狂信者+ダンジョン=農家栽培 作:ストマフィリア
その地を這うモンスターが現れたのは突然だった。
最初は闘技場から逃げ出した複数体のモンスターを討伐するだけの依頼だったはずだ。
何が原因か『
だがまさか、突如地中から這い出てきた花型のモンスターにその前提が覆されることになろうとは。
振り回されるは強固な緑の触手の数々。
そびえ立つは象徴すると言わんばかりに形作られた三つ巴の食虫植物のような花。
しかし、降り下ろされる暴力は一般人では即死を余儀なくされる凶器の塊である。
――ならばそれに相対するは一端の冒険者以上が相応か。
【ロキ・ファミリア】と名を表する一員。
アマゾネスの双子、ティオナとティオネとエルフの少女、レフィーヤ。
そして【剣姫】の二つ名を持つアイズヴァレンシュタインが、目の前の脅威に立ちふさがる。
既に簡易的な避難は完了しており、周辺に一般人の姿は無い。
そこそこの広さの通りに存在するモンスターを相手取る冒険者4人は、その脅威にただ集中するばかりだ。
「――硬ったぁ!?」
「くっ、武器持ってくればよかったわねっ!」
ティオナとティオネは生憎武器を携帯しておらず、拳で殴るも対打撃に対しては余りに強固なのか有効打には程遠い。撃を入れた拳の方が軋む状況に2人は顔を歪ませる。
ならば斬撃はどうだ。
唯一武器を携帯していたアイズの剣が触手目掛けて一閃を裂けば、容易に切断できることが確認できた。
突破口が出来た事実に「いける」と表情を明るくするアイズガチ勢のレフィーヤだったが。
「……でも、数が多い。しかも本体の方が」
アイズの懸念は晴れず。
慣れた観察眼を駆使し、本体へのダメージが無い事、割と大き目な図体の癖してそこそこ素早い本体を観察したのちに、このままではじり貧になることを想定し思わずアイズは眼を細くした。
思考途中でも攻撃の手は静止してくれるはずもなく、アイズは触手を斬り落とし続ける。
交わされる剣戟の間に休息はない。
音を上げるのは花のモンスターかそれとも――
「――剣がっ!」
しかし、先に音を上げたのはアイズの振るう武器そのものであった。
ピキリッという金属的な亀裂音と共に決壊するレイピア。
偶然にも日々のメンテナンスの代用として借りていたレイピア。だがそこそこお高い値が付くはずのそれは、アイズが無数ともいえる触手を屠った末に折れてしまう。
同時にそれはアイズの借金が増えたことを証明しており、モンスターへの危機感とは別に悲しみな感情が生まれた。少々しょんぼり顔になっているのは見間違いではないだろう。
「アイズさん!! ……っ、なら私が!!」
戦闘能力を大幅に減らしたアイズに対し心配の声を上げる一人の少女。
打撃は通らない。斬撃も手段を失った。
「【解き放つ一条の光、聖木の
ならばと、レフィーヤが詠唱を開始。
奏でるは彼女が持ちうる単射魔法『アルクス・レイ』
打撃も斬撃も当てにならない以上、眼前の敵を屠るに必要なのは必中必殺の魔法に他ならないと考えての詠唱だ。
しかし、敵はそれを許すはずもなく。
必中を狙う相手がいるのなら、こちらは不意を突く。
そう言わんとばかりに、花は後ろの地面から触手が出現し攻撃を放ったのである。
視界外からの奇襲。魔法職が最も苦手とする物理の攻撃。
刹那、自身に触れようとする凶器を視認した直後にはすでに遅く。
レフィーヤがコンマ1秒の瞬きを許してしまったその瞬間――
それは突風を込めてやってきた。
瞬きの数瞬。
