狂信者+ダンジョン=農家栽培   作:ストマフィリア

30 / 32
29話 クミロミ信仰者一人追加(なお人種)

 

師匠(せんせい)、最近僕にサポーターが出来たんです! リリって言うんですけど」

 

 ラーニェの用事とベルとリリのひと悶着が落ち着いた数日後の事。

 

 相も変わらないあなたの家の庭で朝の鍛錬の最中、休憩中のベルと会話をしているうちにそんな台詞があった。

 そして、あなたはまるで何一つ知りませんよとばかりにベルの報告を聞き入っていた。

 白々しいにもほどがある。その夜ワイン片手に思い出しながら愉悦に浸ってたというのに。

 

師匠(せんせい)? どうして思い出したように笑ってるんですか……?」

 

 しかし、後日談をベルの口から聞かされるのは初めてなので、あなたは鍛錬で出来たベルのたんこぶや青あざや骨のヒビを回復魔法で癒しながら耳を立てることにした。

 

 

 ――聞けば、ベルは改めてリリと契約を交わしたらしい。

 二人の関係をリセットする形で、裏切ったことをなかったことにしてコンビを改めて結成したとのこと。

 

 しかし、別のファミリア――ベルは言葉を濁したが【ソーマ・ファミリア】にお尋ね者のような扱いとなっているリリはどうするのかとあなたが聞く。

 その返答にベルは、リリを襲った3人組の下劣冒険者が()()()()()()らしく、リリの後を追うものがいなくなったのだと語った。

 

 そして、リリ本人の提案によりその状況不十分を利用してリリが死亡したことにしたと結論を告げた。

 

 流石元盗賊。リリに対しあなたは感嘆の意を込めた。

 賢し小賢し、どこの世界でも小悪党出身は頭の回るのが多いのである。

 

「僕、あの時リリの事を第一に優先したからあの人たちの事、置いて行っちゃったんですけど……どうしていなくなったんだろ?」

 

 ……さあ、何故だろうか。

 少なくとも、あなたがラーニェの用事終わりの帰り際、未だにノびている3人組を見つけたのち、頑丈なロープを巻いてどことなく放置したわけではない。

 

 あなたは知らないが、今頃餓死寸前な頃合いじゃないだろうか。

 

『……ねえ、普通ロープって胴体に巻いて拘束する物だよな。なんで3人全員の首にまとめて巻いているんだ? なあ、こっち見なさいって』

 

 一応、ダンジョンの帰り道ではラーニェとそんな会話があった。

 

 問いに答えるとするとロープはそういうモノに使うから。としか言いようがないのだが。

 ついでにラーニェは冒険者を放置することに賛同していた。人間に憧れこそあるもの、悪党には容赦がない。

 あなたの諸行に若干引いてこそいたが、さして抵抗は見せ無かった。それとこれとでは話は別とのことらしい。

 

 ……まあそれはさておき、無理やり話は変わるようでふと気になったのだが、ベルには人を殺すことの罪悪感とか無いのだろうか。

 

「いきなりなんです!? あ、ありますよ!?僕そんな好き好んで人殺しなんてしたくないですから!!」

 

 いやしかし、やけに行方をくらました3人組の心配をしているベルと、あの戦いの最中倒すことに専念し容赦も無い戦闘を繰り広げたベル。

 その差異というか、罪悪感があるようには感じないような戦い方をしている姿と今の心配の念を隠しきれてないベルのアンバランス差が気になったのだ。

 

「え、えっと対人戦とかは()()()から教えて貰ったこともあって少し慣れているというか……具体的には村にやってきた盗賊の相手を僕が相手をさせられたりとかしたりもして……あ、あとリリを守るために仕方なくて!!」

 

 小声で必死に否定の理由を述べながら両手を横にブンブンと振るベルは相変わらず愛おしさを醸し出している。

 若干15歳に満たない少年、優しさ抜群で人殺しも好まない。

 誰もコレが先日、人間相手にえげつない戦闘を行った人物だと思わないだろう。

 

 ()()()から教わったというベルの言い分も気になる所だ。

 人間相手に遠慮のない技術を教え込んだその手並み。盗賊の撃退との名目でベルに対人戦の恐怖と経験を積ませる影響の残し方。素晴らしい。さぞペットの育成に適した人物であることだろう。

 

 などと腕を組んであなたが赤の他人の事を評価していると。

 

「……いや、対人戦がどうのこうのに関してはお前の影響も少しはあるだろ。ていうか今日も容赦なしにベルを叩きのめして……加減くらいしろバカ」

 

