狂信者+ダンジョン=農家栽培 作:ストマフィリア
次章前の日常回みたいな奴
あと、ちょっとだけ遊び心も含めた
【白ウサギの場合】
「いよぉし! もう大丈夫だぜベル君!ステイタス更新完了だ!」
「あ、はい。ありがとうございます神様!」
とある廃教会の奥底にて。
上裸でベッドに座るベルと満面の笑みで1枚の用紙を手に揺らすヘスティアがいた。
傍から見れば事案真っ盛りな光景だが、オラリオにおいては冒険者に欠かせない、ステイタス更新の真っ最中であった。
「にしても……相変わらずステイタスの伸びがすごいねぇ」
「そうですか? って言っても僕、他の人の基準とか知らないからあまり分からないんですけど」
「ボクが知ってる限りだと君の成長速度はすっごいよ?本当にすっごい。どこぞのまな板神が見たらさぞびっくりするくらいにね!」
「な、なんかやけに悪意が籠ってませんでした?」
「気のせいさ。とはいえ、こんな将来有望な
「う、うわぁ! 神様、ちょっその胸が!?」
前言撤回、事案は今から始まるのかもしれない。
愛らし愛らしとスキンシップに勤しむヘスティア、と腕に当たる柔らかい
先日、シルバーバックに突然襲われ助けられた影響か、それとも日々のバイトでフラストレーションが溜まっていたせいか。ヘスティアの暴走は止まることを知らない。
バタバタごたごた。
廃教会の地下で
内容は、先ほどベルに施したステイタス更新の内容であった。
(にしても、一体何があったらこんなステイタスになるんだい?)
ベル・クラネル:Lv.1
【アビリティ】 ■■■■
────────────
力 :E:401 Great
耐久:C:604 Superb
器用:D:554 Superb+
敏捷:D:507 Superb+
魔力:I :0 Great
────────────
【魔法】
【スキル】
【
スキルの一部を除き、ステイタス用紙に書かれているだろうその表記を思い出しヘスティアは頭をうねらせた。
……ベルの*やわらか**ふわふわ*な白髪をわしゃわしゃしながらだが。
むふー、と息をするヘスティアは思考にそぐわず満足げである。
(【
ベル成分を満喫しながら思考を再開するヘスティア。
ヘスティアの家族に、そして冒険者となって約1ヶ月。
ベルの成長速度は他の冒険者とは比べようにならない程に突飛している。その速度は急成長という言葉では片付けるには足りず、飛躍と言い表してもいいくらいに。
レアスキル【
そしてつい先日からもう一つ、ベルのステイタスに起こったある異常現象が発覚したのである。
(で、なんだいこのアビリティの横に書いてある文字は? GreatとかSuperbとか……知らないぞボク、ステイタスにこんな表記が出るなんて!?)
判明したのは
驚異の上昇幅を見せたアビリティの横に書かれた文字。
あの時は命の危機だったのでそこまで気にしなかったものの、改めて見るとおかしい。めちゃくちゃおかしいのだ。
(その上にある潰れた文字とか読めないし……ナニこれぇ。ベル君のステイタスに何が起こってるのさ?)
表記に対しどのような効果があるかは不明、潰れた文字の内容も不明。
現状、ヘスティアもそれを確認するだけで打つ手はない。ただベルのステイタスに異常が生じたという事実に震えるだけである。
なおヘスティアは知らない。
その表記が、ノースティリスの基準に則しているステイタス表記であることを。
それが
そしてその表記がとんでもない段階になっていることを。
ノースティリスの食材を食した影響か、それとも【
ヘスティアは知る由もないのである。
「そういえば神様、
「へ? てっ、うわあ!?なんだいベル君、すごい量じゃないか!?」
「僕もこんな貰うわけにいかないって断ったんですけど……普段の頑張りだからって
ベルとのスキンシップも終わり、ヘスティアが思考に耽っていると、愛しの眷属から突然持ち運ばれた山ほどの野菜が積まれる。
素っ頓狂な声を上げて驚くヘスティアに、苦笑いで返すベルは積まれた野菜の処理をどうしようかと悩んでいた。
そんな中、そういえばとヘスティアは思い出す。
このような差し入れ……もといお布施をしてきたあなたの事を。
「なあベル君、君が戦い方を教わっているっていう農家君だけど一体どんな冒険者なんだい?」
「
「まあね。でもボクが知ってるのって農家としての彼の事だからさ。冒険者として活動している農家君の事を全く知らないんだ」
