狂信者+ダンジョン=農家栽培   作:ストマフィリア

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32話 ダンジョン逆走RTA

 

*ダンジョン逆走RTA、はっじまるよ~!!*

*…………よー*

 

 ダンジョン50層、大荒野と呼ばれる数少ない安全階層(セーフポイント)のある場所であなたは準備運動をしている最中にあなたの神の電波を感じたような気がした。

 

 羽耳をパタパタとさせたやけにウキウキなジュアと、彼女のノリに乗り遅れたクミロミが棒読みな一言であなたに手を振る幻覚が見える。

 幻覚とはいえなんと眼福な光景であるか。彼女達の信者であるあなたは当然目に焼き付けた。

 そして尊さゆえに血涙を流した。

 唇を嚙み切り幸福を噛み締める。

 しかし幸福に耐え切れずあなたの全身の穴という穴から血液が噴出した。

 内臓も露出せずに血が勢いよく吐き出される惨状はまるで噴水の様である。

 

 *うぼあばぁ*

 そうしてドバドバと。荒野のど真ん中に血の池が出来上がった。

 

 

 

 さて、これからあなたが行うのはジュアの言う通りダンジョン逆走RTAである。

 RTAというのが何かは分からないが、とにかく逆走RTAである。この競技の命名はあなたの神に決められたのだ。

 

 ルールはいたってシンプル。あなたのいるこのダンジョン50層から地上階まで休みなく爆走するのだ。

 制限時間は地上の日が暮れるまで。明日も農家の仕事があるあなたにとってのタイムリミットだ。しかし、それ以内であるならば道中モンスターを狩りつくそうが何をしようが問題なしとする。もちろんやけくそに《終末》を起こすのもアリ。全階層《終末》だらけにするのも面白そうだ。

 まあ、それは他の冒険者の迷惑になるというこの世界の御法度(タブー)に抵触する為するつもりはないが。だがダメと分かっていたら余計やりたくなる衝動があなたを駆り立てる。コレに関しては舌を噛み切ってでも破壊衝動を食い止めるしかないだろう。

 

 

 閑話休題

 

 

 さて、一通り暇つぶし方法を考えて実行しようとなるところだが、ここで少し問題があった。 

 

 それはあなたのいる50層から地上までの距離は途方もない距離があることだ。

 1級冒険者ですら、というかあなたがギルドの記録を閲覧した地点であのロキ・ファミリアで5日はかかるほどの距離。いくらあなたといえど、()()()()では1日で登り切るのは無理がある。

 別に時間になれば《帰還》の魔法で帰ればいいだけなのだが、冒険者たるあなたの意地がそれを許さない。

 

 なので特殊ルールとして、あなたの速度を全開放(リミットオフ)した上で逆走をするものとする。

 

 もちろん全開放と名乗ったからには本当に全力でだ。全力のあなたは魔法やポーションのバフを込みで限界値(2000)をゆうに超える。もはやあのアイズですら魔法を使って出せるだろう速度に到達しうる。

 これでもノースティリスの廃人達には遠く及ばないが十分な速度だ。あなたの目算では半日中で踏破可能な範囲だと確信している。

 しかし全ての階層を速度全開で登り切るのは特別ルールにしてはずるいと考えたあなたは、半分を過ぎる25階層地点に到達した瞬間にバフを解除することを一考した。

 

 せっかくの暇つぶしに来ているのだから、冒険者らしくダンジョン探索をという魂胆だ。

 RTA? という枠組みからは外れてしまうかもしれないが、クミロミとジュアには後でダンジョン産の魔石とドロップ品を大量納品することで詫びるとしよう。

 

 そんなこんなで色々とルールを決めたあなたは早速、今日1日を堪能する為の遊びを始めるためバカみたいな量の強化魔法(バフ)を全身にかけて爆走を始めるのであった。

 

 



 

 

 

 さっそく49階層、どういう理屈かオラリオ全土に匹敵する広さを持つここは階層主バロールと呼ばれるモンスターが生息する区域だ。

 通常、モンスターは倒されても次々ダンジョンによって産み落とされリポップするが、階層主にはリポップまでのインターバルと呼ばれるものが存在するらしい。

 要はノースティリスの街中で核を落とした3日後くらいに跡形も無く消し炭になった建物が生えてくるのと同じ理屈だ。分かりやすくて非常に助かる。

 

