狂信者+ダンジョン=農家栽培 作:ストマフィリア
前を歩く使者に同行して早数分。
あなたが足を運びやってきたのは目に見える大豪邸こと【ロキ・ファミリア】のホームである。
豪邸はあなたの家の数倍はあるだろう大きさを誇っており、ノースティリスで言うならば廃人の持つセレブ邸になる規模だろう。
なお、余談だがかつてあなたがかの地で建てていた家は住み心地の良い家程度のものである。豪邸はあなたの趣味ではない。今のあなたがオラリオに持つような一軒家程度がちょうどいい。
しっかり
少し歩き、そうしてたどり着いたのは両開きの木製のドアだ。
コン、コン。と規律の良いノックが使者によって行われ、扉の向こうから聞こえてきた男性の返事と共にガチャリとドアが開く。
あなたの目に入ったその空間は執務室だろうか。
部屋の奥には大きめの執務机。中心にはソファに座って使うリビングテーブルが縦方向に置かれている。その上には菓子類とティーポットが置かれており、部屋を満たす安らかな香りが気品を表している。
置かれているソレらの品質はあなたが鑑定をする前に察せられる程であり【ロキ・ファミリア】が抱える財力を大いに表しているようだ。
先にソファに案内され、待つようにと案内されたあなたは執務室内で一人となる。
いや、実際には腰に吊るすモンスターボールに入るラーニェを加えて2人だが。
『……すごいな。ロキ・ファミリア……確かこの街で一番を競う派閥だったか。まあ、私が世間知らずってだけかもしれないけど……この部屋の質だけでも、この派閥が持つ影響力とかが垣間見えるぞ』
ラーニェは初めてお目にかかる大豪邸に驚きを隠せていないようだ。
まあ、彼女は土色で周囲を固められたようなダンジョンの箱入り娘なのだから当然と言えば当然の反応だろう。
『む、箱入り娘なんて聞き逃せない言い方をするな。これでも昔よりは人間の常識に関心を持っているんだ……』
うんぬんかんぬん。
そうして数分ほどの空き時間が生まれたわけで。
ラーニェと脳内で雑談を交わしている最中、途端にガチャリと扉が開く音。
「お、ようやく取りに来たんかいな。ちゅうか遅いぞて。ウチらにも予定ってもんがあるんやぞ?」
「ロキ、客人に向かって開口一番にその言い方はダメだろう」
「へーい」
「全く……やあ、待たせてすまない。ついさっき探索から帰ってきたばかりでね、シャワーを浴びに行っていたんだ。……良ければだけど、本題に入る前に、僕の休憩のついでにお茶でもどうかな?」
部屋の入口には少しツンとした具合のロキ神と、さっぱりとした具合のフィンが現れた。
あなたとフィン、双方共に礼儀ある対応と改めた自己紹介を終える。
そうしてあなたは、フィンのご厚意に甘えるかのようにお茶会の時間へと耽っていた。
正直言うと、この部屋に入った時から目の前の茶菓子に釘付けなあなたであった。
口に運んだその菓子はかくも甘味で溢れ美味である。
飲み込んだ液体はあなたの甘味で満ちた口内を、また別の甘味で満たす。
その永久ループに飲み込まれたあなたは見るからに口角を上げ、満足に満ちた表情をしていた。
「どうだい? 本当は僕の一休み用に用意した茶菓子なんだけど、君の口に合うかな」
合う合わないどころではない。あなたとしては存分に満足している。
一片の非も無い評価にロキは苦笑を、フィンは微笑をこぼす。
「お、おぅ……やっけに恍惚な感じやなぁ。そんなに甘いもん好きなんかジブン」
好きである。
ノースティリスでの食に対する嗜好品は酒やデザートやジャンクフードなどが挙げられる。決して物足りないという訳ではない。あの世界はあの世界で魅力のある物は多くある。サンドバッグや核爆弾がいい例だ。
しかし、この世界の嗜好品は種類が多くまた未知なものがあるが故に、オラリオに降り立ってからのあなたはこういうモノに対して割と目が無いのだ。
例えば、今あなたが手に持つクッキーなどは《アピの実》だけで作られるわけではない所。
様々な工夫と素材を活かした菓子を作るという発想は、かの地では思い付きすらされていない。
手間を凝らした菓子類はとても美味く満足に値する逸品である。