今にも貫かれようとするレフィーヤの身体と凶器の触手の間を一筋の風が吹き抜ける。
「…………え?」
思わぬ強風に驚き、眼前には第三者の姿。風を纏い戦う、同じファミリアのアイズではない。
目線を下に向ければ、迫っていた凶器の触手がいつの間にか輪切りになって切断されたモノが転がっている。
状況が把握できない。レフィーヤは疑問と呆けが混ざった声を上げた。
現れたのは緑に染まる大鎌を携えた、軽いローブを背負う異様な風体の男。
「あ、ジャガ丸くんの……」
「あー! この前ベートぶっ飛ばした人!」
戦闘を繰り広げながら、突如現れた男に反応する少女2人。
アイズとティオナは彼に対して面識がある。まあ実際にアイズに関してはジャガ丸くん繋がりで少々だけ。ティオナに至ってはロクに会話もしたことが無く、ほぼすれ違いのような関係柄だが、確かに男の顔を見た覚えがあった。
対してレフィーヤに面識はなく、目の前の男に疑問を抱くばかりである。
一応ファミリア内で少しは話題になった、ベートをぶっ飛ばした謎人間。しかし彼女はそれを話に聞くばかりで、実際に現場を見たわけではない。
「……えと。あなたは――!」
詰まり詰まりな言葉ながらも助けてもらった事には感謝をせねばと、吐き出した言葉は再び向けられる暴力によって阻害される。
今度は正面。正々堂々。
花が向けてくる触手は、放置しておけば眼前2人を貫く串となることは間違いない。
レフィーヤもそれに気づき、回避行動をとろうとする。
が、眼前の男はそれに動じず。動かず。ただその触手を見ていた。
冷たい眼で、よく観察していた。
当然、狂気に走った男を心配するレフィーヤの声が。
「――危ないです! 早く避け」
瞬間。
耳にしたのはフォンッ、というあまりに軽い音。
言葉を言い切ること無く次いで視界に入るのは、向けられていた触手が切り落とされている光景。
無慈悲に、無感動に切り落とされたソレを見る男の姿。
冒険者である少女4人は刹那、何が起こったのかを辛うじて理解出来た。
男はただ、手に備える大鎌を廻しただけ。
柄を器用に回転させ、半月の刀身を向かってくる触手に当て、無造作に切り落とした。誰の目にも見える速度で振り払われた、戦う人間なら取るであろう当然の防衛行動。
問題は――その技術が異常だということ。
それは彼女達でも見える
刹那、などという速さではない。伸ばされた触手が16等分に輪切りにされる瞬間の光景は少女4人にもよく見えていた。
しかし、その防衛行動にはあまりにも無駄が無かった。
無さすぎるほどに、無かった。
まるで、予め用意された大針に糸を通すかのように、軽い力で脅威を叩き落とす技量。
男の取った一挙動は、特に同じ近接職であるティオネとティオナ、そしてアイズを戦慄させていた。
それに対し、大鎌を構えた男はそんなことは知らず顔。
触手を投げてきたモンスターを双眸に捉え、口元を弧に歪めていた。まるで手に携える大鎌のように。
あらゆる感情の枷から解き放たれたように、聞けば怖気を感じずにはいられない程の喜悦に狂ったざらつく笑い声を上げながら、男はお目当ての花へ突進する。
――さっさと目当て物落とせやゴラ。
首狩り一閃。あなたが花の1体を切り落とした際に発した台詞である。
お目当て物とはもちろん、花が落とすだろうナニカだ。
今のあなたの頭の中はクミロミに捧げるアイテムの事でいっぱいだ。ついでに上機嫌だ。狂った笑い声を上げながら処刑の大鎌を振り下ろすくらいには機嫌が良い。
視界の端の方であなたの事をドン引いた眼で見ている少女3人がいるが、それもどうでもいい事である。
