユスティ以外にも、まだまだ秀才はいるだろ?」
「ぇ……う、うん」
「ちょっと来な」
クラヴィスはニヤリと笑う。
一体どうしてそんなことを言うのかは分からなかったが、彼が無策で何かするとは思わなかったジルガは、オドオドしながら承諾する。
「――お待たせ諸君」
そしてクラヴィスがたどり着いたのはルーメンクラスの談話室。どうしてだろうと思っていると、そこにいたのは――
「「クラっちがジルガちゃんと侍らせてやってきた!」」
「おいやめんか!! ギャル4人組!! 何でお前らは俺を淫行教師みたいな奴にしたがんだよ」
ユスティとギャル4人組がイェーイと賑やかに騒ぎ立てる。
しかも彼女達だけじゃない。
「俺もあんまり話した事なかったからな、ジルガとは」
「オ、オルダくん……」
「これを気に仲良くしようぜ、同じクラスだしよ」
「ま、眩しい……!」
騎士団所属、かつ成績優良者のオルダが溢れ出る陽キャなオーラを出してアピールする。一体何がどうなっているんだと困惑するジルガに対し、クラヴィスは申し訳なさそうに言った。
「実はな、ジルガにはもっとアクティブに動いて欲しくて……ああいった場を用意したんだよな」
「そうだったんですか……?」
「荒療治すぎたなと反省してな」
何を隠そうクラヴィスはジルガは、何も友達がいらないと思っているわけじゃないとは知っていた。本当は沢山友人が欲しいし、もっと仲良くしたい。けどその一歩が踏み出せなくて、及び腰になっていると。
「だけど……ジルガが勉学に対してガチなのは知っていた上で、真面目になりすぎる事をコンプレックスに感じていたのは知らなかった」
だから機会を設ければ何とかなる――そう思っていたが、ジルガにはクラヴィスにさえ見抜けなかった悩みを抱えていた。それがかえって苦しめていたと知ったクラヴィスは、やり方を変えた。
「だからよ、ユスティ以外にもここにいる成績優良者を全員巻き込んで、皆で絆を深めていく方針に変えた」
「そんな、私が悪いのに……」
「いや俺のやり方が悪かった、ジルガは何ひとつ悪くない」
これじゃ教師失格だったなと薄く笑うと、クラヴィスはジルガを見る。
「次は俺がサポートに回る、だから……一緒に俺も付き添うよ」
「クラっちが責任取るからねー」
「おいメア……言い方……考えろい……」
「ふひひひ」
いたずらっ子な教え子を退かしながら、クラヴィスは大丈夫大丈夫と言うが、やはりジルガは不安だった。あれだけきつい事を言ってもまだ許してくれるだろうか、あれは間違いなく怒っているのにと、ユスティが頭を撫でる。
「大丈夫だよ絶対」
「ユスティ……さん」
「ユスティって呼び捨てでいいよ!」
するとユスティは皆と顔を見合わせてから、ジルガにちょっと来て来てと言って、談話室の奥にある空き部屋へ向かう。他のクラスメイトも何事だと言った様子で見る中、ジルガが部屋に入ると、目を見開く。
「あ、藍羅さん……」
「……よぉ」
「ノストラさんに、皇さんも……」
「あはは……」
昨日ぶつかり合ってしまった3人が、モジモジしながら立ち尽くしていた。どうしてとジルガがポツリと言うと、クラヴィスが口を開く。
「実は昨日の夜に、こいつらが俺の部屋に来たんだよ」
◆
「ふんふーん、今日もサビ残嬉し楽し苦しいな〜」
昨日――それは夜の22時、クラヴィスが業務で培った苦しみを呪詛の如く、変な鼻歌を歌っていた時の頃だ。明日以降の授業の準備や調べ物、それから直にやってくる学生の夏季休暇期間中の研修に向けて、前もって準備していた。
クラヴィスからしたら夜22時まで仕事なんて別に普通の事で、日付を超えるなんざ特段珍しい事じゃない。
それは自分が担当しているクラスメイトも当たり前に知っている常識であり、たまに生徒が遊びにやってくる事すらあった。
ただ今日は一向に人の気配がない。
何とか平和に終わるかなと思っていると、ドアをノックする音が聞こえて――クラヴィスは一瞬で真顔になった。
「ユスティ達か……?」
あいつら夜中にキャーキャー騒ぐ時あるし、予期せぬタイミングで遊びに来る。一応毎回ノックはしてくれるのだが、奴らが来ると収拾つかなくなって、仕事が後回しになってしまう。
「今はマジで忙しいからな……また徹夜になったら憤死するまである」
口ではそう言ってもクラヴィスに追い返すつもりはない辺り、つくづく生徒には甘い。
「入っていーぞー」
「……うっす」
「ん? お? 藍羅と……お前ら2人か。珍しい」
何故か酷く申し訳なさそうにした藍羅とノストラ、皇が部屋に入ってきて、クラヴィスは目を丸くした。彼らとはユスティ達と比べるとそこまで頻繁に話したりはしてないが、割と成績に関しての相談で話したりはしていた。
「何があったよ、ん?」
「実は――」