さらに、この紅茶と呼ばれるモノ。
これはノースティリスだと見たことのない部類に入る。未知の嗜好品だ。
加えて味等についても文句が無い。正直言って最高だ。ここがあなたの家なら《魔術師の収穫の魔法》を喜びのあまり連打している。
そもそも噴水の水を含めた美味い飲料が遠慮なくガブガブ飲めるというこの世界において、さらにそれを美味しくした飲料が嗜好品として一般に出回っているとなればあなたの瞳も一層輝くというもの。
この世界に降りてからは、汚水しか街に流れていないノースティリスが少しばかり恨めしい。飲めるは飲めるがマズイのだ汚水は。汚いし。
『私も泥水はよく啜ったけど……確かにこういうのには縁が無かったな』
ラーニェもマズイ飲料を飲んだ経験が多いのか、あなたの気持ちに同意する。ダンジョンで居過ごす異端児は汚水を飲む状況に強いられることが多いのかもしれない。
『そ、それはそうとお前……私のも残してくれないか? いや、おこぼれを預かりたいとかそういうのじゃないんだけどな。私も外に出た以上こういうのに触れてみたいと思っただけで……』
もじもじと、早口であなたに願うラーニェは好奇心の感情を抑えられている気がしない。なんなら両の人差し指をツンツンしながらうずうずしているラーニェの幻覚が一瞬見えた気がする。
とはいえあなたも彼女の気持ちは大いに理解できるため、秒で了承だ。脳内で満面の笑みのサムズアップを返してやった。「同居者の分も」という名目を挙げて頼んでみよう。
「構わないさ、多少備蓄が減る程度で困る事でもないからね。……ところで同居者がいるというのは、君の……クミロミ・ファミリアの団員の事かい?」
ふっと笑って許諾を得ると同時、疑問を提示してくるフィン。
あなたはそれに一部否定を返す。
ラーニェは確かにあなたの同居者ではあるがクミロミの信徒ではない。
「それは、いずれファミリアの一員になるって理解でいいのかな?」
ノータイムで首を縦に振った。
『……はあぁ!? おい待て、そんな話聞いてないんだけど!?』
頭中でラーニェの叫びが反響する。非常にうるさい。
話に聞いていないというか、言ってないのだから当然だ。
今の所は本人の同意など取っていないが、あなたは友人を同じ信仰に引きずり込む気満々であった。狂信者らしい無慈悲な勧誘である。はた迷惑な推し活ともいう。
クミロミ最高。クミロミを崇めよ。
『おまっ……勝手に決め過ぎだ! 大体、ファミリアの一員になるって言ってもお前の神は――』
「せや、一つ農家はんに聞きたいことあんねんな」
頭の中で鳴る抗議を遮ってロキが語る。
その表情……というより細い目はあなたを値踏みするような、疑るような視線である。
「クミロミってゆったか、手前の主神、もしかしなくてもオラリオにおらんやろ」
ロキの疑問は、図らずしもか頭の中で響くラーニェの言葉に続くようなものだ。
そんな問いにあなたは肯定を返す。
事実、あなたの神はオラリオには存在せず、又降臨する予定も今の所は微塵も無い。
ゆえに、あなたは
因みに、ラーニェの疑問であるステイタスの作成ができないかと言われれば恐らく否だと答えられる。試したことは無いが、家に設置している祭壇に祈るだけで可能だろう。あなたがやったように。
「ほーんやっぱりなぁ。ウチが知らん神なんてあんまおらん筈やからなぁ。あ、一応これでもウチ名の知れた神やから。崇めてくれたってええんやで?」
「ロキ、調子に乗り過ぎだ。君も、こんな飲んだくれに対して敬意なんてわざわざかけなくていいよ」
「飲んだくれ!? ひどすぎんかフィン!?」
どうやらロキは有名な神の様だ。
腕組みをしてふふんっと鼻を鳴らすロキに対し、最低限の神への礼儀として片膝を突こうとするとフィンに止められてしまった。
どうやら神が蔓延るこの都市では神への敬意があまり重視されていないらしい。むしろ辛辣が増している。年中うるさいオパ神を邪魔くさいと思う冒険者のように。多分今頃1000回皆殺しにされているオパ神のように。
これもまた文化の違いだろうか。
『いや、お前の狂信具合がおかしいだけだろ』
そうだろうか。神の為ならば腕の一本、己の死すら厭わないのだが。