アイテム、そうドロップアイテムだ。
今はそれだけでいい。さっさと捧げられるものを落とせやゴラ、などと吐き捨てながらあなたは灰になったモンスターを踏みにじりその残骸を眺めた。
結果、ドロップ品、魔石のみ。
無情にも物欲センサーが働いた瞬間である。
ガッデム、あなたは膝を地につけ拳を地面に叩き付けた。
衝撃で魔石も砕けたがどうでもいい。鑑定の結果で《少々変わった魔石》とだけ出たが、それでクミロミが満足してくれるなどとあなたは到底思わない。
あなたが今欲しいのは
気を取り直してもう2体残った花を見る。
敵はあなたを警戒しているようでその場に足を止まらせている。しかしうめき声めいたものを上げている所を見るとやる気はあるらしい。
1体を殺されたのにもかかわらず戦意満タンなモンスターだが、どちらも脅威には至らずあなたにとっては握りつぶせるほどの雑魚敵だ。斬死、燃死、凍死、爆死、狂死などどんな殺し方もできる相手だろう。
しかし、あなたの懸念点は殺せるかどうかではなく、ソイツが果たしてドロップ品を落としてくれるのかどうかである。
殺すことは前提だ。伸びる触手から花の本体まで切り落とす所存があなたにはある。が、すぐには手を出すことを許さない状況に体を制止させていた。
理由は先ほど1体目を殺し、ドロップ品が出なかったことであなたは物欲センサーの罠*1に掛かっているのではないかと、少しばかり2体目に触れることを躊躇していたのである。
何せ、あなたは身に染みて知っている。
こういう時に噴水を飲み干し、願いを叶えようとしてもお目当ての願いが全く叶わないことを。むしろ噴水に混じったエイリアンに体を寄生されかねない不運な連鎖を。
モンスターの剥製を集めたいのに、全くドロップしてくれないという意地の悪いクソ現象を。
本業が農家と言えど、伊達に冒険者も長くやっていないのだ。人が物欲センサーと呼ぶコレを、あなたは経験していないわけも無かった。
さてどうしたものか、今のあなたは幸運の日が訪れているわけでもない。
このまま2体目に手を付けてもいいのだが、どうもこの流れではあの花がドロップ品を落とすとは思えない。まああなたの勝手な思い込みであるのだが。
「えと、あの……大丈夫ですか?」
「大丈夫~? さっきすごい笑い声上げたと思ったらいきなり落ち込んでびっくりしたよ?」
山吹色の長髪を揺らす少女から声をかけてくる。
隣にいるのは褐色の少女で確か……ティオナだったか。やけに瓜二つな容姿の少女もその隣にいるが姉妹だろうか?
「ティオネよ。こっちの姉。それより、あんたは冒険者でいいのよね?」
冷淡なティオネの問いにあなたは肯定を唱える。
一応、あの花を倒すためにやってきた一端の冒険者だと。
ついでにあなたも、現状をティオネとやらに問いを返す。
一応モンスターとの戦闘中なので、出来るだけ簡潔的に聞かされた状況説明を聞いた限り、どうやら突然現れたモンスター……つまりはあの花に翻弄されている最中だそうで。
ティオネとティオナは武器を不所持、先程他のモンスターなぎ倒していたアイズは武器を破損。
この場にて戦闘能力を持つのは、現状あなたともう一人の少女とのこと。
なるほど、簡潔に状況は理解したが――
本題に入る前にあなたは一つ物申したいことがあると、ぶっこわれた剣の破片を横目に問いかけた。
「何かしら」
何をどうやったらあんな高そうで頑丈そうな剣が破損するのだ。
アイズよ、武器の扱いが雑ではないか?