『■■■――――!!!!!!!』

 

 そしてどうやら、あなたが来る前にバロールは倒されていなかったらしい。

 *ぎょろり*と、終末で見慣れた竜と巨人の見た目が合わさったような外観。その単眼の瞳が最高速のあなたを捉え、身の毛のよだつおぞましい咆哮が階層全体を包み込んだ。

 

 本来であればぶっころベイベーからドロップ品吟味といきたいところだが、あなたは逆走を全力で行う身である。

 真正面から対面していればそれなりに苦労するかもしれないモンスターを横目に、速度を活かし放たれる攻撃をどんどん躱して出口を目指していく。

 あなたを狙い撃つ点の攻撃などなんのその、当然の様に回避し階層の天井を崩落させ落石を浴びせるという無茶苦茶な範囲攻撃すら★《クミロミサイズ》と《轟音の波動》の魔法を駆使し強引に突破していく。……口の中が波動で崩れた砂利まみれで非常に気持ち悪いが仕方ない。

 

 

 ……殺意の塊な視線を身受けた所で、ふと思ったのだが。

 もしも階層主とやらにインターバルと呼ばれるものが無く、通常のモンスターのようにどんどんリポップされる仕様になった場合、などという本当にもしもの話なのだが。

 

 もしや、経験値稼ぎとドロップ品稼ぎに丁度いいのではないか?

 

 階層を埋め尽くすほどの図体に加え、同時に一体しか発生することがないという仕様。それは見逃すことのない美味しいモンスターを強制タイマン(1v1)ゾーンで確実に殺せることを意味する。

 ノースティリスではネフィア内で殺した敵はリポップせずそれまでという特徴がある為、リポップ狩りという行動が成り立たなかったのだが、この世界ではノースティリス戦闘狂廃人勢が大歓喜するようなことができるのではないかとあなたは訝しんだ。

 まあ実際、ダンジョンがそういう仕様ではない事には変わらないのだが。夢が無い話である。

 

 ……ヤケクソついでに一回半殺しにでもしてモンスターボールにでも詰め込んでみようか。階層主ももしかしたらラーニェ同様ダンジョンの外に持ち運べるかもしれない。

 家のシェルター内でバブル代わりにサンドバッグに吊るして楽しむのもありかも、なんて顎に指を当てながらあなたはそんなことを考えた。

 

『■■■――――!!!!!!!!!!!!』

 

 瞬間、階層全土を震わす竜の咆哮と共に破滅的な一撃が放たれた。

 

 くだらない思考に集中していたおかげで、本来なら避けられるはずのバロールの攻撃があなたに痛恨の一撃(クリティカルヒット)

 友人の*チキチキ*マニ信者が見たら実に興奮しそうな、とてつもない威力の目から光線ビームが右腕を黒焦げにし、衝撃波であなたを階層の出口付近まで吹っ飛ばした。

 

 壁面に大きなクレーターを作り出す刹那、あなたはバロールの横顔に冷や汗のようなものが浮かんでいるのを垣間見た気がした。とはいえ果てしなく遠目ではあったのでもしかしたら錯覚かもしれない。何か嫌な予感でもしたのだろうか。

 

 疑問を覚えつつ、*ごほり*という詰まった咳と共に血塊を吐き出しながら何事も無く立ち上がる。幸い瀕死まではイってないが、内臓は破裂してるしそれなりに全身の骨がガタガタである。あと5発ほどまともに食らっていたら死んでいたかもしれない。

 

 というかわざわざ出口付近まで運んでくれるとは、このバロールという人類の敵は実は良心的なモンスターではないか?

 オラリオの世界基準で見ればそんなことは至極あり得ないのだが、あなたにはそう感じられた。

 

 勘違い染みた良心を受け取り、()()()()()()()をそこらに残しつつあなたはここまで運んでくれたバロールに片腕を挙げて感謝の気持ちを示しながら49階層を抜けた。

 

 去り際のバロールの単眼がなぜか細められているように見えたのはきっと気のせいだろう。

 

 

 



 

 

 

 その後順調にダンジョンを駆けあがるあなた。

 44階層から続く火山の領域、道中に立ちふさがる竜や狼男、まるでフェルズな人骨もいたがそれはさておき、凶悪なモンスター達を次々とごぼう抜きしていく。

 

