狂信者+ダンジョン=農家栽培   作:ストマフィリア

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18話 夢に恥じらいはあれど

 

 急な手紙が届けられた当日の夜。

 あなたはダンジョンの中層、いつもの20階層に訪れていた。

 ラーニェが先日のあなたの誘いに対して返答を出したとのことで、ウッキウキで足を運ばせていたのだが。

 

 しかし集合場所の森林地帯でラーニェとリド、そしてフェルズと出会ったのもつかの間、人間に見られる可能性がある場所での話は都合が悪いらしく、一度の移動を挟むこととなった。

 

 そうしてたどり着いた先が、ダンジョンの未開拓領域と呼ばれるだろう僻地である。

 

「ここに人間を呼ぶのは、本当に久しぶりかもな」

 

 ラーニェの話によれば、どうやらここは異端児たちの隠れ家(ホーム)の一つだという。

 そういえばあなたがラーニェと出会い始めの頃、彼女が20階層に来る理由の大半がここにまつわる事が多かったような。あなたとしては彼女に会いに行くのが目的だったのであまり興味を引かなかったが……。

 

 周りを見ればダンジョンとは思えないやけに整えられた立地。場の中央には焚火が設置されており、明らかに誰かの出入りが多々ある痕跡もそこらに散らばっていた。

 

「んじゃま農家っち、ちょいと座ってくれ」

 

 そして、あなたを取り囲む周囲にはリドを含めた4人の異端児が並んでいる。

 右から順に、人蜘蛛(アラクネ)歌人鳥(セイレーン)蜥蜴人(リザードマン)石竜(ガーゴイル)と。あとおまけに骸骨(リッチ)が。

 まるで裁判を始めるかのように横並びで座る彼らと彼女に対し、あなたも正面に鎮座する石製の座椅子に座るのだった。

 

 

 


 

 

 

 まず一に、と。

 リドがそう言葉を放って言い切る前に、あなたは逆に問いをかけた。

 周囲を観察したあなたはふとした疑問を提示したくなったのだ。

 

「おお、なんだ?」

 

 リドの隣に座る石竜(ガーゴイル)歌人鳥(セイレーン)についてだ。

 どちらも初見で顔を知らないが異端児だということは一目見て分かる。

 のだが、紹介が無い為あなたは2人の名前を知らない。となれば気になるもので、ちょっとした疑問が生まれたのである。

 

 ……で一番気になっているのは全身に刻まれた裂傷(れっしょう)に加えて顔に青痣と、なぜか傷だらけの体を晒している名前の知らない石竜の異端児なのだが、一体誰だろうか。

 

 そう問うてみると、まずはと青い翼を生やした歌人鳥の異端児が頭を下げた。

 

「初めましてですね。私はレイと言います。こっちの頭の固い彼とは違って人間には好感を持てる者なので、これからよろしくお願いします」

 

 こちらこそよしなにと、あなたも頭を下げる。

 次に、傷だらけの石竜に視線を向けた。

 

「グロスだ。それ以上貴様に語る言葉などない」

 

 ふん、という荒い息と共に返されたのは簡潔な言葉だ。

 

 やけに不機嫌をばら撒いてあなたの問いに返すグロスと名乗った異端児。

 ……グロスという名前には覚えがある。いつか聞いたラーニェの話通りなら、彼女と同じく人間を嫌う異端児のリーダー的存在だったはずだ。

 

 人間嫌いということは、例に漏れずあなたの事も相当嫌っているのだろう。

 随分前のラーニェのようなものだろうか。いや、不快度数を図るならラーニェ以上かもしれない。

 あの頃のラーニェも全身に針を張り巡らせているような雰囲気を醸し出していたものだ。何度かボコられたのも記憶に残っている。

 

「記憶に残すなそんなこと……」

 

 しかし事実だろう?