まあそれも文化の違いだと割り切ろうか。ラーニェのジト目も刺さっているため、話を次に進める。
先の話に続くでもないが、あなたは徐に常備しているポーチの中から一つの瓶を取り出した。
対面のロキとフィン、ラーニェもあなたの取り出したソレに目を向ける。
「それは? 何か入っているようだけど」
なに、どうやらロキはクミロミの事について知りたがっているようだったが故、とりあえず取り出してみたのだが。
「なんやいそれ。中に入ってんのは……人形かいな?」
『緑のピエロを被った小人……? もしかしてこれ』
ラーニェにはいつかのダンジョン内での雑談で特徴を語った事があったのだろう。すぐに察しがついたらしい。
そう、コレは【瓶詰めにされたクミロミ】の……フィギュアである。
『初めて見たな……これがお前の神なのか』
ラーニェの疑問通り、瓶の中身の中心はもちろん緑のピエロ帽子を被り小さな鉢植えを持ったあなたの神であるクミロミが愛しの如く立っており、その周囲には彼女を囲む植物が生えている。
白く小さな翼、首元までなびく金髪、空色の双眸、華奢な幼子のような外見はいつ見てもあなたの両目を魅了していた。現在進行形でだ。
クオリティに関しては彼女の狂信者である
作成過程において何回か過労死や餓死を繰り返しながら完成させたこの代物はまさに狂気の産物としか言いようがあるまい。友人の廃人も若干引いていた。
これが完成した時の喜びは形容しがたいモノであったとあなたは語る。
喜びのあまり《魔術師の収穫の魔法》をストックが切れるまで連発してしまったことをあなたは覚えている。なおその実害としてあなたの家が
「ほー、コレを農家はんが作ったん? 見事なもんやな~。暇してるウチらの
「ああ。意外と手芸が得意と見える。この人形、君の主神を模して作ったのかい?」
フィンの問いには微笑を浮かべて頷いた。何やら関心も深めている。
「む~ぅ、そんならやっぱ天界でこん神は見たことあらへんな。ウチが降りた後に出てきた新参者なんかねぇ」
ロキは目を細め腕を組んで何やら考え事をしていた。
ふとした疑問だが、実際ロキとクミロミならどちらが神として上な存在になるんだろうか。大変興味があるが、当人の不在であり確かめるすべがないのが悔やまれる。いつか殺し合わせて白黒はっきりさせてみたい。
「まっええわ。オラリオの外にいるって言うんやしいつか会えるやろうて。悪いなぁ、そっちのファミリアに関すること一方的に色々聞いてしもうて」
突然放たれたロキの謝罪にあなたは別に構わないと苦笑する。
見るからに高級そうな茶菓子を馳走になった礼もある。この程度の身の上話なら喜んで語る所存があなたにはあった。
「ところでやけど、それホントに女神なんか? ウチにはえらく男神にも見えるんやけどな」
『……え、男なのか? この見た目で』
前言撤回。
ロキの追及にはノーコメントを貫いた。
生憎、あなたの主神は神々の遊び半分によって頻繁に性別を変えられたりしているのである。元々中性的な容姿な故仕方がないのだが。
あの世界では男神か女神か冒険者の間で意見が割れ、ある種の戦争が起こった事もある。その為、この場では回答を控えるあなたであった。
一応あなたがこの世界に降り立つ前には、女神であったことを言及しておこう。
茶会も円滑に終わり、本題に入ってあなたは貸していたサンドバッグのありかへと足を運んでいる。
大広間な通路を抜けていき、辿り着いたのは変哲もない木扉の前。
歩きながら聞いたフィンの話によれば、サンドバッグはこの備品用の倉庫に保管してあるとか。
「借り物を壊すわけにはいかないからね。おいそれとその辺に置いておくことなんて出来ないさ」
『ほう、リドとは違って真面目なリーダーだな。爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい』
流石は都市最大の組織の団長、律儀な性格だ。
反面、異端児のリドは偶におちゃらけているらしく、そのたびに周囲がツッコミに苦労しているらしい。主にグロスが。ラーニェの愚痴には実感が籠っていた.