 先ほどの階層主と同様にウダイオスと呼ばれるモンスターも素通りし、ついには白宮殿(ホワイトバレス)と呼ばれる白濁色まみれの区域を抜けようとした矢先、突如見覚えのないモンスターがあなたの進行を妨げた。

 

 *それは全身骨組みで出来上がった、でっかい猟犬のようなモンスターだ*

 

 うねり声をあげてやけに疲れたような雰囲気を醸し出すそのモンスターの名前をあなたは知らなかったが、直観で強めのモンスターだと確信していた。少なくともあなたのいる階層にはふさわしくないレベル帯である。

 

 本来地上に駆け上がらなければいけないあなたからしたら、そのモンスターは邪魔でしかないので全力ダッシュで避けなければいけないのだが、このモンスターはどうもあなたをどこまでも追いかける気が満々のようで。普通に進行の邪魔だ。

 

 そうなると、通り過ぎていく通路にいるだろう他の冒険者に被害が行く可能性があるだろう。

 この世界の言語で言うと怪物進呈(パスパレード)と呼ばれる行為に当たるはずだ。

 

 この世界の冒険者の間ではよくある行為とは聞いているし、別に誰に被害が加わろうが『冒険者』のあなたは知ったこっちゃないのだが、あなたはそんなことをして『農家』としての評判を落としたくはなかった。目撃者がいたら困るのである。

 

 故に仕方ないと、深い嘆息を吐きながら一時速度を落としあなたは骨犬と相対する。

 

『■■■…………』

 

 うねる狂骨の声色。

 カタカタと蠢く目の前の化け物は、あなたの敵意を即座に認識。身を低く落とし戦闘態勢へと変貌。

 瞬時、かの化け物は猟犬のごとくあなたを目がけ疾走する。

 猪突猛進に迫るソレはまるで大きな弾丸だ。もちろんあなたが的である。ぶら下がる鉤爪にぶち当たれば問答無用で首を刈り取られかねない。

 

 まあしかし、目の前の弾丸より早く動けるあなたは至極当然に避けるわけだが。

 ひらりと身をかわし一転、邪魔くせぇと開幕一本、あなたは《ファイアボルト》の魔法を放った。

 

 ――そして、不思議なことが起こった。

 

 骨犬へと放った魔法の一撃が、あなたを標的にするかのように反射され向かってきたのである。

 それも威力速度もそのままに。あなたの魔法が敵に当たる寸前で跳ね返った。

 

 もとより、一撃で殺すためにそれなりに全力で放った魔法の一撃だ。

 魔法が反射されるという稀有な経験、ついでに放った魔法の威力と速度が裏目に出たことにより《ファイアボルト》の魔法はあなたの体の全身を焼き焦がす。

 

『――――■■■!!!』

 

 追撃、追撃、追撃。

 あなたの魔法によって土壁に弾き飛ばされたあなたを襲う容赦のない猛攻。いともたやすく命を掬うモンスター(凶器)の鉤爪の群れ。

 

 割かれる皮膚と臓物、当然のように出迎える激痛にあなたは表情を()()()()()()()、ほうほうと首を縦に振りながらあなたは先ほどの現象を受け入れていた。

 自らの体内から吐き出される生暖かい体液によって血だるまになっているあなたは、久方ぶりに瞳をキラキラと光らせていた。

 

 あなたの知らない未知に出会えたという興奮から生じた感情である。

 そしてこの瞬間、哀れな事に目の前のモンスターは脅威というカテゴリから実験台(モルモット)に代わってしまった。

 

『――――■』

 

 まずは一閃、4次元ポケットから取り出すは★終末の剣(ラグナロク)

 反撃の意を察した骨犬はバックステップをするも、あなたの速さに反応が遅れたようで身の一片を粉砕される。どうやら魔法を伴わない物理攻撃は通るらしい。

 

 サラッとラグナロクを使ったが、たった一振りで終末は起こらない。運が良ければ起こってしまうだろうが、シェルターと同じ仕組みで終末が起こるのは、この層だけであることは過去に偶然誰も居なかった50層で検証済みだ。

 

 もしも終末を目撃した者が居れば総じて殺害する。

 何人いようと見つけ出して殺害し、あなたの行いを隠蔽する。

 あなたの一刻の好奇心はもはやその他冒険者よりも重きに置いてしまっていた。

 

 まあ、端的に言えば、あなたは狂っていた。

 

 かつて【狂人】と呼ばれた冒険者の刃はもう止まらない。

 

