狂信者+ダンジョン=農家栽培   作:ストマフィリア

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前置きだから短め



20話 忘れ物を思い出す魔法

 

師匠(せんせい)って、魔法とか発現していたりするんですか?」

 

 今日はベルのダンジョン探索が休暇ということで遠慮なくボッコボコにしていたあなた。

 それも終わった自由時間。あなたは愛用の武器の手入れをしている際中に柔軟をしていたベルからそう問われた。

 その問いは好奇心か。単純な疑問から来るものだろうか。

 

「まあ、はい。昨日リリと『スキル』とか『魔法』の話をしてて」

 

 師であるあなたは果たして持っているのか気になったと。ベルは苦笑しながらそう告げる。

 

 お試し契約だったはずのリリと共に行動している点についてサラッと流したが、どうやらベルはリリとの契約を続けていくらしい。あの少女は一応盗人である上に、現状ベルがリリの事情等を知っているようには見えないが……。まあ本人が続けていくと言ったのだ。あなたが口を挟むのは野暮というものだろう。

 

 盗み対策の件も、武器と貴重品等をベルの装備している緑色のプロテクターの中に収納しているとのことなので、恐らく当分は大丈夫なはずだ。

 ★《ヘスティア・ナイフ》というベルの愛用武器に関しても、リリにアレだけ口出ししておいたので手は出さないと思う。出したら殺すが。

 

 それにベルにもそろそろサポーター(ペット)ならぬ友人が必要な頃合いだとはあなたも思っていた。そう、ちょうど懐のモンスターボールに入っているラーニェのような。

 

『おい、今さり気なく私をペット扱いしたか?』

 

 不快感満載な声があなたにだけ聞こえてくる。

 声主は腰に吊るしているモンスターボール。早朝にあなたの隣人の顔を見たいからと付いてきたラーニェからである。

 

 まさか、ラーニェはペットではない。かけがえのない大切な友人だ。ただモンスターボールに入っている都合上、ペットという名称が適切なだけであって。

 

『コレに入っている奴は全員お前のペット扱いにされてるのか……出たくなってきた』

 

 声だけ聞こえてくるため表情は見えないが、なぜかうんざりする様子が予想できる。ラーニェは狭い場所が嫌いなのだろうか。ダンジョンという暗い中で生きてきた彼女ならそのような抵抗はないと思うのだが。

 そのような問いをかけてみれば、モンスターボールの中から見えるはずもないジト目な視線を感じるあなたである。

 

 閑話休題

 

 ラーニェとの会話及び思考を中断して、あなたは先ほどの問に答えるようにベルに『魔法』の類は持っていると告げた。

 

「やっぱり発現しているんですね!?」

 

 告げると同時、ベルが柔軟を忘れるかのようにあなたへと急接近してくる。瞳にはもはや好奇心の感情しか映っておらず、どこか子供のようにキラキラと星が浮かんでいた。

 近い近い。

 

「あ、ごっごめんなさい。つい興奮しちゃって、あはは……」

 

 目先の好奇心に夢中なベルの可愛げに思わず鼻で息をついてしまうあなた。

 

 そういえば、この世界の魔法はノースティリスよりも珍しい技能なのだったか。

 あちらではそこらの魔法店で販売している《魔法書》を読むことで『魔法』の使用が可能となるのだが……この世界ではどうもそういう訳にはいかないらしい。

 この世界の魔法は最大3種までという数少ない数を習得できるが、大多数の者は発現しないまま生涯を終えるほどには発現することが無いのだという。なんと不便な世界か。

 

 一応、強制的に魔法を発現させるこの世界においての《魔法書》もあるにはあるが、とても高価であり現状のあなたですら手が出せない代物だ。

 

 ……()()()()を使わなければだが。

 

『へそくり?』

 

 今のは聞かなかったことに。

 とにかくそんな『魔法』という代物を、あなたという身近な人間が持っているのだというのだからベルの興奮も当然と言えば当然と言える。

 

「良いですよねえ。僕ってまだスキルとか魔法の1つも持ってないんですよ。やっぱり憧れちゃうなぁ魔法……魔法ぉ……」

『目が虚ろだぞこの人間、頭は大丈夫か?』

 