「む、別にそんなことない」
「いやあるでしょ」
「あるわよ。アイズ、これで借金がどれだけ嵩んだと思っているの?」
「あはは……アイズさん。流石に言い逃れできないかと……」
「……ぐすん」
借金の事実をダシにされたら何も言い返せないのか、膝を抱えて落ち込むアイズの姿が目に入る。
勢力差4対1。残念ながら総叩きにされたアイズに弁論の余地はなかった。
ともかく、状況は把握したあなたは彼女達に協力することを告げた。
強さも全員申し分ないだろう。こうも雑談しているが、ちゃんとモンスターに対しての警戒も怠ってはない。安心して背中を預けられるというものだ。
それに彼女達は治安の問題解決に勤しむ所に対し、あなたはあのモンスターを狩りドロップ品を収集したいことで、問題の着地点は違えど
あなたは協力を受け入れる証明として手を前に差し出した。丁度握手をする形で。
『■■――――!!』
しかし、それを邪魔しようと花のモンスターから触手が飛んでくる。
敵意マシマシ、殺意モリモリ、いざ貫かんと突進する触手群。
「何よ、ゆっくりさせてくれないわねっ!!」
「もー、めんどくさいコイツー!」
しかし当然、少女達は咄嗟に回避行動をとっており怪我は無い。
吐き捨てながら横に飛ぶティオネとティオナを眺めながら、あなたは花のモンスターを視界に入れる。
さて、倒すのは良いのだがあなたは彼女とは違い倒すだけでなくアレのドロップ品が目当てである。
問題の焦点はあなたの物欲センサーが働くのではないのかという懸念だ。それを解決し、アレから物を手に入れればそれでいいのだが。
ふと、回避の着地点の近くにいたあなたの横に立つ少女に目線がいく。
山吹色の長髪と耳長な容姿。
明らかにエルフだろう彼女は誰だろう、先ほど紹介が無かったため名前が分からないのだが。
「レフィーヤ・ウィリディスです! あ、えっと……さっきは助けてくれてありがとうございます」
驚き半分、気落ち半分で自己紹介する彼女。
……見覚えがあると思ったら先ほど触手に貫かれそうになっていた少女ではないか。あなたは普通にアイテムの回収に夢中になりすぎていて忘れていた。ついでに視界の端で納めた記憶だと、魔法を発動させる直前の姿が残っている。彼女は魔法職の冒険者という部類で括っていいだろう。
で何故か、やけにあなたと距離を取る彼女だが一体どうしたのだろうか。
触手を回避中のティオナにレフィーヤの奇行を問う。
「奇行呼ばわり!?」
「あー、レフィーヤはね。エルフだから男の人に触りたがらないんだよ」
なるほど。エルフと男性嫌いに一体何の関係性があるのかは知らないが、とりあえず事情ありきだということは理解したあなた。
同時に一つ、あなたは名案を思い付く。
あの花を倒し、あなたの物欲センサーを回避できるだろう方法を。
あなたは念のため、レフィーヤに魔法を使える類の冒険者で間違いないか聞いてみる。
「? あ、はい。魔法なら使えますけど」
なら一つ、あの花を倒す方法について話をしたい。
主役はもちろんレフィーヤである。ここ一番な出番を譲ってあげるので是非とも喜んで欲しい。
「……言いたいことはなんとなく分かりました。つまり私に、あのモンスターを魔法で倒せと言いたいんですね?」
話が早くて助かる。
妙にやる気な表情の彼女を横目に、あなたはニヤリと笑みを浮かべ作戦について語り始めた。
因みにこの提案にはあなたの腹黒い意図も含まれている。
なに、簡単な事だ。
太古から物欲センサーで苦しんでいる時は、時たまそこらに居る冒険者に
作戦は至ってシンプルだ。
あなたとアイズ達がレフィーヤを守っている間に、レフィーヤにはあの花モドキをぶち殺す魔法を撃ってもらう。
簡潔にまとめると、あなたの物欲センサーを発生させず、あのモンスターを殺す作戦だ。
別にあなた一人でも何の苦無しで殺せる対象だが、オカルトだろうと何だろうとアイテムのドロップ確率を上げるためであればしょうがない。
別段、あなたは名誉や名声にこだわっているわけでもなし。やっすいプライドを捨てて神の喜ぶアイテムを手に入れられるというならばあなたは喜んで捨てる気である。