 

 


 

 

 

 魔法の反射、それはあなたのいた世界――ノースティリスにすらなかった現象である。

 オラリオに来て1年、数々の未知に触れてきたあなたであるが、こう同じ都市で過ごしていれば多少なりとも知識のマンネリ化というものを起こすのは当然の成り行きというもの。

 

 そんなあなたに降り立った、ギルドの書物を読み漁っても知ることのできなかった謎のモンスター。そして魔法反射という稀有な能力。

 

 検証だ。実験だ。

 あらゆることを試さずにはいられなかった。

 この瞬間、あなたはまるで*チキチキ*めいた友人のように純粋に回帰していた。

 

 はて物理攻撃の通りはどうか、

 魔法の反射回数に制限があるか、

 魔法を持ちえない異常状態に耐性はあるのか、

 再生能力の有無は、

 スタミナはどれだけ持つのか、

 死に対する怯えはあるか等々――

 

『――――――』

 

 幾度となく()()()()痕跡の真ん中。

 

 そこには肉塊が――ではなく、ただの骨塊があるだけだった。

 うめき声なのか、瀕死の呼吸なのかすら区別のつかないくらいの小さな鼓動を鳴らすソレ。

 もはやソレに命としての意思は無い。あなたを襲ってきた気概も削り取られ、ダンジョンを防衛するモンスターという本能すら忘却する程の非道と暴虐を繰り返された存在が転がっているだけであった。

 

 殺し、生かされ、はたまた殺し、活かされ続ける。

 

 そんな哀れな存在に仕立て上げたあなたは非常に満足気な笑みだ。

 満面にこやか。ラーニェがここにいれば表情真っ青に白目をむいて『鬼畜バカに極まりすぎだ、ホント人間やめてるのかお前は』と叫ぶこと間違いない。

 人間だと返したあなたがラーニェにどつかれるまでがセットである。

 

 

 ともあれ、想定外ではあったものの実りのある有意義な寄り道になった。

 オラリオに降り立った以来、久方ぶりに好奇心に身を任せることができたことにはこの骨犬には感謝の念しかない。

 

 満足したあなたは感謝の気持ちを込め、最後に《メテオ》して骨をこの世から消し炭に変えた。

 どうやらメテオほどの質量爆弾なら反射が難しいらしい。

 

 あなたはまたあの骨犬について一つ学びを得て、ダンジョンを駆けだした。

 

 

 



 

 

 

 道中、中層のトロルを殲滅しながら駆け上がり気づけば10層近くまで来ていた。

 事前に決めたルールに従い速度関連のバフは全て切っており、今のあなたはそこら辺の冒険者と同じ速度で駆け足気味に走っている。

 

 ちなみに骨犬を虐めて楽しんだ以降の事については余り記憶にない。敵対するモンスターに張り合いがなかったからか、ダンジョンを駆けあがる行為自体が作業と化して面白味が無くなったからか。

 ただ覚えているのは、過去にあなたの祈りの時間を邪魔したトロルと呼ばれるモンスターを出くわす限り全てぶち殺したという記憶だけであった。

 この感じだと、何事もなくRTAとやらは終わってしまいそうだ。

 

 楽しかったのは最初だけか、と少々落胆しながらもあなたは足をこの層の出口へ運びつつ、

 

 

 ――その途中、なにやら怪しげな巨体の2人組を見つけた。

 

 

 厳密には1人と1匹だろうか。

 片方は錆びたような色の髪と筋骨隆々という言葉がまさにふさわしい巨漢だ。頭部からは猪人(ボアズ)の特徴である猪の耳が生えている。

 あなたの身の丈をゆうに超える巨躯な体には、それに見合った大剣が担がれていた。

 

 オッタル。目の前の大男がそう呼ばれる冒険者であることをあなたは思い出す。

 肖像画でしか見たことはないが、確かギルドか書館で何度か覚えがあった。

 それも、世間の評判では『オラリオ最強』と評されているとか。

 

 ()()()()、とあなたはもう片方の1匹に目線を向けた。

 

「……お前は」

 

 ……よく見ればソレに相対するもう一匹の方も同じ大剣を担いでいる。

 ミノタウロス。あなたも何度も遭遇したその他大勢モンスターの枠組みに当てはまる一匹だ。

 