 割と深刻かもしれない。後で気付け用にハーブを叩きこんでおこう。

 さっきからベルの視線がねっとり絡みついているが、まああなたもベルの気持ちは分かるのだ。

 

 冒険者になりたてだったあの頃、あなたが初めて魔法を扱ったときの高揚感もまた激しいものであったのだから。あの何でもできるような全能感と可能性が広がった感覚は、幾度となく冒険をしてきたあなたの脳裏に今なお深く刻み込まれていた。

 

 初めて使う魔法を詠唱できた高揚や4次元ポケットによって冒険の利便性が向上した事に喜んだ記憶が蘇る――

 

 

 と同時に強烈な頭痛があなたを揺らした。

 

 《魔法書》片手に一度読めば失敗に終わり、突如誤召喚されたモンスターに撲殺された記憶。

 ようやっと覚えた魔法を詠唱しようと失敗し、その隙を見逃さないモンスターに撲殺された記憶。

 あなたの魔法に巻きこまれ死んでいくペットの姿。マナの枯渇によって爆散するあなたの姿。

 

 その他諸々、痛々しい冒険の記憶があなたの頭をよぎった。

 

 

 ……ふむ、どうやら成功した時よりも失敗した時の方が印象深いのか、懐かしい思い出として記憶に残り続けているらしい。

 まあ、失敗の経験を込みでも魔法という未知に触れた際のワクワクは心地よいモノなのである。

 

 思考を終えてあなたは正面を見る。

 ベルは未だにトリップから覚めそうにないらしい。目を瞑って魔法の憧憬を想い続けていた。少年心ここにありといった感じだろう。

 これから強くなっていくだろうベルの事だ。そのうち魔法を覚えさせるのもいいかもしれないとあなたはひそかに考える。

 

『いいんじゃないか? 私が見ていた限りだと、この人間の強さに対しての渇望は本物らしいし。何よりお前の弟子なんだろう? だったらそれくらいの褒美はあっていいだろ』

 

 頑張った弟子には褒美が要るものだろと語るラーニェ。

 そう言えば、彼女はあなたとベルの鍛錬をモンスターボールの中から眺めていたのだったか。

 

『……手足をへし折る勢いでしていた組み手の事を鍛錬って言っていいのか知らないけど』

 

 アレは特訓だ。決して痛めつけ目的の行動ではない。

 先にラーニェの勘違いを訂正させてもらう。

 

『……はぁ。いいけど、私の主観から一つ言わせてもらうとアレは絶対鍛錬じゃないから。甘く見て拷問だから。そこの所ちゃんと考え直した方がいいわよ、あの人間の為にも』

 

 呆れた声色でそう語り、ラーニェは黙ってしまった。

 

 はて、ボコることでベルの耐久や組み手による戦闘技術は上がっているはずだが。

 決して死なせることなく、神がかり的な手加減によるあなたの紳士な強化鍛錬のおかげでベルは確実に強くなっている。辛苦を経験しながらも微弱ながら強くなっているこれを鍛錬と呼ばずしてなんと呼ぼう。

 

 そんなあなたの思い浮かんだ疑問は無視を貫く彼女に返されることも無く、トリップ中のベルのうなり声と共に流れてしまった。

 

 

 


 

 

 

 早朝の終わり、ベルは絶賛二日酔い中のヘスティア神を介護するためにとここで解散。

 腰のラーニェを含め、あなたは農家の仕事も無くただ暇を持て余す時間をどう過ごすか考えていた所で。

 

「あのー、すみません。【クミロミ・ファミリア】のホームってここで合っていますでしょうか?」

『誰だ? お前の知り合いか?』

 

 突然玄関の戸を叩かれ、あなたは当然の様に応対する。

 視線に入ってきたのは全く知らない、見知った顔ですらない来訪者だ。あなたの知り合いではないと断言できる。

 というかそもそも、メインストリートから外れた立地にあるこの家に用事がある者などそうはいない。何せ廃教会が転がっているような通りだ。人気も何も、住民が居ないのであれば用事を訪ねる者の数などたかが知れている。

 

 本当に誰だろうとあなたが知らない顔に目を凝らしていると、来訪者は丁寧に語り始めた。

 