 

「ぐっ……! 確かに私がやったのは事実なんだけどな……!コレでも反省はしているし悪いとも思って……っ、分かりやすく腰をさすって痛がろうとするな!タチが悪いぞお前!?」

 

 あなたの痛がる振りに怒ったのかバシッと快音を鳴らし叩かれてしまう。

 ラーニェは人蜘蛛なだけあって図体がデカい為、叩かれる位置は一番近場なあなたの頭頂部だ。地味に響く。

 

 そうしてラーニェがツッコんでいる最中、それよそれよと真正面で3人の会話が聞こえてきた。

 

「グロスー、いい加減拗ねるのやめろよな。一応客人の前だぞ」

「グロス。不機嫌なオーラをまき散らすのは君達の身分の都合上許すが、せめて客人に礼儀は必要だろう」

「そうですよグロス。ラーニェと()()したくらいで拗ねないでください」

「やかましいっ! そしてオレは拗ねてなどいない!」

 

 どうやら仲間内の茶化し合いの様だ。

 ジト目のリドと苦笑するレイ。そして怒髪天を貫かんとするグロス。

 

 かくも懐かしい、廃人とのじゃれ合いのような光景が目に入る。

 

 本当に懐かしいものだ。ノースティリスではああやって茶化した後に大体、被害者の怒りが爆発し町一つが終末と核のフュージョンで粉々になるのが通例なのである。

 かの地では3日が経過するごとに、街の損害も死んだ人間も何もかもが元通りになる為か遠慮は無かった。逆に言えば全力でぶっ放す為、最後にはああ見事に爆散したな、と笑い話に消化できるのだ。

 

「いやぁ悪いな農家っち。グロスの奴最近こんな感じでよ……ってなにニヤけてんだ?」

 

 おっと、懐かしい光景を見れて無意識のうちにニヤけていたらしい。この世界の癒しの代表であるベルの影響か、どうも最近微笑ましい光景を見ると表情が緩んでしまうあなただ。

 それとグロスの出している不機嫌オーラについては、あなたは気にしてなどいない。

 

 むしろそのまま茶化し合いを続けてほしいとすら思っている。あなたは最後に怒り心頭になるだろうグロスの行動が気になるのだ。

 この世界基準では無茶難題かもしれないが、彼の怒り具合ならばノースティリス風に則り、この階層ごと爆破してくれるかもしれない。見入るような見事な爆破に少し期待が持てるだろう。

 

「……なんだ、何故奴はあんな不気味な笑みを浮かべて俺を見ている」

「さあ?」

「多分、昔のラーニェでも思い出しているんじゃないかしら?」

 

 笑みを浮かべて、あなたはグロスに一方的な期待を寄せるのだった。

 

「……ロクでもないことを考えてないか?」

 

 まさか。

 あなたはひっくり返る程の見事な爆芸が見たいだけである。

 

 

 

 

 というか、サラッと会話の一部が聞こえてきたがラーニェはグロスと喧嘩したのか?

 そう問いかけてみれば、ビクリと明らかに体を硬直させるラーニェである。

 

「い、いや。そのだな。私なりに少しケジメをつけてきたというか。決別してきたというか」

 

 白髪を指先で巻いて赤面するラーニェに、あなたはなるほどと相槌を打った。

 

 話によれば、人間嫌いの志を共にするラーニェとグロス。

 しかし彼女は以前までの考えを改めて――いるのか、あなたはラーニェに直接聞いたわけではないので分からないが。

 確かに人間と共に行動するかもしれないという事情を抱えてしまったのは事実なわけで。

 その事情を、リーダー格であるグロスが知らない筈もなく。

 

 となれば大方、かつて人嫌いだった同士の仲違いが発生したということだろう。

 それが喧嘩に繋がったと。

 

「あー、少し違うぜ農家っち。喧嘩した理由は合ってるけどな」

 

 あなたの予想にリドが一部否定で返す。

 

「グロスには本来、農家っちとの提案の件については秘密にするつもりだったんだ。どうやっても、話がこじれる気しかしなかったからな」

 

 む、ならば何故彼はラーニェの事情を把握しているのだろうか。

 そう聞いた少しの静寂の後。反応を返したのは当人であるラーニェで。

 

「……私がレイやフェルズに、無理を通して話したんだ。自分から、かつて同じ志を掲げていたグロスにな」

 