「何回かティオナ辺りがいたずらに使おうとしとったけどな」
「ロキ」
カラカラと笑うロキの余計な一言が間に挟まって、直後ギィ……と鈍い音が鳴る。変哲もない扉が開いた音だ。
木扉を開けた先に見えた倉庫の中は案外質素で普通なモノ。
そしてその奥の隅に、あなたのサンドバッグがポツンと鎮座していた。
傷なし、故障無し、無事息災なサンドバッグを確認したあなたは慣れた手つきでソレを折り畳み、脇に挟んだ。4次元ポケットは2人の視線があるため使用は控えている。
フィンは畳んだサンドバッグを抱えるあなたを見て、袋でも持ってこようかと相談を掛けてきたが遠慮しておいた。別段動きづらいわけでもない。
「にしてもなんやなぁ……こんなん誰が作ったねん。明らか人間一人吊るすこと目的にした道具やで? どんなサディストが作ったんか見てみたいわ」
ロキはサンドバッグの作成者を引いて見るような目をしている。かなりのドン引き具合だ。フィンも同じ感想なのか若干顔を引きつっている。
そういえば確かに、この
一体誰が作ったのだろう。もしまだ作成者が生きているのなら感謝のしるしとして
「うえぇ……なんで今の言葉から感謝の笑みが出てくんねん。やっぱり可笑しいぞワレ」
『そうだな。やっぱりおかしいよなこの男は。私はおかしくないよな』
正面で声を震わせドン引きし顔を青くしたロキの視線が。
ついでに頭の中で死んだような目をしているラーニェの視線があなたに向けられる。
ふむ、あなたはこの見事な
これのおかげで人をなんとも無惨な目にさせる娯楽が生まれてくれたのだ。感謝せずして何を送ろうか。
『私はもうお前の精神状態が不安だ』
どうやらあなたの意見は全否定の様子だ。
まあそんなこんなで用事は済んだわけで。
あなたはささっとこの場を去ろうとしたわけだが……
「おっと、大丈夫かい」
ガゴッという衝撃音。ガラガラと鳴る金属音。
脇に抱えたサンドバッグが思ったよりも大きかったせいか、倉庫内に積まれている備品に角がぶつかってしまった。
振り向いた瞬間に当たってしまったのが災いだったか、備品として積まれていた木箱等がいとも簡単に崩れ落ちる。
物がそこら中に転がった惨状を横目にロキは自身の額を軽く叩いた。
「あーりゃりゃ。がらがらポンやでー。しゃーない、ちょいと空いてる子呼んでくるかいな」
「すまないロキ、頼んだ。……やっぱり持ち手用の袋は必要かな。すまない、コレは僕の配慮不足だ」
フィンの言葉にあなたは否定を入れる。
そもそも最初に差し伸べてくれた配慮を断ったのはあなたなのだから。フィンが謝る理由はないだろうと、あなたは逆に頭を下げた。
数分後。
物音が響く倉庫の中で、あなたはフィンと、音を聞いて駆け付けた団員の数人と一緒に備品を元の位置へ戻す作業を手伝っていた。
最初はフィンに止められはしたものの、あなたが自身の不始末は自分で何とかすると無理を言ったのである。
そんなわけであなたはフィンの指示通り、転がったモノを元の位置へ戻していたわけだが。
黙々と作業を続けたその際中、ふと手に取った備品にあなたは目を見開いた。
「ああそれは……どうしたんだい? その剣に見入っているようだけど」
倉庫に眠っている割にはそこそこ良い品質に、あなたの意識は自然と手に取った剣に向けられている。実際あなたが今使っている直剣よりも高品質でつい気になってしまった。
「その剣かい? それは団員が鍛錬に使用する予備の剣のはずだ。……確か、コレを買った場所は」
「団長、それはヘファイストス・ファミリアで購入した物です。自分が買い出しに行ったので覚えてます。ですが、本当に予備として買ったもので値段もそこまでは……」
