狂信者+ダンジョン=農家栽培 作:ストマフィリア
――ラーニェを、人間のようにする。
そう告げてから数分。
あなたは再び長い階段を降りていた。
見慣れた壁面、シェルターの通路を通るその先の光景はいつもの緑で染まった農場……ではない。
ここは数日前にあなたが設置した別のシェルターだ。
カツカツと無機質な音を散らしつつ階段を降りきった先の視界に広がるは、まるで牢獄のような灰色の空間。趣向も彩りも何一つない殺風とした空間が広がっていた。
ロクな明かりも吊るされていないその空間に、あなたの後ろから付いて来ていたラーニェが不気味だと独り言ちながら。
「なあ、お前の言う通りにとりあえず何となくで付いてきて今更聞くのもアレなんだが……」
薄暗いシェルターを歩いていたラーニェが、ふと立ち止まってあなたに問う。
「その、なんだ。本気なのか? 私を人間にするっていうのは」
もちろん。
ただ正確には人間のように
あなたは困惑を続けるラーニェにそう後述する。
「か、改造か……」
困惑顔に続いてとてつもなく嫌そうな声である。怪訝な視線も向けられている。
あなたからしたら慣れたものだが、もしかしなくてもラーニェは人体改造に抵抗があるのかもしれない。
「……人体改造なんて物騒な言い方すれば誰だって疑うだろ――っていやそうじゃない。はぁ……とりあえず色々聞きたいことはあるけど、まず単純な疑問だけ聞いても良いか?」
嘆息ながらの問いにうなずく。なんだろうか。
「この際お前にそんなことが本当にできるかどうかは置いておくとしてだ……お前、私を人間にしたいのか?」
ラーニェの言い分にあなたは一部肯定する。
大前提として、あなたの目的は友人と堂々と街並みを歩き、至って健全で真っ当な生活を彼女と共に送っていきたいというものだ。
「私と、一緒に? けど私の体じゃ表になんて……」
そう。それにはどうしてもラーニェの
だが逆に考えれば、現状それさえ解消してしまえばラーニェは表立って自由になれる。
だからこそ、それを解決するためにあなたはラーニェを――その外見を人間に近づけようとしているのだ。
あなたは目的を果たそうとしている。ラーニェと共に生きるというあなたの目的を。
空を眺めながら歩いていきたいという彼女の夢を叶えるためにも、だ。
故に、ラーニェの問いに答えるならば、彼女を人間にしたいというあなたの行動はほんの過程部分に過ぎない。
まとめて端的に言うと、あなたはラーニェを人間のようにすることで彼女と表立って堂々と生きていきたいだけなのである。
「…………」
などと、長々語ってみたが。
どうもラーニェの様子がおかしい。
あなたが言葉を続ければ続けるほど、彼女は何故か頬を上気させながらわなわなと震えているではないか。病人のような白色の肌も朱色に染まりつつある。明らかに何かおかしい。
無意識になにか癇に障る事でも言ってしまったのだろうか。
元々ラーニェを人間化する――というのはあなたの勝手な提案だ。
相談一つなく、あなたがここ数日勝手に進めていた事案に過ぎない。
もしかしたら、ラーニェには要らない気遣いだったのかもしれない。
あなたがそんなことを危惧していると、ラーニェは首をふるふると横に振って語る。
「いや、そういうのじゃない。ただ……私は果報者だな、なんて。そんなことを考えていただけで」
……想像したのと異なる反応にあなたは首を傾げた。
果報者とはまた大げさな。
あなたはただラーニェに、というか友人に対して尽くしたいと思っているだけだというのに。
「そうだな。お前はお前がそうしたいからって私に何かを与えてくれる。いつも独善的で自己満足で、呆れるほど身勝手だからなお前は。けど」
ラーニェは胸に手を当てて語る。
やけに幸福を嚙みしめているような表情から放たれるそれは一体どんな心境か、あなたには分からない。
「気づいてるか? こんな私に……人間でもない私に与えられた側からしてみれば、ソレが身が震えるほどの恵みだってことに。それこそ、神の恩恵なんて比較にもならない。私を、私の生に大きな意味をくれるモノを、いつだって当たり前のようにお前は――」