「【ウィーシェの名のもとに願う】」
そうして、詠唱は始まった。
あなたの背後で展開される山吹色の魔法陣。
地に描かれる力の象徴はうねりを上げて、眼前の敵を屠るため光を増してゆく。
『■――――!!』
――しかし先の通り、それを許すことなどありえない脅威がいる。
「っ、やっぱり魔法に反応して触手が!」
「――レフィーヤの邪魔は、させない!」
眼前2体の花は魔法に反応するように触手の串をレフィーヤに向け投射する。
高速で伸ばされる暴力の塊に対するは、彼女を守ろうとする少女3名。
徒手空拳をもってティオネとティオナ、そしてアイズがレフィーヤに触れようとせん凶器を防御する。
当然、その中にはあなたも混じっており。
唯一大鎌の武器を所有しているあなたは目に映る触手を徹底的に叩き落としていた。
あなたからしてみればあくびが出そうな速度で飛んでくる触手群。
驚異的にすらなり得ない暴力を相手に、あなたは手に持つ大鎌をただ廻す。
上下左右、時より遊びで持ち手に絡みつくツタを紐のように扱いながら廻し続ける。
その姿は可憐に、あるいは舞う様に見えているのか、アイズ達は時折あなたに注目するような視線を投げてきていた。気になりはしないがどこかむず痒い。
……もっとジェノパでするような舞い方でもすれば魅了したりできるだろうか。
「【森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ。繋ぐ絆、
そんな思考もありきたりで、詠唱を紡がれるレフィーヤの魔法。
「【至れ、妖精の輪。どうか――力を貸し与えてほしい】」
あなたも知らぬ未知の魔法。
そもそも、この世界とノースティリスでは魔法の仕様そのものが違うため全てが未知ではあるのだが。
初めて間近でお目にかかる魔法がそこに刻まれた。
「【エルフ・リング】」
山吹色から翡翠色に変換される魔法陣。
辺りを漂う
叩き落し続ける触手を背後に一目見たあなたはひゅうと口笛を上げた。
「口笛上げてる場合!?」
「随分、余裕そうね、あんたは!」
文句を言ってくる褐色姉妹だが仕方ないだろう。この花モドキが弱いのだから。
「ん、やっぱり強い」
アイズはあなたを見て何故か闘志を燃やしているように見える。
どことなくノースティリスで何度も遭遇した戦闘狂の冒険者と同じような雰囲気を醸し出していた。なんだったら触手を叩き落とすたびに圧が増している。
……やはりアイズは戦闘狂の部類なのだろうか?
「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に
レフィーヤの詠唱はまだ続く。
よっぽど高火力の魔法でも詠唱しているのか、それとも魔力制御を確実なものとするために――いや、これはノースティリスの常識だったか。
とにかく、レフィーヤは敵を一掃するための必中必殺の一撃に集中する。
「【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け三度の
そうして、紡がれた詠唱が完成したのを示す魔力の塊が。
レフィーヤを纏う魔力が、純白の細氷となって眼前の敵へと降り注ぐ。
「【ウィン・フィンブルヴェトル】!」
放たれる強烈な吹雪。
レフィーヤから紡がれた最後のそれは魔法の名前か、効果の内容を知っているアイズ達が対角線上から引いていく中あなたは一歩だけ引いてその魔法が放たれる様子をよく観察していた。
まるでノイエルの猛吹雪に見舞われたような災害。
心身共に凍り付くだろうそれに、花のモンスターは耐えれるはずもなく触手と本体に霜と氷を浮かばせ凍結していき、やがて完全に停止した。
あなたも気になったので、冷気耐性のある装備を外して、効果範囲に人差し指と中指の2本ほどアイズ達とレフィーヤが見えないように突っ込んでみる。
するとどうだろう、突っ込んだ指は完全に凍結――いや、壊死した。
なんと強い魔法だろう。あなたは見たこともない魔法に高揚感を覚えつつ凍った指をへし折った。