ヘスティアはあなたの事をよくは知らない。
何せ顔を合わせたのは、あなたが隣人の挨拶として来たそれきりだからだ。その後はベルが何度か顔を見合わせ、戦うための指南を受けるようになったと聞いているが、ヘスティア当人としてはあなたの事をただの隣人という扱いのままになっている。
ベルはあなたの事を問われ少し難しい顔をしたのち、途切れた口調でこう答えた。
「良い、人? ではあるんですけど、ちょっと変な人って感じです」
「変な人?」
「すごく面倒見が良くて、僕も色々助けて貰ったりしてるんですけど……なんかちょっとズレているっていうか。時々、突拍子もなく変な事をしたり言ったりっていうか。
……うん。やっぱり変な人ですね!」
「お、おう……そうかいベル君」
ニッコリ笑顔で自身の師の評価を言い切ったベルに少し引くヘスティアである。
切り目の台詞がまさか満点な笑みで返されるなどと思うはずもなく、言動と一致しない言葉に身を引くのも無理のない事だった。
因みにこの会話は、ベルの早朝鍛錬の後……つまりあなたにボッコボコにされた後の話である。
もしかしたら、ニッコリ笑顔の奥底にあるベルの瞳は少し淀んでいたのかもしれない。
【
そこは――ダンジョンの奥深く。
人が誰も立ち入らぬ
「ラーニェってさ、結局どこまで進んでるのさ」
ラーニェを中心に輪を囲むモンスター達。そのうちの一人がそんな台詞を放つ。
深刻でも何でもない雰囲気を周りに漂わせ、ただ中心に居座るラーニェに対し周囲が圧をかけるこの状況を何と言ったらいいのだろうか。
否、彼女達はこう答えるだろう。コレは女子会だと!
化け物でも女は女だ! そういう話に興味がある者がこの場に集い語り合っているのだと!
なお、この女子会のメインは中心に座るラーニェである。
是が非も無い。慈悲も無い。強制的に場の中心に座らされたラーニェはこめかみに青筋を立てて静かに言った。
「……いい加減、私をだしにして話を盛り上げさせようとするのはやめないか?」
「え、嫌だけど」
「だってさ」
「所詮私たちが話しても盛り上がりに欠けるしさ」
「そもそもこんな
「だったらいつも人間とあれこれ交わっているラーニェに話を聞いた方が盛り上がるでしょ?」
「堂々と言うなッ!!! そしてなんだ交わっているという言い分は!?私とあのバカ人間はそんな関係ではない!!!」
ラーニェ、シンプルにブチギレ。
けらけらと笑う周囲に青筋を立てまくりなラーニェの姿が目立つ。まあ場の中心に座らされている以上目立つのは必然なのだが。
ラウラにあなたとの関係を口の堅い女性陣にバラされて早数ヶ月。
ラーニェは常々開催される女子会に強制参加を強いられる状況に陥っていた。
強いられる理由は当然、ラーニェが純度の高い女子トークならぬ話題を持っているからである。
何せラーニェは異端児で唯一、人間と関わっている女性だ。そしてその人間はまさかまさかの男性だという。
それすなわち、彼女たちにとってラーニェは高純度の話題を含んだ存在だということだ。
言い換えればダシ汁。さらに言い換えれば不幸な被害者。
が、しかし化け物と言え女性陣であるからには
ならばそれをダシに女子会を開かなければ、女としての恥というもの。
ラーニェの尊厳?何それ美味しいの?といった具合に、意見を総じて一致させた異端児の女性陣は神もびっくりな行動力を発揮した。なお当人は (ry
そうして行動せし第一陣は強制連行である。
ある用があるからと連れ去れた先で中心に居座らされ逃げ場を無くさせたのち、急に女子会が開かれる手筈でラーニェを参加させた。輝かしき初犯一号である。
こういう時の女性陣の行動力はバカにならないと、ラーニェは学んだ。二度と引っかかってたまるものかと。
と、何度も思いながら、本日に関しても同じ手筈で捕まったラーニェ。
根が真面目で用事を振られては誠実に役目をこなす彼女は、この単純な作戦に何度も引っかかってしまって今に至る。
「まあまあ、別に減るものでもないし良いじゃんね」
「……そうか? 私はこの会に強制参加させられる度に精神がゴリゴリ削れていく音がするんだが」
「それは私たちに関係ないしモーマンタイ」
「最悪の言い分だな。……ああ、もう」
嘆息と同時に、落ち着けよとかけられた言葉にすら青筋を立てる原因になる始末。
女子会にソレは息苦しいよね、などと理由で兜が外されたラーニェの白髪は苛立つように逆立っていた。