 放たれた低い声色に耳すら向けないまま、あなたは謎状況に足を止めてしまっていた。

 戦闘中であることはミノタウロスの傷を見ていれば誰でもわかるだろうが、どうも様子がおかしい。

 どう見ても彼は間違いなくミノタウロスより数段上の実力者だ。

 それももしかしたら、あなたに匹敵するレベルの、だ。

 

 それがどうしてただのミノタウロスと戯れているのだろう。

 いつからかは分からないが、長い期間今の今まで戦闘を続けてきたのはよく分かる。周りに散りばめられた破壊痕はその有様を確かに残していた。

 

 他人事とは言え、気になってしまったものはしょうがなくあなたはその場で首を傾げて長考してしまっていた。

 

『――――ヴォ、ォ』

「……何の用だ。あの御方の命を邪魔立てするならば――」

 

 人ではないうねり声と低い声色で放たれる意図の見えない警告のような台詞。

 その瞳は疑心に満ちている。

 しかし気にもせず、あなたは手のひらを打った。

 

 ――そうだ、彼は今、ペットの調教中なのだろう。

 

 最初は普通に戦っているのかと思ったが、両方とも似たような武器を持っているのを見るにお互いに関係者と考えるべきだろう。

 で、明確にミノタウロスをいたぶっているオッタルがペットの主人だ。そうに違いない。

 

 ノースティリスでも度々あるのだ、道端で言うことを聞かないペットに躾を施す冒険者が。

 あそこでは大体が『サンドバック縛り付けぶん殴りタイム(なんともいえない拷問)』に突入するわけだが。このオラリオではそんなものは無い故、仕方なくこのような方法を取っていると。

 

 なるほどなるほど、とあなたは納得の笑みを浮かべながら再び歩みを始めた。

 

 ご苦労様でーす、とそんな軽い気苦労を労う言葉をかけつつ。

 悠々と、両雄の隣を通り過ぎた。

 

「――――――」

 

 その瞬間、驚愕に開かれるオッタルの両の瞳が。

 

『――――ヴォォォォ!!!』

 

 そして、突貫を視認する。

 巨漢と対峙していたはずのミノタウロス。

 ペットの躾がなっていないのか、その眼には敵対の意志とモンスターの本能が燃え盛っている。

 

 接敵寸前。激突間近。

 

『――――ヴォォォォ、ォゥ!!??』

 

 それを当然のように、裏拳ではじき返すあなた。

 

 ゴグォと、とんでもない殴打の音が空間を包みミノタウロスは発射された核爆弾のように壁に激突した。

 それなりに全力で殴ったが、《みねうち》は起動している。ミノタウロスはモンスターだが、オッタルと呼ばれる冒険者のペットであるならば多少なりとも手心は必要だろう。あなたの恩情には女神すら涙を流す。

 

 全身ボロボロ、手足バキバキ、裏拳を真っ向に食らった下あごは粉砕されているようだがこれでも死んでいない。まさに温情極まっている。

 

 まあ、とはいえ襲い掛かってきたペットを迎撃してしまったあなただ。

 主人であるオッタルには一言謝っておくべきだろうと、あなたは肩をすくめて彼のいる方へと振り返った――。

 

「言ったはずだ」

 

 そして、再び突貫を視認した。

 

 今度は反射で★《クミロミサイズ》を展開し受け止める。

 本来、あなたの神の為に以外で使用しないはずのソレをあなたは迷いなく取り出した。

 

 そうでなければ、対抗が難しい。そう判じたからである。

 

 ……体感、廃人一歩手前だろうか。

 あの地で何度もこの身で味わった重量と速度の体感。

 受け止めた一撃からその力量を図りながら、オッタルへと視線を向けた。

 

「あの御方の命を邪魔するのであれば、容赦はしないと」

 

 いや、そこまでは聞いてないが。

 

 ジト目で言葉を返しながら。

 なんとなく、口下手そうな雰囲気を目の前の武人に察しつつあなたとオッタルは剣戟を交わし始めた。

 

 

 





《メテオ》の魔法
広範囲に隕石を降り注ぐ攻撃魔法。
魔法版の核爆弾と言っても差し支えない。
火力としては申し分ない魔法であるが、発動した中心に自分自身も含まれるため巻き添えを食らう魔法。
しっかり仲間も巻き添えを食らうため、あらかじめ「死ぬかもしれないから注意してちょ☆」と警告するのが手間である。

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