 呆れたようにあなたの言葉を遮る声。

 ベルから視線を外し、声の方角を向けば家の扉を開けて一人の友人が。

 

 先日、ようやく表立って活動することを許された、ラーニェが出てきた。

 

 

 

 さて、後日談めいた感じになってしまうが、少しばかり説明を挟む。

 

 前提として、異端児のラーニェが人として表に出るには2つの条件を満たす必要があった。

 

 一つは人の形をする事。

 そしてもう一つは、オラリオで安全に過ごすことに足りる身分を作る事。

 

 前者はあなたの機転によりすでに解決している。

 

 そして後者。この世界はノースティリスよりも放浪者に厳格な制度があるわけでもないが、オラリオで過ごすとなれば話は変わる。何をするにも、彼女がまともなオラリオの一住人であることを証明するものが必要だとあなたは考えていた。

 

 人としての体性を成したはいいものの、衛兵からやギルドの職員から怪しげな目で見られては、当然外の生活を謳歌できる状態とは言えない。

 カルマは下がり買い物もできなくなる。

 そのうち住民からは石を投げつけられる。

 あなたはその可能性を考慮し、早急に後者の問題に取り掛かったのである。

 

 そして思いついたのが、あなたと同じように神からの神の恩恵(ファルナ)を賜り、オラリオでの身分証明書を作る事であった。

 

『……できるのか?』

 

 確証はなかったが、出来るかもしれないという可能性はあった。

 

 何故なら、異世界からやってきたあなたがあなたの神によって疑似的な神の恩恵(ファルナ)を受け取ったという前例があったからだ。

 通常、この世界の神が異端児(ゼノス)に対し神の恩恵(ファルナ)を与えられるのかはあなたにも分からない。

 

 だが、異端児(ラーニェ)というこの世界にとっての異分子(イレギュラー)

 そして、あなたという異なる世界から到来した異世界人(イレギュラー)

 

 同じイレギュラー同士、うまくいけば噛み合うのではないか。 

 そんな安直な考えから、宣教ついでに都合がいいやと半ば強制な形であなたの神であるクミロミへ祈りを捧げ(入信)てもらい試してもらった結果……。

 

 

 ラーニェ:Lv.3 

 

【アビリティ】  

────────────

 力:■

 耐久:■

 器用:■

 敏捷:■

 魔力:■

────────────

《魔法》

《スキル》

 

 

『えぇ……できたんだけど』

 

 彼女は無事、日に当たる存在を許される身分となったのだ。

 

『あとなんか声みたいなのも聞こえてきたんだけど……なにこれぇ』

 

 ついでに神の電波も受信したらしい。

 多分、あなたが彼女にあげた白ワンピースの装備性能だろう。クミロミの電波は体に良いため日々の祈りと捧げものをラーニェに推奨したあなたであった。

 

*うみみゃぁ! うみみみゃぁ!!*

 

 気狂い女神はお呼びではない。

 

 異なる世界からでも毒電波を送ってくるエヘカトルにあなたは眉をしかめ、ラーニェは珍しいとあなたの表情を眺めていた。

 

 

 

 ことつまり、ラーニェはオラリオの身分証明書である神の恩恵(ファルナ)を授かり、ギルドからの正式な認可を得て【クミロミ・ファミリア】に入団を果たした。

 

 ステイタスはあなたと同じように文字化けまみれの表記。正直偽装?なのかは分からない。だが、ギルドに通したところしっかりと認識されていたため問題はないのだろう。

 これにより、ステイタスという身分証明書を貰ったラーニェは名実ともに後腐れも無く人間社会に混じることができることとなったのである。ドンパフドンパフ。

 

 因みにこの際、というより彼女の入信の際、あなたに対しなぜか軽い天罰が降り注いだ。

 

 はて、異世界に来て女性を連れていることに対する嫉妬でもあったのか、まああなたの神であるクミロミならばやりかねないなと思いながら、あなたは一日で終わる程度の鈍足デバフを食らった。

 

 とはいえ、神からの天罰だ。狂信者であるあなたが文句を言うはずもなく甘んじて受け入れた。

 

 そして傍から見ていたラーニェはドン引きしていた。

 天罰を受け入れたあなたは、神への贖罪に血の涙を流しながら《魔術師の収穫》の魔法を唱え続けていただけなのだが。

 

「あ、ラーニェさん。おはようございます!」

「ああ、おはようベル。今日もお疲れ様、コイツの相手は疲れるだろう?」

 

 あなたが過去を回想しているうちにベルとラーニェが仲睦まじく会話を交わしている。

 