「ご確認ですが【クミロミ・ファミリア】の団長様で間違いはないでしょうか? ……間違いないようですね。自分は【ロキ・ファミリア】の者でして。本日はあなたを私たちのホームに招待するようにと、主神と団長から命を受け来訪させていただきました」

『招待だと? わざわざお前当てに』

 

 どうやら来訪者はロキ神の使者らしい。

 来訪者はラーニェに気付いていないような素振りだが、実際先程のベルのようにラーニェの存在には気付いていない。

 

 彼女の声はあなたにしか聞こえていないのだ。まるで電波である。

 

 とりあえず、あなたはあのロキから(ホーム)にお邪魔しに来いと言われているようだ。ご丁寧に使者まで送りつけてくるあたり、流石二大派閥の一角と言えるところだろうか。

 しかし覚えのない招待に疑問を抱くあなたではあったが……

 

 まあ、今日のあなたは一日中暇な身であることもあって。

 

「まずは要件を……え、招待を受ける? いやあの、まずは要件の方を伝えたいのですが……」

『思い切りが良すぎ。怪しいと思わないのかお前は』 

 

 どんな用事があってあなたを呼びつけたのかは見当が付かないが、誘われたとあればそれに応じない理由も無いだろう。

 ましてや神からの誘いだ。狂信者であるあなたが断れるはずもない。

 まあ、何か企みがあって呼びつけたというならその時はその時で考える。まずは目先の招待に応じるかどうかの回答を返すだけだ。

 

『……相変わらず極端すぎる思考だな』

 

 ラーニェの返しにあなたは使者にバレない様小さく苦笑した。

 

 一応ラーニェにも同行するか確認を取っておく。

 今のあなたと彼女は一心同体のようなもの。常に一緒にという訳ではないもののそれなりに同意は貰っておかなければいけない。ペットを連れる者として当然の嗜みである。

 

『……はぁ。まあ私は構わないぞ、暇を持て余してシェルターに籠り切りになるよりはマシだし。ここに入ったままではあるけど、外の景色も見てみたいから』

 

 大丈夫なようだ。

 

「ありがとうございます。それと一言、ロキ様からあなた宛てに伝言を預かっていますが……聞きますか?」

 

 とんとん拍子に話が進むことに一つお辞儀をしてから、来訪者はついでのように伝言があることを語る。

 しかしその様子は少し戸惑いを見せている感じだ。何か言いにくい事でもあるのだろうか。

 

「いえその……少々言葉が荒いと言いますか。正直に申しますとあの飲んだくれな主神らしい感じで吐き捨てた伝言ではあるので気を損ねないかと思いまして」

 

 構うものか。たとえ暴言的な何かだとしてもそれは神の言葉だ。慕う神ではないにせよ、狂信者として粛々と受け入れる度量くらいは持っている。

 

「ああ、ええ。ではご厚意に甘えて……おほん」

 

 あなたはそう気楽に告げ、反対に来訪者は申し訳なさそうに感謝した後、一つ咳込んでから口を開いた。

 

「『さっさと貸したもん取りに来んかい! うちらも予定が詰まってるちゅうに!はよせんとこのまま借りパクするわ!!』……だそうです」

 

 ……なるほど。

 

 あのファミリアに貸したもの。それには確かに見当がある。

 少し前に起きた酒場での一件によって、あなたは《サンドバッグ》を貸していたのだったか。ラーニェの件で頭が埋まっていたので完全に忘れていた。

 

 あれから数日、放っておきっぱなしな道具の事を思い出したあなたは苦笑の末にポリポリと頬をかく。

 

 図らずしもだが、今日の予定は決まった。

 まあ暇を持て余すのもアレなので、あなたは今すぐ取りに行く、とロキ・ファミリアの使者に伝えたのであった。

 

 

 





《魔法》
ノースティリスの魔法は魔法書を読めさえすれば使用できるようになる。
正しストックがあり、使用可能回数を使い切ればまた魔法書を読む必要がある。

尚、まともに魔法を使用するにはそれ相応の努力は必要。
大抵は魔法書を読む地点で読書ミスをして、モンスターの誤召喚を招き死ぬ。
読書ミスでマナを大きく吸い取られ爆散して死ぬ。
まともに詠唱できずに何もできず死ぬ。

しかしその地獄さえ超えれば、神をも殺す力となるだろう。

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