詰まった言葉をなんとか吐き出そうとするラーニェに、あなたは少し割り込んで会話を遮った。
なるほど、ラーニェが果報者と言ったその意味は大体理解できた。
思えばあなたは彼女と関係を持ってから、何かを与え続けてきた。それは些細な食べ物や、あるいは連れ出した外の世界だったりするのだろう。
あなたも鈍感ではない。数あるリソースを吐いて彼女に手渡した物の殆どは把握しているつもりだ。
ラーニェはその全てが神の恵み――否、それ以上のモノだと。
そんな数多くを、当たり前のように享受してきたことに対して、自分自身を果報者と言ったのだろう。
……全く、大げさな言い方をする。苦笑交じりにあなたは笑った。
あなたは本当に、ただ友人に尽くしてあげたいだけだというのに。
しかし、
なので仕方ない。あなたには不安を晴らすに足る理由を語る義務がある。彼女に施すこれからの事を考えるに、少しの不安も残したくはないのだ。
つまりはそう、少しばかり昔話を始めよう。
何故あなたがそこまで友人にこだわり、尽くそうとするのか、その理由を。
脳裏によぎるのは、かつて隣に立っていたあなたの友人であるノースティリスの冒険者達。単なる平穏を共に過ごし、バカ騒ぎの限りを尽くしたかけがえのないあなたの友人達。
その日々は間違いなく幸福で溢れた日々であった。時にパーティーを組んで冒険に出たり、時にジェノサイドパーティーで暴れまわったり、終末の中を無邪気に駆け回った記憶が黄金のように残っている。
しかし、永遠の関係を保つことはできず、別離を果たした友人もまた多くいた。
その中には
数多くの経験と別離を経ても、友人との別れというのは慣れないものだ。廃人に近い【狂人】であるあなたですら、悲しみという心の痛みは少々
変化の無い日常は無い。いつか来る別れと孤独に対するあなたの答えは、ただ一つしかなかった。
今いるあなたの友人に対しては心から誠実に、大切にしようという意識の発露である。
友人に対する執着というのなら、恐らくこれが
ラーニェがあなたをどう思っているかは定かではない。
しかしここまでの関係を築いたあなたは、ラーニェを唯一無二の友人だと思っている。だから、助けを求めているのなら手を差し伸べてやりたいと考えており。夢を抱えているのなら、あなたのできる範囲で叶えてやるのも覚悟の上である。
その行動指針は、彼女を大切な友人だと思っているが故であり。
ラーニェがあなたの与えたモノを『神の恵み』以上だと言うように、あなたもまた彼女自身の存在が『神に下賜されたご褒美』と匹敵する程にかけがえの無いモノであるのだ。
これがあなたがラーニェに対して尽くす理由である。
少々長めな語り部を終えたあなたに、ぽかんとラーニェは腕を組んだまま驚きの視線を向けていた。
「いや……初めてお前の人間らしい部分が見えたからびっくりしてな」
まるで普段からあなたを人間らしくないと言っているような口ぶりだが、一応無視する。
このやり取りにも慣れたものだ。別に慣れたくはないが。
「とりあえず言い分は分かった。納得もしたけど……なんていうか、それなりにお前も苦労してきたんだな」
悲痛的な話が混じっていたせいか、少々気が落ちる表情になっているラーニェ。
友人を失くしてきた件については気にすることは無い。過去の話は過去の話で完結しているし、事実として受け止めてもいる。
むしろその経験を重ねてきたからこそ、今ここにいるラーニェという友人を大切にしようする事が出来ている訳なのだから。
それに、大事なものは手放したくない。
経験を通して抱えることになったこの感情はある意味、あなたの数少ない独占欲でもあるのだろう。
「なっ、ぐ……お、お前な。そういうのを直球に言うのは悪い癖だぞっ」
顔を赤くしたラーニェに思わず首を傾げる。
まあ、直球のお気持ちをぶつけられて困惑するのは分からなくはないが。
「自覚がある分タチが悪いな!?」
む、しかしこういうのは言葉にしなければ伝わらないだろうに。