 ラーニェはボサボサの白髪を見るからにどうやら寝起きのご様子。

 ラーニェは元が蜘蛛がベースの異端児な為か、少々夜行性な気質があった。ここ数日で判明した彼女の一面である。

 

 隣人のベルにラーニェを紹介してからほんの1日2日。

 2人の間柄はいつの間にか会話が弾む友人のようになっていた。

 ラーニェに聞けば、何でも苦労人としての波長が合うのだとか。

 一体誰の、何の、とよく分からない理屈だったが、なぜか納得させるに足りる迫力があったのを覚えている。

 

「い、いえ! 師匠の鍛錬はその……すごく辛いですけど……じゃなくて、えっとラーニェさんは今日は師匠の仕事のお手伝いですか?」

「ああ、コイツとの仕事はまだまだ学んでる最中だ。それと、無理に話を流さなくていいぞ。コイツの手綱を握るのが大変なのは私がよく知っているし、苦労してる分しっかり罵倒するに限るしな」

「あ、あはは……」

 

 さて、隣で繰り広げられるくだらない話を聞かなかったことにして仕事の準備を始めるとしよう。

 

 あなたは雑談を交える2人を尻目に着々と荷車と作物の準備をしていた。

 今日は朝からオラリオ中を転々と移動しながら売りさばくつもりだ。

 

 数日後にはオラリオの外でも活動する予定である。

 ラーニェには今の内に仕事に慣れて貰わなくては。

 

 

 


 

 

 

「それじゃあベル、気を付けるんだぞ」

「はい! 師匠(せんせい)もラーニェさんもお仕事頑張ってください!」

 

 鍛錬も終わり、朝方を少しばかり過ぎた頃合い。

 あなたたちとベルはお互いのすべきことの為にあなたの家の前で解散した。

 

 ちなみにベルは今日、リリが下宿先の都合かなにやらで欠席しているらしくソロでダンジョンに潜るとのことだった。

 プレート装備と()()()()()()()()()()()()()を装着して、ベルは手を振ってダンジョンへと走っていった。

 

 

 そして、場面は変わってオラリオの南東付近。名称的には第三区画。

 住宅が多く並ぶ細道の一角で、あなたたちは荷車を止めて作物などの商品を道行く住民に販売していた。

 

「おねーちゃん! 山菜2本ちょうだい!」

「だから順番抜かすなってー。おじちゃんオレもオレも、かあちゃんに頼まれてんだー」

「ねえ農家のおじちゃん、隣の白いおねーちゃんってもしかして新しく家族(ファミリア)に入った人? 凄い綺麗な人だね~」

 

 囲まれる囲まれる、無邪気な子供の群れ。

 そして子供のおつかいを遠目から見守るその親。

 次から次へと作物を売ってくれと雪崩れてくる人の波にあなたは慣れた様子で対応する。

 

 しかしなんだ、朝から色々とオラリオを回ったが、やはり広域住宅街であるこのダイダロス通り付近が一番忙しい。

 

「山菜ってどんな奴を……ってこれか? ああいや、それともこれか?」

「違うよおねえちゃん。その隣にあるすっごくグーンって伸びてるやつ」

「あ、ああこれか。ほら、お代は……」

 

 ラーニェもラーニェでこの忙しさに翻弄されている。

 農家の仕事を始めて2日3日程度。人慣れが出来てないところもあるだろうが、農家として必要な知識も足りていない彼女。

 

 まだまだ精進する余地はありそうだと思いながら、あなたは山菜を求める少女に正しい代金を請求した。

 

「ありがとうおじちゃん! おねーちゃんも頑張ってね~!」

 

 満面の笑みで感謝を告げて親の元へ去っていく少女。

 

「……悪いな、まだちょっとぎこちないというか」

 

 しょうがない。一朝一夕では仕事や人慣れもできない以上、そこら辺は色々時間をかけていくしかない部分だ。

 あなたは悲しそうに俯くラーニェの頭をぽん、と撫でた。

 

「あー!! イチャイチャだ!おねーちゃんとおじちゃんがイチャイチャしてる!昨日のかあちゃんととうちゃんみたいに!」

「……っ、お、おい!人前だぞ!」

 

 おっと、流れでやってしまった。

 最近のあなたは*フワフワ**サラサラ*という感触を覚えてからというもの、理由があれば撫でやすい髪に手を伸ばしてしまう悪い癖があった。

 

 とはいえ、それはラーニェとベルだけに留めている。

 あなたは見境なしな愚か者ではない。撫でやすい頭というのは現状2人しかいないのだ。他の者にする理由も無い。

 