 あなたは疑問を片手に首を傾げた。

 リドはグロスに事情を話せばこじれると語っていた。それをラーニェが考慮していないとは到底思えない。

 なら何故、わざわざ事態をややこしくさせる行動を取ったのだろうか。

 

「ケジメって、さっき言っただろう? これでも長い間、同じ志を共にしてきた仲間なんだ。だから、仲間の元を勝手に離れるっていうのはどうしても納得が出来なくてな」

 

 一言告げて、憤慨したグロスと喧嘩になったと。

 まあ当然の成り行きだろう。やけに傷だらけな様子を見るに相当な激闘だったと見える。

 

「私達も止めたのですけど……」

「まあ、ラーニェの心境を鑑みるに妥当な判断だと思ってな」

「すまないが、貴公に話を通す暇がなかった為このように事後の報告となってしまった。どうか理解して欲しい」

 

 レイからフェルズへと順に語られる諸事情。

 各々が困り顔な様子で、リドに関しては頭部を指先でポリポリと搔いた後、フェルズから頭を下げて放たれる謝罪。

 

 に、あなたは別に構わないと返す。

 

 ラーニェがあなたの誘いに答えを出すために必要だったというのなら是非もない。それに咎める理由もありはしない。

 さらに元はと言えば、今回の一件はあなたの提案が引き起こした事態なのだ。原因になった人間がどうのこうの言える立場ではないだろう。

 

「寛大な心に感謝する」

「懐が深い奴って農家っちみたいなことを言うんだな。グロスとは大違いだ」

「なんだとリドっ」

 

 いい。それはそうとして本題に移りたい。

 もう夜が遅い時間帯だ。あなたとしても早く用事を終わらせて寝たい。

 リドとグロスの茶化し合いを遮りあなたは要件を急かした。

 

「そうだな。これ以上引き伸ばすのも貴公に悪い。それでは、ラーニェ」

「ああ」

 

 リドが場を譲ると同時に口を閉じ、ラーニェがあなたと視線を交わす。

 

「…………あー、うん。その、な」

 

 白髪を揺らし、少しの緊張を抱えるラーニェはまるで演台に立つかのような気分だったろう。気がブレてしまったのか、彼女は一瞬の間だけ瞳をあなたから外し、覚悟を決めて再び合わせてから。

 あなたに人差し指を、示すように刺して。

 

 そうして、一言を言い放った。

 

 

「私は――お前と行く」

 

 

 それだけ。

 たった一言の宣言を言い切った彼女は何処か、溜め込んでいたものを吐き出したような爽快な表情だったような気がした。

 

 

 

 

 

 言質を取ってハイ同行――という訳にはいかず。

 あなたの提案の対価、とまでは行かないものの異端児側からの要求も少なからずあった。

 

 

 まず一に、あなたとの同行に同意したラーニェの行動については自己責任でなくあなたに付随するものとする事。

 二に、問題が起きても異端児、如いてはフェルズの雇い主側からの関与は無いと思えと。

 三に、例え問題が起こりあなたに実害を加えかねない状況になってしまっても、文句の言い用無しに実行すると。

 四に、この契約を以てあなたとラーニェの行動を認めるものとする。

 

 

 ……小難しい事を並べて語ったが、要するにペットの責任は飼ってる奴の責任。ということである。

 

 少し違うのは生死はもちろん、ラーニェが異端児という存在ということがバレてしまっても()()に当たってしまう事だろうか。

 まあ、別にそれ以外の点についてはいつもと同じだ。

 ペットがモノを壊せばあなたのせい。ペットが他人を殺せばあなたのせい。ペットが終末を起こしてしまったらあなたのせいだ。

 

 この辺りはノースティリスの価値観に則っておりなおかつ慣れている為、あなたは少しの拒絶なく同意した。かの地の冒険者にとってはいつもの事である。

 

 そもそも、彼ら彼女らの異端児は存在自体が世界にとって秘匿という扱いなのだ。無理を通したあなたが爆殺しかり惨殺されても文句など言えないだろう。

 

 割とアッサリした同意に異端児含んだフェルズは目を開いて呆けていた。

 