例えそれが原因で羞恥を覚えようが直接伝えた方が良いことはある。あなたは
「分かった、分かったから!」
ペラペラと軽く語るあなたを無理に止めてラーニェはあなたの横を通り過ぎる。
「全くもう……そんなにはっきり言われたら文句を言おうにも言えないじゃない……」
横顔は暗くてよく見えなかったが、少し緩んで笑っているように見えた。
少しの雑談を挟んで数分。
すっきりと疑問を晴らしたあなたとラーニェがたどり着いたのはシェルター内の中心部だ。
そしてそこには、ポツンとラーニェを改造するための装置が置いてあった。
「……これが?」
正面にある装置を見ていなや冷や汗交じりの疑問を放った。若干顔を青くしているのは気のせいではないだろう。
「いや、もうなんか見るからにやばそうな感じがするんだけど」
勘が鋭いようで何より。
これは《遺伝子複合機》と呼ばれる装置であり、ノースティリスの冒険者には御用達の人体改造アイテムだ。
今回はコレにラーニェをぶち込むつもりだ。
「全てにおいて不安しかない……なあ、せめて簡単な説明とか無いか? 今から私に施されるあれこれを考えると正直足がすくむぞ」
簡単に言うと《遺伝子複合機》を使いラーニェに人間の部位を移植させる。
「移植ね……本当に大丈夫だろうなこの装置?」
不安げな彼女にあなたは安全は保障することを誓った。
ここ数日間あなたはラーニェの為に着々と用意をしてきた。
その甲斐あってか、ラーニェを人間化する目途が立てられたのである。
人体実験ならぬ
「モンスターで実験? そんなのどこで……」
スッと指をさした先には、壁際に一つこじんまりした部屋がある。
あなたはそこでダンジョンから持ち帰ったモンスターだったりを使用して実験を繰り返していたのだ。
わざわざ別のシェルターを使った理由もこれに付随する。流石に血みどろの実験風景を表に出すわけにはいかないだろう。
一応部屋の中を見たいか聞いてみる。
まあ、部屋の中には魔石やら血やら肉片やらしか転がってないが。
「……やめとく。そんなグロテスク空間なんかに首を突っ込みたくない」
嫌な予感がしたからか、全力で首を横に振る彼女を横目にあなたは説明を続けた。
これからこの装置を使ってラーニェに行うのは『部位の取り出し』だ。
ラーニェが抱えている
ただ部位を変えるだけなので、種族自体が変わるわけではないことには留意してほしい。残念だが、ラーニェが異端児という歪な存在であることはあなたの力を以てしても変えられないのだ。
「ああ、そこは割り切ってる……ただ素材があるって言ったな。なら、もしかしなくてもその素材は人間か?だとしたら正直、お前の正気を疑わざるを得ないんだけど」
当然の疑問だろう。
これからラーニェを人間の見た目にすると言うのに、使用する素材が人間でないと矛盾が生じてしまうのだから。
突き刺さるジト目な視線に、しかしあなたは笑った。
あなたにだって人の心はある。そう易々とこの世界の人間を取って捕まえて人体改造に使う訳もあるまい。
「いや、人の心があるかは結構疑問に思う所があるぞ……?」
あなたは笑った。少し引きつり気味に。
もし彼女が予定通りに人の体を得られた時、まずは心底不思議そうにあなたに対して失礼な疑問を抱くラーニェに正座でもさせてやろうと。強く決意したのだった。
それはそれとして、あなたがラーニェに素材として使うのは人間ではない事だけ伝えておく。
「本当だろうな?」
そこはあなたを信用して欲しい所だ。
友人には人間の奴隷を素材にする冒険者もそれなりに存在していたが、今回に限っては例外だ。しっかり人間ではないことを伝える。
そう告げてから数分の間を得て、ラーニェはものすごく悩みつつ遺伝子合成を行うことを決意した。
あなたは密かにニヤリと笑みを浮かべたのであった。
装置に入ったラーニェを一目見て、あなたは装置を動かす。
ゴウンゴウンと稼働音が鳴ると共に青ざめていくラーニェの表情。慣れない装置に入る事への不安が隠せていない様子だ。
「いやいやいや違う違う違う! 装置に入ったどうこうの話じゃなくて、隣にいるコレはなんだ!?