そこでクラヴィスは皇からジルガとの間で繰り広げられたやり取りを知り、思わず自らの頭を抑えた。
「――って事があって……」
「うがぁー! わりぃお前たち! これは俺の失態だ!」
「え、え? 何……何?」
「クラ先、ついにいかれたか?」
「イカれとらんわい! いや……俺が完全に失念してたんだよ……」
何せこの3人――確かに地頭は非常に良いのだが、魔法の体系や考え方がかなり違う国からわざわざここにやって来てくれた生徒なのだ。だからこそ昔に取り組んできた内容が違っていて、そのせいで躓いていたのだ。
「ジルガは何も悪くないんだ! まぁ確かに言葉強いかもだが、俺が配慮すりゃ良かった!」
ジャンピング土下寝を披露して何とか許してもらおうとしたクラヴィスだったが、その前に藍羅が話し出した事で止めた。
「あ、いや……アタシもさ……もう今はそんなキレてないって言うか……うん」
「?」
クラヴィスが不思議そうにしていると、皇とノストラも反省した様子で話し出した。
「……アタシが言いすぎたんだ」
「うちも……態度悪いというか、本当は悪いの自分なのにってなってな……」
「ぼくも……」
「最初のきっかけはアタシでさ、てめぇが成績悪いのが良くないのに……八つ当たりみたいにジルガを傷つけた」
「……お前ら」
藍羅はずっと罪悪感を抱えていた。
ジルガに指摘された事は全て的を得ていたし、何も間違っていない。しかも自分の時間を割いてまで教えてくれている。ここまでしてくれるクラスメイト相手に、何を言っているんだと反省していたのだ。
「だけど……さ、きっとアタシらだけじゃジルガは近寄ろうとしない。今更あんなこと言って……都合の良いことを言ってるかもしれないけど、アタシは謝りたい」
「ウチらも同じ気持ちや、空気悪いって言って……逃げるなんて情け無い真似をさらしたんやから」
「……ぼくも……また勉強したい! ちゃんと仲直りもしたい!」
だから――と藍羅はクラヴィスの目を見る。
「頼む……クラ先、協力を」
「当たり前だ、生徒の頼みなら考える間も無く即OKだよ」
「「わっ」」
「ちょっ、クラ先っ、恥ずいって!」
「いーじゃないか、かわいいなお前達は!」
クラヴィスは3人の頭をワシワシと撫で回す。3人ともくすぐったそうにして、恥ずかしさから顔を赤くする。なんていい子達なのだろうか。藍羅は確かにちょっとヤンキー気質なとこはあるが、その根っこは善性の塊だ。しかもちゃんと自分から非を認めて謝れる強さがある。
「お前達はいい子だよ、俺がちゃんとサポートしてやれなかっただけだ」
「……ウチはクラヴィス先生から助けられとるよ」
「今回はお前達に気付かされたんだ、俺はまだまださ」
てっきり完璧かと思ったが、悪い方に働いてしまった。
だからこそクラヴィスはしっかりと付き添うことにした。
「……俺が場をセッティングする、お互いに仲直りするなら早い内が良いからな」
◆
「――そんなことが……」
「悪かったなジルガ、サポートできてなかった」
「い、いや……そんなことはないです」
ジルガは目をさっと伏せるも、すぐに藍羅達を見つめる。
彼女達の顔は強張っていたが、グッと堪えるとまず藍羅が目の前までやってきた。
「すまねぇ!!! ジルガ!!!」
「っ!?」
「いやどんだけ激しい土下座だ!?」
ズガーンと激しく土下座した藍羅は、見事に頭を床にめり込ませた。これには流石のクラヴィスも突っ込むが、藍羅は床に頭がめり込んだまま話し出した。
「……アタシ、瞬間的に感情が爆発するわりぃ癖があってよ」
「……床に頭が入ったまま話してる……」
「それでジルガを……あんなに丁寧に教えてくれたジルガにひでぇ事言った、本当にすまねぇ」
若干泣きそうになりながらも謝る藍羅の声に、ジルガの心は強く動かされた。頭が床に入ったままなのに、何故かこんな感情になれるのも不思議な感覚だ。
「ウチらも! 勝手に逃げた! ユスティちゃんとジルガちゃんの優しさに、ちゃんと向き合ってやれなかった!」
「ぼく……ちゃんとやる! しっかり得点とって、皆で一位取りたい! だからまた教えて!」
「2人とも……」
ペコリと頭を下げる2人を見てジルガとユスティも、2人で顔を見合わせた。まさかそんな事を思っているとは思わなかったジルガとユスティは、謝罪を受け止めた上でニコリと笑って言った。
「こちらこそごめんね、私……もっとしっかり……目線を同じにして教える」
「私もだよ! だからさ……昨日のことは水に流そ! 切り替えが大事だからさ! それに次は頼れる仲間が増えたし、よゆーよゆー!」
「「私らルーメンギャル四天王にかかればね……」」
「……そんな名前でしたっけ?」
悪いのは自分達も同じだ。
ユスティはいつもの軽い態度で、気にしなくていいと言った。
(なんて……優しいんだよ……はぁ、アタシの馬鹿野郎が……!)