「いや、もう少しはなんか言われるかと思っていたんだけどよ」

「こちらが言うのもなんだが、大分貴公に負担が掛かる要求をしたのだが」

 

 リドとフェルズの心配にあなたは首を傾げた。

 

 ふむ、あなたとしてはラーニェが人間と同行することを許したことが既に温情だと思っている。

 先も言った通り、彼女は本来存在が発覚することすら危うい生物なのだろう。

 ならばそちらの要求と、あなたの酔狂な要求にも天秤の釣りが合うと思っているのだが。

 

「ふん、貴様の行いがどれほど愚かなのか、身の丈ほどは弁えてるという訳か」

「わざわざトゲのある言い方をしないでくださいグロス。失礼でしょう。……しかし、あなたの行動がどれほど重大な事なのかを理解してくれているのは、私達異端児(ゼノス)にとっても有難い事です」

 

 礼をと、再び青い羽根を身に纏うレイから頭を下げられる。

 どうも彼女からはあなたに対しての敬意という物が多大に感じられる。別に何もしていないのだが。何故だろう。

 

 ……まあいい。

 

 あなたとしてはラーニェとの約束が最優先事項だ。

 フェルズとの交渉はラーニェとの同行を穏便に済ませる為のものであり、その他がどうのこうのに関しては心底どうでもいい話である。ついでに彼ら彼女ら異端児があなたの事をどう思っているかなど思考の範疇外だ。勝手にさせておこう。

 異端児リーダー格3人の雑談を意識外へと追いやり、あなたは別の事へ思考を割く。

 

 さて気を取り直し、同行の同意も得られたことでまずはラーニェを()()準備だ。

 

 4次元ポケットから独りでに取り出すは機械仕掛けの紅白の球体。

 フェルズが懸念している『ラーニェを身バレしないように外へ出す方法』は、このアイテムのおかげで全て解決してくれる。

 もちろんノースティリス製で、あなたがそこら辺の土産屋で購入した普通の一品だ。

 

 さあ前準備をと、あなたは()()()()()()()()()()のだが。その前にフェルズの一言が遮る。

 

「ああ貴公。もう一つ伝えることがあるのだ」

 

 なんだろう。今回の一件に関係あるものなのか?

 

「部分的には、だ。私の雇用主が……まあ神物なのだが。その者が君に会いたがっているのでな。日程は問わぬゆえ、出来れば来訪して欲しいとのことだ。もちろん同行しているだろうラーニェと共に」

「……ウラノスがか?」

 

 ラーニェの口から飛び出たのはウラノスという神の名。どうやらフェルズの雇用主の名前らしい。

 となれば、間接的に異端児の事情を知っている者ということか。

 

「そうだ。ついでに言うと、私の上司のようなものでな。貴公とて彼ら(ゼノス)と関係を持つ以上、顔を通しておいて損はないだろう?」

 

 なるほど。確かにフェルズの言い分には一理ある。

 ラーニェと行動を共にするとなると、異端児の存在という共通の問題を抱えている者と、親しい交友がある方が今後のあなたも行動しやすい。ラーニェとて例外ではないだろう。

 

 となれば、フェルズの提案を拒否する必要は無い。

 あなたは首を縦に振って許諾の意思を示した。

 

「すまないな。重ねて礼を言わせてくれ」

 

 リド達を置いて、個人的な礼だからと頭を下げたフェルズにあなたもまた気にしないと首を振る。

 そんな事よりもあなたはさっさとラーニェを連れて行きたいのだ。

 

「構わないが、彼女を連れていく方法はどうするつもりだ?」

 

 方法はある。できるかどうかもそこら辺のモンスターで試したので実証済みだ。

 

 あなたはそう語りながら、先ほど取り出した機械仕掛けの紅白の球体をフェルズに見せよう――

 

「ちょっと待ってくれ」

 

 としたあなたの肩に、トントンッという軽い感触が奔る。

 後ろから。振り返って見れば白髪を揺らしたラーニェがあなたの肩を叩いており。

 

「その前にだな……そのな。少し、歩かないか?」

 