「……」
ラーニェが入っている《遺伝子複合機》の素材側に詰められているモノに叫ぶラーニェ。
びしゃりと真っ赤なモノをまき散らしている
意識があるかどうかは怪しく、うめき声を上げる気配すらない。
まあ、あなたがみねうちで姿の見分けが付かなくなる程*ぐちゃ*した後、装置にぶち込む際に黙っていろと命令したので喋らないのは当然なのだが。
「おま、異形な私が言うのもアレだが人道に反しすぎだろうッ!?」
何それ、激マズハーブより美味しいのだろうか。
「鬼畜だお前は!!」
やけに激焦りなラーニェにあなたは笑う。
とりあえず安心して欲しい、ちゃんと人間ではない。そしてソレは安全だ。
「ホントか!? 信じるぞ!? いきなりあんな状態になるなんて御免だからな私はっ!」
ニッコリ笑顔で安心してくれと告げると、あなたは装置を操作する手を動かし始めた。
因みに肉塊の正体はあなたが《援軍の巻物》から召喚した『銀眼の斬殺者』と呼ばれる、ノースティリスに存在する生物だ。
種族はローラン。人間のような見た目をしているが……その実、クレイモアと呼ばれる職に就いており特徴として半人間半妖精の血が流れている。
何故わざわざそんなのを召喚することになったかと言えば、彼女へ人間の部位を移植するのに、普通の人間を素材に使っても部位を増やすことができないことが理由だ。
この
これはあなたの召喚した奴隷の少女やモンスターを利用した実験で検証したため、既に確立した
だがしかし、何故か
何故かは知らない。しかしできるというのだからやらない手はないだろう。
あなたはその事実が発覚してからすぐに《援軍の巻物》を使用し『銀眼の斬殺者』を召喚するガチャを始めた。隣接してある血みどろの部屋は、実験結果とガチャ結果でハズレを即ミンチにした形跡である。
召喚を続けながら、ふと半人間半妖精と同一の存在――つまり、このオラリオにおけるハーフエルフがいることを思い出したりもした。
それを適当に
あと名前は知らないが、ベルが相談口としてよく訪れている
そんなわけで『銀眼の斬殺者』を召喚することに成功したあなた。
しかし、代償としてあなたは貴重なリソースである《援軍の巻物》のストックを失った。
とはいえ、友人の行動範囲が広がるとなれば安い代償である。
あなたはこれからの生活に心を高鳴らせながら装置を動かし、合成のシミュレート結果を見てみた。
合成結果:
合成部位:足
付与スキル:《変形》
どうやら成功するらしい。
らしいが……《変形》というスキルは何なのだろう。友人の*チキチキ*マニ信者が好きそうなスキル名だ。少なくともノースティリスに存在するものではないが。
「おいどうした? 何か気になる事でもあったのか?」
思わぬ結果に硬直したあなたを心配するラーニェの声。
あなたはそれに何でもないと返し、再び装置を見やった。
まあ、足の合成は成功しているわけだし大丈夫だろうと、安直な判断を下し――
果たして、合成を無事成功するのであった。
素材の肉塊は消失してラーニェは装置から出てくる。
が、彼女の下半身は未だに蜘蛛のままだ。何か変化が起こったようには思えない。
「失敗したのか?」
わからない。
分かっていることと言えば、恐らくラーニェに芽生えたであろう《変形》というスキルくらいだろうか。
「ちょっと待った、変形ってなに。知らないうちに私の体に何をしでかしたんだお前」
ラーニェの体に勝手をしたと語れば両頬を全力で引っ張られる。
こめかみには青筋が入っておりなんともお怒りの様子で。
ともかく、変化があるとしたらそのスキルがラーニェにどう作用するかだ。
のびのびと頬を伸ばされる痛みに耐えながら、あなたはラーニェにそのスキルを使って欲しいと提案した。
「使ってみろっていっても……ああ、でも何かできそうな感覚が何となくあるような」