あなたの好奇心に指が犠牲になったことだが、なにどうせすぐ治る。
珍しいものを見れたと満足げに正面を見ると、花のモンスターは凍結されたのと同時に褐色の少女に粉々に砕かれていた。
そうして戦闘が終了。
頑張ったとアイズ達が安堵するレフィーヤに寄り集まるところを眺めながら、あなたは花のモンスターの残骸へと近づく。
ドロップ品は魔石だけだった。
あなたは泣いた。
「で、何で手前がここにおんねん?」
レフィーヤの安否、そして周辺モンスターの警戒が済んだところだ。
安全も確保したのと同時に、どこからともなくアイズ達のファミリアの親であるロキが合流。
合流したロキはティオネとティオナに残ったモンスターへの対処を的確に指示。各地に散らして、その場に残ったのはあなたとロキだ。アイズは離れたところで待機している。
そして開口一番に放たれたのが、完全に部外者であるあなたに対する問いであった。
何故も何も、あなたはアイズ達の手助けをしに来ただけだ。それ以外に返す答えはないのだが。
「ほーん……まあええわ。ティオネにもその辺はちゃんと説明もらったしな。ファミリアを代表して一応感謝だけはしとくでぇ」
何とも適当に感謝を告げるロキに、あなたも鼻で息をついて軽く返す。
構わない。冒険者たるもの、困った時はお互い様という言葉があるのだから。
「そりゃありがたい、んやけど……なんで手前そんな死にそうな顔してんねん。すんごい顔色悪いで?」
それはまあ、あなたの真の意図があの花モドキのアイテムだったからで……結局物欲センサーに邪魔されてその願いは叶わなかったのだが。やはりクソ現象。死に晒せ。
万物に恨みを向けるかのような目をしているとロキから引いた視線が向けられた。
「お、おう……割と現金なんやな」
目の前に遺品があったら拾うだろう。それが神の喜ぶ品であるならなおさらだ。
一言そう言うと、今度は度を増して引いた眼を向けてくるロキであった。
神は噓を見抜けることができるからか、あなたの言葉が純度100%のマジであるということを知ったのにドン引きしているようだ。
「……まあ、手前の倫理観についてはなんも言わんことにしとくわ。事実、アイズたんらは助かったことやしな。ただ後処理はこっちでさせてもらうで。本来ウチらが受け持った依頼だっちゅうに、部外者に助けられたんじゃメンツがもたんからなぁ」
話を無理やり転換させてモンスター関連の話に戻るロキ。
あなたとしては乗り掛かった舟ということでこのまま付いていってもよかったのだが。こればかりは彼女達のプライドの問題だろう。
【ロキ・ファミリア】はオラリオでもトップに立つ組織であり、肝心の問題を解決できませんでしたというようではロキの言う様にメンツが保たれないという言葉にも一理あるのだから。
鼻で嘆息をついて、あなたはロキの言い分に同意する。
「おん、それじゃあんさんとはここでサヨナラな。ほれアイズたん行くで」
「ん、またね。ジャガ丸くんの……」
またまたあなたのことをジャガ丸くんのファンと言いかけたアイズに訂正する。
あなたは農家だ。断じてジャガ丸くんのファンという名称ではない。
「分かった。またね、農家さん」
手を振るアイズに、あなたも小さく手を振って別れの挨拶をした。
そうして去っていく少女と神。
あなたはあなたで、ギルドの職員があたふた動き回っている現場に取り残されたままである。
……まあ、どうせ
あなたは踵を返して闘技場へ再び戻ることにした。
花モドキのアイテムは得られなかったことが少々……大分心残りではあるものの、気を取り直して祭りを楽しむことにするあなたであった。
「ふむ、倫理観に欠ける男。なお友好的ではある男か。確かに歪だが……まあ、
暗闇の中。
あなたの感覚でようやく聞こえるほどの声色が耳に届く。
どこかのノイズ混じりな声は、とても人間模様とは思えないが。
「どの道、接触はしなければいけないか。全く、一体どうなることやらだ」
その一言をしまいに、去って行く奇怪な気配。
姿は見えずじまいではあったが、ここではただの農家であるあなたを尾行する誰かに疑問を浮かべるあなたであった。