 言葉詰まりではありながらも彼女は散歩をしたいと、なんとも急にあなたへ提案したのだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

 あなたとラーニェは20層の森林地帯をあてもなく歩いている。

 

 目的の無いただの雑談交じりの散歩だ。周囲に人間の気配はなく彼女との時間を邪魔されることはないだろう。

 ちなみにリド達を含む異端児の集まりとは、すでに解散した後である。

 ラーニェを連れ出す手段についてはあなたに一任されたため、心配はないと思われたのだろう。

 

 歩きながら交わされる雑談。

 

 あなたを散歩へと誘ったラーニェの真意は知らない。

 リドとレイが言うには、積もる話もあるだろうしとのこと。まあ初めての外出となれば心配事もあるだろうとあなたは勝手に納得していた。

 

「ここは……ああ懐かしいな」

 

 歩いている最中にたどり着いたのは、とある巨木の前。

 立ち止まったラーニェはどこか昔を思い出すように懐かしんでいる。その様子は微笑みを帯びており、あなたですら見惚れる表情であった。彼女の魅力値は高いかもしれない。

 

「覚えていないか?」

 

 おっと、ラーニェの顔に視線を釘付けにされていた。

 あなたは彼女の問いになんとなくで答えを返す。

 

 目に映る巨木と、身に覚えがある草木の生え位置。

 ここは確か、ラーニェと2度目に遭遇した場所であっただろうか。

 

「ああ。お前が私を見つけて……あの時の私はすぐにその場を離れようとしたが、いつの間にか隣にお前が立っていて逃げられなくなったんだっけな」

 

 そうだ。あの時は偶然ラーニェの姿を見つけて、即座にとんぼ返りをしようとした彼女を引き留めようとあなたの速度を全開放し彼女の隣へ移動したのだった。

 瞬間的に移動したあなたの姿を、ラーニェが目視した時の驚いた叫び声は今でも覚えている。

 

 こう、ひゃわ! っと。

 

「わ、わざわざ言わなくていいっ!」

 

 赤面したラーニェに本日二度目、頭部を叩かれる。

 どうもあの叫び声は意図していなかったのか思い返してみると恥ずかしかったようだ。苦笑しながらすまないと謝ってみれば、鼻を鳴らして次はないからなと言うラーニェ。

 

「全く……よりによって、どうしてお前が私の――」

 

 私の。

 そう言って彼女は言い止まる。

 何か言いかけていたようだが、どうしたのだろう。

 

「いや、でも……そうだな。この際だ」

 

 勝手に自己解決したかのように、少し難しい顔になってそれを晴らすラーニェ。

 

「私達、異端児には生まれた時から人に対して、あるいは外の世界の事について憧れを持っているという話は聞いているな」

 

 ラーニェの確認にあなたは頷く。

 その辺の話はリドと初めて会合したときに一度聞いている。人と地上への憧憬を抱えた生物。それが異端児という存在だと。

 

 あなたが答えれば、ラーニェは少しだけ懐かしみと恥じらいを込めて言う。

 

「……私もあったんだ。昔は、人に対して憧れを持っていた。ただ長い間、人に対する嫌悪と憎悪が重なってな。いつの間にか私自身の内で閉じ込めるようになった、そんな夢が」

「思い出したのは……というか、もう一度()()に向き合ったのはつい最近だ」

「向き合って、少しだけ悩んで……」

 

 チラチラとあなたを指す視線。

 ラーニェは何故か黙って聞きこんでいるあなたの様子が気になっているらしい。

 なお、あなたがラーニェの独白を黙って聞いているのに理由はない。しいて言うなら彼女にとって大事な内容だから聞いているというくらいか。

 

「抱えた夢に、答えを出してな。

 それがきっかけで、お前と行くことを決めたんだ」

 

 頬を少し赤らめながら言うそれには、彼女なりの照れが混じっている。

 そこまで恥じらう夢なのかは疑問を浮かべかねないが、まあ個人の感性だ。無理に言いたくないなら言わないでいいのだが。

 

「いや、言う。今だからこそ言えるから」

 

 しかしラーニェは語り始める。悠然と、粛々と。

 