傍で手伝うファミリアの団員曰く、どうやら性能としてはそこまでらしいが……
ふむ、採点の基準があなたがこの世界で最初に購入したオンボロ武器のせいで高く見積もってしまったらしい。
まあ、もちろんあなたの愛用している神の武器と比べたら性能など雲泥の差ではあるが、それでもこの世界の武器にまだ触って日が浅いあなたは好奇心が増してしまうのだ。
*わくわく*というか*ゴゴゴゴゴゴ*という擬音が湧くぐらいには。
『なんだその不気味なワクワクの音は』
とにかく一振りぐらいはしてみたい。好奇心故の衝動に駆られて手にもつソレを縦なぎに振り降ろしたくなるあなた。
しかし、ここは他人の
さてどうするものかと、身に渦巻く衝動に悩んでいると。
「……試し振りでもしたいのかい?」
何やら瞳を細めたフィンにそう問われる。
フィンから見てあなたはかっこいい武器を眺めて興奮する子供の様に見えたらしく、気を使っての発言だったらしい。
あなたは正直な気持ちとして、その問いに肯定を返した。
「そうか……そこの君、今日中庭を使用する予定はあったかな?」
「えっ、い、いえ早朝に第二軍のメンバーが鍛錬に使用していましたが、それ以降の使用は無いと思われます」
「ふむ……ロキ。僕は
以心伝心というのか、意図を知れぬまま流れていく会話。
フィンがあなたを見る視線は何やらじっくりと全身を凝視するような、固い何かが含まれている。
……マニの信者に魔改造を施されそうな嫌な視線を思い出してしまう。嫌な記憶だ。
まあそこまで舐めるような視線は籠っていないが。
「怪我せんようになー。それだけ守ってくれればだいじょうぶや」
「ありがとうロキ。……すまない、僕達だけで勝手に話を進めてしまったが。君に一つ、提案をしてもいいかな?」
首を縦に振る。
「食後の運動、と言ってはなんだけど中庭を使用して僕とちょっとした立ち合いをしたくないかい? もちろん君が気になっているその剣を使っても構わないよ」
「なっ!? 団長!?」
急な提案に驚く団員。
あなたもフィンの提案には衝撃を隠せない。
理由はもちろん力量の差。
この世界でのレベル差というのは、力量を図るのに分かりやすい数値のようなもので、その差は絶対的と言っていいほどかけ離れている。
ましてや1と6。最低と最高。底辺と頂点。
普通ならば結果など見えている立ち合いに、フィンは一言を添えた。
「君に合わせるように僕も加減はするし、怪我をさせないと約束もしよう。どうかな?」
フィンの言葉に嘘はないように感じられる。
恐らく彼の配慮はあなたを――そしてファミリアの名誉を気遣っての事だろう。
一ファミリアの
『……どうする気だ』
頭の中で問いをかけるラーニェの疑問にあなたは即答する。
設けて貰った立ち合いの場、抱えたあなたの好奇心。フィンの真意は分からないにしろ、あなたがそれを受けない理由もまた存在しない。実に魅惑的な提案だ。
何よりこの世界での強者と立ち合えるというのだ。
農家を本業とするあなたではあるが、同時に冒険者でもあるあなたの心を刺激しない筈も無かった。
『はぁ……今まで見てきた人間を見て分かってはいたが。冒険者って言うのは本当に血気が盛んだな』
まあ、世界は違えど冒険者は冒険者だ。
未知に対する欲求は底なしに、強さの渇望に果ては無い。あなたがそうであるように。恐らくフィンがそうであるように。
『全くもう。お前はリドと同じくらいバカだ。純粋が過ぎる』
ため息とともに吐き出された苦笑交じりの言葉。
それにあなたも違いないと苦笑した後、ラーニェとの会話を終え正面を向き、口を開く。
たった一言の宣言。
結論を言えば、あなたはフィンの提案に喜んで乗ったのである。