もう反抗的な態度は取れない。
藍羅は改めて決めた――こうなったらとことんまでジルガに付き添い、何としても勉強でテッペン取ってやると。一度過ちを認めて、更に気持ちを強くした藍羅はバキバキと、頭を引っこ抜いてジルガの手を握る。
「絶対……ジルガの……皆の味方だ! もう情けねぇ真似は晒さねぇ! だから……信用してくれ!」
「あ、ありがとう藍羅さん……あとその……」
「アイラでいいぜ、ジルガ」
「あ、アイラ、頭から血が出てるよ……」
ひとまず藍羅は真っ先に医務室行きだが、仲は何とか修復出来たことにクラヴィスは安堵した。というより……漸くスタートラインに立ったというのが正しいだろう。だが彼女は以前よりも強く絆を構築し、以前のコミュ障な部分が鳴りを顰めてすらいた。
(あとは……ちゃんと勝てるよう勉強だな)
サポートしてやるつもりが、すっかり自ら立ち上がってしまう強さを持つ生徒達を誇らしく思いながら、クラヴィスはぶち壊れた床を見る。
(とりあえず……床は俺の弁償かなー……)
とりあえず藍羅には、感極まったは器物損壊するのはやめてと泣きつくしかないだろう。
◆
「――そう! 合ってるよ! ノスくん!」
「わ、ありがとう……フィオレさん」
「アタシはどうだ、ジルガ」
「うん、良くなってる……!」
それから翌日。
より強い絆を深めたジルガ達は、集団でラウンジで勉強会を開催していた。上級生やら先生まで通るような場所で、教えていたジルガは、これまでこんなにも楽しく勉強出来た事はあるだろうかと、軽く感動すら覚えていた。
(皆と勉強……楽しい、1人でするより……ずっと)
まさに長年の夢が叶った瞬間と言ってもいい。
ずっと幼い頃から憧れていたことが出来たジルガは、ただひたすらにクラスメイトと、きっかけを作ってくれたクラヴィスに感謝していた。
(返したくても返せないぐらいの、大きな恩が出来ちゃったな)
つくづく思う。
クラヴィスが担任で良かったと。彼のように生徒に向き合ってくれる人が先生で、私は本当に運が良かったと。
「ジルガちゃん」
「ん……ユスティ?」
「ちゃんとクラス一位にならないとね、先生の為にも」
「……うん」
ユスティと一緒にジルガが笑っていた――その時だった。
「おや、これはこれは歴代最低のルーメンクラスの方々じゃないですか」
いきなり喧嘩を売るような言葉を投げかけられたジルガ達は、弾かれたように振り返る。するとそこにいたのは、漆黒の学生服に身を包んだ集団だった。
「貴方達は……」
ます学生服を見て、ジルガはすぐに気づいた。
彼らは私たちの最大の敵だと。
「お久しぶりですね、ジルガさん……お噂は聞いていますよ……」
ニヤリと笑う少年はじっとジルガを見て薄く笑う。
銀色の髪、少し青白い肌にスラリとした長身。顔立ちが凄まじく整っている彼は、ユスティと同じぐらいとんがった耳をピクリと動かすと、嫌味ったらしく言う。
ユスティはそんな彼らを見て、剣呑な雰囲気を出す。
何故ならば彼らは――
「僕らニクスクラスと、唯一張り合える生徒……と」
ルーメンクラス長年の宿敵――ニクスクラスだったからだ。
ちょっとうつ病で長らく書けなくなってました。
ボチボチ書けたらと思いますので、引き続きよろしくお願いします。