 ……薄情なものだが、これから語られるだろうラーニェの夢の話にあなたが感情的になることは無いだろう。隣を歩く仲間(ペット)の事なら少しは知っておくべきというあなたのノースティリスならではな価値観が邪魔しているのか、あなたはただ一個人の憧憬には興味が持てないでいた。

 

 されど、聞くべきだとも思った。

 興味も無ければ、感情的にもなれない話であろうが。

 あなたは理由も無い義務感のようなものを感じ、彼女の言葉を待つ。

 

 待って、彼女は言葉を綴った。

 

 

「――私の夢はな、誰かと一緒に空の下を歩くことなんだ」

 

 

 たったそれだけ。

 一文で済むような、そんな夢をラーニェは頬を赤らめながら言った。

 

 頬笑みと苦笑が混ざった表情。照れを帯びていながらも、しかし堂々としたその語り口調は彼女の硬い意思を感じられた。

 

「外に出て、こんな岩で囲まれた息苦しい天井と惜しくもない別れを告げてから、見たことの無い大空に両手を広げるんだ。

 できれば誰かと一緒に隣を歩きながら、な。……私にしては、子供らしくて笑える夢だろう?」

 

 あなたは皮肉気味にかけられた声に首を傾げて返す。

 面白おかしくあなたはラーニェに反し、否と、一言を添えて。

 

「そこは笑ってくれるとありがたいんだけど」

 

 何を言う。誰にだって恥ずかしいと思う夢は一度くらい抱えるものだ。それこそ、外の世界を見たことない箱入り異端児ならなおさらだ。

 なんならあなたですら、昔は神を殺せるようにと夢を抱えていた時期があったのだ。彼女が胸に秘めるその想いを、ただの一言で不意にできるはずもなかった。

 

 後半の一文を濁しながらそう語ったあなたに対し、ラーニェはきょとんとした後に苦笑した。

 

「前から思っていたが……優しいな、お前は」

 

 別に優しいつもりはない。自身の考えに沿って言葉を口にしたまでだ。

 

「否定も肯定もせず、私の意思を尊重してくれることもまた優しさだと思うぞ」

 

 さあ、どうだろうか?

 どちらかというとただ無関心なだけな気もするが。

 

「……まあ、お前はそれでいい。

 そんなお前だから、私は一緒に隣を歩きたいと思ったんだからな」

 

 大木の前に立っていたラーニェ。

 彼女はくるりと、後ろに立っているあなたへと振り返り――初めて見たと言い切れる程の笑みを浮かべる。

 ダンジョンを淡い光が木々の間をすり抜け、彼女をスポットライトのように照らしている。白髪は煌びやかに靡いており、白い肌は淡い光でくっきりと照らされていた。

 

 それはまるで、舞台に立つヒロインのように可憐であり。

 

 異端な命を持った、少しだけ儚い姿が映し出されていた。

 

 

「私は――お前と一緒に大空の下を歩きたい。誰でもないお前とだ。文句はあるか?」

 

 

 笑顔と共に宣言された夢に。

 果たして、否と言える度量はあなたに無かった。

 何故なら、その笑みがどうしても満足と期待を込めたものに聞こえたから。

 

 人間が夢を語るように放たれたソレを、あなたは苦笑を浮かべながら受け入れるのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「それで今更なんだが、私を外へ連れ出す方法に関してはどうするつもりなんだ?

 正直、こればかりはお前頼りになるしかないんだけど」

 

 ああ、そうだった。その件についての説明がまだだったか。

 

 あなたはポンと手を叩き、懐から機械仕掛けの紅白の球体を取り出した。

 これがラーニェを外へ運ぶための代物である。

 

「それが? どんな魔道具なんだ?」

 

 魔道具とはまた違うのだが……まあいい。

 このアイテムは《モンスターボール》と言い、簡単に説明するとモンスターを収納するアイテムなのだ。

 

「なんだと? そんな魔道具が地上にはあるのか」

 

 地上というかあなたの故郷であるノースティリスにはだ。現状オラリオで似たようなアイテムは確認していない。もしかしたら存在しているのかも。

 