女子会は口を開こうとしないだんまりのラーニェを含みながら進んでいく。
ダンジョンで何を拾ったとか、こんな経験をしたとか、様々な話題が繰り広げられる。
しかし、時々話を振られる側のラーニェは口を開かず答えようとはしない。
まあ、振られる内容が大体あなたとの事柄だったり、赤裸々な質問だったりするのが主なモノばかりなので当然と言えば当然ではある。誰が好きで地獄の釜に突っ込んでいきたいと思うのだか。
ともかく、ラーニェはこんな地獄にいてたまるかと、女子会を抜け出したい気持ちでいっぱいなのであった。
【馬モドキの場合】
ここは、何処か遠い世界。
その中でも端に存在する雪村の酒場で。
「おう、なんだ今日は廃人さん共がやけに多いな」
どこかの誰かに向かって、馬モドキ――もとい人間の様な上半身に、馬の形をした下半身をしたケンタウロスはそう言った。
お互いに挨拶を交わすケンタウロスと、軽装な装備を揺らしながら酒場に入店してくる冒険者達。
一人が体中に触手を生やしたり、一人が手から毒を滴り出していたり、一人が全身に甲羅を纏わせたりと、視界に映るモノ全員の姿形が異常であるがケンタウロスはそれを気にもしようとしない。
何せこれが日常なのだ。彼が2度目の生を歩むようになったこの世界、ノースティリスでは。
「オレか? オレはいつも通り、畑だったりダンジョンだったりで栽培をしてたよ。オレなりに、農家としてスローライフを楽しんでら。酒場に来たのは……まあ羽休みって奴だ」
冒険者の一人が、ケンタウロスに今日の用事を気軽に問えばそう返す。
まさかダンジョンで栽培などとイカレタ言葉を使うことになるとはと、失笑気味で語られた現状報告だったが、彼はどこか遠い昔の事のように懐かしんで酒を呷る。
「そっちの冒険者らはなんで『ノイエル』に? まだ聖夜祭には遠いが……ああ、オパートスの様子を見に来たのか。アレならまだサンドバックに吊るされ続けてるよ。冒険者どころか、住民にまでおもちゃにされてる始末だ。いい加減、解放してやればいいって思うんだがな」
「良くはないわよ。あの脳筋ってば、私とクミロミの大事な彼を世界の彼方に吹っ飛ばしたのよ? あれぐらいが妥当よ妥当」
「僕も……まあ、オパートスの自業自得だと思う」
ケンタウロスの言葉に割り込んで入ってくるのは、どこまでも神聖な雰囲気を漂わせて放たれる言葉。
ツンケンな態度で酒場に入ってきたのはあなたの神であるクミロミとジュアだ。
急な来訪者に湧き上がる冒険者たち。すぐさま祈りを捧げる住民たち。眼福の極みと言って自身の目を潰していく廃人たちの姿が各々と散見された。
ジュアはケンタウロスを視界に入れ、軽く手を振って会釈する。
どうやら神の2人はケンタウロスに用があるらしい。
「久しぶりね、元気にしてる?」
「おかげさまで。生き返らせてもらってからは、まあ何とか農家としてやっていってますよ」
「ん……良いことだ」
別の世界から転移させられ、蘇生されてから早数ヶ月。
ケンタウロスは少し遠い目をしながらではあったが、恩人ならぬ恩神にそう返す。
ついでに農家という単語が出て随分ご満悦なクミロミ。司るものが『収穫』という概念からか、農に関することを好むクミロミはケンタウロスの生き方を良しと見ていた。
「ジュアさんとクミロミさんはどうして下界に?」
「あなたが見えたから様子を見に、ついでにそっちの冒険者と同様にオパートスを見に来たのよ」
「オパートスについては主に……逃げ出してないかの確認だけどね。ジュアは……あと1000回は死なないと許さないって言ってた」
「それはまあ、なんだ。厳しい事で」
「当然よ、許さないんだから!」
何ともぷんすかなジュアに苦笑を浮かべるケンタウロス。
あなたを世界の彼方へとぶっ飛ばした張本人は、まあ随分と長い間おもちゃにされ続けていた。ケンタウロスの浮かべる苦笑は、神の死ですらこの世界では娯楽の一部でしかない感性に若干引いたことから出た表情だろう。そうに違いない。
「君……随分と……この世界に慣れたように思うよ」
「……そうですかね? いや、生き返らせてもらった当時が酷すぎたのは認めますけど」
あなたと神の手により、望まぬ形でノースティリスに移住することとなったケンタウロスは瞳を濁らせる。
埋まろうとしない限り何度も生き返れるという、ぶっちぎりでイカレた世界。