試行錯誤と手当たり次第に蜘蛛足や体を動かしたりするラーニェ。
魔法の類のように試しに念じてみたりすればいいのではないか。それか実際に発声したりなど。
「魔法とか使った事無いんだけど……それじゃあ、変形」
あなたの助言通りスキル名を口に出したラーニェ。
「え、ちょ!? なにこれ!?」
すると途端に変化が現れる。
眩い白い光がラーニェの全身を覆ったと思えば、蜘蛛の下半身がどんどん縮小……というよりは圧縮だろうか? まるで海岸の砂を強固に整形していくように彼女の下半身が圧縮されていく。
変化が始まって数秒、あなたがその光景を興味深く眺めていれば彼女を覆っていた光が弱まり、ようやく全容が明らかになった。
瞑っていた目を擦りながら、彼女はあなたへ苦言を呈する。
「ああもう……なあ、やっぱり失敗じゃないか? さっきから私の体が突然光ったりするし散々な目に……ってあれ、お前
そこには上半身はそのまま、下半身は人間の足をあらわにしたぺたん座りのラーニェがいた。
まぎれもなく人間の姿恰好した彼女が、そこに座っていた。
病人のような美しい白肌と白髪はそのままで、しかし腰から下だけはどういう理屈か炭化寸前のように黒ずんだ色になっている。
白の上半身と黒の下半身。案外バランスが取れてる色合いだ。
変色した足の原因は、元々全体的に黒色だった蜘蛛の下半身が足に圧縮された影響だろうか。予想の域を出ないが、とりあえずあなたはそう納得することにした。
突然の変化に等の本人はきょとん顔のまま状況を飲み込めていないらしい。
普段、
「え、は?」
言葉にならない感想を述べるラーニェ。
とりあえず立ち上がるところから始めようと、あなたは彼女に近づいて話しかけた。
「あ、ああ。って、ひゃっ!」
地に手を置いて立ち上がる、2本の足で立つ。
その全てが初めての経験だからだろう。支えも無しに立ち上がろうとして尻餅をついてしまったラーニェ。
思いっきり転けた様なものだ。アレは多少なりとも痛いだろう。
大丈夫だろうかと傍へ寄れば。
茫然と、彼女は自身の足を眺めて静止していた。
「……これは。これが、人の」
片言な言葉を出しながら、震えた手で自身の足に触れる。
ようやく自身の置かれた状況を飲み込めたらしく、ラーニェは下半身に向けて驚愕と動揺が混ざった視線を向けていた。
実際どうなのだろう。人外だった者がいきなり2足歩行する生き物になった感覚は。
「人外ってお前……まあなんていうか変な感覚だ。腰から下が浮いてるような、私のモノじゃなくなってるようなフワフワした感じが……すまん、少し歩くのに意識を割きたい。足が言うことを聞いてくれそうになくて」
立ち上がろうとするために言うことを聞かない下半身に集中し始めるラーニェ。
新しい部位を動かすのに苦労している彼女に、あなたは近づいて手を差し伸べた。支えはあった方が立ち上がりやすいだろう。
――などと言うのは建前で。
「ああ、ありがとう……っ!?」
差し伸べた手を掴んだラーニェに、あなたはニヤリと笑みを浮かべた。
先程あなたに人の心が無いと言ったお返しだ。
掴んだ手をあなたの方へと引き寄せ、立ち上がろうとしたラーニェの体勢を崩しにかかる。
人の足に成りたてかつ、彼女を急にグイッと引っ張った故に起こる現象は。
あなたにもつれ倒れるように抱き着くラーニェの姿。
そして彼女の肩を抱いて支えるあなた。
「…………ふぇ?」
当然の成り行きというか、帰結というか。
人肌に触れたことが照れくさいらしいラーニェと、先程の仕返しだとカラカラ笑うあなたのかくも微笑ましい光景がそこに生まれたのである。
世の冒険者が見れば砂糖を吐き出しそうな一幕だ。
「……~~~ッ!!! お、お前はぁ!!」
締りも悪く、とはいえ無事に。
ラーニェはなんとか人としての体を手に入れることができたのであった。