「いや、別に撫でるなとは言ってないけど……せめて人前でするなってことをな」

「隠れてイチャイチャ? おねーちゃんおじちゃんを独り占めしたいのー?」

「なっ……そ、そういう訳じゃ!?」

 

 子供に揶揄われて一瞬で表情を赤くするラーニェ。

 

「知ってる! そういうのって独占欲って言うんだよな!この前かあちゃんがとうちゃんを縄で縛ったりしてたし――」

 

 わたわたと両手を振って弁明しようとするラーニェにクソガキの追撃。

 

「すみませんねぇうちの子が、今すぐ連れてくので」

「あ、かあちゃ、イだだだだぁああぁ――!?」

 

 だがしかし追撃は不発に終わる。

 遠くから眺めていた子供の母親らしき人物が全く笑ってない笑顔を張り付けたまま、こめかみにぐりぐりと指を当てながら何処かへ連れて行ってしまう。

 

 実に早い嵐の去り際だった。

 

「あーあ、カイちゃん連れてかれちゃった」

「……カイちゃん? あの子供の名前か?」

「うん。アイツのかあちゃん怒ると怖いんだぜー」

 

 呆れ顔の少年が突然の嵐の来訪に困惑していたラーニェに語る。

 

 どうも自分の子供による恥の上乗せが耐えられなかったのか、乱入せざるを得なかったようだ。

 

 とりあえず言えることは、あの子供の両親はもう少し情操教育を丁寧にすべきだろう。隠れて見てたのかどうかは知れないが、生みの親が縛り縛られを楽しんでいる様子というのは非常に教育に悪いだろう。色々と歪む。主に性癖に当たるものが。

 

「愛情にも色々あるってラウラやフィア辺りが言ってたけど……あれもまた人間なりの愛情なのか?」

 

 少なくとも束縛して手元に置きたいことからそれなりの情はあるだろう。

 あなたはペットや友人を縛って監禁するようなヤミな愛をお持ちではないため分からないが。

 その辺はあなたとラーニェの神であるクミロミが詳しいかもしれない。

 

「ふぅん……」

 

 学ぶことは多いなと、顎に手を当てるラーニェ。

 それを横目に、あなたは丁寧に接客を対応を続けていた。

 

 ……ところで、あの子供の言葉に悪乗りする感じになってしまうが、ラーニェはあなたを独り占めしたいのだろうか。

 

 接客の合間、人の波が収まりつつあったタイミングであなたは小声で問いを投げてみた。

 

「ま、まだ言うかお前……」

 

 げんなりと上気した頬をパタパタと手で仰ぐラーニェにあなたは単に気になったと語る。

 

「……無いかと言われれば、無いわけでもない。私はまあ、元をたどれば蜘蛛だからな。獲物を捕らえて自分のモノにするなんてことは結構得意なんだ」

 

 手のひらを軽く握って自信満々に言うラーニェ。

 

 その理論だとあなたはラーニェの獲物になってしまうわけだが。

 なんだろう、そのうち友人に食われてしまうのではないか。流石にカニバリズムされるのは勘弁願う。

 

「う、うるさい。お前はどうなんだ、私に聞いてばっかでお前が答えないのは許さないからな」

 

 握った拳をあなたの脇腹に軽く当てて彼女は苦言を垂れた。

 

 まあ、彼女の苦言もごもっともだ。せっかくなのであなたは素直に答えることにした。

 

 一応、あなたはラーニェと共に日々を過ごすためには世界の全てを敵に回す所存だ。

 せっかくできた友人との楽しい時間を奪われるわけにはいかない。

 

「……お前、独占欲とかそういうの自覚してるタイプじゃなさそうだよな」

 

 スラっと答えたあなたに対し、ラーニェは目をぱちくりさせていた。

 

 彼女の言い分にあなたは首を横に倒す。

 別に、友人との日々と世界を天秤にかけた結果でしかない。

 あなたは物欲も独占欲もそれなりにあると自覚していると思うが、コレに関しては独占欲等は関係ない。友人と世界をどっちを取るかとなればあなたは友人を迷わず選ぶのだから。

 

 世界がなんぼのモンだ。滅ぼうともいつかは復活する。心底どうでもいい。

 されど友人は替えが効かない。だからこそあなたは迷うことなく友人を選ぶのである。

 

 というか、ノースティリスにいる殆どの民からしてみれば当たり前の思考だろう。

 

 ……まあそんな感じで、問いに答えるとするならあなたの独占欲はそれなりにという所だろうか。

 

「すみませーん。まだ野菜売ってますかー?」

 