 そんな説明は省略し、ダンジョンの外へと連れ出す為、あなたはラーニェに向けてコレに入ってもらいたいと語った。

 だがモンスターボールに注視している彼女はどこか警戒している様子も見られる。

 何か心配事でもあるのか。

 

「いや、なんだ。確かに姿を見られることは無く外には出られるだろうが、お前の事だから四肢を切断して詰め込むとか言いかねないだろ……?」

 

 まさか、そんなことは言わない。なんだったら必要も無い。

 

「そ、そうか。なら――」

 

 ただ死ぬ寸前まで痛めつけさせてもらうが。

 

「…………おい待て。死ぬ寸前ってなんだ……っ!?」

 

 文字通りだ。

 これよりラーニェにはモンスターボールに入ってもらう故、死にかけてもらう。

 モンスターボールは、対象の相手を逃げられない程度に痛めつけ死なせかけ殺すギリギリまで瀕死にさせてからでないと効果を発揮しないのだ。こればかりはやってもらわないと、外へ連れ出すことができない為強制だ。

 

「ふざ……っ!? おい本当にそんな方法しか無いのか!?他になにかあるだろう、こう……変装とか、透明になるとか!?」

 

 議論するラーニェだが残念ながらあなたの持つ方法ではこれが最善である。

 《インコグニートの魔法》で存在を偽装しようにも、効果が切れた瞬間にはいバレましたではシャレにならない。確実性を求めるならこの方法が一番なのだ。

 

 なので無理を承知でラーニェには瀕死になってもらう。こればかりは決定事項だ。

 

「が、ぐ……! いやしかし、瀕死になるというのもお前の案があってこそだろう!? 何か、痛みを感じず死にかける方法があるんじゃないか!?」

 

 必死になって抗議の言葉をかける彼女にあなたは頷く。

 現状、ラーニェに受けてもらう死にかけ方は2つある。

 

 一つ目はあなたの持つ《毒薬》で苦しみながら死にかけてもらう方法。瀕死になるまでの本数は持ち合わせているため安心して欲しい。

 二つ目はあなたの技能である『みねうち』を使い、全力攻撃の末一撃で死にかけてもらう。なおこっちの方が手軽で苦しみを感じず意識を飛ばすことができるので楽ではある。

 

 あなたはこの二通りのプランを提示した。

 

「どっちもロクなモノがない……!」

 

 彼女は何故か泣きそうだ。まあ、この世界の生き物は死にかける経験が少ないから仕方ないのだろう。

 

「好き好んで死にかけたい訳がないだろう!バカなのかお前は!?」

 

 文句は後で聞くとして、あなたはラーニェに選択を急かした。

 どんな困難があっても外へ出てみたいと言ったのはラーニェ自身だ。覚悟くらいはできているだろう。これ以上は無粋な口論だ。

 そう指摘すればラーニェは返す言葉が浮かばないらしく押し黙った。

 

 さて、どっちの方法で死にかけたいか。選ばせる。

 これでも彼女は友人だ。あなたはできるだけ苦しみを与えない方向を期待したい。

 

「む、ぅぅ……じゃあ、苦しまない方で。頼む」

 

 苦渋の決断と言わんばかりに歯を食いしばるラーニェ。

 

 そうかと期待通りの答えを聞いたあなたは笑みを浮かべ、武器を取り出して即座に振りかぶる。

 しっかりと『みねうち』を起動させた状態で。

 ブンッと風を切る音。

 

 

 数秒後、ダンジョンの中で鈍い音が響いた。

 

 

 




『みねうち』
対象のHPが1になるように出来る技能。
もちろん死ぬことはできない。
どんな悲惨な状態であろうと死なない。
殺してほしいと思っても死ねない。

《モンスターボール》
瀕死になった対象を捕獲し自身のペットに出来るアイテム。
毎度ながら死にかけさせなければいけないのが難点。
みねうちの技能と相性がいい。


*評価数が200を超えた音がする……*

不定期更新な拙作に200人も評価してくれてありがとうございます。
できればこれからも拙作をよろしくお願いします。
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