オラリオのダンジョンに居た頃とは何もかもが違う価値観、死生観。生き返れるという世界のせいか、オラリオよりも数段イカレてるノースティリスの住民と冒険者。
道を歩けば突然妹の軍団に襲撃されて殺されたり、終末に巻き込まれて殺されたりと、ロクでもない経験をしてきた彼。
ジュアに生き返らせてもらってからは、何をしてもいい放任的な身分になったもののそれでも当時はこの異常世界に慣れるのに必死だった経験は記憶に新しい。
「でもまあ、居心地は良いっすよ。住みやすいかどうかと言われたら首を横にねじ切らざるを得ないっすけど……ここはモンスターだろうと神だろうと、分け隔てなく接してくれる奴が多いんで」
「……君のいた世界は確か」
「まあ、モンスターは淘汰されるのが一般的ってのはあるっすよ。オレは
元の世界とは別の意味でいい場所ですよ。とそう言い切ったケンタウロスの瞳はどこか濁りを増している。
確かにモンスターだからと拒絶されることは無くなった。
しかし、それを代償にこのイカレた世界に順応しなければいけないという試練が待ち受けているのは話が違うだろう。
下手すれば異端児として動いていた頃よりも辛い環境に身を置かなければならないというのは……いくら何でも話が違うだろうと。
天国は一体どこだ。
*ここに無ければありませんねぇ*
ぶっ飛ばすぞクソが。
脳内ツッコミにより夢想の果てに消えた天国を想いながら、ケンタウロスはふと最後に見ることになった人間であるあなたの事を思い出した。
「そりゃ……こんな世界で育てばあんな性格になるよなアイツ。……つかオラリオ大丈夫か?今頃滅んでたりしないだろうな……?」
ケンタウロスは心配した。オラリオの存亡を。
心配せざるを得なかった。この世界において万人に狂人と呼ばれるあなたがオラリオで元気にやっているという事実に冷や汗が止まらない。
暇つぶしに核を起動されたらたまったものではない。最悪終末まで起動されてたとなれば、オラリオの明日は消し飛ぶだろう。比喩なく文字通り、だ。
「ラーニェ、アレに任せたのは間違いだったかぁ……? いやでもなぁ……ああでもしないとラーニェの奴助からねぇだろうしなぁ……」
ケンタウロスの心配は割と杞憂で今は両方とも仲良くやってはいるが、当のケンタウロスはこんな世界に住んでいることからか心配の念が止まらずにいる。
何せこの世界の住人は、オラリオからすれば異常者――あるいは狂人の集まりだ。性格だけならともかく、強さまで比較にならないモノを持っている分タチが悪い。
「……ま、考えてもしゃーねぇし。アイツが狂った事しなきゃ大丈夫だろ。後はラーニェに任せよう。うん。俺は知らん知らん」
死んだ目をしてどうしようもならない面倒ごとは忘れようと酒を呷る。
*10*
さて、晩酌の続きだ。せっかく神もいるのだから楽しい飲みにしなくては、とケンタウロスは気を入れなおす。
*9*
*8*
他の冒険者たちも神と飲みを続けている。
あなたの狂信仰に当てられた友人は目を潰したまま飲み続けているが、そこは気にしないことにした。いつもの事である。
で、視界の端になぜか紐で首をくくった酒場の客がいるのはどういうことだろうか。
ケンタウロスは疑問を呈して聞いてみた。
*7*
*6*
どうやら、オパートスを爆殺するために酒に酔った冒険者の一人が核を仕掛けたのだとか。
なるほどとケンタウロスは手のひらを打つ。
端に見えた死体は、爆炎に飲まれるのは御免だからと先に死んでいった客の群れだったようだ。
*5*
*4*
*3*
廃人と呼ばれるこの世界の上位冒険者は難なくこの爆発から耐えるだろう。
あなたが耐えれるほどなのだ。狂人のあなたが耐えれて廃人たちが耐えれない筈もない。
しかしケンタウロスの場合はそうはいかない。
この世界に住み始めて約1年。冒険者ではなく、平和的に過ごしたいからと農家としてこの世界に居座っている彼では耐久値が圧倒的に足りない。
問答無用で爆殺されてる運命である。
故に、ケンタウロスは笑顔で諦めた。
なに、もう慣れたことだ。突然爆殺されたり、エイリアンに腹を食い破られたり、終末に巻き込まれてドラゴンに丸焼きにされることもあったのだ。今更この程度どうということは無い。潔く死のうではないか。
はははは。
*2*
最後に一つ。
ケンタウロスは笑顔のまま、酒場の外に飛び出してこう叫んだ。
*1*
「住んで都なわけねぇだろうがこんな世界がざっけんなぁぁ!!!!!」
*ゴゴゴゴゴゴ*
*さようなら……遺言は?*