 おっと、雑談はここまでだ。

 再び客が来たところであなたは接客モードのスイッチを入れる。

 

「…………そういうのがずるいんだよ、お前は」

 

 あなたが笑って接客を再開する直前、か細い声でラーニェが小さく呟いた。

 接客のため客を前にしていたので彼女の表情は終ぞ見えなかったが、どんな顔をしていたのだろう。

 

 

 


 

 

 

 お昼時。

 

 朝の移動販売が終わった時間、あなたとラーニェは南東の第三区域を少しそれて東の区域に足を運んでいた。

 お昼時ということで、もちろん用があるのは食い物を売っている店である。

 

「ほ、本当にここにあるのか……?」

 

 作物のほぼ全てが売り切れて軽くなった荷車を引くあなたに、やけに*ソワソワ*とテンションが上がりつつあるラーニェがススッと距離を詰めて聞いてくる。

 

 もちろんあるとも。あなたはニヤリと笑みを浮かべて言った。

 ここにはラーニェの求める物、その原点、亜種、全てが存在している。

 

「そうか、あるんだな……じゃが丸くんがっ!」

 

 そう、じゃが丸くんである。

 お値段リーズナブルなあなたの愛食品、そしてついこの間までダンジョン過ごしのラーニェが時たまの楽しみにあなたが持ってくる食べ物だった、じゃが丸くんである。

 

 ここ区域にはじゃが丸くんの屋台が存在する。今日は仕事終わりにそれをラーニェと一緒に食しに来たという訳であった。

 

「遂にアレの出来立てを食べれるなんて……ああ、人間になって今が一番幸福を感じている瞬間だ。断言できる。本当にお前には感謝しかないな」

 

 ……今更語るまでも無いが、彼女はじゃが丸くんにご執心なのだ。

 じゃが丸くんだけに……というよりも人の食に対してに興味を持ち始めたという感じか。

 この前も「せっかく外の世界に来たんだから、色々食べ物を味わってみたいな」と張り切っていた。

 

 まあ、恐らく最初にラーニェの為に持ってきた食べ物がじゃが丸くんであったことも原因の一つではあるだろう。

 別に後悔はしてないが、友人の脳を最初に焼いたのがじゃが丸くんであるのは割と複雑な気分だった。

 

「な、なんだ。言っとくけど私をこんな風にしたのはお前なんだからな、責任くらい取れ」

 

 世の人間様が聞いたら勘違いしそうな台詞を公然の場で暴露するのはやめてほしい。

 ついでに赤面するのもやめてほしい。勘違いが加速する。

 

 ふと周囲を観察すれば、やれ女誑しだのスケコマシ冒険者だのと不名誉なあだ名がその辺の住民によってボソボソと付けられていた。最悪に不名誉だ。

 ちゃんと責任を持ってラーニェをじゃが丸くんの屋台に連れて行くので、頼むからそのようなあだ名を増やすのはご勘弁被る。

 誰に願う訳でもないが、あなたは死んだ目でそう思うばかりであった。

 

 

 

 そんなこんなで到着。

 正面にあるじゃが丸くんの屋台を前にあなたとラーニェは何味を購入するか相談していた。

 

「どうする? 私はプレーン味を頼もうと思うけど」

 

 王道にというより初めて外の世界で食べるじゃが丸くんはこの味で、と決めていたのか迷わずラーニェが注文する。

 

「お前はどうするんだ?」

 

 あなたは既に決まっている。

 あなたのじゃが丸くん購入ルーティーンとして、まずプレーン味、そして抹茶味、そのまた次が小豆クリーム味と味変を楽しんでいるのである。

 

 そしてついこの間はプレーン味を頼んだあなたは、そのルーティーンに逆らわないことを決めた。

 

――抹茶味を一つ

「じゃが丸くんの小豆クリーム味を一つ」

 

 ん?

 注文しようと店主に声をかけた瞬間、横から異なる味の注文が差し込んできた。 

 

「あ……じゃが丸くんの、じゃなくて農家さん」

 

 隣を見ればそこにいたのは長い金の頭髪を靡かせている少女。

 実に怪物祭(モンスターフィリア)以来の再会だろうか、どうやら戦闘服を纏っていない様子を見るに休日を謳歌しているところだとあなたは察した。

 

 2人同時の注文をちゃんと聞き分けていたらしい、店主のおばちゃんの「あいよー」という声が聞こえる中。

 

 あなたとアイズ・ヴァレンシュタインはぱちくりとお互いの瞳を見つめ合っているのであった。

 




 小話と繋ぎのつもりで書いたのに長くなっちゃった☆

評価ボタン
感想ボタン
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。